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No.8541の一覧
[0] オーバー・ザ・レギオス(鋼殻レギオス 最強オリ主)【チラ裏から移動2009/8/6】[ホーネット](2009/08/06 20:24)
[1] オーバー・ザ・レギオス 第一話 学園都市ツェルニ[ホーネット](2009/05/20 20:03)
[2] オーバー・ザ・レギオス 第二話 異邦の民[ホーネット](2009/05/11 06:19)
[3] オーバー・ザ・レギオス 幕間01[ホーネット](2009/05/16 13:55)
[4] オーバー・ザ・レギオス 幕間02[ホーネット](2009/05/14 21:41)
[5] オーバー・ザ・レギオス 第三話 積み重なる焦燥[ホーネット](2009/05/13 11:43)
[6] オーバー・ザ・レギオス 幕間03[ホーネット](2009/08/06 19:55)
[7] オーバー・ザ・レギオス 第四話 強さの定義[ホーネット](2010/02/28 17:23)
[8] オーバー・ザ・レギオス 第五話 荒野の死闘[ホーネット](2010/03/27 19:21)
[9] オーバー・ザ・レギオス 第六話 小さき破壊者[ホーネット](2010/03/28 12:53)
[10] オーバー・ザ・レギオス 第七話 夢幻、記憶、過去[ホーネット](2010/03/28 22:23)
[11] オーバー・ザ・レギオス 第八話 朽ちぬ炎となりて[ホーネット](2010/03/29 00:46)
[12] オーバー・ザ・レギオス 幕間04[ホーネット](2010/03/30 20:08)
[13] オーバー・ザ・レギオス 第九話 それぞれの過去[ホーネット](2010/04/01 16:56)
[14] オーバー・ザ・レギオス 第十話 サリンバンの子供たち[ホーネット](2010/04/02 12:37)
[15] オーバー・ザ・レギオス 第十一話 罪を背負う意志[ホーネット](2010/04/12 01:29)
[16] オーバー・ザ・レギオス 第十二話 叶わぬ誓い[ホーネット](2010/04/12 17:10)
[17] オーバー・ザ・レギオス 第十三話 ひとつの終わり[ホーネット](2010/04/14 23:24)
[18] オーバー・ザ・レギオス 第十四話 ア・デイ・フォウ・ユウEX[ホーネット](2010/06/11 19:52)
[19] オーバー・ザ・レギオス 幕間05[ホーネット](2010/06/13 18:05)
[20] オーバー・ザ・レギオス 幕間06[ホーネット](2010/06/15 16:29)
[21] オーバー・ザ・レギオス 第十五話 黄昏の兆し[ホーネット](2010/10/05 23:55)
[22] オーバー・ザ・レギオス 幕間07[ホーネット](2010/12/09 22:44)
[23] オーバー・ザ・レギオス 第十六話 終焉の序曲、始まる[ホーネット](2010/12/03 00:39)
[24] オーバー・ザ・レギオス 第十七話 絶技の果てに[ホーネット](2011/02/11 12:38)
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[8541] オーバー・ザ・レギオス 第五話 荒野の死闘
Name: ホーネット◆10c39011 ID:72a9f08e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/27 19:21




オーバー・ザ・レギオス


 第五話 荒野の死闘






 体にピッタリと張り付いたスーツのひんやりした感触が心地良い。
 都市外戦闘用の汚染物質遮断衣。半透明の全身タイツのような下地の上に専用の戦闘衣と通信用の念威端子を修めるヘッドセットを着装する。
 何やら如何にもな感じの戦闘員が完成してしまった。

「よく似合ってるよな? フォンデュ」

 今日のデート相手であるレイフォン少年とのペアルックを評してみる。

「似合う似合わないの問題ではないですよ。というか、ふぉんでゅって」

 確かに安全性・機能性さえ十分なのだったら外観はそれほど問題ないだろう。
 もとより俺の場合、生身であっても汚染物質に耐えられる。正確には耐えるのではなく、汚染物質を排除できる生態を有しているというのが正しい。俺が有するのは武芸者としての純然たる資質だが、俺の中に内包されている資質はもう一つある。その資質は“リグザリオという世界”に内包された姫様のもの。いつからそこに居たのか分からないがかなり“以前”からそこに居て、観察していたらしい。会話こそないが、姫様の資質の顕現たる“鏡片”は目となり、耳となって俺に世界を見せてくれる。
 汚染物質に対する抵抗力と戦域情報を精確に把握できる管制力。
 通常ならば武芸者と念威操者に分たれている能力がひとつの肉体に宿っている。
 これがどれほどのイレギュラーであるか、それなりに永い経験から理解しているつもりだ。
 以前の汚染獣戦でも発揮されたこれらの能力は、努力によって獲得した能力ではない。それをあたかも自分のもののように扱うのは間違っているのかもしれない。だが、力を使うのは俺なのだ。そこに力を貸す――本人にそのつもりがあるかどうか定かではないが――頼りになる姫様もいる。
 俺は他とは違う。
 そも生まれからして世界が違う。
 まったく世界の違うこの場所で俺が生きていくうえでやらなくてはならないこと、持たされた力を無駄にしないためにみんなの役に立て、俺も得をする。損得勘定であれだがこれもまた生き方のひとつだろう。


 ハーレイから渡された錬金鋼を剣帯に収める。普通の錬金鋼とは違い、やや長く手元から細長い鉄板が先端に向かって弧を描き、その鉄板には三つの穴が穿たれている。

「これで準備は万端だね」

 新たな錬金鋼を受け取ったレイフォンと俺の姿に満足そうに微笑むハーレイ。
 この錬金鋼はハーレイが働いている錬金鋼の開発製造を行っているチームで開発されたものであり、今回の“デート”に色を添えるものでもある。
 複合錬金鋼アダマンダイトと称されるこの錬金鋼は、面白い性質を持っている。
 すでに合成された存在である複数の錬金鋼を、それぞれの長所を完全に残した形で合成されたものらしい。
 カートリッジ式で合成に使う錬金鋼の組み合わせを変えることができるが、合成に使った錬金鋼の基礎密度と重量を軽減できないとか。

「移動にはランドローラーを使ってもらう」

 黙ったまま控えていたカリアンが側にあるものを示した。
 そこにあったのは大昔に実用性を失ってしまった車輪式の乗り物。SFに出てきそうなごついバイクだ。
 汚染物質に満たされたこの世界ではゴム製の車輪は耐えられないため、この世界では車輪の代わりに機械の足が車体を運んでいる。初めて体験した時は面白さと気持ち悪さが込み上げていたのを思い出す。

「ツェルニの明日は、君たちに掛かっている。そして、君たちの力が真に必要となるのはまだ先だ。必ず戻って来てくれ」

「言われなくてもそのつもりです」

 それなりに沈痛な面持ちのカリアンには視線を向けず、ランドローラーに跨るレイフォン。
 その表情にいつものような抜けた雰囲気は感じられない。
 これから出掛ける先に待ち構える相手との“デート”がどれほど危険なものであるかをしっかり理解しているようだ。

「やれやれ、だな」

「お前は相変わらずそうだな」

 レイフォンのどこか危うい、苛立たしげな、張りつめた様子の原因を作ってしまった俺を原因そのものである我らが隊長が小突いてくる。
 ランドローラーの機関に火を入れる。腹に響く重低音が心地良いリズムを伝えてくる。
 カリアンとその他の作業員たちが制御室に引き上げると外部へのゲートが開き、俺たちを乗せた昇降機が地面へと降下を始める。

「……無理を言ってすまなかった」

 強風が吹きつける中、ゆっくりと歩を進める都市の脚が俺たちを取り囲む。
 本番を間近に控え、本日のメインであるレイフォンに謝罪するニーナに曖昧な表情で首を振るレイフォン。

「いえ、武芸者ならいつかは通る可能性のあることですから」

 あまり乗り気でなさそうな様子を隠しきれないレイフォンの態度にニーナも困ったように首を振る。
 その重そうな雰囲気を和らげるように軽い調子でシャーニッドがアクセルを吹かす。

「ま、俺らはせいぜい邪魔しないように見物させてもらうからよ」

「そういうならシャニは通信画像だけで我慢しろ。俺が“デート”に誘ったのはニーナだけだぞ」

「で、デートだと?!」

 素っ頓狂な声で過剰反応するニーナがふざけるな、と脇腹をそれなりに力強く突く。

「相変わらずリザはつれねえな。そんでもってニーナも相変わらず冗談に反応し過ぎ」

 見てる分には面白いけどな、と笑顔のシャーニッドに後半だけは同意しておこう。
 レイフォンを除き、和気藹藹な調子で続く出発式。
 徐々に地面が近づき、遥か彼方に天を突く岩山へと視線を向けるレイフォンに俺も同じ方角に目を向ける。
 そこに俺たちの“デート相手”が待ち構えている。
 到着まで一日かかる予定だ。シャーニッドにはせいぜい場を盛り上げてもらいたいもんだ。



 先日、カリアンに招待された晩餐で明かされた事実。
 都市の予定進路に汚染獣らしき物体が確認され、現在まで数度に亘る無人探査機による撮影でその存在はより確実なものとなっていた。
 出発と同時に念威端子をフェリが飛ばし、ランドローラーを先行する形で戦域情報の収集に努めることになる。
 本来ならば、十七小隊全員で行くように仕向けたつもりだったが、念威に集中してもらうためにフェリだけは、ツェルニに残ることになった。
 俺とレイフォンによる汚染獣討伐任務。それが今回のデートの内容だ。
 都市外戦用の装備も必要ない俺だが、その事実をあまり多くに広めることもよろしくないと判断したカリアンにより仕方なく着込んだ汚染物質遮断スーツが動きにどこまで影響があるか分からない。出来そのものは良いため、気になるほどではないだろうが、都市外での汚染獣との戦いは無傷での勝利が大原則だから機動力にわずかでも影響が出る可能性があるのなら慎重な動きを心がけなくてはならない。汚染獣の攻撃をすべて回避できても自分の剄力で汚染物質をズタズタにしてしまうこともある。実際に何度かスーツが敗れたことで大変な目に合ったこともある。
 そんな危険な都市外での戦闘は、集団戦が基本だ。連携が取れた武芸者が集団で一体の汚染獣を倒すというのが普通の戦い方。汚染獣の幼生体ならばともかく、雄性体をたった一人で相手をするなんてバカのすることだ。力が及ばない時代の俺はなおのことそれを順守し、決して独りで戦うようなことはなかった。それができるだけの根性も実力も無かったのだから当然だが、俺にとって汚染獣との戦いは“その時の最後”だった。そこで敗れれば、自分が死に、その後ろの自律型移動都市とそこに住まう住民が死ぬことになる。だから、そのときに持てるすべてを費やして戦った。

「それが今じゃ、ピクニック気分だ……」

「ん? 何か言ったか」

 サイドカーに腰掛けているニーナに何でもないと応え、俯いていた視線を再び前に戻す。
 こんなにも気軽になっているのは傲慢になったということだろうか。
 今の俺なら雄性体の一匹や二匹、物の数ではない。例え、老生体でも退けることができる。“ひとつ前”に戦った最後の記憶は曖昧だが、バカみたいにでかい汚染獣と戦ったように思う。そいつには負けたが、“現時点の俺”は“その時点の俺”より数段勝っている。基本的な技術は変わらないが、剄力は増大し、感覚もより鋭くなっている。
 ツェルニに来てから二度目の汚染獣との戦い。相手は汚染獣が一匹。
 一度目もそうだったが今回は何かがおかしい。“リグザリオ”という“個”となってから数多くの敗北を重ね、死を重ね、強大になり続ける“力”の矛先にしては明らかに役不足。命を賭しても退けることのできない戦い、“あの空気”を微塵も感じない。“前回”に何があったか正確なことは思い出せないが、いつもの“能力向上”は今までの比ではなかった。この力を向けるべき戦いはまだ先だということか。
 とりあえず、今は目の前の汚染獣を退けることが大事だ。




 目的地に着いたのは昼過ぎ頃になった。
 安全圏ギリギリと予測される位置にランドローラーを停止させる。先行しているフェリの念威端子から送られてくる情報をもとに戦闘域を決める。
 天を突くような岩山に張り付くように汚染獣がじっとしているのが“見える”。胴体がわずかに膨らんでいるが、頭から尻尾まで蛇のように長い。胴体部にニ対の昆虫のような翅が生えている。淀んだ緑色の筋が幾本も走った羽根はあちこちが破れてぼろぼろだ。
 蛇というよりエビかタツノオトシゴみたいにとぐろを巻いた胴体に並んだ節のある足、退化しているかのように脆弱で足として用をなすように見えないが、その爪は岩肌に喰い込み巨体を支えている。
 ここまで人間エサがここまで近づいているのに反応する様子がまったくない。まるで死んでいるように見えなくも無いが、“生命”としての鼓動までは完全に消せていない。フェリの念威による解析では、正確な状態を把握できないが、うちの“姫様”の力の前には丸裸だ。

『どうですか?』

 フェリの声が端子を通して耳に響いた。

『四期か五期ぐらいの雄性体ですね。足の退化具合でわかります』

 フェリの確認にレイフォンが応える。
 今回の戦闘では、俺とレイフォンが連携して戦うことになるため俺たちは敵の力を把握しなくてはならない。
 汚染獣は脱皮するごとに足が退化していく。雌性体に変容する場合は産卵期に地に潜るため逆に脚は大きく堅固になっていく。そして、足が退化し続け完全に失われた状態を老性一期と呼び、飛ぶことに特化した状態になる。基本的に最も手に負えない状態であり、本能のままに揮われる暴虐と変容による激しいエネルギー消費が耐えがたい空腹感を抱えさせる。ここからさらに変化すると老性二期、三期となり、その変化は奇怪さが増し、姿も一定じゃなくなる。

 レイフォンがランドローラーを降り、剣帯から錬金鋼を二本抜き出し、右に複合錬金鋼アダマンダイトを持つ。俺も腰の剣帯から複合錬金鋼アダマンダイト紅玉錬金鋼ルビーダイトを抜き、ランドローラーを降りる。
 徐々に身体に活剄を流し、戦闘に向けて身体中に力を滾らせる。

 老性二期からの汚染獣は、その強さの質も一定ではなくなり見た目で脅威を測ることもできなくなる。
 それより前の段階ならば通常の方法で対処できる。

『めったに出会えるものじゃない、だから気をつける必要なんてないのかもしれない。気をつけようもないのかもしれない。でも、知っているのと知らないのとでは違いがある。知っておけば何かできるかもしれない。老性二期からは単純な暴力だけで襲ってこない場合もあります』

『……フォン……なにを言ってるんですか?』

『レイフォン……何故、それを今伝える?』

 現状を遠まわし語り、それを以て危険を察し、フェリとニーナが戸惑うようにレイフォンを見る。目の良いシャーニッドはすでに状況を理解し、止めていたランドローラーを起動させた。俺もシャーニッドのランドローラーに積み込んでいた予備の錬金鋼ダイトを投げてもらい、紅玉錬金鋼ルビーダイトの楯を復元させる。
 それと時を同じくして、ピシリと音がした。周囲の空気が軋むような、大きな癖にどこかひそやかさを秘めた音。潜めていたであろう肌をひりつかせていた存在感が、より鮮明に全身の神経を撫でる。

 岩肌に張り付く汚染獣の微かな鼓動が徐々に活発になっていく。
 ぼろぼろの翅が音を立てて崩れ始める。
 胴体を覆っていた鱗のような甲殻が一枚一枚剥げ落ちていく。
 蟲のような複眼が丸ごと外れ、岩山の斜面を跳ね落ちる。
 いよいよ、始まる。

『報告が入りました』

 珍しくフェリが慌てたような声が戦場の音に混じる。

『ツェルニがいきなり方向を変えました。都市が揺れるほどに急激な方向転換です』

『やっぱり……』

 フェリの報告に頷くレイフォン。
 汚染獣を避ける性質がある自律型移動都市レギオスだが、進路上に潜んでいる汚染獣を察知できない場合がある。産卵のために地下へ潜っている雌性体や一時的な休眠状態に入っているモノ、それと今回のように生体反応を薄められている場合だ。最も移動都市レギオスがどのような方法で汚染獣を察知しているかが分かっていないので、これらの遭遇を完全になくすことはできない。

『これは……どういう、うあ!?』

 初めて見る汚染獣の変容にわずかな動揺を見せるニーナの首根っこを掴みサイドカーから操縦席に移す。

「脱皮だよ。珍しいもんが見れたな」

『リグザリオ?』

「ちょっとばかり戦闘域を広げる。ニーナとシャニは、後方に下がってくれ」

『……そんなにやばいのか?』

 レイフォンの緊迫した雰囲気にさすがのシャーニッドも真面目な顔で聞いてくる。
 ニーナも念威端子の向こうのフェリも息を呑むのがわかる。

『レストレーション01』

 前に出たレイフォンが復元鍵語を唱えると左手の青石錬金鋼サファイアダイトの剣身が空気を裂いた。

『老性体になる際は汚染獣としての本能から変質させる分、普通の脱皮よりも腹が減る。だから、餌が近づくまで脱皮をぎりぎりまで抑えていたんだ』

 飛行することに特化した老性体に察知された移動都市レギオスは逃げきれない。少なくとも“俺の経験上”では一度として逃げきれたことはない。さらに言えば、ここまで接近している以上、汚染獣の翅を落した程度では逃れ馴れない。故に足止めだけでなく、完全に倒すことが望ましい。
 全身を奔る活剄の勢いと密度を上昇させる。
 岩山に張り付いた汚染獣の背が割れ、そこからどろりとした液体が零れ、汚染された大地を汚染獣の産声が重く揺すった。抜け殻を割り、背を仰け反らせて、赤味の強い濡れた虹色の新しい翅を広げる。細長い抜け殻から現れた胴体が縮まり、殻のぶつかり合う音がリズムとなり殻から出でた汚染獣の全体が顕わになる。頭部にこびり付いていた粘性の液体が零れ落ちて現れたのは、昆虫めいた雄性体のものと比べ、爬虫類のそれに近かった。

「あれが老性一期。ここを越えられたらツェルニが滅ぶ。そういう状況だ」

『……わかった。私とシャーニッドは後方で待機する』

『それでは足りません。隊長たちはツェルニまで引き返してください』

 俺の言わんとすることを理解したニーナがランドローラーを発進させようとするときにレイフォンがきつく言った。

『老性体との戦いは、本当に命懸けになります。後方を気にして戦える相手じゃない』

 確かにそれは事実だろう。しかし、それは“レイフォンの経験”が裏打ちしたものだ。
 ニーナも自分が足手まといにしかならないことを理解しているから後方に下がることを受け入れているが、俺たちだけを残して逃げ帰るのはさすがに耐えられないらしい。

『馬鹿を言うな! 命懸けならば、なおのこと帰りの足が必要だろう!』

『汚染獣さえ何とかすれば、あとから何とでもなります!』

 それだけ言うと復元させた錬金鋼の柄尻に複合錬金鋼アダマンダイトを繋げ、走りだすレイフォン。

『私は、隊長だ! 部下のお前たちを置いては帰らないぞ、レイフォン!!』 

 ニーナの叫びも端子によってはっきりと聞き取れているだろうに足を止めることもなく、内力系活剄が変化、旋剄により突風と化して汚染獣へと直進した。
 遥か彼方にある餌場が遠ざかるのを感じたのか、汚染獣が翅を震わせた。全身にまとわりついていた液体を散らし、鼻先をまっすぐ俺たちの後方に向けて汚染獣が鎌首を擡げる。

「さて、俺も行ってくる」

『リグザリオ。私は……』

「レイフォンの言うことは気せず、隊長殿は後ろでどっしり構えとけ。あいつに戦場はひとりじゃないってことくらい俺も教えるつもりだからさ」

『……当然だ。お前もレイフォンも無事に戻れ、これは隊長命令だ。分かったな』

「了解」 

 ニーナたちと別れ、レイフォンの後を続いて活剄を脚に集中させた“旋剄”で駆けだした。







 蒼い輝きを放つ剣身が霧散し、数えるのも億劫になるほどの鋼糸が空に駈け昇ぼろうとする汚染獣に殺到する。
 音もなく全身に絡みついた鋼糸など意に介した様子もなしに上昇する汚染獣の動きに遅滞はない。

「サイズが違い過ぎるだろ」

 レイフォンもそれを理解しているだろうからあれで汚染獣の動きを止めるつもりはないのだろう。
 抵抗するようすもなしに舞い上がる汚染獣とともに宙を舞う。
 宙を舞いながらも幾本もの鋼糸を翅に絡ませようとするのを見るに鋼糸で翅を落とそうとしているようだが、青石錬金鋼サファイアダイトでは、幼生体の甲殻のようにはいかないだろう。
 鋼糸で翅を切断することを諦めたレイフォンが鋼糸の束をニ方向に分散させ、汚染獣と岩山を繋ぎ合せた。
 突然の衝撃に汚染獣が苦痛の方向を上げる。首が仰け反り全身がうねって翅が激しく動かし、ツェルニがある方向の空を目指すがそれ以上進むことはできないでいる。

「それでも長くは持たないな」

『分かってます。リグザリオさんも汚染獣を抑えるのを手伝ってください』

 その間に自分が翅を落とします、と自らが巡らせた鋼糸の上を駆けるレイフォン。
 復元させていた紅玉錬金鋼ルビーダイトの楯から鏃型の刃を引き出し、宙に縫い止められている汚染獣に向かって全力で投擲する。投擲する際、紅の刃を衝剄で包み込み錬金鋼の強度を誤魔化すのも忘れない。
 汚染獣が喉元を奔る激痛に大気を引き裂く咆哮を上げる。
 
『それだけじゃ足りません!』

「わかってるから急かすなよ」

 レイフォンに言われるまでもなく、汚染獣の喉を貫く紅刃に連なる鎖に螺旋を作り、凶悪な頭部を雁字搦めにする。
 状況から緊迫しないといけないのだろうがレイフォンほど熱くなれない。精神的に熱いのではなく、むしろいつものぼんやり抜けた感じがうそのように戦闘中のレイフォンはどこまでも冷静に状況を判断し、自分の出来る最善の行動を選択する。それは熟練の武芸者ならばできて当然のことでありながらもレイフォンには決定的に足りていない部分もある。それは本来、戦いを重ねれば重ねるほど理解していくものだ。
 しかし、レイフォンにはそれがまったくない。
 槍殻都市グレンダンの天剣授受者――俺の知るグレンダンには存在していなかった称号。その天剣授受者という称号がどのようなことを意味するのかは知らない。ただそれは“天の剣を授受されし者”の名を持つに相応しい存在なのだろう。こうやって間近で動きを見ればわかる。レイフォンは今まで一人で戦ってきたんだ。汚染獣との戦う上で愚かとしか言いようのない戦い方。それができてしまうほどにレイフォンは強かったのだろう。それは幸運なことであると同時に不幸なことでもある。

 身体を鋼糸に絡め捕られ、紅刃で喉を割かれ、鎖に頭部を絞め付けられた状態でもがき続ける汚染獣。
 宙に張り巡らされている鋼糸の上をレイフォンが駆け、鎖の上を俺が奔る。
 互いに剣帯に残っていた錬金鋼を抜き出しては、複合錬金鋼のスリットに差し込んでいく。
 すべてのスリットに錬金鋼を差し込んだところで……

『レストレーション、AD』

「レストレーション、β」

 復元鍵語を唱え、剄を走らせる。
 瞬時に錬金鋼数本分の重みが腕を介して全身を伝う。その重みで撓む鋼糸の反動を利用して汚染獣の背に向かって回転しながら跳ぶレイフォン。俺は自身が奔る鎖が絡め取っている頭部へと躍りかかる。
 レイフォンの手には一振りの巨刀が、俺の手の中には二丁の赤い銃が握られている。
 汚染獣の背中に着地したレイフォンは、岩山に絡めていた鋼糸を外し、腕に絡ませながら回収すると汚染獣の翅めがけて巨刀を振り上げる。
 頭部に程近いところまで接近した俺は、汚染獣を締め付ける鎖を回収しながら距離をさらに詰める。
 外力系衝剄の化錬変化、焔絞め。
 厖大な剄を注ぎこまれ加熱され、溢れだす衝剄が火焔を伴う螺旋が絡み合いながら汚染獣の頭部を灼き削る。
 巨体を宙に支えていた翅が赤い血飛沫を撒き散らしながら汚染獣の身体が傾く。レイフォンが翅をその巨刀で見事に斬り裂いていた。
 落下する汚染獣の背中から離脱するレイフォンを脇目に絡め取った鎖と繋がった腕が大質量に引かれる中で頭部を覆っていた焔の鎖を解き放ち、灼け焦げた頭部がようやく開かれた視界と顔面をズタズタにされた激痛に大気を弾き飛ばすような咆哮を落下しながら天へと向ける。喉に突き刺さったままの紅刃と灼熱の鎖が繋いでいる汚染獣との距離は変わらない、地面に落下するまでの数秒、そのわずかな時間を無駄にする必要もない。楯を装着している右側の手には長大な狙撃銃を握り、左手には三連銃身の拳銃を掴む。
 外力系衝剄の化錬変化、麒麟。
 一直線に伸びる鎖に沿って雷を纏った剄弾が汚染物質を引き裂きながら閃光となって奔る。ダメージの蓄積した頭部の外殻をさらに深く削っていく。
 外力系衝剄の化錬変化、螺旋塵。
 三つの銃口から螺旋を描き、互いの螺旋を乱しながらも大気中の塵を巻き込み、レイフォンが斬り裂いた翅の付け根を中心に真空と粉塵の刃が汚染獣の背中に幾百もの傷を刻んでいく。
 やがて地面を大質量の衝突という爆発が襲う。
 地面を撫でる爆風を利用して落下の衝撃を殺しながら着地するレイフォン。俺は化錬剄によって形作る足場、風澱を作り本来の落下点から移動し、第二撃にとって最適の位置取りをする。
 濛々と立ち昇る煙が晴れるのを待たずに汚染獣が天を仰ぐ。焔絞めと麒麟によって本来の機能を失った目から血を噴き出しながら純然たる憎悪と殺意を向けてくる。
 食事の邪魔をする小さな、とても小さな生き物が自身の障害となっていることへの煩わしさだけでなく、自身を滅ぼしえる牙を持つことを理解したのだろう。激痛による憤怒に凶悪な飢餓感を上乗せした本能が俺とレイフォンの全身を刺し貫くように叩きつけられる。

『翅が再生するのにどれくらいかかる? 二日か? 三日か? いくらでも付き合ってやるぞ!』

「こっちの主役もやる気満々、か。とりあえず……」

 再び汚染獣に駆けだすレイフォンの後方から麒麟による援護射撃をしながら次の一撃を考える。

「2ラウンド、開始だ」






 汚染された大地において暴虐の王である汚染獣と細々と生を繋ぐ小さな人間。
 両者の天秤がここに傾く。






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