『騎士カリム、執務中に失礼します』
「いえ、構いません。
どうしました?」
『例のお二人がいらっしゃいました』
聖王教会のとある執務室。
公務に区切りがつき、一息をいれていたカリムの元へ通信が入った。
カップを置き用件を確認すると、約束通りにゲルト達が訪ねてきたとの事。
ふと手元の時計へ目をやると、確かにそんな時間になっていた。
『現在シスターシャッハが第三演習場にお通ししています』
「分かりました。
また何かあれば連絡を回すようにして下さい」
『はっ!』
威勢の良い声を残して通信が切れる。
カリムはそれを確認すると軽く嘆息した。
ここ最近何度も考えた事が口を突いて出る。
「やっぱり、わざとらし過ぎますよね」
一度は勧誘に失敗した相手。
それを招く理由としては。
シグナムにも悪い事をしました。
元々彼女からの頼みであったが、結局彼を釣る餌のように使ってしまった。
仕方なかったという事はある。
これは自分個人の判断ではなく、ある意味で教会の意思なのだ。
かつても教会はゲルトを引き入れようとしていたが、今回はせめて友好的な関係を築いておきたいらしい。
予想はしていましたけど……
2年前の時点でも彼の存在は教会上層部で話題になっていた。
何せ古代ベルカ式の騎士から直接練成を受けた正統なベルカ式の担い手にして、幾つもの死線を越えた実戦経験者。
伸びしろも確実だ。
何せクローン。
正確には戦闘機人というらしいが、将来的にはオリジナルである騎士ゼストと同等、あるいは凌駕する存在になるのは間違いない。
だからあの時は自分に御鉢が回ってきたのだ。
「ああ、そうでしたね」
そこでカリムの口元が淡い笑みの形を作る。
そうだった。
2年前、自分は彼を新たな家族として迎えるように言われたのだった。
ふととりとめもない考えが浮かぶ。
もし。
もしも彼が、あの日の自分の提案を受け入れていたなら……どうなっていただろうか?
立場としてはヴェロッサと同じだ。
何かが違えば彼も、「姉さん」と呼んでくれたのだろうか。
だけど。
全ては過去。
頭を振ってそんな空想を振り払った。
益体もない。
彼は彼の道を行ったのだ。
自分で、選んで。
あの抜け殻か廃人のようだった少年が、今や局のヒーローだ。
少なくともテレビで見た限りその表情に陰りは無かった。
きっと立ち直れたのだろう。
それを今更。
自分達の元へ来た方が幸せだったとでも?
思い上がりも甚だしい。
……止めましょう。
深々と溜息を吐きつつ、延々と自虐に走りそうな思考に制止を掛けた。
まだ彼に会ってもいないのに一人で気落ちしていてどうする。
そう深く考える必要は無い。
今日の趣旨は彼に教会に対して好印象を持ってもらう。
それだけだ。
別に彼が嫌いだという訳でもないのだから、ごく普通に接すればいいのだ。
はやて達の時と同じよ、同じ。
もしかしたら彼とも利害無しに良い友達になれるかもしれない。
そう切り替えて新たなウインドウを開く。
映っているのは広い演習場だ。
平時は騎士団が訓練に使っている施設だが、今そこに3つの人影が立っていた。
一つは彼女の友人のシャッハ。
一つは彼女の友人の騎士であるシグナム。
そしてもう一つが管理局所属の騎士、問題のゲルトであった。
**********
聖王教会の敷地内をシャッハの案内で進んでいく一行。
程なく彼らが通されたのは普段教会付きの騎士団が使用している演習場の一つであった。
「へぇ、ここをお借りしてもいいんですか?」
辺りをぐるりと見渡してみる。
格闘訓練用の施設なのか特に遮蔽物はなく、隅まで確認する事ができた。
中々の広さだ。
結界設備もきちんとしているようだし、ここなら思い切りやっても大丈夫だろう。
「ええ。
今日一日はここを空けておきましたので自由に使って頂いて結構です」
「何から何まで、ありがとうございます」
申し訳なく思う。
恐らくはこのために訓練ができなくなった部隊も幾つかあったのではないか?
「どうか気になさらず。
お二方の戦闘を拝見するのは彼らにとっても良い経験になるでしょう」
一応ギブアンドテイクにはなっている。
教会がこの場所を提供する代わり、ゲルトらのこの模擬戦の映像は騎士団内部で公開される約束だ。
確かにニアSで古代ベルカ式を用いる2人の戦闘は参考とする余地も大いにあるだろう。
特に管理局に比べ近接戦闘を重視する傾向のある教会騎士団では尚更に。
まぁ、行き過ぎた遠慮も失礼か。
「では、お言葉に甘えて」
「そうだな。
今日はその為に来たのだし、好意は素直に受け取っておこう」
そう結論付けて足を踏み出す。
2人は思い思いに体をほぐし、模擬戦に備えて準備を始めた。
適当な間隔を取って広がりストレッチを行う。
ゲルトは腕を伸ばし、シグナムは伸脚を行っている。
次。
程良く体が温まってくるとデバイスを展開し、軽く素振りを行う。
無理なく、身に染みついた動作をただ繰り返した。
必要な事だけに体の機能を絞る。
言ってしまえば単なる精神論だが、一振り毎にその境地へ近付いているような感覚がした。
流石、というべきなのでしょうね。
そんな彼の様子を少し離れた位置から観察していたシャッハが、胸中で感嘆の念を漏らす。
彼が世間を賑わすより以前からその才覚の程は予想していたが、実際にその訓練の様子を見るのはこれが初めてだ。
2年前に会った時のゲルトは精彩を欠く所ではない有様だったので無理もない。
ただ先ほど話した様子から立ち直ったようではあるし、素振りだけ見ても中々のようだ。
「噂になるだけの事はあるようですね」
「ええ」
傍でゲルトと同じように軽く素振りをしていたシグナムも手を止めて応じる。
あれだけの長物を扱いながら、彼からは“振られている”様子が見受けられない。
デバイスの形状から先端部に重量が寄っているのは間違いない筈。
それをああも軽く扱うなど並大抵の事ではない。
まさか腕力一つで為せる訳もなく、当然相応の修練を積んでいるのだろう。
首都防衛隊仕込みの戦技は健在、という事か。
「楽しみにしていますよ?」
「御期待あれ」
どれほどのものが見られるのか。
シグナムの腕前の程は身に染みて理解している。
その彼女をして優秀、という評価だそうだ。
一武人としても興味をそそられる。
と、
「シグナム。
そろそろいいか?」
「ああ。
始めよう」
ゲルトの声がかかる。
彼はウォームアップを済ませたのか刃を下に、柄を右脇で挟むようにしてデバイスを保持していた。
シグナムもそれに応じて中央へと歩き出していく。
「では、行って参ります」
「はい。
良い闘いを」
ついに火蓋が切って落とされようとしていた。
**********
「こうして再びお前と刃を交える日を心待ちにしていたぞ」
「それはお互い様だ。
こんな風に良い場所でやれるとは思って無かったけどな」
演習場の中央に立つ2人は、互いに緩やかな笑みを湛えて言葉を投げ合った。
闘争を前にし、心はひどく穏やかな様を呈している。
髪を僅かに弄る涼やかな風も心地よく感じていた。
――――それが例え嵐の前触れ故のものであったとしても。
示し合わせるでもなく、両者がそれぞれの得物を構えてゆく。
シグナムはレヴァンティンを居合いのような形で左下へ。
ゲルトは頭上で二度ほどナイトホークを回し、その勢いのまま腰だめに。
「2年ぶりだ。
楽しませてもらおう」
「応とも」
短く答えるゲルトの瞳に、もう先程の和やかな空気は無かった。
シグナムも同じ。
そこに灯るのは鋭く、相手を射抜くように輝く闘志の光。
或いは殺意にも近い程の。
常人であればそれだけで身が竦んで動けなくなるだろうという、そういう類のものだ。
ああ、やっぱりな。
高まる緊張を感じながら、ゲルトは体を引き絞って行く。
いつでも飛び出せるよう、発射寸前の長弓さながらに。
これだ。
やはり、これなのだ。
久しく覚える事のなかった、この感覚。
自然と身が締まる。
力が内に籠って、解放の時を待っている。
独りでに頭が澄んでいく。
これ以上ないほど昂揚している筈なのに、どこまでも冷めている。
最高だ。
今、ゲルト・G・ナカジマは最高の状態にある。
疑いようもなく、それは純然な事実としてそこにあった。
念の為補足しておくが、決してゲルトは戦闘嗜好ではない。
生死の境を奪い合う事に興奮する性質でもない。
彼が108隊員として戦闘に入る場合、それはむしろ目的達成の方が先に立ち昂揚など微塵も湧く余地は無い。
それは義務であり、責務に過ぎないからだ。
確実かつ可及的速やかに片を着けなければ他者に被害が出かねない。
義憤に燃える事こそあれ、そんなものを楽しむ事はできない。
故に。
彼が望む戦いとは即ち、いつまでも続けていたいと、そう思えるものだ。
同等以上と認め得る相手と一進一退鎬を削り、互いに寸分の勝機を巡って激突する。
それが許されるものだ。
あえて言葉で表現するとしたなら、それはヴィータの言を借りるとしっくりくる。
決闘趣味。
上手く言ったものだ。
まさしくその通りだろう。
あくまで、そうあくまで彼らは騎士なのだから。
獣のように血に酔う事はない。
それは―――――と、いけない。
「おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
脱線が過ぎたようだ。
既にゲルトらの間にあった緊張は粉砕されている。
ゲルトが突撃の咆哮と共にシグナムへと一直線に駆け出していた。
一方のシグナムはその場を動かず、まだ先の構えのままそこに居る。
奇妙な光景だ。
間合いに関して優位に立っている筈のゲルトが危険を押して前進。
何故?
移動とはなべて隙を生む。
両足が確と地を掴んでいるのは、陸戦に於いて大きなアドバンテージになるもの。
摺り足などの技能が重用視されるのはそれが所以だ。
それを知らぬでもない彼が、何故片足を浮かす全力での疾走を行うのか。
答えは一つ。
そもそもの前提が覆されているからだ。
リーチでは、圧倒されてるからな。
近付くしかないのだ。
現在シグナムとの戦績は3勝2敗。
前回の敗因はここで待ちに入った事だった。
あと、少し……!
しかしそれももう意味を無くす。
すぐに彼女をこちらの間合いに捉えられる。
そこまで入ればどうともなる。
が、
それをシグナムが許す道理もない。
「ハアァッ!!」
抜刀。
同時に、抜き放たれるレヴァンティンの遊底がスライドして薬莢を吐き出す。
高速の居合いが鞘走りの擦過音を鳴らした。
しかしそこから放たれるのは尋常の刃では無い。
『シュランゲフォルム』
露わになった刀身は幾つにも分割し、中央を通すワイヤーで以て繋げられている。
連結刃。
レヴァンティンの形態変化、その第二番。
それが鞭のようなしなりを描いてゲルトへ迫る。
「ッ!」
来たか。
アレだ。
ナイトホークの間合いを遥かに超越している。
これのせいで前回は完全にイニシアチブを取られ、翻弄される内に一撃を入れられたのだ。
しかも。
あの形態の厄介さは単なるリーチの問題に収まらない。
まず、いなせないのだ。
芯が無い故に掴みどころがなく、下手に打ち払えば得物を巻き取られる。
もし、しなりの部分などを打ってしまえば一発だ。
そして受けられない。
ほぼ前述と同じ理由だが、特にファームランパートの場合は“平面”防御障壁である事がネックとなる。
最初は防げても、縁で折り返して死角から回り込んでくる切先がこちらを襲う。
ごく普通の魔力障壁で周囲全てを覆ってみてもバリアブレイク術式で破砕される。
彼女自慢の剛剣とはまた違う、変幻自在のスタイル。
だが、弱点もある。
シグナムの腕前は一級品だが、それでも構造上の欠陥はどうしようもないはずだ。
即ち、手元へいくほどにその操作は厳しくなるという事。
また全体的に即応性が低い。
芯がないという事は利点でもあり重大な欠点でもある。
それに!
ゲルトが足を止める。
ナイトホークを後ろへ大きく振りかぶり、迎え撃つ構え。
殺しきれない慣性を利用してナイトホークを横薙ぎに振り抜く。
通常、この連結刃は弾けない。
その理由は既に説明したが、しかし打ち破る方法のない術法もまた存在しない。
そこでゲルトの出した答えとは、つまり――――。
「ああああぁぁぁっ!!」
「!?」
力技である。
ナイトホークから迸った魔力の剣圧が、迫る刃の大部分を正面から打ち据える。
それは連結刃をいとも容易く蹴散らして無力化せしめた。
要するに、しなるのが厄介なら運動の起点となる先端部分を叩けばいいのだ。
そうすれば弾かれた先端に伴って他の部分も逸れていく。
とはいえ言葉で言うのは簡単だが、それは至難の技でもある。
何せ先端部よりしなりの部分の方が前に出ているのだから、それを打つ頃にはしなりの直撃を受けてしまう。
だが上手く一撃で全体、少なくとも前半部を打つ事が出来ればさほど労せずに逸す事が可能だ。
しかも再度攻撃に移るには相応の時間が必要。
ゲルトはそこに賭けた。
「クッ……!」
案の定、シグナムは苦渋の表情を見せている。
やはり連撃には向かないのか、すぐに攻撃してくる気配もない。
――――好機。
これを逃す手は無い。
ゲルトは再度疾走を始める。
もう己の間合いまで数歩。
いけるか……?
次の踏み込みで間合いにまで到達する。
大上段に振りかぶった。
寸止めの必要はあるが、その程度は何ともなる。
狙っているのは彼女の肩だし、万が一多少力加減を間違えてもシグナムなら大丈夫だろうとタカを括る。
一方のシグナムは下がるのも無意味と感じたか、上体を庇うように右手で掴むレヴァンティンを掲げていた。
これで終わりか?
もう間合いが深過ぎて連結刃もその威力を発揮できまい。
柄で、しかも片手でこの一撃が止められるものか。
そう思いつつ、こんな事位で負けてくれる相手ではないとも考えている。
だとしても!
このチャンスをみすみす捨てる訳にはいかない。
そう結論付け、そのままナイトホークを振り下ろした。
その時異変が起きる。
彼女を捉える視界の中でレヴァンティンが急速に復元していく。
チッ……早い。
まるでビデオの逆回しのように、瞬く間に剣の形態を取ったレヴァンティンが彼女の手に収まっていた。
見れば彼女は右手で柄を、左手で峰を押さえている。
防御の姿勢だ。
デバイス同士が激突し、甲高い金属音が響いた。
遠慮なく振るったせいで残響をも生む鋼の振動が、手を軽く痺れさせている。
何にせよナイトホークは受け止められていた。
「流石……!」
「そう、簡単には、やらせん……!」
競り合いの体勢で言葉を交わす。
よくぞ、と賞讃を送りたいが、ゲルトが上段から叩きつける側で、シグナムは下から押し返す側。
どちらが有利かは言うまでもなく、実際彼女の声も絞り出すような雰囲気があった。
まだ優位は崩れていない。
ここは畳み掛けるべきだ。
それが至当と判断する。
ゲルトはナイトホークに掛けていた力を抜き、瞬時に相棒たる彼女を振り戻した。
「なっ!?」
いきなり荷重が消えた事でシグナムの姿勢は崩れている。
体が伸び上がり胴体もガラ空きだ。
それも見届けず、ゲルトはすぐさま次の攻撃へ移る。。
「シィィッ!」
身を落として横向きとなったゲルトが踏み蹴りを放った。
体重の乗った踵が彼女の腹部を抉るように突き刺さり、そのまま吹き飛ばす。
「ぐ――――ッ!」
衝撃を弱めようと自分で跳んだ事もあるのだろう。
シグナムは大袈裟な程に宙を飛び、地に着いても膝を折って滑走。
どうやら少しでも距離を離すつもりらしい。
手応えはあったが……。
幾らか軽減されたとはいえ甘くはない当たりだった筈。
それでもなお彼女は冷静に反撃の機を掴もうとしている。
その証拠にレヴァンティンは手放しておらず、痛みに顔をしかめながらも視線は一時としてこちらから外れていない。
何という胆力。
何という執念か。
天晴れ。
しかし感心ばかりもしていられない。
彼女にこのまま姿勢を立て直されると厄介だ。
追い打ちの必要を感じ、足を戻さず後ろへ着いて体を捻る。
一回転の勢いをそのままに下段からナイトホークを持ち上げた。
「はぁぁぁっ!!」
ゲルトの攻撃意志に応じて無色の衝撃波が走り、まだ滑走中のシグナムへ迫っていく。
距離を稼ぐ為だろうが、そのせいで咄嗟に横へは逃げられない。
そう、横には。
これも凌ぐか!
だから彼女は“上”に逃れた。
信じ難い程の跳躍力で衝撃波を躱す。
これは飛行との併用か。
ただの脚力でこれほどはいかないだろう。
「紫電――――」
この時を待っていたのか、空中のシグナムは既に攻撃の姿勢。
振りかぶるレヴァンティンは煌々と輝く炎を纏っている。
「一閃!!」
先刻の焼き直しだ。
炎を伴う剣圧が宙を裂き、未だナイトホークを振り抜いたままの体勢だったゲルトに襲いかかる。
「チッ……!」
演習場に爆音が轟き、粉塵が彼の姿を覆い隠した。
無防備な所にシグナム渾身の一撃。
だが彼女はそれで満足しない。
青眼に構えられたレヴァンティンは更にカートリッジをロード。
手首のスナップで軽く回すのに連動して再びシュランゲフォルムへ移行する。
「フッッ!」
彼女が柄を握る腕を大きく振るうのに呼応してレヴァンティンが螺旋を描く。
それは未だ晴れぬ煙幕ごとゲルトが居た辺りを囲んでいった。
まるで竜巻のように渦を巻いて彼の逃げ道を塞いでいる。
そして、
「ハアァッッ!!」
閉じた。
瞬間の動きでレヴァンティンが捕らえた獲物を握り潰す。
いや、その一瞬前に何かが粉塵を突き破った。
「く、おおおっ!」
ゲルトだ。
紫電一閃はISで防いだものの、流石に全方位から襲い掛かるこれは如何ともし難い。
唯一の突破口である真上へ逃げようと上昇。
しかし。
「捕まった……!?」
遅かったか。
もう少しという所で右足を巻き取られる。
まずい!
シグナムの思うまま振り回され、そのまま地面へと叩きつけられた。
床が近づくのをはっきりと認識しながら、どうする事も出来ない。
「っつ……!」
息が詰まる程の衝撃に喘いだが、決定打には遠い。
まだ戦いは終わっていないのだ。
不様に地を這っている訳にもいかず何とか体を起こす。
すぐさま状況を確認しようとして、それは把握できた。
「!?」
目の前に迫るシグナム。
既に剣の形態に戻ったレヴァンティンを上段に構えている。
一方こちらの状況。
ナイトホークが威力を発揮するには姿勢も距離も不利。
もはや先を取るのは不可能と、とにかくナイトホークの柄で防御する。
「フンッ!ハアッ!」
連撃を辛くも防ぐ。
が、防戦一方だ。
ここぞとばかりの猛攻に反撃の糸口を掴めない。
今は何とか保っているが、もし一度でも読みを誤れば……。
その先は言うまでもないだろう。
しかしこの攻撃にもいつかは切れ目ができる筈。
必ず大振りの一撃が来る筈だ。
それまでを何とか凌げれば、
活路は、ある!
そう信じて受ける、いなす、逸らす。
薄氷を踏むような綱渡りを続けながら、感覚を総動員してシグナムの動きを捉える。
しかし五合目。
「しまっ……!?」
フェイントを読み切れず小手を打たれた。
籠手を抜けた少なからぬ痛みと衝撃、そして精神的空白にナイトホークを握る手が弱まる。
「王手だ!」
不覚。
迂闊。
幾つかの言葉が頭をよぎったが、直感的に理解する。
これは――――
チャンスだ。
**********
「何っ!?」
とどめを放とうとしたシグナムが、驚愕の表情を残して固まる。
慣れた動き。
最早呼吸も同然。
その一撃が……出ない。
慌てて見れば、彼女の剣線を塞ぐようにゲルト独特の障壁が展開していた。
外れん!?
剣を戻して、振り抜く。
その中間の、丁度動きが止まる地点を抑えられている。
位置、角度とも完璧にこちらの挙を封じており、ずらそうにもすぐにはいかない。
そして、
「王手だ、シグナム」
「……ッ!」
ゲルトの声で我に返ると、己の喉元にナイトホークの穂先が突き付けられていた。
チェックメイト。
その事実を呑み込むのに一瞬を必要とし、さらに喉を鳴らして唾を飲む。
ゴクリ、とその音はやけに大きく聞こえ、そしてシグナムはゆっくりと口を開いた。
「……参った」
(あとがき)
ついに、一ヶ月割っちまった…………。
しかもまだ前編…………。
ああああ、これもレポートやら発表やら課題出しまくる教授が悪い!
それにFall out3なんぞ作業妨害ゲーを作ったBethesdaも悪い!
さらにましろ色シンフォニーなんぞニヤニヤゲーを作ったぱれっとも…………ぱれっとも…………いや、アレは本気で面白かったです。
どのルートも最高でした。
べヨネッタは……お察し下さい。
ともかくにして後編も鋭意執筆中です。
流石にまた一ヶ月も掛かってると洒落にならんので、カリカリ速度を上げて行こうかと。
ではまたすぐに会えると信じて!Neonでした。