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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜
Name: PUL◆69779c5b ID:93f67651 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/22 23:55
第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜


 揚州、建業。ブラッドと穏が徐州に向けて出発した次の日、蓮華は落着かない時を過ごしていた。
「姉様、本当にあの二人で大丈夫だったのですか?」
二人の同行を認めた雪蓮の判断に蓮華はまだ納得出来ない様子で、心配そうな顔で尋ねた。
「蓮華、未練がましいわよ。別に、これでブラッドが穏だけの好い人になるんじゃないんだから、
少し落ち着きなさい」
「…そういう事を言っているのではありません。真面目な話です」
茶化すような雪蓮の物言いに、少し憮然とした表情で答える。勿論、雪蓮が指摘したことも非常に
気になるところではあるが、今は孫呉の王族として現状を憂えている。

「穏の実力は認めています。私達とは違う着眼点を持ち、私達が見落としたことも穏なら気付いて
くれるかもしれません。でも、ブラッドはどうなのですか? 彼の武は疑う予知はありませんが
文官としては、未だ成果を挙げていません。今回の任務は、重すぎではないでしょうか?」
最近はすっかり恋する乙女状態の蓮華だが、生来の生真面目さは失われていない。ブラッドの奔放
で時には横柄とも取れる言動が、桃香達との関係を拗らせないかと危惧している。

 そんな蓮華の変化を成長と受け止めた雪蓮は、満足そうな笑みを浮かべると上司の顔になって
事情を説明した。
「劉備や諸葛亮との遣り取りは、穏一人で問題ないわ。あの娘はそれだけの能力を持っているし。
正直、今回の訪問においてブラッドに使者としての働きは、あまり期待していないのよね。今後
共に戦う可能性のある者を見るだけで十分よ。私が期待しているのはクーの観察眼よ」
「クー? なるほど、そういう事ですか」
戦略、内政において、クーの助言がこれまで大きな成果を挙げている事は蓮華も知っている。自分
達とも穏とも違う着眼点で、朱里の策略を看破出来るかもしれない。

「ルクル女王の話では、クーは相当な切れ者で竜の巣の運営を一手に引き受けているそうよ。クー
のこれまでの助言は、その実力の一端と言えるわ」
「ま、待ってください。竜の巣とは、何ですか?」
聞きなれない言葉に蓮華の質問が飛んだ。
「え? あぁ、ブラッドが元の世界で住んでいた城のことよ」
情報をリークしたのはルクルである。ブラッドが正体を明かしていない状況で、ルクルの発言は
失言だった。しかし、雪蓮達は竜の巣を単なる名称と判断したようである。ルクルも、自分の住む
世界では竜の存在は周知に事実であり、自らの失言に特に気に留める素振りを見せなかったため、
雪蓮も怪しまなかった。

「かなり大きな城で、城内に侍女だけでも数百人抱えてるそうよ。常備軍を持ち、城内で生活する
者も多くて、一つの街に匹敵する程って言うから驚きね。その大きさから竜の巣って呼ばれてるん
だと思うけど、それの運営管理の最高責任者が、クーというわけ」
「確かに、クーならまた別の見方ができるかもしれませんね」
クーの実力に改めて驚かされると共に、ブラッドと行動を共にしていることに嫉妬めいた気持ち
を抑えきれない蓮華だった。

「それにしても、竜の巣って名前は言い得て妙ですね。そこの主であるブラッドは、竜って事に
なるわ」
「まぁ、戦場でのブラッドの戦いぶりを見れば、そう称しても差し支えないわね」
ブラッドの事は既に天の御遣いとして喧伝しているが、正体が竜でも実は落ち零れという、凄いの
か凄くないのか良く分からない事実を知った時、雪蓮達がどのような反応を示すのか見ものである。


 場所は変わって徐州、下邳城。現在桃香が居を構える城である。愛紗達が桃香に状況報告をして
いた。
「二人ともお疲れ様。孫策さんはやっぱり良い人だね?」
愛紗達からほぼ計算通りに事が進んでいるとの説明を受け、桃香は嬉しそうだった。しかし、この
状況で雪蓮を良い人と言い切る桃香に、愛紗達は何とも言えない表情を浮かべていた。
「それと、ブラッドさんには会えた?」
「え? えぇ、何と言いますか…。と、とりあえず、噂の一端を垣間見たというか…」
「実際に見たわけではありませんが、甘寧将軍が敵わないほどの実力の持ち主のようです」
桃香の質問に、愛紗達は曖昧な対応に終始している。足腰立たなくなった状態の思春は、それだけ
を見ればブラッドの武の高さを証明するものと言える。しかし、その後の祭とのやり取りや、実際
に見ていないがブラッドと祭の激烈な秘め事が頭に浮かび、ブラッドの能力を冷静に推し量れない。

「甘寧といえば、呉でも指折りの猛将だ。その甘寧が敵わないのなら、やはりブラッドの実力は並
外れているという事になるな?」
「本当? 凄いなぁ。汜水関では殆ど話せなかったし、もう一回ちゃんとした形で会いたいな」
「ちゃんとした…。正直お勧めできません。それに、奴も呉では重要な地位にいますし、会うと
なれば私達もそれなりに力がなければ、孫策が認めないでしょう」
「こちらからブラッドさんとの対談を申し出るわけには行きませんし、孫策さんとの関係を考える
と実現するとしてもまだ先のことになると思います」
何も分かっていない桃香は、無邪気にブラッドとの再会を望んでいる。しかし、愛紗達は自分達と
呉の力関係から現実的には難しいと考えている。なにより純真無垢な主が穢されるのではないかと
危惧していた。

 しかし数日後、下邳城は予想外の事態に見舞われることになる。
「申し上げます! 揚州より孫策の使者と名乗るものが、劉備様との面会を希望しております」
「孫策さんの? もう来てくれたんだ。良かった」
愛紗達が揚州を訪れてさほど間を置かずに返礼の使者が来たことに、桃香は無邪気に喜んだ。
「それで、使者さんはどんな人なの?」
「陸孫とブラッド・ラインと名乗っています」
「えぇ!? ブラッドさんが来たの?」
あまり期待していなかったのか、桃香は思いがけない人物の名に過剰反応した。

「陸遜も、あの周喩に次ぐ実力者と聞いている。随分、大物が来たな」
「迅速な対応は、私達と友好関係を築くことに同意してくれたと判断していいでしょう。この面子
を使者に選んだことから、向こうも私達を重要視しているということです」
自分達の意を汲んでくれた雪蓮の対応に、朱里は満足そうに笑みを浮かべた。もっとも、その笑み
には全てを見抜いているわけではないだろうという、余裕も含まれている。
「早くお通しして。くれぐれも失礼のないようにね」
逸る気持ちを抑えきれず、桃香は部下に指示を出した。愛紗が隣で難しい顔で見ていることにも
気付いていない。

 玉座の間では、桃香、愛紗、朱里、雛里がブラッド達を待っていた。城の者の後について穏と
ブラッドが玉座の間に現れると、桃香達はやや緊張した表情で向かい入れた。一方、ブラッド達は
リラックスした表情である。特に穏は、名前の通り穏やかな笑みを湛え、お肌も艶々だった。
「初めまして、陸遜と申します。此度の孫呉独立における祝辞、孫策に代わりお礼申し上げます」
「こ、こちらこそ迅速な対応、ありがとうございます。この城の城主、劉備です。宜しくお願いします」
アウェイの穏が堂々と振る舞っているのに、ホームの桃香がぎこちなく対応している。国対国の
対応に慣れていないこともあるが、ブラッドの熱い視線が気になるらしい。そのブラッドは普段
の横柄な態度ではなく、随分おとなしいものだった。実は、玉座の間に入る前に穏からしっかり釘
を刺されていたのである。勿論、ブラッドに命令しても聞くはずがないので、実際は穏が体を張って
“お願いした”のをブラッドが聞き入れただけである。
「我が主、孫策も劉備様と同様、民の生活を第一に考えており、覇権を唱える曹操、袁紹とは一線
を画しています。民の為、共に戦うことに協力は厭わないと申しております」
「本当ですか? ありがとうございます!」
穏の言葉を受けて、桃香は手放しの喜びようだった。穏も桃香に匹敵する邪気のない笑顔を見せて
いる。それも、所謂“顔は笑っていても目は笑っていない”表情ではなく、本当に満面に笑みを
浮かべている。そのことが朱里を思考を混乱させた。

「あ、あの…陸遜さん?」
「はい? 何ですか?」
冥琳に次ぐ実力者である穏が何も考えていないはずが無いが、屈託の無い笑顔から邪気は感じられ
ない。しかし、玉座の間に入る前に預けられた穏の武器には、賊の頭を一撃で叩き割った時の血が
付着していた。穏の性格を測りかねて、朱里は当惑している。
「え、えっと…。こ、これからも両陣営、連絡を密に取っていきたいと思いますので、宜しくお願
いします」
「はい、こちらこそ宜しく」
朱里のぎこちない対応に、穏は弾けるような笑顔を向けた。それと同時に、弾けるような巨大な
バストも上下に揺れる。自分には到底真似できない穏の仕草に、敗北感にまみれる朱里と雛里だった。

「……」
ブラッドは玉座の間に入ってから、まだ一言も言葉を発していない。穏が釘を刺したということも
あるが、単に儀礼的なやり取りに興味が無かったという面もある。そんなブラッドを、愛紗は注意
深く観察していた。使者として来ているので殺気が無いのはいいとして、ブラッドはぼけっと突っ
立ったまま桃香と穏のやり取りを眺めているようにしか見えず、何のためにここにいるのか分から
ない。陸遜も見た目に反して相当な切れ者だし、ブラッドも何か企んでいるのではないかと疑心暗鬼
になっていた。

 しかし、桃香は警戒感を露にする愛紗に全く気付いていない。夢見る乙女のように目をキラキラ
させてブラッドを見詰めている。
「あの、ブラッドさん?」
「うん? 何だ?」
友好的な対応の桃香に対して、ブラッドの態度は素っ気無い。一国の代表に対しかなり横柄な口の
利き方だが、桃香は気にしていない。かわりに愛紗の視線が鋭くなった。
「虎牢関では大活躍だったそうですね。呂布さんと引き分けるなんて本当に凄いです」
「そ、そうか? それほどでも…」
「謙遜しなくてもいいです。あの天下無双の飛将軍、呂布さん相手に一歩も引かないなんて、大陸中
探してもブラッドさんくらいしかいません。本当に凄いことです。それと…ブラッドさんが天の御遣いという
噂があるんですが本当に天の御遣いなんですか?」
桃香は、ブラッドの顔色を窺うように尋ねた。管路の予言は誰もが知っている。しかし、雪蓮が
孫呉の優位性を天下に知らしめるために、素性の分からないブラッドを天の御遣いに仕立て上げた
という穿った見方があるのも事実である。人を信じやすい桃香もそのことは知っていて、ブラッド
に真意を質すという行為が、信頼関係の構築の障害とならないか心配しているようだ。

 しかし、ブラッドも穏も全く気にした様子は無かった。
「あぁ、周りは俺の事をそう言っているらしいな」
「本当ですよ。管路の予言通りこの地に降り立ちましたし、その後の神がかり的な活躍もブラッド
さんが天の御遣いである事を裏付けるものです。天下無双の呂布と互角に渡り合える人が、今まで
在野に埋もれていたなんて、考えられません」
否定も肯定もせず、ただ状況だけを淡々と話すブラッドに対し、穏は状況証拠とその後の実績を
述べて、ブラッドが天の御遣いである事を主張した。穏の持つ独特のほんわかした雰囲気のおかげ
で緊迫した状況にはなっていないが、言っている事はかなりごり押しである。幸い、桃香も似た
ような資質を備えていること、今孫呉との関係を悪化させるわけにはいかないという思惑もあって
愛紗達から異論が出ることは無かった。

「そうなんですか? 素晴らしいです。ブラッドさん程の力があれば、より多くの民を救うことが
出来ると思います。私達も出来るだけの事はしますので、皆が平和に暮らせる日が来るまで頑張り
ましょう!」
「え、えっと…」
身を乗り出し不思議な迫力で押し捲る桃香に、ブラッドは不覚にも気圧されてしまった。ブラッド
にとって、桃香はかなり調子の狂う相手だった。そもそも、全く無関係の国の人間同士の諍いに竜
であるブラッドが興味を持つはずが無い。当然、桃香の言う民の為に力を使うという意識は欠片も
ない。

「と、桃香様。今回、二人は返礼の使者として来ています。込み入った話は、正式に孫策殿に申し
入れる必要があります」
意外なことに、当惑するブラッドに愛紗が助け舟を出した。愛紗にとっては不本意だが、自分の
主人が他国の今一つ信用できない軽薄そうな男に頭を下げることを避ける方が、より重要だった。

「お二人とも長い行程でお疲れでしょうから、今日のところはお休みになられた方がよろしいかと
思います」
「そ、そうだね。ごめんなさい。少し浮かれてました。一応、別々に用意させましたので…」
「あ、お構いなく。一部屋で十分です♪ というか、ブラッドさんと一緒じゃないと嫌です」
公務とは言え、若い男女を同部屋にするのは拙いと、その手の問題には疎い桃香にしては珍しい
配慮だったが、当事者である穏からやんわりと断られてしまった。穏は、蓮華や思春の監視が無い
のをいいことに、心置きなくブラッドといちゃつくつもりのようだった。

「そ、そうですか。じゃあ愛紗ちゃん、悪いけどブラッドさん達をお部屋に案内して」
「わ、わかりました」
本人が良いと言うのに、無理強いするわけにはいかない。桃香は、公から私に切り替わりつつある
穏に戸惑いながら、愛紗に案内させるしかなかった。


「……」
二人を案内する途中、愛紗はチラチラと横目で穏の様子を見ている。朱里や雛里のように、自分の
スタイルに対するコンプレックスはなく、寧ろ密かに自信を持っているくらいだが、桃香を凌ぐ
巨大なバストにどうしても目が行ってしまう。それ以上に、場所も状況も人の目も気にせずブラッド
に擦り寄る穏の行動が理解できなかった。この色ボケにしか見えない能天気な娘が、本当に周喩に
次ぐ実力者なのか? もしかしたら、自分たちを欺く演技なのかもしれない。それならブラッドの
軽薄な言動も演技かもしれない。二人を案内しながら疑心暗鬼になった愛紗は、余計な思いを巡ら
せていた。

 中庭を通過しようとしたとき、気合の入った掛け声が聞こえてきた。鈴々と星が実戦形式の鍛錬
をやっていた。
「にゃ!」
「はい!」
一人は気合が入っているのか良く分からない掛け声だが、繰り出される攻撃は重く鋭い。

「あれは、張飛さんと趙雲さんですね? 二人とも凄い攻撃ですね」
パワーを前面に出す鈴々と、パワーとスピードを高い次元で両立させる星。二人の高いパフォー
マンスに穏は素直に賛辞を送っている。もっとも、それより更に高い能力を持つ者を知っている
ので圧倒される事はない。

「おや? 誰かと思ったらブラッド殿ではないか。呉の使者とはブラッド殿のことだったのか」
「そっちのお姉ちゃんは、凄いおっぱいなのだ」
ブラッド達に気付いた星と鈴々が手を休めて視線を向けた。
「り、鈴々、あまり不躾な事を言うな。申し訳ない陸遜殿」
「構いませんよ。皆さんの視線が集まることには慣れてます。それに、結構役立つことも多いです
から♪」
鈴々のセクハラ発言に愛紗は慌てて釈明したが、穏は全く気にする素振りを見せない。それどころ
か自分の胸を強調するように腕を組んで、チラリとブラッドに視線を送った。その仕草にブラッド
はやれやれといった表情を見せているが、愛紗は微妙に頬を引き攣らせていた。もっとも、愛紗も
さっきまで穏の胸を凝視していたので、鈴々にきつく言うことは出来ない。

「それにしても、体に似合わず随分長尺な武器を使っているな。触ってもいいか?」
ブラッドは鈴々の持っている武器に興味が湧いたようだ。自分の背丈より遥かに長く重厚感のある
武器を軽々と振り回しているので、素材などが気になった。
「いいぞ。ほい」
鈴々は無造作に蛇矛をブラッドに投げ渡した。見た目以上に重かったため、ブラッドは受け損ない
そうになるが、何とか落とさずに受け取った。
「お? 落とさなかったのだ?」
「こら、鈴々! ブラッド殿、申し訳ない」
どうやら、鈴々はブラッドが取り損なうと思ってわざと投げ渡したようだ。義妹の状況を把握しない
悪戯に、愛紗は眉を顰めている。

 しかし、ブラッドに気にした様子は無かった。愛紗の謝罪を適当に受け流して蛇矛を興味深げに
眺めていた。
「気にするな。形状は違うが、メイスと同じ打撃系の武器のようだな。これは何と言う武器なんだ?」
「これは蛇矛なのだ。これを持ったときの鈴々は無敵なのだ」
「私に押されていたのは、どこの誰だったかな」
「う、煩いのだ!」
星に突っ込まれ、鈴々は向きになって言い返した。子供っぽいというより、見た目通り子供である。
しかし華琳のケースもあり、戦場での働きぶりは年齢も容姿も関係ない。

「そっちの白いのは持っているのは槍だな? それは俺も見たことある」
「趙雲だ。覚えておいてもらうとありがたい」
ブラッドが自分の名前を知らなかったことが不満なのか、星は目を細めて軽くブラッドを睨みつけた。
とはいえ、虎牢関で一回あっただけで、特に名乗りもしていなかったのだからブラッドが星の事を
知らなくても仕方の無いことだった。

「あの呂布と互角に渡り合ったブラッド殿とは、一度手合わせ願いたいと思っていたが、こんなに
早くその日が来るとは思わなかった」
「星、ブラッド殿は孫呉の使者としてここに来ている。私情は控えてくれ」
「だ、そうだ。またの機会で頼む」
鈴々とは別の意味で場を掻き回す星に、愛紗がしっかり釘を刺した。ブラッドにとって、星と遣り
合ってもメリットは無い。それに、いくら落ち零れ竜でも人間相手に武を競っても虚しいだけである。
ここは、愛紗の言葉に乗ることにした。

「うむ。常山の昇り竜と呼ばれた趙子龍の槍、ブラッド殿にも是非受けて貰いたかったのだが、
やむを得んな」
本気で遣り合う気は無かったらしく、星はあっさり引き下がった。星は武人として純粋に腕試しを
したいという思いで言っただけで、他意はない。しかし、ブラッドの反応は劇的だった。
「…昇り竜、だと?」
「うん? どうされたブラッド殿?」
「ブラッドさん、どうしたんですか?」
星と距離をとり、警戒モード全開で尋ねるブラッド。その態度の豹変振りに、星だけでなくいつも
のほほんとしている穏まで驚いている。
「あ、いや何でもない。彼女は自分の事を竜と言っていたが、この世界には竜がいるのか?」
何とか取り繕いながら、頭の中を整理する。もし星が自分と同じような竜なら、落ち零れのブラッド
に勝ち目は無い。しかし、それほどの実力なら恋に後れを取ることも桃香の下にいるはずがない。
プライドの高い竜の女性が人間の下に就くはずがないからである。ということは、星は本当は竜で
はないか、この世界の竜はあまり強くないのかもしれない。ただ、ライアネのように例外的に街で
暮らす竜もいるので、楽観は出来ない。

 しかし、そんなブラッドの堂々巡りの思考も穏の一言で停止した。
「竜? 私は、見たことありません。昔はいたかもしれませんが、真意のほどは分かりません。
伝説というか、想像上の生物という意見もあります」
「いや、竜はいる。鈴々も見たことないけど、絶対いるのだ」
鈴々は穏の言葉に反論し、竜の存在を断固として主張した。
「私も実際に見たことはないが、いると思う。確証は無いが」
愛紗も鈴々の意見に同調した。意見は分かれるが、見たことが無いことでは一致している。

「実在するかどうかはひとまず置いといて、この世界で竜はどんな存在なんだ?」
「そうですね、竜は人知を超えた神聖な存在です。皇帝の権威を示すものとして、竜に準える事も
あります」
「そうか…」
竜が圧倒的な力を持つというのは、元の世界と同じで納得できる。ブラッドでもこの世界では天下
無双でいられるくらいの違いがあるのだから、その能力差は明らかである。ブラッドはあまり気に
していないが、人間より格上の存在と考えている竜が殆どなので、人知を超えた存在というのも
大体同じだ。神族とは敵対関係にあったため、神聖と言われることに抵抗はあるが人間の竜に対す
る見方も共通する。
 結局、この世界では竜が実在するかは想像の息を脱しておらず、星が竜でないことも間違いない。
身の危険が無い事を確認したブラッドは、ようやくヘタレモードを解除した。

「まぁ、今後友好関係を築こうとしている陣営と、戦場で敵対することは当分無いだろうが、鍛錬
に付き合う機会くらいはあるかも知れんな」
剣を交えることに何のメリットも無いと考えているので、ブラッドの物言いはかなり適当だった。
しかし、そのやる気の無さを挑発と受け取った星は、内心穏やかではない。それは愛紗も同じ気持
ちだった。
「そういうことなら、私もぜひ参加したいものだ。よろしいかな、ブラッド殿?」
「…そのうちな」
俄然やる気になっている愛紗達に、小さくため息を吐くブラッドだった。


 ブラッドと穏は、来客用の部屋に通された。最初、桃香は別々の部屋を用意するつもりだったが
穏の希望もあって、大きめの二人部屋に急遽変更となった。来客用だけあって、中々の造りである。
「中々良い部屋ですね」
一通り部屋を見渡して、穏は素直に感想を述べた。
「侍女を付けますので、何かありましたらその者にお申し付けください。では、私はこれで」
愛紗は一礼すると、さっさとその場を立ち去った。

「ブラッドさん~♪」
愛紗が完全にいなくなったのを確認すると、穏はブラッドに飛びついて甘えてきた。
「早速か? 気の早い奴だ」
「違いますよ。大陸の情勢と、私達の今後についての話ですよ」
早速発情かと思ったブラッドだったが、そうではないらしい。穏はそのまま寝台になだれ込むこと
なく、ブラッドに抱きついたままだった。子犬が飼い主にじゃれつくように、ブラッドに甘えて
いるだけだった。

ブラッドの言葉に否定はしているが、穏の瞳は潤み頬も上気している。なお、私達とは孫呉の事
を指していて誤解を招きかねない物言いだが、意図したものではないようだ。
「本当は、ここに来るまでにしっかり説明するつもりだったんですが、邪魔が入って途中までに
なってましたから」
いちゃいちゃムードをあっさり消して、穏はブラッドから離れると設置してあった椅子に腰掛けた。
とは言え、穏の頬は赤いままでブラッドを正面に見据えて足を開いて座っていたりと、どこまで
本気なのか分からない。とりあえず、穏の言葉通り今後の展開について話を聞くことにした。

「まず初めに、劉備さんはここを決戦の場とは考えてないようですね」
「何故、そう言えるんだ?」
穏は自信満々に話しているが、ブラッドには全く根拠が分からない。
「ここが守るに適していないからです。関羽さんに案内してもらってる間、色々見てましたけど
城壁は低いし兵も少ないし、敵に対する備えは十分とはいえません」
「さらに言えば、穏さんが結構あからさまに場内を観察していたのにも拘わらず、関羽は見て見ぬ
振りをして、表情にも不快感がありませんでした。つまり、ここで戦う気が無いから見られても
構わないということです」
穏の説明にクーが追随する。クーはブラッド達が愛紗に案内されている間、姿を消して周りの様子
を観察していた。クーの抜け目の無さと分析力に穏は感心した。

「流石、クーさん良く分かってますね。その調子で、雪蓮様たちの前では言えなかった事も話して
頂けませんか?」
「…分かっていたんですか?」
今度はクーが驚く番だった。いきなり話を振られ虚を突かれたクーは、珍しくあわてた表情を見せた。
「ルクル様が雪蓮様たちに説明していた時、何か言いたそうにしていましたよね? 今まではっき
り言っていたクーさんにしては珍しい事だったので、何かあるんじゃないかと思ってました」
クーが愛紗達の様子を観察していたように、穏もクーをはじめ周りの様子を観察していたのである。
やはり、のほほんとした風貌に反し穏は侮れない。

「それで、クーさんは劉備の狙いは何だと思いますか?」
穏は期待を込めた表情で、クーに先を促した。
「では僭越ながら…。劉備が北方の勢力に対し、ここで戦わず別の処で戦うつもりという意見は私
も同じです。場所も恐らく荊州でしょう。問題はそこに至る経緯です。この地を捨てて逃げるので
すから、追撃を受けるのは確実です。そのため、劉備は安全に逃亡できる経路を確保しようとする
でしょう」
「…それって、揚州を逃げ道に使うって事ですか?」
クーの言わんとすることが分かり、穏のいつもの能天気な表情が僅かに曇る。

「もしかしたら、追手の盾か的にするつもりかもしれません。今、劉備に死なれると、北方の勢力
に対抗できるのは雪蓮さんだけになってしまいます。それを見越して、強気に交渉することも考え
られます」
「うわぁ…。私達も、随分舐められたものですね。確かにその話は、あの場では出来ませんね。
雪蓮様は兎も角、蓮華様と祭様と思春はぶち切れてしまいますね。今すぐ劉備と戦争だ、とか言い
かねませんよ」
クーの意見はかなり辛辣で、もしこの場に蓮華達が居れば怪気炎を上げるに違いない。しかし、穏
は驚きはしたが表情は穏やかなままだった。

「恐らく、雪蓮さんも冥琳さんも分かっていると思います。分かった上で、穏さんを使者として
派遣し劉備達の出方を見極めるつもりなのでしょう」
「なるほど、納得しました。北方情勢によって劉備の動きも変わりますから、私達も状況に応じて
対応しなければなりませんね」
どうやら、穏も桃香達を北方勢力に対する盾、前線基地に出来ないか考えていたようだ。お互い
協力出来ることは協力し、利用出来ることは利用しようという考えなので、朱里が同じ考えだった
としても不信感を抱くことは無かった。

コンコン…

 今回の訪問について総括し、雪蓮への報告内容を確認したところで、タイミングよくノックの音
が部屋に響いた。
「どうぞ~」
「失礼します。あの、お茶をお持ちしました」
穏の返事を待って
二人の少女が入ってきた。一人は儚げな雰囲気を纏った、いかにもお嬢様然とした美少女で、何故
このような娘が侍女をしているのか、興味をそそられる。もう一人は勝気な雰囲気の漂う小柄な
眼鏡っ子で、こちらも侍女らしくない雰囲気だった。

「……」
「な、何よ? 厭らしい目で見ないでよ」
「え、詠ちゃん、お客様にそんなこと言っちゃ駄目だよ」
見た目通り勝気だったらしく、詠と呼ばれた侍女はブラッドの視線に敏感に反応し、突っ掛かって
きた。侍女とは思えない鋭い眼光だった。
「あぁ、スマン」
「ブラッドさん、見惚れていたんですか?」
詠に対してぎこちない対応をするブラッドをからかうように穏が茶々を入れた。実際は見惚れて
いたのではなく、詠に奇妙な既視感を覚えて硬直しただけである。

「お二人とも、とてもよく似合って可愛いですよ」
「あ、ありがとうございます」
「…あんまり嬉しくない」
恥ずかしそうに頬を赤らめる月に対し、詠は現状に不満があるのか複雑な表情である。
「大体、…の軍師であるボクが、何でこんな格好しなくちゃいけないのよ」
「え? どうしました?」
独り言を聞かれ、詠は慌てて取り繕った。かなり挙動不審な態度だが、穏は特に気にする様子も無
かった。

 居心地が悪いのか、月達はお茶を入れるとそそくさと部屋を出て行った。
「あれが董卓と賈詡ですか。世間の風聞とは全く違いますね」
「そうですね。まさかこんな処に董卓と賈詡が潜んでいたとは思いもよりませんでした。びっくり
です」
穏も詠の独り言をしっかり聞いていた。下手に追求して桃香達との関係を拗らせないように、あえ
て聞き流していた。
「どうしますか? 今、董卓を討っても意味はありませんが…」
「仰るとおりです。でも、これは私達にとっては好都合です」
穏は、今後の桃香陣営との交渉で月達の存在を有効に使うつもりらしく、いつものニコニコでは
なく冥琳のような笑みを浮かべていた。


「さて、総括も終わりましたし、ここからは大人の時間ですよ~♪」
そう言うと穏は素早く公から私に、更に淫乱モードに切り替わってブラッドにしな垂れかかった。
「結局こうなるのか。この好き者め」
「これは天の御遣いの血を孫呉に入れるという、非常に重要な任務ですよ。だからブラッドさんも
気合を入れてお願いします」
尤もらしい理由を並べ立てているが、穏の目的が行為そのものであることは明らかである。
「…どうなっても知らんぞ?」
「大丈夫です。 どんと来いです」
胸を肌蹴て肢体を曝け出して準備万端の穏は、妖艶な雰囲気を醸し出してブラッドを挑発した。

 そして、数時間に及ぶ肉弾戦の末、精魂尽き果てた穏は物言わぬ肉の塊になってしまった。
「屍のようだな」
「まだ死んでません。まぁそれは兎も角、随分派手にやりましたね」
「あぁ、ここまで着いて来るとは思わなかった」
全身に掛かった色んなものが混じった体液にまみれながら、穏は幸せそうな顔で静かに寝息を立て
いる。穏の予想を超える奮闘振りに、ブラッドとクーは半ば呆れ顔である。
「これからどうするんですか?」
「流石にこのままは拙いだろう。面倒だが後処理は…」
「それは当然です。私が言っているのは、この世界でも竜に対する概念があったことに対し、今後
どうするかと聞いているんです」
クーは話の観点のずれを修正し、本題に戻した。穏は未だ夢の住人で、当分戻ってくる気配は無い。
クーは今後のブラッドの行動方針を確認するつもりだった。

「この世界における人知を超えた存在に対する概念は、恥ずかしながら失念していました」
竜族、神族、魔族といった人知を超える存在が普通に存在する世界にいるせいか、クーは雪蓮達の
いる世界は
「どういう事だ?」
「皆さんの今後の対応が、変わるかもしれません。現在でもご主人様を特別な存在と見なしている
ので、ご主人様を自分の立場を脅かす存在として排除する、ということはないでしょう。これまで
とさほど変わらないと思いますが、場合によっては雪蓮さん達がご主人様が神聖な存在として崇め
奉るかもしれませんが…」
「…それはかなり嫌だな」
クーの説明を聞いてげんなりした表情を見せる。自分にひれ伏す雪蓮達を想像して一瞬それもあり
かと思ったが、度が過ぎると鬱陶しいし興醒めする。やはり雪蓮は今のままが良い。

「雪蓮さん達は変わらなくても、竜の名を騙る不届き者として、大陸中を敵に回す事も考えられ
ます。力を制御しきれない状況では、避けた方が賢明です」
暗黒竜の血が暴走した状態で元の世界に戻ったら、最悪一族に粛清されかねず、今までの努力が
水の泡になってしまう。
「あと、名称は同じでも容姿が違うことも考えられます。一度、この世界の竜について調べた方が
良いでしょう」
「そうだな。冥琳にでも聞いてみるか」
取り敢えず、物の姿に戻っても暴走しない、もしくは長時間維持できるようになる事が先で、正体
を明かすのはその後にした方が良いと判断した。


 次の日、ブラッドは足元の覚束ない穏と共に桃香に簡単に挨拶して兼業に戻った。穏の様子に
桃香は不思議そうに首を傾げていたが、愛紗、朱里、雛里は顔を真っ赤にしてまともにブラッド達
を見ることが出来なかった。昨夜のことは、筒抜けだったらしい。



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