俺が学校に言ってる間に結婚したん? って事は、涙酒用に用意していた、妹の生まれ年に仕込まれているワインは意味が無い? おーいぇー お兄ちゃん、チョイと偏頭痛……… 可愛い盛りのヴィヴィリーが、結婚ですか。 いつかするとは覚悟を決めていたが、真坂既に過去形とは思わなかった。 … …… ……… ………… 宜しい、ならば鉄拳制裁だ。 殴っても良いよね? 良いよね? 駄目と言われても、殴るけど。 飛んでけ、空を。 アッチの用語で地獄、コッチの用語で冥府って辺りに。 大丈夫、新婦(多分)を未亡人にはさせない。 死なない程度には加減するから。 でも、死にたくなる位には痛めるから。 拳骨にフルパワー。 この馬鹿餓鬼が、「義兄さん!」なんていった瞬間に、ぶち抜いてやる。 武器は使わないのが、妹への義理だ。 畜生。 と思っていました。 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-06お兄ちゃんは(自主規制)症 絶対零度で全力粉砕。 そんな言葉の良く似合う、一言。「誰が第3夫人ですか?」 眼差しが違う。 静かに射るような、強烈な視線。 怖い。 あっるぇぇぇ?? ナニ、この空気。「それは君に決まっているじゃないか、ヴィヴィリー! 我が愛しの人よ」 オーバーアクションで、悶える様に身体を動かす、悪趣味餓鬼。 自分に酔ってやがる。 宜しい、こいつは、ギーシェモドキと呼んでやろう。 人類人科のギーシェモドキだ。 ほっそりとした身体と、ナルシズム分を空中に散布している辺り、実にそっくりだ。 だけど長いから略そう。 ギモ。 ………原型留めてないってか、意味が判りづらいが、そもそも俺の脳内命名なので問題なし。「そのお話はお断りした筈です」 疑問系? なんて、想像も出来ないキッパリとした断言。 取り付く島も無いってな勢いである。「あぁ、そう言われるたびに、僕の思慕は募っていく。君は策士だ、ヴィヴィリー」 クネクネと更に動く。 あぁ、キメェ………ギモに追加でキモを付けよう。 キモギモ。 意味不明だな、おい。「君の事を思うと、僕ぁ、僕ぁ!!」 更に激しくクネグネとしだす、キモギモ。 意味不明を通り越した。 SANチェックしてぇなぁ、おい。「踊らないで下さい、不愉快です」 ただ、手を出していないから、完全無欠に嫌っている訳じゃなさそうである。 アレか、所謂ツンデレさんですか、我が妹。 と云う事は、本気か、本気でアノ蛸モドキなキモギモにLoveなのか………… 世の中には格好の良い蛸な人も居るには居るが、アレは心底もって擬態の筈なラスボスだ。 電波電波電波。 毒電波。 そもそもゲームの人物だし? だ。 うーん、相手を選んで欲しいものではあるが。 まぁ個人の好みの問題ってのもあるから、余り強くは言い出せないが、確認ぐらいは良いだろう。 こっそりと、ノウラにだ。 色々な意味で怖くて、妹には直接聞けない。 だから、弱い兄だと自嘲しながら。「誰だい、アレ」 見ると、ノウラも非常に微妙そうな表情で答えた。「ヨハン・ヴァルバスカールさんです。ヴィヴィリー様の御学友です」 余所行きの言葉で返された。 折角のOFF日なのに。 余人が居るから仕方が無いか。 線引きに関して煩いのだ、ノウラは。 国の方は、それこそ武威をもって成り上がり、財をもって覇を成し、総じて国を栄えさせよと言わんばかりの国是であり、又、身分や男女での地位や差なぞ能力の前に於いて無意味ってなまでの実力主義であるのに、だ。 にも関わらず、礼儀を正すノウラ。 チラッと聞いた話だが、どうやら読んだ本の影響らしい。 精神修養とからしいが良く判らん。 が、まぁ『メイド葉隠』なんて本なんだろう。 多分。 俺命名の、適当な呼び方だが。 だって、恥かしがって見せてくれねぇんだもの。 仕方が無い。 てゆうか、学友だと? どゆう事。 付き添いが居る時には学校まで一緒に行ったりしているノウラだ。 妹の人間関係を知らぬ訳でもあるまいしってか、って事は、だ。「第3夫人だのってのは妄想の類、か」「その通りです。一方的にヴァルバスカールさんがヴィヴィリー様に懸想され、言い寄られているのです」 バッサリと断ち切るノウラ。 その言葉で、俺様の脳内温度はバッチリと出来るってものである。「良かった、安心したよ」 絶賛秘蔵状態のワインだが、死蔵させるのは勿体無い。 一応、板バネで儲けた金で買った一流な蔵のワインなのだ。 呑めないと勿体無いってなものである。「その一言、ヴィヴィリー様にも言ってあげて下さいませ。とても喜ばれる事でしょう」「ん、なんで?」 妹が結婚していなかった事に安心したら、当人から何で喜ばれる、と。 結婚適齢期の女性からだとブン殴られかねない暴言だぜい、おい。 だが、何でと聞く前に乱入者、登場である。「そこのノウラ君と、下男! 私とヴィヴィリーの関係を適当に判断するな!!」 キモギモが怒鳴ってきた。 というか、俺、下男なのか。 確かに、ベージュ色を基調とした動き易い格好ではあるのだが、良く見れば針仕事は一流で、サルト・フィニートなエレガンテだと判ると思うんだけどね。 まぁどう見ても成金なキモギモが、それを見抜いても怖いってモノだけど。 と、その前に。「ビ――って?」 俺の名前を呼びそうになったノウラを止める。 ほら、正体不明って、何か格好良くない? ってなものである。 後、妹にも釘を刺そうと思ったら、別口の闖入者と喋っていた。 どうやら、キモギモの連れらしい。 美人さんである。 原色の赤をあしらった、派手な野外用のドレスを着込んでいる。 キモギモなのにと、素朴に酷い発想をしてしまう様な、美人さんだ。 年頃は、妹あたりとどっこいっぽいが、子供扱いは出来そうに無い雰囲気がある。 と言うか、特にオッパイが素晴らしい。 そうだ、赤を基調としているので名前はキュルケ・ポイにしよう。 美人さんだから略さずにしておく。 キュルケ・ポイ。 だけど肌は白いし、髪も赤く無い。 麻色って言うのかな、金髪から金色を暗くしたような感じだ。 そんな女性と妹は言葉を交わしている。 何だろう、見知った仲ではあるっぽい。 そして、比較的に仲が良いであろう事も、その距離から理解出来る。 残念ながらも、話し声を聞ける距離では無いってか、ヒソヒソと喋っているので聞こえないけれども。 残念。 いや、ほら、可愛い女の子たちの秘密の会話って、微妙に興味が沸くってなもので。 兎も角。 苦虫を噛んだ様な表情で頷いたりしている妹と、楽しそうなキュルケ・ポイ嬢の様子に、まぁアレなら、コッチに来ないかと思う訳で。 と、首を巡らせれば、今度はキモギモがノウラにまで近づいている。「そんなに君はヴィヴィリーが大事なんだね。ならばノウラ君、僕は君を第7夫人に迎えよう! 何、僕の器は君の全てを受け入れる程に広い」 おーいぇー 今度はノウラまで手を出そうとしやがるか。 しかも、第7夫人と来たか。 つか、その言い方だと第6まで既に脳内で決定済みか。 スゲェな、コレ。 現実逃避の1つだろうか。「結構です」「まっ、まさか君も、僕の気持ちを引く為に!!」「その様な気持ちは一切ありませんので、お間違い為さらないで下さい」「だが、僕にとって優先順位は君よりもヴィヴィリーだし、何よりも僕の愛は、愛は! 愛はっ!! あの方の為にっ!!!」「ええ。その方に注いでください。私の分やヴィヴィリー様の分まで」「そんなに僕の器は小さくない!」「そういう話を申し上げているでは無くですね…………「僕は全ての女性に愛を捧げる事が………「結構ですと申し上げているのです……「だが、捧げる愛にも違いはある。君達への愛は、無限だ!! だから……………… 見事にグダグダな会話である。 不毛と云う言葉すらも生ぬるい位に、脳味噌に幸せ回路でも仕込んまれているのかと言う位に、駄目である。 言葉が通じていないっぽい。「凄いな、何とも」 感嘆する俺。 恥かしい独り言だが、合いの手が入った。「何時もの事、です」 ハァ、誰? と振り向けば、小柄な女性が立っていた。 女性と云うよりは女の子だね。 可愛い顔立ちはしているが、目は醒めている。 と言うか、半眼でキモギモを見ている。「もしかして?」「はい。ヴィヴィリー嬢の学友、です。名は、ツェツィーリエ・アヒレス、です」 言葉遣いが微妙である。 単語毎に切り取っているような、いないような。 名前だけでは判らないが、留学生の類か、最近にトールデェ王国へと移民してきた子なのかもしれない。 この国は、基本的に移民は千客万来なものだから。 しかも、名前はそのまま使って良しとか来るから、まぁアレだ、国際色豊かってなものである。「ツッェ、ツェツ……アヒレスね」 舌を噛みそうになったので、姓まで一気に読んで誤魔化す。 割と珍しい音の名である。「ツィー、そうヴィヴィリー嬢も、呼んで、ます」 舌噛みそうになったのバレテルらすぃ。 恥かしいが、まぁ仕方が無い。 兎も角。 此方は、さっきのキュルケ・ポイ嬢と一緒に来たし、そもそもちっこい&ペッタンなので彼女はプチ・タバサと命名――は止めて置こう。 正しい名前ってか、愛称を教えて貰った事だし。 そもそも青くないし、このツィーと云う少女は。 まぁ凄く濃い、黒に近い青ではあるけれども。 服装はヤボイ王立魔道院の制服で、飾り気はトンと無い感じではある。 そんな外見は別としても、何とも礼儀正しい子っぽいから、脳内で遊ぶ相手にするのは、失礼ってなものである。「じゃぁ改めまして、ツィー。俺の名は――」「ビクター・ヒースクリフ、です、よね? お話はかねてより聞いて、ます」 おやま。 あの無様晒した武闘大会を見てたって事ですか。「ヴィヴィリー嬢が、良く口にしてました、から」 それはそれは。 良い話であって欲しいものだけれども、最近の俺の株ってば下り最速だったしね。 聞いて良いのか悪いのか。 正直、怖いものである。「それはもう――って!」 唐突に、後ろから伸びた手でツィーの口元が塞がれた。 ん、妹だ。 俺に気付かせずに接近するとは中々にやるものだ。 お兄ちゃん、チョットだけ感心した。 チョットだけだぞ。「突然に酷い、です。ヴィー」「乙女の秘密を口にしようとした不埒者への天罰です」 腰に手を充ててツィーを睨んでいる妹。 うん、どうやら真面目に怒っているっぽい表情である。 どうしたの、ん? と云う疑問が湧くが、一言で叩き切られた。「お兄様には関係ありません」 左様で御座いますか。 頭を掻く。 寂しさ交じりなほろ苦さを味わう兄、ああ、昔は素直に懐いていてくれてたのに。 兄離れか。 切ないものである。 そんな、切ない気持ちを口に出す前に、艶めかしい発音の言葉が放たれていた。「あら、愛しの“お兄様”に、何て言葉遣いをするのかしら、ヴィー」 キュルケ・ポイ嬢だ。 彼女も此方に来ていた。 近づいてみてみると、美人ではあるが、子供っぽい部分がちらほらと見える。 大人と子供の境界線に居るってなものである。 で、思わずガン見してたら、視線があった。 魂限定ではあるが、日本人である俺として会釈をしておく。 返ってきたのは、可愛い笑顔。 そして礼儀に適った態度で接してくる。 チョコンとスカートの裾を摘んで頭を下げ、それから胸に手を充てて謡うような口調で言葉を連ねてくる。「初めましてビクター様。私はディートリッヒ・ゲアハルトと申します。親しき人たちは、ディーと呼んで下さいます」 ディードリッヒ、ディードリッヒか。 エルフでもなければスレンダーでもないけど、“ヒ”だから寛大な慈悲の心をもって赦そう。 “ト”だった日には、チョイと暴れてたかもしれない。 脳内で。「有難う、ディードリッヒ」「ディー、ですわ。ツィーは愛称で呼んで上げてらっしゃるのに」 酷い人だと笑ってる。 笑ってる。 笑ってるけど笑ってない。 そんな表情で言葉を紡いで来る。 逆らえない。「あぁ、分った。分りました。宜しく、ディー」 何だろーなー、何でこう、俺、弱いのかな。 涙が出そうだ。 そんな気分をぼやいて見る。「俺みたいなのに愛称を教えてどうするよ」「あら、ツィーやヴィーが呼ばれているのに、私だけ仲間外れなんて、寂しいからに決まっていますわ♪」「いや、ツィーはまぁ仕方がないし。それにヴィヴィリーは何時もヴィヴィーと呼んでるから、別に仲間外れって訳では――」「あらあら。宜しくて?」「宜しいって? え?」 確認と同意だが、俺に求めて無いっぽい。 というか、それまでツィーにナニゴトかを話しかけていた妹が、満面の笑みでコッチを見てくる。「そうね、お兄様。では私の事もヴィーと呼んで下さいますよね?」「え?」 ナニゴト? ぶっちゃけて、今更? って気分である訳で。「なぜに?」「ツィーやディーは愛称で呼んであげていますのに、私だけ除け者は酷いと思いますわ」 ヴィヴィーは愛称だって思うのだが、何故にその発言。 心底判らんって表情を見せたら、かなり悲しそうな顔を見せた。 妹よ、その顔をお兄ちちゃんの胸を抉るんだよ。 主に罪悪感で。 まぁ仕方がないか。 仲良しっぽい2人と違う呼び方ってのは、尻の座りが悪いのかもしれんし、であれば受け入れざる得ないと言いますかね。「ヴィー。これで良いか?」 締められていた眉が開き、ツンと澄ましていた顔が綻んだ様に笑った。 可愛いものである。 愛称で女性を呼ぶってのは、何と言うかこっ恥かしいものではありますが、それでまぁ良いと許せる訳で。 何だ、妹の笑顔1つで何だって許せてしまう辺り、俺も随分と安いものではあるが。 ほんわかした気分。 只、状況のカオスっぷりは別として、であるが。「我が夫人たちよ! 僕の気を引かんと云う健気な気持ちは理解するが、余りにも無視されては、愛は永遠でも僕の心は傷つくのだよ!!」 何故かキモギモもコッチに来てた。 ウッゼェ。 でも、相手をしていたノウラは疲れた表情を見せているので無理は言えない。 軽く、頭を掻いてみる。 さてさて、どうしましょう。