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No.8355の一覧
[0] 焔と鉄の神サマ (トウヤのホムラ 想いはいつも線香花火 風の聖痕 etc クロス) ※更新打ち切りのお知らせ[SRW](2010/08/01 20:46)
[1] 十年振りの再会[SRW](2009/05/02 19:01)
[2] 東哉と<船津>  [SRW](2009/05/03 17:25)
[3] 『久し振り』[SRW](2009/05/10 10:58)
[4] 炎の翼と大剣[SRW](2009/05/19 18:13)
[5] 出会う[SRW](2009/05/20 10:16)
[6] 彼女の『願い』[SRW](2009/05/26 00:50)
[7] 【眷属】(修正)[SRW](2009/08/15 19:50)
[8] 襲撃者[SRW](2009/06/21 19:19)
[9] 【暮羽黒】[SRW](2009/06/21 17:19)
[10] 火神の檻[SRW](2009/07/16 00:01)
[11] 誠慈という少年・芳樹という少年[SRW](2009/08/31 23:57)
[12] 強襲、<船津>一族[SRW](2009/09/05 23:42)
[13] 二千年越しの決着[SRW](2009/09/12 14:50)
[14] そして彼らは旅立つ[SRW](2009/09/13 03:51)
[15] 天津芳樹の日記[SRW](2009/09/22 23:16)
[16] 線香花火は大輪の花火となれるか? その一[SRW](2009/10/01 16:17)
[17] 線香花火は大輪の花火となれるか? その二[SRW](2009/10/23 20:18)
[18] 更新打ち切りのお知らせ[SRW](2010/08/01 20:45)
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[8355] 焔と鉄の神サマ (トウヤのホムラ 想いはいつも線香花火 風の聖痕 etc クロス) ※更新打ち切りのお知らせ
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40 次を表示する
Date: 2010/08/01 20:46
 
 少女は見た。

 その少年が火を操る姿を。


 ――なんて綺麗なんだろう。


 その時の少女には、それしか頭になかった。

 容赦も躊躇も無く、少年は自分を殺そうとした男を燃やした少年。

 こちらのことなど一切興味が無いとばかりに、少年は男を炎の弾丸で吹き飛ばす。

 吹き飛ぶ先は、先程自分たちが上ってきた石畳。

 ゴロゴロと男の身体が階下に消えていく。

「まったく。人の安眠、妨害しやがって……」

 そうぶつくさと文句を言いながら少年は社へ帰っていく。

「あ、あの……!」

 その背中に当時七つの麻里(まり)は声をかける。

 だが、自分が何を言いたいのかが判らなくなってしまう。

 そんな自分に、少年は一度だけ立ち止まり、素っ気無く言葉を投げかけてくれた。

「……折角拾った命だ。大事に使え」

 それだけ言うと、少年は今度こそ振り返ることなく社へ戻っていった。

 それから少しして、自分を助けに来た者たちがやって来た。誰もが麻里の無事に安堵の溜息をこぼす。

 抱えられて社を後にする時に、この社に住んでいる少年のことを聞いても、誰もそれを話してくれず、ただ「近寄ってはいけない」とばかり繰り返すのみだった。

 後日、麻里は少年の『正体』を知る。

 船津東哉(ふなつとうや)。

 自分の従兄妹。

 自分と同じ、<船津>の直系の少年。

 しかし、水の神・大水那津見神(おほみなつみのかみ)を信奉する<船津>一族の直系でありながら、かつて<船津>に敗れた<天津>一族が信奉していた炎の神・阿須迦鳥多訶神(アスカトリタカノカミ)の化身。

 それ故に、大人たちは確証も無いのに、東哉が<船津>を滅ぼす厄病神だと子供たちに教えた。

 実際、東哉の父は<船津>を裏切って、当時敵対していた組織の女と駆け落ちした。一族の秘宝やら情報やらを売買して得た金を片手に。

 誰もが東哉を<船津>の人間だと思わなかった。ただ<船津>に生まれただけの悪霊だとさえ嘯く者もいた。

 だが、麻里だけはその言葉を信じなかった。どんなに表面では従っていても年に数度逢う東哉を見つめ続けた。

 友人である莉柘でさえ、敵意に満ちた視線で東哉を睨んでいたのに、だ。

 だからこそ、麻里は東哉に近付けなかった。自分の周囲には人が集まる。その者たちは、東哉に罵詈雑言を投げ掛ける者がほとんどだったからだ。




 そんな日々が十年続いた。

 そして、事件が起きる。

 神域である草那藝山(くさなぎやま)の鳴動。

 それは古い文献によると災厄の前兆とされている。

 麻里は思う。

 『この機』を逃せば、自分の『夢』は泡沫と消える。

 ならば、覚悟を決めよう。

 愛する人に殺意と憎悪で睨まれてでも成し遂げる覚悟を。

 他ならぬ、『彼』のために。

 さあ、<船津>全てを相手取った『戦い』を始めよう。



         *



 『禊(みそぎ)』というものがある。

 身を殺いで、自身の穢れを消し去る儀式。

 彼の身体を炎が『焼いて』いく。

 本来ならば水を被る行為を指すのだが、東哉は火の神。水ではなく炎の方が性に合っていた。

 船津東哉は今現在、数百回、いや、数千回目の『それ』を行っている。

 自分の胸に埋められた紅い宝玉。それを破壊するために、炎を全身に纏い、血を『焼いて』いく。自分の中に流れる<船津>の血そのものを。

 何年も自分を<船津>に縛り付けている宝玉である。それの在り様など把握済みだ。

 これは、自分の<船津>としての血を使って中毒症状を引き起こさせる。

 ならば、自分の中に在る『<船津>の血』全てが無くなればどうだろうか?

 そんな些細な疑問から、東哉は禊を始めた。

 すると、自身に流れる『<船津>の血』が少なくなる度に、自分を縛っていた『力』が弱体化するのが感じられた。

 それ以来、東哉は積極的に勉強し始めた。

 遠くない未来、自分は自由になれるのだ。ならば今の内からこの社会のことを学んでいた方がいいだろう。そう考えての行動だった。

 様々な本を世話役である叔母に頼んで持ってきて貰い、それを読み漁る。

 時折ここに無断で来る従兄弟の誠慈には、娯楽として漫画や小説を頼んでもいる。

 全ては、自分の素晴らしい未来への投資。

 故に東哉は気にしない。

 <船津>の思惑など。

 無断でここに来る誠慈の策略など。

 路傍の石以下にしか思っていない。

 だが、手を出すようならば容赦はしない。それだけだ。

 


 禊が終わり、炎が収まる。

 ゆっくりと掌に小さな炎を生み出す。

 徐々に熱量が増大していく。炎は上限無く温度を上げ続ける。

 そして、炎が鉄へと変わり、巨大な炎を模した両刃の剣に変化する。

 それを皮切りに、様々な紅い武器が東哉を周囲に生み出されては消えていく。

 確信する。



 ――これで、俺は自由だ。



 胸に在る紅玉に手を伸ばす。

 ミシリと嫌な音と痛みが走るが気にせず、引き抜く。

 血が吹き出るが、自分は死んでいない。その傷も徐々に塞がっていく。

 掌には、血塗れの紅い玉。

「……これで、俺は……」

 笑う。

 心から東哉は笑う。

 いつまでもいつまでも、東哉は笑い続けていた。

 

(作者)

つい懐かしくなって書いてしまった。

多分、続かないでしょう。



 


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