責任を取りなさい。 酷い言葉だ。 独身貴族で優雅に人生を楽しんでいた俺にとって、信じられないとゆーか、聞きたくもない言葉ではある。 が、今は大丈夫。 種を撒き散らしていないから、取る様な責任は無い。 無いったら無い。 そもそも精通してないから、撒き散らしようが無い。 しても、アレだ「ご主人様、ゴミ箱を妊娠させるお積りでしょうか」ってなモンだ。 まぁ妊娠したらしたで笑うが。 絶賛混乱中。 というか只の一言のこの威力。 多分、核兵器並み アトミーック! だとばかりにフリーズしたが、何とか再起動。 真意を問えば、母親様は非常に楽しそうに言葉を続けた。 探してあげるって言ったんでしょ、と。 正しい意味で再起動。 真面目回路が起動する。「諸々と盗られちゃったみたいだからね。宿はウチに泊まれば良いし、後は貴方が街を案内してあげなさい。冒険者ギルドとかの場所は判ってるわよね」「はいっ」 景気よく答える。 そゆう事なら大賛成だ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-05社会見学? 当日はお泊りのノウラ。 そしてマーリンさんだ。 この年齢不詳の女性、傭兵さんだが並みの傭兵さんでは無かった。 <北の大十字>傭兵騎士団と言う、大規模な傭兵部隊の部隊長だと言う。 <北の大十字>は、<群れ成す白狼>や<天突く矛>と並ぶ3大傭兵騎士団なのだと、酔ったマーリンさんが少しだけ自慢げに言っていた。 オマケに、半国営でもある、と。 戦時になれば、王国軍の正規部隊に強制的に参加させられるが、その代償として税金が安かったり、傭兵騎士団の施設を国から借りれたりするらしい。 まぁ、パイドでバイパーな騎士団みたいなモンなんでしょうね。 そこ等辺はどうでも良い。 問題はネーミングだ。 ブッチャケて微妙かなとも思うが、言葉がネイティブだから仕方が無いのかもしれない。 日本人だった頃の悪癖かも。 外国語の名前を無駄に格好良く思うのは。 その悪癖に則って英国風に言えば、<北の大十字>は<ノーザンクロス・マーセナリーナイツス>か。 うん、悪くは無いか。 銀河で妖精さんを連想するのは正にグッドだ。 妖精さんに関しては、持ってっけ~♪ が、もう聞けないのは悲しいが。 メッチャ、悲しいが。 まぁ仕方が無い。 兎も角、だ。 そんな立派な傭兵騎士団の部隊長さんなマーリンさんは、今回、長期休暇として王都に来ているとの事。 何でも、1年近く拘束される仕事をこなしたんで、団長さんから部隊丸ごと1ヶ月の長期休暇を獲得したとの事。 で、その長期休暇で久方ぶりに我が母親殿の顔を見に来たんだと。 ナンと言うか、スゴイ確率での偶然だ。 この偶然さえ無ければ怒られなかったのにとか思うと、チョイと悔しい。 そんなこんなで、何時もより2人増えたヒースクリフ家。 親子4人にお客さん2人、それにマルティナさん。 食卓は賑やかでした。 城から帰ってきた親父殿、マーリンさんにはなれた風にご挨拶。 そしてノウラに関しては笑顔で挨拶。 そして俺に対し、力になってあげろよと言う。 うん。 人間の出来た人である。 普通にこの世界は封建的要素がメッチャ強くて、貴族だの官吏だのには辺境の村人を人扱いしない阿呆も少なくないが、親父殿はそれを一欠けらも持っていない。 それどころか、真剣にノウラを気遣ってあげていた。 傭兵ってか、平民上がりの母親様なら判るが、父親殿は貴族側に近い裕福層の出なのに人として下卑た所の無いのは、正に教養人なのだろう。 そんな父親だから、ヴィヴィリーもノウラと仲良く話しているのだと思う。 家族面で俺はかなりハッピーだなと再認した。 天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずってね。 平成の日本人的メンタリティが強い俺としては、ホント、幸福さね。 だからニコニコとしていたらマーリンさんから冷やかされた。 曰く、オッサン臭い(意訳)と。 ほっといてくれ。 寝静まった夜。 灯火の燃料は貴重品なので、俺の部屋も真っ暗だ。 魔法で光を点けるってのもあるし、覚えてもいるが、アレはアレで面倒くさい。 不便。 俺の能力じゃ、1日に3回しか唱えられないのに、その1回で点いている時間は1分にも満たない。 エネルギー効率が悪すぎる。 使えるか、んなモンである。 と云う訳で、暗い部屋で動く。 勉強机の引き出しを引っ張り出し、その奥のスペースに置いていたものを取り出す。 エロイ本――では無い。 星明りに、ずっしりと重い皮袋が照らし出される。 金だ。 溜めていると知られると、微妙に恥ずかしいのでこっそりと貯めていたモノだ。 重たいのは中身が多いからでは無く、小銭が多いからだ。 音がしないように厚布を広げた机の上にひっくり返すと、20gr銅貨や10gr銅貨がジャラジャラと出てくる。 1山分はある。 殆どが銅貨で、稀に10gr銀貨があるが、まぁ1枚っきりだ。 1gr銀貨が100gr銅貨と等価で、10gr銅貨が100円玉ぐらいの価値がある。「ひぃふぅみぃっと………合わせて7746grか、溜まったなコレは」 日本円に直せば約8万円か。 一週間分のお小遣いが1gr銀貨ってのと、お手伝いのお駄賃を貯めていたってのも大きいが、にしても溜まっているモノである。 手早く袋に仕舞いなおす。 こんな夜中に金を確認したのは、俺が夜中に金を見てニヤニヤする趣味があるからでは無い。 明日、ノウラと一緒に冒険者ギルドに行く時の軍資金だ。 冒険者ってのは個人営業の武装集団だが、同時に山師集団の側面もある。 基本何でも屋なので、まぁそんなモンでしょ。 と言うか、この世界に於いて信じられねーと思ったのが、この冒険者って職なのだ。 小規模な商隊の護衛から個人の護衛、或いは探し物。古代遺跡の探索etcと、やってる事はゲームなんかと変わらんが、ブッチャケ、そんなんで良くも飯が喰えるなぁと思う訳で。 まぁ、この世界が剣と魔法と言うか、暴力至上主義ってな側面があるんで、成り立つのかもしれないが。 まぁ冒険者はどうでも良い。 兎も角、駆け出しから熟練まで、色んな人間がいる冒険者の元締め達から情報を得ようと思っているのだ。 だったら、まぁ喋りやすくなる山吹色の鼻薬は必須でしょってな感じである。 情報料って奴だ。 この世界には個人情報保護法ってのが無いのが在り難い。 このヘソクリ、2年掛けて貯めた金だが、まぁ惜しみなく使うとしよう。 そーゆーのも含めて責任を取るってか、面倒を見るってモンである。 係わり合いを持ったからには、最後まで。 コレも又、ノーブル・オブリゲーションって奴かもしれない。 皮袋の重さを確認する。 子供が持つにはチト重いし、何より大きい。 明日は外套を着て行かないとと思う。 さて、寝るか。 気持ちの良い風が駆け抜けていく王都。 尤も、少しばかり埃っぽいが。 馬の蹄が痛むって理由で道路が舗装されていないのだ。 どの道も全て軍事用に使えるようにと考えられているのだ。 何とも見事な軍事優先である。「まっ、だから風呂が発達してるんだけどね」「温かい水に浸かったのは初めてでした」 ニパっと笑っているノウラ。 寒村出身故に語彙は乏しいが、この子ってば知性と言うか品性を感じさせる喋り方をしている。 実家はそれなりに金があったと云うから、教育を受けているのかもしれない。 会話していて楽しい。 まだまだ子供だが未来が楽しみである。 尚、その服装は昨日と同様に、ヴィヴィリーのを借りている。 外出用の服だ。 ヒースクリフ家は馬車を常時用意していられる様な裕福家では無いので、家族向けの服も、こんな実用本位なモノが揃っている。 尚、そのヴィヴィリーも今日は同行したがっていたが、ピアノのレッスンがあった為、断念していた。「温めた水は“お湯”って言うんだよ。村には無かった?」「はい。体が汚れた時は川に行ってました」「まっ、そんなモノだよね」 薪が勿体無いしと理解する。 水が豊富で、薪ってか森林資源も豊富で無いと入浴なんて贅沢な真似を連日する事は出来ないのだ。 日本てのは何とも豊かだったのさね。 今の生活に、基本、不満は無いが青――水気が多いのは良いが森の緑を余り見れないのは嬉しくないものだ。 仕方が無いが。「ですからビクターさんの家でえっと、おゆ? お湯をいただいた時は吃驚しました」「呼び捨てで良いよ。同じぐらいの年だしね」「えっ、でも」「気にする事は無いノウラ嬢。当の本人がソレを希望しているのだ。遠慮はいらぬのだよ」 フォローが入る。 暇だから、と付いて来てくれたマーリンさんだ。 休暇をこんな子供s'に振るなんて、スゲェ良い人だ。「じゃ、その、ビクター?」 照れた感じがとってもグッドだ。 でもまぁ、この年頃で分別を持つノウラもスゴイとは思うが。 何て考えていた返事が遅れた。 ノウラが微妙に不安そうにコッチを見ている。 正直スマンカッタ。「はいな。宜しく」 その一言で笑顔になるノウラ。 マーリンさんも笑ってる。 俺も、多分、笑ってる。 微笑ましい雰囲気。 だがそんな中でもマーリンさんは、周辺に隙の無い視線を向けている。 お陰で、余り不快な視線にさらされずに済んでいる。 良い人だ、ホントに。 惚れそう。 とゆー訳で、冒険者ギルドへ向かう。 簡単に到着。 この冒険者ギルドって奴は、ゲームのように全ての冒険者を統括するようなものでは無く、言ってしまえばMMORPGに於けるクランみたいなモノだ。 契約によって各冒険者ギルドに所属し、仕事をこなす。 ある意味で派遣会社と派遣社員みたいな関係だ。 医療とか福祉とか、そんなサポートが無い辺り、特に。 まぁ、社会保障の無い世界だから仕方が無いと思える。 これが、軍事専門の傭兵だと、戦時に動員する必要性なんかがあって、割と国からの支援があるんだけど、冒険者は個人営業故に、そんなものは受けられない。 シビアだ。 まぁその分、仕事の選択権を個人が有しているので、無理をしなければ良いのだが。 兎も角、そんな冒険者ギルド、この王都には6つある。 初心者向けの安全安心な仕事を斡旋する<栴檀の双葉>亭や、ハイリスクハイリターン上等の<踊る人形>亭など。 際物としては、物流を担っている商人達が出資して設立された、商隊護衛専用の冒険者ギルドである<千里を行く虎>亭と云うものまである。 基本的に、冒険者ギルドは酒場を兼ねる様な場所であり、慰安も出来る風になっている。 ブッチャケ、稼いだ金を巻き上げようとしている様にしか見えないが。 まぁ当人達が満足しているのなら、他所モンが何を言うべきでも無いが。 後、全ての冒険ってか依頼は国営の冒険者ギルド斡旋所に1回上げられて、それから各ギルドへと配分されるんだそうな。 当然、手数料を取ってである。 冒険者を野放しには出来ないって事だね。 後、小遣い稼ぎか。 そんな感想を言ったら、マーリンさんに苦笑された。 まっ、ホントにそうらしいが。 そんなこんなでやって来た冒険者ギルド。 別に拘る事も無いので、ウチから1番近いギルドへ入った。 <紅の剣>亭。 物騒な名前だが、中はもっと物騒だった。 実戦を経て傷ついた装備を纏った冒険者達は、何とも物騒な表情で酒を料理をかっ喰らい、給仕の女性達にセクハラかましている。 うん。 ノウラにはキツイ環境かなって思ったが、そのノウラは緊張した顔で、ギルド・マスターってか仕事斡旋カウンターに立っている人に話しかけていた。「すいませんが、1つお聞きしたいのです」 緊張している。 行方不明の父親の手掛かりになるかもしれないのだ。 そら、集中するか。 マーリンさんがノウラの後ろに立っているので、ソッチは安心。 だから俺は、周囲を警戒する。 荒くれ者が多い場所で、妙齢っぽい女性と女の子なのだ。 からかわれない方が変だ。 否。 そもそもとして、言葉でからかうならまだしも、オイタをする人間が出ないとも限らないのだ。 俺は用心して周辺を警戒した。 別に、女給のオネェサンの扇情的な格好が素晴らしいとか、あの搾り出す様なデザインの服でオパーイが( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい! と思っている訳では無い。 後、お尻とかに手を伸ばしているのが羨ましいなんて欠片も思っちゃ居ない。 本当だ。 マジだ。 俺は紳士だ。 紳士と云う名の紳士だ。 多分。 集中力がスコーシだけ撹乱されているが、それでもノウラとマスターの人の会話は聞いている。「お願いします、アルって名前なんです」「いや、ウチも登録している人間は多いからねぇ。アルなんて名前は、多いんだよ」「中肉中背で、肌は浅黒い感じで」「そんな人間、ここにはゴマンと居るよ」 こんな感じで糠に釘、暖簾に腕押しである。 まぁ名簿らしい物はあるとの事なので、単純に面倒くさいのだろう。 金に成らん仕事だし。 マーリンさんは一歩下がって見ている。 ノウラがどうするか見ている。 或いは、子供が成長するチャンスを摘まない様に考えているのか。 まっ、俺は動くがね。 外套の隠しポケットから10gr銀貨を取り出すと、ノウラからは見えない様にカウンターの上に置いた。 何も無しにこゆう事をすると、下策ではあるが、今はマーリンさんが居る。 並みの冒険者よりも迫力をかもし出している人だ。 銭だけ取って口を拭うって真似はすまい。「お願いします。連絡を取りたいだけなんですから」 マスター、素早く硬貨をゲット。 何食わぬ顔で真贋を確認すると、ポケットへと落とす。「判った判った。そこまで言うなら確認してきてやる。名前と背格好は判ったが、出身地と身長を教えろ」 その言葉に、笑顔に成るノウラ。 それまで泣きそうであったが、満面に喜びが浮かんでいる。 知っている父親の情報を言うと、何度も何度も頭を下げた。「有難うございます、本当に有難うございます」「………名簿を確認するが、無くても文句は言うなよ」「はい。お願いします」 素直な子供らしいノウラの仕草に、笑顔に、マスターも照れる様に頬をかきながらカウンターの奥へと歩いていった。 さてさて、俺のお小遣い2か月分だ。 キッチリと結果を出してくれると嬉しいのだが。