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No.8484の一覧
[0] 【習作】使い魔ドラゴン (現実→巣作りドラゴン×ゼロの使い魔)転生・TS・オリ主・クロス有[ブラストマイア](2010/11/15 03:08)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/05/06 14:31)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/05/06 14:32)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/05/06 14:33)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/05/06 14:41)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/05/09 20:34)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/05/13 01:07)
[7] 第六話[ブラストマイア](2009/05/27 12:58)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/06/03 23:20)
[9] 第八話[ブラストマイア](2009/06/11 01:50)
[10] 第九話[ブラストマイア](2009/06/16 01:35)
[11] 第十話[ブラストマイア](2009/06/27 00:03)
[12] 第十一話[ブラストマイア](2009/08/02 19:15)
[13] 第十二話 外伝? メイドな日々[ブラストマイア](2009/11/12 19:46)
[14] 第十三話[ブラストマイア](2009/11/13 06:26)
[15] 第十四話[ブラストマイア](2010/01/16 23:51)
[16] 第十五話[ブラストマイア](2010/11/15 03:07)
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[8484] 第七話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/03 23:20


 ブラッドが瀕死になってから1週間。ベルは半ば現実逃避気味に生卵を撹拌していた。既に10分近くかき回し続けているので泡立ってきている。
 卵黄だけを使っているので熱々ご飯の上に醤油と一緒にかけたら美味しそうだけれども、今回この卵はそういった利用法をしない。ベルは惜しみながらも諦め、より大きいボウルに重ねるようにして入れる。隙間に水を注ぎ、冷却の魔法をかけて氷水にした。

 日本人だった頃は一人暮らしだったからある程度日常的に料理をしていたが、ベルティーユとなってからは一度もやった事がない。食事なんてメイドが作ってくれるのだから、ベルはそれを食べていればよかったのだ。ベルには料理を作る趣味がなかった事も理由の一つに加えられる。
 まさか自分が料理をする羽目になるとは思っていなかった。それもこんなプレッシャーを感じながら、だなんて。


「ベル、出来たわよ。これでどう?」


 ベルの隣で華麗な包丁捌きを見せながら魚を解体していたのは、ブラッドさんの嫁にして最強生物であるリュミスベルン様である。
 アジっぽい魚を開いて骨を取る動作は板に付いていて、とても数十分前まではよくわからない肉片を無数に作っていたのと同一人物だとは思えない。先ほどまで彼女から撒き散らされていた負のオーラは人間なら気絶しかねないレベルで、ここに居るより人間同士の戦争の最前線に居た方が余程安心できると思うほどだったので実に嬉しかった。竜族の強靭な胃袋でさえ胃潰瘍ができないかと心配になったし、隣で待機していたベルは冷汗が止まらなかったものだ。

 あのままだとこのキッチンが無くなっていたかも知れないから。最悪の場合は竜の村ごと。


「はい、大丈夫ですね。どんどん上手くなっていますよ」


 現在リュミスが製作しているのは、ベルが必死に簡単で失敗が無くて手料理といえるような物を模索した結果なんとか思いついた、ずばり天ぷらである。
 これなら食材を切り分けて衣をつけて油で揚げるだけであるし、うっかり系のミスさえしなければ素人でも悲惨な結果を招くような失敗はしにくい。工程が少ないのに焼くだの茹でるだのと違ってしっかりと姿が変わってくれるのもポイントだ。
 リュミスも天ぷらについては知らなかったらしく、簡単で失敗しにくくてそれなりに美味しい料理だというと納得してくれた。
 あれこれと手伝わされる事を予測していたベルだが、今回のメインはあくまでリュミスであり、ベルは補佐的な行動しかしていない。魚を捌くのも前世の記憶を総動員しつつ何回か見本になっただけで、今並べられている総勢150近いネタの数々は全てリュミスの手作業である。
 ある意味では満漢全席の何倍も貴重な料理となるだろう。なにせ世界最強に限りなく近い女性が作った料理なのだから。
 どのぐらい貴重かと言えば、全ての大陸を完全に支配している王でも望んで口に入れる事は叶うまいほどだ。そんな事を口に出せばその大陸ごと消される。


「ふうん……。聞いた事の無い料理だから、もっと難しいのかと思ったけど、意外と簡単なのね」


 満足げに胸を張っているリュミスへ、ベルはアハハ……と乾いた笑いを返す。
 リュミスは料理などした事も無いのだろうから包丁の持ち方を知らないのも当然なのだが、その状態の相手に一からここまで教えるのは苦労した。


 ……最初は驚いたものなあ。


 目を覚ましたブラッドと簡単な会話を交わしたのが昨日で、その翌日。
 暖かくて心地よい夢の中から強制的に叩き出されたと思ったら、目の前にリュミスが居た時は心臓が停止するかと思った。夢の残り香を追ってむにゃむにゃとお決まりの台詞を呟いていたら、いきなりジト目のリュミスさんと見詰め合って素直にお喋りできない状態である。普通の竜なら驚くだろう。ベルも物凄く驚いたので反射的に後ろへと弾け飛んでしまい、背にした石壁をぶち抜いて廊下に転がった。壁の穴から見えるリュミスの顔に皺がよったのを見て慌てて戻った。


「私に料理を教えなさい」


 そして戻るなりこれである。ブラッドに近づいたから殺すとかそういう方面でなかった事を喜ぶべきか、ともかく言われた時は目が点になってしまった。
 どうやらマイトとの雑談で少しぐらいなら料理ができると言ったのが間違いだったようだ。ベルはパジャマから普段着に着替えながら世を儚んだ。気分は対戦車地雷の上に乗っかってしまった不幸な兵士Aであった。いかにリュミスとて気まぐれで自分の住む村を吹き飛ばしたり他の竜を殺したりはしないと思いたい。けれどもリュミスがそれだけの力を持っている事は事実で、正しく規模を表すなら大陸殲滅型核地雷という感じだろうか。ともかく怒らせると危険、とベルは判断した。


「さ、サーイエッサー!」


 先ほどまでの考えが適応されたのか、軍隊に入りたての新兵Bのような調子で叫んでしまったベルを攻められる人間は居ないだろう。もし居たらその勇気を利用して凄い事が出来ると思う。死ぬ気になれば大概の事は出来るらしいから。


「……ベル! ベルってば! 次はどうするのよ」


「へ……? あ、すみません。ぼんやりしていました……。えっと、次は、卵に小麦粉を加えて軽く混ぜて衣を作り、それをネタに絡ませた後、油で揚げればとりあえず完成です。衣を作る際のポイントはグルテンが作られないように冷水でよく冷やす事と、混ぜすぎない事、だと思いました。今回は十分に冷やしていますので、そこまで気にしなくて大丈夫だと思います」


 考えに没頭していたらしく、リュミスの声が聞こえていなかったらしい。ベルは慌てて卵を入れていたボウルを指差し、次にやるべき事である衣の製作を伝える。
 揚げた時によく膨らむようにとケーキ用の小麦粉を使用していたが、日本で揚げ物に使っていた小麦粉とはまた違いそうなので、とりあえずの量しか混ぜないように伝えた。これも何度か試行錯誤を重ねる必要があるだろう。


「ふうん……。それにしても、生の卵に触るのは、気持ち悪いわね……」


 リュミスは黄色にプールに手を入れ、少しずつ小麦粉を混ぜながら呟く。
 その点についてはベルも同感だった。卵欠けご飯や半熟卵やらは大好きだけれども、あの鼻水のような微妙な感触は好きになれない。


「私も、ちょっと苦手ですね……。何個か試して衣の量が分かったら、菜箸でやっても大丈夫だと思いますよ」


 自分とリュミスの共通点を発見し、ベルは苦笑しながら笑いあった。
 軽く魔法を使って手を洗うための水を用意しておおく。平常時のリュミスは付き合い辛いと言うほどでもなく、自ら料理を教えろと言い出して来ただけあって真剣だったし、唇を尖らせながら不慣れな手つきで包丁を扱う様は結構可愛く見えた。もう少し付き合えば友達になれるかもしれない。
 これで包丁が手に当たっても切り傷一つつかないとか、八つ当たりに握り込んだ拍子に柄の部分がリュミスの手の形に歪んだりとか、終いには音を立てて包丁が砕けたりしていなければ、今の光景をもっと平和な気分で見られたのだけれども。


「極めようとすると油の温度だとか油から出すタイミングだとか奥が深いようですが、素人がやるならこれで十分だと思いますよ。それにリュミスさんもどんどん料理が上手くなっていますし、本格的にやるにしても回数をこなせば大丈夫でしょう」


 お世辞も入っているが大部分は本音だった。当り前よ、なんて胸を張っているリュミスを見つめる。
 まさか彼女がここまで真剣に料理に取り組むとは予想外、話をしっかりと聞いて役立てようとしてくれるので教えやすいのも想定外。ベルのイメージでは気に入らない事があれば、圧倒的なパワーを持ってその周囲ごと焼き払って壊滅させるタイプだと思っていた。どうやらブラッド絡みとなれば違うようだ。
 イメージの補正を抜きにしてもリュミスが原作より優しげに思えるのは、ベルが50歳を超えているとはいえ竜の感覚だとまだまだ子供だというのも一役買っているのだろう。いくら彼女でも子供を苛めて楽しむような趣味は無い、と思いたい。


「で、もう揚げちゃってもいいのかしら?」


 リュミスは期待を込めて小さく鼻を鳴らし、揚げられるのを今か今かと待っている食材の群れを指差した。

 急だったのでたいした物は用意できなかったが、失敗の分を抜いてもアジやイワシのような魚が二十数匹分と、薄くスライスされたカボチャが1/4個ぶんほど。その他は茄子だとかアスパラガスだとか見知った野菜に、日本には無かった物らしくベルが知らない野菜が少々、というのが現在の布陣だ。
 何故かそれ単体でも高級食材であるロブスターが四尾ほど坐していたりもするが、これはメイドのシィに海老を頼んだらこれが出てきた物なので、決してベルのセンスが異常な訳ではない事を注意してもらいたい。
 ロブスターはやや乱暴に殻を剥かれてなおベルの腕よりも大きく見える裸体を晒しており、プリプリした身は新鮮そのもので豪快に齧りつきたくなる。素人が下手に天ぷらなどにするより普通に食べたほうが美味しいのではないか、と無粋な突っ込みを入れるのは自由だが、わざわざ自分が処理した食材を奪われて怒るリュミスを宥めるなり彼女から逃げ出す事が可能なら言うといい。ベルには無理だと思うしやりたくない。だから何も言わない。


「そうですね……。最後の確認ですが、油の温度は180度ぐらいになっていますか? 大丈夫なら、何個か試してみましょう」


 ついに本番か、とやる気を見せているリュミスの姿は恋する女の子そのもので、彼女のこの姿を見せられればブラッドだって彼女を好きになるだろうなあとベルは思う。長時間冷やされて氷のように冷たくなっている卵に小麦粉を加えつつ混ぜる手つきには、ぎこちなくとも溢れんばかりの誠意が見えた。
 リュミスがブラッドを苛めるのは照れ隠しだと描かれていたし、自分の気持ちのやり場に困ってストレスを溜めていた部分も多いのだろう。暴力ではなく料理に労力を注ぐ事で発散できれば、毎度ながら殴られたりパシリにされたりしているブラッドの生傷も減るのではないかとベルは予想する。

 いかな小さい堪忍袋とて、容量を超えて破裂する前にガス抜きが出来れば問題はないのだから。


「温度は大丈夫ね。それで、コロモの量はどのぐらいつければいいのよ」


「……うーん、個人の趣味の部分もありますし、私の料理経験が少ないので、適量はなんとも……。幸い材料はたっぷりありますので、何個か作ってから味見すれば大丈夫だと思いますよ? 厚くするにしても控えるにしても、味見は大切ですから」


「頼りないわね……。でも、味見とは気付かなかったわ。許してあげる」


 リュミスの額に皺が寄ったが、自ら味見すれば不味い物を出さなくて済むと気づいたのか怒ってはいなかった。
 どうやら以前にブラッドに食べさせた際、普段自分が食べているような物を、つまりは化学調味料が無いのでかなりの手間と時間がかかる物を作ろうとし、材料と簡単な手順しか載っていないレシピ帳を見て作ったらしい。付け加えると 『肉が程よく焼けたらひっくり返す』 等の”程よく”な基準が全く分からない状態で。
 それでも見た目には料理の体裁をとれる形になったらしく、リュミスは意外に料理の才があるのかもしれない、とベルは思った。


「油が跳ねるかもしれませんので、入れる時は気をつけてくださいね」


 リュミスがカボチャにたっぷりの衣を纏わせて静かに油の中へ投入すると、揚げ物特有のジュワワワーっという音を立てて油の中に沈んだ。無数の気泡が表面を泡立たせる。それを見てベルは、ファンタジーな世界であっても油は爆発したりしない、と誰かが聞けば飲み物を噴き出すような杞憂で胸をなでおろした。
 跳ねるかもしれないとは伝えてあっても、爆発するとは言っていない。もし盛大に煙を上げるような事態になればベルの命にかかわってくる。戦争やらなんやらで大きく減少してしまった竜族の平均寿命である三千年以上は生きたいと思っていたし、種としての限界は数万なのだから、せめて長すぎる自分の人生に嫌気がさす位には生きたかった。


「ベル、これでどう?」


「あ、いい感じですね……。あとは油を切って、冷める前に軽く塩を振っておけば完成ですよ」


 リュミスは菜箸を掲げ、香ばしそうなキツネ色の服を纏っているカボチャを示した。上手い具合に完成したようだ。
 油へ入れてからずっと突付き回しただけあって喜びも一入のようで、うんうんと満足げに頷くと油を吸い取るために用意された布の上に置く。するとリュミスは塩を鷲掴みにしてその勢いのままぶちまけようとした。ベルは慌てて引き止め、つまむ程度で十分だと言って戻させる。
 いくら味に鈍い竜だからといっても限度がある。本体と調味料が同じぐらいある物を口に入れれば、ただでは済まないだろう。主に味覚が。


「……とりあえず、塩、醤油、砂糖醤油、レモン、そばつゆ、と用意しておきましたので、お好みでどうぞ」


 ベルは予め小皿に盛っておいた調味料を並べる。


「うん、美味しい。……これなら、ブラッドも」


 中世ファンタジーな世界観でバリバリな日本食である天ぷらが他人の口に合うかは少し心配だったが、顔をほころばせているリュミスを見る限り問題は無かったようだ。最強にして最凶だけども最高の女を嫁に貰えるブラッドは果報者だなあと思う。彼女の胸までしかないベルが言うのもなんだけれど、頬を薄っすらと赤く染めた彼女はとても可愛かった。


「保温はしておきますので、ゆっくりどうぞ」


 ベルはまだ時間がかかるとみて、キッチンの一部に保温用のドームを形成しておくことにした。直径約1メートルの範囲を切り取って空気の対流を可能な限り停止させ、その区域のみ温度を上げていく。空気を扱うことにかけては最も優れている烈風竜だけあって、高温への調節というやや苦手な部類に入る仕事も問題なくこなせる。それでも失敗すると大変だから、間違って布にまで影響を与えて発火しないよう慎重に温度を上げていき、投げ込んでおいた温度計の目盛りが100度前後まで到達した所で過熱をやめた。これだけ暖かければ冷めはしないだろう。

 張り切って次を揚げているリュミスを眺めながら、何はともあれ無事終わりそうで良かったと溜息を吐いた。あとは頃合いを見て、メイドに作ってもらった蕎麦を茹でるだけだ。ポイントを書いたメモも作ってもらったし、なんとかなるだろう。










「なあ、マイト。竜に胃薬って効果あるのか?」


 マイトは自分の隣で無礼な呟きを漏らすブラッドに複雑な感情を抱きながらも、彼がそういう結論に行き着くのは仕方がない事なので納得していた。
 前に殺されそうになったのは姉さん手作りの料理を貶めたからだと伝える事ができ、何の意味もなく殺されかけたのではないと知って貰えたものの、今度も似た様な物が出てくると思っているのだろう。手伝わされているだろうベルは大丈夫だろうか。マイトとして本当に親友になれそうだと思っていたので、今回ベルを売るような形になった事は心苦しかった。姉さんは少しだけ素直じゃない所があるから、泣かされていなければいいのだが。


「ブラッド。姉さんの手料理なんだぞ?! 美味しいに決まっているじゃないか!」


 自分の姉、リュミスベルンこそが世界一の女性だと確信しているマイトは当然だとばかりに言い切った。姉さんの手料理ならばどんな物でも美味しいに決まっており、味覚を頼りに甘い苦いと評価を付けるのは間違いなのだ。手作りだからこそ価値がある。ただ美味しいものを食べたければ、人間の演技でもしてレストランなりに行けばいい。


「お待ちどうさま……。あ、ブラッドさん? 危険ですので、料理に対する否定的な批評は止めておいたほうがいいですよ? 私の家も壊されたくないですし……」


「了解。……あぁ! 楽しみだなあ、ブラッド!」


「……ああ」


 ベルが持ってきたのは大きなザルいっぱいに入った灰色の麺だった。どうやら鍋物のように、何人かで分け合って食べるらしい。食欲をそそる色合いではないが、姉さんの手作りとなれば同じ量の金貨など足元にも及ばないほどの価値がある。マイトはたくさん食べようと決めた。


「ふんっ! こ、光栄に思いなさいよ!!


 続いてリュミスが大きめなトレイに乗せて運んできたのは、こちらもマイトには理解しかねる不思議な料理だった。黄色の何かに包まれた魚や野菜だろうか。名前は天ぷらというらしく、野菜や魚を手軽に美味しく頂ける調理法であるらしい。麺のほうはソバという名前で、黒いソースにつけて食べるのが一般的だそうだ。ブラッドは当然驚いたし、マイトもいい意味で目を白黒させ、この前までは料理の「り」すら満足にできなかった姉の成長に度肝を抜かれている。部屋を満たす香ばしい香りは、朝から食事をとっていなかった面々の胃袋を快く刺激する物であった。


「見たことがない料理だけど、美味しそうだ。凄いね、姉さん!」


 ベルに急かされてブラッドの前の席に座るリュミスの頬は少し赤い。二人の姿は姉妹を見るようで微笑ましく、マイトは照れている姉さんも可愛いなあと表情を緩ませた。隣で唖然としているブラッドに肘を入れて正気に戻しておく事も忘れない。さっそく自分の分の天ぷらに手を伸ばそうとしたマイトだったが、その瞬間背筋に強烈な悪寒を感じて手をひっこめる。どうやら最初の一口はブラッドに食べて貰いたかったようで、顔をあげるとリュミスが睨みを利かせているのが見えた。


「ブラッドさん、まあ、食べてみて下さいよ。私も味見しましたし、ある程度は保証しますよ?」


 素直になれないリュミスの苛立ちをベルが察知してくれた。本当に彼女は思いやりがあるというか優しいというか、姉さんとはベクトルが違うけれどもいい娘だなあとマイトは思う。まだ100歳にも満たない年齢なのに気が利くし、暇潰しとして練習しているらしく魔力の扱いも非常に上手い。なぜだか攻撃魔法は全くと言ってもいいほど使えず、障壁を作る魔法だとか傷を治す魔法ばかり覚えているようだけども、ベルの性格を表しているようで微笑ましかった。


「は、はい! 食べさせて頂きます……。む? 初めて食べる味だが、サクサクしていて美味い……」


 リュミスの視線に気づいてしまったのか悲鳴交じりでフォークを握ったブラッドだったが、予想外に美味しかった事で呆気に取られたらしい。
 険しいし表情をしていた姉さんも顔をほころばせ、当然よ、なんて意地を張りながら自分の分に手を伸ばす。マイトも茄子らしい物に塩をつけて口に運び、不思議な触感を楽しみながら咀嚼した。これなら食卓に上っても不満を漏らさないと思うぐらい美味しく、それ以上に姉の成長が嬉しい。


「うん、とっても美味しいよ! 姉さん」


 マイトは心からの笑顔で姉を祝福する。姉さんはブラッドと一緒にいるとすぐ照れ隠しにパシリにしたり殴ったりするので、こうやって慣れていけばブラッドのリュミスベルン恐怖症も和らいでくれそうだ。最高の姉さんがブラッドなんか……と言い切れないのが親友の弱みであるが、ライアネさんにゴマを擦って二番目になろうとする、なんて悪夢は見なくて済むだろう。そんな姉さんの姿は絶対に見たくない。もう少しで長老が隠し持っていた竜殺しの剣を持ち出して、ブラッドの婚約者と決まっているライアネさんを殺すところだった。

 その後は特に何もなく、強いて言えばリュミスがソバを取る際にブラッドの箸が触れた部分を執拗に狙い続けるという珍事があったが、どうやらブラッドは気づいていなかったようなのでマイトは安心した。


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