俺達迎撃班がゴブリンの群れを発見するのは簡単だった。 哨戒班がキッチリと位置を把握し、移動ルートを観察していたお陰だ。 それに、戻ってきた奴の先導が正確だったのも大きいだろう。 青年団の奴でまだ若いってか幼かったが、かなりしっかりした奴だった。 お陰で迷う事なく発見できた。 距離は、馬車列を離れて小一時間程度東北の方へと原野を走った辺りか。 丘陵を幾つか挟んでいるお陰で、馬車列が見つかっている様子は無い。 丘陵に身を隠して、ゴブ助集団の様子を観察する。 こういう時に双眼鏡が欲しい。 目は悪くないが、詳細が読めない。 カールツァイスだのニコンだのと贅沢は言わないから。「居るな」 ストークだ。 2人して丘陵に上って、しかも草地なので寝そべってだ。 コッチの姿が見えない様に念の為にって奴だ。 下に残した連中にも、隠れておくように言ってある。 奇襲ってのは突然に受けた方が、高い効果が望めるからだ。「ああ。連中、緩んでるな」 ゴブ助どもは隊伍も組まずに歩いている。 規律なんて欠片も無い。 数は流石に数え切れないが、100以上の200以下って感じだ。「おっ、オークだ」「何処だ?」「中心の、やや後ろ側だ」 ストークの指差した先を見る。 居た、オークだ。 周囲のゴブリンよりも頭2つか3つは大きいので良く判る。 楕円ちっくに動いているゴブ助の真ん中っぽい辺りだ。 数は、距離があるので読みきれないが、大体で3~4匹って辺りだろう。「目標確認っと」「良いのか」「ああ、下に戻ろう」 大体の位置と数さえ判れば問題は無い。「なぁビクター、どうする積もりだ」「指揮官はアンタだぞ、ストーク。どうしたい?」「いや、だって正面からぶつかる積もりだったから。俺たちが全滅しても、時間が稼げればそれで良いって思ってた」 その覚悟や良しであるが、ちと今回は過剰だろう。 なんたって相手は200も居ないゴブ助主体でしかないのだ。 対するコッチは弓を主武装とするとはいえメイスを持ち、しかも鎧は板金補強されたハードレーザー・アーマーを備えているのだ。 要するに突撃上等の騎兵サマってなものである。 尚、騎兵の定番である槍系を装備しない理由は重量というか、馬の持つ積載能力が理由だという。 馬上弓戦用に大きな矢筒を抱えてた上で至近距離での戦闘用に柄の長いメイスを装備し、更に槍なんてモノまで持っていたら重くなり過ぎて馬の疲労が早まる ―― とかいう判断との事だった。 何と云うか、割り切りである。 何にせよ装備自体は古臭い面もあるし魔法の掛けられた装備なんて見当たらないが、にしてもパッと見でも裕福とは感じられないルッェル公国の、それも第2線級部隊の装備と考えれば奢ったものである。 ここら辺、この国の祖となった帝國貴族ルッェル家の兵であった頃からの伝統って奴なんだろう。 多分。「一寸待て。あの程度なら、そこまで酷い事にはなら無いはずだ」「そうなのか? 俺は単に年齢とかで選ばれた指揮官だから判らんのだ………なぁビクター、お前は確か専門の軍事教育を受けているんだろ? せめて説明を頼むよ」「あー うん、そうだな…」 ストークのまなざしには縋る様な色があるってか、感じて思わず言葉が鈍った。 ほとんど経験無しで人を率いているんだ、当然か。 その経験も先の負け戦、蹂躙されかかった迎撃戦とくれば、その気持ちは判らないでもない。 だが俺だって演習ならまだしも実戦で指揮官なんて立場、やった事なんてある筈が無い。 それで昨日今日知った連中の命を預かって良いのかって、思うのだ。 28人からの遊撃班の、命だ。 しかも、今の俺よりも若い、いや、幼い奴までいるんだ。 そんな命を預かるのは、決して軽いもんじゃない。 マジでプレッシャーだ。 とはいえ、この状況下で向いているのは俺の方となれば、グダグダと言う訳にもいかないか。 俺が学んできた事で、人の命を護れるなら、全力を尽くすべきなのか。 クソッタレ。 やってやるよ。 頬を叩いて気合を入れると、俺を見ている31対62の瞳に背筋を伸ばして言葉を発する。「狙うはオークの首、只一つだ」 言葉は腹に力を込め、目に気合を入れて紡ぐ。 断言するのは、聞き手を鼓舞する為に。 指揮官は冷静じゃなければならないが、かといって冷静なだけで勤まるものではないからだ。 今、俺は指揮官じゃないが、かといってぺーぺーな立場でもない。 指揮官ちっくに頼られているのだ、であれば応えねばならねぇってなもので。「集団の率いる奴を潰せば連中は壊走する」「そんなに脆いのか?」「脆い」「お、俺達だって勝てっけぇ?」 懐疑的に言ってくる遊撃隊員A。 他の連中も頷いている。 確かに、そんな脆弱な集団なら何でトールデェ王国が負けたり押し込まれたりしているのかって話にはなる。 が、事実なのだ。 ある意味でって言葉は入るが。 普通のゴブ助であれば、ごく普通に訓練された兵士なら1対1で楽勝で1対2になると辛勝、そして3匹に囲まれると敗北してしまう。 背中を取られて勝てるなんてごく一部の、それこそ母親様やマーリンさんの様な高い戦闘能力を持った人間(バケモノ)だけだからだ。 その意味でゴブ助は手ごわい。 だが、そんなゴブ助が集団戦法を維持できるのは指揮官による督戦があってこそだ。 一匹一匹は小柄で、弱兵と言って良いゴブ助が逃げないように叱咤し、束ね、戦わせる力を持ったオークの様な存在するからこそ、脅威なのだ。 だからこそ、オークを討てばゴブ助集団を撃退出来るのだ。「勝てない筈がない」「そげに簡単に行くけ?」 コッチの合いの手はヘイル坊やだ。 坊やの居るチームが、補足に成功したのだ。 敵を間近で見ていたので、顔つきがかなり真剣になっている。「いく。何故なら俺たちは騎兵だからだ」 精神論じゃなく、事実として、だ。 本来、ゴブ助の集団を突破し、その中枢に居るオークを屠るのは難しい。 だがそれは歩兵の場合が、だ。 騎馬であれば、騎兵が突撃をかました場合、ゴブ助側の指揮官がよっぽどに腰が座ってない限りは簡単に蹂躙できるのだ。 それだけの力、突破力を騎兵の突撃(チャージ)は持っているのだ。「但し、突っ込んでから脚を止めるなよ。止めたら殺されると覚悟しろ」 脚を止めた馬は、その巨体故に的にしかならない。 的になってダメージを受けた馬は容易に暴れて、御者を放り出す。 放り出された御者がどうなるかなんて、考えるまでも無いだろう。 後、この捕捉として、騎兵は突撃に大きな空間を必要とするので、集団として単位(ユニット)が大きく成り過ぎると突撃に於ける統制がし辛くなる欠点がある。 その上で<黒>が、それこそ万から居る団規模となると、突破する過程で殺したゴブ助の死体が邪魔になって、切り込めば切り込むほどに衝突力を喪失し、脱出できれば御の字。最終的には鏖殺されたって事が多々発生しているのだ。 しかも、騎馬による戦闘集団だけでの殴りこみだから、負傷者の回復乃至は回収すらも困難という有様なのだ。 治癒魔法なんかの使い手を付ければとかいう話もあったが、激しく動く馬上で治癒魔法を使うなんて無理無茶無謀な訳で。 更には、怪我して落馬した連中を救おうとすれば、その時点で救出しようとした奴まで潰される有様だ。 突破力に定評のある騎兵は、同時に、ダメージに対する耐久力がいちじるしく乏しいのが現実だった。 なので、<黒>の団規模以上の大集団を相手にした場合に安定した対応は、槍兵で方陣を組んでの削りあいとなっている。 で、正面へは弓兵や魔法兵が火力支援し、側面を食い破られない様に騎兵がサポートするのだ。 普通に諸兵科連合です有難う御座います、だ。 尤も、数で圧倒され包囲されてしまう事も多く、その場合は最後に全ての人間が剣を抜いての殴り合い ―― 泥仕合化してしまう。 <黒>の持つ数というアドバンテージは、簡単には突き崩せない代物な訳である。 困ったものだ。 尚、こんな悲しい現実にも、例外が1つある。 マーリンさんや母親様みたいな英雄クラスの連中(バケモノ)で構成されている強襲兵(アサルト)による突撃(ヒーロー・ストライク)だ。 徒で騎馬級の突破力を持っている変態集団なのだ。 しかも徒だったりするので小回りが利くし、お互いをカバーしあって治癒もし易いと良い事尽くめの兵科だ。 問題は、なり手と云うかそのレベルに達する人間がそう多くないって事だろう。 居てたまるかっても、思うが。 兎も角、駒の少ない強襲兵だが<黒>側の突破戦力であるオーガーなんかへの対応戦力、即ち予備戦力としての役割をも兼ねているんで、初手から投入出来ないってのも地味に辛いのである。 まぁ何だ、今回の事にはまーーーーったく関係ない話ではあるが。「ビクター?」 うん、考えすぎていた。 高笑いで戦場を蹂躙する、あんな姿に憧れるが、今は目の前の現実が最優先だ。 小さく、だが誰もがみて判る様に笑って誤魔化し、ゆっくりと皆の顔を見て言う。「判ったか?」 そうだよ、俺は俺の言葉が皆に浸透する時間を取ってただけですよ。 本当に。 絶対に。 皆が頷いた。「宜しい。では諸君、ゴブ助どもに騎兵の戦い方ってものを教育してやろうじゃないか!」異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-07スキスキ騎兵! 丘陵を縫うように進む。 静かに、悟られぬ様に注意して。 此処ら辺、流石に馬の産地ベルヒトの人間って事だろう。 ロットもストークが撫でたら、それっきり声を上げなくなった。 騎馬民族テラスゴス、だ。 そんな訳で、遊撃班はゴブ助に発見されずにその内懐に潜り込める場所まで接近できた。 ざっと見てで500mを切る位か。 馬が全力疾走すれば30秒と掛からずにその隊列へと突っ込めるだろう。 しかも隊列の右、やや後方にコチラは位置している。 中心に居るであろうオークに、ある意味で薄い(●●)側面から仕掛けられるのだ。「好機って事だ」 全員の顔を最後に確認する。 これで見納めになる可能性があるからだ。 俺が率いて突進するのだ。 名前も知らない奴も多いが、だが、仕方が無い。「総員、装具確認」 最後のチェックを下命する。 これが済めば後は頭を空っぽにして突撃するだけだ。 ペアで装具の具合をチェックさせる。 1人で出来る様なベテランは、この遊撃班には居ないのだ。 そんな皆の具合を見ていると、一際に大きなバトルアックスを持った奴が居た。 ヘイル坊やだ。「おいヘイル坊や、哨戒班のお前が何で此処にいるんだ?」 哨戒班は、避難する馬車列の触覚でもあるのだ。 他の方向からゴブ助どもが接近してこないか警戒し続ける大事な役目を負っているのだ。 その大事な役目を放っておくなんて、とんでも無い事だ。「俺も戦えっ!!」 バトルアックスを大きく振り上げてみせて、やる気のアピールかよ。 おいおい、だ。「今から俺たちが行くのは遊びじゃないんだぞ」「戦力は1人でも多い方がええじゃろがっ!!」 俺は強いと言うヘイル坊や。 だが、まだガキだ。 力があっても、その使い方の判らない坊やを戦場に連れていけというのか。「それは正しい。だが、断る」「なぜじゃっ! 俺は弱く無ぇぞ!!」「かもしれん。が、哨戒線に穴は開けられん。趣味で仕事の手を抜くな」「ああ、そっちの失敗なら問題ねど。代わりにゲントに行ってもらったけな」「あっ?」 周りを見る。 28名、俺とヘイル坊やを入れて29名だ。 あれま。「手際が良いな」 呆れた、そんなに煉獄が見たいか。 バカ野郎め。「どうじゃ! 問題はなかっぺよ!!」 おーけーい。 問題は無ーし、自己選択の結果だってなら、精々こき使ってやるとしようか。 命くらいは、守ってやるがな。「なら、俺の尻について来い ―― はぐれるなよ?」「まかっせい!!」 胸をドンと叩くヘイル坊や。 ナリはデカイが可愛いものである。 では、行くとしようか。「総員、騎乗! 俺にぃ続けぇっ!!」 いざ、疾風怒濤とならん。 全力疾走中な馬の上で弓を放ち、それを命中させる様なスキルなんて持ってないので、一群の先頭でハルバードを振りかぶって突進する。 彼我の距離は残り約200m、駿馬揃いなルッェル馬は空を飛ぶような勢いで突進しやがって、ゴブ助の潰れ顔が良く判る。 泣きたい気分だ。 本気でも怖い。 何がって言えば、馬の本気がだ。 たった1馬力が洒落にならん。 ロット、お前は良い馬なのだろうが、良い馬過ぎて俺の手には負えん。 クソッタレ。 恐怖を吐き捨てる為に喉を震わせる。「Uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」 ロシア式だ。 万歳は言い辛いし、マンセーは論外だ。 英式仏式独式、よーわからん。 だからと選んだ熊式の叫びは、体に眠っている何かを目覚めさせてくれる響きだ。 グングンと大きく見えてくるゴブ助の隊列。と、頭1つ以上も大きいオークを発見。 反射的に手綱を操って、ロットの向きを変えさせる。 真っ向からぶち抜くのだ。 と、俺を追い抜いて矢が降り注いでいく。 後続する28騎から射撃が、ゴブ助の列を崩していく。 5~6秒に1発な勢いで放っていく、凄いねゲーベルの馬弓隊ってな按配である。 奇襲効果もあって、大混乱だ、ざまーみろ、だ。「ヘイル! オークを喰うぞ!!」「はっはい!! ヤァァァァァァァアッ!!」 馬蹄がゴブ助を踏み抜いて駆ける。 向かってくるより逃げ出している連中の方が多い。 接敵する前から割り単位で味方を潰され続けたゴブ助は、騎馬の迫力に喰われて恐慌状態だ。 実にグッドだ。「死ねやあぁぁぁっ!!」 片手振り回すハルバードだが、その切っ先が良いようにゴブ助を引っ掛けて飛ばし、切り裂き、そして潰している。 俺の道は、いまだ塞がれていない。 否。 道は俺の前に無く、後に出来るってんだ。 チラリと脇を見ればヘイル坊やは見事に追従してきている。 つか、馬術自体はアッチが上っぽい。 チョッとだけモニョりたくなる気分を声に出して発散する。「Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」 後続してくる連中も、矢を放ち続けている。 アレだ、熱したナイフでバターを裂くが如くってな按配だ。 進む。 進む。 突き進む。 立ち向かってくる健気な連中を破砕し、逃げる正直ものどもの背を粉砕する蹂躙戦だ。 正に、鎧袖一触ってなものである。 幾つもの血煙を吹き上げさせ、気付けば前にはオークの豚面がひいふうの2匹あった。 驚いているってか、棒立ちだ。 コッチの突進力を甘くみたか。 だが哀れまん。 情け無用で容赦なし、ファイヤーだ。「こんにちわ、それしてさようなら!!」 ハルバードのフルスイング一発で、胴体泣き別れって奴だ。 血飛沫が汚く跳ね上がった。 さぁもう一匹と見れば、ヘイル坊やのバトルアックスで真っ二つにされていた。 おうおう、やるじゃないの。 指揮官役のオークを潰し、ついでに5~60匹くらいのゴブ助も潰した。 作戦成功、しかも味方に死者は出なかった。 怪我した奴はいたが、重傷者は居ない。 怖いくらいの完勝である。 後は帰るだけと言いたい所だが、問題が一つ発生した。 連中は首輪に繋がれた壮年と思しき男性、捕虜を連れていたのだ。「慌てずに、ゆっくりと ――」 疲労状態で一気に水分を摂ると、少しキツイってんで、慌てないようにと声掛けながら水筒を差し出したが、捕虜の人は逆さにして浴びるように飲んだ。 咽ったりもしているが一心不乱ってな辺り、尋常じゃない雰囲気だ。 <黒>の捕虜になるのは、死に囚われるのと同義なのだ。 その恐怖から開放されたのだから、仕方の無い事なのかもしれない。 それよりも大事な事が幾つかある。 1つはけが人の手当てであり、もう1つは残敵の掃討である。 けが人の手当てが重要なのは当然だが、オークを獲られて散り散りになったゴブ助の背中を討つのは、重要と云うよりもスケベな理由がである。 要するに、経験値稼ぎってな按配なのだ。 正確には経験値を積んでってなモノではなく、掃討戦というリスクの少ない環境で、敵を討つという経験を積ませる事が目的である。 迎撃班のメンバーはまだ若いのが多いので、この手の事も必要なのだ。 そんな経験値稼ぎの必要も無い俺が、この捕虜の具合も見ていたのだ。 乱暴に扱われていたらしく怪我は満載だが命に関わりそうなものはなかったので、と水筒を渡したらこの勢いである。 元は、それなりと思しき、だが今はぼろ雑巾の親戚状態となっている衣装を濡らしながらも一心不乱に水を飲んでいる。 と、水筒を飲み干して人心地ついたのか、捕虜だった男が俺に顔を向けてきた。 なんとも必死な顔をしている。「助けてもらった上で厚かましいが、一つ、頼みがある」 血を吐くような、泣きそうな、縋るような顔で頼みとは、救援の願いだった。 話が大事になりそうなので、話を一旦止めさせてストークを呼ぶ。 隊の親玉はストークだ。 俺が勝手に聞いて勝手に判断する訳にはいかないってなものだ。 ストークと、他の連中も集まってきて改めて言われた救援要請は、当然ながらも襲ってきている<黒>のゴブ助どもから助けて欲しいという事だった。 場所はここから東へ徒歩で半日程度の距離にある、クトーヌとかいう村だった。「頼む、あそこには夫人がいらっしゃるんだ」「夫人?」 ブラウヒア郡を統括する領主家、ブラウヒア郡士家ってのの若奥様が、壊乱した軍民の避難民や村人と共に篭っているという。 けが人が多く、何とか村の外郭に拠ってはいるが、十重二十重に囲まれていているので、何時までも維持できるかは甚だ心もとない状況だという。 だからこそ、なのだ。 このブラウヒア家の家人であったディルク・ギーゼンという男が、救援を求めて包囲を突破したのは。 ただ残念なのは、包囲を突破した後に別集団のゴブ助に捕らえられてしまったという事だろう。 事情を話し終えたディルクは男泣きとなる。 救援を求めての脱出行の途中で、疲れて眠り込んでしまった所で捕虜となってしまったのだ。 そりゃ、泣きたくもなるってなものである。 問題は俺達の行動、対応であろう。「ストーク」 名を呼べば、厳しい顔で頷いて来る。 仕方が無い。 この迎撃班としては、最優先がベルヒト村の住民の護衛なのだから、別の村への支援は躊躇が出るだろうと思うのだ。 俺としては手伝ってやりたいって思う訳で。 義を見てせざるは勇なきなりってね。 なので、一人ではあるが援軍に行くかと俺が腹を決めた時、ストークが口を開いた。「ああ。なら、急がないとならないな」 予想外の一言だった。 完全に予想外だった。 だから思わず、言ってしまった。「良いのか?」 対してストークは、俺の発言の真意を読んだらしく、ビクターこそ良いのか? と尋ね帰してきた。 何でも、かつて村が飢饉に襲われた時にブラウヒア郡からの食糧支援を受け、そのお陰で村人は誰一人として餓死せずに冬を乗り切れたのだという。 その大恩あるブラウヒアの人間が居るのだ、ベルヒト村の人間が行かない筈が無いのだ、と。 周りを見れば迎撃班の面々は皆、戦意に溢れた顔で頷いている。 何ともまぁ恩義を忘れない、義侠心に溢れた連中である。 問題は俺なんだろう。 気が付けば、皆、俺を見ていた。 今回よりも更に危険な場所へ、縁も何も無いのに ―― そう思っているのだろう。 だが正直な話、迷うような部分は無いのだ。 女を抱くのも飯を食うのも酒を飲むのも大好きで、ついでに剣を振るうのも大好きな俺としては、義とか義侠みたいな理由で求められるのであれば、拒否する必要なんて、欠片も無かった。 尤も、それをストレートに表現すると評価が終わると思うので建前を口にしておく。「俺は ―― そうだな、人を助けるのに理由は要らないのさ。特に心底困っている人間相手ならな」 イエス! 建前、ノー! 本音。 いやコレも建前じゃなくて本音なんだけどね。 人助け美味しいですペロペロ(^ω^) 的な意味で。 ヘイル坊やが尊敬っぽい眼差しでコッチを見てくる。 悪いが、コレが大人のやり方って事で一つ。「ならば ――」「ああ、共に行こう!」