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No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
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[8635] unripe hero
Name: Neon◆139e4b06 ID:6b3cfca8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/28 16:48
日も暮れ落ちたクラナガンの街。

その中でもやや裏道に位置する通りだ。

この時間ともなればそう出歩く者などいない。

しかし今、その闇に紛れて散開していく幾つかの影があった。

彼らはあらかじめ定められていたらしい一つの建物を中心に展開していく。

ホテル……にしては金のかかっていない外装、2階建ての建築物だ。

足音を立て過ぎない程度の速度で走る彼らの手にはそれぞれデバイスが握られていた。



『裏口、配置に着きました』

『周辺道路の封鎖完了です』



統率の取れた動きだ。

断じてそこいらの無頼の類ではない。

彼らは瞬く間にその建物の出入口を押さえていく。



そんな集団の中に、身の丈を超える黒塗りの槍を携えた少年の姿が有った。

薄闇の中でも見間違えようが無い。

ゲルトだ。

ナイトホークに限らず彼自身もこの闇に溶け込むような黒基調の格好をしている。

黒髪黒目の容姿の上、身に纏うバリアジャケットすらも、だ。



それは端的に言えばロングコートのような形状をしていた。

マフラーのように首を覆う襟は顎の付近にまで達して左側で止められ、そこから下へと服を繋ぎとめるボタンが並ぶ。

裾は腰から先で3つに分かれていた。

その内の一枚はそのまま流れて前に。

残りは後ろ、両の腰の辺りではためいている。

一見してその色を除けば豪奢な造りだ。

しかし行動の妨げにならぬよう可動部の周辺をベルトで縛った囚人服のような様相も含んでいる。

肩は背中で×の字に。

他にも手首、肘、上胸、腰、股、膝、足首。

その付近は確実に固定されており、コートやズボンが動きの邪魔になるという事はない。

またそれは適度に体を引き締めて負傷時の出血を押さえるなどの効果も期待されていた。



とはいえ全身が黒一色という訳でもない。

拳先から肘の少し手前までを覆う籠手。

爪先から始まるブーツと一体になった脛当て。

それらは今までとは違って白銀である。

ただ、徹底して夜を意識しているのだろう。

ツヤ消しのなされたそれが光を反射する事はなく、この暗闇の中でも特別目立ちはしなかった。



『正面、配置に着きました』



かく言う間に彼も自身の配置に到着したようだ。

1階で唯一光が漏れ出ている扉の前。

彼の他にもう3人の魔導師が張り付き突入の時を待っている。



『突入の準備、全て完了しました』

『……ああ』



そこから少し離れた指揮車の中には報告を受け、軽く息を吸い込む男が1人。

時空管理局の制服に身を通した白髪の男性だ。

その胸元には三等陸佐と部隊長の身分を示す徽章、それに“GAS-B108”と銘打たれた部隊エンブレム。



Ground Armaments Service‐Battalion 108。



つまり陸上警備部隊、その108番隊を指す言葉。

あるいはもっと簡単に陸士108部隊、とも。



物思いに耽るように目を伏せていた彼はついに吸気を止めた。

目を開き、右耳に据え付けられたインカムのマイクを掴む。



『突入、開始』



ゴーサイン。

扉に張り付く魔導師達が声を出さずに頷き合う。

無言のままゲルトが勢いよく扉を蹴破り、全員が一斉に中へと飛び込んでいった。

倉庫の中にはテーブルを挟んで3人、4人。

合わせて7人の男達がいた。

男達は突然乱入してきた彼らに目を剥いている。

それらを睨め付け、油断なくナイトホークを構えたゲルトは口上を述べた。



「全員動くな!
 こちらは時空管理局陸上警備隊だ!」





**********





――――その前日、陸士108部隊隊舎



「ついに明日、ですか」



ブリーフィングルームに部隊の中でも特に実動の人員が集まってテーブルを囲んでいる。

話題は近々行われるという麻薬取引への踏み込みについて、だ。

判明している場所は商業地区の南にある安宿。

いささかお約束に過ぎると言えばそうだが、実際利便性や秘匿性を考えればそう悪いものではないのだろう。



「調べじゃあ、捌いてる方も買ってる方も大した連中じゃねぇ。
 上手くすりゃ今回で潰せるかもしれねぇ」



ゲンヤの言葉に少なからず肩の力を抜く一同。

それはそうだ。

今回はタイムリミットも近く、普段に比べて事前の情報収集が甘くならざるを得なかった。

下手に大物などが出てくるような事があれば戦闘は必至。

その点小物ならば雇われの魔導師が出てくる可能性も低いだろう。

戦うべき時に戦う事に何らの文句も無いが、だからといってわざわざ危険な方にいきたがる者などいない。

ゆえにゲンヤの話は気休めとはいえありがたいものだった。



「だが、そうは言っても気は抜くんじゃねぇぞ。
 あくまで“安全第一”だ」



とはいえ隊員の緊張を適度に解し、その上でもう一度気を張らせるのが部隊長の仕事だ。

ゲンヤは一転、声のトーンを下げて釘を刺す。

それは確かに効果があったと見えて、皆の顔に真剣の一語で評すべき表情となって現れた。



「うちじゃあ初出動になるが、ゲルトも頼んだぞ」

「はい」



視線を1人に絞ってやや気を遣うような口調のゲンヤに、ゲルトは粛々とした態度で返した。

ゲンヤの言う通り、これがゲルトにとって108部隊における初陣となる。

部隊配属から実に2ヶ月。

ようやくに回ってきた出番である。

とはいえ、ゲルトには元より硬くなったような雰囲気はなかった。

気を抜くつもりもさらさら無いが、今更ガチガチに緊張するものでもない。

そんなゲルトの様子に頼もしいといった顔をする者。

この年齢で実戦に慣れ親しんだ彼の境遇に複雑な顔をする者。

反応は様々である。

しかしゲルトの腕前を侮る者、それだけは1人としてこの場にはいなかった。

もちろん、最初からいなかったわけではない。

AAランクの騎士という事は知らされていたが、それでも部隊長の息子で僅か11歳の子供。

隊内でも胡散臭く思っていた人間は確かに存在していたのだ。

無理からぬ事ではある。

だが、その評価も実際に彼の模擬戦を見れば、彼と相対すれば、変わらざるを得なかった。



常軌を逸した速度と見切りで易々と懐に飛びこまれる。

渾身を込めた魔力弾は謎の障壁で以て苦も無く防がれる。

そして、

接近を許した大の大人達が為す術もなしに悉く宙を舞った。

どのような攻撃も通じず、彼の一撃は問答無用で防御を打ち破る。

誰もが一矢報いる事すらなく地を舐める事になり、その段になって気付かぬ者などいない。

まだ幼いとすら言えるこの少年が、

黒塗りのアームドデバイスを携えるこの騎士が、

間違いなくこの部隊において、いや恐らくは陸士部隊の何処を見ても、無二の力を備えているのだ、と。



その日よりゲルトは108部隊の一員となった。

部隊長の親類であるとかいった色眼鏡抜きに、純粋な己の実力を認めさせたのだ。

今ではゲルトが優秀な戦力である事に疑いのある者などいない。



「そんじゃあ今日のブリーフィングはこれで終了とする。解散」



連絡すべき事はそう多くない。

結局は現場に出てからだ。

身を伸ばして欠伸をする者。

首を回して肩を解す者。

皆それぞれにくつろいで部屋を出ていった。



「正直、今回はお前には物足りないヤマかもしれねぇな」



部屋に残ったのはゲンヤとゲルトだ。

ネクタイを緩めたゲンヤは背もたれに身を預け、先程より軽い調子で話す。

対テロの最前線、敵方に魔導師が居るなど当り前。

そんな任務をこなしてきたゲルトだ。

そう思われても仕方がない。



「いやいや、戦うしか能のない奴が今出なくていつ働くんですか」



ゲルトはそれに僅かに口端を上げて答えた。

別に戦闘機人の身を悔やんだ自虐などでそう言っているのではない。

単純に、ゲルトは嘱託魔導師である。

つまり正規の局員ではないので当然捜査官権限なども持ち合わせていない。

できるのは現行犯逮捕と資料整理位のものか。

そういう意味の言葉だ。



「……本当はな。
 お前には前線なんて出ねぇでデスクワークでもやっててもらった方がいいんじゃねぇか、とは思ってんだよ」

「父さん……」



ポツリと呟く。

やはりゲンヤはゲルトが前線に出る事に引け目を感じているらしい。

たとえどれほどの力が有ろうと、既に修羅場を幾度となく潜っていようと、彼は……自分の息子なのだから。

できる事なら危険な事になど関わって欲しくないと思うのはごく自然な事だろう。

既に彼は壊れる寸前にまでいったのだから尚更だ。

しかしゲンヤは、でもな、と続けて。



「お前は……戦うんだろ?」



半ば諦めたような口調。

ゲルトが何と答えるかなど聞かずとも分かる。



「はい。
 これからも、多分ずっと」



ゲンヤはやっぱりな、とため息を漏らす。

ゲルトは即答で予想通りの答えを返した。

そこに一片の躊躇も迷いもない。

いくら言っても最早彼の考えが変わる事はないだろう。

しかしゲンヤにも譲れないものがある。

約束させなければならない事がある。



「ゲルトよぉ、もう俺はこの事をとやかく言うつもりはねぇ。
 …………だがな、これだけは約束しろ」



一区切りをつけて息を吸う。



「何があっても絶対に無事で帰ってこい。
 絶対に、だ。
 ギンガやスバルを泣かしやがったら、俺がお前をぶん殴ってやる」



ゲルトは一瞬呆けたような表情。

次に何かを堪えるように顔を伏せ、僅かに震えた声で、はい、と答えた。

面を上げる。

そこにある表情は真剣そのもの。



「帰ってきます。
 俺は……絶対に、あいつらを泣かせるような真似はしません」



立ち上がり、誓いを立てた。

ゲンヤは迷いの無いその答えに満足したのか口元に淡い笑みを浮かべる。

そのままゲルトに近づいて荒っぽくその肩に腕を回した。



「それならいい。
 んじゃあ、俺達も帰るとするか」

「そうですね。
 皆腹空かせて待ってるだろうから早く帰らないと恐いです」

「今日はハンバーグらしいぞ?」

「ははっ、そりゃ急がないとスバルが拗ねますね」



今までの空気を取り払う軽い調子。

足早に彼らも家路に着いていった。





**********





そして時は現在へと戻る。



「これがそうか」



密売人の制圧は無事に完了。

上手く不意を突けたからか、さしたる抵抗もなく全員を捕える事が出来た。

2階の捜索も済み、恐らくはこれでこの件も片付いたろう。

今は制圧を確認して中に入ってきたゲンヤがブリーフケースに詰まっている透明な袋、その中の白い粉を検分している。



「間違いないな……。
 禁止薬物取り締まり法違反、現行犯逮捕だ」



その言葉に部屋の隅に集められた密売人達が揃って顔をしかめた。

頭で組んでいた腕も震える。



「全員連れて――――」



ゲンヤが周囲の部下に全員の拘束を命じる。

それに応じて隊員達の視線が手元の手錠の方に向いた。

言い換えればそれは僅かとはいえ密売人から目を離す、という事。

その瞬間、



『!?』



轟音。



突然何かが炸裂するような音が部屋に響く。

その場の全員が間近での大音量と風圧に一瞬身を竦ませ、跳ねるようにその音源へと目を向けた。

そこにあるのは何か凄まじい力によって吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた密売人の男。

男は完全に気絶しており、余波でそうなったのか壁面自体も円形に陥没している。

膝から崩れ落ち、前のめりに倒れ込んだ男はピクリともしない。

その場にいた全員の視線が吹き飛んだ男と、男が元いた場所の延長線を辿って行く。



「ゲ、ゲルト、お前何を……」



そこにいたのはナイトホークを振り抜いた姿勢で静止したゲルトだ。

袈裟懸けに振ったらしく、上体を倒した彼の表情は前髪に隠れていて窺えない。

唾を呑んだゲンヤは驚愕の色をそのままに問うた。



「セイフティ、ファースト」

「……何?」



ようやく頭を上げ出したゲルトが答えともつかない言葉を呟く。

ゆらり、と体を起こした彼は先刻吹き飛ばした男を指差した。

訝しみながらも、もう一度男の方をよく見やる。



「こいつぁ……!」



倒れ込んだ時に手から離れたらしい。

そこに転がっていたのは型番などの刻印も無く、塗装もロクに為されていない……拳銃であった。

どうやらこの男、背中に隠して持っていたそれを一瞬の隙を突いて抜こうとしていたようだ。



「お前等、何やってるか分かってんのか!?」



表情を引き締めたゲンヤが密売人達に向き直り、吼えた。

管理局法では質量兵器の製造、輸出入は厳禁とされており麻薬の密売など目ではない罰則が待っているのだ。

もしも使用の段階に至るような事があれば即座に殺傷の許可が下りる。

これは市街地での危険魔法使用者などへの対応と同じだ。

もし今の男がただの1発でも発砲していたならゲルトは躊躇なく殺しにいっただろう。

今のクラナガンで質量兵器に手を出す、というのはそういう事だ。

ゲンヤの一喝にたじろぐ男達の様子を見るに、さしたる覚悟も無しにただ安易な“力”を求めて所持していたらしい。



如何に質量兵器の廃絶を訴える管理局でもその全てを捉えるのは難しかった。

何せ図面の1つもあればさほど大がかりな設備が無くとも生産できるのだから。

民間レベルでは全く目につく事はない。

だが地下に潜ってそれなりの金を積めば拳銃程度、手に入れるのも不可能ではないというのが実情だ。

それでも実際に使おうとする馬鹿はまずいないのでさほど問題はない……はずだったのだが。

どうやらその大馬鹿共がここにいたらしい。



「全員今すぐに武器を置け!
 さもなければ、実力行使に移る!!」



彼らは今更になって自分達の見通しの甘さに気付いたのだろうか?

一斉に魔力弾の発射態勢に入っているデバイスを向けられて哀れな程に顔を歪ませている。

ゲルトに至ってはカウリングを解いて真正の刃を解き放ったナイトホークを構えていた。

男達を睨むゲルトの目は静かな怒りを湛え、その場の誰よりも細く、鋭い。

その刺すような視線に晒され、彼らの背中には冷たい汗が流れていく。



「あ、あああ……」



まぎれもなく、それは恐怖であった。

さながら蛇に睨まれた蛙のように。

懐に拳銃を忍ばせている男達が、年端もいかないこの少年に心底恐怖を感じているのだ。

これがあれば魔導師に対抗できる、と勢い込んで拳銃を手に入れた彼らだったが、今この場においてそんな物が通用する気が全くしない。

否。

通用するとかしないとか、そういう問題ですらないのだ。

銃を抜くどころか、ただ懐に手を伸ばしただけで、それだけで自分は終わる。

先の仲間の時のような容赦はすまい。

あの槍の形を取ったデバイスで分割されていく自分の明確なビジョンが脳裏に結ばれた。

手が、腕が、足が、首が、それらが悉く宙を舞って床に真っ赤な鮮血を撒き散らす。

彼の目がそう言っている。

あの……あのおぞましい、黄金の瞳が!



男達は続々と手を頭の位置にまで上げ、今度は頭につけないよう肘を90度に保ち抵抗の意思が無い事を示していった。

彼らの膝は一様に震えており、構えられたデバイスが下りると逮捕されたというのに安堵からその場にへたり込む者が続出した。





**********





なんとか終わったか……。



軽く吐息を吐きながら肩の力を抜く。

一繋ぎになって護送車の方へ歩いて行く密売人を見ながら、ラッド・カルタス一等陸士は感慨に耽っていた。

先程の一件、ただの麻薬密売の取り締まりがとんだ大事になる所だ。

あのままいけば人死にが出ていた可能性もある。

そこを思うとやはりAAランク騎士は違う、といった感想が浮かんだ。

視線をその高ランク騎士、ゲルトに向ける。

彼は律儀な事にまだ力を抜いておらず、今も辺りに気を巡らせているらしい。



本当に、何者なんだろうな?



前所属はあの首都防衛隊で、オーバーSの騎士が師匠で、部隊長が父親。

いや、その師匠も父親なのだったか。

魔導師としての優秀さに止まらず、武芸者としても兵士としても一級とは……。

一体どんな死線を潜ればあの年でああまでになるのやら。

決して真似したいとは思わないが。



ま、俺は俺に出来る事をするまでさ。



別に彼に勝とうとかそういう事を考えるほどにガキでもない。

そう納得して手錠で繋がれた男達が目の前を通過していくのを見送る。

と、



「ラッドさん!」



血相を変えたゲルトがこちらに突進してきた。

何だ?

自分は何かやらかしたのだろうか?

あっと言う間に接近してきたゲルトに突き飛ばされ、半ば気迫に押されて尻ごみしていただけにラッドは容易く倒れ込んだ。

いきなりの事に混乱しながらも上体を起こす。

彼は今自分が立っていた位置から見て後ろの方を向き手をかざしていた。

流石に文句の一つも言おうと口を開く。



その瞬間、光の柱が彼の視界を覆った。



暴風が吹き荒れる。

皆その突然の圧力に腕で顔を庇った。



「ほ、砲撃!?」



そう、砲撃魔法だ。

上方から斜めに降ってラッドに直撃するはずだったそれは、ゲルトが展開している障壁に押さえこまれている。

下手な魔導師ではとても撃てないような大きさの砲撃。

少なくともラッドではどう逆立ちしても不可能なレベルだ。

だというのにゲルトは苦しげな様子も見せずにその全てを受け切っている。

程無くその光も勢いを減じていった。



すぐさまその発射点と思しき場所に目をやる。

突然の光に少し目を焼かれているが、一目散に逃げ去る人影は何とか視認できた。

それは屋根から飛び上がりクラナガンの街を飛行していく。

やはり魔導師。

それも大概が強力である航空魔導師か。



「父さん!」



まだ皆が混乱している中、声を上げるのはやはりゲルトだ。

彼はファームランパートを解除し、ゲンヤを呼ぶ。



「飛行許可をくれ!
 今ならまだ追いつける!!」



口調が荒っぽくなっているが、緊急事態だ。

そのような事に拘っている状況ではない。

このままでは下手人にまんまと逃げられてしまう。

恐らく、今の魔導師が真に狙っていたのは拘束されている密売人達だろう。

何故か、という事にはいくつかの推論が有る。

麻薬の供給元が証拠隠滅に来た、拳銃の生産者が口封じに来た。

他にもあるかもしれないが、恐らくはその辺りだろう。

それを立証する為にも、とにかく今の犯人を捕まえなければならない。



「だが、深追いは……」



しかしゲンヤはその提案には乗り気ではなかった。

舞台が空となれば追えるのはゲルトだけだ。

しかし、今の魔導師が1人とは限らない。

もしかしたら他にも隠れているかもしれないのだ。

そうなればゲルトだけでは荷が勝ち過ぎるのではないか。

その思いがゲンヤをして追撃の許可を躊躇わせた。



「約束しただろ!
 帰ってくるって!」

「!」



その言葉にゲンヤは息を詰まらせる。

ゲルトの眼からは燃え立つような闘志が見て取れた。

うつむき、そして拳を強く握る。



「……分かった」

「部隊長!?」



絞り出すような声で許可を出す。

まさか許可を出すとは思っていなかった他の隊員達は驚きを隠せなかった。



「だけどな、今の言葉忘れんじゃねぇぞ!」

「はいっ!」



ゲルトは喜色を浮かべてすぐさま飛行に移ろうとする。

その最後、飛び立つ寸前に顔だけで振り向き敬礼を捧げ……飛翔。

逃げる魔導師の追撃に入る。





**********





瞬く間にクラナガンの街並みを一望できる高さまで上昇。

街を彩る光が幻想的な光景となってゲルトの視界に広がる。

だが、今ゲルトの心を占めているのは先程のゲンヤである。



「良い父さんだよ、本当に」

『はい』



自分にはもったいない程だ。

魔導師ではないゲンヤからすれば、いや他の部隊員からしても、自分の力は化物と言われてもおかしくない。

まだまだゼストに追い付いたとは思わないが、それでも他者からすれば十分に過ぎるだろう。

その事は理解している。

しかし……それでも心配をしてくれるのだな、あの人は。



『見つけました』



前方、高度はこちらの方が上か。

まだ豆粒のようにしか見えないが、問題の魔導師を捕捉。

恐らくは向こうもこちらに気付いたろう。

顔を引き締める。

ここからは一瞬の油断も許されない。



「最大戦速で射程まで飛び込むぞ」

『イエス』



言葉と共に推力を一息に限界まで引き上げた。

何かを求めるように身を伸ばし、まだだ、まだいけるはずだ、と際限なく速度を上げていく。

遂にはドン、と夜空に轟く爆音を伴って高速飛翔。

徐々に広がって薄れてゆく環を置き去りにただ、飛ぶ。



『魔力増大。
 魔法攻撃、来ます』



一気に距離を詰めるこちらに、逃げられないと判断したのか。

敵は足を止めて迎撃に移った。

幾つもの光球が正面から接近する。



3……5……7……12。



12発だ。

相対速度も相まってかなりの速度。

こちらのほうが上を位置取っているので街には降り注がないのがせめてもの幸いか。



『どうしますか?』

「決まってるだろ。
 俺達は何だ?」

『騎士です。
 グランガイツを受け継ぐ、騎士であります』



即答。

悩む余地などあろうはずがない。



「そうだ。
 なら……突撃あるのみだろうが!」



速度を一切落とさずに光の群れへと飛び込んでいく。

魔力を追尾する類の自律誘導弾と見えて、全てがゲルト目掛けて軌道を変えてきた。

だが、それで怖けるようなゲルトではない。

ロール、急上昇、急降下。

無理矢理な機動の連続で強引に躱す。

慣性制御も振り切ったGが体を襲うが、強化されたゲルトの肉体ならなんとか耐えられる。

歯を食いしばってそれに堪え、その先へ。



「あと……1歩ぉっ!」



抜けた。

魔力弾の全ては後方。

こちらを見失ったからか術式に込められた魔力が尽きたからなのか、次々に消滅していく。

今この瞬間、敵と自分の間に邪魔するものは何もない。

もう驚愕に歪む男の顔も見える距離だ。



「一撃で、落とす!」

『フルドライブ・スタート』



ナイトホークが硝煙と共に薬莢を吐き出す。

宣言通りゲルトの魔力が常軌を逸して膨れ上がっていく。

しかしパラディンは正常に稼働中。

完全に制御可能だ。



いける!



「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」



身を先に、それに続いて腕を出す。

飛行の慣性も利用した横薙ぎの斬撃。

超絶の魔力を纏った刃が一閃する。





その夜、空を見上げた者は見た。

夜闇を裂く赤橙の光、その輝きを。

それは花火のような残光を残して半円の放射状に広がっていく。

一体どれほどの人間が気付いただろうか。

それがたった1人の少年が為した破壊の残り香なのだと。

そしてそれに防御ごと容易く飲み込まれ、瞬時にノックアウトされた魔導師がいた事を。





**********





「これで本当にお終い、だな」



ゲルトはフルドライブを切って宙に浮かんでいた。

右手には襟首を掴まれ、後ろ手に手錠をされた魔導師の姿がある。

飛行用のフィールド内にいるからこそできる芸当だ。

彼は死んでいるように動かないが、息はあるらしい。

この男からは聞かなければならない事がある。

その為にわざわざ魔力ノックアウトを狙ったのだから。



「こちらゲルト。
 犯人を確保、そちらに戻ります」

『お前は大丈夫なのか?』



通信で犯人の逮捕を報告。

向こうからはゲンヤの心配そうな声が聞こえる。



「ええ、怪我もありませんよ」

『よし、それじゃあすぐに帰ってこい』

「了解」



通信を切る。

ふぅ、と軽い吐息。

ようやく街を見下ろす余裕が出来た。

至る所に光が満ちる街並みを見下ろす。



「綺麗な街、だよな」

『はい』



ここを、今日は守れたのだろうか?

そして、

これからも守れるのだろうか?

いや。



「守るんだよ、な」

『ゲルト?』

「いや、何でもない。
 戻るぞ、ナイトホーク」

『イエス』



ゲルトはそれだけ言うと踵を返して108との合流点へと移動を開始。

赤橙の尾を引いてクラナガンの街を翔る。





後日、襲撃をかけてきた魔導師はやはり密売人らに銃を流していた連中の差し金であったと判明。

108のみならず他部隊との連携もあって、この組織は1ヶ月と保たずに摘発される事となった。










(あとがき)



随分空いてしまいましたが、ようやく投稿。

そういえば書いてなかったなと、ゲルトのバリアジャケットのデザインなど描写してみました。

籠手がゼストと違って両手にあるのは一応格闘戦も視野に入れているからです。



あと、ゲルトの飛行が本当に音速を超えていたのか、それとも単に推進用魔力の爆裂でああなったのかはご想像にお任せします。

明言して突っ込まれると答えられないので。

見た目にカッコ良けりゃいいんだよ!と納得していただければ幸い。



それでは今日はこの辺で。

Neonでした。


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