市街地を抜ければ、後は平地の続くノンビリとした馬車の旅。 高い空、どこか遠くで雲雀が鳴いている。 この平地ってのが、遮蔽物が無いって表現でされるべきな辺り、このトールデェ王国、マジ、おかしい。 王都近辺までカチコミ喰らって防戦する際に、相手の戦力が隠れられない様にする為だそうな。 高位攻撃魔法などの面制圧火力で、数の多い<黒>の軍勢をぶちのめすとかゆー話である。 実に殺伐とした話だ。 それに最近は、リード高原での大規模な<黒>の侵入阻止成功率がかなり高いので、農地化も検討されているとか云う話ではある。 まっ、その代償として<黒>に近いリード高原の東半分や、その先、<黒>に接している王国接触領は常にひゃっはーっ!! な土地状態らしいけども。 緩衝地帯なので仕方ないけども、無常だ。 開拓できたら自分の土地って事で、屯田兵部隊への志願者はまだまだ多いらしいが、相変わらずに粉砕されっ放しらしい。 まっ最近は人的被害は減っているらしいが。 何でも、リード公爵家が避難出来る様に接触領の最前線に哨戒線を構築したらしいのだ。 小規模な、それこそマバワン村を襲ったゴブリン数百匹程度の小規模な連中を完全に発見する事は出来ないが、正規軍を動員せにゃぁならんレベルとなる、数千からの連中は、完全に発見捕捉出来る様になったのだ。 発見すれば、正規軍が動員され、そして開拓村は避難する様、準備されているのだ。 お陰で、ある程度の自衛出来る規模の開拓村では、人的被害が激減している。 少しずつではあるが、進歩しているのだ。 まっ、可愛い女の子を2人も乗っけている馬車の上で考えるこっちゃ無いけども。 それに、マーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団も、今はそっちに出張っている。 うん。 考えすぎるとエレクチオンしてしまう。 自重自重。 妹s'に悟られないようにせねばならぬ訳だ。 只でさえ低いっぽい兄の株を、これ以上落とす訳には行かないってなもので。 と云う訳で、脳味噌の殺伐としてたり淫蕩だったりした思考とは別のCpuで動いている口に、主Cpuの処理能力も突っ込むとしよう。 妹から学校の話を聞き、ノウラからは市勢の事なんかの四方山話を聞き、そして相槌を打ったりする訳だ。 考えたらコレ、デュアル・コアじゃね? まぁクアッドには進化できそうに無いけども。 いや、小脳まで入れれば可能かも知れん。 まっ、出来たら出来たで人間を捨ててるって事になりそうな話だけれども(お 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-05両手に華(気分 暢気な馬車の旅。 トールデェ王国は、軍事面の問題から主要街道の舗装を行っており、又、アブラメンコフ式な板バネのお陰で、乗り心地も快適の一言だった。 なんつーか、昔、それこそマバワン村へと行った頃は、尻の痛さに閉口したものだったが、時代は変わるものである。「……」「どうしました、ビクター?」 そんな事を考えていた俺の様子に気づいたのか、ノウラが声を掛けて来る。 そう言えば、この子も変わったか。 マバワン村のノウラから、ヒースクリフ家のメイド長へと。 昨年までノウラを扱いていたマルティナが、もう十分に一人前と認め、そして自分は料理専任の厨房長へと下ったのだ。 好き勝手に料理の研究をする為に、メイドの仕事全般を押し付けたとも言う。 まぁノウラ自身は満足しているっぽいが。 兎も角、メイド長なのだ。 頭の被ったフリルの帽子、その後部から腰まで伸びる2本のリボンは男爵家がメイド長の権威の象徴であるのだ。 一般メイドの憧れ、それがメイド長。 しかも垂れるリボンの色は、警戒色の赤。 左右に王府章と家紋とが金糸で刺繍されているソレは、王府認定の武装メイドである証なのだ。 王族の列席する場所以外であれば、何処であっても武装する権利が認められている。 まぁ、その運用に関しては、自衛以外だと故無き殺傷どころか故無き抜剣であっても、即座に罰の与えられる厳しいものではあったが。 そんな、すっごいメイドのノウラ。 只問題は、ヒースクリフ家の場合、一人しか居ないメイドの長であるって事だけれども。 後、仕事中は邪魔だからとリボンは帽子から外しているノウラ。 うん、普通にリボン付きと呼ばれるメイド長が、現場の仕事をするなんて珍しい――というか、普通はしない。 そーゆーものなのだ。「いや、その………アレだ、私服を見たのは久しぶりだけど、似合ってるって思ってね」 蒼いドレスは、赤い髪に映えている。 装飾が寂しくはあったが、まぁアレだ、ノウラが実用本位を旨にとする性格だから仕方が無い。「………煽てても何も出ませんよ」 チョッとだけ顔を赤らめている辺りが可愛いものである。 と、見れば胸元のケープを纏めているブローチは、前に俺が誕生日プレゼントに送った銀細工だ。 自分の胸元を指して、チョンチョンとやって見せる。「使ってくれてるか。上々上々」 割と奮発して買ったモノなので、使ってもらえていると嬉しいものである。 その前の誕生日に、キャップ用のブローチを買って贈ったら、チットも使ってもらえなかったのだ。 それで、似合うと思ったのにと微妙に凹んだ俺としては、そら何だ、嬉しいものである。 センス無しの汚名返上、である。「あら、お兄様は私の事は褒めて下さらないのですか?」 照れてるノウラに対し、妹がチョイとだけ荒れた口調で加わってくる。 ちょ、おまっ、ってな状況ではあるが、この程度で俺は動揺しない。 落ち着いて一言、両方を立てる言葉を使えば良いのだ。「いや、ヴィヴィーの私服が可愛いのは何時もの事だろ? 態々に褒めたら、叱られるかと思ってね?」「むぅっ、お兄様は本当にお口が上手過ぎます」 むぅーっとした表情を見せる妹、その頭を少しだけ撫でてやる。「そんな顔をすると、可愛い顔が台無しだ」「もう! 本当にお兄様って――そう思わない、ノウラ?」「ですね」 同意はしながらもクスクスと笑っているノウラ。 それに、もう一言二言と不満を漏らす妹。 可愛い光景だ。 或いは微笑ましい、そんな風に思っていたら、フト、森が途切れた。 薄暗かった森を抜けたその先は、湖面が反射する光で満ち溢れていた。 さてさて到着した訳だ。 割と評判のピクニックスポットと云う事で、平日ながらも人は多い。 割と整備されているのだ、ここら辺は。 まぁ水場としての、有事の際のとかゆー枕詞が付く辺り、実にトールデェ。 ま、それは兎も角。 本日の目的は野外に於ける俺の調理技術の披露が目的なので、周辺の諸々は気にしない。 水場の側に馬車を止めて、組み立て式の炉を用意する。 金属製のソレは、構造故に少ない薪でも高温を得られるのでかなり便利である。 少々重たいのが欠点だが、馬車に積めるので問題なし。 鍋を火にかけて、それから日持ちする根野菜を炒める。 肉は風味付け程度に、ニンニクや香草と一緒に刻んだものを入れる。 本日のメインデッシュは、シチューだ。 食材を手際良く切り刻み、炒めて行く。 と、後ろを見れば、じっとコッチを見ているノウラが居た。 真剣に見ている。 そんなに、俺の料理って心配かな? 凹みそうになる。「ん、ノウラもせっかく着飾ったんだし、散歩でもしてくれば良いのに」「……別に、見ているのは楽しいですから」「そうか?」 チラリと見れば、確かに監視と云う表情じゃ無い。 なら良いやと割り切る事にする。「手馴れてますね、ビクター」「ん?」 固焼きのパンを、串に刺して炉の側に立てる。 酵母の問題か何かで、コッチの世界のパンは柔らかく無い。 黒パンみたいな、アレでは無いが、にしたって、である。 コレばっかりは知識の無い俺では、ジャポン流Ma改造は不能である。「いや、大学で学ぶんだぞ、こゆう事も」 野外での生活ってか、サバイバル術も、授業科目には入っているのだ。 実用的なのだ、我がゲルハルド記念大学は。 更には、凄いと言うか呆れると言うか、ある意味で自衛隊のレンジャー教程みたいなものすらもあった。 無論、選択科目ではあったが。 一般の課目が野外での食える野草等の見分け方が中心なら、コッチは、確保方法から調理方法まで踏み込んで、如何に生存生還するかと言う内容だ。 うん。 好奇心だけでチョイスする様な科目じゃなかったアレは。 まぁ終了章を貰えるまで頑張ったけど、夢に見そうな内容揃いだった。 というか、コースチョイス時に、「死んだけど学校の責任じゃありませんよ、サーセン」なんて誓書を書かせると云う辺り、実にガチである。 まぁ実際は、充実サポートで死ぬ事は無いし、死んでも即、蘇生させる準備が為されていたが、まぁアレだ。 参加者の精神的な部分にふるいを掛けたってな感じなのだろう。「調理だけじゃない、獲物の捕らえ方と捌き方、保存の方法もだな。面白経験だったよ」「………大学ですか……」「学校、行って見たい?」「少しだけ、ですけど」 向学心がある事は素晴らしい。 問題は学費ではあるけれども。 安くはないんだよね、この世界の学費も。「大学でのビクターを見てみたいって、思ったんです」「俺かよ!」 そんなにヘマはしていないと思うけど? と思いつつ、炉に薪を追加する。 火の下、土の中に鉄の器具に挟んだ塩漬けの肉を仕込んでいるのだ、そこが十分に加熱される為には、もう少し熱があった方が良いのだ。 鉄の器具だ。 アルミホイルの無い状況下で、何か出来ないかと考えて、発明した野外用の調理器具だ。 長い柄が付いていて、直に食材を火へと突っ込める代物だ。 必要は発明の母と云うのが正解な、奇形調理器具だった。 コレがあれば、炉1つで煮ると焼くが同時にってなものである。「はい」 凄く良い笑顔だ。 あー、うーん、アレか俺の弱点でも握りたいとかそんな感じか? 勘弁しろい。 そう思っていたら、別方向からの攻撃も来た。 と云うか、水飲み場へ散歩兼ねて水汲みに出ていた妹が帰って来たのだ。 普通はメイドの仕事だったりするが、我がヒースクリフ家ではノウラを実の娘扱いって以前に、妹とノウラは仲が良いので、こゆう時は仕事を分担しあっているのだ。 ノウラがテーブル周りの準備を。 妹が飲用の水を汲みに、である。 まぁ水汲みが重労働に思えるかもしれないが、そこはソレ、魔法である。 魔法の力で、水のたっぷりと詰まった水壷を浮かして運んできているのだ。 ホント、魔法は便利である。「あら、私だってお兄様の大学生活には興味がありますわよ?」 おーいぇー。 妹よ、お前もか。 一通り、準備も終わったのでと、立ち上がる。「別に普通のってか、ヴィヴィーの学校と、そう差は無いぞ?」 一応は誤魔化してみるテスト。「あら、お兄様の学習姿勢を見てみたいって言う、素朴なお願いですよ?」「本当かい?」「ねーノウラ、それだけよね」「そうですね」 年頃の女の子達らしい笑顔で頷きあう妹とノウラ。 その仕草だけは可愛いのだけどなぁと思う。 と、何かが耳に引っ掛かった。「ん?」 周りを見る。 見渡すと、トールデンの方から鳴り物付きの馬車が走ってくるのが見えた。 なんですか、アレ(汗 2頭立ての立派な馬車は、真っ黄色に塗られていて、しかも、細部には金箔が施されていた。 何と表現しようか。 いや、いっそストレートに、The 成金趣味と評すべきだろう。 一般的な貴族が好んで馬車に立てる旗竿――そして家紋旗が見えない所から見て、実際、成り上がった商家の馬車かもしれない。 兎も角、派手で慎み何て一切ない、下品な塗装の馬車だった。 立身出世が華で、成り上がり上等の派手好きが多いトールデェ王国ではあるが、アレだけ派手なモノは見た事が無かった。「凄いな、アレ………」 呆然としか出来ないってなものである。 が、それ以上に気になるのは妹だ。 なんぞ、頭を抱えるしぐさをしているのだ。 ノウラも、心配げに見ている。「どうした?」「…いえ、何でもありませんわ」 馬車から顔を背ける妹。 手で顔を覆っている。 というか、何か背中から疲労感が湧き出てるぞ、妹よ。 知り合いか? と問おうとした時、その問題の馬車が直ぐ側で止まった。 というか、一旦通ってから、戻ってきた。 何事と見上げれば、派手に馬車の扉が開いた。 そして中から、その馬車の派手さに負けず劣らずな格好をした少年が飛び出してきた。 否。 子供と評するのは失礼かな? って風ではある。 が、学校の連中と比較すると、甘ったれた風情が顔に出ていた。 まぁ不細工じゃ無い。 尤も、格好は不細工を通り越していたが。 下品とは、かくも悲劇であるかと感じ入る程の代物だった。 が、それより俺の脳味噌をぶっ飛ばす発言が、その少年以上青年未満の口から飛び出した。「おぉうヴィヴィリー! 我が第3夫人よ!!」 ナニ? ナニゴト??