スザクを伴って、部屋に戻るとコーネリアが安心した顔でルルーシュに告げた。
「遅かったな、ルルーシュ。今、人をやって呼び戻そうとしたところだったぞ」
「申し訳ありません、姉上。久々に会って、いろいろ確認したいことが多くあったもので」
そんなルルーシュの言葉を聞いて、ナナリーはルルーシュに文句を言った。
「まあ、ひどいですわ、お兄様。私もスザクさんと、いろいろお話したかったのに抜け駆けするなんて」
「ごめんよ、ナナリー。でも、これからは何時でも会えるんだから、許してくれよ」
「もう。今回だけですよ。お兄様」
そんな兄妹のやり取りをみて、コーネリアは微笑んだが、気を引き締めてルルーシュとナナリーに告げた。
「ルルーシュ、ナナリー。これから通信機越しだが皇帝陛下に謁見することになる。
その場で、ルルーシュとナナリーの皇族復帰が宣言されるが、これはエリア11の一部と本国上層部のみ知ることになる、
正式発表は一週間後のクロヴィス国葬後になる」
「判りました。しかし、私もナナリーもアッシュフォード学園の制服のままですが、この格好でよろしいのですか?」
そんな疑問をコーネリアは答えた。
「今、二人の皇族服を作らせているが、間に合いそうにないのでな。
それにアッシュフォードがお前達のために作った学園だ。その制服でも問題ないだろう」
その答えを受けて、ルルーシュはアッシュフォードがエリア11の軍部と上層部に対する牽制の一部として
コーネリアに二人がアッシュフォードの制服で謁見することを願い出たのだろう、と考えた。
これによって、アッシュフォードは皇帝に二人を保護し養育していることをアピールできる。
そして、新たに現れた軍部に対して圧倒的な支持を持つ皇族二人を、自分達アッシュフォード一門が
完全に掌握しており、自分達こそがヴィ家の後見筆頭なのだと周りに示したいのだろう。
そんな、既に発生している派閥同士の牽制や、それぞれがイニシアチブを握るためのやり取りを感じ、
ルルーシュは権勢や利益に惑わされないナナリーの騎士が必要だ、皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアの騎士でなく、少女ナナリーの騎士が。
そう考えた。
謁見の間に入ったルルーシュたちは、既に集まっていた官僚や軍人達の注目を浴びた。
その中には純血派のジェレミア達や、アッシュフォードのルーベンの姿も見受けられた。
そこで最もルルーシュの注意を引き付けたのが皇帝の映し出されるスクリーンの
隣に侍っている3人のラウンズであった。
ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。
ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。
ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。
コーネリアはラウンズの3人がこのエリア11に派遣されていることを驚いているルルーシュの様子に
いきなりの不意打ちでは、驚くだろうな、と考えていた。
そして謁見が始まり、スクリーンにシャルルが映し出された。
シャルルは早速ルルーシュに語りかけた。
「久しぶりだな、我が息子ルルーシュよ。
互いに黄昏の間にて、優しい世界について語り合って以来か」
その発言を受けてルルーシュは、やはりこいつも記憶があるのかと考えた。
そんなルルーシュを無視して、さらにシャルルは言葉を続ける。
「ルルーシュよ、そなたには我とマリアンヌが求めた優しい世界の実現に手を貸してもらいたいと考える。
その為に、そなたの求めた我が娘ナナリーの護衛として、我が騎士アーニャ・アールストレイムを派遣することにした」
ルルーシュはナナリーを人質に取られたと考えた。
アーニャの心には、母マリアンヌが巣食っているのだから、ナナリーを人質として自分を従わせる気なのだろう。
総てが後手に回っている。今、この場ではシャルルの策を受け入れるしかない。
ナナリーをシャルルの、マリアンヌの手から開放する最善手はギアスキャンセラー。
しかし、これはジェレミアを犠牲にしないと手に入らない。そして、ジェレミアを犠牲にする選択は破棄した。
なら、ナナリーを救う手立ての次善手を探す。
ルルーシュの様子を眺め、満足そうにシャルルは更にルルーシュに告げる。
「ルルーシュよ、そなたの元に居る我とマリアンヌの友であるC.Cに、我が計画に手を貸すように伝えよ」
「その必要はないよ。シャルル」
その声を聞いて、場に居たものは皇帝の名を呼び捨てで呼んだ不敬を咎めようとしたが、
当の皇帝が声の主に続けて、語りかけたのでそのタイミングを失ってしまった。
「久しぶりだな、C.Cよ。そなたが黄昏の間でルルーシュを選択して以来か」
「そうだな。で、私に何をさせるつもりだ、シャルル?」
そんなC.Cの質問を受けて、シャルルは答えた。
「C.Cよ。そなたは枢機卿として、第11皇子・第5皇位継承者、エリア11副総督ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを補佐せよ」
皇帝より告げられたルルーシュの予想以上に高い皇位継承権に謁見の間はざわついた。
クロヴィスが死んだことによる継承権の繰り上がりでなく、継承権入れ替えが行われたのだ。
ルルーシュがクロヴィスを暗殺したことを知る者達は、総ての情報を抑えているというルルーシュに対する牽制だと感じた。
しかし、クロヴィス暗殺の真実を知らない者達には、皇帝のルルーシュに対する期待の大きさを感じた。
それは皇族復帰直後でありながら、軍部の支持と女子の皇位継承者しか居ないリ家の後援を得て、
第1皇位継承者のオデュッセウスと帝国宰相シュナイゼルに次いで三番手の次期皇帝の有力候補に躍り出たのだった。
「残りの細かい俗事はビスマルクから聞くがよい」
そう言って皇帝の謁見は終了した。
そして、皇帝は結局ルルーシュのことしか語ってなかったと、コーネリアは気付いてしまった。
「お久しぶりでございます、ルルーシュ殿下。ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインでございます」
「お初に目に掛かります。ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグと申します」
「お久しぶりです。ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムです」
ラウンズがルルーシュに挨拶を終えると、ビスマルクが皇帝より預かった書状を読み上げた。
内容は以下のことであった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは第5皇位継承者としエリア11副総督に就任すること
ナナリー・ヴィ・ブリタニアは第87皇位継承者とし、エリア11のアッシュフォード学園にて養育すること
ユーフェミア・リ・ブリタニアのエリア11副総督の就任を白紙とすること
それに伴い、ナナリー・ヴィ・ブリタニアと供にアッシュフォード学園に通うこと
ユーフェミア・リ・ブリタニアの護衛として、ナイトオブスリーを派遣すること
ナナリー・ヴィ・ブリタニアの護衛として、ナイトオブシックスを派遣すること
皇族二人を保護し養育したアッシュフォードに没収した爵位である伯爵位を再び授けること
純血派の今回の失態を不問とすること
そして、書状に書かれてはいなかったがC.Cの枢機卿就任も今回のことに含まれた。
その内容を聞いて、ナナリーだけでなくユーフェミアまで人質に取られたことをルルーシュは悟ってしまった。
前にルルーシュを閉じ込めていたアッシュフォード学園という鳥籠は、
今度はナナリーとユーフェミアを閉じ込める鳥籠になってしまった。
しかも周りにも本人達にも、それが鳥籠と気付かせないで。
高い継承権も報酬の前渡し、いや前に私達を捨てたと聞いたことに対する償いのつもりか。
そんな風に考えていると、コーネリアが話しかけてきた。
「いきなり高い皇位継承権と、エリア11副総督という地位を与えられて戸惑うのは判るが、
それも、陛下の期待の高さの現われだ。それに恥じぬように職務に励み、このエリア11を衛星エリアに昇格させるのだ」
ルルーシュの様子を見て、コーネリアは過度の期待を受けて緊張しているのだろうと感じ叱咤激励を行った。
「ありがとうございます、姉上」
返答したルルーシュを見て、緊張がほぐれたのだろうと満足そうに頷いて、傍を離れていった。
そして、ルーベンらアッシュフォード一門、ジェレミアら純血派、エリア11の高級官僚、エリア11軍の高官達が
ルルーシュとナナリーに皇族復帰の祝い言葉を捧げながら、この場を解散して行った。
初投稿(09/05/06)
誤字修正・改訂(09/05/07)