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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」
Name: ユ◆21d0c97d ID:b74c9be7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/04 17:37


 ――公孫賛陣営天幕。

 地形図を広げた机を数人が囲んでいる。

「……しかし、敵の狙いがよくわからないな」

 そう呟いたのは、この天幕の持ち主である公孫賛。

「だよねぇ~? 戦略的に見て、あの要衝虎牢関を放棄するなんてありないもん」

 眉間を顰めて腕を組むのは、馬超の怪我により一時的に西涼軍を率いることになった馬岱である。

 まあ馬超に関しては、あの呂布を相手に一対一で命があるだけまだマシかもしれない。ただ両肩へのダメージから考えて、馬に乗ることも部隊を率いることも従妹の馬岱からドクターストップがかけられている。

「え~っと、施然だっけ? お茶のおかわりもらえるか?」
「はい、馬超様」

 本日の給仕役は太史慈ではなく施然、小柄な彼女が給仕服を着てパタパタ動くのは見ていて和む。まあ口調と表情が硬いが、そこはギャップ萌えということで。

 それにしても施然が相手をしている馬超の両肩には、幾重にも包帯が巻かれていて見るからに痛々しい。

 しかし自軍の天幕で大人しく休んでいればいいものの、あまりの暇さに馬岱についてきたという馬超。馬に乗れないくらいの怪我だというのに、この天幕で寛ぐその姿……どうやら思った以上に頑丈な身体をしているようだ。

 というより、人様の使用人を平然と使わないで欲しいものだが。……厄介になっている立場として口にはしないけれど。

 そんな自由奔放な馬超の存在はスルーすることにする。

「虎牢関を放棄せざるをえない事態……おそらく鎮圧しきれない反乱でも洛陽で起きたのでしょう。何せあちらには内外に敵が多すぎる」

 董卓の内憂というと宦官あたりか……しかし十常侍のような宦官達は、霊帝崩御の後の権力争いに巻き込まれて粗方処分されていた筈。まあ、あのような悪党共を完全に根絶するのは難しいだろうから、上手く潜伏していた連中が騒いでいるのかもしれない。

 実際世論的に董卓に味方する者は限りなく少ないだろうし、檄文にあった文官の大粛清の影響などで都の中には相当の不穏分子を抱えている。そもそも軍部の統制を、ここまで執れたこと自体が不思議と言ってもいいくらいだ。

 その辺を考慮すると、連合軍を相手させることで董卓の周辺の人材を割くのが目的か。手薄になった董卓の頸を取り、洛陽を解放に来た連合への土産として己が命を買う……といったところだろう。本来ならもう少し余裕を持って行動したのだろうが、予想以上に連合軍は早く『勝ち』すぎた。

 まともに汜水関から篭城をしていれば、こんな短期間で虎牢関まで抜かれることは普通ありえない。

(……そうなると、保身の為に行動を急いたか)

 まあ連合軍の都合はもとより、魯粛自身の安全や個人的な体質の都合から考えて気楽な短期決戦は丁度良かった。

「なるほど、つまりは戦略外の事態ということか。それなら私達がどうこう考えても仕方ないし、最終的には麗羽の奴が決めることだからな。しかし今度こそ普通に篭城決戦だろうから、騎兵主体の我が軍は肩身が狭いなぁ~……」

 洛陽での決戦のことを考えて、公孫賛が深い溜め息をつく。

「それを言ったら伯珪様、たんぽぽ達も同じですよ~? しかもこっちの場合、総大将のお姉様が負傷で役に立ちませんし……」
「何だと、たんぽぽっ! あたしだって好きで怪我したんじゃ――っうぼぁ!?」
「……はいはい、お姉様~? 患部を軽く触られて、悶絶するような怪我人は黙っててね~♪」

 皆が真面目に話し合っているというのに、一人だけ寛ぐ従姉の患部をぎゅっと掴み黙らせる馬岱の手腕は見事なものだ。……当事者は堪ったものではないだろうが。

 公孫賛と同様に、騎兵主体の軍を率いることになった馬岱もその意見に同調する。騎兵が攻城戦の役に立たないのはもはやお約束。

 個人的に突っ込むのであれば、少なくとも集結地の指定から汜水関と虎牢関を相手にすることは分かる筈。それを踏まえた上で、いくら自勢力の主力だからといって騎兵を主体にし、攻城戦を想定していない陣容は如何なものだろうか?

 もし連合軍全体が騎兵ばかりだったらどうしたのやら。

「まあ公孫賛殿と馬岱殿が心配することもわかりますが、あまり気にすることはないかと。元々適当な大義名分を掲げただけの戦にすぎませんし、無駄に戦力を消耗することもないですよ。それにちょっぴし頭が可哀想な袁紹でも、攻城戦で騎兵に城壁へ突撃しろというふざけた指示は出さないでしょう」

 そのように軽口を利くものの、魯粛の心の中にはある懸念が尽きなかった。董卓軍にいるという二人の軍師、賈文和と陳公台。歴史的にその人物像を知っている魯粛としては、その策謀を考慮に入れないわけにはいかない。先程公孫賛が言ったように、定石通り篭城してくれるなら構わないのだが。

 しかし、相手はこの時代において生粋の名軍師達。

 こちらの意表を突く形で、洛陽目前での野戦決戦などを挑まれるかもしれない。

(崖に挟まれていない広々とした地形に、董卓自慢の并州騎兵……しかもそれを率いるは天下無双の飛将軍や神速将軍。曹操であればその危険性くらい想定しているだろうが、今の連合の盟主はあの袁紹だからな~……限りなく不安だ)

 何と言っても度重なる連勝、しかもあの二つの要衝相手の快勝である。野戦でなら負けはないと驕っている今の連合軍に、どんな諌言をしても却下されることは明白だ。むしろ勝勢に沸く気分を害したと非難されかねない。

 ただ虎牢関での呂布無双を目の当たりにしている所為か、若干袁紹軍の進行スピードは浮き足立っている……まあ無理もない話だが。

 普通に考えたら確かにこの状況で、敵が篭城以外の手をとる可能性は限りなく低い。

 ――だが『ゼロ』ではないのだ。

 あの賈駆や陳宮を前にして、最悪の事態を想定しないのは愚か者のすることである。……あくまで歴史的な流れを知っている者として、だが。

(――はっ!? 自分でも気づかない内に、何か参謀みたいな真似事してる!?)

 ふと自分の立場を思い出し嘆息する。今の魯粛の立場はただの賓客にすぎないというのに。

 まあこれだけ武官ばかりの集まりでは、魯粛ですら参謀に見えてもおかしくはない。

 ――他の正式な参謀には失礼な話だろうが。





三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」





 ――洛陽城内大広間。

 そこへ集まっている者の表情は硬い。

「……ごめん、虎牢関を連合の手に落とさせたのはボクの失策だわ」

 眼鏡をかけた少女……賈文和こと詠は頭を下げる。

 虎牢関での初戦を上手く逆手に取られたとはいえ、要衝での篭城戦が出来ない程の大損害を受けてはいなかった。大軍を相手にしてもそれなりに時間を稼げた筈なのだが、霞達は洛陽からの急報により急遽撤退することになる。

 その急報とは洛陽での反乱分子による一斉蜂起。董卓軍の軍部を司る霞達が対連合軍に向かった隙を突き、文官整理の処分を受けた連中が結託して襲い掛かってきたのである。幸いに全ての兵を空にしたわけではないので、主である月を守ることは出来た。

 しかし狡猾な宦官の残党も参加していたことから、残存兵力では完全に鎮圧するには至らない。

「まあ虎牢関の件は間が悪かったのです。……それより、月殿に何事も無くて何よりなのですよ」

 詠の失策を擁護するように、ねねが月を労う。

 自分達の主である月の護衛が最優先だが……都には天子という存在がおり、それを混乱の際に殺されたりして失っては董卓の悪名は増すばかりである。故に朝廷方面にも護衛の兵を割かねばならず、残った兵をさらに分散させる結果となったのだ。

 恋のような猛者が一人でもいれば少しは対応も違ったのだが、生憎と何処かの誰かのように撃剣の使い手でない詠もまた護衛『される』側だった。

 十数万もの兵力で攻めてくる連合軍を相手にする霞達に、せめて迷惑をかけないように必死に取り締まっていたのだが、汜水関が早々に落ちたという知らせで更に活性化してしまう。自身の保身の為に『魔王董卓』の頸を上げることに必死な連中に、遂には対処しきれなくなってしまったのだ。

「……ありがとうございます」
「気にせんでええよ、月。皆、好きでやっとんのやから」

 頭を下げる月に、霞は軽く手を振って笑う。

 やむなく虎牢関から呼び戻した霞達によって、反乱分子は悉く始末された。だがその結果、連合軍にあっさりと虎牢関を明け渡すことになる。

 まもなく大軍がここ洛陽に押し掛けてくるだろう。

(……状況は限りなく最悪。しかし、まだ手がないわけじゃない……)

 洛陽の防壁もけして脆いわけではない。

 残存兵力を結集して防衛に当たれば、連合軍の大軍が相手でもまだ五分以上に勝負出来る筈だ。汜水関や虎牢関では守るべき門は一つだから、敵もそこを集中して攻められた。しかし洛陽の城壁には四つの城門があり、敵はそれを包囲しなければならないから兵力が分散される。

 まあ、それはこちらも同じではあるが。

「それで? 詠殿はこの状況にどう対応するのですか?」

 小さい身体で威嚇するように両腕を振り上げて、もう一人の軍師であるねねが問いかけてくる。

「どう対応するも何も、この場合篭城するのが定石やろ?」

 董卓軍の軍部を統括している(本来は恋なのだが、基本的に彼女は無口故に霞が代行している)霞は、ごく当たり前の答えを出す。

 詠もその提案が妥当だと思っていた。だがしかし、それでは状況は悪化するだけなのだ。

 大局的に見ると、既に自分達は敗北していると言っても過言ではない。反董卓連合の檄文を公布された時点で、こちら側の正当性は失われている。仮に擁立している帝を介して弁解したとしても、全て専横としか見られていない現状では効果はないだろう。

「……少し待って」

 全ては霊帝崩御後の混乱の際に、宦官の誘いに乗ったことが全ての悲劇の始まりである。

 詠は主であり親友である月の人柄ならば、この乱れた大陸を正すことが出来ると信じていた。だからこそ狡猾な宦官を逆に利用する形で、董卓の名を天下に轟かせようとしたのだ。しかし現実というものは、詠の英知を以てしても簡単に操れるようなものではなかった。

 混乱する朝廷をまとめる為に文官を大幅に整理したことや、聡明な帝とよく相談して洛陽の統治をしていたこと。それらが名門である袁家を不快にさせたのか、事の全てを曲解させるような檄文の公布を許してしまう。都の混乱を抑えるのが精一杯だった詠は、流石に大陸全体への世論の流布を完全に防ぐことは出来なかった。

 結果として、世論的な意味合いから群雄諸侯はその檄文に乗り、予想以上の大軍を敵にすることになる。

 しかし、文官よりは協力的だった軍部を掌握出来たことは幸いだったが。

(被害を覚悟しての真っ向勝負で連合を打ち破っても、これだけ悪評が拡がってしまってはその後の統治はままならない……なるべく被害を出さないような勝利が必要。その為に敵兵站の崩壊を待つ長期戦を選んだのだけれど、汜水関に華雄を配置したのは失敗だった。まあその配置をしたのはボクなんだけど……)

 汜水関での華雄の暴走も、まとまりに欠ける筈の連合相手なら悪くない手だった。惜しむべくはそれを逆手に取るだけの策士がいたことか。

 しかも驚くべきは次の虎牢関の戦いである。

 前の敗戦で下がった士気を高揚しようと、定石通りの篭城戦をすると見せかけての奇襲を完全に読まれていたという。正確にはまた華雄が暴走したということだが、霞達に状況を聞いた時には耳を疑ったものだ。恋の活躍が無ければほとんど全滅しかけていたらしい。

 定石通りに考えれば、篭城して長期戦を狙っている敵が打って出てくるなんて普通は思わない筈だ。可能性の一つとして選択肢に加えることはあっても、実際に様々な諸侯が集まった連合軍がそれを行動出来るかというと話は別である。

 だが連合軍はそれをやってみせた。

(つまりは基本的には慎重だけど、いざという時の危険を回避すべき行動力を持つ軍師がいるということ? なんて面倒な……)

 そんな厄介な軍師が相手では、定石通りに戦うことに不安を覚える。

 特に詠は、そういう常識に囚われないような人間を相手にするのは苦手だった。本能的に戦をする恋よりは、それなりに自制の利く霞の方が相性が良い。

「……詠ちゃん?」

 長く沈黙を続ける自分を不安そうに月が見てくる。

 月の安全を最優先に考え、連合軍を敗北させる策が詠にはあった。もちろんそれは篭城戦ではない。

「賈駆っち? 何か策があるなら、はっきりと言いや」
「……正直この状況はもう覆せないわ。ただボク達が勝てないまでも、負けないことを前提とした策は……ある」

 少なくとも月がこれ以上危険な目に合うことは無い筈。

「――詠殿、もしかしてその策とは……」

 こちらの狙いに気づいたのか、ねねの表情が厳しくなる。

 当初は五分以上の兵力差だったが、連敗した今の董卓軍の兵力と士気は連合軍を遥かに下回る。霞や恋といった猛将が健在とはいえ、この状態で野戦による決戦はあまりにも分が悪い……と誰もが普通ならそう考える。

 ――だからこそ、あえて野戦を挑むのだ。

「洛陽城門前に霞と華雄の兵を右翼左翼に配置……恋は中心に配置して、全体の連携はねねに執ってもらう。……正面から野戦決戦を挑むわ」
「こ、この状況で野戦決戦やて!? 正気か、賈駆っち!?」
「……勝てないまでも負けるわけにはいかないのよ、ボク達は」

 流石の霞も、こんな無謀な策には動揺している。

 だが董卓軍の勝機は既に無く、連合軍の兵站の限界を待つ為の長期戦は瓦解していた。汜水関を早期に抜かれたことから、虎牢関防衛中に洛陽での反乱。……まるで天に見放されたかのような不運の連続である。

 このままでは世論的に『悪』とされた董卓は、確実に連合軍に討たれてしまうだろう。

 それだけは絶対に許すことは出来ないのだ。

「確かに詠殿の言う通りかもしれないのです、霞殿。何よりここで篭城するということは、月殿の統治を直に見て檄文に踊らされなかった洛陽の民衆達を、無闇な戦火に巻き込むということに他ならないのですぞ?」
「――ちっ! なるほど、ウチらに篭城をさせることでその民衆達からの最後の支持すら奪うか…………えげつない奴らやな」

 そう吐き捨てる霞だったが、戦術的には別に間違ってはいない。

 世論的にほとんどの人間が董卓を『悪』として見ていたが、実際に統治下にいた民衆はそんな噂には惑わされることはなかった。霊帝崩御からの混乱を考えれば、朝廷で働く文官が整理されたことなど民衆的には関係ない。むしろその混乱に乗じて現れた黄巾の残党から民衆を救ったのは、上手く軍部を統制した董卓なのだから。

 民衆とは、ただ自分達を守ってくれる者を信じるものだ。故にここで戦火に巻き込むことは、その信用を失うことに他ならない。

「……これ以上、月の悪名を高めるわけにはいかないのよ」

 必ずしも近くで戦うことが、民を守るということの全てではないのだから。

「その為にも、ねね達は『全軍』で出陣する必要があるのです。……そういうことでしょう、詠殿?」
「――ちょい待ち、ねね。『全軍』ということは月達も、か?」
「……いいえ、霞。月とボクは、霞達が連合と戦っている間に洛陽を脱出するわ」
「……え?」

 話を聞いていた月は、その言葉の意味を瞬間には理解出来なかった。

 向こうの目的は董卓の頸を上げることであり、それを成すまで止まることはないだろう。ならばその対象が逃げてしまえばいい。洛陽周囲の群雄は全て連合に参加しているだろうから、自分達を追跡するにも情報が追いついてこないだろう。

 洛陽を占拠された後に追跡しようにも、天子が存在する都で自身の欲望を自重出来るとはとてもじゃないが思えない。遠からず利権争いが起きるのは確実であり、つまりそれは反董卓連合軍の崩壊を意味する。

 少なくとも行方の知れない董卓を捜索する余裕はなくなる筈だ。

「まあ、洛陽を包囲されちゃあ脱出もままならんやろうしな。……後のことを考えればそれが最善、か」
「死ねと言うつもりはないけれど、可能な限り時間を稼いでもらいたいの。……頼める?」

 こちらを見る霞の表情は険しく、詠もまたその視線を受け止めて逸らさない。

 明らかに不利な戦場に行って、尚且つ時間を出来るだけ稼げとは……まさに『死ね』という言葉以外の何ものでもないだろう。詠の言葉の覚悟を受け取った霞は、その顔に不敵な笑みを浮かべる。

「こっちには恋もいるしな。可能な限りでええんやろ?」

 たとえ十万近い兵に包囲されようとも、天下無双の飛将軍と神速将軍が揃った董卓軍は無敵だ。

 軍師のねねもいるし、打撃力に定評のある華雄もいる。勝てないまでも、引き際さえ間違えなければ十分逃げ切れるだろう。

「ええ、それで構わないわ」
「……じゃあ、ウチらはそろそろ準備せなあかんから行くわ。月に賈駆っち、しっかり逃げや?」
「では恋殿、ねね達も行きますぞ」
「……わかった」
「……皆さん、どうか……」

 ――どうかご無事で。

 死地に向かう彼女達を、主である月は止めることはなかった。

 その心の中は深い悲しみに包まれていたが、それを言葉にすることは許されない。……頬を流れる涙を止めることは出来なかったが。

 自分の頸を差し出せば、おそらく他の者の命は助かる。しかし、そんなことを親友である彼女は許さないだろうし、ここまで月を想い戦って散っていった兵士達の為にも安易な『死』を選ぶことは出来ない。ここで犠牲になるであろう兵士達の想いも全て、己が業として背負っていかなければならないのだ。

 それがこの結果を招いた者の宿命である。

「ご主君」
「――え?」

 今までの話を珍しく自重して静かに聞いていた華雄が、月の側まで寄るとその頬に流れる涙を拭う。

 コホンと軽く息をついてから、膝をつき視線を合わせて正面から真っ直ぐに月を見つめる。

「先程張遼が言ったように、我らは好きで戦っているのだ。優しいご主君がそこまで心を痛めることはない。散っていった兵達のことも背負うのではなく、むしろ誇ってやってほしい……それこそがご主君の為に戦った彼らの望みなのだから」
「……華雄さん」

 不器用ながらも必死に慰めようとする華雄を見て、月は更に大粒の涙を流してしまう。

 そんな華雄を信じられないようなものを見る詠。

「うわ、華雄が何か気の利いたことを言った……?」
「失敬な! 私とて武人の誇りだけで生きているわけではないぞ?」

 とはいっても二度の暴走があるから、あまり説得力はないのだが。

 でも今の華雄の言葉は、間違いなく月の心の負担を軽くする言葉だった。……それこそ、二度の敗因が霞むくらいに。

「そうだ、賈駆。ここまで負けた一因である私が言うのもなんだが……」

 先を行く霞達を追うべく踵を返した華雄が、ふと思い出したかのように声をかけた。

「……何よ?」
「――時間を稼ぐのはいいが…………別に、相手を倒してしまっても構わんのだろう?」

 死地へと向かう仲間を気にかける月と詠を労う言葉は、思わず華雄を過小評価していた詠の涙腺すら緩ませる。……隣にいる月は既に号泣しているし。

 そんな頼もしい背中を見送りながら、詠はふと頭に浮かんだ不安を振り払う。

(き、気のせいよね? 華雄の背中に『死相』が見えたなんて……)

 詠は涙を拭うと、仲間の戦いを無駄にしない為にも脱出の準備を進めることにした。





 月達と別れて兵舎に向かう一行。

 その中で霞はふと疑問を問いかけた。

「あーところで、恋? 恋の大事な王国の連中はどうしたん?」

 恋は月の為とは別の、守るべき仲間の為にも戦っている。

「……ねねに任せた」
「はいです! 恋殿の仲間はこの都で最も信頼出来る方へと預けたのです。それは霞殿も知っている御方ですぞ!」
「ウチも知ってる? ああ、もしかして姫ん所か?」

 反董卓の檄文が公布されてからも、変わらずに公平に月達に接してくれた高名な文官の一人。

 その名は蔡邕、字は伯喈。

 清廉潔白な人柄から都では宦官に大層嫌われていたが、月達が後漢王朝の実権をある程度掌握した時に侍御史治中に任じられる。その後も能力の高さから侍中、左中郎将と異例の昇進を遂げた人物。また彼は歴史を多く好む者でもあり、史書などを書き綴っているらしい。

 名高い文人である彼は、味方が少なくまだ若い月達をよく助けてくれた。

 軍部寄りの霞達が交流が深いのは蔡邕ではなく、どちらかというとその娘である蔡文姫の方である。

 才女とほまれ高く音律に通じるという彼女は、常にその周りからの期待にいつも疲れていた。そんな折に、ごろつきに絡まれていた所を恋に助けられたことから、恋のことを『運命の人』と称して恋の家に通ってきたのだ。女と女でなんと不毛な、とか突っ込んではいけない。

 最初は感情の加減が効かず、同じく恋に心頭している(どちらかというと主従関係に近い)ねねと対立をしていた。しかし一応才女だった蔡文姫は、その分析能力から恋に好かれるだろう立場を導き出したのだ。

 具体的には「私、恋様の『ペット』になる!」、と何処からか犬耳尻尾を調達して装着した。もちろん首輪付きで。

 そのあまりの極端さにねねはドン引きした。当事者である恋は深く考えず、自分の王国の一員が『一匹』増えたくらいにしか認識していない。一部始終を聞いた霞は、本人がそれで満足ならいいやと流すことにした。

 親である蔡邕は娘の凶行に、密かに涙を流したとかなんとか。

「……あの変態はともかく、蔡邕様に任せておけば大丈夫なのです」
「まあアレな姫はともかく、蔡邕様はまともやしな。……変に連合に反発させない為の枷にもなる、か」

 蔡邕特有の清廉潔白な人柄から、檄文のような捏造をした連合と反りが合うわけがない。月達が脱出した後は、ほとんど無血開城で洛陽は連合の手に落ちる。董卓を支持していたからといって、問答無用で処罰することはないとは思うが、蔡邕の方から反発しては見も蓋もない。

 そういう意味では、恋の王国を預けることは一石二鳥の手とも言える。

 恋の王国を利用する形になってしまうのは心苦しいが、この件は彼女も同意してくれたそうだ。

「……霞?」
「いや、恋の仲間の心配がないならええんよ。目先の敵に全力で当たれるっちゅーことやしな!」
「霞殿は気楽でいいですのー? これからねね達は、二倍近い敵を相手にせねばならないというのに……」

 肩を竦めて言うねねに、霞は不敵に笑い返す。

「はん! 崖に挟まれた虎牢関の時と違って、今度の戦いは平原での野戦やからな。ウチらの騎兵の性能を嫌ってほど見せつけたるわ!」
「その意気ですぞ、霞殿! 連合の中の騎兵で最も注意すべきは西涼軍ですが、先の恋殿の活躍により総大将の馬超は動けませぬ。あとは地味な幽州の白馬義従とか聞いておりますが、そんな影の薄そうな軍など恐れるに足りないのです!」
「……恋、頑張る。皆も、頑張る」

 表面上は圧倒的に不利な戦いに挑もうというのに、歩く三人には迷いはなかった。

 それも当然のことだろう。

 どれだけの兵力差があろうとも、最後の勝負に物を言うのは『勝つ』という……断固たる意志なのだから。『勝てる』と思って浮かれているような連合と、守るべき者の為に戦う自分達とは覚悟の重さも違うというものだ。

 今ここに、虎牢関の時以上の乾坤一擲の矢が放たれようとしていた。



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