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No.8447の一覧
[0] 国取りドラゴン(真・恋姫無双×巣作りドラゴン) 第24話追加[PUL](2011/03/13 15:31)
[1] 第1話:竜星墜落[PUL](2009/12/13 18:40)
[2] 第2話:突発的開放[PUL](2009/12/13 21:39)
[3] 第3話:同床異夢[PUL](2009/05/23 11:53)
[4] 第4話:実力の片鱗と影響[PUL](2009/06/02 15:16)
[5] 第5話:ある日常の乙女達[PUL](2009/06/10 19:36)
[6] 第6話:ブラッド歴史の表舞台に立つ[PUL](2010/07/12 12:50)
[7] 第7話:激突! 天下無双対決[PUL](2009/12/13 21:39)
[8] 第8話:黄昏の戦乙女(少しエッチ)[PUL](2010/09/05 15:10)
[9] 第9話:華、開く(少しエッチ)[PUL](2010/01/12 21:56)
[10] 第10話:虎と麒麟児と小鹿(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:33)
[11] 第11話:私の瞳の中のあなた(少しエッチ)[PUL](2009/12/22 22:53)
[12] 第12話:新しい時代の幕開け[PUL](2009/10/27 23:21)
[13] 第13話:昨日と違う同じ空[PUL](2009/10/31 22:05)
[14] 第14話:彼女達の考察[PUL](2009/11/17 20:27)
[15] 第15話:愛紗、朱里、揚州紀行(少しエッチ)[PUL](2009/12/18 20:35)
[16] 第16話:北方情勢と穏気な軍師(少しエッチ)[PUL](2009/12/28 16:30)
[17] 第17話:伏竜、昇り竜、落ち零れ竜[PUL](2010/07/22 23:55)
[18] 第18話:最強工作員と最弱竜(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:11)
[19] 第19話:料理スキルの効果(少しエッチ)[PUL](2010/07/22 01:12)
[20] 第20話:逃げる桃香、追う華琳、阻む雪蓮[PUL](2010/04/25 23:48)
[21] 第21話:新旧弓使い対決[PUL](2010/07/22 01:13)
[22] 第22話:魅惑の三位一体攻撃[PUL](2010/08/05 22:01)
[23] 第23話:新戦力発掘(少しエッチ)[PUL](2011/03/13 17:21)
[24] 第24話:パワーファイターVSスピードスター[PUL](2011/03/13 15:31)
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[8447] 第12話:新しい時代の幕開け
Name: PUL◆69779c5b ID:af5d3e39 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/27 23:21
第12話:新しい時代の幕開け


 荊州でブラッド達とニアミスした霞達はすぐ自分達の本拠地、許昌に戻り華琳に事の次
第を説明した。
「考える事は同じって事ね。孫策も荊州に狙いを定めたのね」
「まだ独立さえしてないのに、随分気の早い話ですね」
特に驚いた様子の無い華琳に対し、桂花はブラッド絡みなのが気に入らないのか、苦り
きった表情で口調も刺々しい。
「孫策が独立するのは時間の問題よ。その後のことを考えるのは当然よ」
「そ、それはそうですけど…」
華琳に諭されると、桂花はそれ以上言えなくなり悔しそうに口をつぐんだ。

「荊州を攻めるにしても、まずは目の前の袁紹を何とかしないといけないわ。今はそっち
に集中しましょう。それと、さっきから気になってたけど、春蘭はどうかしたの?」
霞達が華琳に状況を報告している間、春蘭は俯いて何か考え込んでいるように見えた。
「姉者が考え事をしている姿は新鮮で、これはこれで可愛らしいが、今はそういう状況で
はない。何があったのだ?」
「うーん。惇ちゃんの名誉の為、黙っとったんやけど…」
霞は春蘭の様子を伺いながら、ブラッドとのやり取りを説明した。

「一度ならず二度までもあの男に後れを取るなんて。本当に情けないわね」
「く…」
「そう言うけど、あのブラッドっちゅう奴はとんでもないで」
「えぇ。恐らく接近戦での戦いを得意とすると思われますが、あの踏み込みの速さは尋常
ではありません。もし戦場でブラッドと対峙した場合、我々も相当な覚悟で望まねばなり
ません」
桂花の意地悪な物言いに悔しそうに俯く春蘭に代わって、霞と凪が反論した。
「呂布を退かせた男なんだし、苦戦するのは仕方ないわ。でも、春蘭もこのまま引き下が
るつもりは無いでしょ? あなたは曹魏の武を司る者なんだから」
「も、勿論です! 戦場で会ったときは、必ずや我が七星餓狼で打ち倒して見せます」
華琳の言葉に即座に立ち直った春蘭が、力強く宣言した。しかし、ブラッドに抱き締めら
れたときの春蘭の心情は、華琳も現場に居た霞達も、春蘭本人でさえも分かっていない。


独立に向け着々と準備を進めている雪蓮達も、呉を取り巻く環境の変化を敏感に感じ
取っていた。
「雪蓮、曹操と袁紹の緊張が高まってるらしいわ」
「いよいよ動き出したわね。どっちが勝っても私達にとって脅威になる事は間違いないけ
ど、冥琳はどっちが勝つと思う?」
「普通に考えれば、兵力の差からいって袁紹でしょうね。でも、戦に絶対はないし、将の
器では曹操が圧倒しているし兵力も侮れない。それに、あの曹操が勝ち目のない戦を仕掛
けるはずがないわ。今後の事を考えれば袁紹に頑張ってもらいところだけど、天運は曹操
にありそうね」
「どっちが勝っても次の標的は劉備か劉表よね? 私達は、当面の敵を叩くことに集中し
ましょう。蓮華は何て言ってるの?」
「準備を整え、既に行動に移ったそうよ」
「いよいよね。これからが正念場よ、頑張りましょう」
独立への準備は全て完了し、後は行動へ移すのみとなった。

 行動の前段として、雪蓮は荊州偵察の報告のため、美羽の元を訪ねていた。
「袁術ちゃん、この前の荊州の偵察の結果だけど、良くない知らせよ」
「な、何じゃ? 言うてみよ」
「曹操の手の者がうろついていたそうよ。見つかると拙いから近くに寄れずはっきり確認
出来なかったけど、夏侯惇と張遼だったらしいわ」
「か、夏侯惇と張遼じゃと? ううむ、妾の睨んだ通りの展開じゃ」
「さすが美羽様、素晴らしい慧眼です♪」
「…で、どうするつもりなの?」
思い付きが偶々当たっただけでよくもそこまで得意になれるものだと呆れつつ、雪蓮は
美羽達の方針を引き出そうとした。

「曹操さんは、荊州を攻め込むつもりなんですか?」
「多分ね。今は袁術ちゃんの従姉妹の袁紹と睨み合ってる最中でそれどころじゃないから
すぐに攻め込む事はないでしょうけど、手は打っといた方が良いんじゃない? 荊州に偵
察を送ったという事は、袁紹に勝つつもりでしょうから、そっちの方も手を打った方が良
いんじゃない?」
「うーん…。妾の娘がどうなろうと妾には関係ないが、曹操に荊州を取られるのは嫌じゃ。
七乃、どうすればいいのじゃ?」
偉そうな態度をとっているが何も考えていない、そもそも考える能力の無い美羽は七乃に
意見を求めた。
「うーん…荊州はまだ劉表さんが治める地ですから、いきなり軍を展開するわけにはいき
ませんよんね。ここは一つ、曹操さんが攻めてきたら、援軍を出すふりりして乱戦に乗じ
て両方ともやっつけちゃいましょう」
「おぉ、それは名案じゃ。さすが七乃じゃ」
「ありがとうございます。じゃあ、そんな感じでお願いしますね♪」
「はぁ? 私にどうしろって言うのよ?」
七乃の無茶振りも想定の範囲内だが、雪蓮はいつものように驚いた顔を見せた。

「あの夏侯惇さんがうろうろしても気付かない劉表さんなら、少しぐらい軍を展開しても
大丈夫ですよ。それに、いきなり国境に大軍を展開すれば、私達が先に劉表さんから警戒
されますから、曹操さんが攻め込んで戦況を見ながら状況をこちらに伝え、臨機応変に対応
してください」
要するに、全て雪蓮の判断で状況を打破せよと言ってるのだが、雪蓮達に対する警戒心は
皆無だった。
七乃は美羽ほど愚かではなく、有能な部類に入る軍師兼将軍である。しかし、肝心なと
ころで抜けている為、そこを雪蓮たちに突けこまれているのだが気付いていない。しかし
自分の軍を小間使いのように使う七乃に対し、怒りが込みあがる。
「簡単に言うけど、いつ始まるか分からない戦のために軍を駐留させるのは意味が無いわ。
大体、私達にそんな兵力は無いわよ。袁術ちゃんとこの方が兵が多いんだから、そっちで
やってよ。地方に散らばってる兵を集めない限り、私達には無理よ」
「ならば、許可する。その者達を集めても構わんから軍を編成するのじゃ」
「…了解。早急に軍を編成するわ。じゃあね」
あっさり許可する美羽に呆れ顔だが、雪蓮は美羽の気が変わらないうちに、表情を変えず
にそそくさと自陣に戻った。


 遂に運命の日がやって来た。雪蓮が軍を編成して荊州に進軍する準備を完了したころ、
突然武装蜂起した農民の大軍に度肝を抜かれた美羽が、雪蓮に出陣要請をしてきた。雪蓮
はこれを了承し、蓮華達とも合流しいよいよ決戦開始となった。
「ようやく、ここまで来たわね」
「そうだな。だが気を緩めるのは早い。私達の歴史は、これから始まるのだから」
珍しく感慨深げな表情を浮かべる雪蓮に、冥琳の叱咤激励が飛ぶ。
「分かってるわよ。念願の孫呉復興まであと一歩ってところまで来たけど、これは元に
戻っただけ。止まってた歴史が、また動き出すだけよ」
「そうです。新生孫呉の力、天下に知らしめるときは今です!」
雪蓮の言葉に蓮華も続き、気持ちは否応にも盛り上がっていった。

そして、全軍を前に雪蓮の大号令が始まった。
「孫呉の民よ! 呉の同胞達よ! 待ちに待った時は来た! 栄光に満ちた呉の歴史を。
懐かしき呉の大地を! 再びこの手に取り戻すのだ! 敵は揚州にあり! 雌伏の時を経た
今、我らの力を見せつけようではないか! これより孫呉の大号令を発す! 呉の民よ! 
その命を燃やしつくし、呉のために死ね! 全軍、誇りと共に前進せよ! 宿敵、袁術を
打ち倒し、我らの土地を取り戻すのだ」

「おおおおお!!!」
雪蓮の言葉に将兵達が、兵士達が奮い立ち、決戦に向けて気分は一気に高まっていった。
しかし、ブラッドは完全に蚊帳の外だった。物理的には直ぐ傍にいても精神的にはずっと
遠くにいて、何の感慨も無く眺めている雰囲気である。
「……」
「どうしたのブラッド?」
ブラッドの浮いた雰囲気を察知して、蓮華が声を掛けた。
「なぁ、栄光に満ちた呉の歴史とか雌伏の時とか言ってるが、実際何年くらいこの状況が
続いたんだ?」
「え? そうねえ国を興したのはお母様だけど、その前から呉の人々は生活してたから
多分数十年位にはなると思うわ」
「…そうか」
「どうしたの?」
「いや、俺は呉とは関係ないから良く分からんが、思うところがあったという訳か。盛り
上がってるところに水を注しても良くないから、これ以上は何も言わん」
人間と竜では、時間の感覚が全く違う。竜にとって数十年前は、つい最近の感覚しかない。
その程度の時間で歴史とか雌伏の時とか大げさに言って盛り上がっている人間が、凄く儚
い存在に見えてしまう。
「ご主人様、雪蓮さん達の思い入れは私達の理解の及ばない部分かもしれませんが、ご主
人様にはご主人様のやるべき事があります。今はそれに集中しましょう」
「そうだったな。歴史を変えるほど活躍しないと駄目だったな」
「そうです。出遅れるわけにはいきませんよ」
クーに諭され、闘う意義を再確認したブラッドもモチベーションを高めっていった。

「全軍、攻撃!!!」
「おおおおお!!!」
考え事をしている間に雪蓮の攻撃命令が下り、全軍が突撃開始した。
「ブラッド、蓮華の傍についてくれないかしら?」
「は? 構わんが、俺に軍と連携した行動を期待しても無駄だぞ?」
今まで好き勝手に暴れてきて、それで好結果を生んでいただけに、雪蓮の申し出は受け入
れ難いものだった。
「連携しろなんて言ってないわ。あの子の傍で闘って欲しいの。あなたがいれば、あの
子も緊張せずに能力を発揮出来ると思うから」
今の雪蓮は王ではなく、姉の顔に戻っている。過保護な気がしないでもないが、これから
孫呉を代表して戦うことになる次期後継者の大舞台に、気を遣っているようである。
「今日は宜しくね」
蓮華は少し畏まった表情だが、大舞台でブラッドと共に戦える事に気持ちが昂ぶっていた。
「俺とお前達とでは、目的は違うが手段は同じだ。俺が協力出来る事はあまりないかもし
れないが、宜しく頼む」
「問題ないわ。あなたが私と一緒に戦ってくれる。それだけで十分よ。勝利を目指して
頑張りましょう」
ブラッドの言葉を受け、蓮華は熱い瞳で答えた。“私“ではなく”私達“と言わなければ
いけないところだが、雪蓮は今まで以上に自分を出している蓮華に満足そうな笑みを浮か
べていた。
 
 雪蓮達は戦局を優勢に進めていた。兵力では袁術軍に及ばないが、兵士や将軍など個々
の能力は袁術軍を上回り、なによりモチベーションで圧倒していた。中でもブラッドは目
覚しい活躍を見せていた。モチベーションは大きく落ちるが、現時点で恋と互角の能力を
発揮するブラッドにとって、目の前の雑兵は物の数ではなかった。次々と力任せになぎ倒
し、死体の山を築いていった。
「ご主人様、今日はサンプルが沢山あるので色々試せそうです。暴走しない程度に頑張っ
てください」
「分かった。じゃあ練習中の火の魔法で…」
ブラッドは向かってくる敵兵を魔力を込めた拳で殴り倒した。
バキッ!
「ぐわ…」
殴った瞬間火花が散り、敵兵は遥か後方に吹き飛ばされた。本当は火の魔法を発動させ
一瞬で焼き尽くすつもりだったが、火の影響より物理的に殴り倒した時の裂傷の方が大き
く、敵兵の顔も少し火傷した程度で思い通りの結果は得られなかった。
「また失敗か。上手くいかんな」
中々思い通りにならない状況に、ブラッドは少しイライラが募って軽く舌打ちした。
「まぁ、下手な鉄砲も何とやらです。どんどんいきましょう」
「…仕方ない。これも訓練と思ってやるしかないか」
クーの声援を背に、ブラッドは気を取り直して敵兵をなぎ倒し続けた。
魔法の発動率は低く失敗も多かったが、基礎体力そのものが桁違いなので、ブラッドの
動きを止めるものは居なかった。ブラッドは、雑草を刈るように群がる敵兵をなぎ倒して
いった。

ブラッドの戦いぶりは、味方さえも圧倒していた。全員がそれぞれの持ち場で兵を指揮
しながら、ブラッドの戦いに目を奪われていた。
「す、凄い…。黄巾党と闘った時とは、比べ物にならないくらい遥かに強くなってるわ」
「城ではただの節操無しだが、戦場では鬼神だな」
「はぁ…ブラッド様、格好良いです」
「武器を使わず己の拳のみで敵を屠る、か…。漢よのう」
「呂布と互角の能力なら、これくらい当然でしょ?」
期待以上の働きに、雪蓮は少し得意げな表情で胸を張った。

味方は見惚れてもそれほど問題は無いが、攻撃される側はそれどころではなかった。袁
術軍を預かる七乃は、ブラッドの超絶ファイトに圧倒されていた。
「あぁん、もう! 何ですか、あそこで一人で非常識に暴れ回ってる化け物さんは? 
あの人一人に、我が軍はメチャクチャにされてるじゃないですか!?」
七乃にとってもブラッドの戦い方はこれまでの常識を超えていて、殆どお手上げ状態だった。
「張勲将軍、このままでは陣形が持ちません。指示を!」
「指示って、こんな状況じゃ撤退するしかないじゃないですか。全軍撤退です」
戦況は誰の目にも明らかで、七乃は軍を纏めて帰還した。


 孫策軍はこの好機を逃さず、勢いを止めずに一気に城の手間まで押し寄せて行った。
「よし、このまま突っ込むぞ!」
「えぇ、分かったわ!」
「待ちなさい!」
一気呵成に城攻めを仕掛けようとしたブラッドに蓮華も同調したが、雪蓮のストップが掛
かった。
「おい、この流れを止めるのか?」
「ブラッドの言う通りです。敵が総崩れになった今が絶好の好機なのに、何故止めるのです!?」
ブラッドに同調して蓮華も不満げな表情を浮かべるが、そんな様子を見て雪蓮は大きく溜
息を吐いた。
「あのね、少しは状況を見なさい。城内の兵の動きに乱れは無いでしょ? さっきの戦い
で袁術ちゃんの兵は出てないし、戦力は整っているわ。そんな状況で突っ込んだら袋の鼠よ。
蓮華、あなたもブラッドと一緒になって何やってるのよ? 軍を預かる者が後先考えずに
先走ったら、部下を殺すことになるのよ?」
「も、申し訳ありません」
雪蓮の厳しい言葉に一気に気持ちが萎え、蓮華はしゅんとなってしまった。戦闘時におい
て卓越した状況判断能力を持ち、勝負どころを見逃さない天性の感を備える雪蓮と今の
蓮華では実力差がありすぎた。
 しかし今まで自由にやってきたブラッドは、納得していないようすだった。
「俺一人なら問題無い。中から引っ掻き回すから、お前達は頃合を見て突撃しろ」
「中々魅力的な提案だけど、それも駄目」
「…理由を聞こうか」
王である雪蓮に対し、ブラッドは上から目線で説明を求めているがその事を咎める者は居
なかった。
「ブラッドの天下無双の武を考えれば、遅れを取る事はないだろう。だが市街戦になれば
一般人にも危害が及ぶ。今後この地を治めることを考えれば、領民を戦乱に巻き込むわけ
にいかん。何より、どさくさに紛れて袁術を取り逃がす恐れもある。そうなっては意味が
無い」
「…そういうことか」
雪蓮に代って冥琳が理由を説明すると、手っ取り早く全員殺せばいいと安易に考えていた
ブラッドも納得した。

「じゃあ、これからどうするつもりだ?」
「そうね。袁術ちゃんも健在だし兵の士気もまだ落ちてないから、体制を整えたらまた
出てくるでしょう。その時が勝負よ」
「篭城しても援軍が来る可能性は極めて低いし、打って出るしかない。全軍でぶつかって
くるはずだから、私達もそれ相応の覚悟で臨まねばならない」
決着のときが近付き、雪蓮達の士気も最高潮に盛り上がっていた。


 一方、袁術軍は城門を硬く閉ざし対応に追われていた。
「な、七乃、孫策如きにおめおめ逃げ帰るとは何事じゃ!? もう一回戦ってくるのじゃ」
状況を全く理解していない美羽が、いつものように七乃に無理難題を吹っかけるが、今の
七乃に笑って受け流す余裕は無かった。
「無理です。只でさえ精鋭揃いの孫策軍に、あんな化け物さんまでいたら勝てっこありま
せんよ。ここは篭城して、袁紹さんに援軍を頼むしかありません。まぁ、袁紹さんも曹操
さんと睨み合いの状態ですから、素直に出してくれるかどうか…」
「あんな妾腹に頼るのは嫌じゃ。七乃の力で何とかしてみよ」
「いや、どうにもならなかったから、こうなってるんですけど」
この期に及んでまだ状況を理解しようとしない美羽に、七乃は困った顔で苦笑いを浮かべ
るしかなかった。
「援軍の無い篭城はジリ貧ですし、玉砕覚悟で打って出ても本当に玉砕したら馬鹿みたい
ですし、もうこれしか手は無いですね」
進退窮まっても、七乃は美羽の為に状況を回避する策を実行することにした。

 袁術軍を迎え撃つ体勢を整えた雪蓮達は、動きの遅い袁術軍に違和感を覚えていた。
「動きが無いわね? まさか篭城?」
「袁紹が手を貸せる状態にない事は分かってるはずだが、あてがあるのか? 劉備にも余
裕は無いし、劉表が手を貸すことも考えられん」
「あるいは、何も考えてないのかもしれません。ブラッドに完膚なきまでに叩かれ、
とりあえず守りを固めているだけなのでは?」
わざわざブラッドの名を出す必要は無いのに、蓮華がどこか誇らしげに状況を分析した。
「あぁ…それは十分考えられるわね。結果的に私達にとって好ましい状況になってない事
は確かね」
雪蓮達は状況を打破するための策を講じたが城攻めに適する兵力は無く、中々妙案は浮
かばなかった。
「バカ正直に城攻めはやりたくないけど、向こうが挑発に乗る様子も無し。あまり時間を
掛けたくないけど、こうやって考えている間も時間はどんどん過ぎていくわ。ちょっと
手詰まりね」
中々進展しない状況に、雪蓮達の間には閉塞感が漂っていた。

「じゃあ、こういうのはどうでしょうか?」
何か提案しようとするクーに雪蓮達が視線を向けると、ブラッドを除く全員が目の前の光
景に驚いた表情を見せた。
「く、クー? ど、どういうこと?」
「やっぱり驚きますね?」
雪蓮達の反応に“クー達“は満足そうな笑みを浮かべた。雪蓮達の前には五人のクーが
現れて、にっこり微笑んでいた。
「皆さんが見ている私は単なる映像ですから、これくらいは簡単です。こんなことも出来
ますよ?」
そう言うとクーの体が消え、生首状態の五人のクーが空中に漂っていた。
「そ、それも映像なの? クーは可愛いけど、やっぱり同じ顔が幾つも首だけ浮かんでい
るのはちょっと不気味ね」
見知った顔で、ブラッドの持つ宝具(ペンダント)のカラクリと分かっていても、生首が
浮かぶ光景に雪蓮達は顔を引き攣らせていた。
「雪蓮さん達でもこの反応ですから、理由を知らない人が見ればかなり驚くと思います。
次に、こんなのはどうでしょうか?」
顔を顰める雪蓮を見て効果があると判断したクーは、更に過激な映像を披露した。空中を
漂っていた首だけのクーが雪蓮達の周りを取り囲むと、飴のようにドロリと崩れ落ちた。
「ひっ!」
これまで戦場で多くの敵を倒してきた雪蓮達もこの光景はショックだったのか、小さな悲
鳴がこぼれた。クーは少し得意げな表情で元の姿に戻った。
「これを城内でやれば、彼らの動揺は相当なものになるでしょう。精神的に疲弊させれば
注意力も散漫になって、城攻めも有利に展開できると思います」
「俺は全然気にしないが、この世界の人間には効果的かも知れんな。どうする雪蓮?」
「そ、そうね。試してみる価値はあるわね。でも領民を脅かしたら駄目よ」
「分かりました。では早速行ってきます」
クーは雪蓮達に見せなかった酷薄な笑みを浮かべ、城に向かって飛んでいった。

「何か夢に出そうだわ」
クーの姿が見えなくなったのを確認して、雪蓮がため息を吐いた。
「さっきのはそんなに怖かったのか?」
「こ、怖くはないけど、不気味よ。死体が動くなんてありえないじゃない」
強がってはいるが、かなり怖かったらしい。アンデッド系どころか、実体の無いゴースト
系の魔族などが普通に存在する世界に住むブラッドにとって、雪蓮達の過剰な反応は理解
しがたいものだった。


 城内に侵入したクーは、張り切って敵兵を怖がらせていた。首だけが無数に飛び回って
いたり、突然目の前で体を破裂させて臓物を撒き散らしたりと、やりたい放題だった。
見た目は可愛くても初めて受ける精神攻撃に屈強な兵士達といえどなす術が無く、城内は
瞬く間にパニック状態に陥ってしまった。錯乱した兵が剣を振り回し、逃亡を図るものま
で現れた。その情報は、直ぐ美羽達にも伝わった。
「申し上げます! 現在、城内に物の怪が現れ、兵達に動揺が広がっています」
「も、物の怪じゃと!?」
「詳しく説明してください」
動揺する美羽を宥めつつ、七乃は冷静に説明を求めた。部下の報告を聞きながら、七乃は
事態がかなり深刻であることを理解した。
「な、七乃、何とかならんのか?」
「私は見てないので何ともいえませんが、その物の怪から直接被害を受けたわけでは無さ
そうなので、恐らくこれは孫策さんの策だと思います」
全く根拠は無いが、兵を落ち着かせるという目的では七乃の判断は的確だった。
怯えていた美羽の目にも少し力が戻った。
「孫策の策じゃと?」
「はい、兵を惑わし士気を下げるために何かやったんだと思います。実害は無いので、落
ち着いて対応するように通達してください」
「はっ!」
七乃の指示を受けて、兵は直ぐ自陣に戻った。
しかし、七乃が思っている以上に事態は急激に悪化していた。物の怪が孫策軍の仕業だと説明
されたら、今度は孫策軍には妖術使いがいるという噂が広まり兵士の動揺は収まるどころか更
に広まっていった。

 こう着状態から一夜明け、雪蓮達は城の様子を見ていた。依然、城門は硬く閉ざされ
打って出る気配は全く無かった。
「動きは無いわね。クーは上手くやってくれたのかしら?」
「あいつなら問題ない。多分、お前達に見せたとき以上に派手にやったはずだ」
「そ、そう。なら一当てして様子を…」
クーのスプラッタな映像が目に浮かんで雪蓮は顔をしかめた。気を取り直して城内の様子
を見るため攻撃を指示しようとした矢先、突然城門が開き袁術軍の兵士が雪崩れうって飛
び出して来た。
「城門が開きました!」
「クーが上手くやってくれたようね。我々も迎え撃って…あれ?」
迎撃体勢に入ろうとした雪蓮達は、袁術軍の動きに戸惑った。兵士の動きは勢いはあるが、
指揮する武将はおらず方向がバラバラだった。兵士は各々勝手に動き回り、雪蓮達には目
もくれず見当違いの方へ駆け出す者もいた。
「どういうこと? 城内で何かあったみたいね」
「恐怖に混乱した兵士達が、我先にと逃げ出しているんです」
雪蓮の疑問に、城から戻ったクーが状況を説明した。
「城内の指揮系統は機能してないみたいね。じゃあ、一気に攻め落とすわよ」
「おおおおー!!」
前日と違い今が勝機と判断した雪蓮が全軍に号令を掛けると、兵士達が城内に一気に雪崩
込んだ。

城内での戦いは一方的な展開となった。指揮系統が崩れ、兵の士気が低下した袁術軍は
孫呉復興に燃える呉兵達の敵ではなく、城内が征圧されるのも時間の問題だった。
そのころ美羽達は、七乃に連れられ僅かな従者とともにこっそり城を抜け出そうとして
いた。
「だ、大丈夫か七乃?」
「えぇ、問題ありません。多少予定は狂いましたが、このまま混乱に乗じて身を隠しましょう」
篭城も決戦も勝ち目が無いと判断した七乃は、一旦体制を整えて戦う振りをして乱戦の中
周りに気付かれないように離脱し、勢力争いがあまりない南部の州に落ち延びて再起を図
ろうと考えていた。物の怪騒ぎは予想外だったが、兵達の混乱を逆に利用してここまでは
ほぼ計画通りに進んでいた。
「七乃、どこに行くのじゃ?」
「そうですね、とりあえず南の方に行ってみましょうか。そこで国を興して再起を図りま
しょう」
「残念ながら、それは無理よ」
「はっ!?」
不意に抑揚の無い声が掛かり、美羽たちが慌てて振り向くと、そこには雪蓮が南海覇王を
手に酷薄な笑みを浮かべながら袁術達を見下ろしていた。

「よくこいつらの場所が分かったな?」
殆ど迷うことなく美羽達の居場所を突き止めた雪蓮に、ブラッドが尋ねた。
「意味の無い篭城、兵士の混乱とやけくそのような突撃で勝つ気が無いのはなんとなく分
かってたからね。どさくさに紛れて逃げたかったんでしょうけど、袁術ちゃんは目立つか
ら裏からこっそり逃げるしかないから、場所を特定するのは難しくないわ。まぁ、ここだ
と思ったのは感だけどね」
「…なるほど」
雪蓮の判断力に感心するブラッドだった。
「さて、どうしてあげようかしら、おちびちゃん?」
美羽達に視線を戻し、殺気を込めて睨み付ける。
「ひぇぇ…」
「あわわ…」
美羽と七乃は既に戦意喪失で、怯えた顔で抱き合って蹲っている。
「兵も民も見捨てて自分だけ生き延びようとは、見下げ果てた奴ね。こんな奴の所為で
我が同胞が苦しめられたかと思うと憎しみも倍増ね」
「殺すのか?」
「呉の同胞達の恨みを晴らすためにも袁術を生かしておくわけには行かないわ」
「このガキンチョにそれほどの能力があったとは思えんが? 大方、側近の奴等がこいつ
の名前使って好き勝手にやってたんじゃないのか?」
「その可能性は十分にあるわ。でも、袁術の名の下に圧制が敷かれてたのは事実だし、こ
の子がそれを黙認してきた、また気付いていなかったのも事実。罪が無いとは言わせないわ」
雪蓮は厳しい表情を崩さず、美羽の罪を並べ立てた。しかし、ブラッド達には雪蓮が本気
で憎んでいるようには見えなかった。

「でも、今となっては何の力も無いこの子を殺しても、一時的な憂さ晴らしにはなっても
孫策さんの英雄としての評価が上がるとは思えません。器の大きさを示す上でも、寛大な
処置をした方がいいと思いますが?」
クーが現れて雪蓮に提言する。雪蓮の真意に薄々感づいているようだ。
「…なるほどね。そういう考えもあるわね。でも、それを民達が納得するかしら?」
「お前が言えば、納得するんじゃないのか? 独立を勝ち取った英雄の言葉だ。納得しな
いわけが無い」
ブラッドもクーに同調した。美羽が今後脅威になることは考えられず、殺すことに意義を
見出せない。雪蓮も考える振りをしてタイミングを計っているように見える。英雄の器を
示す演出であることは間違いない。
「分かったわ。二人がそう言うのならこの子達は殺さないでおくわ」
「おぉ、妾を助けてくれるのか?」
「ただし、あなた達が呉の民から恨まれていることは忘れないように。死にたくなかった
らさっさとこの地から出て行くことね」
美羽が増長しないようにしっかり釘を刺すが、雪蓮の表情に威圧感はあまり感じられなかった。

「命拾いしたな、ちびっ子。これからは大人しくしてろ」
「……」
ブラッドが話しかけても、美羽はぽーっと熱に浮かされたような表情でブラッドを見つめ
るだけで反応を示さなかった。
「そなた、名を何と言うのじゃ?」
「俺か? 俺はブラッド・ラインだ。字、真名はない」
「そうか、ブラッドと申すのか。中々良い名じゃ。どうじゃ、妾の婿にならんか?」
「は?」
「そなたのような良い男は、妾のように高貴な…」
唐突な申し出にブラッドが呆気に取られていると、雪蓮が無表情に南海覇王を構えた。
「…やっぱり殺すわ」
「ぬぇぇぇぇ!! な、何故じゃ!? 妾の事は許すと言うておったではないか?」
「黙りなさい。孫呉の宝、天の御遣いであるブラッドに手を出そうなんて無礼千万、許さ
れるわけ無いでしょ! 私のブラッドに手を出すなんて、万死に値するわ!」
私情100%の理由で美羽を抹殺しようとする雪蓮だが、クーの冷静な突込みがはいる。
「雪蓮さん、一度約束したことを反故にすれば領民の信頼を失いかねません。ここは広い
心で接してください」
「え? だって…」
「子供の言う事を一々真に受けるな。大人の対応をしろ」
「うーん…。もう、分かったわよ。いい袁術ちゃん、一応殺さないでおくけど、もし今後
ブラッドにちょっかい出したら、その時は本当に本当に承知しないからね。いい?」
「あぅ…でも…」
自分の命と引き換えにされたら呉を出るしかないが、美羽はまだ名残惜しそうにブラッド
に庇護欲を駆り立たせるような目を向けている。
「だからブラッドを見るんじゃないの! 早く行きなさい!」
「わ、分かりました! ごめんなさい」
「な、七乃! 妾はまだ…」
まだ未練がましくブラッドを見ている美羽を、七乃が抱えて脱兎のごとく逃げ出した。
「ホントにもう、世話が焼けるわね」
「…全くだ」
同じレベルで争う雪蓮を見て、このままこの国に協力していいのか少し自信が揺らぐブラッド
だった。

 見事袁術軍を打ち破り独立を勝ち取った
歴史の表舞台への再登場と同時に、今後熾烈を極めるライバル達との戦いのスタートでもあった。




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