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No.8484の一覧
[0] 【習作】使い魔ドラゴン (現実→巣作りドラゴン×ゼロの使い魔)転生・TS・オリ主・クロス有[ブラストマイア](2010/11/15 03:08)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/05/06 14:31)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/05/06 14:32)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/05/06 14:33)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/05/06 14:41)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/05/09 20:34)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/05/13 01:07)
[7] 第六話[ブラストマイア](2009/05/27 12:58)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/06/03 23:20)
[9] 第八話[ブラストマイア](2009/06/11 01:50)
[10] 第九話[ブラストマイア](2009/06/16 01:35)
[11] 第十話[ブラストマイア](2009/06/27 00:03)
[12] 第十一話[ブラストマイア](2009/08/02 19:15)
[13] 第十二話 外伝? メイドな日々[ブラストマイア](2009/11/12 19:46)
[14] 第十三話[ブラストマイア](2009/11/13 06:26)
[15] 第十四話[ブラストマイア](2010/01/16 23:51)
[16] 第十五話[ブラストマイア](2010/11/15 03:07)
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[8484] 第一話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/06 14:32
 一度失敗された身の上としては上手く行くのか極めて不安だった物の、今回こそ無事に成功したようだった。彼は自分の小さな手を見つめながら考える。
 赤子の間は下の処理とかが恥ずかしいから意識を持ちたくない、という願いも完璧だったようで、転生者としては極めてスムーズに生れ落ちる事が出来た。体の何処にも不具合は無く、どれどころかすこぶる調子がいい。頭もたっぷりの睡眠をとって気持ちよく、前世での何倍もスッキリしていた。


 新しく貰った名前はベルティーユで、愛称はベル。麗しくも可愛らしい女の子だ。


 将来的には腰まで伸ばす予定の髪はミスリルにだって見劣りしない銀髪で、『巣作りドラゴン』の二次創作的な世界で生まれた竜族の幼女である。取引によって成長してもロリのままということは決定事項。竜の寿命といえば万単位だし、彼の好みであるロリババア一直線だった。

 3歳の誕生日と同時に覚醒した訳だけれども、それ以前から少しずつ変化を表していたようで新しい両親は全く気付かなかったし、既に基本的な知恵と言葉と文字はインプットされていたので、ベルが言葉などの方面で困る事は無かった。人間の3歳児から見れば物凄い天才なのだろうけれど、竜としては別に普通のようだ。
 大学生程度の常識をもった存在として普通に生活していても周囲は全く騒がず、転生物としてそういうイベントを期待していたベルとしては残念に思う。多分に拍子抜けすると同時に、竜という存在自体がとんでもない高下駄だから、たった20年そこそこ生きただけの人間では、竹馬どころか蹄鉄1枚分にもならないのだと気付いて欝になった。


「キャー! うちの子ったら天才よ! みたいなイベントは無し、と」


 何しろ巣ドラの竜族は人間と比べる事が無意味に思えるほど強力な種族である。寿命もとんでもなく長くて頭の出来も常識外れ。魔法の才能というやつも凄く、他の種族の天才が努力を重ねてやっとたどり着ける領域に最初から立っている状態。生まれつき種族としてそうなのだ。

 その証拠に、ベルが暇つぶしで「ウル・カーノ」とゼロ魔世界の発火の呪文を唱えてみると使えてしまった。具体的には指先が火炎放射器になり、ベルは眼前で噴出する炎に驚いて後ろ向きにひっくり返った。そして受身も取れず後頭部を床で強打した。その拍子に紅蓮の炎が鼻先を掠める。
 岩壁がむき出しになっている部分の廊下を歩いていたから良いものの、もし室内だったら大火事だろう。ベルは改めて竜族のチートさを痛感すると同時に、うっかり魔法が暴発しないように注意するべきだと心に刻む。


 そりゃ取引の時に使いたいって言ったけど、まさか召喚もされてないのに使えるとは思わなかったよ。そういえば取引で杖は面倒だって漏らしたような……。
 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしい種族格差ってヤツを味わったぜ……。




 このように結構面白く過ごしていたが、家庭環境としてはあまりよろしい場所ではなかった。

 両親はただ自分の血を継いでいるというだけのベルの面倒をみるより、お互いにイチャイチャラブラブしている方がお好みのようで、ベルを育ててくれたのはもっぱら巣に使えているメイド達である。両親とは会話を交わす事さえあまり無く、竜としての常識を教えてくれたのは教育用に雇われたらしい魔族だった。

 彼女らも両親が作り出す桃色の空間には入りたくないようだ。その気持ちはとてもよく分かる。あの空間に長居するのは精神的によくない。
 火炎放射事件の時に壁が舗装されていない廊下を歩いていたのも、居間で両親が口に出してはいけない行為を全力でやっていたからだ。下手に気付かれると 「だめ……。あの子が見てるの……」 と言う風にダシにされるため、全力で回避は必須事項である。ベルがこの素で両親から学んだ数少ない事だった。


 ……感謝すべきかもしれないけど、したくない。


 新たな両親と打ち解ける自信が無かったので安心する反面、この世界において私たち竜族は絶滅の危機に瀕しているようなのに、こんな子供としてグレやすそうな環境で育つのは良いのだろうかと少し不安になる。まあ、ベルは1:8の比率で余っている女の方だから、種族としてみればどうでもいい存在なのかもしれない。
 多少ながら血が混ざっている混血なので、この物語本来の登場人物の一人であるリュミスベルンのように純血種という訳でもないし。


「……失礼します、ベル様。お食事の用意が出来ました」


「あ、ありがとう。入っていいよ」


 ベルは覚えている限りのゼロの使い魔の呪文と発生する主要なイベントを書き込んでいた手を止め、豪華な手帳を閉じるとドアに向けて入室を促した。
 「失礼します」 という言葉と共に入ってきたのは、エルフのように大きな耳を持つメイドの少女だ。見た目は10歳を少し超えたようにしか見えず、彼女の実年齢は優に4桁を超えていると気付ける人間は居ないだろう。性格も子供っぽいので大人の女性には見えないし、ベルもどちらかといえば妹のように考えている。


「ああ、美味しそうな匂い。いただきます」


「はい。お代わりもありますので、沢山召し上がってくださいね」


 本日のメニューはご飯に味噌汁にアジの開きといった、ほぼ完全な日本食だ。
 この世界に日本があるかどうかは分からないので『日本食』と言って良いのかは議論のしどころだけれども、本家巣作りドラゴンには無くてもこの世界にはあるのかもしれない。ここは原作とはかなり違うパラレルワールドであり、だかこそベルの存在が許される世界であるから。
 もし本当にあったら、ひと飛びして観光するのもいいなと思った。竜の姿になれば海を渡るぐらい苦でもない。


「うん、美味しい。焼き加減もちょうどいいし、また腕を上げたんじゃない?」


「えへへ。そう言ってもらえると、作り甲斐がありますよ~!」


 長い前髪によって顔の半分以上は隠れていても、このメイドが褒められて照れていると察するのは難しい事ではなかった。屈託の無い笑顔だ。
 相変わらず幼い性格をしているメイドの少女を微笑ましく見つめる。

 彼女は味覚に疎い魔族では珍しく料理が得意で、この巣では料理長として君臨していた。
 本来なら彼女よりも地位の高い魔族が何人も居るのだけれども、美味しい食事を提供できる唯一の人間に逆らえる人物が居るだろうか? いや、居ない。と、言う訳で彼女の要求なら基本的に何でも通るため、キッチンはかなり広く使いやすく拡張されたそうだし、機材だってそこらの王宮では手も足も出ないほど充実している。魔力を利用しているらしい電子レンジもどきまであったのは驚いた。

 どれほど金がかかっているのかはベルの知るところではないにしろ、3歳児のお小遣いが宝物庫に転がっている宝石をどれでも一つという時点でこの巣の滅茶苦茶さは把握してもらえると思う。ちょっと鑑定してもらったところ、大貴族でもおいそれとは手を出せないような金額だった。前世でこれがあったらさぞ素晴らしいNEETな日々だっただろうに。

 日本人として最低限のマナーを守りながら食事をかっ込み、満足したら眠くなったのでベッドへと移った。


「さて、巣を出るまであと46年と10ヶ月か……。長いなおい」


 一般的なドラゴンは50年ほど巣の中で育てられ、それ以降は竜の村と呼ばれる場所で共同生活を送る事になっている。
 この世界の主役であるブラッド=ラインとリュミスベルンも、今はまだそこで生活しているはずだ。


「しかしまあ、本気でチート種族だな、この世界の竜って」


 単独で世界を相手に喧嘩を売れる女性が居るだけあって、その端くれであるベルでさえ既にドラゴンボール状態である。実際にリュミスなら初期べジータを殺せるのではないだろうか? 大猿になったら無理かもしれないが、少なくとも良い勝負はしそうだとベルは思った。
 マッスルな海兵隊員からおもちゃの兵隊ほどまで弱体化する人間形態でさえ、魔力で身体能力にブーストをかければ100キロ以上ある荷物が軽々と持ち運びできるし、歩くのと似たような感覚で空を飛ぶ事も出来た。まさかいきなり飛べるとは思わず、天井に頭を打った。痛かった。

 怖いのでまだブレスを吐いたりするのは試していないが、血が混ざりすぎて魔力を上手く扱えないという主人公でも吐くだけならやっていたし、ほんの僅かしか別種の血が混じっていないベルならば問題ないはず。最悪吐けなくともゼロ魔世界なら問題ない。


「しかし、まさか勉強が楽しいと思う日が来るとは思わなかったよ。これが天才ってヤツなのか」


 文字通りの意味で頭のつくりが違うからか、『240ミリリットルの水溶液の塩分濃度が25%の時、そこに20グラムの塩を混ぜた後で、水溶液が200ミリリットルになるまで蒸発させた。この時出来る水溶液の塩分濃度は何パーセントか』なんて面倒なのも、自分で問題を考えている間に解けてしまう。
 複雑な計算も暗算で済ませられるし、書物も一度読むだけで簡単に記憶してしまえるのだ。人間の矮小さというか種族の格差とかを痛感する日々である。
 大学受験の時には結構必死になって勉強したのだけど、それが3歳児にスラスラ解かれるこの屈辱。俺の頑張りは才能の前には無意味な物だったのですねハハハハってなもんだ。魔法は凄く楽しいのが逆に悲しい。念願だった天才幼女になれたのにやるせない。

 深く考えたら何かに負けそうになり、その日は眠くなったので不貞寝した。毎日こんな感じだ。食っちゃ寝のNEET生活楽しいです。






 ところで話は変わるのだけれども、ある日ふと気付いたら夏休み終了間際だった、といった経験は無いだろうか?
 宿題になっている日記を捏造しまくったり、徹夜してドリルを解いたりした経験は日本人なら誰にでもあると思う。いつの間にか8月の終わりまで捲くられていたカレンダーを見て、「おかしい! 2ヶ月もあったのに!」と無意味で虚しい悪態をつく、そんな経験。


「キングクリムゾンっ! 「結果」だけだ!!この世には「結果」だけ残る!!」


 巣の中って快適だよね。そろそろ1年位は経ったかな? と思ってメイドに聞いたら、既に30年も過ごしていたと気付いた日、ベルは自室でそう叫んだ。

 身長だって3歳児のちんちくりんだった頃から比べれば物凄く伸び、今では人間形態で112センチ。竜の状態だとちょっと分からない程に育ったけれども、それにしたって30年は経ちすぎだろう。1年が365日なら1万日以上もあったのに。
 目が覚めたら起きて、お腹が減ったらご飯を作ってもらい、気ままに魔法の練習をして、たまにメイドさんと遊んで、お腹が減ったらご飯を食べて、眠くなったら寝て、と今思えば物凄く自堕落だった生活のツケだろうか。一応はNEET卒業したのだけれども。


「私ってばもう三十路だなんて……。原作で50年が短い春って言われていた理由が分かったわ……」


 最近では全く同じように見えていたメイド達の区別が髪の色以外でつくようになったし、気まずい関係だった両親ともそれなりに打ち解ける事ができた。
 一時だって夫を離したくないと駄々をこねる母親に頼まれ、バイトとして村や町を襲ったりするようになったのは信頼された証だろう。しかしながら人を殺すのはちょっと気後れしてしまい、どうしようかと目標の村の上をグルグルと旋回していたら住人は避難してくれた。今にして思えばブラッドがやっているのと同じだ。きっと彼がやり始めたきっかけもこんな調子なのだと思う。


「ベルは優しすぎる。彼らと私らでは種族が違うんだ。博愛主義もほどほどにするべきだよ……」


「そうよ、ベル。別に気にする事なんて、これっぽっちもないわ」


 親に話したら上記のように甘いと言われてしまったが、人が死んでは富の生産量も下がる。そうなればイチャイチャ出来なくなるかもよ! と脅してみると、したり顔で納得するのだからこの竜は……と思う。

 現時点でバイトは累計で20回にまで登っていて、町の壊し具合も大まかにだが分かってきた。金持ちが多そうな通りを避けるぐらいの気遣いは出来るので、貴重品が失われずに貢物として巣に運び込まれる事も多くなり、軍隊を派遣できそうなバイト料に見合った働きは出来た、とベルは自画自賛してみる。

 襲撃で得られた貢物の半分と、襲ってから3回目までの冒険者撃退報酬の10%がこちらの持分なのだが、はっきり言って多すぎだ。
 既に城を作れるだけの金があるし、この巣にはまだ竜が居る=お宝もある。その上、竜は小さくて子供らしい。と彼らは察知したようで、襲撃者は順調に増えている。そして増えれば増えるほど、ベルの貯金も増えていく。
 元一般的な日本人として、飛んでいってブレス吐いて終わりの仕事だけでここまでの金が手に入ると気後れしてしまった。二人が結婚してから母親の独占欲が爆発したために長らく巣に籠もり切りだったので、襲ってくる人間が減少の一途を辿っていたのが彼女の悩みの種の一つだったらしく、足りなかったら増やすからもっと続けなさい、と言うので受け取ったけれども。
 竜の村が面白くなかったらこの金を使って貴族にでもなり、のんびりと過ごすのもよいかもしれない。異性の恋人を見つける気は無いが。


「後は、もう少し自制してくれればなあ……」

 普段の甘々っぷりを熟知しているベルはため息を漏らした。
 父親のかっこよさはベルも認める所だったし、母親の美しさも半端ではないけど、だからこそギャップが苦しい。
 両親の顔立ちはハリウッド俳優のように整っていて非の打ち所が無く、若干ながら電光竜の血が混じっている父親の髪はダイアモンドのように幻想的、水氷竜の血が入っている母親の髪は世界一の海でさえ尻尾を巻くだろうほど。微笑みあっている二人の姿は非常に絵になる。
 そんな二人が 「はい、あーん♪」 とか 「ん~! とっても美味しいよ!」 とかを日常的にやっているのだ。少しはベルの身にもなって欲しい。
 空気を読んで遠回りのルートを通って自室に戻るのは日常的になっていて 「巣が老朽化したから補修を」 などと嘘をついてまで防音性能を徹底的に上げてくれたメイドの気遣いに感謝の涙が耐えません。そのついでに空調も完備してもらい、工事が終わった後で告げられた際には手を取って感謝しましたよ。


「あのピンク色でハートマークが乱舞する空間は慣れないよ……」


 自室にて鏡の前で自慢の一つである銀髪を愛でていたベルは、無節操に絡み合う両親を思い出してもう一度ため息を吐いた。
 竜族の生涯出産数は低いけれども、あの分なら枯れるまでに10や20や30は子供を作るのではないだろうか。一日と間を置かず愛し合っている二人を見ると竜の膨大なスタミナに恐怖さえ感じる。竜族が皆あんな調子なら、世界はそう遠くない未来に竜で埋まるだろう。

 しかし両親が頑張ってくれたお陰で生まれる事が出来た訳だし、銀髪は父親譲りの雷鳴竜の血の影響だろうからそんなに悪くは言えない。自分の姿を見てニヤニヤするのは気持ち悪い行為だと分かっていても止められなかった。だって鏡の中の自分は物凄く可愛いのである。
 腰まで伸ばした銀髪は指で撫でるとシャンプーのCMに出ているモデルの一品のようにサラサラと流れるし、声も釘宮病患者には堪らないくぎゅボイス。一人で「くぎゅうううううう」と叫んでいてメイドに聞かれたのは物凄く忘れたい思い出だけれども。


 混血でこれなら、リュミスとかどんだけ強いんだろう……。


 ベルは烈風竜が8割5分、水氷竜が1割、残りの5分が電光竜、という感じの混ざり方になっており、竜化した際には純白に近い鱗をもった竜になる。混血の割合が低いので血の制御も比較的簡単で、30年経った今では人型のままでも力の部分開放をする事が可能になっていた。その気になれば空も飛べるし、本来の威力からするとマッチ位のサイズでいいならば、ブレスだって吐ける。
 ただ、威力の調節が凄く難しい。絞りすぎて煙が出るだけだったり、緩めすぎて家が吹き飛びかねないのが出たり、とイマイチ安定してくれないのだ。
 今のペースだと、安定するまでには50年位かかりそうである。巣の中には魔物たちが訓練するための広大な空間があるが、そこで行うのは巣を壊して貯金が減る危険があるとの判断から、巣がある隣の山の中で行うことにしていた。


「竜状態のブレスとかマジで兵器過ぎるだろ……。本気で生物なのか、私は」


 ブレスは血統の影響を色濃く受けており、竜巻を50個纏めて無理やり圧縮したような物が基本。そこに極寒のブリザードを20倍ほど酷くしたような冷気が混ざり、全体をプラズマ寸前の稲妻がちらつくような感じになっていた。
 威力は、全力でぶっぱなすと大帝国の首都が周囲の畑と城を含めて更地と化すレベルで、 「見せてあげよう! ラピュタの雷を!」 の数十倍は性質が悪い感じになっていた。町を襲う際には壊し過ぎないよう、かなりの手加減を必要とする。


「最初の頃は全力全開、でよかったんだけどなー。細かいのは苦手だ……」


 発射の際には上空2500から3000メートル付近でホバリングして狙いを定めるのが常になっている。
 距離があるためか20や30メートルほど着弾地点がブレるのは毎度の事で、うっかりスラム街ではなく豪華な屋敷を吹き飛ばす回数も増えてきた。やはり練習が必要のようだ。気軽にぶっ放せる威力ではないから、的は襲撃予定の町だけれども。
 元人間として町を壊して悦に浸る気質は少ししかないため、最小の攻撃で最大の結果が欲しい。壊しすぎるとお小遣いが減るので涙目である。

 あまり消費しないので貯金は増える一方なのに、貰える額が減ると悲しいのは溜める喜びに目覚めたというヤツだろうか。前回の襲撃によって更に一桁多くなり、ゼロの数が増えすぎて数えにくい。両親の作った巣は着工から300年以上経過しているので十分に大きいし、魔物たちも猛者揃いだから冒険者への対処は滞りなく、弱めの攻撃で大量の襲撃者を誘い込む方が効率的なのだ。


 人としてそれはどうなんだ、この殺人者め。


 一人の時にふとそんな事を考えたりもする。
 ここが創作の世界であっても、過ごしている人間は全て血の通った生き物だというのも理解していた。
 前の自分なら罪の意識に苛まれて発狂したかもしれないけれども、既に人間ではないベルでは破壊された街を見てもアリの巣を潰した程度のモノしか得られなかった。自分が人殺しだというのを否定するつもりは無いし、被害者に攻められれば反省するかもしれない。


 それとも、 「仕方が無かった」 と屁理屈を並べるだろうか? 涙ながらに自分を攻め立てたてる人間を相手に、苛立ちしか感じず殺してしまうだろうか?
 はっきり言って、自分でもまだよく分からない。

 たった一つだけ確かな事といえば、数百人を殺すより自分の貯金が増える方が圧倒的に嬉しいという事だ。
 宝物庫の一角に自分のスペースを設けて貰ったし、衝撃を与えても大丈夫な金銀宝石の上に飛び乗って転がるのは物凄く楽しい。頑張った自分へのご褒美(笑)として甘い物を食べると物凄く美味しい。メイドや両親たちと一緒に食べると、もっと美味しくなる。
 それが血に濡れた金で買った物だとしても、だ。


「ベル様、美味しく無かったですか……?」


「ん、ちょっと考え事をしていただけ。とっても美味しいわよ? ……あ、頬にクリームついてる」


「ふぇ……。あ、ほんとだ。ん~……。ぐぎゅっ?!」


 自分の頬についたクリームを舐めようと必死に舌を伸ばしているメイドが、上司に「行儀が悪い」と頭を叩かれ、その拍子に舌を噛んで悶絶している。ベルはクスクスと笑い、釣られて他のメイドたちも笑い声を上げ、キッチンは穏やかで優しい空気に包まれた。




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