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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」
Name: ユ◆21d0c97d ID:b74c9be7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/08 18:27


 洛陽を目前とした連合軍は、そこで不可解なものを見る。

 誰もが篭城するだろうと思っていた董卓軍が、洛陽城門の前に布陣しているのだ。

「…………」

 曹操軍本営にて、その光景を見ていた華琳は周囲に怒気を放つ。

 怒気の理由はともかく、この状態は精神的にあまりよろしくない。その勘気を出来れば被りたくない彼女の臣下達は、当然のようにその前にどうぞどうぞと人身御供を差し出した。

 ――人身御供の名は北郷一刀、つまりはおれのことである。

「あの~……か、華琳さん? い、一体何をそんなに怒ってらっしゃるので……っ!?」
「――話しかけないでっ!」

 勇気を出して声をかけた一刀の前髪を、華琳の持つ大鎌が掠め切った。

 怒り心頭と見せかけて、これだけ精密な攻撃を繰り出す余裕はあるな……と最近短くなった前髪を見ながら、一刀は目の前の少女を見る。その目には何か言葉に出来ないような『怒り』を感じたが、生憎と凡人の一刀にはそれが何かはわからない。

 そして、二人の様子を見ていた臣下達は顔を合わせる。

「やはり北郷は無駄に度胸があるな。あんな風に華琳さまに声をかけることが出来るのは、北郷くらいなものだぞ?」
「……いつも思うのだが、何故北郷は怒った華琳さまを前にするとあんなに謙るのだろうな? 私には理解出来んよ、姉者」
「ちっ……今の一撃で脳天割られて死ねばいいのに」

 冷静に分析する者の中に、凄く不穏な発言をする者がいた。

 まあ、いつものことなのでいい加減慣れたが。

「でも兄ちゃんに声をかけられてから、華琳さまの怒気は少し減ったよ?」
「そうね、季衣。それこそが兄様の『らしさ』、私達も少しは見習わないと……」

 もちろん不憫な一刀をフォローしてくれる者もいる。

 周囲の目が無ければ、全力で抱きしめて頬ずりして頭を撫で回してやりたい。しかし、その優しい二人の外見は、少女というよりは幼女といってもいいくらいなのだ。そんなことをすれば、いくら一刀といえど『ペド』呼ばわりは避けられない。

 時代的にそんな言葉は無いけれど、きっと蔑みの視線に晒されるのは間違いないだろう。

 一刀の部下の三人が雑用中でいなくて幸いだった。もし彼女達がここにいたら、表情から思考を読まれて散々にからかわれていたかもしれない。

「――それはさておき、なあ華琳? そろそろ落ち着いてくれない……でしょうか?」

 再度声をかけようとしながらも、華琳に睨まれて語尾が丁寧語になる一刀。……へたれとか言わないでほしい、怒ってる彼女は本当に怖いのだから。

 そんな情けない一刀を見て気持ちが冷めたのか、華琳は深い溜め息をつく。

「……ふぅ。悪かったわね、一刀」
「いや、構わないよ。おれは戦場では全く役に立たないし、華琳の気を紛らわすことが出来るだけでもまだマシ、だろ?」

 初めて華琳と出会ってからも反董卓連合軍に参戦してからも、一刀は部下に守られてばかりだった。

 平時に陳留の街で警備制度を見直すことが出来ても、戦時の人と人が殺しあう戦争では何の役にも立たない。精々が邪魔にならないように大人しくしているだけ。天の御遣いだなんだと言われているが、所詮はただの未来の知識を持っている唯人にすぎないのだ。……神通力などで敵を打ち倒すことなど出来る筈もない。

「己が力量を見極めること……それは中々に難しいことだけれど、あなたはよくわかっているようね、一刀」
「……いつも鍛えられてるからな、華琳達に」

 それはもう徹底的に。

 冗談でも「働きたくないでござる!」とか言おうものなら、次の瞬間には頭と身体が『さようなら』しているだろう。

 そのスパルタ教育で鍛えられない筈がない。

「まあいいわ、一刀。私が怒っていたのは、今の董卓軍の布陣のことよ」
「布陣? 普通なら篭城すべきなのに、三度も無謀に出陣してきたことか?」

 連合軍盟主の『華麗に前進』ではないけれど、篭城の利を自ら捨てている董卓軍の愚かさに華琳は怒っているのだと思う。

 強大な敵と戦うことを楽しみとしている彼女にとって、このようなつまらない戦いではモチベーションも上がらないのだ、きっと。

 だがそんな一刀の言葉に華琳は首を横に振る。

「――違うわよ、一刀。三度の戦いの状況は全て異なるから、今回野戦を挑もうと布陣しているのも選択として間違いじゃないわ」

 状況が異なると華琳は言うが、一刀にはよくわからない。

 篭城の利を捨てることに、何か意味があるとはとても思えなかった。一刀でも知っている兵法の基本に、まず敵より多くの兵力を用意するということがある。そこから状況を考えるに、少なくとも兵力差で負けているのだから野戦を挑むなんてありえない筈だ。

「……桂花、説明してあげなさい」

 明らかに「わかりません」と言っている顔の一刀に、華琳は説明を桂花に命じた。

「わかりました、華琳さま! 脳味噌の代わりに精液が詰まっているような変態男に到底理解できるとは思いませんが、一応説明してやります!」
「……酷い言われようだなぁ」
「いい? 汜水関の時は、守将がこちらの挑発という策に嵌っただけのこと。そして次の虎牢関では、その敗北で下がった士気を高揚させようとあの『天下無双』を繰り出してきたの。それは無謀な出陣ではなく、士気高揚というちゃんとした目的があったわ。まあ公孫賛が袁紹を上手く説得していたから、それを逆手にはとれたのだけど……」
「……スルーですか、そうですか」

 そういえば虎牢関の時の包囲作戦……あの袁紹がよくあのような作戦を採れたものだと、華琳が零していたっけ。

 公孫賛という人が立案者と聞いたが、詳しいことを一刀はあまり知らない。

「そして目の前の董卓軍が、洛陽の街の前に布陣していること……それは洛陽の民衆を、戦火に巻き込まない為には必然の選択なのよ。袁紹は強引に世論を操り董卓を『悪』としたけれど、実際に統治されている洛陽の民衆からしてみればそれは『嘘』でしかない。実際にこれまでに洛陽から逃げ出してきたという民は見かけないでしょう?」
「た、確かに……」
「つまりは董卓は依然、洛陽の民衆からの支持があるということ。これから洛陽を攻めようという連合軍としては、それはあまり面白くないでしょうね。そこで連合軍との戦況が不利だからといって、平然と民を巻き込む篭城策を採らせることでその支持を失くすというのが真の狙い。そうすることで、現状では連合軍側にはない『正当性』を一応形として作ることが出来るのよ」

 なるほど、桂花の言うことは一刀にも一応理解出来た。

 まとまりに欠ける連合軍の軍事的不利を、政治的有利によって圧倒しようというわけか。

 一刀は視線を華琳に戻す。

「でも意外だな? そういう策って華琳の趣味じゃなさそうだけど……」
「当たり前じゃない。私が盟主だったら採らないわよ、そんな策。それに『あの』麗羽だもの、そこまで深くも理解はしてない筈だわ」
「――はぁ?」

 深く理解してないって……いや、連合軍の盟主としてそれはどうだろう。

「この戦争には出てきてはいないけど、名門袁家に仕える文官はそれなりにいるの。その中でも権謀術策に秀でる者は、そうね……田元皓あたりかしら? その辺の参謀連中が考えたのでしょう……軍事的才能が無い麗羽を勝たせる為に、ね」
「……その程度の戦争なのか、これ」
「あまり楽観は出来ないわよ、一刀? その策はあくまで向こうが最後に、ここ洛陽で篭城してこそ成り立つもの……こう城外に布陣されては意味が無いわ」
「――えっ? このままだともしかしてではなく、連合軍が戦術的に不利になったりする……とか?」

 ここまで念入りに戦略から策を練らないと勝てない袁紹が、数に勝るというだけで董卓軍に勝てる保証はないということか。

 一刀の疑問の一言に、沈黙を続けるその間が怖いです。

「私がさっき怒っていたことはね、一刀。こんな状況に追い込まれて、ようやく本気を出そうとしている董卓軍の将が許せないの」
「……え、えっと?」
「『もし』連合軍が結集した段階で、向こうの全軍による野戦決戦を挑まれていたら? 当初の兵力差は董卓軍が二十万で、連合軍が十五万……そこで本気を出されていたら、一体どれだけ素晴らしい『戦い』が出来ていたのかしらね?」

 ……いや華琳さん、その理屈はおかしい。

(というか、その状況で呂布無双とか初見でかまされていたら、あっさりと連合軍壊滅していたような気がするけど……)

 だがしかし、稀代の戦争屋である曹孟徳としては、このような状況下で敵を降すのは不本意なのだろう。

 一刀からしてみれば、戦争なんてものは人と人が殺し合う以外の何物でもない。そこに『正義』とか『悪』はなく、ただ無意味に人間が死んでいくだけのものである。そんな戦いに意味を見出せる程、元は一般人である一刀は人生経験が豊富ではないのだ。

 だからといって、その考えを否定することもないけれど。

「……まあ、過ぎたことは仕方ないわ。こうなった以上、今出来る最高の戦いをするまでよ」
「と、言うと?」

 何やら不敵な笑みを浮かべている華琳。

 今までの経験から、こういう笑みを浮かべている華琳の行動には無茶なものが多い。

「――桂花、連合軍の本営に伝令を出しなさい!」
「はっ!……それでは何と?」

 華琳の言葉を待つ桂花の姿は、飼い主に『待て』と言われた犬の様だ。……見た目は猫だけど。

 その健気さを、一割でもいいから自分に向けてくれないかな~と一刀は思う。……まあ無理だろうけど、常日頃「変態男」とか罵倒され続けていると、目覚めてはいけない『何か』に目覚めてしまいそうな気がする。

「こちらから見た敵の右翼……『張』の旗を掲げる軍の相手は曹孟徳が全て引き受けた、と」
「――御意!」

 伝令を向かわせるべく、桂花は天幕を出て行く。

「……華琳さま、もしや狙いは『神速将軍』でしょうか?」

 華琳の狙いに気づいた秋蘭が、若干困ったような視線を向ける。

「あら? よく気づいたわね、秋蘭」
「いえ……華琳さまのことですから、こうなった以上敵将を一人くらいは捕まえないと気が済まないでしょう」

 華琳の人物蒐集癖は、仕える誰もが知っていることだ。

 その悪癖をここ一番で発揮するあたり、やはり彼女は曹孟徳なんだなと再認識させられてしまう。秋蘭の態度と似たように、その対応には少し困ってしまうけれど、覇者を目指す苛烈な少女のそんな一面がまた面白い。

 まあ蒐集される人間からすれば、ぶっちゃけ迷惑そのものではあるが。

「なるほど、それで張遼というわけか。……でも、これもちょっと意外かも?」
「? 何がよ?」
「いや華琳のことだから、てっきり呂布の方を所望するかと思ってたけど……」

 実際に虎牢関を前にしてそんな話をしていた気がする。

「私はね、一刀。調教可能な『獣』を飼うことはあっても、野性の『龍』を飼うほど酔狂ではないの。というか一刀、虎牢関での春蘭達の話を聞いてなかったのかしら? その呂布の虎牢関での所業は、最早『人』の領域を逸脱しているといってもいい……まともに相手をするだけ労力の無駄よ」

 あの春蘭の必殺の一撃を、秋蘭の弓攻撃を弾きながら受け流したんだっけ?

 彼女達の蒼白で真剣な顔がなかったら、冗談として受け取っていただろう。流石は時代的武力チート、マジ半端ないです。

「そもそも呂布は敵陣中央なのだし、麗羽達を差し置いて私達がそれに当たることはできないでしょう? ならば両端のどちらかの将軍を生け捕るまでよ」
「……それが神速将軍と名高い張遼ではなく、二度も暴走するような華雄でもか?」
「当たり前でしょう? 今回は私達の陣側にいたのが張遼だから狙うのであって、それが華雄だろうと同じことだもの。それに将の暴走なんてものはね、上下関係をしっかりと身体に刻みつければ自然と抑えられるものなのよ。だから華雄の失敗はその主の責任であって、私の蒐集を妨げる理由にはなりえないわ」

 そう言って華琳は春蘭を艶やかに見据える。

(……うわぁ、何か凄まじい説得力があるなー)

 猪突猛進こそ本質みたいな春蘭を、完全に制御している華琳だからこその発言だろう。……その方法にはあえて突っ込まないが。

 もし相対するのが華雄で、生け捕ることが出来た場合……春蘭二号みたいなキャラが登場するわけか。現場での春蘭の制御には秋蘭が動くとして、華雄の制御には誰が付くのだろう?季衣達は親衛隊だから無理だし、桂花は軍師で凪達は立場上は一刀の部下である。

 そうなると必然的にその位置に入るのは、立場的にふらふらしてる一刀くらいしかいないわけで。……正直言って、春蘭×2みたいな日常は勘弁してほしい。

 心の底から相対するのが張遼で良かったと、一刀は両手を合わせて拝んでいた。

「――さて、と。呂布が中央でどう動くかは気になる所だけど……どうせ大局的には董卓軍の敗北はもう覆らないでしょうから、私達は私達で好きにやらせてもらうわ!」

 華琳の指揮の下、曹操軍は連合の陣から右方向へと離れて行く。

 正面の敵を迂回して別の城門を狙うような進軍は、警戒しているとはいえ目の前の張遼軍に無防備な横っ腹を晒すことに他ならない。このような隊形で騎兵の突撃を誘うことは危険極まりないが、その分敵を誘き寄せるには確実な手とも言える。

 その大胆不敵な用兵に、一刀は華琳に稀代の『英雄』としての姿を見た。

(……『天の御遣い』と呼ばれるおれが、この世界に呼ばれたことに何か意味があるのかはまだわからない。これから歴史がどう動くかもわからないけど……せめてこんなおれを拾ってくれた、この只管に覇道を進む少女の行く末だけは最後まで見届けたい……!)

 凛々しく進軍する華琳の背中を追いながら、心の中に一刀は深く誓うのだった。





三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」





「――張将軍! 『曹』の旗を掲げた軍が、敵本陣から離れて行きます!」
「迂回して他の城門を攻めようってか? はん! ウチらをわざと挑発するたぁ~いい度胸や!」

 部下の報告を聞くまでもなく、目の前で動く軍の目論見を看破する張遼。

 しかし予備軍すらない今の董卓軍に、その行動を無視することは出来ない。挑発の意味もあるだろうが、実際にその行軍を放置したら側面の城門を攻められることは必至である。……何らかの対処をしなければならない。

「――伝令、中央の軍師に伝えや! 張文遠は全力を以て敵遊軍に当たるってな!」
「はっ!」

 伝令を走らせ、霞は飛龍偃月刀を肩に担ぐ。

 隣に寄る副官の臧覇は、苦笑しながらそんな彼女に話しかける。

「『曹』の旗ということは、あれが有名な曹孟徳ですか。……手強い相手ですな、張遼殿」
「ウチが思うに、烏合の衆の連合軍の中でも一番に軍行動がまとまっとる。……ああも無防備を晒しとるけど、きっと突撃したら何かの罠があるんやろな?」
「はい。……ですが、罠とわかっていても放置は出来ませぬ。何と言っても、董卓さまの脱出の妨げになるやもしれません故……」
「……ちっ、厄介な相手やな」

 霞は思わず舌打ちをしてしまう。

 ただでさえ劣勢の戦いだというのに、臧覇の言う通りに最悪の可能性も考慮する必要があるのだから。

 敵の真の狙いが何処にあろうとも、まずは一当たりしなければならないだろう。

「……せやな、騎馬だけでまず突っ込むか。どんな罠があろうと、ウチがその罠ごと曹操の頸を食い千切ってやるわ。臧覇は騎馬以外の兵をまとめて指揮を、ウチらの突撃に合わせて曹操軍の足を止めてくれるか?」
「――御意! 『神速将軍』の勇名は騎馬のみにあらず、と敵に刻み付けてやりましょう!」
「言ってくれるやないか、臧覇! 曹操軍を食い破ったら、そのまま敵本陣に止めを刺してやるでぇ!」
「ははっ! この臧宣高、最後まで張遼殿に御供しましょうぞ!」

 臧覇の掲げた槍と自身の飛龍偃月刀を軽く打ちつけると、霞は馬首をこちらを迂回していく曹操軍へと向ける。

「皆聞けぃ! これより迂回する敵の側面を突く!」

 飛龍偃月刀を敵方向へと突き示す。

「無防備な横っ腹を晒してる奴らに、并州騎兵の恐ろしさ……存分に味合わせてやりぃ! 全軍、突撃にぃ、移れぇっ!」

 霞の号令に、張遼軍が矢のように飛び出して行く。歩兵はともかく、霞を先頭にした騎兵はまさに神速の如くである。

 今ここに、『神速将軍』張文遠による『神速の大号令』が大地に轟いた。





 曹操軍と張遼軍が動き出した頃、連合軍の前衛でも事が動き出す。

 虎牢関で呂布を目の当たりにした袁紹に代わって、対洛陽戦の最前衛に名乗り出たのは袁術だった。そしてその正面に対峙するのは真紅の『呂』の牙門旗、虎牢関でその『天下無双』の名を轟かせた呂布が率いる軍である。

「――でもいいの、袁術ちゃん? 正面にいるのはあの呂布なのよ?」

 客将としてついていかざるをえない雪蓮としては、あまり無謀な行動は遠慮したい。

 かといって表立って断ることも出来ないので、せめてその真意くらいは探っておくべきと戦端が開かれる前に袁術の本営を訪ねていた。

 孫呉の軍師である冥琳は、上手く袁術と呂布をぶつければその戦力を減らせると、袁術の進軍命令には反対しないようにと雪蓮に言っている。しかし、雪蓮にはどうにもその行動に不可解さを感じていた。

 雪蓮風に言うのであれば、嫌な『勘』が騒ぐのだ――こういう戦術は袁術らしくない、と。

「なんじゃ、孫策? 妾に策がないとでも考えておるのかえ?」
「――えっ? い、いや……えっと、何か策があるの?」

 あの袁術から策という言葉を聞いた雪蓮は、あまりのことに呆然としてしまった。

 慌てて取り直すそんな彼女を見て、くすくすと笑うのは袁術の腹心の張勲。

「ふふふ……非常に簡単な策ですけどねぇ、孫策さん。私達の兵はこれまで大して傷ついていませんから、単純に『人海戦術』で押し切ろうかと……」
「……そんな無謀なことに兵がついていくかしら?」

 その張勲の笑い方に、何か嫌なものを感じた雪蓮は疑問を問いかける。

「もちろん孫策さんの言う通り、ただ『死ね』と言われては兵も脱走するでしょうねぇ。ですが相当のご褒美……董卓軍の名のある将を討ち取った者には、たとえ民衆上がりの雑兵でも袁家の将軍に任命する。そのような餌をチラつかせたら、愚かな雑兵さん達大張り切りでしたよぉ~?」
「…………っ!?」
「うむ、流石は七乃なのじゃ! 『じんかいせんじゅつ』などと格好いい策を閃くのじゃからな!」
「いえいえ、お嬢さま。それほどのことでもないですぅ~♪」

 にこにこと笑う二人を見て、雪蓮の背筋を冷や汗が流れる。

 張勲の言葉を全く理解していない袁術にも驚いたが、その腹心の採った策の恐ろしさにはそれ以上に驚愕した。

 確かに袁術の率いる一般兵では、あの呂布軍を相手にするのは無理がある。だがそれは、あくまでもそのままだったらということだ。

 そこへ思いがけない栄華を得る機会が訪れたとしたらどうする?

(人間なんてものは、基本的に自分の欲望に忠実な生き物……それこそ死に物狂いにもなる、か)

 かつてない栄華を約束された人間が、限界以上に能力を振り絞ることはありえる。窮鼠猫を噛むではないけれど、死兵並みの力を発揮することは可能だ。確かに袁術が有する数万の兵全てを代償にすれば、あの呂布を討ち取ることも出来るかもしれない。

 呂布とて全身を鉄の鱗で覆われた化け物ではないのだから、首を切られれば死ぬ。首を切れぬまでも身体の何処かに斬りつけて、その出血を強いるというのも手だ。無論その体力も無限ではないだろうから、その疲労を待つことも出来る。

 後でその口を塞ぐ算段があれば、卑怯にも毒を使うこともあるだろう。

 何にせよ、この戦いは数多くの命が失われることは確実。

「確かにそれだけの士気の高さがあれば、あの呂布軍を相手に戦えるかもしれないけど……相当の被害が出るわよ?」

 自分という危険な客将を内に飼っている袁術が、こうも陣容を手薄にする意味がわからない。

 そんな雪蓮の心中を嘲笑うかのように、張勲は哂う。

「あら? 孫策さんとしては、私達の戦力が削られる方がいいのではなくて?」
「……何のことかしら?」

 袁術から少し離れ、雪蓮の側まで来た張勲は小声で囁きかける。

「別に私達に反旗を翻してもいいのですよ? 天下に『裏切り者』の名を轟かせたいのなら、ねぇ?」

 孫呉独立を狙う雪蓮としては、いつまでも袁術の客将ではいられない。

 隙を見て独立してやろうと思ってはいたが、暗愚な袁術の腹心にそれを見透かされているとは思わなかった。いつも袁術の我が侭を、良い様に聞いているだけの将かと思っていたからだ。主に見せない所でのその顔には、雪蓮すら冷や汗を掻くような『腹黒さ』が感じられる。

(ちっ、確かに独立を掲げるのはあくまでこちらの都合。世論的に見れば、独立なんてものは裏切りにしか見えない、か。まさか向こうが、あえて戦力を減らすことで無為に反旗を示唆してくるとはね……)

 つまり雪蓮達が袁術の無謀を見過ごすことは、世論的に後の裏切りの為の準備だと思われかねないということ。

 それはつまり、遠回しな脅迫に他ならない。

「……わかったわ。私達に何をさせるつもり?」
「別に何も~? うっかり手を抜いてると足元を掬われない、と心優しい私は忠告してあげただけですよ」

 満面の笑顔で答える張勲。

 思わずその顔面を殴りたい衝動に駆られる雪蓮。しかし、袁術の面前である為…………歯を食いしばって耐える。

「――この狸がっ!」
「いえいえ、そんなに褒められると照れてしまいますぅ~♪」

 雪蓮の吐き捨てるような毒舌にも、彼女は全く動じない。

 彼女をうっかり過小評価している冥琳達の言を聞かず、自分の感じた嫌な『勘』を信じて袁術の本営に寄って正解だった。

 確かに袁術は変わらず暗愚だったが、その腹心の真の姿を垣間見れたのは僥倖である。下手をすれば、天下に孫呉の名どころか裏切り者という汚名を轟かせるところだったのだ。張勲の腹芸に騙されそうになったのは癪に障るが、いずれ倍以上にして返してもらえばそれでいい。

 とにかく今後の対策の為にも、雪蓮は一度冥琳達の所に戻る必要がある。

「……自軍に戻るわ、袁術ちゃん」
「なんじゃ? もう戻るのかえ?」
「だって呂布が相手なんでしょ? 流石に私一人じゃ相手できないし、何人か将を連れてくるわ~」
「うむ! よきにはからえ、なのじゃ! それと七乃、麗羽のところには一応伝令を出しておくのじゃぞ?」
「は~い♪」

 相も変わらず蜂蜜水を飲んでいる袁術という少女は、ある意味幸せなのかもしれない。

 底の読めない張勲の真意が何処にあるのかはわからないが、既に一人では背負いきれないような『業』を抱えてしまっている袁術という少女。おそらくまともな精神では、そんな『業』の重圧には耐え切れないだろう。だが『無知』という彼女の欠点こそが、唯一そんな彼女を重圧から救っているという矛盾。

 同情はしないけれど、雪蓮の彼女達に対する認識が少し変わった瞬間だった。





 ――袁紹軍大本営。

 動き始めた戦況を聞いた麗羽は憤っていた。

「――全くもうっ! 華琳さんも美羽さんも、一体何を勝手なことばかりしているのかしら!?」

 傍に控える猪々子と斗詩も彼女達の勝手な行動には呆れていたが、呂布との戦いの痛手を考えると主を介して袁紹軍を動かしたくはない。

 特に猪々子は呂布に強打された肋骨は、罅が入るどころか普通に折れていた。一般兵より遥かに頑丈な猪々子でさえこうなのだから、もし一般兵が同じ目に遭っていたらきっと身体を貫かれていたに違いない。……つくづく化け物染みた相手だ。

 両肩に痛手を負った馬超とは違い、猪々子は最悪痛みを堪えれば馬には乗れる。しかし、得意の大剣を振り回すことは無理だった。

 そして猪々子よりは軽傷だが、斗詩もまた呂布により地面に強く叩きつけられている。打ち身擦り傷程度ではあるが、あの呂布を相手に万全でない状態で挑むのは勘弁してほしい。というよりは、二度と再戦したくないというのが斗詩の本音だった。

 思わず飛び出しそうな勢いの主を、文字通り身体を張って止める。

「まあいいじゃないっすか、姫。彼女らも勝てる採算もなく、自軍を動かしたりはしないでしょうし~」
「そうですよ、姫。……それに恥ずかしながら、私達は怪我人です。仮に袁紹軍が進軍したとして、再度呂布さんを相手に姫を守ることは出来ません。お願いですから、正面に進軍しようなんて無茶はお止めくださいね……」

 己が不甲斐無さを盾にしてでも、何とか麗羽の癇癪を抑えようとする二人。

 そんな二人の説得に、渋々ながらも麗羽は納得していく。

「……わかってますわよ、無茶だってことぐらいは。でもわたくしの、大事なあなた達を傷つけた相手をただ放っておくなんて……」

 そう言って麗羽は顔を俯かせる。

 いかに尊大で我が侭な彼女だろうとも、小さい頃から一緒に居た大切な二人を傷つけられたのは堪えた。そしてそんな場面に居合わせながらも、主である自分はただ呂布に恐怖していただけだったのだから。

 そのことが、一体どれだけ麗羽に無力感を与えたのだろう。

 いつもの尊大な態度を陰に潜ませた麗羽は、猪々子達から見て庇護欲をそそられるものがあった。

「……麗羽さま、あたい達は生きてるよ」
「そうですとも。大事な麗羽さまを置いて、先に逝ったりなんかしませんから……」

 思わず三人で抱き合いながら、幼い時に誓った言葉を思い出す。

「猪々子さん、斗詩さん…………ぐすっ」

 涙目で二人を抱きしめながら、麗羽はその真名を何度も何度も呼び続けた。

 天幕の外に控えて聞いていた部下達も、そんな彼女達を取り巻く空気を可能な限り読んで行動する。つまりは今の麗羽達がいる天幕に、余計な邪魔が入らないように完全な人払いをしたのだ。……その無駄な人員を遺憾なく発揮して、である。

 ――そう、董卓軍と連合軍の戦況を告げるべき伝令すらも。





 そんな袁紹達の美談のような迷惑に、一番窮地に追いやられたのは左翼を担当していた劉備軍だった。

 正面の呂布軍を相手にしているのは、大軍を保持していた袁術だから兵力差的に全く問題はないだろう。そして張遼軍とも単独で戦える曹操軍とは違い、袁紹に兵を借りている劉備軍とでは状況は異なる。

 要するに、左翼で華雄軍の猛攻を受けて苦戦中。

「――え、袁紹さんからの指示はまだないの!? 愛紗ちゃん達が前線で頑張ってるとはいえ、私達の兵力では無理があるよぅ~!?」
「はわわ……お、落ち着いてくだしゃい、桃香さま! 現在我が軍は押されてはいますが、愛紗さん達の頑張りでまだ保ちましゅっ!」
「あわわ、桃香さまも朱里ちゃんも少し落ちちゅいて……」

 前線で武技を発揮出来ない桃香と、軍師である朱里と雛里は後方で伝えられる戦況に慌てていた。

 少なくとも兵力差は圧倒的に劣勢……そして連合軍として全軍が陣形を組んでる以上、汜水関の時のような陽動作戦を採ることは出来ない。しかもこちらが予期せぬ時期に勝手な開かれた戦端、その瞬間を狙われ華雄軍に噛み付かれたので策を練る暇がなかったのだ。

 勇名轟く愛紗達が前線で支えているからこそ、何とか戦線を維持出来ている状況である。

「そ、それにしても不思議だね? 汜水関の時はあれだけ簡単に突出してきた華雄さんが、一度も前線に出てこないなんて……」

 桃香の疑問は、傍に控える軍師の二人も同感だった。

 こちらの前線には愛紗達が散々に出ているというのに、華雄は自軍の奥で指揮を執ったまま出てこない。……突出してくれれば、一騎討ちで彼女を討ち取ることで劣勢を覆せるのだが。挑発しても応じる様子がないと前線から報告を受けている。

「と、とにかく! このままだと兵の消耗が激しいですので、連合軍の本営に援軍の伝令を……」
「で、でも、朱里ちゃん? あの尊大な袁紹さんが、素直にこちらに援軍を送ってくれると思う……?」

 朱里の言葉に桃香が不安を唱えた。

 もちろん軍師である朱里もその危惧を想定しなかったわけではない。

「桃香さまの危惧も確かなのですが、現状では他に採れる手は……」

 冷静に状況を分析しようとする朱里だったが、無限に兵が湧いて出る壷などを持っているわけではないのだ。

 それに連合軍の一員として、援軍の要請は妥当ではある。……盟主の人柄さえ考えなければ。

「……そうだっ! 雛里ちゃん、確か連合軍は当初は攻城戦を想定してたから、白蓮ちゃんの軍を後方に待機させてたよね?」
「は、はあ……騎兵は攻城戦の役に立たないから、と。ただこの現状で、待機したまま動かない理由はわかりませんけど……」

 騎兵を多く有する張遼軍に対する遊軍かと思っていたが、それには曹操軍が当たっている。

 ならば劣勢な左翼の劉備軍の援護に来てもおかしくはない。それなのに待機している軍が一向に動く気配を見せないことに、朱里と雛里は何か不安を感じていた。

 しかし、親友である公孫賛を信じる桃香は細かいことは気にしない。

「――じゃあ、白蓮ちゃんに援軍の要請をっ!」

 そう言って後方に伝令を命じる桃香。

 連合軍盟主ではない桃香からの、同格である諸侯への援軍の要請。それは下手に邪推しなくとも、立場上では一応越権行為と呼ばれるもの。

 本来ならそれを抑制すべき朱里達だったが、現状を打破するには盟主である袁紹よりも主の親友である公孫賛を頼った方が確実で早い。前線で次々と散っていく兵の為にも、早急に危機を対処しなければならない焦りが、その通すべき筋を通すことを一度だけ怠る。

 つまりは盟主である袁紹よりも先に、後方へ待機した軍に指示を送るという越権行為を犯す。

 実際に袁紹は自分達のことを考えるあまり、後方に待機させた友軍の存在を忘れていたのだから、そういう対応も無理もない話ではある。

 ――しかしそれは、連合軍として参加している劉備軍の越権行為を正当する理由には成り得ない。





 劉備軍から援軍の伝令を受けた公孫賛は、すぐさま援軍を送ろうとした。

 しかし、賓客として控えていた魯粛がそれを止める。

「お待ちください、公孫賛殿。劉備はこの連合軍において貴女と『同格』、援軍を指示される謂れはありません」
「――魯粛っ!? 桃香からの伝令は、こちらへの指示ではなく協力の要請だぞ!?」

 友軍の危機に向かおうとしていた意気を挫いた魯粛を、公孫賛は睨みつけた。

「協力だろうと何だろうと、同格の諸侯に指示されていることには変わりませんよ。一応の盟主である袁紹からの指示が来ていないというのに、同格の諸侯の要請に勝手に応じる気ですか? それは連合軍の盟主に対する『越権行為』ということに他ならない……」
「友軍の危機だろう!? 指示を出さない袁紹が悪いのであって、それを越権行為呼ばわりされる謂れこそない!」
「ちょ、ちょっと、伯珪様も落ち着いてよ~?」

 二人の様子が険悪になりそうな所で、その間に馬岱が割り込んでくる。……一応は非力な魯粛の方を庇う形で。

 どうでもいいが世間一般的には男である魯粛が、見た目少女な馬岱に庇われる形というのは情けないことこの上ない。まさに駄目男の象徴とでも言ったところだろう……まあ真実には、魯粛の身体は女性体なのだが。

「……でも伯珪様には悪いけど、どちらかというとたんぽぽも魯粛さんの意見に賛成かな~?」
「――っ、馬岱まで何を言っている!?」
「だってたんぽぽ達は、自分の州を代表して『連合軍』として参加してるんだよ? その連合軍としての筋を通していない劉備の、勝手な援軍の要請に応える義務も義理も無いと思いますけど~?」

 どんな理由があろうとも、連合軍として参加している以上盟主を差し置くことは許されない。

 しかも、その盟主を決める切欠を作ったのは劉備だという。なればこそ、尚更劉備軍はその責任からきちんと筋を通す必要がある筈だ。

「公孫賛殿……私も別に『見捨てろ』と言っているのではありません。ただ筋を通さない越権行為に乗ることは、無意味に公孫賛軍全体を不利に陥れる……幽州の代表としては、そのような愚考を採るべきではないでしょう」
「――魯粛、貴様はっ! 私が親友を助けに行くことを、愚考だと言う気か!?」

 一応は穏便な正論のつもりで説得しているが、どうにも弁論中は本来の『魯粛』の地が出てしまう。

 そんな魯粛の説得を聞いた所為か、公孫賛は頭に血が上ってしまって一向に落ち着く様子を見せない。かといってこのまま彼女を不利な立場に追いやるのは、世話になった魯粛としては不本意なことだった。

 助けを求めるように馬岱の方へ視線を送る。

 馬騰の教育が相当に行き届いているのか、馬岱の方は魯粛が最終的に言いたいことを理解しているようだ。公孫賛の波を荒立てない程度に、こちらを支持してくれるあたり間違いはないだろう。

「連合として『盟主』という代表を立てることは、決められた『約定』を各々が守りまとまる為でもある」
「……ば、馬岱?」

 突然真面目な顔をして話す馬岱に、公孫賛は驚きを隠せなかった。

「……あのね、伯珪様? 西涼の地はおば様を盟主とした、多くの諸侯の集う国の連なりなの。その中でたんぽぽも、文約お姉様とか仲の良い人は一杯いる。でもね? 例えば五胡との戦いでたんぽぽの軍が危機に陥ったとしても、文約お姉様達はおば様に許可無くそれを助けに動いたりはしないの。その勝手な救援の所為で、連合軍全体を危険に晒す可能性も出てくるわけだからね~」
「そ、そんな……」
「伯珪様は、西涼連合のそんな仕組みを『歪』だと思います?」

 ただ決められたルールだけを守る……それは全体の視野で考えれば、行動の幅を狭めることに他ならない。

 しかし、ルールを限定することでその団結を強化することにも繋がる。

「だ、だがその例えは、今の現状とは全く異なるだろう?」
「そりゃあそうですけどね……ただ各々の現場の判断ならともかく、劉備『から』援軍の要請に応じることはその範疇じゃないとたんぽぽは思いますけど~?」

 もちろん魯粛も、根っから人の良い公孫賛にそれを強要するつもりはない。

 確かに公孫賛と劉備の友情はとても美しいことかもしれないが、それを戦時にまで持ち出すのはナンセンスである。しかもそれを多くの兵を率いる将が、率先して行動するなんてことがあってはいけない。将たる者が目先の感情だけで動いては、率いられる兵達が迷惑するというものだ。

 まあ連合軍の賓客にすぎない魯粛が、そこまで突っ込める立場ではないのだが。

 虎牢関での献策という『縁』がなければ、魯粛もわざわざここまで深く付き合わうことはなかっただろう。

「公孫賛殿、要は建前として劉備の援軍要請を断ればいいだけなのですよ……問題はその一点だけなのですから」
「建前として?」

 今一度深呼吸をして、『魯粛』を抑えながら説得を続ける。

「その上で連合軍の本営に伝令を出します。……内容はそうですね、『遊軍である公孫賛軍は、独自の判断により連合軍を援護する』とでもして下さい。そうすることで、初めて現状独自に動いている曹操や袁術と同じとなるのですよ」
「――あっ!? そ、そういうことか!」
「もう~っ! 伯珪様ってば鈍すぎだよ~。回りくどい言い方の魯粛さんもどうかと思うけど、一国の主なんだからこれくらいの腹芸はこなさないと~!」
「……す、すまない」

 プンプンと頬を膨らませる馬岱が言うことは、おそらくそのまま馬超に当てはまることなのだろう。

 その苦労性には頭が下がるというものだ。……別に彼女の部下ではないけれど。

「では劉備の担当する左翼が崩壊しないうちに、手を打つとしましょうか。……馬岱殿?」
「はいは~い♪ 西涼軍はいつでも出撃できるよ~。あ、もちろん伝令はちゃんと本営に出すからね~?」
「それは重畳。……公孫賛殿もそれでよろしいか?」
「わかった……桃香の伝令は返して、それと同時に連合軍の本営に伝令を送る。そういう筋をきちんと通してから、西涼軍と協力して劣勢の左翼を援護する……それでいいのだろう、魯粛?」

 ――はい、よく出来ました。

 出撃する二人に、魯粛は当たり障りの無い言葉を送る。

「――お二人共、どうか気をつけて」
「うむ、行ってくるぞ!」
「行ってきま~す♪」

 馬超の調きょ……もとい教育の際にも思ったが、こうして物事の理性的に分別出来る人柄は素晴らしい。世の中には言葉で説明しても理解出来ないような野盗もいれば、頑固な性格から聞く耳を持たない人まで数多くいるというのに。

 公孫賛も馬岱も総合力で見ると『地味』ではある。しかし、下手に軍事的才能や人心掌握能力に特化した英雄よりは、普通に継続してに民を治められる『君主』としての才覚があると魯粛は思う。

 確かに稀代の英雄を君主に持つ方が、さぞかし魅力的に思えることだろう。

 だが稀代の、ということは稀少であることと同義。そんな英雄が二代も続く確率は限りなく低い。

(それは『三国志』という歴史が証明しているし、だからこそ劉備や曹操の天下というのはちょっとな~。……どちらかというと、まだ孫呉の孫家代々を支えていくという方針の方が楽そうな気もする。まあ二代分も長生き出来るとは思わないけどな……)

 個人的に思う劉備や曹操の二勢力と孫呉の勢力との違いは、あくまで『国』としての土台の部分のみ。

 『小覇王』孫策が若くして命を落とさなければ、いずれ孫呉は曹操に台頭して天下を取ることも可能だろう。ただ『小覇王』と呼ばれるような気性の孫策が、西楚の覇王の二の舞を踏むかもしれないという危険もあるが。

 そこは断金の誓いの『美周郎』に期待すればいいだろう。そちらも長生きさえしてくれれば、その心配も杞憂となる。

(……そうするとやはり、魯粛的にも孫呉が一番無難なのかね?)

 色々な意味での保険に名士グループとの繋がりを増やしているが、今の所は後の孫呉に組する地域が圧倒的に多い。

 あとは孫家が袁術から独立してくれれば、そちらへ流れることはわりと簡単なのだが……魯粛が得ている情報からは、いま少し時間がかかりそうだ。

「……まあ、別に急ぐことでもないか」

 二人が立ち去った天幕を見ながら魯粛は呟く。





 ちなみに全然登場しなかった馬超。

 彼女は敵が野戦決戦挑むつもりらしいと聞くと、馬岱の制止を振り払って出撃しようとした。

 だがいい加減マジギレした馬岱に、痛めてる両肩を強く掴まれ悶絶している間に捕獲される。まさに『馬の耳に念仏』状態に業を煮やした馬岱は、従姉である馬超を動けないように緊縛する…………が、這ってでも突撃しようとする馬超に呆れた魯粛は最後の手段を採ることに。

 それはずばり華佗御用達の麻沸散の投与。

 自分が抱えている症状用に余分に持ってきていた為、頭を抱える馬岱を見るに見かねてそれを使用することにしたのだ。流石の錦馬超でも、医療チートである華佗御用達の麻沸散に耐えられるわけもなく見事に昏睡する。

 その効き目の素晴らしさに、対従姉の暴走用に分けてくれと馬岱にせがまれたが……これは魯粛の命綱でもある為、今回だけの分与のみとした。

「お願い、魯粛さん! お姉様の暴走用に是非とも『麻沸散』を~っ!」
「あ~……うん、検討しときます~?」

 美少女の馬岱の涙目&上目遣いという究極のお願いコンボに思わず轟沈しそうになるが、側に居た公孫賛の冷めた視線で我に返る。

 いずれ華佗を西涼に向かうように示唆するので、そこで交渉してもらうことで何とか納得してもらった。

 それにしても、と魯粛は思う。

(何故この世界の女性陣は、誰もが無駄に積極的なのだろうな~? 全く以て『女』の身体であることが恨めしい……)

 もし本当に男性体だったら、まさに魯家はハーレムそのものだろう。

 世間一般的には既にそんな感じなのだが、実際にはただの女所帯にすぎない。いっそのこと百合にでも目覚めれば、気分もすっきりするのかもしれないが。

 それはそれでびびってしまう魯粛は、紛れも無く小心者だった。



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