草壁は部下から報告を受けていた。
「藤堂が皇族達を襲撃したが、東京の軍は動かずか。ふん、ブリタニアの豚共は忠誠というのが分かってないらしいな」
東京の軍が動かずにいたので、草壁としては少々思惑を外された形になる。
しかし、キョウトからの支援が思った以上にあったことで、正面から叩き潰す事が可能であろうと考える。
「草壁中佐、どうやらゲットー住人は総て租界内の学園で一箇所に集められているようです」
「そうか、潜入した部隊からの報告は以上か?」
あらかじめゲットー内に潜入させていた部隊からの報告で、追加の情報が無いか確認する。
「いえ、思った以上にブリタニアに対する反抗の意思が薄いと報告があります」
「そうか、判った」
報告してきた部下を下がらせ、次の報告を受ける。
「雷光と紅蓮の準備が出来たと報告がありました」
「うむ、そうか」
キョウトより供給された紅蓮と、切り札として持ち込んだ雷光の準備が終わった事で出撃する準備が総て終わり、
日本解放の時が近い事に草壁の精神は高揚していく。
「しかし、よろしかったのですか? 紅蓮と雷光のどちらかでも藤堂中佐にまわせば、更に作戦成功率が上がったのでは?」
「藤堂が、どちらも断ったのだ。雷光は作戦に合わない。紅蓮は一機だけ突出しては連携が取れないとな」
草壁の言葉に、質問を投げかけた部下も納得する。
「なるほど。確かに道理ですね」
「さて、そろそろ紅蓮に乗り込む。各自配置に就け!」
そして、草壁は紅蓮に乗り込むために移動を開始した。
キューエルはゲットー住民の避難が終わったと連絡を受けた直後に、テロリスト達が動き始めたのを確認した。
この事により、ゲットー住人の中にテロリストか、その協力者が紛れ込んでいる事を感じ取る。
だが、逆にテロリスト達がゲットー住人を傷つける意思は無いと、キューエルは判断する事になった。
今、政庁で指揮を取ってるジェレミアがナイトメアに乗らずに後方で指揮を取ってることに、少々の同情を浮かべながら、
ルルーシュより聞いた親衛隊の話を思い出していた。
ジェレミアを隊長として、純血派を中心に親衛隊を結成すると聞いたときは、全身の血が沸き上がったかのように高揚した。
ジェレミアは愚直で融通の利かないところもあったが、そこが評価されたのであろう。
なにより、純血派の中では彼がトップパイロットだからだ。
力あるものが評価される。キューエルはこの考えから、ジェレミアが親衛隊長を行うのは妥当だと思った。
今はジェレミアに及ばぬ自分の未熟を恥じて、研鑽を行えば良いと考える。
そして親衛隊結成の為の手土産として、このテロリストの殲滅は丁度良いとして、キューエルは各部隊にテロリストの殲滅を命じた。
扇は他のメンバーやゲットー住人と一緒に、学園前の広場にテントを張る作業を手伝っていた。
名誉ブリタニア人の軍人達は、怪我人、病人、身重の女性を学園の体育館に連れて行く作業の為に手が足りずに住人からの手伝いを募ったのである。
女性である井上も手伝いを申し込んで、他の手伝いを申し込んだ女性と一緒に体育館に横になれるように毛布を敷く作業を行っている。
これらの作業を総括していたヴィレッタは、思った以上にイレブン達の反発が無い事に驚いていた。
そして、扇が近づいてくるのを視界の端で確認する。
「あの、テントを張るのが終了しました」
扇の報告に、思った以上に早かったな、と考えながら答える。
「ああ、判った。今のところは手伝ってもらう事は無いから休んでてくれ。またイレブン達にもそう伝えてくれ」
「判りました」
いつの間にか、作業を行っているゲットー住人のリーダーになっていた扇に、ヴィレッタは人を纏める才能でもあるのかと考えた。
扇が離れようとした時に、別のイレブンの男が近づき声を掛けてきたので、そちらに振り向く。
「何のようだ?」
そのイレブンにヴィレッタが問いかけた。
「我々の人質になって貰いましょう」
そう言って、男は懐から拳銃を取り出しヴィレッタに突きつける。
虚を突かれたヴィレッタは、拳銃を突きつけられた時に何も出来ずにいた。
視線を動かすと、ヴィレッタと同様にイレブンに拳銃を突きつけられているブリタニア軍人が目に入る。
何名かのイレブンが荷物からライフルを取り出し、装備しているのも見えて身体検査と荷物の検査を行わなかった事を後悔した。
ライフルを装備した一人が銃口をヴィレッタに向け、ヴィレッタに拳銃を向けていた男が置いてあった拡声器を掴み、ゲットー住人に語りかける。
「我々は日本解放戦線である!」
その言葉に住民達はざわつく。
「我々は日本解放の為に立ち上がったのだ! 日本人諸君! 日本解放の為に力を貸して欲しい! 共にブリタニアを打倒しよう!」
この言葉を受けても、ゲットー住人の反応は鈍い。
男は熱狂的にゲットー住人が立ち上がり、日本解放の為に共に戦ってくれると信じていたのだったから、不思議に思い、更に言葉を連ねた。
扇に向かって、他の扇グループのメンバーが歩いてきた。
日本解放戦線は、軍人達は警戒してるがゲットー住人のことは特に意識していないようだった。
「どうするんだ? 扇」
代表して問い掛けられた南の言葉に、扇は苦悩する。
その扇に玉城は声を掛ける。
「気楽に考えろよ。どんな答えを出しても俺達は従うぜ。お前は俺達のリーダーだからな」
その言葉を受けて、扇は目を瞑って考える。
扇の中に、先ほどの日本解放戦線の言葉、避難所での住人の言葉、スザクの言葉が駆け巡る。
「俺は……」
扇は躊躇いがちに声を出した。
「俺は、新宿のみんなに傷ついて欲しくない」
その言葉にメンバーは笑いながら頷く。
「判った。玉城はあっちを。吉田は向こうを。杉山はあそこを頼む。俺はこっちをやる」
扇の言葉を受けた南がメンバーに指示を出す。
「扇はそこで演説してる馬鹿を頼む」
扇は南の言葉を聞き、頷いた。
そして、それぞれが行動を開始する。
男は日本人が一人自分に向かって歩いて来るのを見て、演説を止める。
「なあ、日本解放戦線は新宿の住人に武器を持って戦う事を期待してるのか?」
扇の言葉に、男は頷く。
「そうだ。日本解放の為に、共に戦って欲しいのだ」
「住人は戸惑ってるようだが?」
扇は男に話しかけながら、メンバーが移動するのを確認する。
「今は困惑しているが、日本解放の悲願の為に直に立ち上がってくれる」
「そうか……」
メンバー全員が配置に就いたのを見て、扇は言葉を切り男に近づく。
2メートル手前まで移動して、扇は立ち止まる。
その様子に、男は扇が共に立ち上がるのかと期待する。
一人が率先して立ち上がれば、続けて住人達も立ち上がるだろうと男は考え、扇のアクションを待つ。
「うおおぉぉぉぉ」
いきなり扇がタックルを行ったので、男は完全に虚を突かれて地面に押し倒された。
扇の咆哮と同時にメンバーも日本解放戦線を襲う。
しかし、扇の行動に最もすばやく対応したのがヴィレッタだった。
自分に銃口を向けている男を打ち倒し、軍人達を一喝する。
「テロリスト共を取り押さえろ!」
ヴィレッタの一喝を聞いて、ブリタニア人と名誉ブリタニア人の軍人達は一斉に動き出す。
また、ゲットー住人達も一緒に日本解放戦線のメンバーに組み付いたりして、動き出す。
いきなり、ゲットー住人に襲われた日本解放戦線メンバーは戸惑いとともに、発砲して良いのかを迷って取り押さえられていった。
初投稿(09/06/01)
改訂・誤字修正(09/06/18)