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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第14話:彼女達の考察
Name: PUL◆69779c5b ID:76ce8844 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/17 20:27
第14話:彼女達の考察


 孫策独立の報せは、他の勢力にも届いていた。中でも、突然彗星の如く現われ、獅子奮迅の活躍
で孫呉独立に大きく貢献したブラッドの噂は、華琳の本拠地、許昌でも話題になっていた。
「所詮、凡人に虎を飼いならす事は不可能だったって事ね。それに、あそこには虎が連れて来た狼
も居るんだし、袁術如きで抗し切れるわけないわ。あの男に関して何か報告は入っていないの?」
華琳は、部下の報告に対して驚いた様子を見せない。雪蓮よりブラッドの方が気になっているよう
で、報告の続きを促した。

「はい、単騎で敵陣に突っ込み、縦横無尽の活躍で張勲軍に大打撃を与え勝利に貢献したとのこと
です」
「単騎ね…。虎牢関で呂布と戦ったときもブラッドは一騎討ちを挑んだって話だけど、兵を率いた
事は無いのかしら? 桂花、ブラッドの戦歴はどうなってるの?」
華琳がブラッドに興味を持っている事に内心穏やかではないが、桂花はなるべく表情に出さない
ように調査結果を報告した。

「黄巾党の乱の頃、孫策軍に加わり現在に至りますが、それ以前の情報は未だ掴めておりません。
孫策は当時噂のあった管路の予言になぞらえ、あの男を天の御遣いと喧伝し、戦場での功績を強引
に結びつけて領民を纏めようとしています。軍を率いて戦った記録は無く、単騎で敵陣に切り込み
撹乱させ、本隊に突入させる役割のようです。ただ、袁術軍との戦いではブラッドの攻めで既に
勝負は決していたとのことです」

「誰も過去を知らないなら、何とでも言えるわね。天の御遣いの神秘性とその後の活躍を見せれば、
領民の心を掴むのも簡単でしょう。ありがちな手だけど、効果的だわ。まぁ、私ならそんな事は
絶対しないけど」
見下すような、少し意地悪な笑みを浮かべる。自分なら天の御遣いの名を借りずとも天下を取って
見せるという、強烈な自負心がそうさせるのかもしれない。もっとも、利用出来るものは何でも
利用するというのが雪蓮のスタイルである。華琳が雪蓮のやり方に納得しなくても、それは見解の
相違でしかなく雪蓮が英雄の資質を備えている事に変わりは無かった。

「華琳様、孫策をこのままにしておくのは危険すぎます。我々は、まだ袁紹と対峙している状態で
すが、ここで時間を掛けてしまえば孫策が更に勢力を広げることになり、華琳様の覇道の妨げに
なりかねません。早急な対応が必要です」
秋蘭は険しい表情で状況を分析し、孫策に対し何らかの対策を採ることを提案したが、これに桂花
が反論した。

「それは現実的に無理だわ。今、私達は西に馬騰、東に袁紹と対峙し、劉備の動きにも気をつけな
ければならない状況よ。孫策は日の出の勢いとは言え、揚州全土を掌握した訳ではないし、袁術の
息の掛かった諸侯も少なからず残っているわ。また、揚州を攻めるとなれば荊州を横切らなければ
ならず、鈍重な劉表でもそのまま見過ごすとは思えない。勿論、劉備もね」
「別に、今すぐ攻めるべきだと言っているのではない。孫策の動きに細心の注意を払い、いつでも
対応できるように準備しておくべきだと言っているのだ」
「そんなもの、我が武で纏めて蹴散らせてしまえばいい」
「姉者(あなた)は黙ってて!」
「…あぅ」
秋蘭と桂花の議論に加わろうとした春蘭だが、あっさり撃沈されてしまった。

 秋蘭達の議論を、華琳は余裕の表情を浮かべながら見ている。頃合を見計らって二人に声を掛けた。
「あなた達の意見は、どちらも一理あると思うわ。でも、物事には順序があるの。馬騰は五胡の
対策もあって全軍を我々に向けられる状態じゃないし、孫策も桂花の言う通り体制を固めるのに
まだ時間が掛かるわ。そして、決断の遅い劉表が行動を起こすとは考えられない。従って、差し
迫って問題となるのは袁紹だけよ。よって、当初の計画通り袁紹を攻めるわ。それによって劉備の
動きを牽制することもできるわ」
「はっ」
「御意」
二人の意見を尊重しながら、華琳は最初から考えていたであろう方針を変えずに説明した。
「そして、時期が来れば春蘭には存分に暴れ回ってもらうわ」
「は、はい、お任せください!」
今日は機嫌がいいのか、華琳は春蘭にもそれなりにフォローを入れると今まで萎れていた春蘭は
俄然やる気を出し闘志を掻き立てていた。

「ブラッドがどの程度のものか、把握できるまで暫くは目の前の敵に注力しましょう」
「…華琳様は随分あの男を買っているようですが、買被りすぎではありませんか? 呂布に匹敵
する武は確かに脅威ですが、奴はこれまで常に単独行動で軍を率いた経験も無さそうですし、将と
しての資質は未知数です」
「武は認めざるを得ませんが、あのように無礼な振る舞いは許せません」
「そうです。どうして華琳様は、あんな男のことなんか気になさるんですか?」
普段、華琳の言うことを全肯定していた秋蘭が珍しく異を唱えた。他の者達も同じ考えでそれだけ
華琳のブラッドに対する入れ込みが尋常でないことを物語っていた。

 秋蘭達の視線を受け止め、華琳は宥めるような口調で説明し始めた。
「私がブラッドに関して評価するのは、武のみ。それ以外には興味ないわ。彼の武が私にとって
必要なら、手に入れる価値はあると言ってるだけよ。逆に必要ない、もしくは害になると判断でき
れば速やかに排除する。今は見極めの段階よ」
「…分かりました。ブラッドを徹底的に監視し、あの男の能力や人間性を全て暴き出し華琳様が気
に掛ける程の者でないことを証明して見せます」
華琳の説明を聞いて、都合よく解釈した桂花はブラッドに対する敵愾心をさらに強めた。

「孫策もブラッドを手懐けるのに苦労してるみたいだけど、あぁいう跳ねっ返りでさえ配下に置い
て手懐けるのも英雄の資質と言ええるわね。孫策がブラッドを制御できるか、今後が見物だわ」
不敵な笑みを浮かべる。雪蓮がブラッドをコントロールできるようになれば、曹魏にとって大きな
脅威となる事は確実だが、華琳はそれさえも楽しんでいるように見える。


 軍議が終了し、各人は持ち場に戻った。ブラッドに対する扱いは、華琳の指示通り進めることで
話が纏まったが、秋蘭だけはまだ釈然としない思いを残したままだった。
「秋蘭どないしたん、難しい顔して?」
能天気な声を掛けたのは、虎牢関の戦いで華琳配下となった霞こと張遼だった。
「…霞か。さっきの軍議で少しな」
「華琳がブラッドにご執心なことに、気が気でないんか?」
「間違ってはいないが、お前が考えているのとは少し違う」
霞の少しからかうような口調に、秋蘭は目を細めて軽く睨みつける。普段なら軽く受け流すところ
だが、今は霞が言うように内心穏やかでないらしい。霞も秋蘭の真意を把握していながらわざと
ずれた事を言うので、秋蘭も霞の軽口を受け流せなかったようだ。

「済まん済まん、冗談や。それで、何を気にしとんのや? ブラッドの本当の実力の事か華琳の
本心、どっちや?」
険悪な雰囲気になる前にすぐに謝ると、霞は少し真面目な顔になって本題に入った。
「どちらも気になるが、それだけじゃない」
「へ?」
意味が分からずきょとんとする霞の前で、秋蘭は自嘲気味な笑みを浮かべながら真情を吐露し始めた。

「華琳様が能力のある者を愛する方ということは、すでに分かっている。過去に拘らない方だし、
能力があれば前日まで敵だった者でも、次の日には要職に付けることも珍しくない」
「まあ、そうやな」
その典型的な例が目の前にいるのだから、この点については疑いようが無く霞も少し照れくさそう
に頷いている。

「だがブラッドに対しては、どうにも引っかかるものがある。確かに虎牢関において呂布と引き
分けた武は否定できないし、華琳様の人を見る目も確かだ。反董卓連合で会った時の奴の印象は
身の程知らずにしか見えなかったが、あのような跳ねっ返りの自信家でも華琳様なら制御すること
は可能だろう。それでも、あの男には分からないことが多すぎる。それが私を惑わせるのだ。全く、
私が華琳様の判断に疑問を抱くことなど、今まで無かったのにな」
秋蘭は、自嘲気味な笑みを浮かべながら説明している。華琳の洞察力とブラッドの武を認め、華琳
至上主義である自分が不安を抱いている現状をうまく消化出来ないようである。その様子は霞から
見ても、違和感を覚えるものだった。

「秋蘭がそこまで気にするのは珍しいな。ブラッドのどこがそんなに気になるん?」
霞も武人としてブラッドは気になる存在だが、秋蘭のブラッドに対する評価は他の誰とも違う。
春蘭や桂花のように感情が先走ったものではないが、冷静な口調ながら執拗で、どこか取り繕って
いるように見える。

「今桂花が調べているが、ブラッドは孫策軍に加入する以前の情報が全く無い。あれほどの武を
持つ者が、今まで在野に埋もれていた事が信じられん。確かに、ブラッドは自分の武に対する自信
とは裏腹に野心は感じられないから、自分の武を誇示したり勢力を広げようとか、有力者に仕官
しようとか考えなかったのかもしれない。少し苦しいが、孫策に見出されるまで誰にも気づかれ
なかった事も説明できる」
「なるほどな。今んところ、他に説明出来んちゅうことやな?」
秋蘭の説明に100%納得したわけではないが、とりあえず先を促す。

「そうだ。従って、奴の過去についてこれ以上考えても意味が無い。これは桂花の調査を待つしか
ない。今考えなければならないのは、今後の対応だ。お前は今回初めてブラッドに会ったわけだが、
どんな印象を持った?」
「印象? そうやな、何か掴みどころの無い奴っちゅうか、よう分からんかった」
霞は、ブラッドに会ったときの状況を思い返していた。霞達3人と数人の兵士に対し、全く動じる
ことなく飄々とした雰囲気を漂わせるブラッドに、霞自身も強く興味を持った。

「私も同じような印象だ。奴とは反董卓軍連合の時に会っただけだが、華琳様や主であるはずの
孫策に対しての横柄な態度、姉者の殺気を正面に受けながら全く動じない態度に初めは思い上がり
の身の程知らずと思ったし、それを許している孫策の態度にも違和感を覚えた。その後、呂布と
引き分けたという話を聞いて、自分の武に裏づけされた自信による態度ではないかと考えた。礼儀
知らずなのも、ある程度は説明がつく」

「孫策はブラッドを相当買っとるみたいやから、多少の素行の悪さは目を瞑ったと言いたいんやな?」
「あぁ。恐らく、華琳様もそう判断されたのだと思う。姉者の殺気にも気付いていたのだろうが、
華琳様や姉者を前にして隙だらけで居られるのも、状況から姉者が手を出さないと踏んでいたのか、
もしかしたら姉者には勝てると高を括っていたのかも知れぬ。いずれにせよ、華琳様の興味を引く
には十分な素材だ」
僅かに秋蘭の表情が険しくなる。勿論、春蘭の武がブラッドに及ばないと、秋蘭が本気で考えて
いるわけではない。しかし、華琳がブラッドに興味を引くだけの理由として納得出来るものが他に
思い浮かばなかったようだ。

「ま、要するに秋蘭もブラッドの事が気になっとるっちゅうことやろ。惇ちゃんや桂花みたいに」
「その通りだが、さっきも言ったようにお前が考えているのとは少し違うし、あの二人とも違う」
自分が春蘭達と同レベルに扱われる事に不満を感じながら、秋蘭はブラッドの分析を続けた。
「武や殺気は本人がどんなに隠そうとしても、その道に通じた者には誤魔化されない。呂布に匹敵
する武を持ちながら、姉者は奴の殺気を感じ取れなかった。つまり、奴には殺気が無いということ
になる。あるいは、奴は殺気を持たずに人が切れるのかもしれぬ。だとしたら、孫策はとんでも
ない代物を抱え込んだことになるし、我が軍もそのような者を引き入れる事はできん。奴は巨大な
火中の栗のような存在だ」

 圧倒的な武を持ちプライドも高く横柄で主人に忠誠を誓わず、更に殺気を悟らせない。そのよう
な者を味方にすればいつ寝首を掛かれるか分かった物ではなく、秋蘭が警戒するのも納得できる。
だが、これは考えすぎである。そもそもブラッドは華琳達の事はただの人間、竜以外の種族と
してしか認識していないし、人間に対し殺気を抱いてもいない。しかも今のブラッドは自分の力を
上手く発揮出来ないので、尊大ともとれる態度をとっていてもこちらから余計な事をしない限り
それ以上の行動に移る事はないのである。これがリュミスなら、彼女にその気が無くてもただそこ
にいるだけで人間を圧倒する存在感を発揮するが、ブラッドにそこまでの威厳は無く、春蘭がブラッド
に対し殺気を感じなくてもしかたのないことだった。

 しかし、秋蘭は事情を知らない。そのため、ブラッドに対する警戒が過剰になっている。
「お前は呂布とも交友があるし、ブラッドの武も一端だが実際に見ている。お前の目から見て、
ブラッドと呂布の共通点は分かるか? そして、ブラッドの力は危険を冒してまで手に入れる価値
があると思うか?」
「難しい質問やな…。恋のことはそれなりに知っとるけど、ブラッドはこの前惇ちゃん達と会うた
のが初めてやし…」
霞は一旦言葉を切って、荊州偵察での一件を思い出していた。

「恋の武は、正直人間離れしとる。無表情で敵をなぎ倒して、一軍潰したのも数知れん。その恋と
互角に遣り合うたんなら、ブラッドも化け物や。実際、剣を構えた惇ちゃんとの間合いを一瞬で
詰めた動きは、尋常や無かったな。もし、ブラッドが剣を持っていてその気があったら、惇ちゃん
の首は刎ねられとったかもしれん」
「……」
可能性の話だが、ブラッドに春蘭を殺すチャンスがあったと言われ、秋蘭の表情に緊張が走った。

「奴と対戦するときは、武人の誇りは一時棚上げして臨まねばならんだろう。お前もそのつもりで
いてくれ」
「いや、それは無理や。ブラッドが得体の知れん奴で気になるのは分かるけど、それは実際に戦って
ないからってこともあるやろ? 一度剣を交えたら、奴の武も分かるし対処法も見つかると思うで?」
「それが分かったとき、手遅れで無ければ良いがな」
霞は武人の習性を抑えきれず秋蘭の提案に即座に反対したが、秋蘭も予想していたのか小さく笑う
だけで自分の考えを押し付けるつもりは無いようだ。

「ただ、実際にやるなら接近戦や剣の間合いでは分が悪い。射程の長い得物を持った者が対応した
方が良いだろう」
「何や、結局秋蘭もやる気やん」
何だかんだ言いながら、秋蘭も武人としてブラッドに興味を持っていたらしい。しかも自分の方が
ブラッドとは組みやすいと言いたげな台詞に、霞は少し呆れたように笑みを浮かべた。各人に温度
差はあるものの、華琳陣営でブラッドは注目の的だった。


 孫策の快進撃とブラッドの噂は、徐州に居を構える桃香達にも伝わっていた。
「孫策さん、とうとう独立しちゃったね」
「そうですね。袁術如きに孫策を押さえ込むこと自体、無理があったと思います。当然の
結論でしょう」
桃香の言葉に愛紗が続く。

「しかし、これで我々は曹操、袁紹、孫策の勢力に囲まれる状況になりましたな。今後勢力を拡大
するのは少々面倒になりましたな」
「孫策さんが今後勢力を拡大していく事は明白ですが、北方は曹操さんと袁紹さんが睨み合って
いて、いずれどちらか、多分曹操さんが北方全域を制圧することになると思います。次の標的は
私達になるかもしれません。孫策さんも領内の体制を固めていますし、このままだと、私達は曹操
さんと孫策さんに挟まれ身動きが取れなくなってしまいます。今のうちに西に向かい、領土を確保
した方が良いと思います」
星の言葉に朱里が追随し、現状の問題点と今後の方向性を示すが、桃香はあまり乗り気ではないの
か難しい顔をしている。
「うーん…。西って、荊州は劉表さん、益州は劉璋さんが治めてるんだよね。同族の人の領土を
奪うのはちょっと…」
皆仲良くがモットーの桃香は、大義名分も無いまま相手の領土を奪うことに抵抗があった。しかも
それが同族なら尚更の事だった。しかし、そんな桃香の態度に愛紗は厳しい表情を向けた。

「桃香様、あの二人に乱世を乗り切る力はありません。時機を逸するば、直ぐ他の勢力に奪われて
しまいます。特に劉璋は、圧政を敷いて領民を苦しめていると言われています。桃香様が彼の地を
治める事は民の為にもなり、桃香様の信条に反するものではありません」
「それでも…ごめんね、ちょっと考えさせて」
愛紗の言い分は尤もな事だったし、桃香も十分理解している。しかし、桃香は自分の理想と愛紗の
言う現実のギャップに折り合いをつけることが出来ず、問題を先延ばししてしまった。
「…遠回りをされますか。分かりました、これ以上は申しません。しかし、曹操も袁紹も孫策も
桃香様が答えを出すまで待つことはないことは、ご理解ください」
「う、うん…」
愛紗に念を押され、桃香は自分の決断力の無さに自己嫌悪に陥り俯いてしまった。

「非情に徹しきれぬ、いささか甘い考えではありますが、それも桃香様の持ち味でもありますな」
「そうですよ。そんな桃香様だからこそ、私達もこうしてお仕えしてるんですから」
「桃香お姉ちゃんらしくて良いと思うのだ」
「あ、ありがとう皆」
「わ、私も桃香様のそんなところに惹かれてお仕えしています!」
相次ぐ桃香に対するフォローに疎外感を感じたのか、愛紗が慌てて取り繕う。今まで重かった場の
雰囲気が明るくなった。

「それにしても、ブラッドさんてやっぱり凄い人だったんだね!」
場が和んだことにほっとした桃香が、今回の呉独立の功労者であるブラッドの事に触れると、星が
食いついてきた。
「えぇ。一見、素人が闇雲に剣を振り回しているようでしたが、呂布と互角に渡り合った武は認め
ざるを得ません」
「見た目は細くて頼り無さそうだったけど、剣の速さは滅茶苦茶だったのだ」
「しかし、武人としては少し問題があるぞ。武人はただ強いだけでなく、礼節や品格も備わって
なければならない。ただ強いだけでは蛮勇になってしまう」
星や鈴々が好意的に評価したのに対し、愛紗はやや否定的だ。愛紗は雪蓮が協力を申し出たときの
ブラッドの横柄な態度や、華雄に対するセクハラ発言を引きずっているのかもしれない。

「あれは私もちょっと引いちゃったけど、華雄さんを挑発する為のものだったから仕方ないと思うよ。
それに、最初話した時はそんな感じはしなかったよ」
「……」
愛紗がマイナス点にあげたブラッドの対応を桃香は全く気にしていなかったらしく、両者の判断
基準には大きな開きがあった。

「それで、愛紗ちゃん達はブラッドさんの戦いぶりを間近で見てた訳だけど、実際どうだったの?」
「どうと仰られても…正直、返答に窮しますな」
「先程申し上げたように呂布を退けたのは事実ですが、技そのものはど素人で、我が軍の新兵にも
もっとマシな者が居りましょう。…身体能力は化け物ですが」
身体能力だけで天下無双の武人が遅れを取った事を武人全体の敗北と思っているのか、愛紗の表情
は硬い。武人が武人でないものに武で劣る。愛紗にとって、絶対に許容できないことだった。

「それだけではありません。呂布の方天画戟をまともに食らって平然と立ち上がったり、陳宮の
放った火矢で辺り一面火に囲まれたにも関わらず、普通に歩いて通り抜けてしまった。これは常人
に出来るものではありません。もしかしたら、仙術か何かの類を会得しているのかもしれません」
「ほぉ、愛紗からそのような言葉が出るとは…」
「目の前で見せ付けられたんだ。認めんわけにはいかんだろう」
愛紗の物言いは、事実は事実としてブラッドの能力は認めているが、武以外のものに答えを求めて
いるように聞こえる。そのことを星にからかわれて、愛紗は憮然とした表情だ。

「仙術に関してはまだ分かりませんが、現実に起きたことから考えてブラッドさんが人並み外れた
身体能力の持ち主であることは確実でしょう。ブラッドさんはその能力で、今まで我流で通して
きたのだと思います。自分の武に絶対の自信を持っていて、人の意見は聞かない部類の人だと思い
ます。この類の人は、軍務違反等問題を起こしてすぐに処罰されそうですが、孫策さんも自由奔放
で剛毅な方なので、ブラッドさんの持ち味を殺さないために好きにやらせているのだと思います」
愛紗達の情報だけでブラッドの性格を的確に評価する朱里だった。
「生まれ持った才能の違いかな…。私なんか何にも無いのに」
武に関しては足手纏いになっている現実に落ち込む桃香。しかし桃香も生まれ持った自分のカリスマ
に気付いていない。

「ホントに凄いよね。孫策さんも良い人だし、出来ればブラッドさんとは戦いたくないよね」
「良い人かどうかはさておき、覇道を邁進しようとする曹操さんと違い孫策さんの考え方は桃香様
と通じる部分がありますから、同盟を結ぶことは可能だと思います」
「そこで、桃香様の出番というわけだな」
「え? 私に出来ることあるの!?」
自分が役に立つと言われ、桃香は驚きながらもパッと顔を輝かせた。

「奴は男ですからな」

「待て星。貴様、桃香様に何をさせるつもりだ!?」
星の言葉を遮って、愛紗が強い口調で割り込み睨みつける。星の性格から判断して、良からぬこと
を考えていると思っているようだ。
「別に難しいことではない。孫策はブラッドを重用しているし、ブラッドを上手く手懐ける事が
出来れば、今後呉に対し有利に交渉できるのではないか?」
「だから、桃香様に何をさせるつもりかと聞いている」
愛紗の目つきが更に厳しくなり、青龍刀を握る手に力が篭る。

「聞けばブラッドは汜水関で華雄を挑発する際、女であることを強調したという話ではないか。
総じて、男は特殊な場合を除いて美人には弱いもの。特に桃香様のように癒し系の女性を前にして
は戦意も喪失するものだ。勿論、愛紗のような見た目気の強い女の頑なな心を解き解すのも味わい
があるかもしれんが…」

ブン!

愛紗の青龍刀がうなりをあげて星に襲い掛かり、星はそれを紙一重で躱した。
「…愛紗。今、本気で切り掛かったな? 並みの兵士なら体が真っ二つになっていたぞ」
星の表情にまだ余裕はあるが、実は結構危なかった。
「き、貴様、言うに事欠いて何と破廉恥な事を! だいたい、私があんな軽薄な男に靡くと思って
いるのか!?」
眉を吊り上げ、真っ赤な顔で星を睨みつける。皆の前で自分の女としての弱さと指摘された気分で、
愛紗の心は大いに乱れている。

「あ、愛紗ちゃん、落ち着いて。愛紗ちゃんがとっても可愛い女の子だって事は皆知ってるから」
「と、桃香様まで…」
「はえ?」
桃香はフォローしたつもりだが、止めを刺される結果となりがっくりうな垂れる愛紗だった。

「まぁ、愛紗が今後、女としてどう成長していくかは置いといて、孫策軍と相対する時はブラッド
の攻撃力をどう殺ぐか我々にとって大きな課題といえましょう。袁術軍も奴の圧倒的な突破力に
前線を散々引っ掻き回され、それが原因で大敗北を喫したというではないか?」
愛紗の事はほったらかして、星はブラッド対策に話を戻した。

「いきなり話を戻すな。まぁ、本音を言えば正面から正々堂々と戦いたいところだが、状況を考え
たらそうは言ってられん。河南の最大勢力だった袁術軍が雑兵の寄せ集めとは思えんし、我が軍が
奴に同じ戦法を採られた場合、被害は甚大だ」
桃香達の義勇軍は、数ヶ月前までは剣の代わりに鍬や鋤を持っていた者が殆どである。袁術軍以上
に大きな被害、場合によっては壊滅状態に陥ることも考えられる。

「本来なら、あの手の自信過剰は誘き出して前線で孤立させるのが一番だが、奴は自分から前線に
突っ込んで突破している。こちらから誘き出す必要は無いが、対応が遅れると袁術軍の二の舞に
なりかねん」
「それは、敵が弱すぎたからなのだ。鈴々と愛紗と星の他に腕の立つ者で取り囲んだら、絶対勝て
るのだ」
「奴一人に、主力をぶつけるのか? そもそも、向こうの主力は孫策が率いる部隊だ。ブラッド
一人に人員を割いたら、あっという間に攻め落とされてしまうぞ」
鈴々の能天気な発言に反論するが、言った後で愛紗の顔が苦渋に満ちた表情に変る。結局ブラッド
の異常な能力と、孫策軍との実力差を明確にしただけだった。

「いかんな。やる前に答えが出てしまったぞ」
珍しく星が溜息をつく。対策を講じているうちに、現時点で孫策軍と遣り合うのは自殺行為である
ことが判明した。当然、更に戦力の整った曹操軍なら尚更である。
「だ、だから、まだ戦うと決まったわけじゃないんだよ。孫策さんだって戦ってる理由は私達と
同じだし、ブラッドさんも良い人だから話せば一緒に戦ってくれるはずだよ。ね、愛紗ちゃん?」
「…ブラッドが良い人か判断する情報を私達は持っていませんが、現状では桃香様の言う通り戦い
を避け、力を蓄えるしかありません」
戦うことを前提に話を進めていた愛紗だが、現実を見せ付けられると桃香の意見に従うしかない。
しかし、ブラッドに対する不信感は払拭できず、つい嫌味な物言いになってしまう。

「現時点では孫策さんも体制固めで戦争する余裕は無いので、緊急の問題ではありません。それに
桃香様の仰るとおり、戦わないに越した事はありません。孫策さんの考えと桃香さんの考えに共通
するところがあるのであれば、同盟を結んだ方が何かと便利です。といっても、今の私達では対等
な条件で同盟を結ぶ事は出来ませんので、とりあえず孫策さんに使者を送って敵対する意思の無い
事をはっきり伝えましょう」
いづれ戦うことになるとしても、今戦っても勝ち目は無い。大陸の情勢も混沌として今後の展開も
読みにくい状況で、敵は少ない方が良い。朱里は雪蓮と敵対せずに、当面の安全を図る策を提案した。

「結局そうなるか。やはり、桃香様に頑張っていただくしかあるまい」
「貴様、まだそんなことを」
「勘違いするな。こちらが孫策に使者を送れば、向こうも返礼として使者を寄越すはずだ。その時
篤く持て成せば、同盟は結べないにしても孫策もこちらに矛を向ける事はあるまい? その役目を
桃香様にお願いしようと言っているのだ」

「そう上手くいくのか? 孫策は兎も角、腹心の周喩はしたたかで抜け目の無い奴と聞く。足元を
見られて変な条件を突きつけられたりはしないか?」
まだ納得できないところがあるのか、それとも単に星の言うことに賛同したくないだけなのか、
愛紗は問題点を指摘した。
「それは良い案だと思います。今戦ってもお互い良い事が無いのは分かってますから、周喩さん
なら私達の真意を見抜いた上で、敢えて話に乗ってくると思います」
「だ、そうだ。異論あるか?」
「く…。憎たらしい奴め」
朱里が賛成に回ってしまったため、これ以上反論出来ない愛紗は悔しそうに星を睨み付けた。

「えっと、とりあえず孫策さんの処に使者を送るんだよね。誰が適任かな?」
「孫策さんにこちらの真意を分かってもらうためには、それ相応の人じゃないと駄目だと思います。
私は愛紗さんにお願いしたいんですけど…」
上目遣いで愛紗のようすを窺う。こちら側の誠意を見せるため、桃香の義妹で武の中心人物である
愛紗なら雪蓮も納得すると考えての要請だが、汜水関で愛紗が雪蓮達と一悶着あったことを目の
当たりにしているので、頼みづらそうだ。

「分かった。朱里も同行してくれ。私も桃香様の名代で出向くのだから、孫策相手に迂闊な行動を
取ることはない。ただ、冷静で的確な判断をするためにお前がいてくれると助かる。桃香様、宜し
いでしょうか?」
一応、気持ちは切り替えているのか、愛紗は朱里の申し出のあっさり受け入れた。
「うん、朱里ちゃんが構わないならいいよ」
「大丈夫です。孫策さんや周喩さんの人となりは知っておきたかったので、最初から同行するつもり
でした」
「じゃあ、お願い愛紗ちゃん、朱里ちゃん。でも無理はしないでよ?」
「お任せください。私も桃香様の名代で行くのですから、
桃香の不安を払拭するように、愛紗は力強く自信に満ちた表情で答えた。その態度が桃香を不安に
させていることには気付いていない。

本人の知らないところでブラッドに関する情報戦は加熱していった。ただ、正確に把握している
かは定かではない。


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