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No.8541の一覧
[0] オーバー・ザ・レギオス(鋼殻レギオス 最強オリ主)【チラ裏から移動2009/8/6】[ホーネット](2009/08/06 20:24)
[1] オーバー・ザ・レギオス 第一話 学園都市ツェルニ[ホーネット](2009/05/20 20:03)
[2] オーバー・ザ・レギオス 第二話 異邦の民[ホーネット](2009/05/11 06:19)
[3] オーバー・ザ・レギオス 幕間01[ホーネット](2009/05/16 13:55)
[4] オーバー・ザ・レギオス 幕間02[ホーネット](2009/05/14 21:41)
[5] オーバー・ザ・レギオス 第三話 積み重なる焦燥[ホーネット](2009/05/13 11:43)
[6] オーバー・ザ・レギオス 幕間03[ホーネット](2009/08/06 19:55)
[7] オーバー・ザ・レギオス 第四話 強さの定義[ホーネット](2010/02/28 17:23)
[8] オーバー・ザ・レギオス 第五話 荒野の死闘[ホーネット](2010/03/27 19:21)
[9] オーバー・ザ・レギオス 第六話 小さき破壊者[ホーネット](2010/03/28 12:53)
[10] オーバー・ザ・レギオス 第七話 夢幻、記憶、過去[ホーネット](2010/03/28 22:23)
[11] オーバー・ザ・レギオス 第八話 朽ちぬ炎となりて[ホーネット](2010/03/29 00:46)
[12] オーバー・ザ・レギオス 幕間04[ホーネット](2010/03/30 20:08)
[13] オーバー・ザ・レギオス 第九話 それぞれの過去[ホーネット](2010/04/01 16:56)
[14] オーバー・ザ・レギオス 第十話 サリンバンの子供たち[ホーネット](2010/04/02 12:37)
[15] オーバー・ザ・レギオス 第十一話 罪を背負う意志[ホーネット](2010/04/12 01:29)
[16] オーバー・ザ・レギオス 第十二話 叶わぬ誓い[ホーネット](2010/04/12 17:10)
[17] オーバー・ザ・レギオス 第十三話 ひとつの終わり[ホーネット](2010/04/14 23:24)
[18] オーバー・ザ・レギオス 第十四話 ア・デイ・フォウ・ユウEX[ホーネット](2010/06/11 19:52)
[19] オーバー・ザ・レギオス 幕間05[ホーネット](2010/06/13 18:05)
[20] オーバー・ザ・レギオス 幕間06[ホーネット](2010/06/15 16:29)
[21] オーバー・ザ・レギオス 第十五話 黄昏の兆し[ホーネット](2010/10/05 23:55)
[22] オーバー・ザ・レギオス 幕間07[ホーネット](2010/12/09 22:44)
[23] オーバー・ザ・レギオス 第十六話 終焉の序曲、始まる[ホーネット](2010/12/03 00:39)
[24] オーバー・ザ・レギオス 第十七話 絶技の果てに[ホーネット](2011/02/11 12:38)
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[8541] オーバー・ザ・レギオス 幕間07
Name: ホーネット◆10c39011 ID:72a9f08e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/09 22:44







オーバー・ザ・レギオス

 幕間07 第十七小隊



 第一小隊との対抗試合の日が来た。
 今日の試合結果により今期の小隊対抗戦の戦績首位が決まる。その戦績は来たる武芸大会での発言権等に繋がるのだが、小隊員以外の観客達にとっては純粋にどの小隊が一番強いのかを知る催しである。
 今日の組み合わせは、無敗の単独首位であるニーナ・アントーク率いる第十七小隊と一敗で後を追う武芸長ヴァンゼ・ハルデイ率いる第一小隊。第十七小隊には敗北したものの他の試合で全勝し、一敗を守りきっているゴルネオ率いる第五小隊と第一、第十七小隊に敗北したことで二敗となったシン・カイハーン率いる第十四小隊。新しい世代の象徴たる第十七小隊がこのまま全戦全勝という偉業を果たすか、それとも第一小隊がベテランの維持を見せるか。今日の試合で第一小隊と第五小隊が勝てば3つの小隊が同率首位となる。

 この首位争い、それは間近に迫る武芸大会の行方を左右するほどの結果はない。しかし、ツェルニの学生達は新しい風を望んでいる。前回の武芸大会で大敗を喫したことを上級生達はよく覚えている。当時の武芸長と現武芸長であるヴァンゼは違う。それでもヴァンゼや多くの小隊の隊長たちが以前の武芸大会でも主力として戦った小隊の後継者たちであることも事実であり、各小隊の特徴なども劇的な変化はない。
 そのような中で今期からスタートした第十七小隊は、隊長のニーナと狙撃手のシャーニッドが前回の武芸大会を無名の一武芸者として経験しているのみ。小隊の半数は武芸大会未経験の二年と一年で構成されている。このことに始めは多くの者が期待を抱いてはいなかった。新たな風だからといってそれが必ずしも良い方向に向いているとは限らない。現に結成当初は最低人員すら足りていなかったのだから。
 しかし、今期の小隊対抗戦が始まると一躍脚光を浴びることになる。
 荒削りな連携は結成間もない小隊としては当然だったが、第十七小隊の隊員たちの実力は他小隊の上級生の小隊員すら及ばぬほどに高かった。その性格ゆえに指揮官適正に若干の難があるニーナは前衛防御として高い資質を持ち、ベテランの域にあるシャーニッドはツェルニ屈指の狙撃手、念威操者であるフェリは他の都市でも類を見ないほどの念威を誇る。そこに今期から加わったレイフォン・アルセイフとリグザリオ・イーダフェルト。ツェルニ最強アタッカーの呼び声高いレイフォンと隙のない鉄壁のディフェンスを誇るリグザリオ。ツェルニの武芸科最強のアタッカーとディフェンスが揃った第十七小隊に負けはない。さらにやや変則的な経緯ではあるが、一年のナルキ・ゲルニが加わることで人員も充実している。これで負ける方が可笑しいといわんばかりの面子だった。

 いつにも増して観客席からの声が熱気を持って選手控え室まで響いてくる。
 普段ならばシャーニッドの軽口にリグザリオやハーレイが応え、それをニーナが注意したり、レイフォンが苦笑いしたり、フェリが呆れたりと適度な緊張感を残しつつリラックスした雰囲気があるのだが、小隊対抗戦の最終日であるこの日に限ってやや緊迫した空気が漂っていた。

「皆分かっていると思うが、第一小隊は名実共に最強の小隊だ。連携も個々人の錬度も高い」

 試合前のミーティングをニーナの硬い声が進める。
 控え室にはニーナを始め、シャーニッド、ハーレイ、フェリ、ナルキといつものメンバーに加え、ついこの間まで第十小隊の副隊長をしていたダルシェナ・シェ・マテルナが壁際に立っていた。ダルシェナの急な加入は、第十七小隊のエースである崩落事故で負傷したレイフォンにドクターストップが掛かったことに加え、生徒会執行部から召集を受けたリグザリオもまた試合に参加できなくなったため、シャーニッドが勧誘した結果だった。前衛と後衛の要を同時に失った状態で戦う相手は第一小隊。せめてあと一枚前衛が必要な状況でのダルシェナの参入はニーナも驚きと共に迎え入れた。第十小隊と第十七小隊の間には多少なりとも確執がある。しかし、ダルシェナの方は隊同士の確執についてはすでに過去のこととして清算しているらしく、敵意を振りまくような様子は一切無かった。

「レイフォンとリグザリオが抜けたのは確かに痛手だ。それでも……いや、だからこそこの試合はどうしても勝たねばならない」

 ニーナの言葉に隊員たちが静かに頷く。
 レイフォンとリグザリオという最強の武芸者たちの力に頼った小隊だと思われたくない。それは日頃からニーナたちが感じていることだった。最近では対抗戦よりも二人を相手にしたときの鍛錬の方がきついと思うような日々が続いていた彼らにとって、この試合はいい機会でもあった。これからも必ずしもレイフォンやリグザリオが万全の状態で待機しているとは限らない。もしもの時、彼らの力を借りなくとも自分達の力だけで状況を打破できるようにならなくてはならなかった。
 それを確かめるためにもニーナたちは全霊を尽くす。いつも全力では在るが、どこかでレイフォンやリグザリオの力を頼っていた。それが今回は一切ない。それを不利と思うほど第十七小隊は未熟ではなくなっている。

「作戦は……隊長?」

 控え室の端で瞑目したままの姿勢で口を開いたダルシェナの言葉に視線がニーナに集まる。

「ナルキが左翼より先行、わたしがその後方。ダルシェナは右翼で待機してください。シャーニッドはフェリと協力して狙撃ポイントを目指す。開幕はこれで行きます」

 一息で言ったニーナは初めて行動を共にするダルシェナの反応を待つ。

「一年を単独で先行させる。囮に使うつもりか?」

「囮、というより陽動です。もし左翼側に戦力が動けば、右翼からダルシェナが行ってください。動かない場合は、そのままナルキに側面から撃たせ、わたしも合流して第一小隊の念威操者と狙撃手を落とします」

「……その役、そこの一年にできるのか?」

 ダルシェナの言葉にナルキが僅かに表情を硬くするが、ダルシェナは純粋な戦力分析から与えられた役割をこなせる実力がナルキにあるかを知りたいだけだと分かっているためニーナの目配せに素直に頷いた。

「大丈夫です。隊員の実力は十分把握しています。たとえ相手が第一小隊でもナルキは、十分に役割を果たす力を付けています」

「……わかった。それが勝利するための作戦だというのなら従おう」

 ダルシェナ自身、第十小隊として第十七小隊と対戦した際にはシャーニッドとしか戦っておらず、他のメンバーの実力は対抗戦の録画で調べた程度しか把握していない。それだけでも第十七小隊の客観的な総合力は把握できるが、隊員たち個々の性質・価値観などは実際に輪の中に入って見なくては分からない。それはニーナたちも同じ。ダルシェナとの連携を作戦に組み込むのは難しい。それならばダルシェナには第十小隊でやっていたのと同じように本人のタイミングで突撃させた方が良い。ダルシェナとて戦闘の流れを読むくらいの実力はある。全体のタイミングまで計れずとも自分自身にとっての好機を逃すほどの猪武者ではない。今回までは第十七小隊+ダルシェナという編成が妥当だった。それも訓練を重ねれば遠からず、ひとつの隊として機能することになるだろう。



 †



 試合開始のサイレンが野戦グラウンドに鳴り響く。
 レイフォンとリグザリオが抜けた第十七小隊は念威操者のフェリを除き、活動できる戦力は4人。それに対して第一小隊は念威操者を除いても6人。数の上では負けているが第一小隊は防御側であるため陣前でフラッグを防衛する人員を割かねばならないため実際にぶつかるのは4対4という構図になる。
 サイレンと同時に第十七小隊が動き出す。左翼をナルキが先行し、それを一拍置いてニーナが走る。攻撃側の第十七小隊は隊長であるニーナが撃破されると即座に負けとなる。必然、前衛を兼ねるニーナが狙われることになる。

『……戦域の索敵を終えました。ナルキが接敵、数は1。足止めですね、隊長に2人来ます。……残り1人がダルシェナを迂回して進行してきます。こちらはシャーニッドが対応します』

「わかった。敵も1人ならナルキも対処できる。わたしが接敵したらフェリはシャーニッドをサポート、後方の1人を撃破を最優先」

 念威端子を通したフェリの報告にニーナは冷静に端子から送られてくる戦域情報を分析、第一小隊ヴァンゼの作戦を読もうとする。
 試合前日にリグザリオは第十七小隊にいくつかのアドバイスを残していた。それは前々から小隊内で言っていたことを改めて伝えただけであり、いつものお小言のような言葉だったが、第十七小隊の中で武芸者として最も深い知識と経験を持つと思われるリグザリオが勝つために必要なことだと常々言っていたことでもある。それを実践で行うためには日々の鍛錬が必要だ。しかし、その鍛錬はリグザリオによって強制的に行われていた。ツェルニの武芸科の中で最も濃密な訓練を受けられる環境にあったのは間違いなく第十七小隊である。

『了解しました。隊長が撃破されれば終わりなんですから、軽率な行動は控えるように』

「わたしが信用できないのか?」

 フェリの余計な台詞に眉をひそめるも意識そのものは肉眼で捉えたヴァンゼたちの剄の動きに集中させる。

『隊長には前科がありますから』

「ふん、わたしもアレから十分成長したつもりなんだがな」

 念威による通信が途切れるとニーナは立ち止まった。

「多少は布陣を考えているようだが、まだまだ無謀だ」

 ニーナの前に現れたヴァンゼはその巨躯で立ち塞がる壁のように立ち、そう呟いた。
 ヴァンゼは得物の長大な棍から衝剄を放ちながら振り回し、暴風を起こす。その隣には一般的な剣を構えた隊員が控えている。

「無謀……ですか。そう思いたいのならこの試合、貴方の第一小隊は敗北してしまいますよ」

「なるほど、そんな大口を叩けるようにもなったのか。圧倒的な強者に頼ってきた貴様らに本当の積み重ねというモノを我々が指導してやろう」

 ニーナの言葉に返す言葉でヴァンゼは棍を振り下ろした。衝剄を纏った強烈な打ち込みをニーナは鉄鞭で無駄なく受け止める。
 ヴァンゼの打ち込みは確かのほかの小隊員とは一線を画す威力を持っている。それはニーナ自身認めるところであり、実際に受けてみてもその評価は変わらない。だが、逆を言えば想定していた以上の威力はなかった。予想していたものとほとんど変わりない攻撃による衝撃はほぼ完全に無力化し、ニーナの体には一切のダメージは通ることはなく、一瞬の停滞もなしにヴァンゼの攻撃を受け止めた鉄鞭とは逆の鉄鞭でヴァンゼの懐に打ち込む。拳同士の殴り合いができるほどの間合いに踏み込まれたヴァンゼは棍の持ち手を変え、ニーナの打ち込みを防御。ニーナの攻撃の衝撃を利用して距離を取るヴァンゼと攻撃後の僅かな停滞に無防備になったニーナの背後を第一小隊の隊員が襲う。

「背後ががら空きだ」

 予想以上の衝撃で防御越しにダメージを受けながらもバックステップで距離を広げながらヴァンゼが衝剄を放つ。
 背後から襲い掛かる隊員と前方から放たれたヴァンゼの衝剄。攻撃後の硬直にあるニーナには回避のしようがないタイミングだった。

 †

 左翼から先行していたナルキは接敵した第一小隊の隊員と鍔迫り合いにまで持ち込んでいた。

「なるほど大した力だ。内力系活剄だけなら上出来だな」

「ッ……“一年にしては”、でしょう?」

 余裕の表情で持ち上げる敵にナルキは落ち着いて言葉を返す。相手の挑発に無言で堪え続けられるほどナルキは場数を踏んでいない。ならば逆にある程度応えながらも自分の次の行動を考えるようにする。リグザリオが改めてナルキに言った言葉だ。

「その通りだよ、新人」

「ぬぁ!?」

 競り合っていた警棒と剣が弾かれたように距離が開く。その衝撃に加え、衝剄による追撃を受けたのはナルキの方だった。
 膝を着きながらもどうにか体勢を立て直す。それに対して敵はまだまだ余力を残して武器を構えなおし、さらに衝剄を放ってくる。

「確かに君の活剄は目を見張るものがある。しかし、それだけで小隊員が務まるほどツェルニの武芸小隊は甘くないぞ」

「くっ!」

 連続して撃ち出される衝剄を辛うじて防御するナルキだが、このままではガードの上から体力を削られる一方。たまらず旋剄で距離を取るナルキ。
 しかし、相手はツェルニ最高の小隊である第一小隊の隊員。いくら内力系活剄が優れているナルキであっても一年の旋剄に対応できないなどという自体にはならない。背を向けて逃走するナルキの背後に迫った第一小隊の隊員は活剄によって高め渾身の一撃を振り下ろす。

「ここで終われ」

 警棒による防御は絶対に間に合わないタイミング。さらに言えば先ほどからの打ち合いでナルキの防御力を測り終えていた隊員は、それを超える威力をこの一撃に込めた。いまだ試合終了のサイレンは鳴っていない。ということはヴァンゼたちがニーナをし止められていないということ。一年のそれも小隊に入って間もない相手にこれ以上の時間をかけるべきではないと考え、勝負に出た。
 しかし、隊員の渾身の一撃は、ナルキに届くことなく不意の衝撃に軌道を逸らされた。

「なっ!?」

 隊員は気付けなかった。あまりにも無防備な背中を晒しながらナルキが鎖の取り縄を復元していたことに。
 相手の死角から放った取り縄で背後からの攻撃を逸らし、体勢を崩した敵の剣と剣を握る腕を取り縄で捕らえる。

「よし!」

 自分の作戦が上手くいったことに思わず声が出たナルキ。
 そんなナルキの反応と自分の失態に苦虫を噛み潰したような表情の隊員が全身に剄を漲らせる。

「なるほど、レイフォン・アルセイフやリグザリオ・イーダフェルトの傍に居たのだからな。……すまなかった、新人。君を侮りすぎていたらしい」

 遊びのない完全に仕留めることを決めた敵の眼差しにナルキは額に汗を滲ませながらも取り縄を握る手を緩めない。

「別に先輩は侮っていません。先輩が負けるのは、私だけの力じゃありませんから」

「ふ、よく言う。私を捕らえたからといって、君の実力では私を倒すことはできな――がぁぁッ!!?」

 捕らえられた腕と剣に構わず、そのまま斬りかかろうとした隊員は、全身を襲う強烈な雷撃に絶叫する。
 野戦グラウンドに第一小隊の隊員の断末魔の叫びが響き渡った後に観客席から大きな歓声が上がる。
 ベテランの第一小隊から最初に勝ち星を挙げたのは、これまでの試合でそれほど目立った戦績がなかった小隊入りたての一年であることも歓声の大きさに影響していた。

「は、はは……。私だって第十七小隊の一員なんだ」

 歴戦の小隊員から勝利を収めたナルキだったが、さきほどまでの戦闘のダメージは確実に残っており、勝者と高らかに宣言するには程遠い状態だった。
 それでもナルキは膝を折らない。試合開始前に与えられたナルキの役割はすでに終わっているといっても良いが、試合そのものはまだ続いている。こんなボロボロの状態でニーナの下へ戻っても大した役には立てないだろうことをナルキ自身弁えていた。それでもナルキは走る。第十七小隊の指揮官は必ず自分の役目を果たすであろうことをナルキは不思議と信じることができていた。それでもまだ絶対だと思えるほどニーナの実力と第一小隊の隊員たちの実力を完璧に測ることはできていなかった。

「遠いな……レイとんも、リグザリオも」

 この場にいない仲間の日頃の戦いを思い出しつつナルキは足を前に進める。自分が成長していることを自分を強くしようとしてくれた人たちに証明するために。

 †

 試合開始と同時に殺剄を使って野戦グラウンドに設置された木々の影に潜みながらゆっくりと進行していたシャーニッドは注意深く敵が近付いてくるのを待った。
 旋剄を使って第十七小隊の前衛三人の間を縫うように突き進んできた敵隊員の目標は狙撃手たるシャーニッドか念威操者のフェリ。どちらが欠けても第十七小隊の後方はがら空きになる。そんな分かりやすい策も人員の差がある以上、壁役がどうしても足りない。
 しかし、単独で敵陣の奥深くに進行してくる意味を本当に理解しているのならば、シャーニッドという武芸者の実力を低く見すぎている。

「狙撃手が近接戦をこなせないとでも思ってるのか? それとも近接戦なら俺を倒せると思ってるのか? どっちにしろお前らの配置は第十七小隊おれたちを馬鹿にしすぎだぜ」

「っ……」

 トンファー型の錬金鋼を持っていた第一小隊の隊員はシャーニッドの前に膝を折っていた。
 シャーニッドが銃衝術を戦術に取り入れていることはすでに周知されていることだったが、その練度や実践での動きまで想定することができていなかったことが敗因だった。
 それ以外にも今回の試合からシャーニッドはひとつの錬金鋼に2つの形状を記憶させていたことも想定外のひとつである。シャーニッドが用いる形状は狙撃用のライフル型と銃衝術用の拳銃型の2種類。レイフォンやリグザリオのようにいくつもの形状を自在に操ることはできないがこの2種類の形状ならば瞬時に持ち替えても十二分に扱える自信がシャーニッドにはあった。ただそれぞれの用途に応じて軽金錬金鋼製と黒鋼錬金鋼製で創られていたため同じ錬金鋼に記憶させても十全の働きができないため、これまでは使用していなかった。しかし、レイフォンたちが使用している複合錬金鋼の存在がそれを可能にした。複数の錬金鋼の性質を融合させることのできる複合錬金鋼はその分重量に問題があったものの、2種類だけの組み合わせと形状も2種類と限定することである程度の重量軽減が可能となり、遠距離戦から瞬時に近接戦へ、近接戦から瞬時に中・遠距離戦へと対応できるようになっていた。

「さ~て、俺の仕事はひとつ片付いたぜ? そっちはどんな具合かな、フェリちゃん」

『問題ありません。第一小隊の念威操者は確かに優秀ですが、第一小隊の作戦パターンが予測していた通りでした。相手の念威端子はすでに掌握済みです』

「お~、いつになくやる気じゃないの?」

『そのようなつもりはありません。単に早く終わらせたいだけです』

 いつも通り素っ気無い口調のフェリだったが内心はすでに遠くにあった。
 第一小隊の作戦を予測できたのは事前にリグザリオから警戒するようにと言われたこととそのままの策が野戦グラウンドに設置されていたからだ。
 試合開始前に仕掛けられていたと思われる念威爆雷。リグザリオの指摘がなければその存在を見逃し、まんまと第一小隊の策にはまっていたことだろう。
 その存在さえ把握していれば、念威操者として格上であるフェリに適うはずもなく、念威端子の支配権を完全に奪っていた。
 いつもならばそこで自分の役目は終わりだと手を緩めるはずが、今日はそうも言っていられなかった。
 試合開始前、別件で試合に参加できなくなったリグザリオが控え室を訪れ、それぞれにいくつかのアドバイスをしていったのだが、フェリにだけ余計なアドバイスを与えいてた。

 今日の試合、出遅れたくなければ早めに終わらせた方が良いぞ

 そんなことをフェリにだけ囁いたリグザリオの思惑など分かりきっていた。
 試合よりも優先するべき別件があるというリグザリオ。その“別件”にリグザリオだけが関わっているとは限らない。
 ゆえにあのような言葉を残したということは、確実にレイフォンもそこに居るということ。
 今日が手術日であるレイフォンがリグザリオと同じ“別件”に関わっている。リグザリオという安定した強者がいる以上、万が一ということはないとフェリも考えている。しかし、それでも不安定な強者であるレイフォンが無茶をしないという道理はない。そして、リグザリオという男はどのような時でも必ず、どこかで誰かを頼りにすることができてしまう。その頼りにされた部分を術後のレイフォンが万全にこなせるとは限らない。さらにそのサポートをするのが自分以外の念威操者であるというのも納得がいかなかった。

『こちらの配置は終わりました。次のアタックで終わらせます』

「今日のフェリちゃんは、怖いねぇ」

 おどけた調子で答えるシャーニッドを無視して各隊員に念威を飛ばすフェリ。
 それと同時にグラウンドの各所で念威爆雷による爆発が巻き起こった。


 †


 野戦グラウンド全体に響き渡る大轟音。
 計算しつくされた念威端子の配置と絶妙なタイミングで行われた念威爆雷の爆発により発生した激震は、第一小隊の隊員たちにわずかな隙を生じさせた。

「っ……これがお前たちの策か!」

「遅いっ!」

 背後を取られたはずのニーナは、レイフォンから教えられた金剛剄によりヴァンゼが放った衝剄と背後からの攻撃を弾き返し、それと同時に身体を反転させ背後の隊員を迎撃していた。それとほぼ同時に起きた爆発。本来ならば第一小隊が仕掛けるはずだった念威爆雷による奇襲がいまでは第一小隊の視覚を完全に奪っていた。

「ぐぉぉおっ!」

 爆発による粉塵が舞う最悪の視界を突き抜けたニーナの攻撃が巨漢のヴァンゼを軽々と10メルトル以上吹き飛ばした。

「く……ガードのうえからこれほどのダメージを徹すとはな」

 ニーナの凄まじい攻撃に予想以上のダメージを被ったヴァンゼだったが、吹き飛ばされると同時にニーナから距離を取り、土煙を利用して身を隠そうと殺剄を用いて移動を開始する。ヴァンゼたちの視界を奪った土煙はニーナたちにとっても視界を奪う壁となっているはずだ。そう思ったヴァンゼの予想通り、ニーナの剄が瞬間的に高まるのを見当違いの方向に感じた。

「まあ、この辺りはまだまだ若いな」

 ニーナの失策を年長者として評価するヴァンゼ。土煙が晴れるよりも先に仲間の念威操者へ敵の正確な位置情報を伝えるように命令する。
 しかし、第一小隊の念威操者から応答はなかった。

「おい、現状を報告しろ。今は誰が残っているんだ」

 無線からヴァンゼの言葉に応える声はなく、代わりに訪れたのは紅玉錬金鋼の輝きを纏った鎖だった。

「これはっ!」

「貴方の負けです、武芸長」

 いまだ晴れない土煙の向こうから伸びてヴァンゼを拘束した鎖の持ち主が疲れた声で言う。
 それと同時にヴァンゼの身体は先ほどと比べモノにならないほどの衝撃が頭上より降り注ぎ、残った力のすべてを根こそぎ奪われた。
 活剄衝剄混合変化、双架槌。
 さきほど見当違いの方に駆けて行ったはずのニーナが交叉させた双鉄鞭を打ち付けてきたという事実にヴァンゼは完全に虚を付かれ、意識を手放すことになった。
 それと時を同じくして第一小隊のフラッグが奪われたことがグラウンド全体に響き渡った。

「勝ちましたね」

「ああ、私たちの勝ちだ」

 満身創痍のナルキが安堵したように呟き、それに力強く応えるニーナはひとつのことをやり遂げたという思いといまだ終わっていないだろうもうひとつの戦場に思いを馳せる。

「フェリ、会長と連絡を取ってくれ。レイフォンとリグザリオの居場所が把握できたらそちらとも通信を繋ぐんだ」

『すでにやっています。皆、控え室に戻ってください』

 第十七小隊が為すべき試練は一区切り付いた。
 あとはレイフォンとリグザリオが為そうとしている状況を知ることが第十七小隊の次なる役目だった。



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