<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8635] sad rain 前編
Name: Neon◆139e4b06 ID:6b3cfca8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/24 21:46
――――新暦69年ミッドチルダ・首都クラナガン



厚い雲が空を覆い、まだ昼時だというのに満足に日も差さぬ街。

なかなか降り止まぬ長雨のせいで昨日からずっとこの調子だ。

その陰鬱な空気のせいか普段の活気もなりをひそめている。



そんなクラナガンの商業区。

その上空を猛スピードで駆け抜ける2人の魔導師がいた。

傘を差して道を歩く通行人は頭上を通過する彼らの存在に気が付かない。

それは幸運であろう。

今の一瞬に自分達がどれほどの危機に直面していたのか、その事を全く知らないままに日常へと帰れるのだから。



飛行する2人の魔導師。

その中でも前をゆく30過ぎの男は複数の世界で指名手配された、所謂次元犯罪者である。

彼は確認されているだけでも二十余件の殺人を犯している筋金入りの凶悪犯であった。

その中には彼を捕縛しようとした管理局員も含まれており、数えきれない余罪も含めて一級手配犯に指定されている程だ。



一方、彼を追うのは時空管理局の首都航空隊員。

まだ青年という言葉が相応しい若い男だ。

だが、そうと言って彼の腕前が隊内において劣るという事はない。

むしろ右手に拳銃型のデバイスを携えた彼はその年にして既にエースと呼ばれる傑物であり、将来を期待された若手のホープですらあった。

執務官になる、という彼の夢も具体的な実現性を持つ目標と言える。

そんな彼、ティーダ・ランスター一等空尉は、まさしくその評価に偽り無しというだけの事を現在進行形でこなしていた。

目の前を飛ぶ犯罪者がこちらを振り切る為か度々ビル群に逃げ込もうとするのを寸前のタイミングで見切り、悉くその機を妨害しているのだ。

相手の出鼻を挫くように魔力弾での正確な威嚇。

高速飛行中でありながらその狙いが狂う事も無く、的確に逃走者を人気の無い方へと誘導していた。



「止まりなさい!
 これ以上逃亡を続けるのであれば撃墜します!」



後方から幾度目かになる警告が聞こえる。

その声を聞きながら、今や追われる身の犯罪者は焦燥を感じていた。

既に何度も警告を無視している以上、そろそろ本格的な攻勢に出られてもおかしくない。

あつらえ向きに人が少ない方へと誘導されているのがその証拠。

一般人への被害を思い今まで直接の交戦を避けてきたのだろうが、それも市街地であればこそだ。

だが彼に投降の選択肢はない。

今までしてきた事を思えば捕まった時点で人生は終わり。

恐らくは残りの一生を牢の中で暮らす事になるだろう。



そんなのは死んでも御免だ。



何としても追跡者を撒くなり潰すなりしなくてはならない。

しかし、と思う自分もいる。

それが果たして本当に可能だろうか、と。

こちらが何とか撒こうとしてみてもまるで読まれていたかのように正確な攻撃で道を塞がれる上、現在背後も取られている。

今までの事で後ろの局員がかなりの腕前を備えている事は分かっていた。

足を止めて振り返り、攻撃の動作に入るよりは相手の攻撃がこちらを無力化する方が早いだろう。



仕方ねぇ。



悪態を吐きながらも、とにかく引き離さなければ、という結論に達した。

肩越しに振り向き、杖状のデバイスを右肩に乗せて後ろへ。

ほぼブラインドショットの体勢で撃つ。

非誘導の直線弾を連射。

計10発の魔力弾が光を曳いて走る。

あくまで飛行を続けたままの不安定な射撃だ、当たる事などハナから期待していない。

それでも相手は多少速度を落とさない訳にはいかない筈。

この威嚇で奴に戦闘を行う決心をつけさせてしまう危険性もあるが、それはこのまま飛行を続けても同じ事。

ならばせめても相手の出鼻は挫いておかなければ。

そう思ったのだが、



「なっ……!」



相手は予想外の行動に出た。

向こうもデバイスを構えて魔力弾を撃ってきたのだ。

まさかこうも早く戦闘に切り替えてくるとは……。

まだここは紛う事無き都市部である。

そこで戦端を切ってくるとは流石に思わなかった。



――――いや、違う。



あれはこちらを照準していない。

あいつが狙っているのは、こちらが発砲した魔力弾だ。

抜き撃ちの動作で放たれた最初の4発が同じ数の弾丸を撃ち落とす。

それだけではなかった。

明らかに彼から外れた6発の弾丸も彼は見逃さない。

体ごと振り返り、後ろ向きで飛行したままその全てを確実に一発ずつで仕留めていった。

全弾必中。

発射後の制御が利かないシャープシュートをして恐るべき腕前と言える。



だが、甘ちゃんだ。



結局、今の行いは奴にとって致命的な弱点を晒した他の意味は無い。

完全に逸れていた攻撃など、無視すればよかったのだ。

それをしなかった、出来なかったというのなら……。



こうしたら、どうするんだぁっ!!



糸口を掴んだ男はもう一度同じ事を繰り返す。

さっきと違うのは、魔力弾が全てバラバラの方向に撃ち込まれたという事。

狙いをつけないというのではなく、元より拡散して放たれたそれは局員を無視して眼下の街へと降り注ぐ。



「!?」



想像通り、追跡者はそれを見逃す事は出来なかったようだ。

足を止めてその全てを撃墜せんと発砲を続ける。

尋常では無い早撃ち。

放たれる魔力弾の速度もまた普通では無かった。

僅かに数秒で街へ向かった凶弾の全てが撃ち落とされる。

だが、その神技が作った隙は決して小さくなかった。



「余所見してんじゃねぇぞ!!」



ティーダが背を向けて街を守ろうとする間に、逃亡者は狩人となった。

無防備な彼へと目掛け渾身の魔力砲を放つ。

当然殺傷設定で撃ち込まれたそれをティーダは最初反射の動きで躱そうとした。



「!」



しかし理性がその足を止める。

もし躱したら確実に大きな被害が出る、と。

それを防ぐには全て受け止めなくてはならない。



「ラウンドシールドッ!!」



他に術もなく、障壁を展開して魔力砲をその身に受けた。

視界を覆う光柱と彼を庇う障壁とが鎬を削る。

しかし点で迫る砲と、面で防ぐ障壁ではそこに必要な力に差が出るのは当然。

その上ティーダは今しがた全神経を費やす離れ業をやってのけた直後なのだ。

なんとか街への被害は防げたものの、ティーダ自身は満身創痍だ。

バリアジャケットも所々傷み、ヒビの入った障壁を展開したまま肩で息をする彼はもう虫の息といった有様。



「おらおら!
 まだ終わってねぇぞ!!」



そこへ更に追い打ち。

連射連射連射。

足を止め、ティーダの姿を確と捉えた魔力弾が雨あられと降り注ぐ。

ティーダはなけなしの力を振り絞って防御するも、既に限界に達していた障壁は長く保たなかった。

3発目で穴が空き、続く4発でそれが広がり、それ以降の弾丸は全てティーダの体を貫いた。



「―――――ッ!?」



腕にも足にも、当然胴体にも。

槍衾のように全身を光が貫いて行く。

全身を走る激痛に歯を食い縛って悲鳴だけはこらえるものの、もう飛行は維持できない。

浮力を失った体はもう叫ぶほどの力も無く、ただ血を撒き散らして地上へと落ちてゆく。

直下にあるのは高層ビルの屋上。

このままでは墜落死は確実。



『I have control』



そこに叩きつけられる寸前でデバイスの高度制御システムが稼働した。

使用者の魔力を強引に引き出し、デバイスの方で組んだ飛行魔法で姿勢を立て直す。

航空魔導師用の基本機能が頭から落下していたティーダをなんとか背中で着陸させた。



「ガッ!」



とはいえ流石に慣性は殺しきれなかったのか軟着陸とはいかない。

身を叩く衝撃で息が詰まる。

だが怪我の功名。

そのおかげで飛びかけていた意識が朧気ながら帰ってきた。

全身の焼けるような痛みを無視して上半身を起こし、霞む視界で追っていた違法魔導師を探す。

居た。

こちらを仕留めたつもりでいるのか背を向けて更に逃走する姿勢を見せている。



させ、ない……。



デバイスを掴んだまま、小刻みに震える右手を上げる。

無意識の状態でも相棒は手放していなかったようだ。

敵はまだこちらに気付いていない。

時間は、ある。



「ランスターの……弾丸、に……」



不規則な呼吸と手の震えを感じながら、照星と照門を目標へと重ねる。

相手はほぼ真っ直ぐ飛行しているが、手の方がフラフラと揺れて中々それらが一致しない。

焦らずに機を待つ。

脳内麻薬の効果か、痛みはもうさほど感じなかった。

逆に言えばもう長くないと言う事なのだが、好都合だ。

1発撃つまで保てばいい。



「撃ち抜けない、物は……」



ようやく待ち望んだ時が来た。

ティーダの目と照門、照星、目標が1本の線で結ばれる。

手の震えのせいでこの一瞬にしか訪れない、ただ1度のチャンス。

外しはしない。

そうだ。

ランスターの弾丸に、撃ち抜けない物など――――



「ない!!」



発砲。

死力を尽くした、最高とも思える1発。

今までの弾速を更に上回る閃光が、敵へと吸い込まれるように宙を切る。

そして瀕死の状態から放たれた必中の一撃は見事目標の脇腹を撃ち抜いた。

相手は殴られたようによろめき、そのまま慌てるように逃走を続けた。



やった……。



そこまで見届けた所で限界がきたのか、ティーダはぐらりと後ろへ倒れ込んだ。

大の字になり天を仰ぐ。

もう、指一本動かせはしない。

既にバリアジャケットも保てず、今彼を包むのは首都航空隊の制服。

ただの服に過ぎないそれに防護フィールドなど当然無く、雨は容赦なく彼を打ち据える。

降り止まぬ雨によって時間と共に広がっていく血溜まりの中に、彼は沈んで行った。



はは……何とか、なった……かな?



非殺傷設定弾で深手は与えられた。

あれだけの手傷を負わせればそう遠くまでは逃げられまい。

無茶に戦闘を行う事も出来ない筈だし、後は他の誰かが捕まえてくれるだろう。

人任せなようで恥ずかしいが、これが今の自分に可能な最大限だ。



「ゴブッ!
 ゴハッ!ガハッ!」



身を折って不意に込み上げた咳を吐く。

喉にも血が溜まっていたらしく、それは赤い液体を伴って口元を汚した。

それすらも顔を濡らす雨によってすぐに流されてしまうが、もうティーダには分からない。

感覚という感覚が消え失せ、ぼんやりと開かれた目も焦点はまともに合っていなかった。



もうダメ……か……。



ハー、と力無い吐息を流しながら、漠然とそう知れた。

恐らく今の急な動きが止めを刺してしまったのだろう。

もう何も見えない、感じられない。



ティアナ……。



ただ思うのは、残される妹の事。

自分もいなくなって、あの娘はこれからどうなるというのだ。

両親も既に亡く、今まで自分1人で育ててきた、あの娘は。



僕は……。



誓ったのに。

泣きながら父と母の墓にすがる彼女を見て、自分は誓った筈だったのに。

この娘を見守って行こうと。

この娘を幸せにしようと。

なんて事ない、だけど何より大切な気持ちだったのに。

なのにもう、叶わない。

自分はあと数呼吸も保たない、だろう。

恐くはなかった。

ただただ、悲しい。

自分のせいであの娘をついに独りぼっちにしてしまう事が。

かすれた嗚咽と共に、何も映さない目から涙が一滴、流れて消えた。



「帰りたい、よ……」



万感の思いを込めた言葉。

それを最後に、彼の胸はその上下を止めた。










**********










「首都航空隊の、エースが落ちた!?」

「ああ。
 犯人は今も103の方に逃走中だそうだ。
 支援要請も来てる」



雨の中、非常警戒線を築いていた108に悪い報せが届く。

手配中の次元犯罪者を追跡中だった首都航空隊員が撃墜された、と。

そのニュースは隊員達に少なからぬ衝撃を与えた。

現在は部隊を総動員した警戒網が展開されているが、結局の所航空魔導師を追えるのは同じ航空魔導師だけだ。

陸戦魔導師中心の陸士部隊ではせいぜいがこうして待ち伏せして撃ち落とす事しかできない。

それも大きく迂回されたらお終いの頼りないものだが。

そこにこちらのエースを退ける程の凶悪犯が向かっているというのだ。

恐らく相手せねばならない103の方ではもっと混乱があるだろう。



「ただ全員は割けねぇ。
 こっちから出せるのは数人が限度だな……」



支援要請が有るといっても流石にここをガラ空きにするわけにはいかない。

最低限戦線を維持できる程度の人数は残して置かなければ、いざ目標が進路を変えた時に対応できなくなる。

そこを考えると本当に数人しか他に遣る余裕はない。

と、なれば。



「俺が行きます。
 飛んで行けば他より早く合流も出来るでしょうし」



名乗りを上げたのは黄色いレインコートを着込んだゲルトだ。

まぁ、妥当だろう。

応援としては十分に体裁が整うし、直線で進めるため合流に掛かる時間も段違いだ。

ここは陸士ではどうしようもない。



「それしかねぇか……。
 すまねぇが頼む」

「了解。
 それじゃすぐに出発します」



そう言うと彼はレインコートを脱ぎ捨て、要請のあった103が居る方に向き直る。

右手をかざし、いつものようにナイトホークに呼びかけた。



「ナイトホーク、セットアップ」

『セットアップ』



復唱。

彼女の応じる声と共に今着ている陸士部隊の制服が分解され、彼自身のバリアジャケットが構成されていく。

数瞬の後には完全武装の彼がそこに立っていた。

展開したナイトホークの柄をしっかりと掴む。

バリアジャケットの防護フィールドが降りしきる雨を弾き、彼の立つ所だけが他とは隔絶されたような雰囲気を放つ。



「毎度の事だが無茶はすんなよ」

「はい。
 ……行きます」



ゲンヤ達に一言を告げて空へと舞い上がる。

そのまま雨の街の上空に出て、加速。

赤橙の光を引いて目的地へと向かった。





**********





ビルとビルの間。

狭い裏道を頼りない足取りで進む影がある。

それは時に壁にもたれかかって休み、また歩みを再開するという事を繰り返してあてもなく街を彷徨っていた。

ティーダに脇腹を撃ち抜かれた、あの男である。

彼は右手で銃創を庇い、左手でデバイスを杖のように突いて重い足を踏み出す。

押さえるそこは未だ血を滲ませており、また相応の痛みがあるのか彼の顔は苦悶の色に染まっていた。



あの、野郎……!



死の間際に放たれた最後の1発は確かに彼にとって致命的だった。

速度が出るとしても、もうまともな回避運動はとれないので無闇に姿を晒すような飛行はできない。

こうして人目を避け、地を這いずって身を隠す所を探す他は無い。



クソ、クソ、クソッ!

あんのガキ、大人しく死んどきゃあいいものを……!



今こうして惨めを晒す原因となった男への憎悪を燃やし、呪詛を吐き捨てながら歩き続ける。

そうしてどれくらいかが経った頃、ふと視線の先に裏道の終わりが見えた。

向こうは表通りだろう。

止血するための諸々や身を落ち着かせる場所を得る為にはあそこを通るしかないだろうか。

この雨では誰も隣を歩く人間になど興味を寄越さないだろうし、上手く人ごみに紛れる事もできるかもしれない。

そう思い、とりあえず向こう側の様子を窺ってみるが、



チッ。

もう来てやがる。



そこには既に管理局の者達の姿が見えた。

同じレインコートを着た連中が周囲を警戒するように視線を巡らせ、奥には指揮車も見える。

どうやら運悪く検問のすぐそばに出てしまったらしい。

一般人の姿も殆ど見えない所から察するに交通規制も掛かっているのだろう。



こりゃ駄目だな。



他を探した方がいいだろう。

こんな状態で見つかるのは厄介だ。

慎重にいかなければならない。

ここを通るのは諦め、戻って別の道を探そうと後ろを振り返る。

と、今まで彼以外に人気もなかったその通りにもう1つ、他の人影が立っていた。



なんだ?



先程撃ち落とした男よりも更に若い、まさに少年といった年頃の子供だ。

彼をよく見ればバリアジャケットを身に纏い、伸ばした右手にはデバイスらしき槍がある。

20メートルほどの距離をとっている彼はそのデバイスを地に立てるように直角に支えてそこに居た。



魔導師……?

局員か!?



瞬間的にその結論に至る。

その予想は正しかった。

こちらが彼に気付いたのを確認してか少年が口を開く。



「動くな。
 お前を拘束する」



2人だけの通りに、やけにその声が響いて聞こえる。

間違いない。

この子供も追っ手だ。



どうする?



どうやってこの状況を切り抜けるかを考える。

しかし後ろには局員がうじゃうじゃ、前には子供が1人。

既に答えは出たようなものだ。

なにより、



拘束?

拘束だと?



気に食わない。

さっきのガキといい、こいつといい。

どいつもこいつも。



「ハッ!
 やってみろよ坊主ッ!!」



利害よりも感情の方が先に決めた。

この、目の前の生意気な子供を潰すと。

痛む脇腹に顔をしかめながら、杖代わりにしていたデバイスを無理矢理振り上げる。



「!?」



だが、今までそこにいた筈の少年がいない。

転移魔法?

しかし管理局員が街中でそんな物を使うとは思えない。

基本的に市街地での魔法行使は厳禁だが、その中でもあれは最たる物の1つである。

では飛んだ?

それも否。



「こっちだ」



足元から聞こえた声に背が粟立つ。

こちらが構えたデバイスよりも下。

少年はそこにいた。

両足を大きく開き、姿勢を大きく下げてこちらの懐に飛び込んでいる。

金に輝く瞳をした少年は既にデバイスの刃を上向かせた状態で構えていた。

思わず顔が引き攣る。



「クソ」



下段から持ち上げられた刃に引っ張られるようにして赤橙の剣圧が発生。

優に5メートル程の高さまで噴き上がるそれは、まるで津波か何かのよう。

間近で放たれたそれを防ぐ手立てはない。

容易く足が地から離れ、大通りへと吹き飛ばされる。

受け身も取れずに路面へと叩きつけられた。

勢いはそれだけで止まらず、雨に濡れた道を軽くバウンドしながら滑る。

ようやく止まった時には脇腹だけではなく全身を鈍い痛みが包んでいた。



「う……ぐ……」



天地もあやふやになるような飛ばされ方をしたせいで頭痛も酷い。

なんとかうずくまり立ち上がろうとする。

逃げなくては。

手傷のある今、あいつを相手にするには分が悪い。

そう思うのだが、ボロボロの体は意に反して緩慢な反応しか寄越さなかった。

そしてそれを見逃すような情がゲルトにある訳もない。



「ぐぅっ!?」



背を丸める男の元へと近寄ったゲルトは、容赦なくその体を蹴り倒した。

もたついていた動きを遮断され、強制的に仰向きの格好にさせられる。

そして街を覆う暗雲を視界に収めた時、その喉元にはデバイスの切っ先が突き付けられていた。



「…………」



薄皮を裂いて止まる刃を思えば一言も発する事はできない。

唾を飲む動作にさえ命の危険を感じた程だ。

肩も体重をかけて踏まれ、上半身の自由は奪われている。

どのみち身動ぎもできない状態では動きようがないのでどちらでも同じことだが。

もはや完全にまな板の上の鯉。

生かすも殺すもこちらを殺気に溢れた瞳で見下ろす少年次第だ。



沈黙が流れる。



少年は未だ無言を貫いてこちらを覗き込んでいた。

時を増す毎に少年からのプレッシャーは増大していく。

もう何かの拍子に発狂してもおかしくはない。



このまま永遠にこの状態が続くのかとも思われたが、幾つもの足音と共にそれは終わりを告げた。

事態に気付いた103部隊の者達がようやく到着したのだ。

駆け足でこちらに接近している所から見るに、今の沈黙も実際には数十秒程度の事だったらしい。

しかし与えられた恐怖は本物だ。

雨で分かりにくいが、今も彼の体からは冷や汗が止まらない。

四方から向けられているどんなデバイスも、この目の前の1本には敵わないと思えた。



「もう結構です。
 ウチの者が押さえているので大丈夫ですよ」



指揮官らしい男がゲルトに話しかける。

現に押さえつけた男の周囲には多重にバインドが発生しており、もはや逃亡も暴走も許さないだろう。

ゲルトは一瞬躊躇するような素振りを見せ、しかしゆっくりとナイトホークを逸らした。

肩からも足をどけ、後を任せて少し下がる。



「ありがとう。
 おかげでウチの者には被害も出ずに済んだよ」

「いえ、偶然でしたので。
 頭を上げて下さい三佐」



最早放心状態の男が脇腹の応急処置の後、連行されていくのを見送りながら103の部隊長から感謝の言葉を受けた。

彼は自分より幾回りも年下の少年に頭を下げているのである。

まして階級も下。

普通は有り得ない事である。

ゲルトも恐縮の念からそれは辞した。



「いや、しかし流石はナカジマ三佐の秘蔵っ子。
 首都航空隊でも押さえられなかった魔導師をああも容易く、とは……」

「俺は今回何もしていませんよ。
 あの脇腹の傷、あれはその人がやったんでしょうし、尻馬に乗っただけです」

「謙虚だな、君は。
 もう少し胸を張っても良いと思うがね」



103の部隊長はゲルトの言葉をそう受け取ったらしい。

だが、ゲルトにしてみれば全く言葉の通りだし、手放しに喜ぶなど出来ない。

今回の事で賛辞を受けるべきは自分ではなくその首都航空隊のエースだろう。

身を挺して次元犯罪者を足止めし、深手までも負わせたのだから。

確かに犯罪者を取り逃がした事は痛いが、逃亡の手を封じたのだからきちんとその役目は果たしている。

あの魔導師に落とされたという事だが、彼の身は大丈夫だろうか。



そんな折、ゲルトに通信が入った。

発信者はゲンヤ。

恐らくは事件解決の報を受けて連絡を寄越してきたのだろう。

そういえば自分の口からはまだ直接の報告をしていなかった。



「ああ、すみません。
 ウチのボスからみたいなのでこれで失礼します」

「引きとめてすまない。
 今回は本当に助かったよ、グランガイツ・ナカジマ一士」



敬礼で見送られた。

ゲルトもそれに挙手の礼で応じ、その場を離れた。

部隊との合流点へと歩を進めながら通信を受ける。

周りではまだ103の者達が慌ただしく動き回り、検問を解除したりと忙しくしている。

きっと108の方もそうした作業に追われているだろう。



「ゲルトです。
 任務完了、魔導師は捕まえました」

『御苦労だったな。
 詳しい報告は後で聞くからとりあえずこっちに戻ってくれ』

「分かりました。
 ……そう言えば例の首都航空隊の人、どうなったか分かりますか?」

『…………』



ずっと頭の端に引っ掛かっていた事を尋ねる。

さっき103の部隊長に聞いてもよかったのだが、どうもそういう雰囲気ではなかった。

そしてゲンヤの歯切れが悪い所を見るとやはりあの場では聞かないで良かったと思う。

もしあの場で聞いていたら再度あの男を殴り倒していただろう。



『亡くなったよ。
 発見された時にはもう、息は無かったらしい』

「そう、ですか……。
 彼の、名前は?」

『ティーダ・ランスター一等空尉、だそうだ』



ティーダ・ランスター……。



口の中で呟き、その名を刻む。

決して忘れないよう、いつでも思い出せるよう。



「ありがとうございました。
 すぐにそっちへ戻ります」

『分かった。
 だが無理に急ぐ事もねぇぞ
 ゆっくりでいい』

「了解」



雨の街を歩きながら、ゲルトは顔も見た事のないその隊員を思う。

命を懸けて戦い、この街を守った人の事を。

この街の何を、誰を、彼は守りたかったのだろう。

漠然と何かを守りたい、という気持ちで命までは懸けられない。

きっといたのだ。

自分と同じように、彼にもそういう人が。



詮のない考えではある。

自分が幾ら憶測してみても、もう彼に問う事は出来ない。

しかし、それでもせめて。



俺はあなたを尊敬するよ。



心からそう思う。

身を挺して戦ってくれたあなたを、自分は尊敬する。

父やメガーヌ達と同じに、生涯あなたの名は忘れない。



『ゲルト、大丈夫ですか?』

「ああ」



ナイトホークの声には些か心配の色が見える。

バリアジャケットも解除し、わざわざ雨に打たれて歩く彼が気がかりなのだろう。



「でもそうだな、少し……少し、ゆっくり帰ろう」



雨はまだ止みそうになかった。










(あとがき)



今回のは前から構想があったので筆の進みが段違いに速い速い。

そのせいで前後編になってしまい、予定のキャラは出せなかったんですが………もう誰が来るかは分かったね?

後編では彼女が登場します。



それと前回ゲルトのフルドライブ攻撃でどういう事をしたのかよく分からないという事が結構書き込まれていたので今回も使わせてみました。

あれを法外な魔力で威力および範囲拡張したものがそうです。

ナイトホークの剣筋に沿って発生する極太の剣圧、その具現化みたいなものと思ってくれれば。

攻撃属性としては斬撃ではなく爆圧とかに近いもの。



上段からだと前方斜め下に叩きつける形で威力がやや高め。

 この時は射程の短いエクスカリバーみたいな見た目。

横薙ぎだと射程や範囲がかなり伸びるが、逆に周囲の被害も大きくなる。

 この場合見た目には後ろが細く、前に行くほど太い円状になる。ただし後方30度位は死角。

下段からだと上に抜けるので被害が抑えられ、街中では基本こっちを使う。

 本文の通り扇状の津波みたいな形になる。地表面で太く、上へいくほど細い。



とまぁ、だいぶ鬱陶しい説明になりましたがこんな感じですね。

デバイスによる直接攻撃ではないので非殺傷の設定も可能。

フェイトみたいに魔力刃が伸びている訳ではありません。

そういう事も出来なくはないけど周辺の事を思えば使う機会がないという感じ。



それではまた次回。

次もそう遠からず出せると思いますのでもうちょっとお待ち下さい。

Neonでした。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034541130065918