夜、C.Cはルルーシュに今日、純血派からの提案とこちらからの提案の説明を掻い摘んで受けていた。
「こちらからの要求は、アッシュフォードの保護と、ナナリーの護衛か」
「そうだ。アッシュフォードには借りがあるし、ナナリーは守らなければならないからな」
「その割には、当のアッシュフォードとナナリーは純血派に対して、懐疑的だぞ」
「仕方ないだろう。それにジェレミア等が忠誠を見せれ続ければ、そこらは解決していくさ」
純血派とアッシュフォード一門、そしてナナリーの間にある微妙な確執を、ルルーシュは気楽に答えた。
ルルーシュは一般民衆を知っているが、理解はしていない。
それは第一の理由として、隣に立ち共に戦った者達、枢木スザク、皇神楽耶、黎星刻。
後ろを守り、手助けした後援者、ルーベン・アッシュフォード、桐原泰三。
前に立ち、敵対してきた者達、シャルル・ジ・ブリタニア、シュナイゼル・エル・ブリタニア、
コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
幸運なことに、この者達はルルーシュの言う”撃たれる覚悟”をしている者達だった。
そして不運なことに、”撃たれる覚悟”が無い一般民衆というのに対等に向き合う機会が無かったのだ。
第二の理由として、アッシュフォードが用意した環境と教育だった。
アッシュフォードがルルーシュに与えた教育は、理想的な皇族としての在り方を身に付かせるものだった。
ブリタニア人にとって、理想的なブリタニア人は皇族であり、理想的な皇族とは皇帝のことである。
これはアッシュフォード一門にとってルルーシュとは自分達の王であり、偶像だったからだ。
それはアッシュフォード学園にも深く影響していた。
ルルーシュの傍に侍る生徒会、これはアッシュフォードによって厳しく選別されて、
人品卑しからぬ能があるもののみが選ばれていた。
アッシュフォード学園という箱庭は、ルルーシュの王国であった。
ルルーシュはアッシュフォード学園の王(皇帝)であり、生徒会はその側近達と言える。
そのため、枢木スザクという新参者が学園で容認されたのはルルーシュが認めたからだ。
ルルーシュはスザクが受けていた嫌がらせをナンバーズだからだと誤解していたが、
ルルーシュという王が、新参者の枢木スザクに格別の寵愛を与え側近として侍っていたから、嫌がらせを受けたものだとも言える。
そして、一般民衆を理解していないルルーシュは、一般民衆というのを理解しているシュナイゼルから、
民衆の代表といえる黒の騎士団との離間の策をうければ、たやすく騎士団は離反する。
それは有る意味、当然のことであった。
C.Cはそんなルルーシュを眺めながら、ふとジノ・ヴァインベルグと出会い、語り合ったことを思い出した。
ゼロレクイエムが行われ、世界が平和になり、その世界を見るために放浪していたC.Cは
同じように放浪していたジノ・ヴァインベルグと遭い、興味を覚えて会話をしたことがあった。
「ジノ・ヴァインベルグ。私のことはC.Cと呼べ」
「何者だ?」
「ルルーシュの共犯者さ」
「先輩の?」
そんな風に自己紹介を行うと、向こうも興味を覚えたのか、むこうも話を聞く体制に入った。
「聞いた話では、お前はルルーシュのことを気に入っていたようだが、なぜ敵対したんだ?」
「ああ、そのことか」
ジノは過去の汚点を指摘されたように、顔を歪めた。
しかし、ルルーシュの共犯者と名乗る浮世離れした雰囲気を持つ少女になにかを感じたのか、当時の心境を語り始めた。
「嫉妬したんだと思う」
「嫉妬? ルルーシュにか?」
「いや、スザクに。先輩に出会って、王に出会ったと思ったんだ。
領土も騎士も何も無い、だけど王だと思ったんだ。先輩のことを。
日本人達はゼロという王に率いられ戦っていた。アーニャはナナリー様のために戦っていたと思う。
そして、スザクは亡きユーフェミア様とナナリー様のため。
自分にもそんな何かが欲しかった。そんな時に先輩と言う王を見つけたと思ったんだ」
「なら何故、馳せ参じて供に戦おうとしなかったんだ? あまつさえ、ビスマルクの反乱にまで加担して」
「あの学園で、ルルーシュ先輩って王を頂いて、それを補佐するリヴァル、騎士の自分、
そんな学園内の王国ごっこが、とても心地よかったんだ。
でも、先輩は皇族じゃない。いつか学園から卒業して王は居なくなり、王国が消える。
だけど、だからこそ先輩は自分だけの王であり、先輩にとって自分だけが唯一の騎士なんだって考えていたんだ」
そして、楽しそうに語っていたジノは、今度は懺悔するように言葉を続けた。
「そして、先輩が皇帝として即位したとき、スザクを自分の騎士として紹介したとき。
何故、自分じゃないんだ。スザクを騎士として紹介したんだ。スザクの居る場所は、自分の居場所なんだって。
そんな風に思えて、自分の居場所を奪ったスザクに嫉妬して、自分を選んでくれなかった先輩を認めたくなかったんだ」
C.Cはこんな時は何も言わないほうが良いと思ったので、単純な相槌のみ打った。
「そうか」
「先輩はこんな自分を、嫌になっていないかな?」
「ルルーシュはそんなことで、お前を嫌ったりしないよ」
「そうかい? ありがとう」
「気にするな。その手の愚痴はルルーシュで慣れてる」
「はは、先輩も弱音を吐く事があったんだ」
C.Cは意地悪く笑いながら、言った。
「今思いおこせば、あいつは弱音ばかり吐いていたよ」
ジノは信じられないって顔をしてから、そして真面目な顔をして言葉を、誰に言うでもなく呟いた。
「もし、やり直すことが出来れば、その時こそ先輩の第一の騎士になりたいな」
そう、今度はジノ・ヴァインベルグが個人で持った妬心を、純血派そしてアッシュフォード一門が持つ可能性もある。
純血派、アッシュフォード一門はルルーシュを王として見出し、主君として仰いだのだから。
そういった意味では、前のアッシュフォード一門と黒の騎士団については運が良かった。
アッシュフォード一門はシャルルによって記憶が改ざんされていた為に、自分達の王を忘れていた。
黒の騎士団は、ゼロと言う王を補佐した扇が最初から居た。
扇は有能ではないが、無能でもない。
自身の才能を良く知っており、だからこそ団員の意見を纏めゼロに過不足無く伝え、
ゼロの指示を団員達に過不足無く噛み砕いて伝えることが出来ていた。
バベルタワーでのゼロ復活から、扇たちの救出までの数日間はゼロが居るにもかかわらず、団員達はゼロの意思を伝え、
ゼロに団員達の意思を伝える者が居ないため、不安に駆られていた。
しかし、扇が救出され、ゼロとの意思疎通がスムーズになると黒の騎士団の運営はスムーズに行われ、
ゼロが居なくとも、ゼロの示した目標に向かって進むことが出来た。
ゼロにとって、扇 要は藤堂 鏡志朗、ディートハルト・リート、紅月カレンといった人物よりも重要で必要な人材であったのだろう。
そして、今回は純血派、アッシュフォード一門といった派閥の意見を調整してルルーシュに進言し、ルルーシュの意思を伝える補佐が
居ないことになる。
それは前に裏切られた黒の騎士団の時と同様のことが自然と起こりえる。
さらにはルルーシュを主君にした者達の内ゲバが発生して、ルルーシュとナナリーを巻き込みながら崩壊していく可能性もある。
「ルルーシュ、やはりアッシュフォードと純血派の意見を取りまとめる調整役が必要だと思うぞ」
「それはルーベンにやってもらおうと思っているが、問題でもあるのか?」
それを聞いて、C.Cは顔を顰めて答えた。
「問題大有りだ。今、お前の取り込んでるものには二つの派閥がある。
軍部を中心とした純血派、お前を保護し養育してきたアッシュフォードだ」
それを聞いてルルーシュ、何を当たり前のことを、と思っていた。
「そして、その意見を纏める調整役が、アッシュフォードと言う派閥の長であった場合、
それは、アッシュフォードに対して有利な、もしくは純血派にとって不利な意見をお前が選択したときに、
ルーベンがお前に取り入って純血派をないがしろにしていると受け取られるのだぞ」
ルルーシュはそんなC.Cの意見を聞いて、安心させるように自分の意見を言った。
「大丈夫だ。ジェレミアの忠義をC.Cだって知っているだろう。
そんな事態になっても、ジェレミアが純血派を纏めてくれるさ」
その意見を聞き、C.Cはルルーシュは純血派という派閥でなく、あくまでジェレミアという個人を見ていると感じた。
しかも、悪いことにルルーシュに忠義を貫いたジェレミアが、純血派を統率しきるだろうと考えている。
オレンジ疑惑でジェレミアが純血派の崩壊を防げなかったことを覚えているのに。
ルルーシュの在りかたは王であり、民衆と言うのをまだ理解していないのだろうと、C.Cは感じた。
二つの派閥の色の付いていない意見調整役を探す必要がある。
ブリタニア人の意見調整だけなら、ディートハルト・リートでも問題ない。いざとなったら、扇 要を強引にでも引き込めば良い。
ルルーシュにとって、藤堂 鏡志朗、紅月カレンは直ぐに換えの効く人材であるが、
扇 要のような人材はなかなか換えが効かない人材であるようだしな。
そんな風にC.Cは考えていた。
初投稿(09/05/04)