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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第9話:華、開く(少しエッチ)
Name: PUL◆69779c5b ID:c3de6e77 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/12 21:56
第9話:華、開く

 ブラッドが街から戻ると、城内の敷地で気合の入った声が聞こえてきた。蓮華が思春を
相手に実戦形式で鍛錬の真っ最中だった。
「たぁ!」
「甘いです」
「やぁ!」
「遅い」
両者が手にしているのは真剣で一つ間違えれば怪我どころの話ではないが、蓮華の怒涛の
攻撃を思春は余裕を持って躱している。剣は素人のブラッドの目から見ても両者の力量
には開きがありそうだ。しかし、これは蓮華の技量が劣るというわけではない。思春の
技量が凄すぎるのである。

「どうしたブラッド?」
暫く見いていると、思春が構えを解いてブラッドに視線を向ける。かなり前からブラッド
に気付いていたが切のいいところまで続けていたようだ。相変わらずの澄まし顔だが、そ
の表情に嫌悪感は無い。
「あ、悪い。邪魔してしまったようだな」
「そんなことは無い。蓮華様の集中が少し乱れ始めたので一息つけようと思っていたとこ
ろだ」
「……」
蓮華の集中が何故乱れたのか思春は分かっているが、追求はしない。思春らしい配慮だが、
蓮華の事は全てお見通しと言いたげな思春の態度が蓮華には気に入らない。わざわざ
ブラッドの前で言われた事も蓮華の心をかき乱していた。

 最近、思春とブラッドが妙に仲が良い。少なくとも蓮華にはそう見える。正確に言えば
ブラッドはこれまでと変わらない。思春がブラッドにちょっかいだす事が増えているのだ。
それも挑戦的に突っ掛かっていくのではなく、平静装いながら取り繕ってブラッドに擦り
寄って一緒に居る時間を作ろうとしているように見える。蓮華はこれと似たような事をし
ている者を知っている。他ならぬ蓮華自身である。信頼を寄せる友の不審な行動に蓮華の
心は霧が掛かったようにすっきりしない日が続いていた。
「ブラッド、今時間空いてるかしら? 出来れば私の鍛錬に付き合って欲しいんだけど」
蓮華は自分が主導権を握ろうと会話に割って入った。思春は僅かに表情を強張らせたが
口を挟むことは無かった。
「あぁ、暇だし付き合ってもいいが、いいのか思春?」
「構わん。蓮華様も仰っていたように私とお前では戦い方が全く違う。戦いの幅を広げる
上でも違う者と鍛錬するのはいいことだ。それは私自身にも当てはまり、呂布を退かせた
お前にどこまで通用するか試してみたい気持ちもある」
「思春もやっぱり気になるの?」
何気ないふりをして思春に尋ねながらも蓮華は様子を伺っている。果たして思春は武人と
してのブラッドに興味を持っているのか、それとも別の理由でブラッドに興味を持ってい
るのか…。またブラッドがわざわざ思春に了解を得たことも気になっていた。
「はい。これほどの逸材を前にして武人として剣を合わせないわけには行きません」
思春の答えは簡潔だった。しかし、女の感か疑心暗鬼か蓮華は思春の言葉を素直に信用で
きなかった。

 しかもブラッドの言葉が更に追い討ちをかけた。
「思春にいいようにあしらわれてる蓮華が俺とやって鍛錬になるのか? それに俺は剣術
に関してはど素人だ。今は思春みたいに技術のある奴とやったほうがいいと思うが?」
ブラッドに悪気は無かったがこの台詞は最悪だった。蓮華の武を否定しながら思春の武を
褒めてしまったのだから。案の定、蓮華は頬を紅潮させてブラッドを睨み付けた。
「言ってくれるわね。いいわ。そこまで言うなら私の実力がどれ程のものか、あなた自身
の体で確かめさせてあげるわ」
実力を認め憎からず思ってはいるが、武人としてのプライドを傷つけるような言動は許せ
なかった。蓮華は出会った頃のような厳しい戦線をブラッドに向けて威嚇した。

「何してるのブラッド?」
偶々通りかかった雪蓮と冥琳が声を掛けた。ブラッドを挟んで蓮華と思春が言い争って
いる、もしくは思春に文句を言っている蓮華をブラッドが庇っているように見え雪蓮は
興味津々と言った様子だった。尚、冥琳は我関せずとばかりにそっぽを向いている。
「あぁ、ちょっとした成り行きで蓮華と勝負することになって」
「へぇ、蓮華とブラッドが勝負ねぇ…」
「姉様、止めないでください。これは武人として誇りをかけた勝負なのですから」
「えーっと…いいのか?」
自分の不用意な発言に気付いたブラッドは困った顔で雪蓮に視線を移すが、雪蓮に助け舟
を出す気配は無い。
「勿論止めないわよ。蓮華はあなたと呂布の戦いを見ていないから、実力をちゃんと知っ
てもらう良い機会だわ。遠慮せずに存分にやって頂戴。蓮華、あなたも孫家の者として敵
対する者には全力で対応しなさい」
「分かりました」
雪蓮の許可が出て俄然やる気を出した蓮華は、剣を構えて臨戦態勢を取った。
「はぁ…結局こうなるのか」
「ご愁傷様。まぁ頑張れ」
予想通りの展開にブラッドはため息を吐いているが、予想通りでも巻き込まれなかった
冥琳は人事のようにエールを送った。


 ブラッドと蓮華は距離を置いて対峙した。いつの間に主だった武官、文官に小蓮まで集
まってきてさながら御前仕合の様相を呈してきた。気合十分の蓮華に対し、ブラッドはや
る気ゼロだった。
「いくぞ! たぁっ!」
「よっと」
ブラッドに切りかかる蓮華。しかしブラッドはそれをオーバーアクションで躱す。
「やぁ!」
「ほい」
次々繰り出される蓮華の攻撃をブラッドは難なくかわしていくが反撃はしなかった。
「うーん…。ちゃんと躱してるんだけど動きが大きくて無駄が多いわねえ」
「とても体術に長けてるようには見えんのう」
「でも避けてるし。要するに身体能力がずば抜けてるんでしょうね。呂布もそれだけで押
さえ込んだんだから」
「それって物凄いことよ。これで何か技でも身につけたら手に負えなくなるわね」
ブラッドの並外れた身体能力に雪蓮達は改めて感心しているが、相手にされない蓮華は
段々イライラが募ってきた。
「逃げてばかりいないで反撃したらどう!?」
「蓮華の剣が俺に当たれば反撃してやるよ。当たればな」
「な、舐めるな!」
ブラッドの挑発に切れた蓮華の渾身の一撃が肩口に振り下ろされた。しかしブラッドは
全く避ける素振りを見せず蓮華の攻撃を受け止めていた。

ドカッ!

「え?」
唖然とする蓮華に対し、ブラッドは剣を受け止めたまま余裕の表情である。服は切れてい
るが体には傷一つ付いていなかった。
「呂布の方天画戟を受けても無傷だったしもしやと思ったけど、剣で切れない体ってどう
いうこと?」
「硬気功だったかしら? 己の気を高め肉体を強化する仙術の技の一つ。実際に見たのは
初めてよ」
「なるほどね。ブラッドの自信の根拠はこれだったのね。刀剣も戟のような打撃系の武器
も通用しない鋼の体。更に火計を使っても難なく通り抜けてしまう。守りに関しては無敵ね」
感心している雪蓮達に対し、剣を受け止められた蓮華は何が起こったのか分らずまだ呆然
とブラッドを見つめていた。
「中々良い踏み込みだ。今の感覚を忘れるな」
そう言うとブラッドは蓮華の手を掴んで引き寄せた。呆けたままの蓮華の手から剣が滑り
落ち無抵抗にブラッドに抱きしめられた。
「…え? あ、ちょ、ちょっと…」
「ふ、可愛いぞ」
「あ…」
我に返った蓮華だが、既にブラッドに顎に手を当てられ視線を上向かせられる。ブラッド
の視線に絡め取られた蓮華は目を逸らす事が出来ず、赤くなっていた頬が更に赤くなった。
周囲の者も固唾を呑んで見入っている。
「だ、駄目…」
弱弱しく呟くだけで蓮華は抵抗しない。やがて蓮華は静かに目を閉じて…。

「そこまでーっ!」
雪蓮の悲鳴にも似た制止にブラッドを除く全員が我に返った。
「な、何やってるのよブラッド。いくら孫呉に天の血を入れるのが仕事だからって場所を
弁えなさい!」
「あぁ、済まん。つい」
「何がつい、よ。真面目にやりなさい。蓮華も何幸せそうな顔して抱きついてるのよ!」
「え? あ…はわっ!」
ようやく我に返った蓮華は思いっきりブラッドを突き飛ばして距離を取ると真っ赤な顔で
睨みつけた。場所と場合がよければ無条件で受け入れるところだが衆人環視で受け入れる
程蓮華は開放的な性格ではない。
「あ、あんたって最低ね!!」
「おぉ、怒った顔も可愛いな」
「死ねぇ!!!」
完全にぶち切れた蓮華は剣を拾いなおし、ブラッドの脳天目掛けて容赦なく振り下ろした。

ゴン! 
ゴン! 
ゴン!

「イテ、わ、悪かった。済まん」
「そうか、切れなくても殴れば痛いのね」
剣を振り回す蓮華を見ながら妙なところで感心する冥琳だった。
「蓮華、落ち着きなさい。ブラッドもそんなに蓮華をからかうんじゃないの。見た通り純
情なんだから」
「からかって悪かった。でもお前が可愛いと思ったのは本当だ」
「そ、そんな事皆の前で言わないでよ、ばか」
恥ずかしさのあまり涙目で抗議し、そのまま目を伏せてブラッドの胸に顔をうずめる。こ
こでキスでもしようものなら今度こそ雪蓮の南海覇王が飛んできそうなので自重するブラッド
だった。

「うーむ…。思わず見入ってしまったが、ブラッドはやはり中々の手練手管じゃな。権殿
のように純情な娘は一ころじゃな」
「何よ。お姉ちゃんデレデレしちゃって」
「ブラッドさん、器は蓮華様だけじゃないですよ~♪」
傍観者達は総じて暢気だった。
「ま、呂布の方天画戟をまともに受けて無傷なんだからこれくらいはやるでしょうね。
今度は攻撃してみて」
「分った」
「ブラッドさんの攻めですか? 何か楽しみです♪」
頭の中が桃色一色状態の穏の呟きを無視して雪蓮は仕合を再開させた。
「もう一回蓮華と…は駄目ね」
ブラッドの精神攻撃ですっかり骨抜きにされた蓮華は、真っ赤な顔でブラッドを横目で
見ては体をくねらせてとても剣を構える状況になかった。
「他には…」
相手になりそうな武将を見回す。
「権殿の攻撃を受け止められたら、儂の弓は敵いますまい」
本気で言ってるのか分らないが祭はやる気がないらしい。
「はぅ…。あれが大人の男性の振る舞いなんですね」
明命も蓮華以上に呆けていて使い物にならない。
「じゃあシャオが相手してあげる♪」
「あなたは駄目。下心見え見えよ」
「ぶー」
別の目的でやる気満々の小蓮も却下だった。
「困ったわね。誰か…」
「では、私が…」
メロメロになった蓮華に変わって闘志を漲らせた思春が名乗り出た。
「じゃあ思春おねがい。ブラッドもいいわね?」
「あぁ、問題ない」
ブラッドは即答して剣を構えた。

「雪蓮、大丈夫なの? あの子本気よ? ブラッドの硬気功の威力は分かるが常に発動し
ているわけではあるまい? それに喉や目など鍛えようが無い場所もある。思春の攻撃は
速さを生かした急所攻撃よ。ブラッドと言えどただでは済まないはずだ」
蓮華を汚された怒りに燃える思春が勢い余ってブラッドを殺してしまわないか冥琳は心配
しているが雪連は落ち着いたものだった。
「味方同士の仕合でそれはないわよ。思春もそんな事は絶対しないはずよ」
「そうだといいけど」
対照的な様子の二人の前で第二仕合が始まった。
「ブラッド、本気で行かせてもらうぞ」
「分かった。本気でイカセテやる
「と、時と場合を弁えろ、この節操なしめ!」
ブラッドの微妙にニュアンスの違う物言いに思春は過敏に反応し真っ赤な顔で突っ掛かった。
この事からも分かるように思春の心境は雪蓮達の想像とは少し違った。純粋に強い相手
と戦いたいという気持ちと、目の前でいちゃつかれたことに対する苛立ちが混ざり合った
状態だが、本人でさえも良く分かっていない。

「はぁぁ!」
殺気全開モードの思春は一気に間合いを詰めようと低い姿勢で踏み込んだ。

コテン…
「……」
信じられない事に思春は踏み込む瞬間、足を滑らせ転んでしまった。裾が捲くれ上がりあ
られもない姿をブラッドに曝している。
「おぉ、それは文献で見たことがあるぞ。クラシカルパンツ、褌だったな。この前は良く
見なかったが中々淫靡だ」
「ふ、褌って言うな! 淫靡って言うな! 貴様、今何をした!」
ガバッと起き上がり、二割の怒りと八割の恥ずかしさで顔を真っ赤にしてブラッドを睨み
付ける。ブラッドの意味深な発言に周囲は気付いていない。
「俺が魔法を使えるのは知ってるだろう? まだ十分に力は出せないが風の術は割合使い
こなせるようだ」
「く、小細工を…」
悔しそうに顔を歪める思春に対し傍観者達は目の前の珍事に目を丸くしていた。
「何が起きたんだ? 思春が転ぶなんて信じられないわ」
「うーん…。ブラッドの言った事から想像すると、思春が踏み込もうとした瞬間風の仙術
で足を払ったのかしらね? そんな芸当が出来るのは大陸中でブラッドだけでしょうけど
本当だったら厄介ね」
「風は見えんからな。出鼻をくじくには最適だ」
「く…小細工を労しおって。これでは仕合にならんではないか」
真剣勝負をはぐらかされたことと恥ずかしい格好を曝したことで思春は少し拗ねた表情で
ブラッドに不満をぶつけた。
「そうか…。じゃあ、今の術は使わんからどこからでも掛かってこい」
「ふ、その余裕が命取りになるかも知れんぞ?」
思春はたった今使われて拗ねていたとは思えない不敵な笑みを見せている。結構面白い奴
だとブラッドは思ったがここで言うとまた怒るか拗ねるので突っ込まない。
「敵にこんなことはしないが今は仕合だ。これくらい問題ない」
「なら遠慮なく行くぞ。はぁぁぁ!!」
思春は一瞬でブラッドの間合いに入ると躊躇う事無くブラッドの喉目掛けて飛び込んできた。

 しかしブラッドも紙一重でかわしていった。思春は追撃を緩めず、二次、三次と怒涛の
攻撃を仕掛けた。
「す、凄い…。て言うか思春て本気でブラッドの喉狙ってるじゃない」
「疾風の如き速さが思春の身上ではあるが、この速さは尋常ではないな。いつの間にこれ
ほどの武を身に付けたのだ?」
「勿論本人の努力があってのことだと思うけど、ブラッドが相手だから自分の力全て出し
切っても大丈夫って思ってるのかしらね? でも、その思春の攻撃を躱し続けるブラッド
も凄いわね。どこまで能力を隠してるのかしら?」
雪蓮は目の前で繰り広げられる超人同士の戦いに目を細めているが、局面は少しずつ変
わっていた。
 
 全力でぶつかっている思春と無尽蔵の体力を持つブラッドでは自力に差がある。思春の
スピードが徐々に落ちてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どうした? 息が上がっているぞ」
「ま、まだまだ…」
思春は歯を食いしばってブラッドの懐に飛び込むが、今までと比べワンテンポ遅くなって
しまった。
「ここまでだな」
ブラッドは思春の攻撃に合わせ半歩前に踏み込んだ。
「あ…」
ブラッドは鈴音を持った思春の腕を肘でブロックすると、がら空きになった胸に弱い電撃
系の魔法を放った。
バチ…。
「はぅっ!」
心臓への電気ショックで、思春はそのまま膝から崩れブラッドの胸に顔をうずめるように
倒れてしまった。
「ブ、ブラッド…流石だな。私の負けだ」
「いや、お前の速さも中々のものだったぞ」
「…私の負けは否定しないんだな?」
「引き分けとか言ったら怒りそうだしな」
「ふふ…そうだな」
思春は小さく笑うと上目遣いにブラッドを見つめている。暫く無言で見詰め合っていたが
少し名残惜しそうな顔をしながら思春はゆっくりブラッドから離れた。

「今日は完敗だ。まぁ、簡単に勝てるようでは面白くない。しかし、いつの日かお前の首
に鈴音を叩き込んでやるから覚悟しておけ」
「…物騒な事言うな」
「冗談だ。それぐらいの意気込みだということだ。それに、私が全力でぶつかってもお前
なら受け止めてくれるのだろう?」
ちょっと引き気味のブラッドに対し思春は不敵な、少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら宣
戦布告した。敵意は全く感じられなかった。
「あらら…何か良い感じになってるわね、ブラッドと思春は?」
「武人として実力を認めたということだろう。悪い傾向ではない」
「……」
思春の変化に驚きながらも雪蓮と冥琳はそれを好意的に受け止めている。しかし蓮華だけ
は複雑な表情で思春を見ていた。


 夜、ブラッドの部屋を訪れる者がいた。
「ブラッド? 今いいかしら」
「蓮華か? いいぞ鍵は開いてるぞ」
「失礼するわ」
ブラッドの返事を待って蓮華は静々と部屋に入ってきた。俯いて何やら思い詰めた雰囲気
が漂っている。
「で、何か用か?」
「あ、あのね…」
言いかけて口籠り俯くが、意を決したように顔を上げてブラッドを見つめた。
「た、単刀直入に聞くけど、思春と寝たの?」
「……」
ブラッドは何も答えない。驚いて言葉に詰まっているわけではない。思春が自分との事は
いずれ蓮華に話すと言っていたが、今蓮華が自分にそんな事を聞くということは思春はま
だ蓮華に話していないことになる。これはクーの言っていた面倒な事態になる可能性を示
すものだった。しかしブラッドの沈黙を肯定を受け取った蓮華は更に言葉を続ける。
「少し前からそんな気はしていたわ。あなたは気付いてなかったかもしれないけど、思春
のあなたを見る目がこれまでと全然違ってたし、無意識にあなたの事を目で追っていたわ」
「…それで?」
どう答えるべきか考えながら思春の軽率な態度に内心舌打ちする。とは言え、蓮華同様純
情な思春がブラッドに対しこれまで通り何事も無かったように接する事が不可能な事など
少し考えれば分かることで、蓮華が気付くのも時間の問題だった。
「私もあなたを見ていたから分かるの。きっと思春も私と同じ気持ちなんだなって」
ここで、思春は自分の事をどう思ってるんだろう、と考えるほどブラッドは病的鈍感野郎
では無い。そして蓮華の想いもはっきり分かっていた。

「あいつは何も言わなかったのか?」
「えぇ。本当は言いたかったのかもしれないけど、言い出せなかったのね。あの子は私の
気持ちに気付いてたみたいだから…」
蓮華は自嘲気味に小さく笑みを浮かべた。主人の気持ちを知りながらブラッドに惹かれて
しまった自分を責めているかもしれない思春に、蓮華も気に掛けているようだ。しかし
思春の気持ちが分かっていても、もう自分の気持ちを抑えることは出来なかった。蓮華は
勇気を振り絞って自分の想いのたけをブラッドにぶつけた。
「姉様や思春があなたの事をどう思ってるとか、天の御遣いの器とか、そんな事は関係
無いわ。私は…私はあなたが好きなの!」
「……」
蓮華の捨て身の告白をブラッドは冷静に受け止めていた。根が純情なだけに思い込むと
突っ走るタイプで情熱的なのは姉に通じるものがある。
「…私って姉様や思春より魅力無い?」
「そんなことはない」
蓮華は心細そうにブラッドの返事を待っていたが、それを払拭するようにブラッドは蓮華
の唇を奪った。
「ん…んん…」
唇を重ねるだけのキス。それでも蓮華の気持ちは十分に満たされた。
「今、俺の目の前にいるのはお前だけだ。雪蓮でも思春でもない。余計なことは考えるな」
「ブラッド…あん、もっと私に口付けして、私を強く抱きしめて!」
歯止めが利かなくなった蓮華は更にブラッドを求めてしがみついてきた。
「んん、くちゅ、ちゅる、じゅちゅうぅ…」
むさぼるようにブラッドの唇を求める。しかし、百戦錬磨のブラッドに通用するはずがな
くすぐに反撃を開始した。
「んんー! むぐ…ああん、はあん!」
ブラッドの手が触れるたび蓮華の体が反応する。初めて受ける刺激に蓮華なす術無く高め
られていった。

 激しく未知の時間が過ぎた後、一糸纏わぬ姿の蓮華は満ち足りた表情でブラッドに寄り
添っていった。
「蓮華、思春のことなんだが…」
「分かってるわ。別にあの子のこと責めるつもりは無いわ。でもあなたが気に掛けた事は
少し妬けるわね」
ブラッドは少し考えた後、ここにいない女の子の名を出した。行為の後、他の女の名を出
すのは褒められたことではないが蓮華は嫌な顔もせず、むしろ悪戯っぽい笑みを浮かべて
答えた。
「あなたは天の御遣いで私達はその血を受ける器。あなたが気にする事は無いわ。思春の
事は私に任せて」
「そうか。じゃあ、俺はこれ以上は何も言わん」
浮気の後始末を女にさせているように見えるが、もとよりブラッドは何も気にしていない。
堅物で融通の気かなそうな蓮華が何か問題を起こさなければと考えていたがどうやら杞憂
だった。蓮華は現状を受け入れている。
「ねぇ、今日は一緒に寝てもいいでしょ?」
「好きにしろ」
「うん!」
蓮華は甘えるような声でブラッドに擦り寄ると、すぐに安心しきった顔で寝息を立てていた。


 天の御遣いの血を受け入れた、ストレートに言えばブラッドに抱かれた次の日、蓮華は
思春の元を訪ねていた。
「私がここに来た理由は分かってるわね?」
「…はい」
蓮華に思春を詰問する様子は無く、表情は穏やかだった。しかしそのことが逆に思春を
萎縮させた。
「…申し訳ありません。言わなければと思いながらどうしてもいい出せなくて…。処分は
甘んじて受けます」
「…やっぱりそういう反応するのね」
覚悟を決めた表情を浮かべる思春に対し、蓮華は少し呆れた顔でため息を吐いた。
「え?」
「あなたがブラッドのことをどう思っているか、そんなのあなた自身の問題でしょ?
私には関係ないわ」
「れ、蓮華様?」
蓮華の突き放すような物言いに思春は少なからず動揺した。
「…関係無くはないわね。昨夜、ブラッドに抱かれたわ。私の思いをすべて打ち明けて、
彼は私を受け入れてくれたわ」
「蓮華様…」
蓮華があっさり告白したため思春は少し拍子抜けしたようすである。
「彼はそういう人なの。天の御遣いなんだもの。私達の思いを全て受け止めるくらいの度
量は持ち合わせてるはずよ。雪蓮姉様は勿論のこと冥琳も祭も他の子達もブラッドの事を
憎からず思っているし、ブラッドもそれを受け止めている。私達がその輪に入っても何の
問題も無いわ」
堅物だったこれまでのイメージを根底から覆す発言だが、これは蓮華自身の心境の変化と
思春に対する気遣いの現われでもあった。

 思春は蓮華の心遣いに感謝すると同時に知らず知らず壁を作っていた事を反省した。同
時に蓮華の“彼の事なら何でも知ってるわ“と言いたげな態度に引っ掛かるものを感じ
思春も包み隠さず自分の思いを告白した。
「…分かりました。そういう事なら私も自分の気持ちは隠しません。私もブラッドに抱か
れました。彼は激しく荒々しく何度も私を求めてきました。初めは抵抗しましたが、次第
に苦痛ではなくなり、それどころか彼を受け入れたいと思うようになりました。恐らく私
も彼に惹かれているのだと思います」
話しているうちに色々思い出したのか、思春の頬は赤く瞳もキラキラしていた。蓮華が初
めて見る乙女思春だった。
「えぇ!? そ、そうなの?」
自分の予想の上を行く思春のぶっちゃけトークに今度は蓮華が激しく動揺した。自分と
思春の扱い方の違いはその時のブラッドの精神状態の違いが主な理由だが、事情を知らな
い蓮華は何故か敗北感を感じている。
「どうなさいました蓮華様?」
蓮華の真意を見透かしたわけではないが、どこか勝ち誇っているように見える思春の態度
を見て、蓮華に新たな闘志が湧いてきた。
「べ、別にどうもしないわ。思春、これからもあなたとは良き好敵手(とも)でいたいわね」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
思春がどこまで理解しているか分からないが、蓮華のライバル宣言を正面から受け止めた。

 堅物で純情な二人は結果的にブラッドを介してより強い信頼関係を築く事となった。
しかし、蓮華も認めるブラッドの度量が引き起こすトラブルに今後率先して参加する事に
なる事を今の蓮華達は知る由も無かった。




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