+ エルフのエメアさん。 たき火に映える金糸の髪って、まぁ凄い。 と言うか、廃墟に佇む美少女。 凄い絵になる。 写真にしたい。 無いけど。 というか、人じゃなくてエルフか。 美少女エルフ。 美少女? 美少女美少女。 ご長寿種族相手に年齢は言うだけ野暮っぽいので、美少女で良いでしょう。 多分。 自己紹介を交わす。 それから幾ばくかの情報交換をする。 俺たちは神託を受けて旅をしている事を、そして天槍山脈を<黒>が突破した事を。 だが、その事へのエメアさんの反応は1言であった。「で、あるか」 実にアッサリな反応である。 尚、そんなエメアさんだが、この場に居たのは星を詠んだのだと言う。「読む?」「然り。星の歌を詠み、此処に居る」 何ぞ意味と意図(ニアンス)が違うっぽい言葉が交差している感じである。 良く分らん。 とも角、星空の神族のナニカを感じて此処に来たらしい。 ですよね?「然り」 受け答えといい表情といい何というか、超然とした感じである。 可愛いけど女の子的と言う表現は似つかわしく思えない。 妖精、精霊? それらを指す言葉としてのエルフ的って事かもしれない。 とも角、情報交換をっとした時だった。きゅりゅる 可愛いくも大きな腹の虫を鳴かせたのは。 しろがねが。 見ると、少しだけ情け無さそうな顔をしている様に見えた。 可愛い奴である。 ガタイは小さな馬並だけれども。 撫でてやる。 そうだよな、飯の直前にコッチに来たんで腹が減るよな。「申し訳ないがエメアさん、都合に問題が無ければ俺らのキャンプ地に来てもらえないかな? 食事の用意がまだならもてなすよ?」 飯を食ってから話そうという提案に、頷いて貰えた。「空腹であるか」 しろがねを見て少し笑った。 撫でた。 その小さな手をペロペロとしろがねが舐める。「であれば否が応もない」異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント3-02旅は道ずれ世は情け。それが可愛い娘さんだともう最高! 馬車の所へと戻った。 ドンは呑気に飼葉を食べていた。 しろがねが少しだけ、羨ましそうな顔で見た。 ドン、しろがねを見てゲップ。 イッーっと歯を見せるしろがね。 ドン、そのまま飼葉桶に顔を突っ込む。 お前ら、仲が良いのか悪いのか。 しろがね、情け無さそうな顔で俺を見て来る。 犬だ。 もはや<黒>時代の名残りはおろか、野生の欠片すらない。 狼ですらない。 君、戦獣だよね? イヌ科の頂点っぽい場所に居る、戦野を走る<黒>の先兵だったよね? 可愛いから良いけど。 先ずは腹ペコのしろがね向けの食事を用意する。 肉に塩を振って、後は野菜も。 元気よくがっつきだす。 で、後は人間様&エルフ様向けだ。 パンを追加で焼いて、肉野菜と汁物を用意する。 っと、エメアさんに確認。「食べられないものってあります?」「あらじ」 なら良し。 エルフって創作物とかだと菜食主義者だったりするからね。 パンを上品に齧ってるエメアさん。「お味はどう? 口に合えば良いが」「久方ぶりの味である。旨し」 何というか、凄い口調であるけども、言ってる内容は判りやすい。 後、割合に表情が素直だ。「エメア様、久方ぶりって?」 様付けか、エミリオ。 ま、神話とかも好きだしな。「食事である」「た、食べなくても大丈夫だったんですか!?」 驚きである。「然り。我らは半精霊(ハイ・エルフ)故、汝ら人族程に食事を要とはせぬ」 確かハイ・エルフってエルフ族の祖であり、初族と呼ばれる神に最初に生み出された種族の1つなので、その程度は普通なのかもだ。「凄いです」 それな。 生物としての種類(カテゴリー)が違うと言うよりも段位(ステージ)が違うってな塩梅で。 因みにエルフは、人間やその他の種族との交配(!)によって生まれた、ある意味で雑種との事だ。 ある意味でハーフ・エルフがエルフなのだろう。 うむ、雑種として生まれてその後、形質が固定化された存在が一般のエルフか。 そう言えば、“ハーフ・エルフ”って言葉を聞いた事が無いな。「そう生まれただけ故」 そんなハイ・エルフとたき火を囲んで飯を食うとか、トールデェ王国じゃ思いつかなかったわ。 実に見と魔法なRPG(ファンタジィ)感、旅に出た気分がするわ。 凄いぜファンタジー! 剣と魔法(サツバツ)とドワーフ(おっさん)よりも、やっぱりエルフだよね。 正しくファンタジー! 雑談をしながら食事。 口調からすると意外な風にも見えるが、エメアさんはお喋り好きだった。 否、好きかどうかは兎も角、話はしてくれる人であった。 さて、食後の黒茶を振る舞えば、流石に話題が戻る。 と言うか、さっきからエメアさんに積極的にエミリオが話し掛けている。「エメア様、ここに居たブレルニルダの神官の方々を知りませんか?」「知らじ。我が入たし時には既に居らじ」 聞けば、エメアさんがこの廃都へ来たのは約2ヶ月程前。 その時には既に、人は居なかったと言う。 このブレルニルダ神殿の荒れ具合から見ても、その言葉に誤りは無いだろう。 謎は依然、謎のまま、か。「<黒>は見てませんよね?」「見らじ。気配も感じず」 謎だ。 ミリエレナを見れば、眉を寄せている。 悩んでいる? ん、ご機嫌斜めっぽい。 ビミョーっに膨れっ面? 半眼っぽい感じでエメアさんではなく、エミリオを見ている。 おや、おやおやおやおや。 そうねそうね。 何時も何時もミリエレナ様ミリエレナ様と言ってたエミリオが、エメア様エメア様だからか? ん、んん♪ チョイとお兄さん、楽しく成って来たよ。 いやいや、これはこれは。 見る所、神話だの英雄譚だのが大好きなエミリオは神話の世界の住人だったっぽいエメアさんを見て、ミーハーっぽくハッスルしているだけっぽい。 対してミリエレナに対しては、アレだ、恋とかまでは行かないまでも、スゴイレベルで親愛を感じているが見て取れる。 対してミリエレナの気持ちは何だろう。 自分になついていたエミリオへの執着? 愛? 何だろう。 どっちだろう。 実に楽しい。 アルコールのツマミに最適だ。 飲みたいなぁ。 こんなに楽しい時に飲めないなんて、何て残念。 顔に差す朝日で目が覚めた。 朝。 良く寝た。 荒れてはいてもブレルニルダの神殿、詰めていた人向けの寝具があるので寝心地良かった。 地べたで寝るのは、マットレスを敷くとは疲れる。「あぁ、あー」 快適快眠。 まともな寝具と夜露を凌げる屋根のある場所。 最高じゃね。 身体を動かしてみる。 みた。 実に良い。 と、部屋部屋の隅を見ればしろがねが外を睨んでいた。「どうした?」 声を掛ける。 外を睨んでいる。 何かあったか? ドンが粗相をしたのか? と開けっ放しな窓から外を見れば、居た。 居る。 羽根の生えたデカい奴が。「!」 バケモノだ。 巨人とか比べ物にならないバケモノが居る。 竜か、竜種か!?「っぅぉっ!?」 声を洩らしそうになった口を塞いで慌てて屈む。 心臓がばっくんばっくん言いやがる。 おいおいおい。 エルフでファンタジー実感だが、竜はファンタジー(ビックリドッキリ)過ぎるだろうが。 くそ、エミリオとミリエレナを逃がさないとヤヴェな。 エメアさんはどうした。 糞、つか………どうするよ、コレ。 この状況。「あ、ビクターさん。おはようございます」 パニくってたら、エミリオが窓から顔を出してきた。「あ? あぁ、おはよう!?」 慌ててる風も、驚いている風も、そもそも緊張感も無い。 否。 目が輝いてやがる。「凄いですよ! 竜ですよ!!」 ダヨネー スゴイヨネー 見上げる竜。 おおよそで10m級かその辺りのデカさ。 凄いわ。 羽根付き羽毛付きの蜥蜴ってか爬虫類っぽいバケモノ様だ。 初めて見た。「エメア様の使い魔で“アンクー”だそうです」「アンクーね、凄いな」 それ以外に何を言え、と。 エミリオ曰く。 アンクーは竜族であるという。 エメアさんの木精霊(ハイ・エルフ)族と同じ初族であり、始まりの神の御代に大地の調整を担った竜族の子供なのだという。 そして、縁あってエメアさんの守護になっているのだという。 色々と規格外なのは判った。 エメアさんが凄い人だという事も納得しよう。 だが、それ以上にエミリオのコミュニケーション能力に驚きを覚える今日この頃。 物怖じしないって性格だけど、にしても凄いわ。 朝飯は、夕べの残り物で済ますのが普通。 特に汁物系はね。 とは言え、栄養バランスは考えて、主食副菜汁物っと揃えている。 揃えたいのは俺の我儘(ジャパン=ソウル)だな。 飯は調理担当が絶対権力者なのである。 とも角、朝飯の準備が要らないから身体を動かす。 鍛錬だ。 動かしてないと面倒になってくるし鈍って来るからね。 エミリオも参加して素振りをしたり、木剣で打ち合ったり。 ミリエレナも、途中から参加してくる。 彼女の場合、サボっているのではなく朝が弱いからだ。 常在戦場(オールウェイズ・オン・デッキ)が合言葉ちっくなブレルニルダの神官さんも、体質には勝てない。 勝てなかったよとばかりにダブルピースで入眠しているのだ。 で、打ち合いの音で目が覚めて気合が入る。 鉄火の響きで気合が入ると思えば、やっぱり人として少しおかしい。 飯のにおいで起きるならまだしも。 そんな朝の鍛錬。 そう言えば、打ち合いではエミリオは良い動きをする様になってきた。 何というか前は、素地こそ良かったけど柔軟性、状況変化への対応力が弱かったけど、最近は対応しようとしてくる。 実戦経験ってこういう風に人を育てるのだな。 感心する。「元気が良いな」 と、打ち合ってたらエメアさんが出て来た。「ああ、どうも。おはようございます」「汝ら元気であるな」「これが本業なんで」「であるか」 戦闘が本業だよ。 飯の支度やら何やらやるからって、給仕でも無ければ飯炊きでもないし、下男でも無いのだ。 護衛(コンバット・エリート)様だ。 とは言え、2人が世間ずれしてないんで、戦闘その他1式丸っと面倒見る(世間から護る)事になっている辺り雑役婦(夫)と言われても否定し辛い所がある。 給料が良いから、良いけどね。 所でミリエレナが起きて来ない。 夕べ、微妙に頬を膨らませてた(ぷっくーしてた)ので、寝酒なりをやってたのかも。 さてさて。 朝錬の最後に、実剣を使った素振りをする。 剣の寸法と間合い、そして重さを体に馴染ませるのだ。 コレ、実に重要で。 俺の場合、ショートソードが2種類にロングソード、それに槍がある。 置いて来れなかったクソ槍(コングナー)さんだが、持っている以上は振るってみる。 槍としてもだが、あの魔力馬鹿食い(オカルティック)モードの制御も上手く出来ないので、正直な話として使いたくも無いのだが、それでも練習をしてしまうのは、勿体無い精神の発露なんだろう。 多分。 と、エミリオが振っているロンゴミアントをエメアさんが凝視している。「何とロンゴミアントか。<イェルドゥ>と共に失われたものとばかりに思っておったが」「知ってましたか」「然り。セルウェルと共に鍛えし事、懐かしく思う」 ソレ(セルウェル)ってモノ創りの神様で、ロンゴミアントも含めて、所謂 神造兵器の類を生み出した柱か。 エメアさんがぽつぽつと当時の事を教えてくれる。 凄いな。 歴史の生き字引か。「しかし、エミリオはまだ認証されておらじか」「何か方法が?」「あらじ。あの剣の力は強大であるが故、認められねばならぬ」 懐かしく思っているのだろうか。 目を細めてエミリオを、ロンゴミアントを見ている。「剣(ロンゴミアント)に?」「然り」 只の人に、世界を創る力を持った巨人とも渡り合える力を与える剣、それがロンゴミアント。 その力を安易に振り回さぬ様にとの安全装置が掛けられているのだと言う。「何時かエミリオが認められる事を祈るか」「………」「何か?」「汝、嫉妬は抱かぬか?」 目が合う。 赤いのか。 ルビーを見ている気になるな。「嫉妬?」「然り」 自分より強い誰か。 自力地力ではなく、与えられた力で強くなると言う事への感情か。 無いな。 無い。「別に、無いかな」 どんな得物を持とうとも圧倒的に強い母親様(バケモノ)を知っていると、凄い武器を持てばとか言うクソ雑魚染みた発想をする気になれない。 それは、弱い人間(● ● ● ●)の発想だと言える。 俺Tueeeはしたいが、それは俺個人の実力でしたいのだ。「面白い。汝も面白いな」 珍獣を見る目でみられている気分。 感じちゃいそうだ。 さて、朝飯を食って今後の行動指針を決める。 もう少し、この廃都を調べるのか、それとも先に進むのか。 エメアさんの話から考えるに、調べても判らなそうではあるけども。「そうですね、先に行きべきなんでしょうね」 ミリエレナが頷いた。 ブレルニルダの神官が居ないなら居ないで、居ないという異変を早く知らせた方が良いと言う判断。 これも重要だ。 直ぐにも廃都を立つ事となった。 ではエメアさんともお別れか。 マジかでラブコメを見れて楽しかったのに、上映が終了して残念です ―― そう思ってたら、そうでは無かった。 一緒に行くと言い出した。 エメアさんが。「託者、加えてロンゴミアント。これが詠みの導であれば従うのみ」「エメアさん!!」 黄色い声を挙げるなエミリオ。 ミリエレナが面白い顔になるから。