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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」
Name: ユ◆21d0c97d ID:b74c9be7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/15 19:36


「――我が身、我が鍼と一つなり! 一鍼同体! 全力全快! 必察必治癒……病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 魯家の縁側から暑苦しい男の叫びが響き渡る。

 その声の主から溢れ出る『氣』は、素人の自分が見ても凄まじいものがあった。

「…………むぅ」

 縁側に寝そべり、赤い髪をした長身の男に鍼を打たれている魯粛は溜め息をつく。

 その男の名は華佗、字は元化。

 史実では薬学・鍼灸に非凡な才能を持つ伝説的な名医とされている人物である。

 一身上の都合により医者を探していた魯粛は、名士の仲介で虞仲翔から華佗の名を知ると即座に彼を魯家に招く。しかし、その招きに応じて魯家を訪れた華佗の姿は、魯粛の想像するイメージとは大きくかけ離れていた。

 曰く、かつて神話の時代、神農大帝が編み出したと言われた究極医術の一流派『五斗米道』を受け継いだ者とか、無駄に暑っ苦しい性格の熱血青年とか。何か色々と間違っている気もするのだが、治療の腕はたしかなのであえて突っ込まないことにする。

 ただ、史実に対するイメージは当然崩壊したが。

「――病魔、退散!」

 華佗の宣言と共に、重く感じていた身体が軽くなる。

 史実へのイメージはともかく、治療の腕においては彼より秀でる者はこの時代にはいないだろう。

 魯粛が何故華佗という接点を持ったかというと、その理由には二つ挙げられる。

 その一つに、今の魯粛はある一定の期間で体調を崩す時があること。それは所謂女性特有の月のものとか呼ばれるものであり、生前は男であった自分も今の身体が女性である以上避けられない事実。まあ肉体的なそれを精神的に受け入れることが出来れば、ここまで身体に負荷はかからないのだが……残念ながら、そう簡単に割り切れるようなことではない。

 当時よりは大分マシにはなったものの、未だ定期的に華佗の診察が必要なのである。

(……本当に治療の腕は良いんだよなー)

 そしてもう一つの理由とは、自分という患者を通して華佗と『孫呉』の位置をより近づけること。

 出来れば曹操の下に行って、下手に機嫌を損ねて殺されことは阻止したいところだ。

 史実の魯粛の病死などもそうだが、呉では優秀な人材が惜しむべく若さで亡くなっていることが多い。それらの筆頭に『小覇王』こと孫伯符、次いで『美周郎』こと周公瑾、他にも凌公績などが挙げられる。もし華佗の治療があれば、彼らはもう少し長生きしたのではないだろうか。

 未来の呉の重臣を引き抜いてしまった代わり……というのはおこがましい話だが、せめて華佗をそれらの死期に当ててみようと思う。

 上手く時期を合わせることが出来るかはまだわからないが、少なくとも華佗は魯家に定期的に訪れるようになっている。病人を助けたいと強く想う華佗を、江東の地に送り出すことはけして不可能という程ではない。彼を紹介してくれた虞仲翔にも仲介してもらえば、尚のこと上手くいくだろう。

 もちろんこれは大幅な歴史の改変に他ならない。

 しかし、実際に呉の重臣の引き抜きがなかったにせよ、憑依転生した自分がまともに国の為に働くことなんて出来なかったと思う。つまりは歴史の改変云々など、まさに今更ということだ。そう、魯粛的な意味で。

「……やれやれ、助かったよ華佗」
「なんの魯粛殿、こちらこそ病魔を完全に治してやれなくてすまない。青嚢書に書いてある材料が完璧に揃えば、その病魔もきっと何とか出来るのだが……」

 かの有名な華佗といえど、苦手な分野もあるのだそうだ。

 ちなみに華佗には性別を隠していない、というか本気で骨格とかで見抜かれた。流石はSDK(スーパー・ドクター・華佗)。

(いや、龍の肝とか無茶にも程があるだろう……常識的に考えて)

 この病魔に対する処方薬の材料を見せてもらったが、正直突っ込み所が多すぎる。本人は本気でその材料を集めようとしていたが、万が一にも力尽きて倒れてもらっては困るので諦めてもらった。少なくともただ生きるにはこれで十分。何せよ華佗の治療だけが、今のところ一番有効なのだから。

 ただやはり、肉体と精神の剥離による心の不安定というものは色々と危うい。

 女の肉体に男の精神が入るという不可思議でありえない現象に、華佗としても定期的に蓄積された心労を癒すくらいしかないそうだ。ちなみにその周期……どうしても耐えられそうにない時には、華佗の発明した麻沸散と呼ばれる麻酔薬を使わせてもらっている。かなり強引な手だが、それくらいしないと色々と保てないのだ。

 ある意味薬中といっても過言ではなく、常日頃に慢性的な倦怠感を抱えているという有様である。

「……さて、次の診察はまた数ヵ月後か。華佗、またよろしく頼む」
「おう! 俺の受け継いだこの『五斗米道』もまだまだ未熟っ! 次の診察には必ずその病魔、治してみせるぜ!」

 暑っ苦しい捨て台詞を残すと、華佗は縁側から飛び出して行った。

 根本的な解決には至らないものの、定期的に蓄積する心労を嘘みたいに治してくれるだけでも十分助かっている。しかし、あの暑っ苦しい性格は何とかならないものかとは思う。心なしか部屋の温度が上がっている気がするし。

 まあ冬場は重宝すると思えばいいか。





三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」





 世を騒がした黄巾の乱は、各諸侯らの活躍により終焉を迎えた。

 今の所大体は史実通りだな~と縁側で魯粛がお茶を飲んでいると、城から陳登が訪ねてきたと使用人が告げる。いつものようにお茶を出すと、慣れたようにそれを受け取り平然と縁側で寛ぐ陳登。

 徐州の現状などを雑談まじり話していると、陳登はさらりと重大事項を零した。

「――反董卓連合の檄文?」

 というかそういう情報を外部にホイホイ持ってくるな、と。

 この徐州に沸いた盗賊共も陳登らの活躍により鎮圧され、その中で多くの捕虜を兵に取り組むことが出来たそうだ。まあ元々は生活に困った民なのだから、それを補償してやれば案外言うことを聞くものである。

 おかげで徐州軍の規模は増えたが、当然その分再編成に苦労しているらしい。そう意味では史実通り、反董卓連合に参加することは出来ないだろう。

「まあ、徐州の現状的に参加は無理だろうなぁ……」

 それに今回の乱の際、新しく徐州刺史が赴任している。

 その者の名は陶謙、字を恭祖。

 若い頃から学問に通じてきた陶謙は郡や州の官僚へと進み、やがて茂才に推挙されて県令から刺史へと昇進した。この徐州に赴任されてからも、陳登ら武官文官をよくまとめて州を治めている。その温厚な性格から魯家を含む商家との交渉も上手く、実に堅実な為政者と言えよう。

 個人的に思う致命的な欠点の一つだけを除いて。

「……魯粛も薄々は感じているだろう? 何しろ陶謙殿は御歳五十代後半、これからの時代を生き抜くにはあまりに厳しい、と」
「…………まあ、ねぇ」

 確かに史実では反董卓連合の後くらいに亡くなっている。

 一応病死ということなので、華佗に頼んで病を治してもらうことも可能だろうが、それは根本的な解決にはならない。

「この反董卓連合の規模的に見て、洛陽にいる董卓は確実に討伐されることになるだろう。……それが終わってしまえば、もはや衰退の限りを尽くした漢王朝に従う者は少なく、時代は確実に群雄割拠を迎える」

 それは間違いなく『乱世』。後漢の混乱期から、西晋による三国統一までの三国時代の始まり。

「……陳将軍?」
「将来的に徐州の安寧を考えた場合、群雄割拠という時代に陶謙様というただ温厚な刺史では領土を守りきれない。高齢な陶謙様の体調も問題だが、いざという時のお世継ぎである陶商様と陶応様は暗愚。最悪の場合は、有力な群雄諸侯の内の誰かに委ねるしかないが……」
「あー……」

 たしかにアレらはひどい。

 本当に陶謙の息子か?と疑いたくなる程に不出来なのだ。正直アレが徐州の後継者とは思いたくない。それに比べれば、現状国を治めている群雄諸侯のどれかの方がまだマシだろう。

「かといって乱世を勝ち抜けないような者に、この徐州の未来を簡単に委ねるわけにもいかない」
「……まあ預けていきなり他国に侵略された、では話にならないしな」

 特に三国時代における徐州という場所は色々ある。

 反董卓連合後から官渡の戦いくらいまでの間、徐州はとにかく波乱の時代を過ごす。主に呂布とか劉備とかを原因に、曹操や袁術などが入り乱れての戦争が続くこと。最終的には、その中で曹操がその勝者となるのだが……時期的に見ると、まだ劉備の方が先に徐州に入るのだろう。

「――そこで今回の反董卓連合は良い機会となるわけだ」
「なるほど。この乱世において徐州に安寧に導けるだけの者を、多くの群雄諸侯が集うであろうその反董卓連合で見定めるということか。確かにこれだけの群雄諸侯が集まるなんて機会は、おそらく二度とないだろうし……」

 しかし、現実として徐州は反董卓連合には参加できない。

 州軍の編成があるだろうから、陳登が外交の使者に出ることは出来ないだろう。麋竺、孫乾という優秀な外交官もいるだろうが、逆にこういう秘密裏の外交官としては目立ちすぎる。軍として参加しない癖に側近がこそこそと諸侯を嗅ぎ回っている、などという噂が出ては元も子もない。

 出来ることならあまり目立たない立場の人間で、徐州の現状をよく見知っている者が理想だろう。

「そう、そこで魯粛に頼みたいことが……」
「――私に『それ』をしてくれ、とでも?」
「うむ。魯粛なら徐州の密使としてではなく、商家としての立場でまだ自由に動けるだろう?」

 確かにそう動くことは可能だ。

 それに三国時代の英傑達が揃う所を見てみたいという気持ちもある。変に目をつけられる危険性もあるが、この時代で生きていく上で主要人物を一目見ておくことは大事だ。知らずに巻き込まれるのは遠慮したい。

 徐州で暮らす者として、けして他人事ではないのだ。

「私としては別に構わないが……」

 しかし、それはかなりの独断の越権行為ではないだろうか……魯粛の身で言えた台詞ではないが。

「ああ……言っておくが、極秘裏にではあるが陶謙様から許可はちゃんと取っているぞ」
「――うぇ!?」

 そういうと陳登は一通の書状を取り出す。その用意周到さに、魯粛は思わず顔を引き攣らせる。

(……そこまで深刻な問題なのか、やっぱり)

 聡明な陶謙のことだから、徐州の後事を現実的に任せられる臣下に託したのだ。それを託された陳登がわざわざ自分なんかを頼ってきている……ならば徐州に住む民の一人として、その遺志(まだ死んでない)を無駄には出来ないだろう。

「実際に魯粛が、どこまで反董卓連合の中に入れるかわからないから無理はしなくていい。別に陶謙様が今すぐ亡くなられるわけではないからな」

 反董卓連合に集う群雄諸侯の情報を集めてくるだけでもいい、と陳登は言った。

 別に仕官して働けと言われているわけではないし、あくまで動けない徐州の外交官代理にすぎない。

 都の方に向かうとしても、黄巾の乱が終結してからまだそれ程期間が過ぎてないので、各街道に出没する盗賊らもまだ大人しい筈だ。魯粛自ら行くとしても、太史慈らに護衛させれば大丈夫だろう。

「……わかった。陶謙殿と陳将軍の為にも、我が魯家としても可能な限りの協力をするよ」
「――ああ、ありがとう」

 魯粛に書状を渡すと陳登は城に帰っていった。

 何にしても自分達の領土の将来がかかっている程の秘事、このように外部に持ってくることに不安はあったのだろう。帰る時に見た陳登の顔には、安堵の表情が浮かんでいた。いくら優秀な陳登といえど、国の重責を担うというのはそれだけのプレッシャーがかかるものである。

 国を治めるということは、やはり自分には難しい話だ。

(このまま何事もなく平穏に暮らせれば良かったんだけどな…………そうもいかない、か)

 さて、既に反董卓連合の檄文が諸侯に届いてる以上、行動は少し急がないといけないだろう。

 太史慈を中心に他数名の護衛の選別、それに数台の荷馬車……これには糧食や物資を可能な限り積んでいく。まあ基本的は群雄諸侯の観察であり、戦争をしに行くわけではないからそれほど大袈裟にすることはない。まあ自衛に関して手を抜く気は更々ないが。

 徐州を治めるのに丁度良い群雄……歴史を知っている身からすればのその候補者は少ない。

 史実から言えば劉備一択なのだが、その場合徐州は確実に戦火に見舞われる。それは劉備という人物が悪いわけではなく、地形的に他の有力な諸侯に囲まれるという時期が悪いからだと思う。主に仁政と徳を掲げる劉備が、積極的に他国に侵略することは考えにくい。しかし乱世において、徐州一つでは他国の侵略を防ぎきることは難しいからだ。

 しかもこの頃の徐州周辺には、兗州の曹操や河北の袁紹、南陽の袁術など野心の高い者が揃っている。徐州しかない小国の劉備を放っておくことは、はっきりいってありえないと思う。基本的に自分より弱い敵を叩くのは定石だから。

 そう意味では曹操や孫策などの方が徐州を任せるに値する。

 ただ孫策の場合、反董卓連合で功績を上げたとしても袁術がそんな優秀な駒を手放す道理がない。仮に反旗を翻すにしても、現状の孫策と袁術の彼我の戦力差が仇となる。いかに『小覇王』孫策の天才的戦術と『美周郎』周瑜の戦略眼があったとしても、それだけの戦力差を覆すのは難しい。そんな状況で徐州一つを得たとしても焼け石に水だろう。

 そうなると祖父に大長秋曹騰を持つ曹操が、朝廷への繋ぎを考えるとやはり一番の有力株か。

 しかし曹操からすると、この時期に徐州という土地を受け取ってもあまり意味がない。反董卓連合の後に暫く中央でゴタゴタがあるだろうし、下手な領土拡大は滅亡への序曲となりかねないからだ。いずれ曹操が徐州を治めるのは確かなのだろうが現状では無理、と。

「かといって袁紹とか袁術に任せるのは危ないしなー……」

 思ったよりも現実は厳しい。

 陳登が言ったように無理はせず、集まっている群雄諸侯をさりげなく探る程度になりそうだ。

 あまり気は乗らないが、将来のことを考えて曹操と孫策には一応コネを作っておいた方がいいかもしれない。ちなみに魯粛レイジー的な意味で、劉備とは多分反りが合わないからそちらは放置することにした。孫呉に仕えなければ、絶対に劉備と関わることはないだろうし。

 何はともかく、実際に現地に行ってみないことには何もわからない。

 そこにどんな運命が待っていようとも――。





 ――行軍する袁術軍の一群。

「――雪蓮、少しいい?」

 眼鏡をかけた黒い長髪の褐色美人が馬上から声をかける。

「……何よ、冥琳。袁術の我が儘を聞いて、今機嫌悪いんだけど?」

 冥琳と呼ばれた女性に声をかけられたもう一人の褐色の美女……孫伯符こと雪蓮は、その機嫌の悪さを思いっきり顔に出して睨む。もちろん周囲に袁術の部下がいないことを確認した上で、だ。客将という立場の雪蓮としては、そういう不満を零す所を袁術の部下に見られるのは困る。

 かといって常に謙っているのは雪蓮の性格に合わない。

 そんな雪蓮の気持ちがわかる周公謹こと冥琳としては、叱るに叱れない微妙な所だ。

「つい先程、徐州方面に放っていた間諜から報せが入ったわ」
「……徐州方面? 陶謙の爺様がくたばったとか?」
「いや、この反董卓連合に徐州は参加しないことに決まったそうよ。まあ黄巾の乱の事後処理や、陶謙自身の体調が優れないなど徐州には色々と問題もある……まあ当然の結果でしょうね」
「……ふ~ん?」

 報告の内容的には大したことではない。独立しているならともかく、袁術の下にいる自分達が他所の州の隙を見つけても何も出来ないのだから。ただ虎視眈々と袁術から独立を狙う孫家としては、常に大陸の情勢を掴んでおく必要がある。

 軍師として情報を集めるのは当然の仕事だ。

「――ああ、そうだ雪蓮。あなた、徐州にいる魯家の狂児って知ってる?」

 話の途中でふと思い出したかのように冥琳が言う。

「魯家の狂児って……あの変態のこと?」
「へ、変態って……」
「富豪で好事家の若い坊ちゃんが、そこら中から女人を買い集めたんでしょ? きっと『ご主人様~☆』とか言わせてるに違いないだろうし、それが変態以外の何者だと言うのよ?」

 ――天才の勘、恐るべし。

 確かに性別を誤魔化しているから、世間一般的には魯粛は男と認識されている。そして自分の保身の為とはいえ、多くの人材を近隣諸国から片っ端に招いた。しかもその人材のほとんどは女性ばかり……それだけを聞くと実に怪しい。

 間者を使って詳しい情報を集めた冥琳と違い、様々な尾ひれがついて広まった民衆の噂話ならそんなものだろう。

「……情報に齟齬があるわね。私が知っている魯家の狂児……『魯子敬』の人物像は少し違うわ」
「そうなの?」
「魯家の当主として多くの商家と連なりを持ち、家柄から名士との繋がりも深い。蓄えた資財をただ独り占めすることなく民衆に振舞う……一般的な豪族とあまりに違うその在り方を、よく思わない連中が皮肉って『狂児』と名付けているそうね」

 不思議に思った冥琳が調べてみると、彼がただの変態ではないことがわかった。

 彼が集めたという人材は主に職や仕事についていない者を集めており、その後魯家での活躍を見る限りそれなりの逸材ばかりを狙って引き抜いているようだ。恐るべきはその能力を見抜く人物眼といったところだろうか。孫呉の大地……江東方面からも人材が引き抜かれていると聞く。

 会稽に住む知人から、名医華佗とすら親交を持っていると聞いた時には驚いたものだ。

 そして徐州に仕えることもせず、私兵すら飼っている魯家を徐州刺史に黙認させていることから、冥琳は彼を相当の危険人物と認定する。未だ商家の枠を超えないことからその野心の有無には疑念が残るのだが。

「ふ~ん……そんな面白そうな人間なら、我が孫呉に取り込んでみようかしら?」
「私としても不安は残るが……いっそのことその魯家を、丸ごと取り込んだ方が得策かもしれない。下手に敵対するのは避けたいところね……」

 袁術の客将となった時に、孫呉の旧臣達は散り散りになってしまっている。

 将来的に考えて、優秀な人材を少しでも多く取り込むのは基本だろう。如何に性格的に問題があろうとも、能力が優れているのなら色々と使い様はある。いずれ江東の地を取り返したとして、北方への備えに徐州に繋がりを持てるのも大きい。

「――じゃあ、その件は冥琳に任せるわ」
「ええ。この反董卓連合の目的を終えた後にでも、名士を介して面会してみることにするわね」

 何にせよ、まずは目先の反董卓連合の方が優先だ。

 孫呉独立の為にもこの戦いで功績を上げつつ、独立の際最も邪魔となる袁術の戦力を削ぐ必要がある。しかも連合という枷の中で、不自由な袁術の客将としてそれを成すというのは尚更難しい。

(――だが孫呉の悲願……そして雪蓮の夢の為にもこの周公謹、我が知謀の限りを尽くして必ず成してみせよう!)

 その為ならば董卓だろうが袁術だろうが関係ない、我が軍略で打ち砕くだけである。

 隣を行く雪蓮の覇業を支えることこそ、軍師しての自分の役目なのだから。



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