※注意
これは最強オリキャラ物です。
若干、レジェンドの方も絡んできます。
世界中の大気と大地は、『汚染物質』と呼ばれる珍妙な物質が充満している。
ほとんどの生物を死に至らしめるこの物質の蔓延により、自然界ではほぼ全ての動植物が死に絶え、大地は水が干上がって乾燥し、常に強風の吹き荒れる荒野がこの世界のすべてだ。
そして、そんな厳しい世界において唯一、『汚染獣』と呼ばれる巨大生命体だけが汚染された世界に適応し、繁殖を繰り返して世界中を跋扈している。
世界が汚染される以前の歴史はほとんど忘れ去られており、汚染物質がいつどのようにして発生したのかなんて誰も覚えてはいない。
人類は汚染物質の中で生きることができないため、過去の錬金術師達が残した『自律型移動都市』と呼ばれる都市に住み、汚染物質や汚染獣から逃れている。
自律型移動都市は都市の土台を金属製の多脚が支えるような構造になっており、汚染獣を回避するように移動し続ける。
都市の外周は汚染物質を遮るエアフィルターという空気の膜に覆われており、汚染された世界から人類を守り続けている。
しかし、自律型移動都市の建造技術は失われており、新たに自律型移動都市を建造することはもとより、機関部などの重要施設が壊れてしまっては修復することさえも不可能である。
これこそが世界の終末とでも言うべきか。
いや、滅んだ後の世界の姿なのかもしれない。
もっとも、この世界に生きる者たちのほとんどが、今の世界がどのようにして成り立ったかを解明しようとはしない。
しようとしても不可能であるし、もっと眼前にそれ以上に対処しなくてはならないことがあるからでもある。
それが汚染獣という大怪獣たちだ。
人間の何倍もある昆虫や爬虫類に似た姿をした大怪獣たちは、世界を満たす汚染物質を取り込む傍ら、人間をも食料としてしている。
これも自然の食物連鎖と言われればそれまでなのだが、人間たちも為すがままに食われたいわけではない。
世界は、人間をいくつにも分断された小さな世界に閉じ込めるばかりではなく、ちゃんと新たな力を授けてくれた。
その力を授けられた人間たちが、武芸者であり、念威操者。
剄や念威といった超能力のような摩訶不思議な力を操る超常者たちだ。
彼らは、人類を脅かす大怪獣を相手に剣や槍、弓などで戦っている。
俺の感想としては正気の沙汰ではない、というのが一番だった。
しかし、自律型移動都市という小世界に閉じ込められている以上、資源にはかなりの制限がある。
近代兵器のように使えば使うほど消耗するような大盤振る舞いはできない。
そんなことをすれば自分たちが明日を暮らせなくなってしまう。
本当にとんでもない世界である。
オーバー・ザ・レギオス
プロローグ 奇跡と輝石と軌跡
人は死ねばあの世とやらに行くのか、それとも輪廻転生で新たな命が始まるのか、どっちが本当なのだろう?
歴史上にも古今東西にも、それを体験したことのある人は数えきれないくらいいる。
しかし、その体験談というものはまったく伝えられていない。
「死人に口なし」とは、どの世界にも共通する真理なのではないかと思えるね。
かくいう俺も死という誰もが通る現象を満喫しているのだろうと思う。
何しろ、気がついたら地獄のような世界をたった一人で旅をしているのだから。
汚染された世界。
人が人として太陽のもと大地に立てない世界。
まったく、恐ろしい世界もあったものだ。
こんな世界を一人旅するというのは、地獄の拷問以外の何物でもないはずだ。
しかし、一人旅を続けている俺が、何故にこの不思議な世界の事情をある程度理解しているかというと何度かこの世界の人間が暮らしている自律型移動都市に辿り着いているからなのだ。
もうね。こんな世界を一人で旅しているととてもじゃないが精神の安寧が保てない。
だから、俺しか乗らない不可思議な放浪バスが初めて自律型移動都市に辿り着いた時はもう地獄に仏、ならぬ楽園だと思えたね。
最初に辿り着いた都市では、この世界の常識を全く知らなかったので初めのうちは怪しまれたが、記憶障害ということで誤魔化した。
いろいろと検査を受けた後は、その都市で簡単なアルバイトをしてどうにか生活できた。言葉が通じたのは本当に助かった。
そして、ようやくこの世界のことを聞いた頃だ。
その都市を汚染獣が襲った。
あっという間だった。
あれよあれよという間に都市の外縁部が崩され、おっそろしい大怪獣が姿を現した。
それを初めて見た俺は、まったく実感を持てずに逃げ出す人々の間で呆けていた。
その都市にも汚染獣と戦う武芸者が何百人もいたが、その汚染獣にはまったく歯が立たなかった。
そして、思考が混乱したままの俺は、汚染獣の巨体に踏みつぶされて終わりを告げようと――――――
――していたのだが、何故か再び、放浪バスの中で眠っていた。
それがすべて夢だったのか、それともいつの間にか予知夢でも身に付いていたのかは分からない。
おそらくどちらも違うのだろう。
何故ならば、
『 リトライ or エンド 』
という珍妙なイメージが出てきたからだ。
これで俺は確信し、「ついに俺も妄想電脳を獲得したか」と。
現実逃避にしては、自分でも意味不明すぎた。
とにかく、『エンド』を選べるほど生きることに絶望していない俺は、意識の中で『リトライ』のイメージに手を伸ばした。
そうして始まった二度目の汚染された世界。
数日間は、自分ひとりで寂しさに耐えながら放浪バスの中で一人遊びに興じる。
そして、辿り着いた都市は、以前とは別の都市だった。
俺は、前回の経験を生かし、汚染獣に襲われて壊滅した都市から逃げてきたという設定でその都市に入り込んだ。
しかし、ここでちょっとした問題が起きた。
前回と同じようにいろいろと身体検査を受けたのだが、俺の体はいつの間にか剄脈という新たな器官が備わっていたことが判明した。
そして、剄脈があるということは、力はなくとも武芸者だったと思われたらしい。
汚染獣に襲われた都市から逃げてきた武芸者、という肩書は、この世界ではかなり都合が悪いと知ることができた。
それからの生活は以前の比ではなく、人間関係がなかなかうまく繋がらない。
何しろ、故郷を守らず逃げ出すような武芸者なのだから、自分たちの危機にも逃げ出すだろうと思われてしまったからだ。
それでも一般人より優秀な身体能力というものを手にしていた俺は、都市のいろいろな場所で力仕事や雑用を請け負いながら生計を立てた。
人間真面目にやれば、いつかは認めてくれる人もいる。
それを実感できる頃には、都市の一画では便利屋としてある程度の人付き合いはしてもらえるようになっていた。
やはり人間は苦労することも大切だと思えた。
そして、苦労して手にした居場所の心地よさというものに満足し始めていた頃――やつらがやってきた。
今度は、以前の汚染獣より格段に小さいが千に届こうかという幼生体の群だった。
武芸者として、まともな訓練を受けていなかった俺も自分の居場所を守るべく、巨大な鉄鞭を片手に幼生体の群に突っ込んでいった。
その結果が――
『 リトライ or エンド 』
という懐かしくも苛立たしいイメージ。
二度あることは三度ある。
これがループという現象であるのかもしれないと考えた俺は、当然の如く『リトライ』を選び、放浪バスの中で目覚めるとすぐに外に出た。
「ぐぶるるぉあああ!!!!!!!!!!」
10秒も持ちませんでした、はい。
考えてみれば、放浪バスの外からドアを開ける方法を知らなかった。
眼も鼻も口も皮膚もどこもかしこも耐えがたい激痛に支配され、自分で飛び出した地獄の世界を数分間のたうち回って意識が途絶え、
『 リトライ or エンド 』
もちろん、『リトライ』です。
どんなに苦しみを受けようと自分から死を受け入れるわけにはいかないですよね。
世の中、生きたくても生きれない人もいるんだし。命は粗末にするもんじゃないね。
相も変わらず、放浪バスに揺られて自律型移動都市に辿り着き、一人乗りの放浪バスを怪しまれながらも武芸者として新たな生活を始めた。
今度も武芸者だったことを検査で再確認すると生活のためのアルバイトをする合間に、その都市の武芸者の道場に武芸を習いに行くようになった。
初めのうちは、お金がなくて週一くらいのペースでしか鍛練に参加できず、あとのほとんどは自己鍛練だった。
自己鍛練といっても、武芸者の鍛錬の仕方などほとんど知らない状態だったので、ひたすら基礎中の基礎、剄息から究めることにした。
日常をひたすら剄息で過ごし、負荷をかけながら仕事をして、道場の日には他の武芸者に叩きのめされる日々を続けた。
そして、予想通りに起きた汚染獣の襲来。
今回の汚染獣は、雄性体の三期か四期が五体。
三度目の正直と思い、俺は戦った。多くの武芸者が巨大な汚染獣を前に果敢に戦う横で、黒で塗りつぶされた黒鋼錬金鋼の斧槍を振り回しながら戦った。
何人もの武芸者が散っていく中、俺は三体目の汚染獣が地に落ちるのを確認した。
そして残った二体の汚染獣。
それさえ倒せば、自分は新しい『現実』を生きられる。
そう思ってほとんど動かなくなった体に鞭打って斧槍を掲げ、
『 リトライ or エンド 』
今度はアレだ。
戦いの最中、防護服に小さな穴が空いたことに気付けなかったのが駄目だった。
やはり実戦経験が乏しいと駄目だ。
この世界で生きるには、もっともっと鍛練と経験を重ねなくてはならないようだ。
そんなこんなを繰り返すこと数十回。
些細なミスから自分ではどうしようもない理不尽な暴力、思いもしなかった事故などを積み重ね、自分の屍も積み重ねてきた。
いや、実際に自分が死んでいるのかどうかはわからない。
死亡する直前でいつもの放浪バスに戻されているという可能性もあり得る。まあ、それ以前の傷までもなくなっているから可能性は低いけど。
この繰り返しの中、年齢を重ねることもなく、記憶と能力の蓄積が続いている。
永遠とも思えてしまうループの中でも、いくつか分かった事がある。
ひとつめは、目覚めるときは必ず不可思議な放浪バスの中だということ。
この放浪バスは、俺を近くの都市まで届けると誰にも気づかれずにいつの間にか消え去っているので、通常の放浪バスではないことは確かだろう。
ふたつめは、俺が辿り着く都市は、必ず一年以内に汚染獣、それもその都市に対処できないレベルの汚染獣が襲ってくるということ。
これは、俺が疫病神なのかもしれないとも思ったこともあるが、自分に心当たりがない以上、答えは出せない。
みっつめは、俺の中に宿った剄脈と剄路という武芸者特有の器官。
通常、剄脈が生み出す剄力はそれほど増大することはないという。
しかし、俺に宿った剄脈は汚染獣と戦っていると稀に異常な剄力を生み出す時がある。
剄脈加速薬のようなドーピングでも不可能なほどの剄力の増大は、とてつもない恩恵のように思えたが実際にはそうではない。
制御できないほどの力の増大が己に齎すものは、自滅。
強力な汚染獣との戦っている時ほど剄力増大が起きやすい傾向にある。
巨大な力を得てもそれに振り回され、結局は寿命を縮めるのだが、剄力増大が起きた後の『リトライ』では、剄脈や経路が成長を果たしている。
数十回という挫折を繰り返しながらも俺が『生きる』ことを諦めないのは、そこに希望を見出しているからである。
しかし、希望はしょせん希望でしかない。
どれほど望んでも手にすることができないこともある。
「境界を破りし愚かな月の影より這い出でし者よ……」
記念すべきというかなんというか、とにかく『リトライ』百回目を目前にして、俺はそいつと出会った。
「貴様は、この――」
あまりに巨大な汚染獣。
それまで数多くの汚染獣と戦ってきたが、そのどれよりも古く強大で巨大な存在だった。
人語を介する絶大な存在を前に、俺は何かを知った。
それが何だったのかはよく思い出せない。
「貴様は、■■■■■の■■か? それとも■■■■■の■■か? どちらであろうとも、いずれ来るのであろうな」
それまでに感じたこともないほどの剄脈からの過剰供給により爆発的に生じる剄が周囲に衝剄として放たれ、俺自身を包む。
どうやってその場に辿り着いたのかも思い出せない。
だが、俺はひとりでそこに立った。
西洋のドラゴンのような汚染獣の前に、若き英雄を思わせる青年の前に――。
目覚めるといつもの放浪バスの中だった。
眠りにつく前の記憶が曖昧だ。
いつもなら鮮明に覚えているのだが、今回はいつもと何かが違う。
そして、違いは記憶の欠損や剄脈の不思議な違和感だけでなはなかった。
新たな目覚めに身体の関学が鈍っていたからすぐには気付かなかったが、膝の上に黒い物体がその重量を主張していた。
見慣れぬ合成皮革の鞘。その中に収められているであろうモノを抜く。
確かな重みと共に姿を現したのは、黒い片刃の剣。
刀身を眺めていると黒剣は、みるみる形を変え、この世界に来て武芸者として生きるようになってからは見慣れた金属の棒に姿を変えた。
この瞬間『変異』したことを理解した。
何がどう『変異』したのかは正確にはわかない。しかし、これは本来の持ち主とは別の存在である俺の手が触れた時、『原型』を失ったのだ。
この汚染された大地で俺が刻んだ歴史は、すべて掻き消えた。
何もかもがなかったことになっている。
それでも俺は、再び自分の歴史をこの世界に刻むために新たな都市へと向かう。
そこに滅びを与えることになっても、俺は生きることを諦めたくない。
死ぬのは怖し、嫌だ。
死にたくないし、まだまだ生きていたいから前へ進む。
俺は自分を忘れない。
自分の死を忘れない。
死の痛みを忘れない。
痛みの生を忘れない。
生の喜びを忘れない。
「だから戦うよ。前へ進む。歩みは止めない。だから……一緒に行ってみないか? ―――■■■」
新たな旅が始まる。
それまでとはほんの少し違う始まり、それまで気付くことのなかった者たちの意思。
俺はひとりで旅をしていたわけではなかった。
俺だけが孤独になり続けていたわけではなかった。
「俺は自分が一人なのが嫌なだけだ。誰かのためじゃない。自分の欲望を満たすために生き進む。お前はどうなんだ―――■■■?」
もう何度目になるかもわからない問いかけにそいつが答えたのは、新たな都市を視界に捉えてからだった。