+ 指導したのは基本的な事。 如何に効率的に戦うかという事。 効率的に殺すかという事。「如何に名誉をもって戦うかではなく、ただ殺すというのか……」 微妙な顔をされたが無視する。 <黒>を相手の戦場は如何に効率的に安全に殺すかが全てであり、そこにヒロイックもロマンチシズムの入る余地何て無いのである。 二枚舌の戦争狂民族曰く ―― 勝利よりも悲惨な光景は敗北しかないってなもので。「そもそも、<黒>相手の戦争で名誉ある戦死を遂げたとして、誰がそれを語り継ぐ?」「誰かが、誰かが___ 」「その誰かは、貴方たちが名誉ある戦死を遂げた為に護り切れなかった人だ。言えるのか? 『私たちは名誉の為に戦い、戦死した。敗北したが名誉は護った。その結果、国は滅びて貴方たちに苦労を掛けているが我々の名誉を語り継いで欲しい』 って」 寝言は言うなと、俺なら殴るね。 というか殺すね。「しっ、しかし我々は帝國からの伝統を受け継いでいる。そこに卑怯な振る舞いは……」 滅びた帝國なんぞに何の価値があると言うのか。 阿保らし。 口にはしないけどね。「では、もう少しだけ具体的に言おうか。なぁ、結婚した相手は居るか?」「は? いや、まだ私は……」「なら好きな女でも良いぞ。居ないのか?」「いや、お慕いしている方なら」「なら、だ。名誉と好きな女とどっちが大事だ?」「まて、何の比較だ?」 慌てているけど、そんなに慌てる様な話かね。「敗北(オナー)か勝利(アイドル)、そのどちらを選ぶかって単純明快な話さ。名誉を護る為に女性が死ぬ。女性を護り抜くために名誉を捨てる ―― 犬畜生と罵られても戦い抜くかっていうお話」 尚、名誉を護って尚且つ女性を護るって選択肢は無い。 あり得ない。 あり得ないと判断し得る数字 ―― 被害が出ているのだ。 なのに、名誉ある勝利(キレイゴト)なんざ口にさせない。 目を見る。 目だけを見る。 射貫く様に見る。 後は問うだけ。「さて、どっちが好みで?」異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-22公都ルッェルン防衛戦 - 破/2 説得(強迫)で効率最優先の持久戦を約束させた翌日。 正規軍側の戦闘、その推移は中々に良かった。 いや、絶賛したって良い。 何と重軽症者3名という圧倒的な結果を出したのだから。 しかも相手には3桁単位っぽい被害を与えて、だ。 真面目にやれば出来るのだ。 出来ているのだ。 急造で不完全な城壁しかない此方と違って、余裕すらあっただろう。 最初っから真面目にやれと言いたい気分だ。「取りあえず、この調子なら公王サマの帰還までは持つかも( ● ● )ね」 今は他の連中も休憩に下げさせているので割と気楽に弱音を吐いてみる。 中々に気分が盛り下がる。 やはり、こういう事は口にするべきじゃないな。 気分転換っぽく外を見る。 夕暮れに沈みつつある風雲丸の外周は、無人。 <黒>の寄せ手は日暮れと共に下がっている。 連中だって生物だし、補給も無しじゃ戦い続けられる筈が無い。 とはいえ、外周に何もない訳じゃない。 目を凝らせばゴブリンその他の死体が死屍累々なのが判る。 初日からの分が腐ってか、前線に近いこの掘っ立て小屋(ヘッド・クォーター)まで酷い臭いが漂ってきている。 血と糞の臭いだ。 気が滅入って来る。 こんな環境で戦う最前線の連中の交代ペース、少し早めておいた方が良さそうだ。 じゃないと、メンタル的にも腐ってきそうだ。 一応、ミリエレナが長期籠城戦用の士気維持魔法 ―― 気分転換魔法(サニタリー・リフレッシュ)を使い、気分転換が出来る様には手配しているとはいえ、ね。「かも、なのですか?」 振り返ればヘレーネ夫人さん。 その恰好はドレスでは無いし、とはいえ戦闘服でもない。 後方で支援してもらい、前線には絶対に立たせないって事にしているのから、動きやすさ最優先の格好 ―― ブッチャケてモンペっぽいズボンとシャツを着ている。 両方とも地味な茶色で厚手で、実に芋っぽい格好だが、アレだ、美少女が着ていると魅力的な格好に見える。 中身は包装紙を従える。 美人美女美少女って、特だよね。 男としては眼福なので文句は無いけど。 そんな彼女の手にはバスケットがある。 どうやら飯を持ってきてくれたみたいだ。 とはいえ聞かれたか。 他人様を不安がらせたくないんでチト、苦い気分になる。 救いは、表情が曇っていない事か。「まぁね」 付き従ってたフリーデがそっと椅子を用意した。 後、お茶と食器も。 手際のよい仕草は実に侍女の鏡であるが、荷物ってかバスケットを持っていないのはどうかと思う。 色々とあるのかもしれないけども。「どうぞ」「有難う」 差し出された黒茶。 朝からぶっ通しで籠ってた身としては実に有難い。 特に、芳醇な臭いで鼻がリフレッシュするのが。「旨い」 仄かな砂糖の甘さが、黒茶の味を引き出している。 ホント、ホッとする。「良かった」 笑ってるヘレーネ夫人さん、年相応な感じだ。 こんな場所に居ちゃいけないと思うレベルで。 つか、この主従を含めて若年組みは出来るだけ後ろに回すように手配したんだけど、2人を含めて若い子たちも皆、護られるだけではなく、出来る事をやろうとしている。 実に立派だ。 だから年上としては護ってあげたいのだ。「しかし、これだけ戦ってもかも( ● ● )なのですか」 一服して落ち着いたら、話が戻された。 だよね。「数の上では中心のゴブリンには打撃を与えているけど、質の意味で主力のオーク、或はオーガーやトロルドはほぼ無傷」 戦訓で曰く。 城塞防衛戦にて注意するべきはオーガー級以上である、と。 要するに、大馬力で鈍器振り回されて城壁を壊されるって事だ。 攻城(物理)は大敵なのだ。 オークの魔法使いによる搦め手とか、ゴブリンの数に任せた暴力ってのも油断は出来ないけど、一番は大型な連中の力任せは実に厄介だとの事だ。 そう言えば ――「今日はオーガーどもの動きが……」「ビクターさん?」 見えなかった。 昨日までは前線から一歩下がった場所で動いていた ―― 牽制を兼ねたっぽいアレコレとした動きを見せていたオーガーやトロルドが、今日は居なかった。 見えなかった。「これは」 危ないかもしれないって言葉は飲み込めた。 確証も無しにヘレーネ夫人さんとフリーデを怯えさせるのは好みじゃない。「これは?」「いや、煙草が合う味だと思ってね」「お好きなんですね」「ああ。大好きさ」 細巻き(シガリロ)を銜えて火を点ける。 今宵か明日か。 警戒しておくに越した事は無さそうだ。 出来れば杞憂であってくれ。 ヴァーリア殿下に報告して、クラインにも警告を出しておく。 これでどうにかなるとも思えないが、最悪の事態から少しでも離れればと思う。 思ってました。 朝っから<黒>は本気である。 寄せ方のゴブリンが、初日にも匹敵する勢いで攻めて来る。 前には俺たちからの矢、石。 後ろには督戦隊染みたオーク。「正に必死か」 前に進んでも後ろに下がっても死ぬという意味で。 或は、ハンバーガーヒル・風雲丸。「我々だって必死だ」 苦い顔で言って来るのはオイゲンさん。 細身だけど、もう今ではやつれているって表現が似つかわしい顔になってる。 飯、ちゃんと喰ってる?「死にたくはないのはどっちも一緒か」 個人的には死にたくないの前に、負けたくないではあるが。 俺、俺らの背中に居る無辜の人達を思えば。「補給、補充はどう?」「十分だ。予備隊を回せない分をカバーできている。本当に必要なのか?」「悪いが、今は動かさない」 今日、俺は予備隊の投入をギリギリまで抑える積りだ。 ローテーションは別だが、イザと言う時の切り札は取っておきたいのだ。 俺の直率となっている予備隊はエミリオやヘイル坊やといった白兵戦(ガチンコ)でゴブリンは当然でオーク相手でも退かずに戦える連中だ。 出番が無いのが最高なのだが、そう甘くは無いだろう。 昨日と同様に、今日もオーガーやトロルドが見えないから。 連中が何かをやろうとする準備に見える。 その兆候を少しでも早く見つけられる様に外周を見る。 今の所は異常なし。 変化なし。 ジリジリとする気分だ。 札の切りあい。 切り札の使い時も、結局は我慢比べだって教官殿も言っていたが、コレは本当に辛い。 皆の前に立って突っ込むのは、勇気さえあれば出来るので実に簡単だ。 だが指揮官は冷静さと計算力が必要だ。 実に胃が痛い。 誰だ、俺に指揮権を押し付けた奴は。 泣くぞ。 泣かないけど。「何もない事を祈りたいな」 ボヤくオイゲンさん。 声の緊張感が凄い。 数字に強いので、現在、俺の参謀役っぽい所に居るから集まって来る情報を全て見れる。 全体の流れが読めるから今日の余裕の無さ、状況の危うさが見えるのだろう。「煙草、吸うか?」 とは言え、指揮官は泰然自若でなければならないので、余裕をという事で細巻きを向ける。 一服して落ち着け。「いらん。君の高級品に舌が慣れたら後が辛い」「さよか」 懐からパイプを取り出し、プカプカとやりだすオイゲンさん。 煙を盛大に吹き上げているのは、蒸気機関車みたいだ。 紙巻は当然だが、葉巻や細巻きだって高級品なのだ。 何故ならパイプで吸うなら刻んだ煙草で十分だが、巻けるのはそれなりの煙草でしか出来ないのだから。 紙巻、紙が使い捨てに出来るようになるまでは、このままだろう。「んじゃ、俺も」 吸うかと思った。 少し遅かった。 いや、早かったか。「ビクター殿! いらっしゃいますかっ!!」 名前を呼ばれた。 切迫しているっぽい。 取りあえず、火を点ける前で良かった。「おう、ここだ! ここに居るぞ!!」 いや、火が点いたのか。 煙草では無くトラブルに。 やれやれ。「何だと!?」 状況は呑気に構えている(ヤレヤレ)場合じゃなかった。「市街、外壁が突破されただと!!」 集中投入されたトロルドが大岩を投げまくって外壁を破壊、開口部を形成。 その隙間からオーガーが集中投入され、開口部の維持拡大を許し、そこからゴブリンが雪崩の様に流し込まれたのだという。 耳を澄ませば、市街地側からの声に悲鳴が混じっている様に聞こえる。 しかも最悪なのは、前線への激励にとヴァーリア姫さんが来ている時だったという。 城代が、最高指揮官が不在なので正規軍最後の予備兵力投入が出来ないのだと言う。 公妃が王城の護りが無くなる事を、強固に反対したとか。 だから藁にも縋る思いで、義勇軍側(ウチ)へ来たのだと言う。 開いた口が塞がらん。「どれ程前かっ?」 オイゲンさんが問い質そうするが、聞いている場合じゃ無い。 手を挙げて止める。 衆目が集まった。 オイゲンさんやヘレーネ夫人さん。伝令さんにヘイル坊や予備隊の面々まで皆、俺を見る。 そんなに熱烈に見なさんな。 照れるじゃないか。「オイゲンさん、コッチを任せる」 立て掛けておいたハルバードを掴む。「予備隊、半分は残すから、それで頑張ってくれ」「ビクター!?」「ヘイル、第1班を集合させろ。騎乗で行く。市民の避難時間を稼ぐぞ、俺に続け! ストーク、コッチは頼む!!」「おぉ! 血が滾っど!! ウラーーーー!!!」「任せろ!!」 ハルバードの石突きで大地を叩く。「予備隊第1班、出撃だっ!!!」 奔る俺、正確にはロット。 まじ悍馬。 しがみ付くだけで精一杯。 後はロットにお任せ、自動運転。 行先は何処、其処。 地獄。 但し作るのは俺。 管理するのも俺。 取りあえず、<黒>は皆殺し。 街路を駆けるロット。 後ろをチラ見すればヘイル坊や達も追従してきている。 逃げ惑う市民たちの間をぬって、前へ。 つか、ロット、ギリギリで市民な人達を引っ掛けずに走る。 凄いわ。 ションベン、チビりそう。「ギ、ギギギゴッ!」 と、<黒>が居た。 ゴブリンだ。 先遣隊か、前衛か。 どっちでも良い。「Tyeitu!!」 取りあえず、死ね。 ハルバードを振るって跳ねる。 ロットが踏みつぶす。 殺して殺した頃にヘイル坊や達が合流する。 更に殺す。 殺して一掃すると、周囲を確認する。 どうやら市民は俺たちより先は居ないっぽい。「ヘイル! 市民を護りつつ退け」「おうじゃ! じゃがビクターはどうすっとか!?」「お姫様を助けて来るさ」