ジェレミアは純血派に宛がわれた格納庫の中で、出撃の準備をしながら満足していた。
今回のサイタマゲットーでのテロリスト殲滅作戦に参加するルルーシュの直衛となる。
そうルルーシュの初陣に直参として、従軍するのだ。
そのことは、純血派内で高揚と共に名誉なこととして受け止められていた。
そして、準備を行っていると手が空いてしまい。手持ち無沙汰になってしまった。
ジェレミアは同じように手が空いてしまったキューエルに話しかけた。
「キューエルよ、とうとう殿下の下で戦う日が来たな」
キューエルも高揚した気分を誰かと、共感したいと考えていたのか、会話に乗ってきた。
「そうだな。しかも殿下の初陣に我ら純血派が、殿下の直衛として参加するのだ。
ただ、特派のイレブンが共に殿下の直衛なのが気になるがな」
「まあ、そう言うな。殿下がエリア11に居たときの友なのだ。
しかも、殿下のために誇りを捨て、我ら、ブリタニアに下ったのだ。多少は寛容に扱ってやるのが礼儀だろう」
ジェレミアはキューエルを窘めたが、名誉ブリタニア人が軍に居ることに対する侮蔑は隠さなかった。
「ふん、ならば文官として殿下に御仕えすれば良いものを」
キューエルはそう言って、鼻で笑った。
純血派は軍の名誉ブリタニア人やナンバーズのテロリストには評判は悪いが、それ以外では悪評は立っていない。
それは、純血派の考えが、兵役を高貴なる義務として捉えているからだ。
欧州では、市民が政治に参加するための権利として兵役があると考えられている。
純血派の考えもこれに近く、ナンバーズの上に立つブリタニア人のみが高貴なる義務としての軍務に就くことが正しいと考えていた。
この考えは、古い貴族から見ると貴族の権利を侵害している思われていた。
ブリタニア軍は騎士至上主義であり、その為に貴族の高貴なる義務としての軍務であるという考えが色濃く残っている。
その為に純血派は、高貴なる義務としての軍務をブリタニア人全体に拡大したリベラルな若手将校の派閥として、受け止められていた。
しかし、第98代皇帝シャルルの植民地政策によって軍が急速に拡大し、その補充が間に合わないための名誉ブリタニア人制度が発生した。
この歪みの為に、リベラルな派閥としての純血派は、名誉ブリタニア人とナンバーズによって、保守的な派閥と誤解されていたのであった。
キューエルは今回の作戦にヴィレッタの姿がないことを思い出し、ジェレミアに問いかけた。
「ジェレミアよ。今回の作戦にヴィレッタの姿がないのは、やはりナナリー皇女殿下の護衛のためか?」
「うむ、流石にナイトオブシックスが護衛についているといっても、一人では手が足りないらしくてな」
ジェレミアの言葉を聞き、キューエルはしばし考えてから、ジェレミアに意見した。
「我らの姫君のためにも、ヴァルキュリエ隊のように女性だけで構成された部隊を設立するのを上申したらどうだ?」
「我らの姫君か、ナナリー皇女殿下を指し示すには良い言葉だな」
そんなジェレミアのようにキューエルは苛立った様に声をかけた。
「おい、ふざけてる場合ではないぞ」
キューエルの声を聞き、ジェレミアは慌てて謝罪した。
「すまん」
そして、ジェレミアはキューエルの意見を検討し始めた。
ナナリー皇女殿下のように、繊細で儚げな方の傍に無骨な軍人を置くのは、かの姫君には辛いであろう。
また、ナナリー皇女殿下はユーフェミア皇女殿下と一緒に、アッシュフォードで学業に専念しておられる。
なれば、ヴィレッタを中心として同性の護衛部隊を編成し、お二方の護衛を担当するのが良いだろう。
「キューエルよ、良い考えだな。この戦いが終わったら、コーネリア総督とルルーシュ副総督に上申しよう」
ジェレミアはキューエルに上申することを約束した。
ルルーシュはG1ベースの中で悩んでいた。
今回のコーネリアの作戦はゼロを誘き出すための作戦で、その為にシンジュクゲットーと同じ状況を作り出すことになってる。
現れるはずの無い自分を誘い出すためだけに、サイタマゲットーの住人達を殺そうというのだ。
基本的にゲットーの住人は、余程の事が無い限りレジスタンスをブリタニアへ通報することが無い。
これは大多数の日本人達が選んだ消極的な抵抗活動だった。
黒の騎士団は正義の味方の看板を掲げることによって、名誉ブリタニア人と主義者のブリタニア人も取り込んだことによって、
活動範囲を広げていったのだった。
このサイタマゲットーで、レジスタンス達を通報しないことで反政府活動の支援者として殺そうとしている。
前にギアスが暴走し、ユーフェミアが日本人の虐殺を行ったときと同じく、自分のせいで、また虐殺が起ころうとしている。
ルルーシュはサイタマゲットーの虐殺を回避しようと思考していた。
コーネリアもまた、G1ベースの中で悩んでいた。
今までのゼロの情報を整理すると以下になる。
ブリタニアとブリタニア皇族に恨みを持つもの。
プライドが高い。
シンジュク事変でテロリストという弱兵を率いて、クロヴィスが率いるブリタニア軍を手駒に取れるほどの、知略がある。
ブリタニア人であること。
枢木スザクを危険を冒してまで、助け出すことに意味を持つもの。
周到に隠されていたルルーシュとナナリーの所在を知ることが出来るもの。
一つ一つに該当する人間は多いが、この総てに該当する人間は一人しか居ない。
そして、その人間は今、このG1ベースに居る
コーネリアはここまで考えて、ふと機密情報局について思い出していた。
機密情報局は皇帝直属の機関で、主にルルーシュとナナリーの監視と護衛を行っている組織だ。
そう、7年前から現在も監視と護衛を行っている。
シンジュク事変が起こり、クロヴィス暗殺の時もルルーシュを監視していたはずだ。
そこでコーネリアは戦慄した。
自分の兵を持たず、テロリストという弱兵を即興で率い、そしてクロヴィスが指揮した正規軍に勝利し、クロヴィス暗殺まで行う。
他者と競い、奪い合うことを肯定する陛下が、ルルーシュの行ったことを知ったら、どうなる。
クロヴィスはルルーシュと競い、奪い合って負けた。そう考えるだろう。
そして、奪い合いに負けたのだから、クロヴィスはルルーシュに総てを奪われなければならない。
皇位継承者、そしてエリア11総督としての地位と力をクロヴィスからルルーシュへ。
ルルーシュがクロヴィスの後釜として第5皇位継承者、エリア11副総督になったのは陛下の贔屓でなく、
陛下にとって、当然の報酬だったのだろう。
ルルーシュがゼロであることを、皇帝は知っている。
だが処罰しないということは、皇位継承にまつわる争いの一種として許容してるのだろう。
今日の軍事作戦を行っても、C.Cの言った通りにゼロは現れない。
ゼロは、ここに居るのだから、現れようが無い。
コーネリアはしばし躊躇してから、自室にルルーシュを呼び出した。
初投稿(09/05/15)