護衛の一人であるヴィレッタが突然、「イレブン!」と叫んだことによってナナリーは軍人の護衛が緊張するのを感じた。
しかし、兄であるルルーシュやその友のスザクからは危機が迫ったときの緊張は感じられなかった。
同じくアリスとダルクも身構えた気配を感じなかった。この事にナナリーは日本人が近づき、軍人が過剰反応したのだろうと判断した。
そして、日本人から「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、枢木スザク」と、兄とその友の名が呟かれたのを聞いた。
その声には敬愛も忠誠も思慕も、憎悪も嫉妬も嫌悪も無かった。ただ二人が居る事の事実を言葉にしただけの声だった。
ナナリーはヴィレッタが日本人をイレブンと呼んだ事に対しての謝罪を行おうと声を掛けた。
「日本人の方ですね。いきなりイレブンなどと叫んでしまい申し訳ありません」
そのナナリーの謝罪に扇は恐縮しながら答えた。
「いえ、俺達がイレブンなのは違いないですから謝る事は無いです。むしろ、謝られてしまうと、こちらが困ってしまいます」
その答えに、相手が気を害していない事を感じてナナリーは言った。
「そうなのでしたか。こちらの無作法を許してくださり、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ気を使って頂いて、申し訳ないです」
扇が更に申し訳なさそうに言いながら、頭を下げたが相手の目が見えないことを思い出して、何となく気まずい思いをした。
「カレンも彼らと会うのは久しぶりのようだし、ここの住人から現状を聞くのも悪くないな。ヴィレッタ、近くにこの人数で休める場所は無いか?」
ルルーシュが場を収めるように発言し、質問されたヴィレッタも直に回答した。
「なら、近くに公営の食堂がありましたから、そこに参りましょう。
おい、先に食堂に行き事情を説明して、受け入れる準備をしろ」
「Yes, My Lord」
命令を受けた兵士はすぐさま、行動を開始した。
「じゃあ、詳しい話は食堂で行おう」
そう言って、ルルーシュは率先して移動を開始した。
「あっは~」
ロイドは機嫌良く、C.Cのランスロットのシミュレータの結果を見ていた。
「スザク君ほどじゃないけど、かなり高い適合率ですね」
セシルもその結果を見て、驚きながら呟いた。
「C.C様~。ランスロットの予備パーツでもう一台作りますから、パイロットやりません?」
ロイドの発言にC.Cは適当に答えた。
「やっても構わんが、私には金が無いぞ」
C.Cのぶっちゃけた言葉は、ロイドに自制を促した。
「あちゃあ、確かにもう一台作ってもお金が無いんじゃ、意味無いよなぁ。本当にお金ないの? 皇帝ちゃんの次くらいに偉いんでしょ?」
「ちょっと、ロイドさん!」
ロイドのあまりに無礼な物言いにセシルは慌ててロイドを静止した。
「まったく無いな。ピザもルルーシュの金で注文してるからな」
「んじゃ、そのルルーシュ様におねだり出来ないかなぁ」
しかし、止まらないC.Cとロイドのやり取りに、セシルは諦めてしまった。
「もう、どうなっても知りませんよ」
そう言ってセシルはC.Cのデータをガウェインのシミュレータに打ち込んでいった。
「別にルルーシュに頼んでも良いが、お前達はシュナイゼルの管轄だろう。お門違いだ」
「まぁ、そうなんですけどねぇ。はぁ、シュナイゼル様がスポンサーってだけで、アッシュフォードのデータは貰い損ねるは、
機密情報局のナイトメアは触れないは、オマケにエリア11での開発費にも困窮するはで、良いこと無いなぁ。
いっそのこと、ルルーシュ様かコーネリア様に鞍替えした方が無難かなぁ」
そのロイドの物言いに、流石にセシルも無視できずに注意をした。
「ロイドさん! 馬鹿なこと言ってないで、お仕事をしてください」
「あー、ごめんなさい、ごめんなさい。今やります」
C.Cはいずれ敵対するかもしれないシュナイゼルの手札を減らす事も悪い手でない、と考えて今夜ルルーシュにそれを告げることにした。
一同が食堂に付いた所で、ルルーシュが早速、自己紹介を行った。
「今更、自己紹介するのもおかしいが、一応やっておこう。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。このエリア11の副総督をしている」
ルルーシュを皮切りに、それぞれが自己紹介を行った。
そして、扇と玉城もまた自己紹介を行った。
「扇 要と言います」
「玉城真一郎だ。よろしくな」
そして、ルルーシュとユーフェミアが中心となって、ゲットーの生活について質問を開始した。
「お~い、スザク。このお茶、やけに焦げ臭いぞ。淹れるの失敗してないか?」
「ジノ。それは麦茶といって、そういうお茶なんだよ」
「ふ~ん。イレブンの庶民は変な物を飲んでいるんだな」
「それが文化の違いだよ」
ジノが食堂にある日本の飲食物に興味を持って、いろいろとスザクに聞いていた。
「あ、お漬物。懐かしい」
カレンはここ数年見る事の出来なかった食物に懐かしさを感じていた。
そんなカレンの様子に、ジノが質問した。
「そういえば、カレンは何でイレブンと知り合いなんだ? しかもここにあるのを懐かしいなんて言うし」
「私は戦前から、生まれてからずっと、ここで暮らしているから」
カレンの答えに、ジノは納得をした。
「なるほど、じゃ、イレブンとも知り合いなのも納得がいった」
そして、真実を知っているスザクは苦く微笑む事しか出来なかった。
「スザク君、ちょっと良いかな?」
扇はスザクに話しかけた。
スザクはさっきまで扇と話していたルルーシュを見ると、今度は玉城に集中的に質問してるのが見えた。
「なんでしょう。扇さん」
スザクが受け答えしたので、扇は自分の中の疑問をスザクにぶつけてみた。
「君はブリタニアが憎くないのか? どうして、副総督の下で働く事が出来るんだ?」
その質問にスザクは苦笑いしながら答えた。
「ブリタニアが憎いか、憎くないかで答えれば、多分憎んでるんだと思います。
でも、僕にはそれよりも大事なものがありますから、それを選んだだけです」
そう言って、スザクはルルーシュと共に玉城に質問しているユーフェミアを見つめた。
「そうか」
その答えに、扇は藤堂の語ったスザク像と重なり彼の答えを納得と共に受け入れていた。
扇は最近のルルーシュの政策によってゲットーが豊かになり、抵抗活動は無意味なんじゃないかと感じ始めていた。
そして、扇は心の中にある疑問を晴らすべく、スザクに聞いた。
「なぁ、日本人ってなんだと思う?」
その質問を聞いたとき、スザクは呆然としてしまった。
スザクにとって、目の前に居る扇は最初からゼロ(ルルーシュ)と共に日本解放の為に戦ってきた男だった。
しかも、日本解放の為にゼロ(ルルーシュ)を裏切った男でもあった。
だからスザクにとって、扇は誰よりも日本人である事を知っているはずであり、日本を知ってなければならない男だった。
そして、呆然と見つめる扇の瞳に、迷いが浮かんでるのをスザクは感じ取ってしまった。
「僕は前にルルーシュから、「日本人とは、なんだ?」と聞かれたことがありました」
100万人のゼロの脱出のことを思い出しながら、扇に向かってスザクは自然と言葉を紡いでいた。
「その時、僕は「日本人とは心だ」と答えました」
その言葉に扇は真剣に耳を傾けていた。
「僕は今、名誉ブリタニア人かもしれない。貴方もイレブンかもしれない。
でも、日本人の心を持っていれば、僕達は日本人なんです」
スザクの言葉は、扇の中に染み込んでいった。そして、自分の中にあった拘りが溶けていくのを感じた。
「そうか、質問に答えてくれて、ありがとう」
扇は、スザクに礼を言った
そろそろ場を解散させようとした時に、ナナリーは扇と玉城に言った。
「お二人とも、私は目が見えませんから、お手を拝借してもよろしいですか?」
そう言って、ナナリーは二人に手を差し伸べた。
その行動に二人は面食らって、ぎこちなく合意した。
「ああ。構わない」
「おうよ。問題ないぜ」
二人の同意が出たが、隣からSTOPが掛かった。
「ちょっと、ナナリー。二人の手に触るのをちょっと待ちなさいよ」
アリスはそう言って、厨房から濡れタオルを持ってきた。
「二人とも、そのタオルで手を綺麗にしてからナナリーに触れなさいよ!」
その一方的な物言いに、玉城が食って掛かった。
「なんだと! 俺達はバイ菌かよ!」
そんな玉城をジノが宥めた。
「まあまあ、彼女達は思春期なのだから、大目に見てくれたまえ」
その物言いに、玉城は毒気を抜かれ、扇は苦笑いをしてしまった。
そして、二人は手を濡れタオルでよく拭いてから、ナナリーと握手をした。
「これで、お二人は私のお友達ですね。何か困った事があったら、何なりと頼ってくださいね」
そのナナリーの言葉に、扇と玉城は照れてしまった。
初投稿(09/05/27)