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No.8531の一覧
[0] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 (真・恋姫†無双 オリ主TS転生もの)[ユ](2009/08/20 18:09)
[1] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」[ユ](2009/05/06 17:30)
[2] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第二話「動乱の世の始まり」[ユ](2009/05/15 19:36)
[3] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第三話「反董卓連合」[ユ](2009/05/21 17:14)
[4] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第四話「ほのぼの茶話会」[ユ](2009/05/25 20:49)
[5] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第五話「天下無双」[ユ](2009/05/30 13:55)
[6] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第六話「断固たる意志」[ユ](2009/06/04 17:37)
[7] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第七話「洛陽決戦」[ユ](2009/06/08 18:27)
[8] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第八話「誤算」[ユ](2009/08/20 18:08)
[9] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第九話「決着」[ユ](2009/11/25 00:08)
[10] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第十話「帰路」[ユ](2010/05/17 22:38)
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[8531] 【ネタ】三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」
Name: ユ◆21d0c97d ID:c273b2c8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/06 17:30

「――ご主人様、ご主人様ぁー!」

 中華風な屋敷の玄関に、一人の少女の声が響いた。

 長く紅い髪を無造作に後ろで一つに括り、纏う衣服は動きやすさを主としているその少女は、屋敷の玄関を入った所から中に呼びかける。それはもう、まるで敵襲を告げるかのような大きな声で。

 その声を聞きつけて、もう一人の少女が眉を顰めながら奥から現れる。

 こちらの少女はきちんとした着こなしから、如何にも文官と言わんばかりの風格があった。

「……煩いぞ、子義。もう少し声量を抑え、明確に仔細を伝えよ」
「――す、すいません、元歎さん! えっと、陳将軍がご主人様を訪ねてきているのですが……」

 少女を叱った者……姓は顧、名は雍、字を元歎。

 顧雍は少女の言を聞き、こめかみを押さえた。

 彼女が玄関から声をかけたのは、表門に客が訪ねてきているからだということはわかる。しかし声量を抑えろと言われたのに関わらず、彼女の声は大きく頭に響く。それが故意ではないことは承知していたが、つい少女を見る目が厳しくなる。

 そんな厳格な顧雍に睨まれて少し涙目の少女……姓は太史、名は慈、字は子義という。彼女のその無駄に大きい声量は、戦場であれば味方を奮わせ敵を怯ますだろう。しかし、こんな平時に必要ではないのは確かだ。

 まあそれもいつものことなので、溜め息を一つ吐くと顧雍は太史慈に指示を与える。

「子義、我が主は『いつも通り』に縁側で寝転がっている。陳将軍には申し訳ないが、そちらにまわってくれるように伝えてくれ」
「了解です! 『いつも通り』の縁側に、ですね?」

 指示を受けた太史慈は、忠犬のように玄関を出て行く。そろそろ少女の域を抜けよう年頃ながら、その元気溢れる姿は少し羨ましい。日頃書類仕事を担当する自分が、別に老けていると思っているわけでは断じてないが。

 太史慈の後姿を見送った顧雍は暫し瞑目する。

 彼女が言っていた『陳将軍』とは、姓は陳、名は登、字を元龍といい、この地を治める刺史に仕える者だ。仮にも典農校尉に任じられている人物を、客として訪ねてきたとはいえ屋敷の縁側に招くなどはありえない。普通なら不敬罪で罰せられてもおかしくはない所業である。

 しかし、顧雍の仕える主はそれが許されていた。何故ならば主は所謂豪族といわれる家の者で、その家柄からこの地の商家や名士と繋がりを深く持っているからである。つまり主を罰することは、州としての財政を破綻させることに繋がるのだ。

 一富豪の身でありながら、平然と刺史を脅迫する手腕には呆れてしまう。

「……やれやれ、困ったものだな」

 それだけを聞けば、我が主がこの地を牛耳ろうとしているとしか思えない。漢王朝が衰退している今、天下を乱す叛徒の首領の一人と認識されてもおかしくはないだろう。実際にそういう噂が流れていることも知っている。

 しかし、と顧雍は笑う。

 自分が仕える主には、そんな野心などは欠片もない。

 刺史を脅迫していながら何を?と普通は思うだろうが、こちらが刺史に要求したことはたった一つだけ。それは天下泰平などといった夢見事ではなく、ほんの些細な……他人からすればくだらない願い事。

「――民として税も納めるし、商家や名士を通じて財政支援も行う……ただし、その代わりに我が家に一切干渉するな、か。問答無用で首を切られても、おかしくはない程の暴言ですが……」

 だが現実に、主の首は未だ繋がっていた。

 その理由には、主は若い頃から家の財を以て様々な人材を集めていたことが挙げられる。

 有象無象をただ集めるわけではなく、知勇に優れたものを近隣から片っ端に招いたのだ。もちろん顧雍もその一人である。自分は文官寄りの人材だが、主の招きに応じた武人系の人材も多い。例えば先程の少女、太史慈もその『武』を評価されて招かれた内の一人。剣の腕も然ることながら、彼女の特筆すべきは百発百中ともいえる弓の才。

 それらの情報を一切流さないようにした上での刺史との会談……ただの富豪と侮っていた刺史はさぞかし慌てたことだろう。

 確かに数でならば刺史側の方が上だが、個の力では圧倒的に劣っていた。この会談に自分が連れてきた僅かな兵と、主が集めた『武』に優れた者との差は一目瞭然。下手を打てば返り討ちになりかねない状況、更には顧雍ら『智』に優れた者を相手に弁論で勝てる筈もない。

 これは本気で叛乱でも起こされるのか?とビクビクしていた刺史に、主が投げかけたのは先の言葉だった。

 その言葉の真意を疑うよりも先に、刺史がそれを了承してしまったとしても無理はないだろう。

 刺史は戦う前に、既に敗れていたのだから。

 それだけの策謀を持ちながら、顧雍や太史慈といった知勇に優れた者をこれだけ集めておきながら、主は天下に名を上げることをしない。あくまで主が望んだのは、自分のほんの少しの周辺の平穏のみ。

 乱れゆく天下を治め万民を導くなどは、やりたい奴にやらせておけばいい、と屋敷に集まった者全てに主はそう言った。

 そんな矛盾した行動をする酔狂な主に付き合うのも悪くない、と多くの者がこの屋敷に残る。そして顧雍もそんな酔狂な主が、この乱世の中でどう生きていくのか興味があったので、他の者達同様に屋敷に留まることにしたのだった。

 そこは、徐州臨淮郡東城県――『魯』家。

 その屋敷には大陸の歴史に名を残してもおかしくはない程の人材達が、自分達の持つその優れた知勇を『天下』の為ではなく、たった一人の酔狂な『主』に捧げながら暮らしている。





三国志外史に降り立った狂児 第一話「眠れる狂児、胎動す」





 屋敷の縁側に、一人の人間が転がっていた。ぐだ~と縁側に寝そべるその姿からは、一切のやる気が感じられない。

 そこへ表門から回ってきた太史慈が声をかける。

「ご主人様ー、陳将軍がいらっしゃいましたよー?」
「…………眠いからパス」
「ぱす? でもご主人様、どうも至急の用件だそうですよー?」
「……元歎にでも、適当に相手させておいてー」

 寝そべりながら手を振る主に、太史慈は溜め息をつく。

 そんなことをすれば、自分が生真面目な彼女に叱られてしまう。それは困るので、何とか起きてもらおうと太史慈は主の身体を揺するが……一向に起きる気配はない。

 一層のやる気が失せた姿を見てどうしたものかと考えていると、後ろから男が一人苦笑しながら歩いてくる。

「くっくっく……相変わらずだな」
「あ、陳将軍! すいません、ご主人様いつも以上にひどいですー」
「いや気にしなくていい、子義よ。こちらが勝手に訪ねてきたのだから、いくらでも待つさ」

 客が訪ねてきたというのに未だ寝そべる人物を、さほど不快に思うことなく陳登は縁側に腰掛けた。

 こんな態度でも、数年も見続ければいい加減慣れるものである。

 室内からお茶を盆に載せてきた顧雍は、陳登にそれを差し出す。主は『こんな』だが、その部下である彼女達は非常に礼儀正しい。そして彼女が持ってきた器は一つ、客である陳登に出すものだけ。

 延々と寝そべる主に出す飲み物などはない。

「……ところで陳将軍、今日は如何なる所用で?」

 お茶を受け取った陳登は、横に寝そべる人物を見ながら顧雍の質問に答える。

「うむ、如何せん城の奴らは君ら程に融通も機転も利かなくてな。ここでなら城と違って忌憚のない意見を聞けるだろうし、君らからの意見の方が参考になることが多い……刺史に仕える者として複雑だが、な」
「…………徐州に『人』無し、とでも言う気か?」

 陳登の言葉に、寝そべっていた人物がむくりと起き上がった。中途半端に眠りを妨げられたからだろうか、その目つきはひどく厳しい。

 しかし陳登としては起きてくれただけでも僥倖だったので、そんな姿を見ても臆せずに挨拶をする。

「おや、おはよう――『魯子敬』殿」



 ――姓は魯、名は粛、字を子敬。

 人ぞ知る『三国志』という歴史の中では、ある意味メジャーな人物の一人。それが今の自分の肩書き。

 そんな自分にはある二つの秘密があった。

 まず一つ、生まれる前の記憶を持っている……それは21世紀の日本という遥か未来の記憶。

(……所謂憑依転生というものだろうが、なんというか常識の範疇を越えるよなーコレ)

 ただの人生やり直しなら、まだ前向きに行けたかもしれない。だが自己の意識を持った時、自分の名を呼んだ親の言葉に愕然とした。

 ――魯粛、と。

 正直魯粛はねーよwとか、憑依転生ならもう少し別の人間にして欲しかった、とか思う人は多いだろう。しかし、それなりに歴史好きな自分からしてみると、これは僥倖かもしれない。何故なら魯粛は豪族、つまりは金持ちの家の生まれだからだ。史実ではその財産をなげうって困っている人を助け、地方の名士と交わりを結んだことから、その郷里では『狂児』とか呼ばれていたりする。

 ならばその財産を下手に使わなければ、一生とまでは言わないが怠けて暮らせるのではないだろうか?

 ついでに地方の名士などの交わりも結ばずに大人しく引き篭もっていれば、多分孫家に関わることもない。そして『孫呉』に仕えることがなければ、馬車馬のように働く必要もないから寿命もきっと延びると思う。

 しかし、それ以外の懸念事項が魯粛に……というよりは生まれた場所にはあった。

 自分が生まれた徐州臨淮郡東城県が、大陸の地図上でどの辺りなのかまでは詳しく知らないが、徐州というのは常駐するにはあまりにも危険な場所かもしれない。生まれた当時はまだいいとして、史実では確か初平四年頃に曹操が徐州の民を虐殺するというイベントがあった筈。その後にも曹操と劉備と呂布の三つ巴などがあったりで、民として平穏に生きるには厳しい環境かもしれない。

 例え魯粛という人物に未来の自分の魂が憑依転生しているとしても、単純に「歴史なんて関係ないぜ!」と楽観視するのはよくないだろう。

 下手をしなくても、死亡フラグの乱立に定評のある三国志の世界なのだから。

(……むむむ、しかし『コレ』はどうしたものやら)

 そしてそれらの判断を狂わすもう一つの秘密……それは自分が『女』であること。

 生前の21世紀の日本では間違いなく男だった筈の自分が、『転生したら女になっちゃった☆』とか驚天動地にも程があるというものだ。三国志の魯粛という人物に憑依転生している筈なのに、正直意味がわからない。先のことを考えるよりも、男から女になったという事実に当時の自分は耐えられなかった。

 まあ、それも無理もない話である。

 幼少時は屋敷に引き篭もり身体の変化にただ混乱するばかり、魯家に仕える使用人達の必死の介護がなければあのまま死んでいたかもしれない。

 ある程度成長して心にも余裕が出来たのか、十歳くらいの時に自分は何とか立ち直った。もちろん完全にではないが……その一つの理由として、介護をしてくれた使用人達が持っていた下着を見たことだろうか。

 何で三国志の時代に『ブラジャー』などの下着があるんだ!?と盛大に突っ込んだものだ。

 それらを含め、以前から薄々感じていた違和感から情報を集めた結果、この世界は三国志の時代のようで何処か違う世界だと認識した。だから魯粛が女だったりしても、それはそれでアリなのかもしれない、と半ば強引に気持ちを納得させたのだ。

 幸い幼少時に引き篭ったことから、自分の性別を知る者は魯家の使用人くらいしかいない。もちろん使用人達には緘口令を布いているが。それを上手く利用して、世間には自分のことを魯家を継いだ若旦那(♂)として吹聴しておいた。主に自分の精神的安定の為にも。まあ生前が男だったから、今の所口調とかの違和感は特に持たれていないようだ。

 それらに更に数年を費やしてしまったが、まだ徐州虐殺イベントにはまだ猶予がある。

 とりあえず今まで通り情報は集めるとして、自分……いや『魯粛』はふと思う。いっそのこと発想の逆転で歴史の改変に挑むのも、手としては悪くないかもしれない。しかし、歴史を大幅に改変したりした場合のリバウンドによるデメリットもある。仮に徐州の民全員が助かったとしても、その反動で自分一人だけが死んだりしても困るからだ。

 そうなると、出来るのは消極的改変といった所か。

 大体の歴史の流れを妨げない程度の改変、今現在刺史などに仕えているような人物を引き込んだりするのは拙い。ならば現状、在野にあるそこそこ優秀な人物を集めるのはどうだろうか?『智』に優れる者は魯家の財政を支えてもらい、『武』に優れる者はこの身を守ってもらう。

 魯粛がこの村だけで慎ましく暮らすのであれば、一騎当千の武人などいなくてもいいし、王佐の才を持つ軍師などもいらない。一応この身も正史補正が付いているのか、頭脳はそこそこチートで身体もそこそこに動く。ただ憑依転生した未来の自分が、その能力を活かせるかどうかは別問題なのだからあまり楽観するわけにもいかない。

 そんなこんなで、近隣諸国から人材をスカウトした魯粛は心底驚いた。その招きに応じて集まった人材の数に。

 『武』に優れた者は太史慈を筆頭に呂岱や賀斉など、『智』に優れた者は顧雍を中心に厳畯や闞沢などと、いずれも三国志でいう『孫呉』を支えた重臣達。確かに今はまだ『呉』という国は出来てないし、在野にいてもおかしくはないのだが……たかが一富豪にすぎない魯家の誘いに乗るとは思ってもみなかった。州レベルの俸給は出せないと言っておいたのにも関わらず、一国を治めてしまえそうな人材が揃ってしまうとは。

 しかし、その理由のほとんどが「面白そうだったから?」とか、普通にありえない。

 ……駄目だこの呉の重臣達、はやくなんとかしないと。

 魯粛を更に驚かせたのは、そのほとんどが女性ということ。思わず「ドキッ☆乙女だらけの三国志っ!?」とか突っ込みたくなったのも無理はない。まあ魯粛も人のことをどうこう言える身でもないので、何とか冷静さを保つことは出来たが。しかしこういう不条理な現実を目の当たりにすると、正直歴史云々と考えるのが馬鹿らしくなる。

 こんな有様では、もしかしたら董卓とか曹操とかが実は美少女!?とかもあるのかもしれない……あまり考えたくはないが。

 そんなしょーもない現実を見据えた魯粛は吹っ切れた。

 自分の招きに応じた彼女達を望みどおり魯家に仕えさせ、顧雍らの『智』を使って近隣の商家&名士との繋がりを拡げる。というか流石は『孫呉』を支えた重臣達、内政チートがすぎる……おかげで魯家の財政は格段に飛躍した。それこそ州の一つくらい治められるんじゃね?と思わせる程の資財を。

 下手な未来知識を使うよりも、儲かった気がするのは気のせいではないだろう。やはりその時の時代にあった経験の方が、特に波紋を起こすことがないし有効なのかもしれない。

 ただ正直稼ぎすぎた感じもするので、魯粛の史実通りに民にお裾分けしてやったら民に拝まれた。これもある意味バタフライ効果という奴だろうか?

 それとは別に、太史慈らの『武』を使っての徐州刺史の脅迫。まあ脅された方としては複雑だろうが、それ以上のメリットがあるから勘弁してほしい。刺史になる程の人物なのだから、迂闊にも約定を反故にしたりはしないだろう。

 それら動向により、魯家は小規模とはいえほぼ独立したと言っても過言ではない。

 野心が少しでもある人間ならそこから国を興すのかもしれないが、生憎と魯粛にその気はなかった。

 国の重責とか、元一般人には無理がある。

 本来の歴史であれば魯粛は周瑜に勧められて呉に仕えるのだが、今となってはその選択肢も迷っていた。ぶっちゃけ面倒臭いというのもあるが、知っている歴史からすると無駄に苦労するポジションなのだ。魯子敬という人物は。正史仕様ならともかく、下手に演義仕様だったらストレスで死んでしまいそうだ。

 それ以前に、史実通り孫策が男だったら非常に困る。主に精神の安定的な意味で。

 ただ自分はともかく、魯家に招いた顧雍ら呉の重臣達を無為に束縛する気も無い。出て行きたくなったら、勝手に出て行ってもいいとも告げている。その知勇を活かせるべき主を探せ、と。主に孫策とか孫権とか。

 実際に魯家の土台はほぼ作り上げた為、以降魯粛一人でだらだらと過ごすには問題はないからだ。元々の使用人は残るだろうし、特に心配はない。

 しかし天の邪鬼な性格の者が多いのか、彼女達は酔狂なことに魯家を去って行かなかった。それまでの反動で全く働かなくなった魯粛の代わりに『智』を以て魯家や村を支え、その『武』を人を殺すことではなく生かす為に村の畑を耕すことに費やす。その膂力を以てすれば、並みの農民とは開拓スピードは段違いじゃね?……と魯粛としては冗談のつもりで言ってみたのだが、それも良い鍛錬になると本気で実行してしまった。

 あとは魯粛の周囲の環境による保身策。いずれ訪れる動乱に備えて村の周囲を防柵で囲ったり、暇を見て村の若い衆に戦い方を教えたり……無論それらの政策を魯粛達が勝手に行うことはせず、刺史に仕える者の中で気の合う将軍を介してきちんと許可を取っている。まあ、それらの説得にも優れた者がいたからこその行動だったが。

 ……確信犯だったとはいえ、好き勝手にやったものだ。



「――で? 陳将軍が聞きたい意見とは何?」
「うむ、最近流行の『蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉』のことだ」
「黄巾の馬鹿共? 奴らは主に豫州潁川、荊州南陽、冀州の三つの方面で蜂起と聞くし、こちらにはあまり関係ないのでは?」

 徐州に一番近く、黄巾の乱の影響としては規模の大きいものに青州黄巾賊の存在があるが、これは間違いなく乱世の奸雄と呼ばれた曹操が平らげる筈だ。そもそも今の徐州兵に、あれほどの賊を相手にすることは出来ないと思われる。

 それ以外の影響として考えられるのは、近隣で盗賊行為が流行るくらいだろうか。

 ちなみに魯家では大陸の状況を的確に把握するため、行商人を通じて商家同士の情報ラインが組まれていたりする。そんな正確な情報の確認の為でもあるのだろう、彼が訪問してきた理由の一つとしては。

「まあ、な。ただ、盗賊行為とはいえ国中で起こっては州軍も対処しきれん。何とかせねばとは考えているのだが……」

 陳登の言にはかなりの苦労が窺える、徐州軍の統制も一筋縄ではいかないようだ。まあいても糜芳とか曹豹とかだろうし、それも仕方ないか。

 横で話を聞いていた太史慈が首を傾げる。

「うーん……各町村に軍を小分けにして分散させ守備するのは愚策でしょうし、張角のような指導者がいない賊だとまとめて倒すのも難しいですねー」

 ただ『武』を磨くのではなく、『智』も磨くというのが魯家の方針である。まあ、歴史上の太史慈という人物は知勇兼ね備えていた傑物らしいから、別段驚くことでもない。見た目はわりと、脳筋体育会系の美少女なのだが。

「それは逆に取れば、いくら兵を分散させてもそれを各個撃破するような指揮も執れないとも取れる。しかし、基本的な兵站運用などもしていないだろうから、そういう意味では行動が読みにくいのもまた事実ですが……」
「……かといって消耗戦などやってられんしな」

 文官系である顧雍は現実的に問題を指摘し、それをよく理解出来てしまうからこそ陳登は頭を抱えてしまう。

 元凶である張角の直接の影響がなくとも、一度乱れた世界の綻びは所々に現れるもの。そしてその被害は、まず弱者である民衆へと流れていく。国というのは民を守るからこそ、感謝という形を税として納めてもらえるのだ。つまり民を守れなければ、国というものは成り立たない。

 その為にも迅速な鎮圧が求められるのだが、徐州軍にはそれほどの規模の軍はないわけだ。民から徴兵すれば数は揃うが、それでは全く意味を成さない。

 気持ちが沈んでいく陳登を見ながら、魯粛は軽く伸びをする。

「……先のことを考えるなら、盗賊共は無為に排除するより取り込んだ方がいいかもしれんね」
「取り込む、だと?」
「賊とはいえ、元々は奴らも民の一部なのだから鎮圧と徴兵を兼ねて。まー地道で平凡な策ですが」

 反乱鎮圧と徴兵を兼ねる、これは史実の曹操や孫権などもよく使った手だ。

 先に例として挙げた青州黄巾軍などもその一つ。曹操はその討伐にて、黄巾軍の兵三十万人に非戦闘員百万人を降伏させ、その中から精鋭を選んで自軍に編入し「青州兵」と名付けた話は有名だろう。

 曹操程の人材のない徐州にそれをそのまま習えというのも無理があるが、先のことを考えて真似ておいて損はない筈だ。もし歴史通りに進むのであれば、黄巾の乱が終われば次は反董卓連合軍の結成がある。史実では徐州軍は参加しなかったが、風評を気にするのなら少しでも兵力を蓄えて参加した方がいいと思う。

 ただ大局的に見て、徐州軍が活躍することはないだろうが。

「……ふむ、賊相手とはいえ、ただ殺すよりも活かす方が得策か。だが殺さず生かして捕らえるのもまた難しいな」
「陳将軍が有能か無能かはともかく、しっかり領民を守るくらいはしてもらわないと。私達がいるからこの村は平気だとしても、そのことで他の町村から疎まれたりするのは困る」
「くっ……耳に痛いな、というかそう思うなら魯家を率いて徐州に士官してくれないか? 多分それがこの問題を解決するのに一番手っ取り早いんだが……」

 そう言う陳登との付き合いはそれなりに長い。

 魯粛が徐州で安寧に暮らす為には、その刺史に仕える者の中にもこちらの意を汲んでくれる人間が必要だった。そこで思い出したのが陳登の存在である。蜀の劉備に付いて行った同僚の麋竺や孫乾と違い、陳登はあくまで徐州に残ったからだ。その史実での本当の思惑まではわからないが、徐州で暮らす協力を頼むのには申し分ない。

 実際に陳登は柔軟に物事を見れるタイプだったので、こちらとしても良い協力関係を結べたと思っている。

 しかし、だからといって素直に彼の言に従う義理まではないのだ。

「確かに陳将軍には世話になっているが、徐州に仕官はする気はない。民としてしっかり税は納めているし、資金援助の方も絶やしていないのだから、いい加減それで納得して欲しいんだが……」
「……魯粛、彼女達を見て才能の無駄遣いだとは思わないのか?」

 ……それは常日頃に思うことではある。

 なんといっても後の『孫呉』の重臣が揃っているのだ。史実の魯粛ならいざしらず、未来の日本からの転生者である自分の元に。最初はただ保身の為に集めた人材だったのだが、気づけば彼女達の『主』に認定されているのだから驚きである。

 魯粛としても、彼女達に対して特別に何かをしたわけではないのだが……

「別に私は彼女達を強制的に働かせているわけではないから、誘いたければ勝手に誘いたまへー」
「誘いたまへ、とか言われてもな……」

 今この場にいる二人に、陳登は期待の視線を送ってみる。

 しかし、返ってくるのは顧雍と太史慈による侮蔑の冷たい視線。

「……我らを主から引き離すつもりで? ふむ、陳将軍は徐州の……しいては陳家の財政がどうなってもいい、と仰るわけだ」
「……陳将軍、月のない夜には気をつけて下さいねー」

 なんだろう、この溢れ出る忠誠心。

 この世界の不思議設定の一つである――『真名』。神聖なるその呼び名は、この世界に住む者にとってとても大切なものだそうだ。もちろん魯粛は魯家に仕える者ほとんどからその真名を授けられている。

 一般人が憑依転生したにすぎないこの身を、多くの美少女達が『主』と認めてくれるのは素直に嬉しい。ただ、正直喜んでいいのか微妙だ。何せ女に転生してのハーレム展開とか、あまりにも不毛すぎる。そして、それを気にしていないこの世界の風潮も。

(……もしかして百合百合しいとか、この世界的には普通なのかねー?)

 それはあまり認めたくない事実かもしれない。

 だからこそ下手にのめり込まないように、彼女達を真名で呼ぶことを控えているのだ。彼女達の方は魯粛に主として仕えていいのであれば、その呼び名くらいは我慢出来るそうな。ただ人気のない所では、自分のことを真名で呼んで欲しいと囁かれたりする。

 その囁きの破壊力は恐ろしく、近いうちに魯粛の理性は落城するかもしれない。

 ただ女版魯粛になった身としては、精神的にホモになるよりは肉体的にレズの方がまだマシかな~と思っている。少なくとも男に抱かれるなどは、将来の選択肢としてはありえないと断言したい。いや、かなり切実に。

 一応世間的には魯粛の性別は誤魔化されているが、一般的に完璧などありえないのだから不安は残る。自分に仕える彼女達に、魯粛の真名を呼ばせない理由の一つもそこからだ。真名から性別を見極めるのは、鋭い人物ならそれほど難しくはなさそうだから。

 一応念には念を入れて、ということだ。

 まあどこかのエロゲじゃあるまいし、片っ端から幼女含む女性に手をかける種馬のような変態はいないだろうから……魯粛の杞憂といえば、それまでの話である。





 ――陳留城謁見の間。

 玉座に座る少女は難しい顔をしている。

 その原因を作っているのは、彼女が持っている報告書の内容。

「お~い、華琳。話があるって聞いたけど、何だ~?」

 そこへ妙な服を着た男がやってきて、悩める少女に軽く声をかけてきた。

「遅いわよ、一刀。少し聞きたいことがあるの……あなた、徐州にいる魯家の『狂児』って知ってるかしら?」
「――徐州に、魯家に狂児? 何かの暗号か?」

 一刀と呼ばれた男は頭をひねる。どうやら聞き覚えがないらしい。

 あまり彼の知識を乱用するのは控えたいのだが、一応念は押しておく。華琳にとって、その報告書に書かれていたことは少し気になる内容だから。

「一刀、では『魯粛』という名はどう?」
「むむむ……魯粛、ねぇ? う~ん、たしか俺の知る歴史では『情けない外交官』といったイメージだったような……」
「…………そう、わかったわ」

 華琳は一刀から視線をずらす。

 諜報を任せている軍師から聞いた情報と、彼の持つ天の国の知識からのイメージはあまりにも相違していた。

(……魯家の狂児が『情けない外交官』ですって? 桂花の情報に間違いはないだろうから、そいつは巨額の資財を以て優秀な人材を集め刺史を脅すような傑物。そんな人物が、一刀の言うような生温い存在だとはとても思えない……)

 この時代において、率先して優秀な人材を集めるという行為にはどこか親近感を感じてしまう。つまりそれは覇道を目指す自分と似た存在が、もう一人いるということに他ならない。若干過大評価のしすぎではあるかもしれないが。

 曹孟徳として、それを放っておく理由はないだろう。覇者的な意味でも、人材収集癖的な意味でも。

 しかし、今はまだ騎都尉にすぎない華琳がそこまで手を出すのは早計だ。声をかけるにしても、もう少し中原を押さえ国としての地盤を固めてからが望ましい。それに今は黄巾の賊共を駆逐しないと、動こうにも上手く動けないのだから。

(……今は保留、ね)

 華琳が一人考え込んでいると、それを不安に思ったのか一刀が恐る恐る訊ねてくる。

「え~っと……華琳、さん? その魯粛って奴に、何か困った問題でもあるのでせうか?」

 流石に空気をそれなりに読めるのか、彼は華琳の覇気に引き気味だ。

 そんな微妙に情けない姿を見て、華琳は逆に落ち着くことが出来た。彼女の臣下には、主が機嫌の悪い時にわざわざ怒りを買うように話しかけてくる馬鹿はいない。しかし天の国から来たという目の前の彼は、そこへ平然と踏み込んでくるのだ。

 華琳としても、怒るより先に呆れてしまう。

 だが、それも悪い気はしない。

(やれやれ、色んな意味で私を楽しませてくれるわね。北郷一刀という人間は……)

 さてと、気持ちを切り替えよう……今は賊共の鎮圧を最優先に。

「……いえ、何でもないわ」
「そうか? それならいいんだが……」
「ええ、気にしないで一刀」

 華琳の沈黙を意味深に捉えたのか、不安そうにする一刀に華琳はそっと微笑みかける。

 何でもない……そう、今は『まだ』。



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