正確には、チョイとした義侠心。 義を見て為さざるは勇無きなり。 まぁ男児たるもの、それは当然で必須。 特に女の子相手に見栄を張れんのは、死んだほうがマシってな事で1つ。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-02見栄と恐怖のシーソー 適当に成長して、勉強と体を鍛える日々。 まぁなんと言いますか、面白い。 歴史を見るとスゴイ事になってる。 周辺の、というか<黒>の陣営と抗争している<白>の陣営が前衛国家、それがこの国、トールデェ王国なのだ。 陣営がどーとか、前衛がどーとか、今1人理解し難いが、まぁこの世界はそんな感じらしい。 <黒>ってのは、まぁなんだ怪物とか人間とかが作ってる組織っと言う程に組織化はされてないっぽい連中の事だ。 目的は、コッチの<白>の領域で血と絶望を振りまく事――らしい。 まぁ歴史書を見てると、どっちかってーとアレですよ。 歴代中国王朝vs北方騎馬民族ってな感じです。 略奪が大好きで、おまけに流血沙汰も大好きなロクデナシ。 だからだろう。 <黒>の陣営に大きな国家は無く、故に総称して<黒>乃至は<黒の軍>と呼ばれているそーな。 頭の痛い連中である。 しかも問題は、歴代中国王朝と一緒で、相手の方が戦力的素養ってか個々の基本的スペックが高いって事だ。 コッチにもウチの母親様を筆頭に、様々な超人さんが居るが、その数が圧倒的に違う訳で。 相手を無双出来る超人さんは一部の人間だけだが、アッチでコッチの人間相手に無双出来るのはオーク級以上のバケモノなら可能ってなチート仕様だ。 てゆーかオーク。 どっかの指輪な物語の如くにエルフが堕落してとかゆー訳でもなく、根っからの邪悪気質なバケモノさんだ。 この世界の分類では、邪悪な獣人の上位種っぽい感じだ。 つか、洒落にならんらしい。 並みの人間の倍近いガタイをしているのだ。 人間やエルフが大好きで、頭っからバリバリと喰いそうな勢いだ。 獲物ってな感じで。 要注意、とウチの両親も言っていた。 が、それ以上の問題もあると、本には書いてあった。 連中、下品な意味でも食いに来る、と。 頑丈な同族のメスよりも、華奢な人間やエルフの女性を嬲る事を好んでいるのだと。 最悪だ。 ある意味でペドフィリアだ。 略奪上等の騎馬民族でペドフィリア、拳王様んトコよりタチが悪い。 リン、逃げてぇぇぇってなモンである。 うん、何ぞ話がズレタ。 兎も角、そんなファンタジー拳王軍である<黒の軍>と対峙するトールデェ王国は、当然ながらも重装軍事国家と相成っている。 その軍備は、正規(常備)軍+予備(徴集)軍で全人口の1割に達しようかと云うのだから、凄まじい。 中世レベル+α程度で、だ。 確か、中世ヨーロッパじゃ1%を切ってたとこがザラなのに、ナニこのチート国家? である。 とゆーか、ぶっちゃけ狂ってる。 まぁ後方ってか、同じ<白>の陣営に属する諸国から潤滑な支援があっての事かもしれない。 トールデェ王国が撃ち破られれば、他の西方国家群は襲われるの。 それに備えようとすれば、莫大な軍事費が必要となり、それは国家運営に重く圧し掛かる事となる。 であるが、故に、である。 <白>に属する国々は、莫大では無いがそれなりの資金や物資をトールデェ王国へ融通しているのだ。 通常、この様な国家関係が成立すれば、最終的には被援助国は国力を増大させて援助国を制圧併呑するものであるが、ここでは無理である。 理屈の通じない<黒>が相手なのだから。 それなりの頻度、それなりの規模でやってくるDQN軍団に、トールデェ王国は毎度毎度、それなりの出費を繰り返しているのだ。 これらの事を知ったとき、ナンと言うか虚無感を感じた。 賽の河原の積み木崩しってなモンである。 歴史を確認すれば、王国建国時だから200年近く同じ事を繰り返しているのだ。 もうね、馬鹿かと阿呆かとと云う気分である。 諸々で抜き差しならぬのは理解出来るが、理解したくない停滞っぷりである。 まぁ、一方的に叩かれるのでは無く、開拓団ってか屯田兵みたいな部隊を編成し、王国東方の領土を広げてはいるが、地図を見る限り50年掛けても100kmも進んでないっぽい。 開拓村を作っても、<黒>に襲われ全滅。 全滅しない為に砦に作ろうとしても、建築中に全滅。 死々累々である。 と言うか、この世界に一夜城な藤吉郎さんは居ないっぽい。 そんなこんなで常に戦争の匂いの漂うトールデェ王国の王都トールデン。 軍オタ的人間な俺としては大変に面白い。 例えば武器屋。 軍人に傭兵、そして東方を目指すような冒険者ってな人間がひしめき合う場所故に、かなり面白い事になっている。 ショートソードやブロードソードの様な定番から、シミターみたいなモノまで。 てゆーか、西洋式の剣ってば切るよりも叩き切るつう鈍器じみた代物が基本な筈なのに、簡素ながらも刃が付いている。 吃驚だ。 製鉄技術や、或いは魔法技術にって剣の製造技術が高いのだろう。 後、主敵である<黒>の連中ってのの防具の主素材は革程度ってのが大きいのかもしれない。 膂力のある人間が斬撃武器を振るえば、であれば一刀両断ズンバラリン。 上下の胴体泣き別れってのが可能なのだ。 であれば流行るのも当然だろう。 他にも槍や弓など様々な種類の武器がある。 流石に刀は無いが、斬撃用として似たものはある。 無いのは銃器の類だけだが、ここら辺は弓が強力だってのと攻撃魔法ってのの存在が大きいのだろう。 より簡易だったり、より強力だったりってのが普通に存在するのだ。 発明はされたとしても、発展するとは思えない。 まっ、それは兎も角、ナンにせよ武器は馬鹿みたいに数が多い。 軍隊的には装備の統一化は大事だが、個人乃至は小集団で動く事の多い冒険者ってな人種も居るんで、個々人の要請に応じた武器の製造やら改造やらも積極的に行われているからだそうな。 新機軸の実戦投入と、実戦での戦績のフィードバックし技術開発を進めているのだろう。 何とも見事な軍事国家っぷりな訳だ。 そんなブラッディな楽しみ以外にも、この王都には色々なモノが集まっている。 <白>陣営で最東端に位置する大国なのだ。 しかも、割と金満。 そら商隊もバカバカっと商品を持ち込んでくるってなモノである。 食い物や鉱物と云った生活必需品は当然として、様々な嗜好品まで持ち込まれてくるのだ。 煙草やアルコール、乾した果実から新鮮な果物まで。 更には大道芸人などもタップリと来ている。 売り子の声や楽器や声楽などの音、嗚呼まさに賑やか。 ブッチャケ、自称東京で実は埼玉な某鼠園よりも面白いのだ。 有無、千葉か。 まぁ良い。 どちらにせよ、東京でないのだから。 田舎モノの僻みかもしれんが、ね。 そんな、楽しい昼下がりの王都。 冷えたシェラードを片手にブラブラと散策していた時、路地で遊んでいた娘が裏路地に引っ張り込まれたのを見た。 見てしまったのだ。 ため息が出る。 この世は中世っぽいファンタジーで、人身売買なんざザラな訳で。 いや、身代金狙いってのもあるが、引っ張り込まれた娘さん、後ろ姿からも、そんなに身なりは良くないのが判る。 ってか、ここら辺の街区は金持ちがあんまし住んでない、商業エリアと外周居住エリアの境目辺りなのだ。 金持ちの子狙いは余り起こらない場所なのだ。 いや、そんな事はどうでも良い。 只、気に入らないだけ。 生温いって評される事の多い、平和な平成の御世で生きてた人間には、犯罪行為を見て見ぬフリをするってのは気に入らない訳で。 状況判断をしながらも、動き出す。 シェラードは、うん、放り出す。 喰いモンなんざ、後で買いなおせば良いのだから。 暗い裏路地、向こうに大小の人影を確認。 小さい方が手足を必死に動かしているのが判る。 走る。 気が付けば走り出していた。 2歩目3歩目4歩目、石敷きで走れば当然のように足が痛いが、無視無視無視。 子供の足は短いが、それでも相手は暴れる人間を連れているのだ。 追いつくのは簡単だ。「何をやろうとしてるんだ、オッサン!」 もしかして、子供の身内だったらどうしましょ? っと恐怖半分、開き直り半分で喧嘩を売る。「あぁん?」 振り返る男。 抱えられていた為に一緒に子供、娘ってゆうよりも幼女ってのが似合いそうな年頃の子もこっちを見る。 男はメッチャガラが悪い表情をしている上に、継ぎ接ぎだらけの服を着ている。 子供の方は涙でグシャグシャになっているが顔立ちはまぁ整っている。 服は上等では無いし、土ぼこりなんかで汚れてはいるものの悪くは無い。 コレで親子の線は消えた。 この中世ってのは、服装が違うだけで1つの事を意味している。 階級の違い、身分の差だ。 上流階級、中流階級、労働階級、そして貧民階級。 子供の来ているのは労働階級のモノだが、どうみても男は貧民階級のものだ。 ファンタジー世界だからって、世の中は容赦が無いこってす。「坊主、英雄気取りか? 怪我しない内に帰ってママのオッパイでもしゃぶってな」 手荒い言葉遣いで男は喧嘩を買った。 が、腰の剣に手を伸ばそうとはしていない。 此方が子供だと舐めているのだろう。 まぁ、俺でも普通ならそうする。 だがそれがつけこみ所だ。 すり足で、ジリジリと距離を詰める。「正義を気取るつもりは無いが、アンタのソレを見過ごすのも好みじゃない」 武装は、最低限度の護身用にと母親様に持たされたナイフが1本。 暗器的に小さいそれを、革の鞘に入れて右腋に吊っている。 尤も、小さいとは云え対魔能力を持つ真銀製で、しかも魔法はタップリと付与されており、切れ味良く軽量、しかも保有する俺の体をサポートするって能力まである。 うん。 どうやらウチの母親様は過保護の傾向があったっぽい。 そんな逸品だが、俺は抜かない。 抜くと、抜き差しならぬ事になるってのもあるが、それ以上に、相手の油断を突きたいからだ。「ケッ、馬鹿が。そゆうのを英雄気取りってんだよ」 馬鹿にし切って鼻で笑ってくる男。 その油断が俺を、1足の間合いへ達する事を許す。 仕掛けるのは今。「Te!」 大地を蹴る。 二歩目で既に男を捉える。 三歩目で大地を踏みしめ、体のバネを全て使って肘打ちを叩き込む。 男の股間に。 同じ男として、少しだけ躊躇うが、同時に碌でも無い事をしでかしている奴である。 気分は黒騎士。 情けは無用、ファイヤー! である。 鈍音と共に前向きに崩れた男。 だがそれでも、緩む事無く子供を抱えていた手を踏みつけて救出する。 子供の体重でも、大人の腕を無力化するコツはあるのだ。 悲鳴を、それこそ踏みにじる。 開放され、涙と共に見上げてくる姿はとっても子供子供しており、慰めてもあげたいが、残念。 そんな暇は無い。 ぶっ飛ばした男が、うめき声を上げて起きようとしているのだ。 震えてるのは痛みか怒りか。 まぁどっちでも良い。 やる事は1つ、一心不乱にランナウェイ。「逃げるよ」 子供の手を取って駆け出す。 先ずは大通りへ。 この手の人間は大通りまでは追いかけて来ない。 対処療法的では在るが、先ずの危機はしのぐ事が出来る。 薄暗い裏路地から明るい大通りへ。 光差す場所へ。 だが、その光が遮られる。 人だ。 剣を佩いているのが、影で判る。 てゆーか、逆行で人が居る事だけしか判らない。 畜生。 このタイミングで警察の類が来る程、この辺りは治安が良くは無い。 駆けていた足が止まった。「何をしている」 うわーい敵追加。 いらねー 超いらねー お代わりいらねー 椀子蕎麦ちっがぁーう。 てゆうか、人攫いでツーマンセルとかスナっと、内心で罵詈雑言をぶちまけつつ抜刀する。 順手では無く逆手に持つ。 暗い路地に浮き上がるような刃。 それで、裏路地の空気が変わった。 敵2号も、そして子供も。 だがこのナイフで新しい敵の急所を狙う積りは無い。 この世界がブラッディである事は理解しているが、まだ俺は人を殺す――致死攻撃を行う覚悟は決めていない。 だからこのナイフはブラフ。 只、ヒカリモノを抜くことで敵の意識をコッチへ寄せるのだ。 そうすりゃぁ子供の1人位は余裕で抜けられるっしょと云う考え。 トロイ子供が抜けられれば、後は身体能力だけはチートな俺だけ。 幾らでも逃げて見せる。 短時間なら、壁だって走ってみせらぁってなモノだ。 アドレナリンが噴出しているのを自覚する。 唇をゆっくりと舐め、緊張を拡散させる。 背に庇っている子供に、小さく振り返って囁く。 走れ、と。 見れば、涙を堪えながら必死に頷いている。 健気だ。 こんな10を超えそうも無い年頃の割りに、判断力はある。 今、騒ぐべき時で無い事を理解しているのだ。 或いは肝が太いのか。 兎も角、肝っ玉で言えば天下無双な我がアデラの母さんに会わせれば、案外に気が合うかもなとか少しだけ考え、それから気分を入れ替える。 先ずはこの状況を切り抜けねば、と。「Te!」 合図を1つ。 そして駆け出す。 真っ直ぐ、敵2号を目掛けて。 狙うは一撃離脱。 いや、一撃すらしない。 席巻し脅威を感じさせる事で敵2号の意識を寄せて子供を逃がし、その後、俺も脱兎。 そういう予定でした。 そして予定と云うのは大抵、ひっくり返されるモノである訳で。 強ぇ衝撃が手を痺れさせる。「なっ!?」 何事っと思った瞬間、視野が真っ暗になった。