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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第4話:実力の片鱗と影響
Name: PUL◆ca4238a0 ID:eb067e67 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/02 15:16
第4話:実力の片鱗と影響

 ブラッドを自軍に編入した蓮華は早速ブラッドの能力の見極めに取り掛かった。
「一軍の将としてお前を預かった以上、お前の能力はある程度把握しておかなければなら
ない。お前は前線で仙術を駆使して素手で戦っていたという話だが本当か?」
「あぁ、大規模な戦闘は少なかったし局地戦ばっかりだったが相手とは素手で遣り合って
いた。ただ、今は上手く力が出せないから通用するかは分からん」
勿論仙術ではなく魔法や竜の能力を駆使したのだがそれは伏せておく。
「それなら何か武器を持った方が良い。これを使え」
蓮華は歩兵が使う剣をブラッドに手渡した。何の変哲も無い普通の剣だった。
「剣か…。元居た世界にも似たような物があったが実際に手にしたのは初めてだ」
「そうか。ならばお前は新兵と一緒に訓練を受けてもらう。天の御遣いとはいえ結果を残
さなければその地位も失うのだから異論はあるまい?」
「残念ながら異論はある。自分から天の御遣いを名乗ったわけではないからその地位に
興味は無いが、自分の能力を確認したいし早く結果を出したいとも思っている。だから、
今すぐにでも実戦に投入してくれた方がいい」
早く結果を出したいブラッドにとってはもっともな意見だが、武器を使った戦闘経験が
無いことを考慮して慎重に対応しようという蓮華の気遣いを無にする無謀ともいえる申し
出に蓮華の表情が強張った。

「…たいした自信ね。それならお前の望み通り実戦に投入してあげるわ。この付近に黄巾
党の残党が潜んでいるとの情報を得ているわ。近いうち討伐に向かうのでお前は先鋒隊と
して参加しろ。組織化されているとはいえ所詮は烏合の衆。力量を測るにはもってこいの
相手だ。これで文句はあるまい?」
「心得た」
蓮華は少し意地悪い顔で指示を与えたが、ブラッドの返事は蓮華の意図を全く理解してい
ないのかそれとも興味がないのか素っ気無いものだった。
「え? 本当にいいのか? 雑兵とはいえ相手はお前を殺す気で向かってくるし数もそれ
なりにいる事が分かってるのか?」
あまりにあっさりブラッドが承諾したので逆に蓮華が少し慌てた。無謀な作戦で天の御遣
いを失ってしまえば孫呉の名誉に関わる。あと、僅かだがブラッドに対する気遣いもあった。
「あまり見くびるな」
「…そこまで言うならもう何も言わないわ。成果を期待しているわよ」
ブラッドは短く静かに答えたが、その言葉には蓮華を威圧するに十分な迫力があった。
幸い周囲に部下は居なかったが、面子を潰された形の蓮華は体裁を繕って余裕ある態度を
見せるしかなかった。


 そして黄巾党残党討伐の日、蓮華はブラッドを含む小隊を引きつれて黄巾党の残党の
野営地の側面に位置し様子を伺っていた。
「孫権も出るのか?」
「何を当たり前のことを言っているの? 私はお前の上官で雪蓮姉様から監視の任務も
受けている。そもそもこの隊を指揮しているのは私だ。私が出ないでどうする」
「それもそうか。じゃあ、俺は孫権に付いていけばいいんだな?」
「それでいいわ。お前の実力が口だけでないことを願ってるわ」
「任せておけ」
少し挑発するような蓮華の言葉にブラッドも不敵な笑みで答えた。
「行くぞ! 我に続け!」
蓮華の号令のもと、全員が一斉に敵陣に切り込んだ。ブラッドも先陣を切って突っ込んで
いった。
「ご主人様、まず風の魔法が使えるか確認してみましょう」
「分かった」
クーの助言に従い、ブラッドは対峙した敵の前で勢いよく剣を振り下ろした。

「はっ!」
ブン!

「……」
しかし、何も起こらなかった。敵兵もブラッドの奇妙な行動に戸惑い、両者に微妙な間が
空いた。
「…発動はしてないな」
「ですね」
「前回は不意を突かれて少し慌てていたからな。防衛本能が働かないと発動しないのかも
しれんな」
「ご主人様、戦場で考え事は良くないですよ」
「何?」
我に返るとブラッドの直ぐ目の前に敵がいて、剣を振り下ろしてきた。
「でやっ!」
「おっと」
咄嗟に敵の攻撃を剣で受け止める。腕力はブラッドの方が上だったので押し込まれること
は無いが、武器の扱いに慣れていないため勝手が悪い。ブラッドは力任せに押し返して
距離をとった。
「取り合えず目の前の敵を倒しましょう」
「そうだな」
改めて敵と対峙する。ブラッドが同じように振り下ろしてきた剣を受け止めた時、今度は
何故か敵の動きが止まった。ブラッドはそのチャンスを逃さず敵の顔面に剣で斬りつける
代わりにスピードの乗った右ストレートを放った。

バキッ!
「はぐ…」

敵はうめき声を上げもんどりうってひっくり返ると、わずかに体を痙攣させて動かなく
なった。前回軽く触れただけで賊を吹き飛ばしたときと状況は大きく異なる。
「普通に殴っただけですか? それにしては妙な倒れ方ですが…」
「風系の魔法で吹き飛ばすつもりだったんだが失敗したらしい。何か別の魔法が発動した
かもしれん」
「別の魔法ですか?」
クーは既に事切れてしまった兵士を慎重に調べた。顔から首にかけて蚯蚓腫れのように
なっている。
「これは…電紋? 何か感電したみたいですね。ご主人様、風系の魔法を出すつもりで
雷系の魔法が出ちゃったんじゃないですか?」
「なるほど。俺のゴッドブローが大気を切り裂き、その摩擦で電気を発生させたんだな」
「違います。雷系の魔法は風系魔法から派生したものですから間違って発動したんですよ」
「…要するに全然制御出来てないって言いたいんだな」
「まぁ、新しい系統の魔法が使えるようになったことでよしとしましょう。今日は風系と
雷系の魔法が連続して発動できるか試してみましょう」
「分かった。あと、剣の練習もしておくか」
ブラッドは再度敵陣に突っ込んでいった。武器の扱いは素人でもブラッドの基礎体力は
人間とは別次元の域に達している。また敵も訓練を受けていない寄せ集めの部隊だったの
で練習相手には丁度良かった。ブラッドは底無しの体力を駆使し戦場を縦横無尽に駆け回
り敵を次々なぎ倒していった。

「……」
少し離れたところからブラッドを見ていた蓮華はその動きに目を丸くしていた。剣の扱い
も動きも滅茶苦茶で出鱈目だが、動きは変則的で恐ろしく早い。その動きに敵は惑わされ
対処する間もなく倒されていった。
「剣の扱いが根本的に違うけど、あそこまで動けるなんて大したものだわ。化け物並みの
体力も本当のようね」
蓮華はブラッドの動きに驚き呆れ、感心していた。

 ブラッドが引っ掻き回したおかげで敵は総崩れとなり、次々に敗走しはじめた。
「ここまでね。全軍引け!」
蓮華の号令で兵は攻撃を止め、速やかに撤退した。
「逃がしていいのか?」
「あの手の賊は倒してもきりがないわ。それに今回の戦は新兵に実戦経験を積ませること
と…あ、あなたの武を見極めることが目的だからこれで十分よ」
ブラッドへの呼称がお前からあなたに格上げされてるが、少し照れが入っている。
「そうか? 半分しか達成出来てないと思うが?」
「そんなことないわ。新兵には良い経験になったはずよ」
「だが俺の見極めは出来てないだろう?」 
「え?」
「自分の能力がどれくらい使えるか色々試してみたが、全然駄目だった。適当に暴れたら
相手が勝手に倒れたようなもんだ」
「そ、そう? でも今回のあなたの働きぶりは十分評価できるわ。あなたが本来の能力を
発揮出来ていないのなら、これから実戦を積んで慣れていけばいいわ。そ、それから今ま
で失礼なことを言ってごめんなさい。私もあなたに真名を預けるわ。私の真名は蓮華。改
めて宜しくね、ブラッド」
いきなりしおらしい態度をとられブラッドは少々面食らったが、自分の非を素直に認め態
度を改める蓮華にブラッドの内部評価も上昇した。
「まぁ、認めてくれたんならそれでいい。俺はこれからも結果を出していかなければならない
からよろしく頼む、蓮華」
「えぇ、宜しく」
ブラッドが差し出した手に蓮華も躊躇いがちに手を伸ばした。

「あ!?」
手を握った瞬間、痺れるような衝撃が蓮華の全身を駆け抜け小さく声を上げた。
「どうした?」
「い、いえ、何でもないわ」
何でもないと言いながら蓮華は自分の身に起きた現象に戸惑い、手を握ったままブラッド
を見つめていた。
「…蓮華?」
「あ、ごめんなさい」
慌てて手を離す。ブラッドと握手をしたとき蓮華が感じた電気が走ったような衝撃、実は
本当に電気だった。ブラッドが戦闘中に放った雷撃魔法の影響でブラッドは帯電していた
のである。しかし、蓮華はブラッドが雷系の魔法を使ってたことなど知るはずもなく初め
ての経験に戸惑っていた。

 城では穏が蓮華たちの帰りを待っていた。
「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
「えぇ、問題無いわ。新兵には良い訓練になったわ」
「それは良かったですね。ブラッドさんはどうでしたか?」
「俺か? まぁ、今回は…」
「思ったよりは出来るといったところかしら。でも武器の扱いは素人だし、それは今まで
使ってなかったのなら仕方ないけど、今回みたいな賊程度には通用しても訓練を受けた
兵士には通用しないわ。でもそれはブラッドが駄目って事じゃなくて経験不足なだけだと
思うから、経験を積んでいけばよくなると思うわ」
ブラッドの言葉を遮って淡々とした口調で結果を説明する蓮華に一瞬呆気に取られた穏だ
が、すぐに意味ありげな笑みを浮かべた。
「そうですか。ブラッドさんはまだ色々頑張らないといけないようですね」
「…そうみたいだな」
穏の言外に含まれる意味を理解しつつ、さらっと受け流すブラッドだった。
「さてと、雪蓮様が玉座の間でお待ちです。結果の報告をお願いしますね」
「分かったわ。行きましょ、ブラッド」
「あぁ」
蓮華に促されブラッドもついて行った。蓮華のブラッドを見る目は穏が今まで見た中で最
も穏やかなものだった。
「素直じゃないですね蓮華様は。…バレバレですけど」
後ろから見るとブラッドに寄り添って歩いているように見える蓮華を穏は微笑ましく
見ていた。

「さて、もう出て来ても大丈夫ですよ、思春」
相変わらずのんびりとした口調で穏が話しかける視線の先で思春が音もなく現れた。
「…気付いていたのか?」
「あれだけ殺気を込めた視線を送ってたら誰でも分かりますよ。あ、蓮華様は気付いて
なかったかもしれませんけど」
「それはどういう意味だ」
少しからかうような穏の物言いに思春は眉を吊り上げて睨み付けたが、これで穏が怯む事
はない。
「どういう意味でしょうねぇ♪ 聞きたいですか?」
「…結局あの男は結果を残したのか?」
聞きたくないと返事する代わりに穏の質問を無視して話題を逸らす。
「私は現場を見てないので答えようが無いですけど、蓮華様の判断は…話聞いてたなら
解りますよね?」
「……」
思春の表情が悔しそうに歪む。この際、ブラッドの客観的な評価は重要ではない。蓮華が
ブラッドを評価した、若しくは評価しようとしていることが問題だった。その事が思春の
気持ちを苛立たせた。
「雪蓮様が奴を買っている為、蓮華様は評価を保留しただけだ。私は行くぞ」
苦しい言い訳を残し思春はその場を立ち去った。
「…彼女も素直じゃないですね。ブラッドさん、腕の見せ所ですよ」
肩を怒らせて立ち去る思春を見送りながら、今後の展開を妄想する穏だった。


 蓮華達は雪蓮の待つ玉座の間に来ていた。
「姉様、ただいま戻りました」
「お疲れ様。で、どうだった?」
蓮華達を笑顔で迎えた雪蓮は、もう答えは分かってると言いたげに尋ねた。
「まぁまぁですね。ブラッド自身が不本意な結果だと言っていたので評価は避けますが
初陣にしては良くやった方でしょう」
「なるほど。蓮華がそこまで言うって事は、全く問題なかったって事ね」
「ち、違います。私はまぁまぁだと言ってるだけで認めたわけではありません」
「俺自身も今回は良くなかったと思ってるし、孫権の評価は妥当だと思うぞ」
「…孫権?」
「どうした?」
蓮華から怪訝そうな目を向けられる。問題発言があったがブラッドには分からなかった。
「私はあなたに真名を預けたのよ。公の場なら兎も角、身内だけの場で真名で呼ばないの
は逆に失礼に当たるわ」
姉とはいえ玉座の間で任務の結果報告をするのは公ではないらしい。
「そうなのか? 呼んでもいいのであって呼ばなければならないではないと思っていたが
難しいものだな」
「あなたの世界では字も真名も無いという話だから戸惑うとは思うけど、この国にはこの
国の約束事があるの。だから…」

「孫権なんて他人行儀な言い方は止めて。蓮華って呼んでくれなきゃやだ!」

「…え?」
「なるほど、そうくるか」
いきなり横から可愛らしい声で乱入され、蓮華は硬直した。数秒後、真っ赤な顔で声の主
に食って掛かった。
「ね、姉様! 何を言ってるのですかあなたは!」
「何って、蓮華の心の声を代わりに言ってあげただけよ」
「そんなこと思ってません! 微塵も思ってません!」
「そう? じゃあ、真名で呼ぶ必要は無いわね」
「ぐ…」
「呼んで欲しいの?」
「あぅ…」
雪蓮の少し意地悪な質問に蓮華はイエスともノーとも答えにくく、悔しそうな顔で俯いて
しまった。
「雪蓮、その辺にしとけ。とりあえずこれからは俺の意思で真名で呼ばせてもらう。それ
で良いんだな蓮華?」
「え? えぇ。もう私はあなたに真名を預けてるから全然構わないわ、ブラッド」
あっさり助け舟に乗る蓮華だった。頬が緩んでしまいそうになるが、横で見ている雪蓮が
絶対からかうので表情は変えない。

「まぁ、冗談はここまで。蓮華、ブラッドを前線で使うにはもう少しかかりそうなのね?」
「私はそうは思いません。ブラッドはもっと上を目指しているのでしょうけど、前線で
使うのにはそれほど時間は掛からないと思います。武器の扱いは素人そのものでしたが、
基礎体力はそれを補って余りあります。姉様の言う通り人間離れしていました」
「それは前線に投入しても大丈夫ということ?」
「武器の基本的な扱いを覚えれば問題ないかと。ブラッド自身は使わないかもしれません
が敵は武器を使いますから」
「分かったわ。ブラッドはもう暫く蓮華の隊に預けるわ。それで…」
「では武器の扱い方は私が教えます」
「…えっと、新兵と一緒に武器の扱いに慣れ貰おうと思ったんだけど、ブラッドもそれで
いい?」
「問題ない」
「そ、じゃあお願い。黄巾党の件は一段落したけど洛陽は何かきな臭くなってるから、そ
れに投入できる程度までは仕上げて欲しいわ」
「分かりました」
蓮華は既にブラッドを自分の配下に置くことに不満は無くなっていた。むしろ当然の事と思って
いるようだ。当人の意向を無視して話が進んでいるが、ブラッドはどこか人事のよ
うな達観した様子だった。
「ご苦労様。今日はもう休んでいいわ」
「はい、失礼します」
最後に武人の顔に戻った蓮華は一礼して部屋を出て行った。

「蓮華がブラッドを認めたのは良い事だけど、思ったより早かったわね」
堅物でも純情な蓮華ならいずれブラッドに心を開くだろうと考えていたが、蓮華の豹変振
りに雪蓮も驚いていた。しかしそれは嬉しい誤算で今後の展開を楽しみにしていた。


 蓮華と別れて部屋に戻る途中、ブラッドは自分を待ち伏せしている気配を感じた。
「……」
人間の放つものとしてはかなり強い、それなりに殺気の篭った気配。こういうことをする
人物で思い当たるのは一人しか居ない。
「甘寧、お前って偵察苦手だろ? 俺が分かるくらいだから他の奴ならバレバレだ」
ブラッドが声を掛けると思春が音も無く表れ鋭い眼光を向ける。
「安心しろ。敵陣への潜入調査は得意分野だ。任務のときは完全に気配は絶っている」
「そうか。それは安心した。それで何のようだ?」
任務外で殺気を周囲に撒き散らすのもかなり問題だが、向けられるのが主に自分だという
ことも分かっているので一々突っ込まない。そして殺気を隠さないということはこの場で
行動に移さないという意味でもあり、ブラッドが思春を返り討ちにして殺すことも無いと
いう意味でもある。
「今日の討伐で上手い具合に蓮華様に取り入ったようだな?」
「どこをどう解釈したらそういう結論になるんだ? そもそも蓮華はまだ何も評価してない」
「き、貴様、何故蓮華様の真名を!」
敬愛する上官の真名を気安く呼ばれ激昂した思春が鈴音に手をかけるが、ブラッドは落ち
着き払っていた。
「本人が許可したからな。こういう時は呼ばない方が失礼だと言われたぞ」
「……」
正論を吐かれてしまい、思春は言い返せず悔しそうにブラッドを睨みつけた。
「そ、その点に関しては蓮華様がお決めになったことで私がとやかく言う筋合いのもので
はない。問題はお前の実力だ。お前がどんな手を使って蓮華様を誑かしたのか知らんが私
は自分の目で確認しない限りお前を認めることはない」
蓮華がブラッドに真名で呼ぶことを許した事の方が思春にとっては重要だが、建前を前面
に出してブラッドを否定する。
「それでいいんじゃないか? 俺も雪蓮や蓮華の口添えでお前に認めさせようとは思って
いない」
「ふ…口だけでは何とでも言えるな。まぁ、それなら私も蓮華様に習ってお前の実力、
しっかり見させてもらおう。だが私は蓮華様のように優しくないぞ」
ブラッドの媚びない態度を潔しととったのか思春少し表情が緩む。しかし、再びキッと
ブラッドを睨みつけると、思春は静かにその場を立ち去った。


「可愛らしい方ですね、思春さんは?」
思春が視界から消えた後、クーが現れてブラッドに話しかけた。
「生真面目な娘は嫌いじゃないぞ」
「彼女のように純粋で頑ななタイプは一度信頼を得てしまえば裏切ることはないでしょう
し、ご主人様にも協力してくれると思います。まぁ、ちまちまやって信頼得るよりご主人
様得意の力技で篭絡する方が効率的かもしれませんが」
クーはかつて竜の巣に侵入して捕らえられた末に篭絡された女の子達を引き合いに出して
説明している。
「向こうから仕掛けてくれば返り討ちにすればいいだけの話だが、雪蓮の意向を無視して
思春が何かするとは考えにくい。何か適当に理由付けて篭絡するしかないな」
「だからそんな面倒な事せずに、いつものように問答無用でやっちゃえばいいじゃないで
すか。雪蓮さん達の時のように」
「いつもそれだと趣に欠けるというか、何か詰まらん」
「趣、ですか。まぁ、ご主人様のお好きなようにやればいいと思いますが」
言外に結局やる事は同じだろうという思いを滲ませ呆れ気味のクーだが、絶対同じ結果に
なると思っているので反論はしない。

「でも、蓮華さんがご主人様に興味を持ち始めていますから、早いうちに手を打った方が
いいと思いますよ。順番が入れ替わると意固地になるかもしれませんから」
「そうか? 分かった」
何故優先順位があるのか分からないが、ブラッドは深く考えず適当に返事をした。蓮華の
心境の変化すら理解していないブラッドに思春の複雑な心境を理解できるはずも無かった。
 
ブラッドが色んな意味で本当の実力を見せ付けるのはこれからである。


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