クトーヌ村への救援に向かう旨、避難中の本隊へと伝令を出し総勢29名で動く。 29人、1人伝令で出しているのに総数が減っていないのは、救助したディルクが此方に加わってきたからだ。 本来であれば伝令と一緒に下げたかったのだが、本人が行くと言って聞かなかったのだ。 コイツはコイツで忠義に厚いものである。 ディルクの乗る ―― 小柄な奴の後ろに乗せた馬を見れば、疲労もあってか顔色が良くない。 <黒>に捕まって引きずり回されての今なのだ、当然だろう。 だが目は死んでいない。 必死になって前を見ている。 家人として主らを、ブラウヒアの奥方さん等の事を案じているのだろう。「その心意気、応えたいものだな」「あ? 何かあったか?」 何とはなしに呟いた言葉に反応してか、ストークが馬を寄せてくる。 良く聞こえたなと関心するより先に気になったことが一つ、その顔色だ。 曇ってるというよりも青ざめている。 目つきは先の一合戦の前の、縋るようなものに戻っている。 出発するまでは落ち着いていたから、コレは現状に対する不安、というか戦闘を指揮する事への緊張や或いは指揮を執る事への忌避感が強いって事だろう。 何と言っても、指揮官としての初陣が死にかけた徒歩での戦獣騎兵戦だったのだから仕方が無い。 指揮官って立場は、命を預かるってのは、決して軽くないのだから。 にも関わらず、それを背負うストークはと言えば、平素では牧場で働いている人間で、年齢も俺とそう離れていないときている。 牧場が村で一番大きかったという、ある意味で政治的な都合で就けられた指揮官の座なのだ。 そりゃ、そんな人間が簡単に肝を据わらせられるかってなものである。 いや、肝というよりも戦度胸か。 仕方が無いけれども。 とはいえ、余り良い傾向じゃない。 指揮官がコレでは隊の兵も、士気が上がりきらないってなものである。 そして士気が上がらない兵ってのは戦にならない訳である。 なので、気分転換というか、精神の再建ってなモノをさせるとしよう。 本当はコレ、指揮官の仕事な筈なんだけどね。 仕方が無いが。「いや思い出したのさ」「何をっ?」 好奇心というよりも警戒感が顔には浮かんでいる。 なので、それを緩和するようにしよう。 指揮官の弱気は禁物ってなものである。 調子に乗ってるのも駄目ではあるが。「いや、村の戦いは何だったのかってね」 話題を変える事もだが、本気で不思議ではあったのだ。 この連中は馬の扱いが本当に上手くて、簡単にゴブ助ども蹂躙してたのに、最初に会ったときは歩兵だった。 徒歩で戦獣騎兵と戦い、そして蹂躙されていたのだ。 あの時だって馬に乗ってれば、あそこまで一方的に叩かれることは無かったんじゃないかと思う訳で。「あ、あれは……その、軍制の問題って奴だ」「は?」 編成ではなく? と思わず変な声をだしたが、よくよく聞くと正に編制の問題だった。 何でも、このルッェル公国の2代目さんが軍を整えた際に、騎馬部隊は常備軍の極一部のみにし、他は全て徒歩部隊にする事を定めたのだという。 具体的には、公称で2000名に達しているというルッェル公国常備軍の1割以下、100人も居ないルッェル騎士団だけが騎馬部隊なのだという。 他には指揮官や伝令も騎乗してはいるが、その総数は100にも足りないという話だ。 馬が名産というか特産の国ではあるのだが、基本、輸出品状態らしい。 何とも馬鹿らしいが、仕方が無い事かもしれない。 騎馬部隊ってのは展開力や突破力こそ優れているものの、飼葉や水といった後方への負担の大きすぎるのだ、裕福とは言えない国家にとっては、おいそれと揃えられるものではないだろう。 そもそも今のルッェル公国は<黒>の大侵攻である<黒嘯>に於いて一度は滅びた国なのだ。 そんな国が、大規模な騎馬部隊を維持できる筈も無かった。 しかし、そうなると疑問が出る事になる。 俺も他の連中も、現在進行形で馬に乗ってるのだが、文句は言われないのだろうか、と。「今は良いのか?」 ポンポンと優しくロットの背筋を叩いた俺の仕草で意図を察したらしく、ストークは茶目っ気のある笑いを見せた。「緊急的避難措置で、私物に乗ってるだけさ」「いい加減だな、おい」「そんなもんさ。一応言っておくが、王命で軍に加わる時は流石に禁じられてはいるんだぞ? だがルッェル公国もそれなりに広いから、簡単な軍役の場合だと飼葉とか自弁出来さえすれば、見逃されるのさ」 どこそこで訓練があるので集まれとか、はたまた、はぐれの<黒>だの賊だの戦獣だのが領内に潜り込んできたみたいなので自衛しとけとか、そんな時に、という事らしい。 尚、前にアデンさんの言ってたゲーベル馬弓隊ってのも、昔々にはぐれ<黒>狩りにゲーベル郷土防衛隊が活躍した時に、時の公王が戦果を褒め称えて与えた異名なのだという。「何ともまぁ」「とはいえ、公都に着いたら流石に馬は降りなければならないけどな」「だな。馬を抱えて城に篭る訳にもいかないからな」 飼葉も水も、消費量が半端ではないのだ、馬という生き物は。 後、城内では馬の巨体が邪魔ってのもあるだろう ―― と思っていたら否定された。 飼葉はタップリと備蓄しているし、水は公都の隣が大きな湖なのだという。「んじゃなんでさ?」「いや、それがな………」 声を小さくしたストーク。 回りも見る。 遊撃班のほかの連中と、少し距離があるのを確認して、口を開いた。 理由。 それは嫉妬なのだという。 それも、他の郷土軍からのではなく、常備軍からの、である。 正確には、常備軍の中に居るルッェル公国の家臣団である14陪臣家とその眷属、総称して士分なんて言われている連中に、にである。 このルッェルという国は身分差、というか差別意識のある手合いが士分には多い為、下の筈の連中が自分達の乗れない馬に乗ってくるのが気に喰わないと、臍を曲げるのだそうだ。 実に呆れる理由だ。 しかも、この差別意識を辿ると更に呆れる理由があるとの事である。 公家たるライヒャルト伯爵家は祖を辿ると大帝國<イェルドゥ>の貴族、軍閥たる帝國軍伯ルッェル家である。 言わば、トールデェ王国の王家の祖たる帝國選帝侯オーベル家と、家柄の古さだけで言えば同格に近い血筋だ。 しかも80年近い前まではルッェル王国として、紛いなりにも独立国でもあった。 だが<黒嘯>によって滅び、そして紆余曲折を経てトールデェ王国の邦国としてルッェル公国として再建されたのだ。 それが気に喰わないのだという。 邦国としてトールデェ家に膝を屈し、家名を改めて臣下となっているのが、と。 更に言えば、士分の連中は家臣ではなく陪臣として呼ばれるのが勘弁ならないのだ、と。 それをストークは、軍の演習の際に酔っ払った士分の連中が叫んでいるのを聞いたのだと言う。「あー その、何だ………」 言葉にし辛い。 要するに鬱屈がプライドを歪ませ、下の人間に発散してしまっているのだろう。 もう、呆れすらも通り越す話である。 ストークが小さな声で言うのも当然だ。 こんな阿呆な話、若い連中(コドモ)に聞かせられない。「大変だな」「ハハハハハハ」 搾り出した慰めに、乾いた笑いを浮かべるストーク。 笑うしかないってものである。 しかし、今の話で少し思うところがある。 ストークだ。 コイツ、只の牧場の跡取り息子と言う割りに学があるというか、物事を見る目があるというか。 評価を上方修正しておこう。 知力を + ってな感じで。「しかし、そうなると公都に篭ってからは面倒くさい事になりそうだな。頑張れよ」 言外に、俺は知らんぞと言っておく。 いやストークやヘイル坊や、或いは遊撃班の連中と縁が付いたので死んで欲しくないし、手伝いたいとも思うけど、ヘイトな連中とは仲良くなりたくないってなものである。 俺にせよエミリオにせよ、連中からすれば憎っくきトールデェ王国貴族の子弟サマである。 どうみても面倒事にしかならない。 要するに、面倒からは逃げるに限る、って事だ。 そもそも、俺はレイシストと特亜な連中が大嫌いだし。 いや、まぁなんだ、流石にこの世界にアルニダが居るとは思えないが。 居ないよね? お願い神様! だ。 と、お馬鹿な考えを脳ミソで転がしていたら、「ああ。大丈夫さ、士分も、若い連中はそうでもないからな」「そうなのか?」「最近は士分や裕福な家の子がトールデェへ留学するようになっててな。それで、帰ってきた奴の大抵はそんな事はしなくなる」「あー うん。うん、何か納得した」 トールデェで脳筋思想に染まったのですね、判ります。 強くあれ! 武功を上げれば栄耀栄華は思うまま!! 強ければ身分だって上がる!!! というある種で修羅の国(シンプル)な身分制度があるからね。 つか、ヒースクリフ家だって母親様が武功で爵位を賜った新興の貴族家なのだ。 そんな国を見れ来れば、コップの中の嵐的な身分での差別なんて、馬鹿らしくてやってられなくなるんだろうね。 きっと。 因みに、文官だって区別なく国家に益する大功を上げれば爵位を賜れる辺り、実に実力主義の国である。 しかし、国を離れてしみじみ判るが、トールデェ王国、何かやっぱオカシイ国だわ。 兎も角、そんな馬鹿話をしつつクートヌの村を目指して馬を走らせた俺達たが、その手前で厄介事が待っていた。 突如として少し間抜けな、だが良く通る音が響いた。 ゲルハルドの授業で聞いた<黒>の角笛、その警戒警報音だ。 どうやら<黒>のピケットに引っ掛かったらしい。「なっ!?」 ストークが馬を止め、慌てて周りを見ようとするが、今はそれどころじゃない。 今、俺達が居る場所はクートヌ村に繋がる街道、道の両側に木々が生えた見晴らしの悪い場所だ。 馬にとっても動き辛い場所だ。 危険。「足を止めるな!!」 叱責を飛ばす。 今は混乱して良い時間じゃない。「アレは警報笛だ! ストーク!! 村までは後、どれ位だ!?」「この先を少し行けば、角を曲がれば林が途切れて見える筈だ! どうする!?」 一般的に村は周辺を畑にしているし、<黒>などの外敵の接近を早期に察知する為にkm単位で拓いておくのが通例だ。 であれば、引く進むの判断の先に、クートヌの状況を見るべきか。 どの道、この角笛で<黒>には俺達の存在が伝わった筈だからな。「なら前へ行くぞ! 村の状況を見るぞ!!」 強い口調で言い切る。 混乱した状況を立て直すには強引さも必要ってなものだ。「おお!! 皆、ビクターに続けぇ!!」「おお!!」 俺を先頭に、街道を疾駆する。 なし崩し的に俺が指揮官っぽくなったが、今はグダグダとやってる暇は無い。 それよりも前へ、前へ、前へ。 ロットのたてがみにしがみ付く様に身を寄せて、掛けさせる。 俺が指示するよりも先走りやがるこの馬サマ。 馬怖い、ロット怖い、マジ怖い。 角笛は鳴り響きっぱなしで鬱陶しいが、構ってる暇は無い。 というか、本気で走ってる馬の上からだと、今の俺じゃ周りを見る余裕がない。 と、視野に光が広がった。「抜けた!」 誰かが上げた声に、俺は手綱を引いて速度を緩めさせる。 見た。 街道の先、クートヌの村を。 アバウトで数キロ先のその村は、ウジャウジャと余裕で3桁台は居る<黒>の連中に取り付かれちゃいるが、煙は上がっていない。 まだ外郭を抜かれていないっぽい、間に合ったか。 が、その事に安堵を覚えるよりも先に、誰かが悲鳴を上げた。「せ、戦獣騎兵だ!!」 周囲を索敵、するとクートヌの村からやや離れた方向からコッチに向かってくる集団が居た。 ああ確かに犬に乗った狗助だ。 犬2乗がコッチに向かって全力疾走してきやがる。 数は、40~50は行かないがコッチよりかは多そうだ。 しかも距離が近い。 1分としないうちに接敵されっちまいそうだ。 ファック、面白くなってきやがった。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-08激戦! 騎兵対戦獣騎兵 俺個人としては実に面白い状況であるが、ストークにせよ他の奴にせよ慌ててしまっているので、面白がっては居られない状況な訳で。 逃げ腰になる奴、思わず馬にしがみ付く奴。 逃げようと言う奴も、逃げ出した奴も居ないが、完全に冷静さを失っている。 この状況で喰らい付かれると危なすぎる。「ストーク! 進め!! 距離を取れ!!!」 四の五の言う前に指示を出す。 物事を動かす為、単純に言い切る。「なっ!? どうするんだ! 突っ込まないのか?」 怯えても退くを口にしないその意気は見事だが、こんな状況で突っ込んでも勝てる筈が無い。 勇気と無謀を吐き違えるのは、断じてノー ってものだ。「腰が引けたまま突っ込めるかよっ! 今は距離を取ってから弓戦を仕掛けさせろ。俺は時間を稼いでくる」 馬と戦獣の足は、短い時間であればほぼ同じレベルで動ける。 にも関わらず、此方は今から動き出そうってのに、相手は既にトップスピードである。 こんな状況だと馬が加速しだす前に食い付かれるってなものだ。 だから、時間を稼ぐのだ。「なっ!?」「じゃ、後でな!」 手綱を引いて正面から喧嘩を仕掛ける。 ハルバードは脇を締める形でしっかりと保持し、吶喊だ。 連中の構えているロングソードが陽光を煌かせている。 怖くないと言えば嘘だが、血湧き肉躍るってのも事実だ。 蹂躙しようとしてくる連中を蹂躙するってのは、気持ちのいいものだ。 ロットの腹を蹴って、走らせる。「ビクター!」 呼ばれてチラリと後ろを見れば、ヘイル坊やだ。 付いてきてやがる。 馬鹿野郎め。 後で(● ●)叱ってやる。 大目玉だ。 後で死んだほうがマシだと思う位に叱り倒してやる。 だが、それは今じゃない。「付いてくるなら俺の命を聞け! 迷うな!! 離れるな!!! Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」「うっ、ウラァァァァァァァァァ!!」 キツイ口調の命令に、目を白黒させながらもロシア式を真似て来やがった。 可愛いものだ。 真っ向から殴りかかる ―― そう見せかけて、接敵の寸前に手綱を取って右にかわす。 だが避けるんじゃない。 勢いを逸らして側面から喰らい付くのだ。「Siiiiiii」 左手で保持したハルバードを下から上へと振りきる。 狗助もだが、下の戦獣にもダメージを与えてないと暴れられても厄介なのだ。 狙いは顔、バイタル部位だ。「Iiiiiii!!」 1騎の顔面を粉砕し、更に2騎にダメージを与える事に成功する。 更に振るえば、オマケで1騎をふっ飛ばせた。 1当りで4騎にダメージは幸先良いってなものだが、彼我の兵力差は10倍以上だ。 ちっぽけな強襲の成功に酔ってる暇は無い。 狗どもが混乱している間に一度離れて、連中の塊に取り込まれないようにしなければならない。「ヘイル!」 名を呼んだヘイル坊やは、見れば俺のやや左後方でバトルアックスを振るっていた。 チト力み過ぎているが、足は止めていない。 最低限度では、グッドである。「離れるぞ、続け!!」」 最初に釘を刺したのが効いてか、素直に頷いたのだが、離脱自体は上手く行かなかった。 ヘイル坊やの馬が、足を、勢いを殺されてしまっていたのだ。「チィ!?」 疲労や、戦獣と相対した恐怖からかもしれないが、厄介な事になった。 即座に狗どもに囲まれていく。 慌てて駆け寄ろうとするが、ヘイル坊やが止めやがった。「先に行っくれ!」 覚悟を決めたような顔をしやがったヘイル坊や。 だから言う事は1つだ。「ド阿呆がっ!!! 簡単に命を諦めてんじゃねぇっ!!!!」 ぶん殴ってやる。 ロットの手綱を引いて、一気にヘイル坊やのところへと身を躍らさせる。 飛ぶ。 戦獣を飛び越え、ヘイル坊やの脇へと着地。 あっ、戦獣を1騎は踏み潰してやがる。 このロット、マジでスゲー×2なバケモノ様である。 蹄が馬と違う。 所謂黒王サマか松風かってな按配だ。 騎手たる俺も負けてられないので、ハルバードを横なぎにする。 が、残念。 畜生どもは、見事にバックステップ決めて回避しやがる。 ぬう、ゴブ助どもとは格が違うってなものだ。「ビクター!? なんで!!」「後で馬鹿な餓鬼(テメェ)を殴る為に決まったるだろうがっ、ボケェッ!!!」 英雄趣味(ヒロイズム)なんて大嫌いだ。 そんなフラグは全部折ってやる。 それが俺の趣味だ。 とはいえ完全に囲まれたってのは痛い。 俺とヘイルを中心に、直径で約5mな円が出来上がっていて、その様は四方八方、十重二十重ってな按配である。 動けば、それに合わせて円も動く。 狗は狗なりに頭が悪くない。 少なくともゴブ助よりは知恵を感じる。 面倒な相手だ。 威嚇するようにハルバードを振るえば、それに合わせて動いてくる。 此方の隙を窺うようにしている辺り、実に面倒くさいものである。 というか、支配階層にして指揮官役のオークも居ないのに、それなりの連携が取れているってのが、迷惑な話である。 連中の本隊を見れば、此方に少なからぬ数が分派されてきているから時間稼ぎをしているのかもしれない。 指揮官役のオークも居ないのに高等戦術を使いやがるものである。 というかここら辺の挙動を見るに、コボルトが種族としてオークに対し忠誠心じみた何かを持っているって話も本当なのだろう。 でなければ、ゴブ助と違ってオーク抜きでも動く事が理解出来ないってなものである。「どっ、どうするんじゃ!?」「やる事は1つさ」「決まったとるんか!? 何をすればええんじゃ!」「目の前の敵を潰す。潰して潰して潰せば、何時かは相手は全滅してる。な、簡単だろ?」「はぁ!?」 ヘイル坊やが素っ頓狂な声を上げやがった。 いや、確かに2人で40からと戦おうとすると無茶に感じられるが、これが、例えば1対1を20回か40回繰り返すと思えば、簡単な話になる。 人間、何事も心の持ちようってなものなのだ。「嘘だろがよ!?」「マジさ」 ざっと周囲を見れば、戦獣騎兵は尽くがコッチに集まっている。 アホだ。 所詮は狗だ、俺らに気を取られてストーク達を丸っと忘れてやがる。 後はストーク達が戻ってくるまで時間を稼げば良い。 良いのだが、それじゃあツマラナイってなものである。「ドッチを向いても敵だらけ、味方は俺とお前。ならもう迷う事なんて無いだろうが」 ヘイル坊やが返事をするより先に、ハルバードを振りぬき、切っ先で盛って突っ込んできた戦獣の鼻先を潰す。 悲鳴と共に転げまわる戦獣、狗は胴体で潰されてやがる。 繊細な鼻先は、痛みが倍なご様子。 ザマァミロ、だ。 だが笑ってられたのもそこまでだった。 そこから一挙に戦獣騎兵が踊りかかってきた。「ヘイル、死にたくなければ気合を入れろよ!」「おっ、おぉ!!」 ロットの腹を蹴って前進を命令。 動かずに応戦なんてのは趣味じゃない。 イニシアティブを握らない戦いなんて、大嫌いだ。 前へ! 前へ!! 前へ!!! 道を辿るんじゃない、道を切り開くのだ。 手綱は放す。 ロット、この馬は気合が入っていて、手綱を握っていなくても前に進んでくれる、そう信じるのだ。 空いた手もハルバードにそえて、長大な両手で保持する事で切っ先でも石突でも自在に撃てるようにする。「Kiei!」 機を狙ったでもなく、隙を見つけたのでもなく、ただ本能のままに飛び掛ってきた阿呆な戦獣の頭に向けて石突を叩きこむ。 頭蓋骨は頑丈だが、振り下ろすハルバードだって自重で5kgからあるのだ。 そこに俺の力が加われば、如何に戦獣とはいえ1発で潰れ、血と脳漿とを撒き散らす事となる。「遅れるなよ!?」「おぉ!!」