脱出。 <黒>の連中だって馬鹿じゃない。 俺たちが突入してきた場所を塞ぐ様に動いている。 だが、上手くいっていない。 解囲突破に、力任せに叩き潰し突進したのだ。 それ故にその道中、軌跡には残されている<黒>のゴブ助などの死体が残っている。 これが、包囲網の再構成を邪魔しているのだ。 連中にだって情があるから、死体を踏みにじって動きはしないのだ。 だから、今が好機。 塞がせる前に、突破しなければならない。「ウォォォォォッ!!」 しろがねが吠えた。 銀の毛皮を赤く染めて、内心の戦意を口にしたんだろうが実にタイムリーだ。 <黒>が怯えた、腰砕け。 一緒にヴァーリア姫さんの所の兵も怯えた。 あ、ヴァーリア姫さんも怯えてる。 だよね。 戦獣が味方って、先ず、無いからね。 とはいえ、気を配ってやる訳にはいかない。 機を失う訳にはいかないからな。「我にぃぃ、続けぇぃぃぃっ!」 腹から声を出す。 特に相手は、馬鹿も居たヴァーリアの姫さんの所だ。 グダグダとくだらない事を言う奴を、に大きな声と勢いで思考を誘導、収束させて従わせるのだ。 ハルバードを掲げで、振り回す。 幾多の<黒>命、その欠片である血に赤く染まったハルバードが俺の目印だ。 踵の合図で、ロットが駆け出した。 実に阿吽の呼吸。 馬の側で合わせてくれるのは実に有難い。「Uraaaaaaaa!!」「ウラァァァァァァ!!!」 脱出路をふさごうとする連中に、矢が降り注ぐ。 ストーク達か。 実にタイミングが良い。 さながら準備砲撃だ。 ゴブ助どもが逃げ惑う。 武器を捨てて戦意が砕け散っている。 であれば、する事は1つ。 蹂躙だ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-16公都への道 (※到着するとは言って無い で、突破した。 簡単と笑うなかれ。 事実、簡単なのだから。 統制のとれない集団と言うのは個の集まりでしかなく、個であればゴブ助如きに走り出した騎兵が劣る訳も無いって事である。「うぉおぉぉぉっ!」 解囲し自由になった事で、ヴァーリア姫さんの所の兵が気勢を上げた。 包まれてボコボコにされてれば、そら、ストレスも溜まるってのものである。 だが、反撃はしない。 逃げの一手だ。 少しロットに勢いを落として貰って、ヴァーリア姫さんの馬に寄せる。「ヴァーリア殿下、此方へ!!」「任せる!」 即答である。 決断力のある人は好きだよ。 ハルバードを掲げて応じよう。「お任せあれっ!」 ロットの腹を軽くたたく。 普通に叩くと本気で走り出して他の馬者追随できないし、そもそも俺如きじゃ制御できなくなるのだ。 だから要注意。 加速して、先頭へ。 勢いをそのままに、全軍を俺に追従させる。 とはいえ突破した後に直ぐにパル山脈へ向かうのではなく、一端は南側へと離脱するのだ。 今はまだ、怪我人組みの馬車の車列はパル山脈を登り切ってないだろうから、<黒>が追撃してきた場合を警戒するのだ。 人間、用心するに越した事は無いからね。 取りあえず、かつての怪我人組みの駐留場所まで移動する。 ここには山の木々などで作った即製した設備、水場やら何やらがあるので休憩をするならもってこいなのだ。 閑静、というか安全な場所であると認識したのか、ヴァーリア姫さんの所の兵は馬から降りると崩れる様に座り込んでいる。 見れば殆どが若い奴らなので、恐らくはこれが初陣だったりするのだろう。 それで死にそうになっているのだから、安全を感じて脱力しても仕方が無いだろう。 この場の人間で一番に幼ない筈のヘレーネ夫人さんが凛としているのに正規軍でソレと言うのはどうかなぁという所もあるけど、潜った死線が違うのだから、コレも、仕方が無いと言える。 とはいえ、その様を温かく見ていられる程に状況が優しい訳じゃない。 隊の中で馬の扱いが上手い奴に<黒>の連中の動向を探らせ、怪我人組みへと状況を説明する伝令を走らせ、後は隊の状況 ―― 怪我人の確認をし、或は矢などの在庫の確認を行う。 毎度毎度、指揮官は忙しいのだ。 誰かに押し付けたい。 割と真剣にそう願っていると、ヴァーリア姫さんがヘレーネ夫人さんと連れ立ってやってきた。 国の王女で正規軍の指揮官だ。 押し付けたい、この重責(面倒)。 いや、無理か。 騎兵で歩兵に包囲されるという前代未聞級な事になった指揮官だ。 敵にチートな天才(スキピオとかハンニバル)が居たのかもしれないけど、にしても任せたくない。 それに、ここに着いてからの正規軍の緩みっぷりの原因も彼女だし、だ。 良く見ていた訳じゃないが、指揮を執ろうともしていない辺り、命の危機から脱しての脱力なのかもしれないけど、どうにも、である。 楽はしたいが命の危険は勘弁ってものだ。 神輿だったら軽い方が良いんだろうけども。「ビクターさん!」 ヘレーネ夫人さんに呼ばれた。 各員への一通りの指示は出し終わっていたので、後は動く様にと命じて、ヘレーネ夫人さんの所へ行く。「お呼びで?」「はい。お忙しそうでしたけど、少しだけ時間を頂きたくて」 背筋を伸ばしているけど、どうしても可愛らしとしか評し辛いヘレーネ夫人さんに対して、ヴァーリア姫さんはと言えば、何だろう。 美人系の萌芽のある美少女と言った所かしらん。 背筋が良く伸びている。 後、目が、意外って言うのは失礼かもしれないけど、かなり強い力を帯びている。 意図が判らない。 俺への悪感情という訳ではなさそうだが。「邪魔をしてすまない。礼をと思って妹に頼った。私はヴァーリア・ライヒャルト、今は王妹だ」 男言葉だが口調は柔らかい。 おやまあ。 挨拶に来いとか言わない辺り、俺が忙しくしているのをよく理解してくれている様だ。 とも角、騎士の礼を取る。 右手を拳にして左胸に当て、両踵を打ち合わせる。 本当は右手に剣を持つのがトールデェ王国の正規スタイルで、剣無しは略式なのだが、騎士礼をする際に剣を手に持ってなかった場合には、これが正式スタイルとなる。 貴人の前で抜き剣するのは危険だったりするってのが、理由だったりする。 礼儀作法ってのは、礼砲を例にするまでもなく戦闘回避の手段だったりするので、こうなるのだ。「改めまして、ビクター・ヒースクリフです。トールデェ王国より参りました」 身分とか諸々は面倒くさいので口にしない。 嘘をいう訳でも、身分詐称をする訳でもない。 真実の、その全てを口にしないだけなのだ。 面倒くさいから。 大事な事なので3度言います。 面倒くさいから。 バルトゥールさんみたいなのは、勘弁という訳で。「有難う、本当に助かりました」「いえいえ。お役に立てて光栄です」 其処から始まる、当たり障りのない会話(腹の探り合い)。 踏み込まず、踏み込ませず。 その事で判る事もある。 アレ、この人は馬鹿じゃない、と。 最初に思った、指揮官としてのアレな印象とは逆な感じなのだ。 俺ら(遊撃部隊)の素性を聞いたり、編成を聞いたり、或は、先の戦闘に於ける切込みに関して感謝されたり。 判らん。「公女殿下!」 和やかな会話(多分)をしていたら、1人の男が走って来た。 ヒョロいガタイだが、何か暑苦しい雰囲気の奴だ。「探しましたぞ! 余りフラフラと出歩かないで下さいませ」「ドリィに告げていた筈ですが?」「失礼ながら申し上げますが、実務を私が行うとは言え行方不明では困ります。今後はドリィ如きでは無く、私めにお教え下さいませ」 あー そういう事。 コレが指揮官なのね。 包囲下で状況判断もせず、身分を笠に俺に噛みついてきた奴だ。 違和感に納得だ。 他の人(俺)の前で、仮にも上司、上役を叱責するという、阿保な事をやらかす様な奴だ。 そりゃ、部隊を統率出来る筈が無い。 そう言えば、コレ、見覚えがあるわ。 黄色を基調にした原色系の派手めなサーコートを着てたから、思い出した。 ヴァーリアの殿下さんも含めて、正規軍は緑色を基調にしたサーコートなので、良く目立ったのだ。 さっきも、真っ先に水場へと駆け寄ってったかしてた黄色の塊を見た記憶がある。 アレをやらかすのが指揮官か。「うわぁー(ナイワー)」 思わず漏らしたのは許して欲しい。 多分、学校(ゲルハルド記念大学)でやらかしたら二度と指揮官役は回ってこないし、トールデェの正規軍でやっても降格間違いなしだろう。 指揮官が指揮官の役割を放棄したと判断されるだろうから。「んん?」 睨まれた。 年の頃はまだ20代といった所か。 髭生やして偉そうな顔をしてやがる。「貴様!? その顔、先ほどの下郎か! 公女殿下を呼びつけたか、痴れ者め!!」 顔を真っ赤にして叫んだ。 馬鹿だ。 というか、無礼討ちだっ! と剣の柄に手を添えやがった。 本物の馬鹿だ。 初期型ヘイル坊ややドレラといい、このルッェル公国は阿呆の産地か!? いやいや。 ヘレーネ夫人さんとか良い人も居るか。 にしても、これは酷い。 潰す、かな。 と、腰のロングソードの柄に手を添える前に、ヘレーネ夫人さんが俺の前に立った。 胸を張って怒っている。「何を言っているのですか、貴方は!? 姉様の願いを受けて、私が案内をしたのです。そこに何の問題がありますか!」「お言葉に歯向かいますが、間違っていますぞ。殿下は規律というものを理解されていない!! 貴き身の要求であっても、下郎の元へと動く事は、国の、鼎の軽重を問われるというものです!!!」「下郎、ビクターさんを下郎と言いますか!」「申しますぞ殿下! ヘレーネ殿下は降嫁されて些か、下民どもに毒されておられる!! 王家の血、帝國より連なる貴き血(ブルーブラッド)を務めを忘れられたかっ!!!」「無思慮者め! 護るべき民を下民、下民と申しますかっ!!」 あ、ヘレーネ夫人さんが切れた。 相対する馬鹿も顔を真っ赤に、血圧を上げてる。 しかも剣の柄に手を添えたまま。 阿呆め。 何かしようとしたらこの世から1発レッドカード、泣いたり笑ったり出来なくしてやる。「国は民あっての国。それは開祖も言っておられる事ですよ!!」「開祖の言葉であっても、誤っている事は誤っていると申す事こそ忠義! 忠臣の務め!! 規律なくばこの国は麻の如く乱れますぞ!!!」 何時でも動ける様に重心を少し下げる。 大声の怒鳴り合いに、手の空いてた遊撃部隊の面々が集まって来た。 チラ見するに、ヘレーネ夫人さんを怒鳴る奴に怒ってる模様。 うんうん。 全く同意だ。 だが、武器を抜くのは、俺の後にしろよ? と、見れば正規軍の方はと言えば、興味無さげである。 というか、馬鹿にする様な目つきで見ている。 阿呆を。 常に貴族風吹かせて、他人を馬鹿にしているのか。 あー まぁ、こんな奴だと、庇う気にも成れないし、慕う何てもってのほかだよね。 というか、トールデェ王国的に言えば、ここって邦国であり保護国なのだ。王家は公式にはトールデェ王国の公爵家であり、でも、扱い的には伯爵家の地位として扱われている。 王家が、である。 であれば王家以外の、この国で貴種を自称する連中は陪臣扱いと言うか家人、郎党の類でしかない。 酷い表現をすれば一般市民+1 といった程度の身分であり、トールデェ王国では村長以下の扱いなのだ。 トールデェ王国の従騎士位を持ち、男爵家の嫡男な俺からすると、それこそ下民級な訳で。 馬鹿馬鹿しい。 その程度の輩がこの吹き上がりっぷり。 滑稽という言葉すら生ぬるい。 さてさて、どうやって止めよう(潰そう)かと考えていたら、ヴァーリアの姫さんが先に動いた。 佩いていた剣を鞘ごと抜いて、地面に鞘の先を叩きつけた。 快音。 金属音に耳目が、集まった。 そこを見計らって、口を開いた。「ロータル。貴方の言う事も正論でしょう ―― 」「姉様!」「公女殿下!」「 ―― ですが、貴方のその物言い、諫言と云うには些か以上に無礼である」 睨む。 中々の眼力だ。 目に見えて、ロータルとか呼ばれた阿呆は塩々になった。「あ、はっ、いや、わ、私めは、に、二心など無く、王家の方への忠誠あればこそ! そう、私は王家と国の為をおもえばこそ!!」「黙りなさい」「あ、え? お、王女殿下……?」「公家への忠誠を口にすれば、私やヘレーネの様な小娘は御せると思ったか?」「めっ、滅相もありません! ただ私は衷心より殿下や王家の為に!!」「その口上、信用成りません」 バッサリだ。 おー ロータルの阿呆は真っ白になってる。「な、何故ですか王女殿下!?」「これまでの振る舞い、今日の行動でです」 若くして軍務 ―― 鉄槌戦士団の団長となったヴァーリアの姫さん。 その就任の際、公王の指名によりロータルは補佐として就けられたのだという。 王女としての教育や戦士としての訓練は受けていたヴァーリアの姫さんであったが、人を指揮するという経験が無かった為の処置であった。 故に、ヴァーリアの姫さんはロータルに師事し学ぼうと思ったのだという。 だから、ロータルがヴァーリアの姫さんに、自分が指揮するので、その姿を見て学べと言われて、素直に従ったのだと言う。 だが、それがkonozamaである。「貴方は指揮官としても失格です」 鞘の先を大地に叩きつけながら断言。 迫力がある。 後、個人的には、その怒りが良く分る。「本当は公都への帰還後にとも思っていましたが、我が愛妹への暴言、許す気になれません。ロータル・イェレミース、只今をもって貴方の我が戦士団に於ける全ての権限をはく奪します ―― パジン!」「へっ、姫殿下!」 正規軍の群れから、のっそりとした奴が出て来る。 というか、トロそうな奴だ。「ロータルは貴方の下に付けます、使いなさい」「え、良いんですかい?」「使いなさい(● ● ● ● ●)。もし貴方の命令を聞かない場合には報告なさい。使えぬのであれば、放逐します」「お、お待ちください王女殿下!? 私は陛下の命をもって貴方様のお側仕えを! それを王女殿下が勝手に、そんな、そんな馬鹿な話があるものですか!! 私が、イェレミース上士家の私がパジン如きの差配を受けるなど!!! 更には放逐!? そんな馬鹿な話があるものですか!!!!」「戦士団での人事は私の専決である。配置換えも放逐も、全て、私が決める」「王女殿下、お考え直しを!! ウスノロのパジンに使われるなど!!!」「貴方は指揮官としても戦士としても評価できません。信用できません。故に、戦闘部隊には配置しません」「王女殿下、お慈悲を! 今日までの私の働きへのっ!!」 もういっそ、ヴァーリアの姫さんの足に縋らんばかりのロータル。 だが、ヴァーリアの姫さんは一顧だにしない。 断言した。「黙りなさい」 痺れるね、コレは。「そもそも、今、ここに居る原因は全てが貴方である。出撃を決めたのも、<黒>と戦ったことも、包囲されたのも、全てだ」「私は、誠心誠意、貴方にお仕えを、努力を……」「結果の伴わぬ努力など無意味です。先の戦いで何人の戦士が散ったか! 忘れたか!!」 あ、正規軍からそうだ! そうだそうだ!! の声が上がった。 本当に人望無いのな、このロータルとかいう阿呆は。「い、戦の勝敗など将にとって常の事、一度の失敗をもって私めを断ずるのでありますか!?」「恥知らずめっ! もはや我が前で二度と口を開くな!! パジン、連れて行け!!!」「うす」「大丈夫?」「あ、はい」「お姉さん、強いね」「はい……」 中々の態度に、思わず聞き入ってしまっていた俺とヘレーネ夫人さん。 そして、仕切り直し。 とはいえ、直ぐにでは無い。 ロータルがやってなかった仕事、正規軍 ―― ヴァーリア鉄槌戦士団の状態確認やら、怪我人の治療やらを命じた後に、だ。 手間取るかと思ったが、かなりスムーズに行えていた。 指揮官代行(ロータル)がアレだったので、命令された最低限度の行動しかしてなかった(サボタージュをしていた)のだろう。 人間、そんなものだ。 と言うか、見たら若いのが多かった。 上を見ても20は超えてない感じだ。 若いからこそ、阿呆なロータルの言葉に従いたくなたっかのかもしれない。 そんな戦士団の面々だが、ヴァーリアの姫さんが指示を出すと、テキパキと作業を行っていく。 後、側に居た為か、俺にも聞いてくる。 教えたりすると素直に納得したりしたので、提案などももした。 素直に従う。 ヴァーリアの姫さんも納得したりした。 本当に、こんな連中を腐らせたロータルは実に凄かったというべきだと思った。 その間に、偵察に出した連中から<黒>の動きの報告が上がってくる。 想定し得る最悪 ―― 怪我人組みの方向へと進む事も無ければ、此方に追撃しようともしていなかった。 どうにも、郡都方向へと下がっていったらしい。 そう言えば連中、糧秣の類を背負ってたりしていた風は無かったから、補給にでも戻ったのだろう。 なので、それに合わせて此方も動く。 方針説明。 告げる相手は、遊撃部隊の面々と、何故かヴァーリアの姫さんとその従者。 副官か? とも角、得られた情報を告げ、その分析を口にする。 小所帯なので、指揮官から参謀まで俺の仕事。 というか脳筋しか居ない。 ま、参謀なんてのは余程に頭の良い奴か、或は高度な教育を受けた人間が居て成り立つ様なモノなので、ホイホイとそこら辺に居られても困るのだが。「なので、今のうちに逃げる」 断言すると、割と皆して塩い表情になる。 そんなに戦争が好きか? 或は慢心か? 勝ってるのにとでも思っているのかもしれない。 少しだけ注意しておこう。「おいおい、俺たちの目的を忘れたのか?」 怪我人組みを護り、公都を目指す。 その途中でヴァーリアの姫さんの部隊を助けたってだけだ。 主目的を忘れちゃいけない。 そもそも、勝つか負けるかで言えば、負けないだろうけど勝てもしないと言うのが現状だ。 ならば、そもそも戦をしなければ良い訳で。 と、ヘイル坊や。「じゃのうて、そんなに素直(● ●)に言わんでも」 周りから勇者の如く見られながらの発言。 そうなの? と回りを見れば、皆して頷いている。 あー あー 逃げるってのが嫌だったのな。「じゃ、戦略的転進で」「同じじゃないんですか!?」「エミリオ、人間、言葉を連ねれば、現実よりも良い事を言っている様に聞こえるものさ」 ペテンとも言うが。「えっ!?」 二度見された。 ウィンクを返しておく。 騙されてくれよ、頼むから。「どうするというの?」 ヴァーリアの姫さんが口を開いた。「どんな言葉を選ぶにせよ、俺たちがするべきなのは護民、南方混成群を護るって事ですよ」「南方混成群? 具体的には?」 遊撃部隊(ウチ)の行動を知って、ヴァーリア鉄槌戦士団(アッチ)を決める積りかしらん。 助けたけど、正規軍の軍事行動やら目的やら何てのには興味も無いんで後はご自由に!(知ったこっちゃない) なんだけども。 取りあえず、丁寧には説明する。 南方混成群という存在の成り立ちから、後は、公都へと避難する為の大まかな移動経路などを。 少し話した程度だが、このヴァーリアのお姫さん、性根の腐った人間では無さそうなので、大丈夫であろうと判断しての事だった。 俺たちを囮にはしないだろう、てね。 多分。 そんな半信半疑な気分だったので吃驚した。「苦労を掛けている」 まさか、最初に謝られるとは思ってなかった。 俺だけじゃない。 遊撃部隊の誰もが。 後、姫さんの従者さんもが。「殿下!」 従者さんを手で制して、嘆息した。「我が公国軍は国と民を護る本義だと言うのに、民や旅人の自衛も無くば生き残れていないのだ。<黒>の前に公家の権威などどれ程の意味があろうか」 口元にほろ苦さが見える。 或は忸怩って、所か。 この御仁、どうやら矜持は持っている様だ。 流石はヘレーネ夫人さんのお姉さんって所か。 こんな気性の人の下でロータルみたいな奴が自由に出来たものだと感心するレベルで。 身分だの政治的だのとかいう理由なのかしらん。 しがらみって面倒だよね。 俺、要らない。 そう言えたら楽だよね、きっと。「トールデェ王国より来たビクター」 名を呼ばれた。 見る。 目線があった。 回り中の耳目が集まっているのが判った。 俺が口を開く前に言葉が連ねられた。「私に協力して欲しい。正しくある為に」「微力を尽くします」 ついつい調子に乗って返事をしました。 しかし、大上段に出たもんだ。