人間ね、ヤッパね、金は欲しい訳ですよ。 美味い飯、綺麗な服、イカス武器。 後、ネーちゃんの居る酒場でドンちゃん騒ぎとかさ、ね。 朝までしっぽりとかも、ね。 有無、マーリンさん最高であるが、終始主導権を握られっぱなしと言うのは面白く無い訳で。 逆襲しようとしても、柔らかく受け止められて、最後は喰われる。 年季の差なんだけども、こーさー、男として悔しいじゃない。 ん? 何ぞ話はずれたが、結論を言えばアレだ。 お金はサイコーなのである。 きっと、世紀末覇王様的大陸軍(グランダルメ)級に。 異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント1-02契約書には、冷静に、そして内容を良く読んでからサインをしましょう 笑顔のオルディアレス伯。 既に主導権はアッチにある。 クソッタレ。 金に幻惑されてしまった俺が出来るのは、出来るだけ感情を交えずにお話を聞かせて下さい、と言うだけだった。 なっさけない。 兎も角の、事情説明。 と思ったら、最初は質問であった。「君は、神託と云うものを知っているかね?」「神託、ですか」「そうだ。それが全ての原因でもある」 重々しく口にしたオルディアレス伯。 そこからの話は、何と云うか大時代なものであった。 あるいは伝説的なものであった。 正義神であり勇気を象徴とする女神ブレンニルダ。 この女神を奉ったブレンニルダ第3神殿が巫女が、それも<聖女>の号を持った巫覡が、最近になって神託を受けたのが始まりだと云う。 神託。 それは言葉通り<天の座>へと昇った神族が人へ放つメッセージであり、亜神へと到る力――内なる神の欠片(ワン・ピース)に目覚めさせた人間を介して放たれるものである。 とされているが、ここ数百年で放たれた事は無く、又、神託詐欺とでも云うべき悪党が居た事もあって、そこまで重視されてはいない。 無論、9大神を筆頭とする主神従神合わせて51柱を奉っている宗教の方では話は別である。 というか、凄く重要視されている。 がしかし、彼らは基本的に神族を奉り、そして身を持って示した行動をその身で実践し、世界を案じる事を目的とする集団であるため、政治や国家に対してそれ程に要求する事は無いのだ。 神託を受ける事は栄誉であるが、それは同時に個人に与えられた試練である為、余り協力をしては成らぬと定めされているのだ。 うん、ブッチャケ良ーく判らない。 神学に関しては成績が悪かったのだ。 この世界の宗教がブッちゃんやキーやんを奉ってた連中よりも、現世主義だったり神族と信奉者の連帯感などの面で日本の神道的な面がある事は理解していたが、それから先はサッパリである。 アレだね。 信じない人間じゃ、どうにもならんのでしょう。 神を殺した巨人を滅ぼし、巨人に組した邪竜を封じた神族を否定はしないが、とはいえ個人を捨て神人合一の境地を目指すのは、チョイと違うと思うのだ。 有無、実に現世利益と言うか、俺が自分の欲望に素直なだけなのかもしれないが。 或いは、正義を信じれても、それを誰かに命令されるのが真っ平御免な辺り、実にヒネクレモノなのかもしれない。 まぁどうでも良いが。 夏草や、兵どもが、どうでもよい。 だって他人事だし。と、そんな気分で、オルディアレス伯の話を聞いていく。 そして、良く判らぬ神託絡み以降の話から政治的発言だの、ポジショントークだの、オブラートだのを引っぺがして、3行に纏めてみる。 みた。 1、3番目の息子が英雄譚が大好きで、聖騎士を夢見て神官戦士見習いである。 2、最近、冒険譚の定番である神託が下ったので、政治力を駆使して、国家が支援するようにした。 3、だが冒険譚の如く息子だけをお供にするのは、生活力的な面からも心配だから助っ人を求めた。 うむ、見事に纏ってる。 コレを更に見も蓋も無く纏めると、以下になる。 親馬鹿が息子の夢に一肌脱いだ、と。 オルディアレス伯。 ゴットなファー様ちっくな外見通り、身内にはダダ甘なご様子。 だって、若輩な俺にすらも頭を下げている位だから。 何と言うか、空気的な意味で受けざる得ない依頼。 頭を掻く。 約1000万円と云う前金が、命を賭けるかもしれない試練に同行するに相応しい対価かと言えば、判らないが。 噂で聞く奴隷の値段ってのが大体で30万円程度で、上を見ても100万円を超えるのは滅多に居ないって話だから破格にも見える。 が、トールデェ王国に於ける奴隷と云うのが、戦闘の可能性のトンと無いし、そもそもとして罰としての意味合いの強い身分であるから、ある意味で比較対象としてどーよと云うものである。 当人が金を貯めて自分を買って自由になれる辺りは、年季奉公の亜種みたいなものと言えるだろう。 西方からの商人が遠路はるばるとトールデェまで奴隷を買い取りに来て、その商習慣相違から「トールデェに奴隷無し」と言って帰っていった。 そんな噂話だってある。 ま、とは言っても給与自体は法的規制も無く奴隷主の腹1つでどうにでも成る辺り、まぁ眉唾ものの話ではある。 更に言えば奴隷証明書の偽造も多いし、実家のノウラの如く、王都ですらも路地裏などであれば子供が掻っ攫われそうになる面もあるのだ。 無条件に、トールデェ王国を褒める気になんて成る筈も無い。 兎も角、前金でルグランキグ金貨100枚。 無事に任務を終えれば100枚。 旅の途中で何らかの英雄的行為をオルディアレス伯の息子が為したのであれば、別途にボーナスも考える、と。 破格と言うか、金の使い処を間違えないと言うか。 まだ何も為せていない若輩に提示する金額じゃ無いと思う。 その事を率直に尋ねたら、笑われた。 私とて調査はする、と。 国の事業故に傭兵を雇う訳にはいかず。 かといって腕の立つ正規の騎士をトールデェ王国軍から出せば、オルディアレス伯の息子は空気になる。 では、空気にならぬようにと気遣いの出来るであろう南護19諸侯軍から人を出せば、今度はオルディアレス色が出過ぎて問題となる、と。 であるからこそ、中央の大学の学生となるのだ。 無論、学生だからとは言っても、只の学生では困る。 多少ではない腕があり、同時に旅への知識もある人間をと云うチョイスとなっているのだ。 それで俺か、と納得する。 その俺の顔に何を見たか、オルディアレス伯は言葉を連ねた。「自信が無いかね? だが君は誇って良い。あのリード公家の秘蔵っ子、パークス・アレイノートと互角に戦い、女王陛下より白の外套(ケープ・オブ・ホワイト)を賜ったのだ」 コレに勝る能力証明は無い、と断言するオルディアレス伯。 凄くこそばゆい。 或いは恥ずかしい。 白の外套。 それは尚武にして、<黒>と対峙するが故に、常に人材を欲しているトールデェ王国が、人材発掘の為に行っている武闘大会に於いて、優秀と認められる武威を見せた者へ、女王であるエレオノーラから下賜される装飾具だ。 格式は極めて高い。 公式の場で羽織っていれば、男爵位級の待遇が与えられるという代物であり、何よりも、実力を持つ証拠である為、羽織れる事は極めて名誉とされている。 そんな外套なのだ。 尤も、それ故に優勝者達へと常に与えられる様なものではなく、逆に、下賜者無しと云う結果が何年も続く様なモノであるのだ。 確かに、誇るべきかもしれない。 だが、素直に勝ったと言えない内容でもあったのだ。 武闘大会準決勝にて立ち会った、パークスと云う男との戦いは。 思い出すのだ、あの熱い日を。 轟剣――身の丈程もある様な、母親様のドラゴン・ベインに匹敵する大剣をぶん回してくる。 というか、アレ、普通の剣として扱っている辺り、パークスって奴はウチの母親様の同類っぽい化け物だ。 畜生め。 そんなのに、コッチはショートソードを両の手に持って立ち回りだったのだ。 武器のチョイスに後悔は無い。 剣術と云うよりも体術の延長的な戦闘術が俺の持ち味だからだ。 とはいえ、あの化け物じみた大剣を掻い潜って戦うってのには、とっても大変ではあった。 いやな事を思い出した。 神経削りながら戦って、で、結果が引き分けの判定勝ちって結末だったのだ。 何たる無様。 で、無様に恥を上塗りするのが嫌で辞退したら、今度は驚きの展開となった。 もう一方の準決勝の勝者であった<白銀仮面の美貌女騎士>とのふざけた自称(仮面で顔が隠れているのに、何故、美人と判る)と、名前の通りの白銀の仮面で正体を隠した、だが凄腕の女性騎士が、優勝者として名が呼ばれた時に、大声でそれは承服できない、と強く宣言したのだ。 大会運営の人間は大慌て。 普通は、それが通る筈が無いのだが、この正体不明の女性騎士の正体が、トールデェ王国第1王女ブリジッド・トールデェであった事から話がややっこしくなる。 正体を知らされていたのであろう審判長は猫なで声で翻意を促すが、頑として首を縦に振らない王女ブリジッド。 逆に、滔々と自分が優勝者としての力は見せていないと述べていた。 そんな、何と言うか頭の痛くなりそうな展開が終わったのは、それまで黙っていた女王エレオノーラが、楽しげに口を開いた時だった。 ならば貴女と2人の全員に白の外套を与えましょう、と。 その良く通る声が会場中へと染み渡った、次の瞬間、爆発的な歓声が上がった。 連呼される女王の名。 それに右腕を掲げて応じたエレオノーラ女王。 その姿に俺は、女王の統治者としての力量を見た。 名君かは判らぬが、少なくとも人の心を掴む術をもっている、と。 その後、まだ抵抗する構えを見せた王女ブリジットに、その名を呼んで武威を褒め、場を収めたのだ。 名を呼ばれ、フードを引いて豪奢な金髪を広げ、仮面を外して秀麗な素顔を晒した王女ブリジッドに、会場の興奮は、更なる高みへと上った。 この数十年、王家の人間で白の外套を掴み取った人間は居なかったのだから、当然だろう。 まっ、そんな事は正直、どうでも良い。 問題は、やっぱり俺が白の外套を持つに相応しくないってか、誇るのは無理だって事だ。 ショートソードで大剣とガチって互角だからの判定勝ち。 馬鹿な、普通は逆だ。 俺は軽めのを二本扱っただけだが、パークスはクソ重たい大剣で剣術を見せたんだぞ。 しかも最後まで息切れせずに、俺に付き合いやがった。 正真正銘の化け物だ。 勝ったなんてとても思えない。 しかも、その後のアレコレしての場を収める為と、次の統治者への箔付け的な意味も含んだ、言わば政治的理由で下賜された白い外套。 あー もう何だ、褒められる度に、欝になる。 だからまだ俺は、あの外套を羽織った事はない。 着れるか、畜生め。 俺だって恥は知ってるってんだ。 やさぐれ気味な俺の気分は別として、話は実務的な部分へと移った。 即ち、目的地の話である。「神託の内容は、巫女は<北の聖地>へと到るべし、と」 重々しく言うオルディアレス伯。 <北の聖地>、それは<白>と<常冬ノ邦>の狭間に設けられた<聖地>であり、別には<第7聖地>とも呼ばれている場所だ。 そもそも、<聖地>とは神族主導時代の最末期に生み出されたシステムである。 世界の造成を司った巨人族と共に世界の調律を司った竜族の一部が神への叛旗を翻した結果、多発する事となった激烈な気象他から、<白>の領域を護る為の結界であった。 地脈と呼ばれる大地のパワーライン。 その六箇所のホットスポットへと竜の因子を持った対巨人兵器であった竜戦機(ドラグーン)を封入する事で、コレを人為的に調律し、地殻と気象とを安定化させているのだと云う。 神様の叡智を受け継いだ、神族ってマジパネェ、だ。 人間から成ったとはとても思えない。 尚、余談ではあるが、この<聖地>を管理している組織を母体として宗教――即ち、今の神族51柱と多くの亜神を奉る奉神庁が生まれている。 奉神庁はローマ教皇庁等と違い、日本の神社本庁にも似て、緩やかに各神殿などを管理している。 或いは、神殿の互助会的な組織である。 権威はそれなりにあるが、権限はそれ程には無い。 これは、彼らが奉る神族が等しく、自助努力を旨としているからであった。 この世界、宗教は、この奉神庁系以外の宗教が無いってのはアレだ、本物の神、神族以上に説得力のある存在が無いからだろう。 まぁ、十字に組まれた標識を見て標的と連想する類の俺にとっては、どーでも良い話ではあるが。「失礼ながら、神託を下された目的が読めませんね」「ああ、確かにな。だが、神託とは常にそういうものだ。問題は無い。問題は――」 そこで言葉を切って、じっと俺を見てくる。 返答を、結論を待っているのだ。 深呼吸を1つ。 目を閉じる。 <北の聖地>まで行くとなれば、片道でも1年は余裕で必要となる旅路だ。 往復で3年は見るべきだろう。 道中も、危険は少なからずあるだろう。 だが同時に、この時代に於いて、それだけの旅をする者がどれだけ居るのだろうか。 その意味では非常に面白い。 面白いのだ。 将来的に、マーリンさんの居る<北の大十字>傭兵騎士団に入団する積もりだったが、その前に国外を見て回るのも良いだろう。 目を開き、オルディアレス伯をじっと見る。 そして口を開く。「受けさせて頂きます。但し――」 1つだけ、条件を付けさせてもうらけれども。 トールデェ王国の王都であるトールデン。 その一角にある鍛冶屋街は、今、俺にとっては大事な場所であった。 主に、金づる的な意味で。 割と大きめの鍛冶工房。 それはヒースクリフ家昵懇と言うか母親様の昵懇の鍛冶工房、アブラメンコフ工房であった。 家に保管されている武器の多くは、この工房で作られているそうだ。 腕の良い親方と職人、そして魔力付与職人までも揃っている。 初めての実戦時に母親様に与えられ、今でも愛用している刃の入ったショートソードもココで生まれたらしい。 そんな工房の一角。 応接室と呼ぶには乱雑な、休憩所じみた場所で俺は黒茶を啜っていた。 貴族の子弟相手に休憩所ってのは、扱いが悪いって訳じゃ無い。 剣を振るって本を読み、それ以外の時間ではかなり入り浸っていたから、身内扱いとなっていただけの話である。 冷えた黒茶が、美味い。 筒状の、モノを冷やす力を持った魔道具は何気に便利だ。 でも時々、ソフトクリームが食べたくなるが。 アイスクリームより、難易度がもっと上だ、残念。 シャーベットも嫌いじゃないんだが、濃厚なソフトクリームが大好きだ。 まっ、それは兎も角。 まったりとお茶をして、菓子を齧る。 ガリガリと。 露店で買ってきた菓子だ。 煎餅みたいな味だが、油で揚げたものらしい。 トールデェ王国ってのは、交易路の東端であり、四方から物資が流れ込む場所ゆえに、色々なモノが入ってくるので、お菓子類も豊富なのだ。 魔法のお陰もあって、中世っぽいファンタジー世界な割りに食生活は豊かだ。 まっ、2000年代の日本を生きていた経験からすると、“それなり”程度の話ではあるが。 他所の国の人間になって思うが、アレは変態の国だった。 変態による変態の為の、変態の国家。 郷愁と共に、油揚げな煎餅モドキを取る。 齧る。 乾いた音が、良い響き。 聊か下品ではあるが、まぁアレだ。 オルディアレス伯つぅおエライさんと相対して神経が疲れたのだから、勘弁して貰いたいものである。 身内の場所でもある訳だし。 そんなだらけた俺を笑う声。 胴間声。 どうやら、家主が着たらしい。「おじゃましてまっす」「おうおう、お邪魔しとるなぁ。好き勝手に飲み食いしおって」「おやつは俺の持ち込みですよ?」「馬鹿が、持ち込まれた時点で、ワシんもんじゃが」 巌の如き拳骨で、煎餅モドキを3つ4つと一度に掴み、それから大きく開けた口に放り込む。 豪快だ。「うわっ、横暴」 笑う俺。 咀嚼しながら俺の正面にどかっと座った、髭面で短躯の壮年男性。 このアブラメンコフ工房の主であるアビアルダ・アブラメンコフ、ドワーフだ。 故に、手には勿論ながら酒瓶が握られている。 流石に真昼間に蒸留酒みたいな強い酒ではないが、にしてもラッパ飲み。 期待にたがわぬ、アル中っぷりだ。 まぁ種族違うんで、人間基準で考えるだけ野暮ではあるけども。 少しだけ、世間話。 商売の話だの、何だのをする。 母親様が大の仲良しで、俺は俺で彼の商売繁盛の切っ掛けを作ったので、年の差はあるが、友人的な関係を築けている。 だからこそ、緊張なんて欠片もない会話。 それが、ある瞬間、フッと止まった。「しっかしどした、今日は?」 口元を拭い、懐疑と云うよりも確認の言葉を放ってくるアビラルダ。 洞察力と云うよりも、当たり前だろう。 大学に行く様になってからコッチ、平日の真昼間にココへ来る事なんて無くなっていたのだから。「いや、チョッとする事が出来ましたんでね、仕事をお願いしようかと思って」「剣か?」「いや、まー武器とかもですが、馬車を、ね」「ほう?」 アブラメンコフ工房は、基本、剣や防具の様な個人的な武具から馬具馬車辺りまで、金属を加工して作るものであれば何でも作る工房である。 武具に関しては<戦鑓の貴婦人>、女王直轄の人外集団である<十三人騎士団>が第9位である母親様が愛用しているって事が良い宣伝になるらしく、良く売れているらしい。 あの、頭のオカシイ戦闘力を誇るアデラ女史愛用の逸品です――謳い文句としては一級だろう。 俺だって欲しくなるかもしれない。 魔除け用に。 うむ、自分の母親様をネタにするのはやめておこう。 後が怖いから。 後が怖いから。 大事な事なことだから、二回言っておこう。 兎も角、武具の売れ行きは中々に良い。 だがそれ以上の稼ぎ頭が、この工房にはある。 馬車だ。 馬車自体は、ある程度の技術さえあればどこの工房でも作れるのだが、このアブラメンコフ工房の作る馬車には、他の工房ではまだ真似の出来ない仕掛けがあった。 それは車軸の懸架装置、板バネを用いたサスペンションだ。 板バネを重ねて車軸を懸架し、地面の凹凸の衝撃を緩衝する装置だ。 その名もアブラメンコフ式非魔道型衝撃緩衝機構。 母親様に連れられて、遊びに来ていた時に偶然に思いつき――まぁ正確には思い出して、アビアルダに提案。 アビアルダは俺の提案を子供のたわごとだと鼻で笑わず、面白そうだと話を受け、それから、他の職人も交えてあーだこーだと試行錯誤し、そして半年程で完成させたのだ。 この世界初の純機械式の衝撃緩衝機構として。 まぁ日本車のメーカーから見れば、それこそ鼻で笑われそうなチャチさであるが、にしても達成感があった。 アビアルダとか職人は、新しいものを生み出せた喜びに歓声を上げ、俺は、ちょっとだけ内政(っぽい)チートウマと思えて喜んだ。 更に驚いたのは、アビアルダが、発案ってか、発明者の欄には俺の名も加えていた事だ。 何故にと、その事をアビアルダに問えば、発案者はお前であり、その名誉を奪う事はドワーフ族の偉大なる鉱石と発明の祖、ギム・ドガルドの名を汚す行為だからだと、胸をはっての答えを受けた。 なんというかこのドワーフ、カコイイ気概の持ち主なのだ。 まぁ、日頃の行動は乱暴だけれども。 兎も角。 先述の金づるってか、チートとはコレの事である。 いや、非魔道式って名前から判る通り、この世界に衝撃緩衝装置って無かった概念って訳じゃ無い。 只、魔道を用いるそれは、極めて高額であり、王家や上級貴族らの家でしか使えない代物だったのだ それがこのアブラメンコフ式(以下略)の場合、多少なりと衝撃緩衝能力が落ちるが、普通の商家や王立軍でも採用出来る程度の額――具体的には、本体価格に乗せる事2割って程度で取り付ける事が出来るのだ。 売れない筈が無かった。 そのお陰で、殆ど馬車工房と化しているアブラメンコフ工房。 儲かってウハウハである。 しかもその売り上げの純利、その5%程度を、俺にくれると云う御大尽っぷりだから凄い。 まぁあの後も、色々とアイディアを提供したので、これからもヨロシクだとか、アイディアを他の工房に出すなよ的な金でもあるだろうけども。 何にせよ、金が入ってくるのは純粋に嬉しい。 が、それだけに留まらず、このアブラメンコフ式(以下略)、王国の国力拡大に貢献ありと認められて王政府、具体的には宰相府と軍務府の連名で年金付きの褒章が下賜されたのだ。 吃驚である。 確かにマーリンさんからも、<北の大十字>傭兵騎士団が導入してみて、部隊の展開とか物資の輸送とかで使い勝手が大変に良くなったとスゲェ褒められて、後は「発明者へのサービスだ」なんて耳元で艶やかに囁かれて、そらもう朝までしっぽりとって、やめやめ。 こんな髭面短躯のドワーフの前でエレクチオンなんて、何の罰ゲームってなものだ。 黒茶を呷って、気分を変える。 そしてアビアルダとの会話、買う馬車の性能要求に集中する。 馬車と云うよりも、荷馬車であるが。 3年、しかも交易路を旅するのだから、フレーム他には魔法強化された金属製の奴を、とか。 一応1馬立ての仕様だけど、雨の日には中で過ごせる程度の大きさが欲しい、とか。 当然、屋根付き。でも軽量化の為に防水加工済みの布製でも可とかとか。 ………考えてみると、荷馬車と言うよりも幌馬車か。 基本的に交易路は、地球でかつて存在していたシルクロードと違って、それなりの道が整備されているので、馬車での移動にも差し障りは無い。 予備の部品と工具程度は必要だけれども。 しかし、馬車だ。 こゆう裏方の事にすらも年金付きの褒章をキチンと出す辺り、我が祖国はガチの戦闘国家だと思える。 本気で戦争するのであれば、後方みたいなのを蝶々蜻蛉も鳥のうち何て馬鹿にするモンじゃねぇって話だ。 腹も減っては戦も出来ぬってね。「所で、何人で使う積もりなんだ?」「3人かな、今の所」「ほう、で、何処まで行くんだ?」「………」「何だ、言えないのか?」 別に口止めされた訳ではないが、若干、言い辛い。 まぁ神託自体は下された事が公布されているが、内容とか人選は情報が流れちゃいない。 てゆうか、ブッチャケて一般人は興味がない。 まぁそんなモノだろうと、頭を掻いて、それから答える。 一応は口止めをして。「何だ、大事だな」「まぁ、来月辺りになれば判るとは思いますけどね………目的地は、<北の聖地>です」「あぁ? もう一回、言ってくれ」「<北の聖地>」「正気か?」 聞き間違えない様に、一言一句をゆっくりと言った俺に、アビアルダは正気を疑うような眼差しを向けてきた。 うん。 今になって、金の魔力酔いが抜けて思うが、本気で同意する。 大雑把な地図で、適当に計算しても約10000kmの大旅行だ。 ユーラシア大陸横断よりも長そうな旅路だ。 途中で、船だの何だのを使う予定ではあるが、マジでパネェ距離だ。 あっ、その何だ、少し、早まったかな?