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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」
Name: ユ◆213d3724 ID:22230291 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/20 18:08

 ――洛陽を目の前にしての野戦決戦。

 公孫賛達の軍が戦線に参加したことで、戦局は当然のように連合軍の優勢へと傾く。

 それまで劣勢に陥っていた劉備軍の横を抜け、公孫賛達が率いる二万近いの騎兵が華雄軍の側面へと襲い掛かったのだ。普通に考えても戦局が動かないわけがない。

「……公孫賛殿も中々やりますなぁ」

 魯粛はその様子を見て感嘆の声を零す。

 昏睡している馬超を護衛する西涼兵数百と共に、後方で大人しく待機していた魯粛は前方の戦局の変化を太史慈達とじっくりと考察していた。

「あの騎兵運用はまさに『見事』と言わざるをえませんねー」
「確かに。あれ程の練度を積み重ねているのは、流石は馬術に定評のある州軍と言ったところでしょうか?」
「……定公姉も見たかっただろうな、コレ」

 どうでもいいけれど、メイド服を着た三人がこうして戦術考察とかしている構図はかなりシュールである。

 ちなみに施然の言った人物……名は呂岱、字は定公と言う。

 史実的には結構地味な人物ではあるが、孫権に仕えてから呉県の丞、交州刺史を経て、最終的には呉の第二代皇帝孫亮に大司馬にまで任命されている。主に交州・広州を活動圏にしており、南方の国々との交渉や多くの反乱鎮圧などの功績を挙げていた。特に三国志的にこの人物の注目する点といえば、九十六歳という若くしてこの世を去った英雄が多い三国志では、異様と言ってもいいくらいの『長寿』だろうか。

 この世界では年上の姐御っぽい豪放な性格の女性で、魯家においては武官派の筆頭である。兵を用いた戦いでは魯家の中で一番の経験を持っており、彼女の指揮下で動く太史慈達は水を得た魚のように動く。そういう意味で魯粛からの信頼度も高く、何が起こったとしても対処できるように今回の留守番役を任せている。そしてそれを補佐するのは当然ながら文官派筆頭の顧雍であり、魯粛は安心して魯家を留守にすることが出来るわけだ。

(……ぶっちゃけてしまえば、私が魯家にいたところであまり役には立たないし、ね)

 致命的な身体的欠陥を持つ魯粛だから仕方がないのだけど、一応商家の主である自分が役立たずというのは結構堪えるものである。

 ただそれを愚痴ったところで、すぐにその問題が解消されるわけでもない。色々と吹っ切った過去の中には、そういった鬱積したものも多々あった。世間ではお気楽自由に生きてる若旦那とか思われているが、これでも結構気に病むことは多いのだ。

「まあ定公にはじっくり土産話として話してやればいいさ、義封」
「ん……そうする、御主人」

 コクコクと頷く施然は見ていて和む……が、一応は戦場には違いないので意識をそちらに戻す。

 戦術的な才能まではない魯粛が見ても、それがどれだけ高度な馬術なのかは理解出来る。

 多数の騎兵を有しているからといって、闇雲に敵陣へ突撃するのではない……公孫賛率いる『白馬義従』が得意とする、所謂『騎射戦法』と呼ばれる騎兵運用を西涼軍と共同した二万近い騎兵で行っているのだ。……その威力は言わずもがな、だろう。

 もちろん地形的に敵は城を後背においているので、側面を攻撃しようという騎兵の動きはかなり限られる。騎兵の常套手段としては突撃による横撃が基本ではあるだろうが、しかし公孫賛達の騎兵運用は伊達ではなかった。

 陣形を縦列に布いて敵の側面を弧を描くように駆け抜け、その円周部が敵と接する場所に兵達が次々と矢を射掛けていく。防御を固める円陣とは違った意味での円陣とでも言うべきか。魯粛の知る知識的にその戦法は、日本の戦国時代で上杉謙信が使ったという回転しながら波状攻撃を仕掛ける、『車懸りの陣』にイメージ的に似ている気がしないでもない。ただ本来の戦法が直接攻撃なのに対して、今回の場合は間接攻撃のみなので威力は多少落ちるのかもしれないが。

 ちなみに陣形を長く縦列にしているということは、騎兵のただでさえ低い防御力を下げていると同義である。しかもほとんどが弓を装備していることから、二万近い大軍とはいえ反撃されたら相当に弱いと言えるだろう。

 しかし、正面で劉備軍と交戦中の華雄軍に反撃を返すだけの余裕はなかった。

(兵力は少ないとはいえ、関羽に張飛に趙雲……おまけに臥龍鳳雛まで揃っている劉備軍だからなー。多少の兵力差があったとしても、簡単に勝てる気がしない……)

 公孫賛達の騎兵の大軍を見て華雄が下した判断は、敵の突撃による直接攻撃に対応する為に槍部隊を側面の前線に集めること。これは遠目に見た魯粛の推測にすぎないが、華雄軍の側面に特に動きがなかったことから、元々用意しておいただろう騎兵に対する策を採ったのだと思う。

 どちらかというと猪突系の将である華雄にしては、随分と冷静な判断をしたものである。おそらくは事前に陳宮辺りから策を受けていたのだろうが……公孫賛達がそのまま突撃していれば、馬防柵のように固めた槍部隊とぶつかっていた筈だ。いくら突撃力に優れる騎兵といえど、予め対応策を用意された防御陣には基本防御力が低いので弱かったりする。……もちろん呂布とかが先頭を駆けているとかなら話は別だが。

 だが公孫賛達はその華雄の判断を、冷静にかつ迅速に上回り対処する。

 基本的に一般兵が持つ槍は大体が両手槍であり、両手が塞がっているということは盾を持ってはいないということだ。しかも部隊を固めて集めているということは、完全に軍としての機動力を殺すことである。その前線の状況を見て、公孫賛は瞬時に全軍を直接攻撃から間接攻撃へとシフトした。そんな非常識極まりない騎兵運用も、公孫賛達の率いる優秀な騎兵であればこその芸当と言える。

 結果として華雄の判断は完全に裏目となり、二万近い騎兵の騎射による間接攻撃で散々なダメージを被ることとなった。完全に機動力を殺してしまった為、すぐさま反撃に動くこともままならない。せめてもの救いといえば、二万近い騎兵の一斉射撃ということではなく部分部分での射撃ということだろうか。……ただし、その射撃の時間差が限りなく短い波状射撃ではあるが。

 華雄軍も弓兵で応戦すればいいのだが、相手は止まっている的でこちらは動く的……どちらの方が効果的に射撃出来るかは一目瞭然だろう。

(普通は二万近い騎兵が接近してきたら、騎兵突撃による直接攻撃を想定するだろうけど…………自分でもきっとそーする。ただ実際に動かなかったということは、おそらく側面に槍部隊を構えてあったということで、一応連合軍の遊軍騎兵が攻めてくるとは読んでいたということか。つまり迂闊に突撃していれば大損害を受けていた可能性が高かった、と。ここで公孫賛達が大損害を受けていたら、と思うとぞっとするな……)

 その場合には劉備軍はそのまま押し切られただろうし、その後は連合軍本営に横撃を受けていただろう。更にそれに中央の呂布軍が呼応すれば、下手をしなくとも戦況をあっという間に覆されそうな気がする。後の英雄達が揃っているとはいえ、現状では連携に欠けるただの連合軍でしかないのだから。

 元々この戦争にはそういう危険性が常にあったと魯粛は思っている。

 そもそも史実で反董卓連合は最終的な決着がつかずに瓦解しているのだ。董卓は洛陽を焼き払って長安に遷都するし、連合軍は諸侯の足並みが揃わず作戦面で袁紹は孫堅や曹操と対立するなど、まともな戦争が継続出来る状況ではなかった筈。史実の知識を持つ魯粛としては、孫堅がいなかったり袁紹らが女性だったりという驚愕の事実により、全く先の展開が読めない戦争といってもよかった。

 故に色々と保険をかけておいたのだが……

「さて、公孫賛殿と馬岱殿の参戦で勝敗は連合軍に傾いたようだ。……これで決まり、かな?」

 これはある意味で歴史の改変に当たるのかもしれない。

 実は彼女達が使っている戦法は、この行軍中に魯粛が暇潰しに献策していた戦術構想の一つだったりする。

 まあ献策とはいっても、魯粛に転生してからはや十数年。三国志の知識だけは死亡フラグ回避の為に必死に残してはいたのだが、身体的欠陥などもあってそれ以外の知識がかなり記憶から欠落していくことはどうしようもなかった。魯粛という高スペック転生でなければ、三国志の知識ですらほとんど失っていたのではないかと思われる。つまりは様々な戦術構想を断片的に覚えていたとしても、実際にそれを実行する為の具体的な説明をすることは魯粛には出来ないわけだ。

 本来の魯粛の頭脳を使うことが出来れば失われた記憶を掘り返すことも可能かもしれないが、現実はそんなに甘いはずもなく身体と精神の歪みはこんなことにすら多大な影響を及ぼす。具体的に言えば、本来高スペックである魯粛の頭脳を無理に使おうとすると、その脳に尋常ではない負荷がかかるのだ。

 ……初めてそれを試した時に、数日間生死の境を彷徨ったというのは苦い思い出である。

 そんなこんなで雑談交じりに物珍しそうな戦術構想を、魯粛は軽い気持ちで断片的に公孫賛達に色々と話していただけだった。どうせ机上の空論というか、まともな戦術を構築することは不可能だろうと思っていたのだ。しかし、どうも魯粛のことを過大評価してしまっているのか、彼女達はその戦術構想を真剣に検討して運用可能なレベルにまで構築してしまう。……その結果がアレである。

「うっかりにも程があるだろう、常識的に考えて……」

 現在の戦況に限定される戦術ではあるが、大規模な騎兵の騎射による波状攻撃……騎兵としての常識に囚われないこの戦術は、正統派の戦術を使う相手が読みきることは難しいだろう。実際に華雄軍はかなりの被害を出している。

 そしてこの状況は呂布の存在を計算に入れたとしても、もはや戦局を覆されることはないと魯粛は見ていた。

 つまり史実では決着がつかない筈の戦いが、連合軍が勝利するという形で終わるとことになる。初期に二十万はいたと思われる董卓軍は、この敗北によってほぼ全滅と言っても過言ではない。……それを最終的な結果に導いた一因には、本来ならここにいない筈の魯粛の献策も当然ながら含まれる。

 もちろんそれが全てではない。この時期に何故か亡くなっている孫堅や、体調が優れずに馬超を名代としてよこした馬騰、それに臥龍鳳雛を揃えているという劉備のこともある。孫策がこの時期に袁術の客将になっているというのも、不確定要素の一つと言ってもいいだろう。

 それは必ずしも魯粛一人による改変とは言い難い。

 しかしこの戦いが終わった時の死亡者は、双方を合わせれば三十万に限りなく近くなると思われる。元々史実ではそこまでの戦いになってなかった筈だが、この世界ではかなりのレベルの激戦となってしまったわけだ。

「私の所為で……とか思うのは傲慢なんだろうなぁ。あくまでも色々な要因が重なった結果にすぎないし……」

 陳登を介しての徐州刺史の依頼、受けると決めたのは魯粛自身の責任。

 下手に対応を失敗すると徐州という土地の評価が危うくなることから、動かざるをえなかったのは確かではある。それに他の群雄諸侯を一目でも直接見ておくことは、後の乱世を生き抜くにあたって必要なことだと魯粛は思っていた。臣下として仕えるにしても、あくまで商人として付き合うにしても。

 何より魯粛が知っている知識とは様々な相違が見られるこの世界、あらゆる事態を想定しておくに限るだろう。何だかんだで死亡フラグには容赦がない時代、ということには変わりないのだから。

 その為にこの戦争に参加した際に、自分の身を守る為に様々な手段を講じた。公孫賛達に戦術構想を献策したのもその一つ。短い期間とはいえこの身を預ける以上、最低限の安全を確保したいと思うのは小心な性格の魯粛としては当然のことだった。結果として相手の兵がどれだけ死のうとも、見知らぬ他人の死と自分の生命ではどちらが優先されるかは言うまでもないだろう。

 未来から転生し多少の知識があったからといって、誰もが『善人』になれるわけがない。ましてや今の魯粛は身体と精神の歪みという『欠陥』を抱えている。

(やれやれ、難儀な人生というか何というか……)

 もし『魯粛』という人物への転生でなければ、一切歴史には関わらなかったかもしれない。

 しかしこうして歴史上の人物に転生してしまった以上、完全に無関係というわけにはいかないのだ。正史か演義かはわからないが、魯粛という人物が何もしないことで大陸の統一に影響を及ぼす可能性があるのだから。もちろん関わらないことで歴史より良い結果になる可能性もある。しかしそれを見極めることは、まさに『神』にしかわからないことなのだ。精神的に凡愚な魯粛としては、自分なりの最善を尽くすしかない。

 ……だがこうして『うっかり』が続くことに、魯粛の不安がひしひしと増すのは誤魔化せなかった。





三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」





 次々と報告される戦況に、音々音は目の前を絶望で染められていく。

「――こんな、こんな筈じゃなかったのにっ!?」

 思わず報告に来た伝令に八つ当たりしそうになる。

(お、落ち着くのです! 軍師であるねねがここで取り乱しては、更に状況は悪化するだけ……)

 音々音が選んだ洛陽を前にしての決戦とは、篭城するしかないだろうと思っている相手の意表を突くという『奇策』だった。

 現状数で劣る董卓軍が連合軍を相手にする場合、こちらが洛陽に篭城するだろうと想定するのが普通である。つまりその通りに篭城するということは、敵の予測の範疇で動いているにすぎないわけなのだ。予測の範疇ということは、向こうには気持ちの余裕があり様々な策を練ることも可能……一方こちらの立場は、敵がただやってくることを待つという受身の姿勢である。何より篭城して洛陽を戦火に巻き込むということは、董卓軍を最後まで支持してくれた民衆の気持ちを裏切ることになってしまう。

 故にあえて篭城せずに打って出ることで、それらの立場を逆転してしまおうと考えたのだ。

 相手の予測の範疇を覆すことで、今度は敵が策を読まれたのではないか?などと迷う番になる。戦いの主導権をこちらに移すことにもなるし、野戦に限るならば洛陽を戦火に巻き込むこともない。今董卓軍に求められていることは、主君である月達を逃がす為の時間稼ぎである。相手に自由な選択を与えないことでその主導権を奪い、兵力差という不利を補いつつ戦局を維持するのが音々音の基本的な戦略だった。

 だが開戦前に連合軍本陣から離れ、迂回して他の門へ向かうという曹操軍の行動によりその主導権が再び奪われる。

 迂回する曹操軍を放置することは出来ず、しかも並みの将では相手にならないということもあり、全軍の三分の一である張遼軍を当てざるをえなくなったのだ。更にはそんな状況下で戦端が開かれるという最悪の事態が続いてしまう。

「華雄殿は決死の覚悟かもしれないですが、あれだけの規模の騎射を受け続けるのは拙いです。――伝令っ! 華雄軍に後退の指示を告げるのです!」

 正面の敵と交戦しながら後退すれば、その騎射の射線に正面の敵が入る。当然ながら味方を撃つわけにはいかないので、遊軍の騎兵は射線を変えなければならない。しかし戦場の配置的に射線を変えるのは難しく、今更突撃しようにも正面の敵と乱戦に持ち込んでしまえばそれも出来ないだろう。

 少なくとも現在より兵の消耗は減らせる筈だ。

(……華雄殿の奮戦を無駄にするわけにはいかないのです!)

 汜水関以降の失態からか、華雄はこちらの指示を徹底的に守っている。

 兵数で勝る敵右翼を押しながら、敵の遊軍である騎兵を釣り上げるのが目的。正面で交戦中に騎兵に側面を晒すことで、その突撃を誘うように指示したのだ。もちろんそのままでは多大な被害を受けるだろうから、槍を持つ歩兵を多く側面に配置するという罠を張った。

 上手くいけば敵本陣を突く流れになったかもしれないのだが、遊軍の騎兵があまりにも常道を逸した所為で破綻してしまう。

「――というか普通二万近い騎兵を有しておいて、突撃せずに騎射のみとか……どれだけ消極的な戦術なのですかっ!?」

 こちらの罠を読んだとしても二万近い騎兵となれば話は別である。

 噂に名高い西涼騎兵の打撃力であれば、多少の罠くらい食い破れると考えそうなものなのだが……と、考えたところで一つの事実に気づく。

(あっ! 勇猛と名高い西涼軍総大将の馬超は、確か恋殿が負傷させてたっけ?)

 普段より突撃力に欠けるのであれば、代行する指揮官が消極策を採るのも無理はない。

 それに遊軍騎兵には西涼軍だけではなく幽州軍が共同していると聞く。おそらくそこにそれなりの知恵者がいたのかもしれない。つい過小評価をして敵戦力の分析を怠ったのは、軍師としての音々音の失敗である。

「でもそんな情報は入ってないのに、一体どこからそんな軍師が沸いたのやら……全く目障りなことこの上ないのですぞ!」

 両腕を振り上げて音々音は憤慨する。もちろん苛立ちが納まらないのは、それらの報告だけではないからだ。

 両翼に配置した両将軍は予想以上に奮闘してくれているが、ただそれ以上に呂布軍が正面で相手をしている袁術軍が非常に厄介な戦術を執ってきているのが問題だった。こちらが誇る『天下無双』の決定的な弱点を突いてくる辺り、敵の指揮官は相当に性悪な性格と思われる。

 張遼軍は誘引してきた曹操軍との戦いに手間取っているようだし、そろそろ引き際を見極めなければならないのかもしれない。

 ……賭けに出た董卓軍の前には不穏な暗雲が漂い始めていた。





 ――呂布軍と正面と交戦中の袁術軍本陣。

「う~ん、今のところ順調なようですね~♪」

 戦況を見ていた七乃は楽しそうに呟く。

 前線では数千以上の兵の命が失われている戦場だというのに、指揮を執る七乃の顔に全くの迷いはない。

「七乃? どうして孫策の奴を呂布に当てないのじゃ?」
「ふふふ、孫策さんでは呂布さんには絶対に勝てませんからね~。もし勝てるのであれば、虎牢関の戦いで呂布さんの頸を挙げている筈でしょうし……」

 蜂蜜水を飲みながら訊ねてくる美羽に、七乃は当然のように答えを示す。

 今の袁術軍の中で最大戦力といっていいのは、間違いなく孫策が率いる孫呉の兵である。しかし虎牢関での戦いを見る限り、向こうの最大戦力である呂布とこちらの孫策ではどう見てもこちらの方が分が悪い。最大戦力同士でぶつかって負けてしまっては、いくら兵力差があるといっても勢いで押されてしまうだろう。

 ならば最大戦力を互いに別の場所へ向けることで、押しつ押されつの消耗戦に持ち込むことが七乃の狙い。

 つまり呂布が出てきても雑兵を大量に当てるだけで対処し、その一方で孫策に呂布がいない所を攻めさせる。呂布の単独突破力を考慮すると下手をしなくてもここ本陣が危険になるのだが、孫策はこちらの予想以上に上手く動いてくれているようだ。具体的には呂布がこちらに攻め込んだ分、孫策が向こうに攻め込むという簡単な図式である。ちなみにこの消耗戦……呂布が味方を省みない性格だと成り立たない策なのだが、虎牢関の時の状況を考えるに呂布は味方を守る性格だと七乃は推測していた。

 今のところ思惑通りに事が進んでいるのは間違いない。どれだけ時間がかかろうと、最終的に勝てればいいと七乃は思っている。

 呂布はこちらの本陣近くまで攻め込んではくるものの、孫策が逆に向こうの本陣近くまで攻め込むのでその度に已む無く後退を繰り返す。董卓軍の両翼に配置されている将軍ならいざ知らず、並みの将では孫策の勢いを止めることは出来ない。おそらく本陣には全体を指揮する軍師がいても、それ以外の人材は向こうにはいないのだろう。本陣の危機を救うべく呂布が後退すると、時を同じくして孫策も後退して次の呂布の突撃に備える。

 押しては退いてと繰り返し、呂布はこの戦場で誰よりも激しく動き回っていた。

「でも七乃、妾の軍が無駄に消耗していくのは面白くないのじゃ!」
「別にいいじゃないですか、お嬢さま。減ったら減ったでまた後で十分に補充すればいいだけの話です。豫州の人口にはまだ余裕はありますし、褒賞を求めて兵隊になる民なんていくらでもいますからね~」
「む? そうなのかえ?」
「はい~♪ あ、蜂蜜水のおかわりいかがですか~?」

 待機させていた従者に手早く蜂蜜水のおかわりを用意させる七乃。

 いつもなら飲み過ぎないように注意しているのだが、今回だけは下手に機嫌を悪くしてもらっては困る。普段の二倍くらいの甘やかしのおかげで、我が麗しのご主人様はとてもご機嫌のようだ。刻一刻と変化する戦況にまるで興味を示さない。

 要するに現在の袁術軍は、臣下である七乃が完全に掌握しているわけだ。

(でも流石は『天下無双』と謳われただけはありますね。あの美羽さまが気づく程に、既にこちらは三分の一近い消耗を強いられているのだから……ですがそれは向こうも同じこと。しかも向こうは『守る』戦いでこちらは『攻める』戦い、どちらの方が身体的にも精神的にも消耗が激しいかは自明の理というもの)

 呂布は戦況を覆す為にもこちらの本陣を早々に突きたい筈。しかし全ての兵が呂布のように動けるわけもなく、更に呂布軍の本陣は隙あらばと孫策に攻め込まれている。孫策の兵を何とかしようにも、呂布より孫策の方が用兵術が上回る為に上手くぶつかることが出来ない。結局打開策が見出せぬまま、呂布は一人身体的にも精神的にもかなり消耗していた。

 あの呂布が十数回は突撃を仕掛けておいて、未だに袁術軍の本陣を突けていないのがその証明である。

「ふふふ、いくら『龍』のような呂布さんといえど所詮は人間……その体力は無尽蔵ではないですからね」

 現在袁術軍の客将としている孫策という人物を例えるのなら『虎』。確かに獰猛な野性を秘めてはいるが、大雑把な枠組みでいうのなら『動物』にすぎない。上手く習性などを利用してやれば、その手綱を握ることは十分に可能である。

 孫策にとって一番大事なことは『孫呉の再興』だろう。ならば客将として仕えている袁術……美羽の存在が邪魔になるのは必然。

 虎視眈々と独立の機会を狙っている孫策にとって袁術軍が消耗することは望ましい。故にこちらが無駄に消耗する策に反対する筈もなく、この戦いにおいてはこちらの指示に良い様に従ってくれていた。おかげで碌な名将がいない袁術軍でも、互角以上に呂布軍と戦えている。……何だかんだで数だけは多いのだ、袁術軍は。

 つまり孫策のような『虎』であるならば、まだ人の手で何とか出来るものである。

 しかし、それが『龍』となってくると話は別だ。

(……あの文醜ちゃんや顔良ちゃんが全く敵わなかったという、その呂布さんの常識外れた『武』。あのような者が存在していては、いずれお嬢さまに多大な害を及ぼすでしょう。どうしても個人戦で討ち取ることが出来ないのであれば、集団戦という別の戦場に持ち込んで討ち取るだけです。味方思いの呂布さんならば、乱戦という戦場での隙を狙うのが最善かしらね?)

 既に兵卒には大将首をとにかく狙うように扇動している。

 褒賞目当てに徴兵に応じたような兵だから、恥も外聞もなく必死になって呂布の首を狙うだろう。例え卑怯な手で呂布を討ち取ったとしても、戦争に勝ってしまえばそんな風評はいくらでも打ち消せる。それに塵芥の雑兵の偶然の手によるものならば、いっそその雑兵ごと証拠隠滅してしまえばいいだけのこと。

 実際に七乃の狙い通りに呂布はかなり消耗している。

 このままの状態を維持出来れば、或いは呂布を討ち取れるかもしれない……と思った矢先の出来事だった。

「で、伝令ですっ! 連合軍盟主の袁紹様から、袁術軍は陣を右翼に移動させよ、と……」
「――な、なんじゃとっ!?」

 それなりに好調に進めていた計画をぶち壊しにする伝令が届く。

 美羽はその急な伝令に対して憤慨していたが、傍らにいた七乃は思った以上に冷静さを保っていた。ここまで事を進めてきた当事者だというのに、その顔には動揺の欠片もない。むしろ「やっときたか」と言わんばかりの表情。

(……この時機でこうきます、か。あともう少しで、呂布さんを討ち取れたかもしれないというのに…………残念ですねぇ~)

 あまりの展開に思わず苦笑する七乃。

 袁紹という人物の本質を知っている者には、特に驚くようなことではない。連合軍盟主の袁紹の横槍は、七乃が想定していた事態の一つでもあった。何事も自分の思うとおりに事が進むなどと増長するような性格ではなく、あらゆる事態に備えてあらゆる手段を講じることが出来るのが張勲という人物の本質なのだ。

 そうでなければ豫州を中心に、この美羽という君主を立てて国を興すことなど出来なかっただろう。

「……まあ仕方ないですね、お嬢さま。相手を包囲するという意味で、誰かが右翼に移動しないといけないですから」
「だったら麗羽の奴が右翼に回ればいいではないか!」

 美羽にしては中々鋭い指摘ではあるが、相手がアレでは仕方がない。

「あの~、お嬢さま? 麗羽さまにまともな常識を求める方がどうかしていると思いますけど。それに一応我々の軍の消耗も厳しいことですし、ここは我侭を聞いてあげた方が楽かもしれませんね~」

 交戦中に陣を移動することは、戦端が開かれる前に移動し始めた曹操軍とは難易度が桁違いに高い。優秀な呂布軍の軍師がそんな隙を見逃す筈もないのだが、ここで今までの戦いによる呂布の消耗が生きてくる。ここで袁紹軍までもが参戦するという事態を前に、肝心の呂布が疲労で倒れてしまっては元も子もない。政治的状況から今更呂布軍が洛陽内に逃げ込むことはないだろうし、この機会を逃せば次に休める機会はないのが現実。

 これまで理詰めな戦いを挑んできた敵の軍師なら、これを再編と休憩の最後の機会と捉えて攻撃を控えてくる可能性が高い。

 故に今と限定すれば、陣を移動することは十分に可能だろう。

 それに上手く包囲を維持することができれば、この後に呂布を討ち取る可能性も出てくる。七乃としては後々の面倒を考えると、呂布という『龍』の存在はここで消しておきたい。もう一方の『龍』という象徴……つまり衰退した漢王朝の皇帝の方は、後でいくらでも処理することは可能だろうから。

 瞬時にそこまでの計算をしつつも言葉で上手く誤魔化すあたり、七乃は美羽以外の他人に対してはどこまでも容赦がなかった。

「む~……不本意ではあるが、七乃がそう言うならきっと間違いはないのであろ。……伝令、麗羽に『わかった』と伝えるがよい!」
「――は、はっ!!」

 蜂蜜水のおかわりが効いているのか、七乃の主はあまり事を荒立てずに納得してくれたようだ。

 伝令が戻っていくのを見届けた七乃は、今度は孫策の陣へと伝令を放つ。特に『盟主からの指示により陣を移動させる』と主張して。

(これで袁紹さんと孫策さんの間に上手く亀裂が入るといいのだけれど。まあ扱き使っているのは私達も同じだけど、連合軍の盟主としての無茶苦茶な命令とは格が違うでしょうし……)

 このような突発的な事態にも、瞬時に対応出来るのは流石と言える。

 無駄に敵を増やしているようにも見えるが、下手な隙を見せずに相手の弱点をしっかりと把握している辺り侮れない。もし普段の美羽を甘やかす七乃の姿が広がっていなければ、各国の首脳陣からさぞ睨まれていたことだろう。……それだけの能力を七乃は秘めている。

 しかし、七乃にはその能力を滅多に使うつもりはなかった。

 何故ならば彼女にとっての一番は、自分が仕えているご主人様がしたいことをすることのみ。そこに余計な思惑が入る余地はなく、その為にどれだけの犠牲が出ようが彼女にとっては些細なことである。例え負ける戦いと分かっていても、美羽の無茶苦茶な指揮で戦うことこそが七乃にとっての至高であり、今回の戦いも美羽の好きにさせようと思っていた。

 だがあまりにも呂布という存在は危険。とてもではないが余裕を持って戦える相手ではない、と虎牢関での戦いを見ていた七乃は結論付けたのだ。

 その為の蜂蜜水のおかわり公認作戦である。

「――お嬢さまの安全が何よりも優先。私はお嬢さまがいれば、それだけでいいんですから……」
「七乃? 何か言ったかえ?」
「いえいえ、何でもないですよ~♪」

 こんな状況でも美羽は無邪気な笑顔を晒す。

 数十万の兵士が死んでいったこの戦争、その本当の意味を知ることなく彼女は乱世を生きる。どれだけ多くの業を背負っても、彼女は無知故に純粋無垢をいつまでも保ち続けるのだろう。……傍に七乃という腹心がいる限り。

 そんな歪んだ主従が進む道は、いつ破滅を迎えてもおかしくはない。しかしどんな状況に陥ったとしても七乃は美羽と共に生き、そして共に死ぬのだろう。

 それもある意味では『忠義』のようなものかもしれない……あまりに常軌を逸してはいるが。



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