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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」
Name: ユ◆21d0c97d ID:b74c9be7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/25 20:49


 連合の先鋒劉備軍と汜水関の守将華雄軍が対峙しようとする頃。

 反董卓連合軍の最後方、その一つの天幕の中に良い香りが漂っていた。

「……美味いな、コレ」
「あ、お姉様もそう思う? やっぱり美味しいよね~♪」

 茶色の長髪を後ろで結び、白と緑を合わせた衣装を着る少女。

 その名は馬超、字を孟起。

 西涼の錦馬超と言われる程の有名人……後の蜀五虎将軍に名を連ねるだけあって、その『武』は素人目に見てもすごいとわかる。しかし、魯粛の傍にいた太史慈を見ての「勝負しようぜ!」の一言に唖然……どう見ても脳筋っぽいです、本当にありがとうございました。

 仮にも馬騰の名代としてやってきた大将が、いかにも脳筋っぽいというのはどうだろう?

 彼女の傍にいた利発そうな少女を見なければ、思わず「西涼に帰れ、馬鹿超」と突っ込んでいただろう。目的の役に立たない蛮勇ほど始末に負えないものはない。まあ口にしたら身体を両断される自信があるので、絶対に口にはしないが。

(その蛮勇が後の馬家の悲劇に繋がるのかも……)

 視線をちらりと馬超の傍の少女に移す。

 その少女は馬超をそのままサイズダウンしたような姿で、衣装は白と橙が基本となっている。

 彼女の名は馬岱、字は不明。※不明という字ではなく、記載不詳ということ。

 その武将列伝を語るのであれば、ぶっちゃけ「ここにいるぞ!」の一言で事足りる。そういう意味では演義での印象が強すぎる人物。正史の方でそのようなやりとりがあったかはわからないが、結果として魏延を討ち取ったことには変わらない。派手さには欠けるが地味な仕事を何でもこなす万能型、あの諸葛亮から多大な信頼を得ていた程の人物である。

 従姉である馬超の猪突さを、小悪魔的にからかいながらもいなしている手腕は流石だろう。西涼軍を代表する軍師とまではいかないが、部隊運用を任せるには十分と言える。あとはそこに馬超の驚異的な突撃力を加えればいい。

 まあ、商人にすぎない魯粛が語ることではないが。

「いやいや、少しは遠慮しろよ二人共。美味いのは同感だけど……」
「構いませんよ、公孫賛殿。こういう嗜好品は人に振舞ってこそ意味がある……ただ飾っておいても勿体無いでしょう?」

 彼女達が飲んでいるのは、徐州から魯粛が持ってきたお茶だ。

 どうせ攻城戦で出番がないのは同じだろうから、共に騎馬を駆る軍として交流……というか連携しておいてはどうだろうか?と進言してみたのである。実際に相当暇だったので公孫賛はすぐに西涼軍へ使いを出し、向こうも特に迷うことなくそれを受けた。

 同じく暇を持て余している魯粛としても、その交流の場を設けることに異存はない。

「こういう嗜好品はこちらでは貴重だからなー。魯粛っていったっけ? この機会に徐州から西涼までの交易とか……って距離的に無理か?」
「そうですねぇ……今回の戦いが終われば、洛陽を経由しての交易も検討してみますかね?」

 需要があるなら行くぜぇ~超☆行くぜぇ~。

 どうでもいいが、とても戦場の端とは思えない光景である。

「……いいのかなぁ? 安全な後方でこんなに寛いでいて……」
「もう~っ! 伯珪様って生真面目すぎ~。攻城戦だと私達騎馬軍の出番はないんだし、仕方ないじゃないですかぁ~?」

 前線では戦闘が始まっているというのに、こんな所で戦後の商売の話をしている魯粛達を見て、溜め息をついて嘆くのは良識人の公孫賛。とにかく面白ければそれもまた良し、という楽観的方針なのが馬岱。

 好奇心満々の馬超に諦観した現実主義の魯粛、碌にまとまらないまま茶話会は続く。

「ご主人様、おかわりはいかがですか?」
「ああ、子義。ありがとう」

 ほとんど後方の安全地帯だから、今の太史慈は給仕服を着ている。……無論武器は隠し持っているが。

 給仕服……つまりは『メイド服』。いくら不思議ワールドとはいえ、限りなくメイド服に似た物があるとは思わなかった。まああんな下着が存在する世界だし、こういう服がデザインされてもおかしくはないのかもしれない。ちなみに魯家では、女性の使用人達に給仕を頼む時にはそのメイド服を着用させている。……変態って言うな。

 精神的に不安定なものを抱えている魯粛としては、そういう可愛らしい服を着た美少女を眺めることで癒される。

 そう、これは医療的な行為なのだ……きっと。

「……そういえば、公孫賛殿? いくら趙子龍が仕官したとはいえ、劉備軍に連合の先鋒を務める程の部隊運用って出来るものですか?」

 関羽に張飛、趙雲という武人が揃ったとしても、軍規模での戦術となると話は別だ。

 義勇軍から平原の牧になったばかりの劉備では、この連合に動員出来る兵力は高が知れている。実際に袁紹から兵力五千と糧食を分けてもらっているらしいが、それでも要衝汜水関に篭る華雄軍との兵力差にはかなりの開きがある。

 仮に関羽達が一騎当千の働きをしたとしても、その戦力差は簡単には覆らない筈だ。

 それがわからない劉備ではないと思うのだが……。

「――部隊運用? ああ、確か「はわわ」だか「あわわ」だかが口癖の軍師が仲間になったらしく、今までの部隊運用が見直されたとか言ってたな」
「(この時期の劉備に軍師、だと?)……公孫賛殿、その者の名前は聞いてますか?」
「えっと確か、『臥龍』と『鳳雛』とか言われてた諸葛孔明と鳳士元という二人……」

 公孫賛の言葉に、魯粛は持っていた茶碗を手から滑らした。

 地面に落ちて割れる寸前に、太史慈がそれを奇跡的な動きでリカバリーする。実に素晴らしい運動神経だ。

 しかし、今の魯粛の心境はそれどころではない。

「何……だと……?」

 するとあれですか、『三顧の礼』イベントとか無視ですか。

 というかこの時期に臥龍・鳳雛が揃うなんて、魯粛が引き抜いた呉の重臣以上にチートだと思う。しかしなるほど……董卓軍から見たら圧倒的に寡兵の劉備軍が、連合の先鋒を受け入れるのも納得出来る。それだけの人材が揃っているのなら、少しくらい強気に出てもおかしくはない。

 ……魯粛的には大いに納得出来ないが。

「ど、どうした、魯粛? 何か拙いことでもあったか……?」

 魯粛の態度の急変に、公孫賛は慌てて取り成してくる。

 落ち着こう、突然の変貌はいらぬ疑念を生みかねない。クールに……そう、クールになるのだ。

「…………いえ、何でも」

 しかし言葉では平静を装えても、その表情を誤魔化すことは出来なかった。

 何よりも今の情報は看過し難い。

 史実でいうと反董卓連合は中平六年頃で、諸葛亮が劉備に仕えることになった三顧の礼が起きたのが建安五年頃。およそ十年くらいの期間で起こる筈のイベントが、こうして前倒しになっている。それは魯粛が自発的に起こしたことによる改変かもしれないし、そうではないかもしれない。

 適当な一般人への転生ならともかく、魯粛という史実武将への憑依転生が必要以上に自責の念を生む。

 ここまで大きな歴史の変化を目の当たりにする気分は最悪だ。

(願わくば、これ以上先が読めなくなるような変化がありませんように……)

 今の魯粛にはそう祈るくらいのことしか出来ない。

 だが、得てして現実というのは非情なものである。





三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」





 ――汜水関が落ちた、との報告に魯粛は驚かなかった。

 孔明らの話を聞いた時の混乱は既にない。というか、それくらいのことでいつまでも動揺していられないのが現実である。それと先程から魯粛だけが飲んでいるこの華佗御用達のお茶……これには精神安定の効果もあり、随分と気分を落ち着かせることが出来たのだ。

「……まあ、そんなものか」

 数で劣る劉備軍ではまともな攻城戦は出来ない。

 故に寡兵という戦力差を利用し、篭城する敵を釣り出す作戦をとった。汜水関の守将である華雄は……おそらく部下は諌めていたのだろうが、結局抑えきれずに華雄は飛び出してしまう。篭城戦で打って出るとか……正直ありえない。

 劉備軍はその突撃を上手く受け流しながら、第二陣に控えていた袁紹軍にそれをなすりつけた。これにより彼我の戦力差が逆転し、周囲の諸侯軍が入り乱れて乱戦となった華雄軍は退くに退けない。そこに華雄軍を受け流した劉備軍に、その後方を遮断されることで士気が激減する。最終的にはその後華雄を関羽が一騎打ちで破ったことで、華雄軍は壊走へと陥った。華雄は何とか逃げ延びたらしいが、激減した士気と兵でそれ以上汜水関を固守出来ないと判断して撤退したそうだ。

 その最後の判断が出来るなら、何故最初に突出するかなーとか突っ込みたい。

 わりと平然とした魯粛に、報告結果の意味を読みきれない馬超が眉を顰める。

「――へぇ~? 顔合わせの時に見た劉備って奴にしては、随分と卑怯な手を使うもんだなー」

 名代として西涼軍を率いる大将が何か言った。

「……馬超殿、それは本気で言っているのでしょうか?」
「ん?」

 可愛らしくも首を傾げるということは、どうやら本気でわかっていないらしい。

 馬超の両翼を見ると、公孫賛は生暖かい目で見つめ、馬岱の方は頭を抱えてしまっている。大将の馬超がこんな有様では、細かな部隊運用や諜報活動は聡明な従妹である彼女が担当していたのだろう。そして、それらの報告も彼女はきちんと行っていた筈。

 だというのに、肝心の大将がそれらの情報を活かさずに戦局も見えていない。

 それは補佐として頭を抱えたくもなるだろう。

「おいおい、錦馬超。仮にも一軍を率いる将が、得た情報で戦局を理解していないようでは拙いぞ?」
「……お姉様ぁ、少しはたんぽぽの苦労も考えてよぅ~」

 馬岱マジ涙目、である。

 流石に全員からそんな目で見られた馬超は少したじろぐ。

「し、仕方ないだろっ! あたしは槍持って戦う方が性に合ってるというか……」
「……言い訳は乙女らしくありませんな」

 そう言うと魯粛は手の平を太史慈に向ける。

 以心伝心、忠実なる魯家の使用人は懐からある物を取り出す。

「…………って、何故に眼鏡?」

 ――はい、公孫賛。見事な突っ込みありがとう。

 答えは簡単――なんとなく『頭が良くなる』気がするから。ちなみに目が悪いわけではないので、所謂伊達眼鏡という奴である。

「さて、馬超殿……脳の容量は十分か?」
「むむむ……この気配、講義の時の母様並だと……っ!?」

 キラリと眼鏡を光らせる魯粛に、既に腰が引けている馬超。

 この場から逃げようにも、従妹である馬岱の本気で泣きそうな瞳を振り払っていくほど彼女は冷酷ではなかった。

 諦めて大人しく席に着く。

「――よろしい。では、まず劉備軍の採った策ですが……」

 ゆっくりと初めから汜水関攻略の流れを講釈していく魯粛。

 いつも魯家でごろごろして商い事のほとんどを使用人任せにしてきた魯粛が、講釈をすると言っても説得力はないだろう。何せ生前の記憶による知識チートによるものなのだから、とてもじゃないが褒められた行為ではない。

 ただそれを無闇矢鱈とひけらかすのであれば、だが。

 今回はあくまで一般的な戦術の講釈にすぎない。

 現状平静さをそれなりに取り戻しているとはいえ、魯粛の心の奥には先の読めない未来への不安がある。孔明らが既に劉備に仕えているというイレギュラーもあるが、今の所は歴史的な大局には変化は見られない。

 だがしかし、それがずっと続く保障もまたないのだ。

 例えばこの世界における、史実より少し求心力のない連合盟主袁紹。このままの団結力で虎牢関に詰め寄っても、先の汜水関敗北から必死となるであろう董卓軍相手では不安が残る。更に向こうには、天下無双の呂布が待ち構えているのだ。

 野戦だろうが篭城戦だろうが、呂布が脅威であることには変わりはない。

 魯粛が今、一番危惧しているのは次の虎牢関の戦いである。

 もし相手が士気高揚の為にも緒戦に呂布無双をかましてきた場合、大本営までぶち抜かれるのではないかということ。あの飛将軍相手では、袁紹自慢の二枚看板である文醜と顔良の二人掛かりでも勝負にならないだろう。そこで袁紹が万が一にも討ち取られるようなことがあれば、反董卓連合軍の負けが確定する。

 こんな地形での敗者側での追撃戦は御免被りたい。

 では、どうすればいいか?

 二枚が駄目なら三枚すればいいじゃない、という理屈で錦馬超にもそこに参戦してもらおうというわけだ。最悪の場合は、魯粛の腹心の一人である太史慈もつけることにしよう。脳筋っぽいというのは別に頭が悪いのではなく、その行動的概念が単純なだけである。しっかりと本人の理解を解してさえいけば、その行動をある程度制御することは出来る筈だ。

 つまりこれは、講釈という名の心理誘導である。汚いなさすが魯粛きたない。

「……と、いうわけです。わかっていただけたでしょうか、馬超殿?」
「わかった……つまりあたしはれんごうのめいしゅであるえんしょうを、とうたくぐんのまのてからしっかりとまもらないといけないわけだなー?」
「流石は名高い錦馬超……一を聞いて十を知る、といったところでしょうか? いやはや、馬騰様は良い後継者に恵まれましたな~」
「はっはっは、そこまでほめられるとてれるじゃないか~♪」

 余裕の笑顔でべた褒めの魯粛とは反対に、笑ってはいるものの馬超の目は若干虚ろだった。

 まあ半刻近くかけて、じっくり理解を解し煮詰めていたからそれも当然か。人のいい公孫賛は最後まで付き合ってくれたが、馬岱の方は睡魔に勝てずにうたた寝をしていたくらいだ。

 もちろん馬超にはうたた寝すら許さなかったが。

「……魯粛、少しやりすぎなのでは?」

 虚ろな笑いを浮かべる馬超を見て、公孫賛が心配そうに訊ねてくる。何度も言うのもなんだけど、本当に彼女は『いい人』だ。

「かもしれません。ですが攻城戦で活躍出来ない以上、何らかしらの功績は立てておくに限ります」
「まあ、それもそうなんだけど……」
「大丈夫、公孫賛殿にも功績を上げてもらう策はありますから」

 基本的に『いい人』な彼女は、他人を押し退けてまで功名に逸ることはない。

 魯粛のような厄介事を受け渡されても、断りきれずに結局甲斐甲斐しく世話をしてくれる程である。厄介になった分の借りは返すというのが筋であろう。

「――虎牢関に篭る敵が採るだろう選択肢は三つ」

 一つ目は当初の戦略通りに可能な限り篭城戦に徹すること。

 おそらくこれが一番堅実な選択だと思う。しかし、最初から守勢にまわることで士気の低下と維持に苦労するというデメリットがある。

 二つ目はそのデメリットを覆す為に、まず緒戦で打って出て呂布無双をかましてくること。

 天下の飛将軍を持っているからこそ採れる選択だが、守備側の利を捨ててまで野戦を仕掛けるメリットを見出せるかはわからない。ただあの張遼がいることから、案外この選択を採ってくる可能性も高いだろう。何せ『天下無双』に『遼来来』……その二つが同時に揃って襲ってくるなど、正直言って遠慮したいところだ。

 そして三つ目とは、先の戦いで敗北した華雄が『汚名』を『挽回』しようと再度の暴走をすること。

 はっきり言って考えられる選択肢ではないのだが、汜水関での行動を見ている限りではありえなくもない。『仏の顔も三度まで』ではないけれど、もう一回くらいの暴走はあると想定してもいいだろう。魯粛がもし華雄の主だったら、一度目の蛮勇で切って捨てるけど。

 単純に武人の誇りだ何だと言って、無謀にも死地に向かうなら一人で行け、と。

 そこに兵士達まで巻き込むなと言いたい。

「私の予測は二つ目かな? 向こうの当初の戦略を考えるなら、士気高揚をしてからの篭城というのは最良だと思う」
「う~ん、たんぽぽは三つ目だなぁ~。あの華雄って人、お姉様以上に猪突猛進なところありそうだし~」

 流石は万能型の将軍の二人である。説明要らず、とはまさにこのこと。

「そこで私が考えた策というのは単純明快、要は一つ目をさせないように二つ目と三つ目を同時に対応すること。どちらにしても緒戦で打って出てくる可能性は高いので、それを利用して包囲殲滅してやろうというわけです」
「具体的には?」
「まずはどちらの場合でも大本営まで董卓軍を抜かせます。馬超殿は突出してくるであろう呂布らに、簡単に盟主の頸を取られないように本営近くで待機。もし呂布が一番前に来るようなら、袁紹配下の文醜・顔良両将軍と協力してこれに当たってもらいます」

 まあ三人でかかれば、少なくとも鎧袖一触ということはないだろう。……一応太史慈という保険もあるし。

「公孫賛殿には同門の誼から劉備を、馬岱殿には袁両家に次ぐ兵力を持つ曹操を動かしていただきたい。曹操も無益な戦いは好まないだろうから、おそらく誘いに乗るでしょう。董卓軍が大本営に向かうと同時に、両翼からその後方へ包囲網を引かせます」

 あとはどれだけ大本営……袁紹軍が董卓軍の猛攻に耐えられるかが鍵である。

 仮にも名門袁家だけあって、袁紹軍はこの連合の中では最大の規模の兵力を持つ。いかに呂布無双があるとはいえ、数万の兵が一瞬で蒸発するということはないだろう。後詰めの袁術の兵力を考えれば、大本営はそれなりに安心かもしれない。いざとなれば孫策も動くだろうし。

「それと劉備達には武勇に自信のある者で、とにかく呂布を含む敵将軍を押えさせるように言います。向こうは騎馬による機動力と突撃力を活かした軍ですから、それを統率する将を押さえ、乱戦に持ち込んで軍としての勢いを止めてしまえば脆いものでしょう」
「なるほど……あとは包囲網によってじわりじわりと兵力差で押し潰して終わり、と。……確かに単純ではあるな」

 公孫賛はこちらを感心したような目で見ている。

 馬超はまだ立ち直っていないが、説明なら後で馬岱に任せればいい。

 もちろん色々と穴が多い策ではあるが、董卓軍側の最良の最大で最後である攻撃機会をあえて潰すことが出来れば、それで『詰み』である。ただここで相手の戦力を潰しすぎると、状況に焦った董卓が史実のように洛陽を焼き払って長安に逃げるかもしれない。

 歴史的にはその方が自然なのだが、魯粛には一つの気がかりがあった。

 それはこの世界での董卓の暴政という事実に、史実と違ってかなり疑わしい所があるということ。

 そういう意味では将来の保身の為のネタを考えて、その真実を調べておくというのは悪い手ではないと思う。魯粛一人ならそんなこと考えもしないのだが、生憎と自分に付き合ってくれる人材がいる。個人的に懇意にしてみたい人物も洛陽にいることだし、打てる手を打っておくに越したことはない。

「……でもまあ、この策はあまり現実的ではなかったかもしれませんね」
「――は?」

 所詮これは一商人の戯言である。

 公孫賛や馬超、ましてや連合盟主である袁紹に仕える軍師でも参謀でもない。こんな連合軍の進退に関わるような策を立てるなど、賓客とはいえ越権行為にも甚だしいことだろう。流石に単純な袁紹でも見過ごせない筈。

「私は商人ですからねぇ、軍事行動に関わるような発言権は元々ありませんし……」
「……じゃあ私が代わりにその策を袁紹に進言しよう」

 肩を竦める魯粛に、公孫賛は真剣な目を向けてくる。

 それは別に功名に逸っているわけではない。あくまで一軍を率いる将として、現実的に状況を判断したのだろう。

「うぇ!?」
「功績でいうなら敵主力を正面で迎え撃つ袁紹が一番だろうし、諸侯の策を採り入れるという度量の広さも示せる。大軍である連合としては避けたい長期戦を防ぐ為にも、早期に目的を達成することに諸侯も異議はないだろうさ」

 ちょっと言ってみただけの策だったのだが、本気の公孫賛の態度に戸惑ってしまう。

 慌てて取り繕うとしたが、そこへ小悪魔的スマイルを浮かべた馬岱までもが乗ってくる。

「いいんじゃない~? たんぽぽ達もあまり長く本国から離れているわけにもいかないし、むしろ短期決戦は望むところだよ~。それに策としてもわかりやすいし、効果的でもある……あのおばさんだってただの馬鹿じゃないんだし、多分協力出来ると思うけどな~」

 相変わらず彼女の袁紹に対する毒は酷い。まあ本人の前で言うことはないだろうから、別に構わないとは思うけど……推奨はしないが。

 ――それよりも、だ。

 こんな魯粛の策に対して、思った以上に好意的な反応にどう返せばいいのかわからない。

「で、でもお二方? これは所謂机上の空論というもので、確実性はあまり……」
「少なくとも『華麗に前進』とか言う袁紹よりはマシさ。策の内容自体あまり複雑でない、というのも諸侯を動かす利点となる。下手に複雑な策では、連合同士での連携なんてとれないだろうしな」

 どうも公孫賛には過大に評価されてしまったようだ。

「……でも、ちょっと不思議かも~? 魯粛さんって本当に只の商人なの? それだけの策を考えられるなら、何処かの国に仕えていてもおかしくないのに……」

 そして馬岱は当然の疑問を口にしてくる。

 おそらく魯粛の能力だけを知る者は、皆が皆そう思うことだろう。魯家が引き込んだ人材のこともそうだが、才能の無駄遣いにも程があるからだ。繋がりを持った名士達も、商家の一当主の粋を越えない魯粛のことを勿体無いと評している。

 しかし、彼らのそれは非難とは同意ではない。彼らはあくまで君主に対して、対等に近い協力者であろうとするから……己の力を必要以上に誇示しようとしない魯粛という人物は、名士としては付き合いやすい君主像でもあるのだ。かといってそれを世間に絶賛して、わざわざ敵を作るような愚かな真似はしない。

 魯粛は商家を越えない立場を理解した上で、世の名士達に敬意を持って接した。その謙虚な態度に「酔狂な人」と不思議には思っても、あえて名声を地に堕とさせる者はいなかったのである。

 徐州周辺の名士の間では、荊州の有名な水鏡塾という私塾を開いている司馬徽という……『水鏡』という号で呼ばれている人物に因んで、魯粛のことを『酔狂』とか呼んでいる。全く以てどちらにも失礼な名付け方だとは思うが、おかげで司馬徽と縁が繋がったのは不幸中の幸いかもしれない。

 それ以外の奇行では『魯家の狂児』という渾名が拡がっている。主に変態的な意味で。

「特に深い意味はありませんよ。……私はただ徐州のあの家で、普通に大往生することが『夢』なのです」

 この時代において、それは中々に難しい。

 乱世を迎えようとする時期に、自分だけ関係ないとただ主張することは簡単である。だが次の瞬間に、その胸に剣を突きつけられていてもおかしくはないが。ただの言葉だけでは身を守ることも出来ない、だからこそ魯家に多くの人材を引き抜いたのだ。

 せめてこの身を守るだけの力があれば、その選択肢は採らなかっただろう。

 しかし、生憎とこの身体は欠陥品である。

 肉体と精神の剥離による情緒不安定、この世界ではあまり珍しくない女性による武力チート補正もない。生前の知識チート面で活躍しようにも、時代的概念の違うその考えは異端として受け入れられない可能性がある。精神的に余裕があれば、上手く立ち回ることも出来たのだろうが……。

 それらは結局のところ、無力な魯粛の自己中心的考え方の弊害にすぎない。

 つい未来の重臣達を引き抜きまくってしまった『孫呉』の方々には申し訳ないが、これも『天運』とでも諦めてもらおう。

 華佗による医療チートを斡旋することで勘弁してほしい。

 いくら憑依転生した身だろうと、理不尽に『死ぬ』というのは怖いものだ。

 ――たとえ現実に自分が『一回』は死んでいる、としても。



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