狼は、只の狼なんかじゃなかった。 普通の野生な生き物であれば、自分への危険を察知すれば基本としては逃げ出すものだ。 しかし、この馬車の群れな野営地を襲った狼どもは、俺らによって出会い頭に数頭が屠られたにも関わらず、戦意旺盛であった。 野生の生物としては、有り得ない。 <黒>の連中が使役しているっていう戦獣、或いはそのはぐれか。 兎も角、普通じゃない。 戦獣は基本的に制御しやすい犬系が基本であり、狼もまた犬系 ―― というか、たしか犬のご先祖が狼なのだから、アリなのだろう。 剣牙虎みたいな洒落にならない化け物は、猫科なのでそうそうは居ないらしい。 全く居ない訳じゃないのが怖い所だが。 狼を一刀両断したが、斬撃を放ったが故に、どうしても生まれてしまった隙。 その隙を狙って、別の1頭が襲い掛かってきた。 しかもジャンプして。 振りぬいて姿勢が下向きである事から、死角を狙ったと思える。 知恵が回る。 俺のやや右の上方から迫る顎門は、暗闇にすらも白く光って見える。 迎撃、無理。 チトばかり力を込めすぎていたらしく、残心が出来ていなかったのだ。 必殺だったからというか、決闘染みた戦い(タイマン)ばかりしていた悪影響か。 クソッタレ。 だから、姿勢を崩す悪手と思いつつも腰を膝を落としての緊急回避。 左膝を着き、そこから蓄えた左脚のバネを使って右へと飛ぶ。 ロングソードを抱くように、そして柔道の前回り受身っぽくだ。 肩から、それもただの土の上での前回り受身なんて、かなり痛い。 が、コレには1つだけ利点がある。 その勢いで、そのまま立つ事が出来るのだ。 隙は最小限度であるのが最上なのだから。 一回転して立つ。 膝をたわませて、力を溜めながら狼の着地点を探る。 すぐ隣だ。 パックリと大きく口を開けてやがる。 食いたいか? なら、くれてやる。 この切っ先をなっ!!「Ietu!!」 最小のモーションでロングソードの切っ先を叩き込む。 半歩踏み込みながら、口から頭蓋骨へと斜め上へのベクトルで、だ。「っ!」 唾液と返り血とが顔を濡らしたのが判るが、拭っている暇は無い。 それよりも先に警告を発さねばならない。「気をつけろ、並みの狼じゃない!!」 普通じゃないとは思っていたが、ここまでとは予想外。 というか、予想できるかっての。「はい」「つぅっ!」 エミリオは盾を使って見事に戦えていた。 問題はミリエレナだ。 武器がグレートソードと、大きい上に重いので俊敏な狼に翻弄されつつあった。 完全に間合いを詰めきられてはいないが、それでも危険域に近づかれつつある。 というか、1匹がグレートソードを潜りやがった。 コレはヤヴァイ。 咄嗟にナイフを引っこ抜いて、投擲する。 牽制目的の、割と適当な狙いだったが、見事に狼の横っ面に突き刺さる。「ギャヒン!!!」 怯むと言うか、のたうった狼。 ミリエレナはその隙を逃さず、グレートソードを叩き込む。 狼は、斬られたというよりも潰されたと評すべき惨状、即ち大地の染みになった。 威力は十分なんだがな。「エミリオ、ミリエレナのフォローに入れ。後、闇を照らす系の魔法があったら頼む」「判りました!」 討てば響くの返事。 その点でエミリオ、実に良い。「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ闇を閉ざすの力! 輝ける空 」 エミリオが唱えた発光の魔法は即座に効果を表した。 蛍光灯っぽい明かりの玉がエミリオの手の内に生まれ、そして10m位の高さに浮かんだのだ。 要請してナンだが、正直に言って驚いた。 盾の形成に、音の収集、そして光を生む魔法。 エミリオって、意外と魔法の才能があるっぽい。 或いは、便利系魔法の習得に努力していたのか。 どちらにせよ凄いものだ。 子供の内は、見栄えの良い魔法とかを優先して覚えようとかするものだけど。 内の妹みたいの。 兎も角。 生み出された魔法の光が、狼たちの布陣を教えてくれる。 此方を警戒して半円で囲ってきているのだ。 猪突猛進に突っ込んでは来ない。 魔法の光にすらも怯みやしないってのは、凄いもんだ。 知恵が感じられる。「2人とも、突っ込むなよ」 明確に “命令” する。 突進した挙句に接近され、包囲されて弄られるなんて、願い下げだからだ。 視野の隅で、2人が頷いたのを確認する。 旅の前に、事、戦闘だけは俺の命令に従ってくれと言ってある。 それをキチンと守れるのだから、この2人、良い。 さて、どうするか。 こう着状態から、相手が退いてくれるなら有難いが、同時に面倒になる。 チョッとだけ離れた場所に、ドンが居るからだ。 である以上、目指すのは完全な無力化(ジェノサイド)しか有り得ない、か。 無駄な殺しは好みじゃないが、仕方が無い。「エミリオ、攻撃魔法は使えるか」 具体的には、広域殲滅魔法の類が使えると有難い。 狼は俊敏さこそ優れているが耐久力などは劣っているので、面制圧で押しつぶすのが一番簡単なやり方なのだ。 言ってしまえばスコア稼ぎ(サイ・フラッシュ乙)の相手でもあるのだ。 が、返事は残念なものだった。 教義として使用が禁じられているとの事だった。 武神バルブロクト、拳骨を象徴とするが故に、魔法によるアシストは認めても、魔法による直接攻撃は否定している模様。 納得はする。 近接戦闘の武を肯定する神様なのだ。 であれば、それを否定する存在を受け入れられる筈も無い訳で。 神様、神族ったって元々は人間なのだ、その本質がそうそう変わる筈も無い訳で。 なので感想は一言。 デスヨネー だ。 どチクショウ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント2-02狼は ゴブリンよりも 強かった(節語無し 睨み合い。 距離を詰めて離れての膠着状態。 いっそ、ナイフでも投擲してやろうかとも思うが、自制する。 この暗闇で放って回収出来るとも思えないからだ。 幾らナイフが投擲用で安いとはいえ、牽制というか、様子見で失うのは流石に惜しい。 さて、どうしたものか。「フォォォォォォォン!」 悩んでいたら咆哮一声と共に、暗闇から大型の狼が出てきた。 他の個体が茶色や灰色を基調としているのに、コイツだけ黒基調だ。 しかも、一回りと言わずに大きい。 モロの三輪神様程じゃねーが、それでもポニークラスはある、見事な化け物だ。 しかも、瞳には知性の色がある。 間違いなく<黒>の戦獣だな。 昔の<黒嘯>で侵攻してきた連中、そのはぐれの末裔だろう。 どの世界でも、野良は迷惑な事だ。 しかし、隙の無い挙動をしてやがる。 コッチが剣帯からナイフを抜こうとしたら、姿勢を低くして全身のバネを撓ませてやがる。 投擲の予備動作って判っているのか。 知恵が回る。 こりゃぁ、今のエミリオじゃキッツい相手かな。「下がってろ。俺が相手をする」 視線の中心を戦獣に合わせながら言う。 油断の出来ない相手だ、気を抜くなんて出来やしない。 しかも、周りの狼どもも戦獣の動向に合わせて微妙に陣形を変えてきている。 良く躾けられていやがる。 こんな連中がウロウロしていたら、夜が安心できないので殲滅しないとヤヴァイね。 警報装置な魔道具もあるけど、これだけ頭の良さげな相手では、安心出来ないってもので。 すり足で近づく。 戦獣の方は、更に姿勢を低くしやがった。 食らわす一撃を避けられたら、体の何処だろうが確実に噛み千切られるだろう。 こういう時は、自分の防具が軽装なのが悔やまれる。 鋼鉄製のガントレットとかであれば、腕に噛まれても問題は無かったろうが、今は魔法で耐久力を強化しただけの革手袋だ。 これでは心もとない。 深呼吸と共に、ロングソードを両手で大上段に構える。 プチ自顕流 「蜻蛉っポイ」 だ。 「蜻蛉の構え」 とは言わない。 本物の薬丸自顕流を修めている人達は 「構え」 って言葉を嫌っていたって話にあやかっての事だ、。 何でも 「構え」 ってのが防御の型を意味する言葉ので、んなの先制攻撃初撃必殺を標榜する流派に合わぬと嫌っていたそうな。 どんだけ攻撃優先よ!? と思わないでも無いが、伝説的人斬り包丁集団の局長さんですら 「初太刀は外せ」 と言ったらしいので、らしいといえばらしいのかもしれない。 そんな、馬鹿な事を脳みその片隅で思い出しつつも、意識は戦獣から外さない。 ヒリヒリする様な緊張感。 そうか、俺って自分よりも小柄で優速、乃至は俊敏な相手とするのは初めてか。 母親様たちにすら、速度では負けなかったってのに。 戦獣ってのは、凄いものだ。 距離が1足の間合いに達した。 戦獣の顎先は、殆ど地に着かんばりになっている。 彼我共に戦準備は十分ってな。 踏み込む。 振り下ろす。「Kieeeeeeetu!!」 耐えるならやってみせろ。 避けるならやってみせる。 出来るものならな! という気合の込めた一撃だ。 このロングソード、手に馴染むというか、実に具合が良い。 特に、このプチ自顕流との相性など最高だ。 衝撃 が、その切っ先が戦獣を切り裂く事は叶わなかった。 というか信じられん。「ビクターさん」 エミリオが悲鳴じみた声を上げた。 俺も上げたいぞ。 真坂、刀身を噛むなんて。 ガッチリと噛まれていて、動くに動けない。 というか一瞬でも気を抜くと、ロングソードが持っていかれそうになる。 両手で、それも全力を込めているというのに、だ。 ファック。 信じられない奴だ。 オークやオーガーだって、ここまで非常識な事はしないぞ。 クソッタレ。 刃で顎の何処かを切ってか、血を滴らせながらニヤリと笑いやがる。 実に人間臭くて気持ちが悪い。 コレで、俺から武器を取って勝ったと思ったか。 甘いんだよ。 戦獣がロングソードを取り上げようと全力を入れた瞬間、手を離す。「!」 姿勢が崩れ、喉元が、腹が魔法の光の下に晒される。 そう、弱点が。 だが戦獣は満足気に嗤っている。 俺の武器を取り上げた ―― そう思っている。 その幻想をぶち壊す、っていうか殺す。 武器はある。 呼び出すだけで、ここ(・・)にある。 ストリングリングに命じる。 本当は契約した持ち主であれば言葉を発しなくとも収納物を呼び出せるのだが、俺はまだそこまで慣れていない。 だから、収納物の収納順のナンバーを呼ぶ。「2番 3番! 開放!!」 左右、体の両脇に具現化した2振りのショートソード。 握る。 そして振るう。 否、突く。 左右同時に、心の臓を目掛けて打ち込む。 突き刺さる。 後は刀身を、戦獣の体の中心線に沿って振りぬき、開く。 それで、赤黒いオブジェの出来上がりだった。 残った狼の掃討は簡単だった。 或いは、失敗したと言うべきかもしれない。 馬車の連中が矢を放てば、直に逃げ散っていったのだから。 慌ててドンと馬車を取りに行ったら、ドンは寝ていた。 神経の太い奴である。 再度の襲撃を警戒して、馬車群の所まで戻る。 魔法の光が、この辺り一帯を煌々と照らしている。 というか凄いなこの魔法。 何時まで効果が持続するんだろうか。「おっ、馬車は無事だったか」 戻ったら、この馬車群のリーダーらしき人がコッチに手を振っていた。 壮年の男性だ。「ええ。コッチに集中していたらしいですね」「難儀な話だが、悪いだけじゃなかったな」 集中していたからこそ、来てくれたんだと笑っている。 なかなかにタフな御仁だ。「けが人とかは大丈夫ですか?」「何人か酷いのが居たが、アンタの仲間のお陰で皆、持ち直しているよ。魔法様々だ」 どうやらエミリオとミリエレナは大活躍の様だ。 2人とも治癒魔法が使えて、しかも救急処置技術も持っているのだ。 戦闘もだが、戦闘後に活躍する人材と言える。「それは良かった」「ウチの甥っ子も怪我をしていたんで、本気で有難い。有難う、俺はクルト・ローレンツ。見ての通りの行商人だ」 そう言って、手を差し出してくる。 握手だ。 旅を友とする行商人らしい日焼けした手はガッチリとしているが、その動作は柔らかい。 本人は見ての通りなんて言っているが、その人相風体で行商人らしさが出ているのは日焼け位で、後は普通な感じだ。 根無し草な商人と言える行商人は、どこか山師的な雰囲気があったりするか、或いはスレた所を感じさせるのだが、このクルトさんに、そんな雰囲気は無い。 柔らかというか、素直というか。 何にせよ、善人っぽい雰囲気をかもし出している。「ビクター、旅の巡礼者って所です」 神託とかのネタは、説明が面倒臭かったりするので省く。 この事は2人にも言い含めてある。 この世界には神託詐欺なんて連中も居たので、神託って単語自体が他人の警戒を呼び起こす事があるからだ。「君は………2人の護衛って所か」「ええ。でも、2人とも中々の腕をしていますけどね」 まだ甘い所が多分にあるが、それでもそこら辺の兵士よりはよっぽど使える連中だ。 尤も、2人揃って世間知らずが故に、その甘い所がメッチャ怖いのだけれども。「それでも君みたいな腕利きが居れば安心だろうさ、なぁ<鬼沈め>」「あれま、バレましたか」「おっ、本物か。いや、半分は当てずっぽうだったんだよ。双剣持ちでビクターって部分で、ね」 少しばかり恥ずかしくて、頭を掻くと、後ろから声を掛けられた。「ウチの旦那、剣はからっきしだけど振るうのを見るのは好きなんですよ。武闘大会も毎回見に行っている位に」 振り返ると、女性が歩いてきた。 妙齢の、小柄で顔立ちは整っているが服装に飾りっ気の無い、健康系美人さんだ。 手にナイフを持っている。 似合っているけど、血塗れなのを剥き身で持っていられると、少し、怖い。 というか、よく聞こえたな会話が。「おいおい。おい前だって一緒に行ったし、楽しんだじゃないか」「でも、誘ったのはアナタよ」「それはそうだがっと、すいませんね。ウチの女房、ヒルッカです」 そう言った後でこっそり耳打ちしてくれた。 地獄耳なんですよ、と。 尤も、それも聞こえていたらしく、側に来るなりクルトさんの耳を引っ張っていた。 コレってアレだね痴話喧嘩。 ご馳走様、だ。 当てられちゃ敵わんと逃げ出そうとしたらヒルッカさんに止められた。 何でも、戦獣の皮はどうするのかって話だった。 抜き身のナイフは、それまでに倒していた狼たちの処理をしてきたからだった。 置いてこいやと突っ込みたくもなたが、我慢する。 なんとなくだが、突っ込みに突っ込み返しが来そうな気がするので。「割と良い毛皮が取れそうよ?」 一緒に剥いておこうかと言う。 え、毛皮を取るっていうか、皮をなめすの? マヂで?? つか、クルトさんが旦那さんって事はヒルッカさんも定住していない訳で。 にも関わらず、皮をなめせるのって感じだ。 ビックリしてクルトさんを見ると苦笑していた。「上手いんです、ウチの女房は」 どうやら普通の事の様だ。 馬車に揺られながらするのか、凄いな。 だが、俺はいらないな。 防寒着の類も十分だし、そもそも面倒だし。 という訳でプレゼントとする。「差し上げますよ。俺はそんな処理は苦手ですから」「あら、良いの? 素直に貰っちゃうわよ?」「どうぞどうぞ」 ルンルンな感じでヒルッカさんが歩いていく。 血塗れな包丁が無ければ、ホノボノな絵なんだけど、其れがあるせいで正にスプラッタ。 ねーよって感じだ。 兎も角、頭をふって脳みそから余計な事を逃す。「すいませんね、助けてもらった上で頂いてしまって」「なに、私達に皮をどうこうする技術なんて無いですから、出来る人が有意義に利用した方が良いんですよ」「そう言われると、何も言えませんな」 苦笑いするクルトさん。 それよりも重要な点がある。 さっきの狼連中に関しての事だ。「何か疑問が?」「いや、警戒の魔道具とかの反応はどうだったのかなって思いましてね」 一般的な警戒用の魔道具が敵を察知すれば、警報を発するのだ。 それも、結構な音量で。 基本的に、野生の動物ってのは音に寄って来ない。 だって人間を襲ったら、大抵は反撃にヌッ殺されるからだ。 もしくは、襲うことに成功しても、大抵は利益を帳消しにする様な損害を食らうのだ。 単独で動く動物のみならず、群れで狩をする様な連中ですらも、普通に撃退出来るのだ。 今回のような、戦獣に率いられてもいない限りは。 実際、戦獣を俺が殺すと、途端に弱気になって、矢を射られただけで逃げ散った。 だから、野生動物に対しては音を発するのは有効なのだ。 但し、知性のある<黒>に対しては “獲物がここに居る” って教えるのと一緒だが、コレはコレで音を出す事に意味があるのだ。 動ける奴を全部叩き起こして、迎撃の準備をすると言う。 要するに、万が一の可能性を信じて息を殺しての危険回避では無く、正々堂々と全力で撃退を図ろうって代物なのだ。 ある意味で、我が祖国たるトールデェ王国が<白>の領域の盾となって、<黒>の大規模侵入を防いでいる現状であればこそのアイテムであった。 そんな大音量警戒装置であるにも関わらず、警報音は聞こえなかった。 より小さな戦闘音などが聞こえたにも関わらず、だ。 この事態には警戒するべきだろう。「いや、それがお恥ずかしいですが設置に失敗したらしく、上手く動かなかったのですよ」 詳しく話を聞けば、簡単な話って訳では無かったが理由に納得の出来る話であった。 以前に使っていた警報魔道具が経年劣化で破損。 で、購入しようとしたら、新製品を薦められた。 まだ市場に出回らせていない新製品で、使い勝手の感想をレポートすれば値段を割り引いてくれる。 しかも、予備として通常の警報魔道具も貸し出す。 そんな破格な話を受けて新製品の魔道具を買ったのだが、コレが新製品であるが故に、従来型と同じ手順で使おうとして、失敗してしまっていた、と。「えっと、予備の警報装置は作動しなかったんですか?」「いやそれが、警戒機能の重複とかで2基揃って使うと、要求されている使用感の報告書が書けなくて」 旧型も新型も同じレベルでの警戒範囲を持っているので、同時に使用していると使用感覚のレポートが書けないのだという。 だから、皆が起きていて、物事への対応力がある時間は新型で、寝入る時は、実績の旧型を使っていたのだという。 で、この辺りは基本的に危険や動物や野良な<黒>の居ない土地なので、いままで警報魔道具が作動する事態も無かったという。 それらの理由が重なったせいで、今の今まで設置ミスに気付かなかったのだと言う。 アレだ、油断大敵というべきか。「ご愁傷様です」「ははははははっ、困ったものです」 クルトさん、何とも言いがたい表情で笑っていた。 俺も、引きつった笑いを浮かべていると思う。 人の命が懸かっているので、笑うところじゃないけど、笑うしかないって気分なのだろう。 個人的には、ンなもんさって思うけれども。