冥王さんで天地魔闘な世界で、某苦労人は言っていた。 人生ってこんな筈じゃ無かったって事ばかりだと。 まぁ思うとおりに行かないのが人生で、であるが故に面白いって思えるのは俺が、本質的にはオッサンで、神経が太いからだろう。 だが、子供はそうでもない。 子供天国☆フリーダムを是とする日本人的メンタリティをまだまだ残している俺は、子供には笑っていて欲しいと願っている。 こんなファンタジーで中世な世界では、それが果てしなく困難である事は理解しているが。 それでも、願う位は赦されると思う。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-06現実はチョイと厳しい 結局、トータルで掛かった経費は3820grだった。 全ての冒険者ギルドで銭を要求された訳で無く、飲み物の1つでも注文しろってな感じだったので、その程度で済んだのだ。 後、マーリンさん素晴らしい。 俺がコッソリと袖の下を使っているのを気付いて、でも見て見ぬフリをしてくれたから。 イイ女ってなモンである。 面子を立たせてくれてたのだ、自分の大人としての面子より、俺を立たせてくれたのだ。 男には護るべき誇りってものがある。 それが、ある意味で生きている張り見たいなものなのだ。 全く、感謝感激である。 そんな風に、気楽に考えようとしても、考えられない。 足取りが重く思える。 理由は、ノウラだ。 振り返って確認。 ノウラは、俯いて歩いている。 手には、布に包まれたモノ――業物っぽいショート・ソードを抱きかかえて。 そして俺が持っている小々の品物。 それがノウラの父、アルと云う男が夢を追った残滓だった。 アルは冒険者になり、それなりには稼いでいたらしい。 でなければ、ショート・ソードとは云え業物の武具は買えない。 だが死んだ。 商隊の護衛で<黒>の跳梁する東方領へ向かい、そこで死んだのだ。 詳細は不明。 アルの属していた冒険者グループ丸ごと、商隊と共に皆殺しにされているのだ。 もう2年ほど前の事だそうだ。 ショート・ソードは、その冒険に出る前に発注したモノだった。 一般に冒険者ギルドは、死亡した冒険者の遺品を登録出生地に送付する。 冒険者を志す理由は、一攫千金を狙ってのも多いが、同時に、家族に食わせる為ってのも多い。 だからこそ、冒険者ギルドは、死んだ冒険者の遺品遺産を確実に送付するのだ。 流石に遺品を送るために派遣と云うのは無いが、所属している冒険者が死亡した冒険者の故郷の近くに行くのならば、必ず委託していた。 又、託される冒険者も、自分がそうして欲しいが故に、その依頼を拒む事は無い。 それは、“最後の優しさ”と評される行為であった。 冒険者を使い捨てにしていると批判される事の多い冒険者ギルドだが、使い捨てにするだけで人は集まるものでは無いのだ。 今現在、この王都に生き残っている6つの冒険者ギルドは、それを理解するが故に、今まで存続できた――そう、マーリンさんは説明してくれた。 そしてショート・ソードを抜く。 2年の時をへて煌く剣。 その質実剛健な刀身の手元には申し訳程度に、彫刻が施されている。「実用本位だね………いや、それだけじゃ無いか――ノウラ」 そっとノウラを呼び、彫刻を見せた。 俺も便乗して観察すれば、何故、マーリンさんがノウラを呼んだか判った。 唐草模様に似た彫刻に紛れて、護りの力を意味する魔術文字とノウラの名と、そしてもう1つの女性の名が刻まれていた。 恐らくは、ノウラの母親だろう。 ああ、決してアルは故郷を捨てた訳でも、ノウラたち母娘を忘れた訳でも無かったのだろう。 何時は帰ろう。 故郷へ錦を飾ろうと考えていたのだろう。 それが、判った。 遣る瀬無さを感じる。 そして何より、その事を聞いた時のノウラは見ていられなかった。 泣いていた。 声を上げずに泣いていた。 子供が声を殺して泣いているなんて、見ていたいモノじゃない。 だけど、俺にその涙を止める術なんて無かった。 2つ合わせて30余年生きているが、そんな単純な事1つ出来ないのだ。 不甲斐ないと歯痒い。 だから、そっとマーリンさんがノウラを抱きしめた時、助かったっと思った。 大人になりたいね、全く。 泣いてる女性の1人くらい、簡単に鎮めてあげられる位の大人に。 畜生。 いや、子供らしく鎮める方法もある。 KYスキルを発動させるのだ。 幸いに、ここら辺は露天街、小道具には事欠かない。 周辺をサーチ。 我が最大の道楽、買い食いで得た情報で上手いスイーツを探す。 どこかでゆっくりとしようとすれば、拒否するだろう。 故に重要な事は、押し付ける事。 甘いものを喰って腹が膨れれば、人間、少しは心に余裕が出来るってなモンである。 サーチ。 …検索中。 ……検索中。 ………検索中。 怖い考えになる前に発見。 個人的王都グルメランキングでベスト10に入るスイーツ、クレープ屋<白丸>だ。 この世界のクレープ、まぁ正確には、生クリームとかも使っていないクレープに似た何かだが、美味しい事には違いが無い。 美味は正義なのだ。 とゆー訳で、ツツツーっと行って売れ筋のTOP3を購入。 先ずはマーリンさんに1個。 俺の意図を理解してか、小さく笑ってる。 俺も、苦笑に似たものを唇に貼り付けて頷く。 それからノウラだ。「食べろ」 差し出すクレープ。「えっ、あっ」 俯いていた顔が、少しだけ上がる。 表情がボウっとしている。 ハイライトの消えた瞳、所謂レイプ目ってな感じだ。 そらね、仕方が無い。 必死になって探していた父親が、既にアボーンでは、ショックを受けるのも当然だ。 だがしかし、だ。 そこで立ち止まっている訳には、いかないのだ。 生きているのだから。 今日も、そして明日も。 であれば、死者に引きづられる訳にはいかないのだ。 まぁ、哲学的っぽく言えば、そんな感じ。 本音では、子供が辛い顔をしているのは好みじゃないからだ。 だから無理にでも、クレープを進める。 喰って、そんで心の内に溜め込んだ感情の1つでも吐き出せば、少しはマシになる。 成れるのだ。「食べろ、美味いぞ」 自分の分をパクリと食べる。 うん、水気を含んだモモが、とってもテイスティ。「でも………その……」「食べろ。昼もロクに食べなかったんだ。腹が減ったままだと、気分は更に落ち込むぞ」 モジモジとしているノウラ。 その手からショートソードの包みを取り上げて、無理矢理にクレープを持たせる。 そして俺は、わざとゆっくりと自分の分を喰う。 目の前で、ゆっくりと咀嚼し、嚥下する。 その行動につられて、ノウラも小さく口を開け、クレープに齧り付く。 小動物に様に、小さく噛み千切り、そして噛む。 飲み込む。 そして又、小さく噛み千切っていく。 俯いたまま、黙々と食べるノウラ。 段々と噛む速度が遅くなっていき、そして止まる。 小さな、その肩が振るえる。 声を殺して泣き出した。 感情をブチマケロとは思ったが、天下の往来でコレは無い。 左右を見る。 みんなコッチを見てる。 コッチ見んな。 マーリンさんを見る。 コッチを見てる。 助けに来てくれる気配なし。 アイコンタクト、ノウラを抱きしめてくれと依頼するが、すげなく拒否される。 自分で頑張れ、と。 ファック。 その胸、揉むぞ犯すぞ畜生め。 イッっとした表情をマーリンさんに送ると、それからノウラを抱きしめた。 俺、というかそもそもの「 」のキャラでは無いが、仕方がない。 頭をそっと抱え、落ち着かせる様に、背中を優しく撫でる。 ついでに、極自然に、道の横の方へと移動する。 うん。 道の真ん中で子供とは云え女の子と抱き合うなんざ、それなんて拷問? だ。 不謹慎なのは、俺の内面だけ。 外面は紳士に紳士に紳士に。「泣いて良い、良いんだ、ノウラ」 そっと告げる。 その一言が涙腺を破壊したらしく、俺の左肩の方が温かくなる。 泣いている女に胸を貸すのは、男冥利に尽きるってものだ。 まぁ身長差がトンと無いので、肩を貸すってのが正解なのは、ご愛嬌だが。 兎も角、泣き止むまでは何処でも幾らでも貸してやるさね。