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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第3話:同床異夢
Name: PUL◆ca4238a0 ID:eb067e67 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/23 11:53
第3話:同床異夢

 雪蓮への報告を終えたブラッドは今度は城の中を探索することにした。明命は引き続き
案内役をしたそうにしていたが、城の警護があったのでブラッド一人で城内をうろついて
いた。
ブラッドは人目のつかない所で通信用ペンダントを取り出し魔力を送り込んだ。暫くす
ると、ペンダントにクーの姿が浮かび上がった。
「ご主人様? まだ説明してなかったのによく使い方が解りましたね?」
「他に思いつかなかっただけだが、上手くいったな。それはともかく、これまでの状況を
説明しておく」

 ブラッドは街中での経緯をクーに説明した。クーは初めて聞く食べ物ラーメンに興味を
示したが、まず先にブラッドの身に起こった異変について言及した。
「無意識のうちに魔法が発動してしまったようですね。まず敵の剣をなぎ払った時に防御
魔法、恐らく地の魔法でしょう、そして風系の魔法で敵を吹き飛ばしたんですね」
「そうだろうな。しかし今まで無意識に魔法が発動するなんて事はなかった。これは何故
なんだ?」
「恐らく、そちらの世界は魔力を解放しやすい環境なのでしょう。そちらの世界には私達
のように魔力を消費する種族がいないようですし、もしかしたら魔力の濃度が高いのかも
しれませんね。良い機会ですからそこで部分開放の練習をされたらどうですか? 魔法が
発動しやすいということは部分開放もやりやすいと思います。勿論、ちゃんと制御できる
ようにならなければなりませんが、幸いといっては何ですがご主人様がこちらに戻るには
まだ時間がかかりそうですし」
「時間がかかる? 何か理由が…」

クーに尋ねようとしたブラッドの言葉が途切れた。どこから現れたのか、思春がブラッド
の背後から喉元に愛用の武器、鈴音を突きつけていた。
「動くな」
「…穏やかじゃないな。どうしたんだ?」
「惚けるな。今誰と話をしていた?」
鋭い眼光でブラッドを睨み付ける。思春はブラッドが城に戻ったときから気配を消して
様子を伺っていた。現場を抑えようと行動に移したようだ。
「聞いてたのか? やっぱり部屋に戻るべきだったか。まぁ、聞かれたんなら仕方ない。
ちゃんと説明するからそっち向いていいか?」
ユメが竜殺しの剣を構えているのなら兎も角、もっとも今はそんな事は絶対ないが、人間
に短剣を突きつけられた程度でブラッドが動じることはなく、それは思春が相手でも同じ
だった。そんなブラッドの態度が気に入らないのか思春の目つきが更にきつくなった。
「黙れ。貴様は質問だけに答えろ。貴様はどこの手の者だ?」
「言ってる意味が全く分からんが…」
「…まぁ、調べれば分ることだ」
ブラッドの喉に鈴音を突きつけたまま思春は余裕の笑みを浮かべた。

「何をしているの?」
偶々通りかかったのは冥琳だった。二人のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか表情が少し
厳しい。
「冥琳様、やはりこやつ内通者でした。雪蓮様に…」
「クーと話をしていただけなんだが」
「おぉ、クーと連絡が取れたのか。それで彼女は何と?」
「え? 冥琳様? ご存知なんですか?」
冥琳の予想外の反応に思春は今までの厳しい表情から一変した。
「クーはブラッドの副官で、ブラッドが身に付けている不思議な宝玉で連絡が取れるらしい」
「そ、そうですか…」
決定的証拠を掴んでブラッドを処分するつもりだった思春の目論みはあっさり崩れ、少し
気落ちしている。
「と、言うわけだからもう出てきていいぞ、クー」
「はーい。ご主人様も大変ですね」
ブラッドの声と共にクーの姿が現れた。
「も、物の怪!?」
「えっと、初めましてクーと申します。宜しくお願いします」
警戒感むき出しの思春を刺激しないようにクーは努めて明るく振舞った。
「話が途中だったが、俺が暫くこの世界にいなければならないというのはどういうことだ?」
「はい、それは…」
「まぁ、待て。そういう話なら雪蓮にも居て貰った方が良い。今彼女は自分の部屋にいる
からそこで話を聞こう。思春、あなたはどうするの?」
「私も同席します。この男が本当に敵の間諜でないか私自身の目で確認します」
まだ納得できていない思春も当然だと言わんばかりに同行した。


 ブラッド達が雪蓮の部屋に着くと、中から孫三姉妹の言い合っている声が漏れてきた。
「どうしてシャオはブラッドに会っちゃいけないの!?」
「そんなことは言ってないわ。ただ、他の娘達と同じ事をするのは駄目って言ってるのよ」
「皆がよくてシャオだけ駄目なんておかしいよ」
「小蓮、お前は自分が何を言ってるのか解っているのか? あの男は雪蓮姉様達を纏めて
押し倒すケダモノなのよ。姉様はお前があんな獣に汚されるのを心配して言ってるのが
解らないの?」
「それって雪蓮お姉ちゃん達が汚れてるって事?」
「あ、いや、そういう事じゃなくて…お前はまだ子供だから、そういう事は早いと…」
「シャオ子供じゃないもん。お姉ちゃんがブラッドの事嫌いなのは勝手だけど、シャオの
邪魔するのは許せないよ」
「嫌っているのではなく慎重なだけよ。私は素性も能力も解らない者をみだりに信用しな
いわ」
素性も能力も解らない者をみだりに信用した姉に対する皮肉にも聞こえるが、蓮華に悪気
は無い。
「慎重? そんなのネクラで臆病なだけじゃない」
「ネ、ネクラだとー!!」
「二人とも止めなさい」
部屋の中ではブラッドに関して三姉妹が熱い議論を交わしているようだ。

「何か入り辛いな」
「…何をやってるのよ雪蓮達は」
「……」
冥琳は呆れ顔でため息をつき、思春は刺すような目でブラッドを睨み付けている。
「雪蓮、私だけど入っていいかしら?」
「冥琳? どうぞ」
冥琳に続いて部屋に入る。
「いらっしゃ…あらブラッド。それに思春まで? 何か珍しい組み合わせね」
「…何の用?」
「あぁ、ブラッド♪」
ブラッドを見るなり対照的な反応を示す姉妹だった。
「雪蓮、ブラッドにクーから連絡があったらしいんだけど、間の悪い事に思春に見られた
そうなの」
「あぁ、それで内通者だとか言って思春がブラッドを尋問しようとしたところに冥琳が
通りかかったのね?」
「まるで一部始終見ていたような物言いね。でもその通りよ。今、向こうの世界と繋がっ
てるわ」
「解ったわ。クー、出て来て」
「はい、ただいま」
「な、何奴!」
「わぁ!? びっくりした」
前回同様、何も無い空間にいきなりクーの姿が現れたが、蓮華と小蓮の反応はここでは
似たようなものだった。
「おや、また初対面の方がいらっしゃいますね。初めまして、私はブラッド・ラインの執事
のクーと申します」
「こちらこそ宜しく。私は姓は孫、名は尚香、真名は小蓮。私のことは小蓮て呼んでね」
「小蓮、お前はこんな得体の知れないものに真名を預けるのか?」
初対面の人外の者にあっさり真名で呼ばせようとする小蓮に蓮華は眉をひそめるが、その
言葉に小蓮が反論した。
「得体の知れない者じゃなくてクーでしょ。それにクーはブラッドの部下なんだからその
言い方は失礼だよ」
「そうね、今のは小蓮の方が正しいわね。クーはちゃんと名乗ってるんだからあなたも
名乗りなさい」
「…解りました。私の名は孫権。お前を信じた訳ではないので真名は伏せておく」
蓮華にとってブラッドも得体の知れない者なのでクーも信用できないのは当然のことだが、
雪蓮に諭され渋々答える。
「構いませんよ。それで、そちらの方が…」
「甘寧だ。私も蓮華様同様お前達を信じたわけではないので真名は伏せてもらう」
「甘寧様ですね。宜しくお願いします」
つっけんどんな態度をとる蓮華と思春に対し、クーは特に気にした素振りも見せず冷静に
対応した。
「ごめんね、クー。この娘達少し人見知りが激しくて。もう少ししたら慣れると思うから
それまで我慢してね」
「構いません。こちらの世界でも同じような反応をする人間の方はいます。ましてやそち
らでは私の様な種族を見るのは初めてでしょうから警戒するのは当然です」
組織のトップとして雪蓮が申し訳なさそうに答えるが、ここでもクーは優等生な回答を
した。
「それでは私がまるで偏狭な者になってしまうではないか。私の事も蓮華と呼んで構わな
いわ」
「蓮華様がそう言うなら、私の事も思春と呼んで構わない」
クー達のやり取りを見ていた蓮華が少し拗ねた表情で答えると、思春も渋々追従した。
「ありがとうございます。ですが私達の世界に真名という概念はありません。皆さんが
大切にしている真名はもう少しして信頼を得てから呼ぶことにします」
「…そこまでの気遣いは無用よ。短いやり取りだけど私はあなたが真名を預けるに値する
者と判断したから言ってるのよ」
「私も蓮華様と同じだ」
「解りました。では改めて宜しくお願いします蓮華様、思春様」
根負けしたのか蓮華の表情も最後には穏やかなものに変わった。思春も凛とした表情は
変わらないが刺々しさは無くなっていた。

「自己紹介はそれくらいでいいだろう。クー、今解っていることを説明してくれ」
「はい。では現状の説明から。ご主人様が今いる世界と元居た世界、つまり今私が居る
世界は本来全く別の世界で、物理的な繋がりはありません。ですが何らかの原因で一時的
に繋がり接点が出来ました。幸か不幸かご主人様はそこに居合わせた為にそちらの世界に
飛ばされたものと考えられます。しかも、現在接点は閉じてしまい元の世界には戻れま
せん」
「それは俺も確認した。何も無いただの青空だった。結局どうすればいいんだ?」
「順を追って説明します。ご主人様が本来存在しないはずの世界に存在することで、その
世界には少なからず歪が生じているはずです」
「歪?」
「歴史の流れにおける歪と言えばいいのでしょうか。歴史の流れを川の流れに例えます。
川の中に小石を投げ入れると川面は乱れます。この乱れが歴史の歪で、小石がご主人様です」
「こいつが小石? 言い得て妙だな」
クーの例えに思春が意地悪い顔でつぶやくが面倒なのでスルーする。思春は少し不満そう
だった。

「しかしこれが小石でなくて岩なら川の流れは大きく乱れ、川を堰き止めるほど大きな
岩なら川の水は氾濫し、本来の流れから大きく逸脱します。この時大きな歪が生じ、その
世界の座標がずれて別の世界、つまり私の居る世界に隣接するのではと考えています」
クーの話を雪蓮と冥琳は熱心に聴いているが蓮華と思春はかなり疑り深い目で見ている。
小蓮は殆ど分かってなさそうだ。
「つまり歴史を逸脱するようなことをやれって事か。具体的にどうすればいいんだ?」
「雪蓮さん達は今大陸の覇権を争っているようですので、ご主人様は雪蓮さんの大陸制覇
に積極的に関与していただければいいと思います」

「待て、こんな奴が居なくてもこの大陸は姉様が制覇するに決まっている」
クーの言葉に蓮華が即座に反応した。
「蓮華落ち着きなさい。まぁ、私も今の話は少し気になるわね。確かにブラッドが呉の
戦力になるとは思ってるけど、あなたの話だと本来の歴史では私は天下を取れないって
言ってるように聞こえるけど?」
雪蓮は笑顔を保ちつつ殺気の篭った目をクーに向けた。辺りに緊張が走るがクーは全く
気にせず話を進めた。
「未来の事は分かりません。ですが、普通に雪蓮さんが大陸を制覇する歴史とご主人様の
協力で制覇した歴史では、そこに至る経緯もその後の展開も大きく違うはずです。この違
いが歴史からの逸脱となります」
「なるほどね。そうなると、ブラッドが実戦でどのくらいの戦力になるか早く見極めない
といけないわね。ブラッド、あなたの仙術はこっちの世界ではまだ上手く加減できない
みたいだけど、実戦で慣らしてもらう事にするわ」
「仙術? この者は仙術が使えるのですか?」
「私は見てないんだけど、明命が凄い凄いって騒いでるのよ。何でも触れただけで賊を
吹き飛ばしたって」
「何ですかそれは? 明命を疑うわけではありませんが、この目で見るまで信用できません」
雪蓮の説明に蓮華は疑いの眼差しをブラッドに向けた。

「それならブラッドは蓮華の軍に入れて直に働きぶりを見てもらうわ」
「わ、私の軍にですか?」
「今、明確にブラッドを認めてないのはあなたと思春だけだし、あなたが認めれば思春も
認めるから丁度いいじゃない。一応天の御遣いだから新兵と同じ扱いは出来ないから蓮華
の補佐で従軍させてみて」
「補佐? 私はこんな得体の知れない者の補佐などいりません」
「だから、表向き補佐でいいのよ。力量を見極めるためにはブラッドは蓮華の傍にいた方
がいいでしょ?」
「…分かりました。ですが、もし私が認めなかった場合ブラッドはどうなるんですか?」
「そうね。その時は考えを改めないといけないわね。天の御遣いの名を騙り人心を惑わし
た者として然るべき処置をするわ」
「そ、そうですか…」
「勝手に祭り上げておいて使えなかったらポイか? 随分調子のいい連中だな」
「そうならないように頑張ってよ」
「ご主人様も大変ですね」
雪蓮の身勝手な言い分に呆れ顔のブラッドだが、人間の言うことに一々腹を立てるのも
バカらしいと思っているのか、蓮華が認める程度の成果は簡単に出せると確信しているの
か特に反論はしない。クーもブラッド達のやり取りを生暖かい目で見守っていた。


「取り合えず現状とこれからやる事は分かった。あと報告することはあるか?」
「今のところありません」
しかし、クーは他の者には分からないように直接ブラッドの頭の中に直接思念を送った。
“皆、心配してますよ”と。その一言にブラッドの表情が少し強張ったが、雪蓮達は気付
かなかった。
「クー、お前はその状態で城の外に出ることは出来るか? 実はお前にも街の状況を調査
して問題点があれば指摘して欲しいのだ。他にもブラッドの副官としてのお前の知識を
呉のために使わせては貰えぬか?」
「恐れ入ります。移動はご主人様と一緒なら可能ですが、ご主人様はよろしいんですか?」
「あぁ、俺は構わないぞ。街の基盤整備にお前の名前を出したのは俺だしな」
「決まりだな。私も時間に余裕があるときは声を掛けるからその時は付き合ってくれ」
自分の申し出があっさり通り嬉しそうに表情を緩める冥琳だが、思わぬところから横槍が
入った。
「お待ちください冥琳様。言い難い事ですが、クーの容姿は我々とかなり異なる部分が
あり、民達が動揺する恐れが…」
自分もクーの容姿に警戒感を見せていたこともあって思春の言葉も歯切れが悪い。
「うーん…。容姿は問題ないと思うわよ。可愛いし天の御遣いのブラッドのお供なら民も
納得するんじゃないかしら?」 
「成るほど…こやつが天の御遣いであることを失念していました」
クーは認めてもブラッドは頑なに認めない思春だった。

「冥琳て理由付けてちゃっかりブラッドと約束してる。シャオもブラッドとお出かけしたい」
「ブラッドがいいって言うなら私は止めないわよ。勿論、ブラッドには節度は守って大人
の対応をしてほしいけど」
「…善処する」
表情は穏やかだが雪蓮はしっかり釘を刺した。孫呉の王という立場ではあるが幼さの残る
妹を気遣う姉の顔も覗かせた。
「とりあえず、ブラッドは明日から蓮華の軍に入ってもらうわ。蓮華はブラッドの資質を
見極めて配置してちょうだい」
「分かりました。先鋒隊に組み入れるつもりですが、暫くは姉様の言うとおり私の補佐と
して配置します」
「ありがと…ブラッドはそれでいい?」
「あぁ、問題ない」
天の御遣いを死亡率の高い先鋒隊に組み入れるのはかなり思い切った起用法だが、雪連も
ブラッド自身も反論しなかった。

「さてと、やることも分かったし部屋に戻っていいか?」
「えぇ。明日から頑張ってね」
「あ、ブラッドの部屋にシャオも行っていい?」
「駄目よ。あなた穏と約束があったんじゃないの?」
小蓮がブラッドについていこうとするが、直ぐに蓮華から待ったが掛かった。
「そんなの後でいいでしょ? 今はブラッドの方が大事よ」
「思春、悪いけど小蓮を穏のところに連れて行ってくれないかしら?」
「承知しました。さ、小蓮様こちらへ」
「え? ちょ、ちょっと待って。シャオはブラッドの部屋に用事が…」
小蓮の反論を無視して蓮華と思春の間で話が進み、小蓮は思春に抱きかかえられと有無を
言わさず強制送還された。
「…問答無用だな」
「お前を出汁にして勉強をサボろうとした小蓮が悪い。今後も小蓮はおまえにちょっかい
掛けることがあると思うが、くれぐれも節度ある態度で臨むように」
依頼の形式をとっているが、目には絶対に手を出すなという強い意志が込められていた。
「お前が俺をどんな目で見ようと勝手だが、見境無く手を出すことはない。信じる信じな
いは勝手にしろ」
「…!」
「まぁ、ブラッドもそう言ってることだし、蓮華も信じてあげたら?」
「…分かりました。今回は姉様の言葉を信じましょう」
ブラッドの挑発的な物言いに若干血色ばむ蓮華だったが、いきなり手を出された雪連が
なぜか嬉しそうにブラッドを擁護したのでそれ以上は何も言わなかった。


ブラッドが部屋を出た後、蓮華はブラッドの処遇について雪蓮に尋ねた。
「姉様、さっきの話は本当ですか?」
「さっきのって?」
「私が認めなければブラッドを処分すると…」
「最悪の場合はそうなるわね。でも手心を加えろと言ってるんじゃないわよ。あなたには
確りと彼の能力を見極めて欲しいの」
「それでも私が奴を認めると信じているのですか?」
「クーの言葉を信じればね。ブラッドの傍にいて能力を知っているクーが自分の主人の
立場が危うくなることは言わないはずだから、ブラッドの能力も期待できると思ったのよ」
「雪蓮の殺気を事も無げに受け流したクーとその上官のブラッドだから戦場を目の当たり
にしても臆することは無いだろう、と見てるのね?」
付き合いの長さからか冥琳は雪蓮の意図をしっかり読み取っていたが、ブラッドの事で頭
に血が上っていた蓮華はそこまで気付いていなかった。
「私達を驚かせる成果を期待してるわ」
雪蓮はブラッドの初陣を楽しみにしていた。


 ブラッドも部屋に戻った後、クーと今後の展開について話を続けていた。
「クー、本当に上手くいくのか?」
「正直なところよく分かりません。歴史を変えることで時空の歪が発生する事はほぼ間違
いありません。そして、歴史を大きく変えるだけならご主人様が竜の姿に戻って思う存分
暴れ回るのが一番手っ取り早いのですが…」
「その場合、歴史を変えるのではなく歴史を止めることになるな。しかし、お前はそれが
得策じゃないと思っているんだな?」
この歴史を大きく変えるのなら誰かに加担して歴史を変えるより、自分一人で大陸全土を
焦土に変えて滅ぼしてしまうのが確実だった。それをせずに態々一陣営に加担するのは
理由があった。
「仰るとおりです。ご主人様の能力は現在かなり不安定な状態にあります。不安定に力が
解放されている状況で竜に戻った場合、何が起きるか分かりません。最悪、暗黒竜の血が
暴走した状態でこっちの世界に戻ることも考えられます」
「それは拙いな。制御できなければ俺は抹殺されるだろうな」
暗黒竜は残忍さ凶暴さで他の竜を圧倒する。暗黒竜の血が暴走すれば、世界の安定のため
竜族だけでなく魔族、神族からも命を狙われる可能性がある。
「そうならないために、ご主人様はまず人間の姿のままで部分開放と能力の制御が出来る
ようにならなければなりません。その後竜の姿でそれぞれの血の力を解放、制御、最終的
に暗黒竜の能力の開放、制御が出来れば申し分ありません。上手くいけばこの世界に戻っ
た時ご主人様の竜の世界での評価も上がるかもしれません」
純潔が尊ばれる竜の世界で混血で能力を発揮できないブラッドは出来損ないと見下されて
いる。力を使いこなすことが出来れば他の竜の見る目も変わり、リュミスの対応もソフト
になるかもしれない。

「そう都合よくいけばいいが…。兎に角、それまでは雪蓮達のところで色々試させてもら
おう。あいつ等にとっても都合がいい筈だ」
「雪蓮さんはご主人様のことを随分買ってるみたいですし、行動もそう制限されることは
無いでしょう。ただ彼女もこの国…まだ領土は無いみたいですが、王ですのでプライドは
あると思いますから、その点は注意が必要です。不本意でしょうが、多少は彼女の意見も
聞いてあげた方が良いかと。人間の地位等、本来どうでもいい話ですが仲違いして孫呉を
潰してしまうと、そこから他の陣営に行くのも面倒ですし」
「能力をフルに発揮できない以上、やむを得んか…」
「今は我慢の時です」
状況を確認して少し溜息が漏れる。本来の歴史から大きく逸脱するために、ブラッドは
積極的に歴史に介入しなければならない。しかし竜の姿に戻った時、自分の能力を制御で
きない場合はブラッド自身も危険な状況に陥りかねず、今は孫策陣営で人間の姿で結果を
出すしか方法は無かった。

「しょうがないな…。そのストレスは天の御遣いの務めで解消するか」
「それは雪蓮さん公認ですから好きにやっていいんじゃないですか? 皆さん身体能力に
優れた方ですから簡単に壊れることもないでしょう。でも、あまり羽目を外して調子に乗
ると、暗黒竜の血が暴走する恐れがあります。そちらにはティエはいませんからほどほど
にしといた方がいいと思います」
以前、暗黒竜の血が暴走しかけたことがあるがその時は運よく居合わせたバンパイア亜種
のティエの機転で事なきを得た。しかし、当然ティエは竜の巣に居てブラッドの暴走を止
めるものは居ない。
「分かっている。それもどこまで大丈夫か色々確かめる必要があるな」
「…異世界に行ってもご主人様は変わりませんね」
無理に確かめる必要は無いのだが、やる気満々のブラッドを見てクーはため息をついた。


それぞれの思惑を抱え共同戦線を張るブラッド達だった。


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