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No.8541の一覧
[0] オーバー・ザ・レギオス(鋼殻レギオス 最強オリ主)【チラ裏から移動2009/8/6】[ホーネット](2009/08/06 20:24)
[1] オーバー・ザ・レギオス 第一話 学園都市ツェルニ[ホーネット](2009/05/20 20:03)
[2] オーバー・ザ・レギオス 第二話 異邦の民[ホーネット](2009/05/11 06:19)
[3] オーバー・ザ・レギオス 幕間01[ホーネット](2009/05/16 13:55)
[4] オーバー・ザ・レギオス 幕間02[ホーネット](2009/05/14 21:41)
[5] オーバー・ザ・レギオス 第三話 積み重なる焦燥[ホーネット](2009/05/13 11:43)
[6] オーバー・ザ・レギオス 幕間03[ホーネット](2009/08/06 19:55)
[7] オーバー・ザ・レギオス 第四話 強さの定義[ホーネット](2010/02/28 17:23)
[8] オーバー・ザ・レギオス 第五話 荒野の死闘[ホーネット](2010/03/27 19:21)
[9] オーバー・ザ・レギオス 第六話 小さき破壊者[ホーネット](2010/03/28 12:53)
[10] オーバー・ザ・レギオス 第七話 夢幻、記憶、過去[ホーネット](2010/03/28 22:23)
[11] オーバー・ザ・レギオス 第八話 朽ちぬ炎となりて[ホーネット](2010/03/29 00:46)
[12] オーバー・ザ・レギオス 幕間04[ホーネット](2010/03/30 20:08)
[13] オーバー・ザ・レギオス 第九話 それぞれの過去[ホーネット](2010/04/01 16:56)
[14] オーバー・ザ・レギオス 第十話 サリンバンの子供たち[ホーネット](2010/04/02 12:37)
[15] オーバー・ザ・レギオス 第十一話 罪を背負う意志[ホーネット](2010/04/12 01:29)
[16] オーバー・ザ・レギオス 第十二話 叶わぬ誓い[ホーネット](2010/04/12 17:10)
[17] オーバー・ザ・レギオス 第十三話 ひとつの終わり[ホーネット](2010/04/14 23:24)
[18] オーバー・ザ・レギオス 第十四話 ア・デイ・フォウ・ユウEX[ホーネット](2010/06/11 19:52)
[19] オーバー・ザ・レギオス 幕間05[ホーネット](2010/06/13 18:05)
[20] オーバー・ザ・レギオス 幕間06[ホーネット](2010/06/15 16:29)
[21] オーバー・ザ・レギオス 第十五話 黄昏の兆し[ホーネット](2010/10/05 23:55)
[22] オーバー・ザ・レギオス 幕間07[ホーネット](2010/12/09 22:44)
[23] オーバー・ザ・レギオス 第十六話 終焉の序曲、始まる[ホーネット](2010/12/03 00:39)
[24] オーバー・ザ・レギオス 第十七話 絶技の果てに[ホーネット](2011/02/11 12:38)
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[8541] オーバー・ザ・レギオス 第十六話 終焉の序曲、始まる
Name: ホーネット◆10c39011 ID:72a9f08e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/03 00:39







オーバー・ザ・レギオス

 第十六話 終焉の序曲、始まる



 都市外戦闘用の装備を着込んだ俺たちはツェルニの下部ゲートに居た。
 先日、俺を襲ったいつもの既視感。それを裏付けるためにツェルニの周辺を索敵した結果、都市の予測進路上に休眠状態の汚染獣たちを発見した。
 始めは以前のように休眠状態の汚染獣をツェルニが察知できていないだけの可能性も考えたが今回の汚染獣は十体以上いる。あれだけの数を見過ごすほど都市の感覚が鈍るはずがない。先の既視感もあり、汚染獣と遭遇するのは間違いないと判断した。
 このことを生徒会長のカリアンに告げるとすでにその事実を知っていた。
 カリアンに汚染獣の存在を教えたのは入院中のハイアだった。サリンバン教導傭兵団の念威操者の中に汚染獣の“匂い”を感じ取れる者がいるらしく、その念威操者が調べた結果をもとに探査機を送ったところ、その情報が本当であることが判明した。
 この発見に伴い、病み上がりのレイフォンと俺に汚染獣討伐の要請が下った。最初はサリンバン教導傭兵団にも汚染獣討伐に協力させるつもりだったが、彼らに戦闘を依頼するということはそれなりの賃金が必要になるとのことで、その金額を支払うと今後の予算が危うくなるということだった。そのため、カリアンが現在のツェルニで支払える額を掲示し、それに応じた戦力を提供させることになった。
 これに伴い、俺とレイフォンの役割も決定した。

「病み上がりだ。あんまり無理はするなよ」

「リグザリオさんこそ気を付けてください。今回の汚染獣は休眠中の群れです。飛行可能な雄性体が12体。1体も取りこぼすことはできないんですよ」

 真面目な顔で言うレイフォン。体調の方は問題なさそうだが、無理はできないだろうな。
 俺やレイフォンのように厖大な剄量を持つ武芸者は、元来都市外戦闘において本当の意味で全力を出すことはできない。強大すぎる自分の剄を考えなしに全開で放出することで自分の身を守る都市外戦闘用のスーツが壊れてしまいかねないからだ。俺に限ればスーツの心配をする必要はないが、攻撃に使用する錬金鋼もまた俺たちの剄を受け止めることができない。幸いキリクやシャーニッドのおかげで複合錬金鋼という構成を組み替えればそれなりに頑丈な錬金鋼もあるのだが、やはり全力で戦うにはまだまだ心もとない。
 レイフォンの言うとおり、複数の汚染獣を相手取った都市防衛戦ほど厳しい戦いはない。防衛側に熟練の武芸者が多く居れば良いが、ここは学園都市。いまだ発展途上の若者ばかりで成体となった汚染獣を相手に戦えるだけの実力をもった武芸者は極僅かしかいない。

「そこまで深刻な状況か? おれっちたちと元天剣、それと同等の武芸者が揃ってるんだ。たかが12体の雄性体、ものの数じゃないさ~」

 まるで親しい友人に接するような気軽さで話に入ってくるサリンバン教導傭兵団の団長、ハイア。
 ハイアのことをあまり好ましく思っていないレイフォンは顔を顰めるが、レイフォンがそういう感情を露わにできる相手というのも珍しいので放っておく。
 歩み寄ってくるハイアに続いてミュンファと頭から全身をフードとマントで覆い隠した長身の人物だった。

「今回のおれっちたちの戦力を紹介しとくさ~」

 適当なノリの口調で説明を始めたハイア。最初に顔合わせを済ませているミュンファの名が言われ、手短に役割を説明するともう一人の人物を促した。

「おれっちたちのサポートをする念威操者さ」

 全身を覆うフードとマントに加え、顔を硬質の仮面で隠し、手には革手袋を嵌めている。
 まるで光に触れることを拒むかのように徹底して地肌の露出を防いでいるような格好だ。

「ああ、アンタのことは覚えてる。フェルマウス……だったか?」

「名前まで覚えていただけているとは思いませんでした。お久しぶりです、リグザリオ殿」

 言いながら自然と互いに手を差し出せた。
 俺の主観では数十年、彼らの主観で約十年の隔たりを経て手を握る。

「おれっちのことは忘れてたくせにフェルマウスのことは覚えてるさ」

 それなりに友好的な再会をしていた俺を恨めしげな調子で睨むハイア。
 フェルマウスのファーストインパクトに比べれば子供時代のハイアが印象に残っていないのもしかたないだろう。

「この人が汚染獣を察知した念威操者なのか?」

 和やかな雰囲気になりつつあるところにレイフォンが冷静な声音で疑問を口にする。
 レイフォンが耳にしている情報では、サリンバン教導傭兵団の念威操者が汚染獣を察知し、それをツェルニの生徒会執行部に伝えたことになっている。
 俺だけは独自の感覚で汚染獣を察知し、リリスの能力を借りて正確な情報を取得した。
 その察知した時点での距離は通常の念威操者の念威では届かない位置だった。
 それを察知するということはツェルニ最高の念威操者であるフェリと同等の念威を持った念威操者が居るということになる。

「ああ、こいつは念威の天才さ。他にも特殊な才能があって、それのおかげでおれっちたちは汚染獣の存在を早々に知ることができてるって寸法さ~。ま、そのせいでこんな格好をする羽目になったのさ」

「特殊な才能?」

 気軽に仲間の手の内を口にしようとするハイアを不審に感じながらもレイフォンは黙って続きを促した。
 それをどうとったのかハイアは満足そうにほほ笑むと声を潜めてこう言った。

「こいつは汚染獣の臭いがわかるのさ~」

「臭い?」

 何を言っているのかと疑問に思ったようにレイフォンが反復する。
 この世界の常識として、エア・フィルターの外に出てしまえば臭いを嗅いでいる余裕などない。
 汚染物質が自らの身体を焼く感覚が全身を支配する。嗅覚など十秒もすれば意味を成さなくなる。
 そのことは俺も経験済みなのでよく分かる。

「お疑いでしょうが、臭いの判別はできます」

 機械的な音声でフェルマウスが言った。

「ヴォルフシュテイン……あなたは数多くの汚染獣を屠ってきた。あなたの身体にいまだ残っている臭いからそれはわかる。あなたはここにいる誰よりもたくさんの汚染獣を屠ってきた。そんなあなたと戦場を共にできることは光栄だ」

「あの……もうその名前は」

「そうでした。失礼。レイフォン殿」

 丁寧に頭を下げるフェルマウスには慇懃無礼とか嫌味といった雰囲気はなく、レイフォンの方が逆に畏まっている。
 その合間に仮面を通した視線が俺にも向けられた。どういう意図があるのか不明だが、俺の身体に染み付いたその“臭い”とやらはフェルマウスにとって口にするかどうか迷うほどのものがあったようだ。

「私は確かに汚染獣に対して独自の嗅覚を持っています。その臭いとは汚染物質を吸い寄せる際に発する特殊な波動です。都市の外がほぼ常に荒れた風に覆われているのは、汚染獣たちが汚染物質を動かしているためです」

 汚染獣が大気を動かしている、なんというかロマンというか壮大というか。
 俺もそこまでは知らない。というか、知ろうとすら思わなかったことなのでその事実は面白い。

「私の嗅覚は、その波動に乗った汚染獣の老廃物質の臭いを感じ取ることができます」

「でも……」

 フェルマウスの説明にいまいち納得しきれないといった様子のレイフォンも仕方がないことだ。
 この世界の常識として常人はエア・フィルターの外に出ることができないという大前提がレイフォンの認識を遅らせている。

「ええ、わかります。汚染獣の臭いを感じ取るにはエア・フィルターの外に生身でいなければならない」

「……はい」

 フェルマウスの右手がゆっくりと持ち上がる。
 さきほど握手したときの感触が蘇る。俺みたいな本物の例外を除けば、生身の人間が汚染物質に晒されたらどのような状態になるかを俺は身をもって知っている。

「汚染物質に長時間生身で晒されれば、人は生きていけない。その身体は焼け、腐り、崩れ落ちていく。わたしの身体もその苦痛の縛から逃れることはできない。また、そんなことを何度も繰り返しているのなら汚染物質の除去手術が間に合うはずもない」

 上げられた右手が硬質な仮面の顎を掴む。
 その中にあるであろう現実を予想してレイフォンが緊張の面持ちになる。

「しかし、わたしにはもうひとつ異常な体質があった。あるいは耐性ができたのかもしれない。わたしは汚染物質の中にいても死ぬことはない、特殊な代謝能力を手に入れることに成功した。私の身体を調べれば、人は汚染物質を克服する日が来るかもしれません」

 そしてフェルマウスが仮面を外す。
 フェルマウスの素顔を目の当たりにした学園都市の面々から息を飲む音が聞こえた。
 それはレイフォンも例外ではなく、中途半端に開いた口から言葉が出ることはなかった。

「汚染物質に耐えうる代謝能力を手にする、その代償は私のような者になることかもしれませんがね」

 炭を塗ったような黒い肌に赤い血管が浮き出ていた。鼻梁のあたりには二つの穴がそこにあるだけで、瞼はなく、白く濁った眼球がむき出しのまま収められていた。乾ききった唇は裂けたまま定着し、その隙間から対照的な城さを保つ歯列を覗かせていた。
 除去手術が間に合わないほどに汚染物質を浴び続けても生きている人間は、このようになるのだ。

「私の感覚をどうか信じてくださいますよう。陛下に認められし方よ」

 仮面を被りなおしたフェルマウスは深々とレイフォンたちに頭を垂れた。



  †



 ランドローラーを走らせること四時間。
 岩場の陰でランドローラーから降り、そこから視覚を強化して目的の場所を見る。
 汚染物質が吹き荒ぶ荒野のど真ん中に擂り鉢状に地盤沈下したようなクレーター。その斜面にいくつもの大きな姿が地面に埋まるように蠢いていた。

「一期か二期……」

「そんなところだろうさ」

 レイフォンの呟きにハイアが頷いた。
 周囲に都市や放浪バスの残骸が見当たらなかったことから考えるとこの場の汚染獣たちは共食いに共食いを重ねた結果なのだろう。
 数は前情報通り十二体。
 数百はいたであろう幼生体が汚染物質を吸収できる成体になるまでに凄惨な生存競争を経た汚染獣たちだ。

「さて……うちが受け持つのは2体とあんた等が打ち漏らした手負いに止めをさす後詰。そういう契約さ」

「知ってるよ」

 ハイアの確認にそっけなくレイフォンは頷き、剣帯から複合錬金鋼と青石錬金鋼を取り出す。

「俺が6、レイフォンが4。状況次第で取りこぼし分を互いで狩る。俺たちはそれで行くからな」

「はい。お互い無茶はなしでいきましょう」

 病み上がりのレイフォンを無理に出張らせる必要はあまりない。12体という汚染獣の数そのものは俺にとって大した数ではない。
 それでもレイフォンまで汚染獣討伐に参加しているのは、ひとえにカリアンの無駄な保険のためだ。
 武芸者ではないカリアンにとって俺やレイフォンは途方もない強さを持った武芸者でしかない。そのような俺たちの能力がいったいどれほどの戦力となるかを正確に測ることができないのも致し方ない。このことはカリアンに限ったことではなく、武芸科長のヴァンゼを始めツェルニの武芸者全体にも言えることだ。同じ武芸者として、力量の違いは理解できても天壌の果てを知ることはできない。レイフォンが持っていた天剣授受者という称号の意味を知るグレンダン出身の武芸者が生徒会長か武芸科長になっていれば、俺やレイフォンを単独で戦いへ送り出していただろう。
 万全ではないレイフォンをかりだすのは本当の意味での保険だ。万が一のミスを防ぐため、取りこぼしを完全になくすために俺とレイフォンの二段構えにハイアたちの後詰。
 俺がカリアンの立場になったとしても同じような要員を揃えただろう。どれほど力を手にしても俺はそこら辺の考えを変えることができない。弱いときの自分の惨めな過去はなくならないからな。
 もっとも今回に限って言えば、個人的に試したいことがあるからだ。


 休眠から醒めようとしている汚染獣を岩場の陰に腰を下ろしながら待機する。
 汚染獣は休眠状態だと甲殻が異常に硬い。休眠時に共食いされないためだとか言われているが本当のところは分からない。
 すでにツェルニの存在を感知している汚染獣たちは地面に埋もれ掛けた身体を震わせ、殻の硬度を下げている最中だ。
 ハイアの方針で甲殻の硬度が下がるまで待つことになっていた。
 俺の個人的な実験に関しては動いていない状態の方が面倒がなくて良いのだが、こういう場で空気を乱すのも後々面倒であり、さらには何某か問い質したいことがありそうな人もいたので素直に従っている。

(本当にお久しぶりです、リグザリオ殿)

 念威端子からフェルマウスが親しげに声をかけてきた。なにやら先にレイフォンと話していたようだが、フェリの念威が届いたことでレイフォンとの会話を断たれたのだろう。

(あれほどの汚染獣と戦って生き延びる武芸者が天剣授受者以外にいるとは思いませんでした)

 特に詰問するような強さは見せず、純粋に感想を述べているだけに感じる。実際にそれ以上に含むところなどないのだろう。

「そのことに関しては俺自身も驚いている。……それで? アンタが見た俺の最後ってどんなだった?」

(覚えておられないのですか?)

「こっちも色々と訳ありでね。教えてもらえると助かる」

 俺はあの放浪バスに乗り込む直前の記憶がない。毎回、死んだと思ったらあの放浪バスの中で目覚める。それを不気味なことだと思いつつ、あまり気にすることもなかった。

(私の方も疑問だらけだったので貴方から有益な解を頂けると期待していたのです。あの黄金に彩られた茨輪しりん自律型移動都市レギオス、私はあれほどの例外を他に知らない。グレンダンの秘奥ですらアレの前には霞むことになると私は考えていたのですが)

 茨輪しりん自律型移動都市レギオス
 外延部を茨に覆われた黄金の城郭が聳え立つ移動都市が“俺の最後を看取る存在”であったという。
 フェルマウスの話によれば、俺はあの時の針鼠みたいな老生体に致命傷となるダメージを与えると同時に自らも受けていた傷でその場に倒れたらしい。フェルマウスは俺が死んだと思い、その後に念威を切ったそうだが、俺が倒れた同一座標で突如として莫大な剄が発生し、周囲数キルメルの空間が急激な変化が起こったそうだ。再びフェルマウスが念威端子を飛ばすとそこには見たこともない移動都市レギオスが現れていたらしい。
 その移動都市レギオスは忽然と消えた。

「消えた? この馬鹿でかい移動都市レギオスが消えたってのか?」

(信じ難いことですが、事実です。そして、都市が消えると同時に貴方の反応も消失した)

 予想し得ないことを聞けると思っていたが本当に荒唐無稽な類の話になってきた。
 その都市と共に俺が消えたということは、あの放浪バスに乗せられることになるんだろう。

(貴方は本当にあの都市を知らないのですか?)

「ああ、確かにこれまで何度も死ぬ直前までいったことがある。その度に気付けば得体の知れない放浪バスに乗せられて別の移動都市レギオスへ送り届けられているんだ」

(それは……数奇、というべきなのでしょうね。どうやら廃貴族より先に貴方をグレンダンに招く必要がありそうです)

 俺も知らない繰り返しのメカニズム。その一端とはいえ知ることができた。
 延々と繰り返される都市の滅びと武芸者としての果て無き進化。
 異世界法則を纏い、錬金術師アルケミストの思惑によりこの世界に縛り付けられた“黄昏の因子”。
 そして、フェルマウスの言葉により知りえた黄金の都。恐らくその都市の名は城郭都市イーダフェルト。『リグザリオ』という名と共に記憶していた称号。
 リリスから得た知識により『リグザリオ』とは、俺をこの世界に繋ぎとめた錬金術師アルケミストのことであることを知った。ならば『イーダフェルト』という名も誰かの名前かとも思っていたが、擬装用に考えた城郭都市がまさしくそのものだったとはな。
 だんだんと自分のことが分かってくる。少しずつ、少しずつ訳の分からないことが大半だが、そんな謎の部分も悪くはない。
 自分の理解できない環境にあるということがそれほど不幸だとは思わない。むしろ幸福なことだとさえ思える。
 それでもグレンダンに行くというのはまだ決めかねる。

「それを決めるのも、目の前に迫った終焉を回避してからだな」

(あの時と同等の汚染獣が再び迫っているというのですか?)

「それならどれほど楽なことか。“汚染獣”を察知する能力はアンタが上だろうが、“終焉”を察知する感覚は俺のが一番だ。こんな雑魚で終わってくれるはずがない。……来るぞ、とびっきりの伝説級がな」

 汚染獣が活動を開始すると同時にレイフォンとハイアが剄を爆発させた。

(あの時よりも凄惨な戦いが始まるということですね)

「ああ、覚悟だけはしておいてくれよ」

 フェルマウスとの通信を断ち切り、レイフォンとハイアに続く形で錬金鋼を復元させて駆け出す。
 ツェルニに辿り着く直前に手にした黒い大太刀。実戦で使うのはこれが初めてだ。

「さて、オマエの力が本物かどうか確かめさせてもらうぞ」

 衝剄を完全に封じ、活剄のみを高めた俺は黒い大太刀を構えて最初の獲物へと刃を振り下ろした。





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