我が妹、ヴィヴィリー・ヒースクリフは美少女である。 クリクリっとした目と鮮やかな金髪、年不相応なこしゃまっくれた部分を持った美少女である。 多分、この妹が嫁入りする時は、父と一緒に泣いてアルコールをしこたまに飲むであろう自信がある。 兄馬鹿で悪いか。 悪くない。 が、だからこそ、妹が村へと俺は激烈に反対しました。「何故にですか、おにいさま」「何故も無い。危ないからだ」「危ないと仰いますが、おにいさまは行かれるんですよね?」「ああ。ノウラの事、最後まで付き合いたいからな」「何故、そこまでするんですか?」「男の意地、かな? 多分」 女性に対する責任って言葉は、全く別の意味で重たいので使用しない。 特に、妙齢の美女あいてならまだしも、ノウラみたいな妙齢に10歩近い手前な子供相手になんて使用したくない。「ヴィヴィーには判りませんわ」「だろうね。だから、まぁ兄が馬鹿な理由で戦場に行くって事で理解しておいてくれ」「おにいさまの事情は判りました。ですが、では何故にヴィヴィーが一緒に行く事は反対なのですか?」「いや、それは常識的に考えて駄目だろ」 情操教育に良くない。 絶対に良くない。 PTSDだのトラウマだのを、我が妹に与えたくないのだ。 そら、魔法の素質があって練習してるってな話は聞いていたが、それでもだ。「子供が戦場に行くってのに反対しない馬鹿は居ないよ」「おにいさまも子供です」 ふくれっ面で不満を表明するマイ・シスター。 年相応の可愛らしさがある。 主張は判らぬ訳では無い。 年子なのだ。 一方的に子供扱いされては面白く無いだろう。 だが、そこは流石に譲れない。 とゆー訳で、母親様に直談判。 馬車の確認をしている所へ妹を連れていく。 後は直言するのみ。「反対です」「何がなの?」「ヴィヴィリーです。この子を連れてマバワン村へと向かうのは駄目だと思います」「……そうなのよね、私もそう言ったんだけどね」 誰に似てか強情で、と言う。 そんな暢気な事を言っていて良いのかと、眦が急角度を取る俺。 まぁ仕方が無い。「まぁ、何事も経験よ。それに、ヴィヴィーは治癒魔法が使えるから、外すのは辛いのよね」 悩むような顔。 そら確かに、治癒魔法が使える人間が増えるのは良いことだ。 てゆーか、我が妹、使えるんかい、治癒魔法。 チョイと吃驚だ。 それ以上に羨ましい。 魔法は攻撃もだが治癒も駄目な俺としては。 攻撃魔法はまだ良い。 魔方陣で魔力を練って、後は方向性をぶつけるだけで発動させる事は出来るから。 だが、治癒魔法は違う。 怪我をした部位を緻密に把握し、そこへピンポイントに治癒魔法を掛ける必要があるのだ。 そゆー緻密な魔法は、よっぽどの素質が無いと使えません。 そして俺に、素質はありません。 精々が回復用のポーションか、或いは外傷だけを回復させる治癒符しか使えない。 でも、妹は違う。 治癒魔法が使えるって事は、呪文を唱えて手をかざすだけで回復させる事が出来るのだ。 正に魔法だ。 うはーっ、マジで羨ましい。 が、とは云え、10に満たない幼子を戦場になりそうな場所へと連れて行くのもどうかと思う。 だから、ここは抗弁。「でも、治癒だけなら薬や符で何とかなります」「それらは対処なのよね。傷の本質を見たりとか、色々とあるのよね」 困ったような顔。 だが其処に俺は冷徹な色を見た。 歴戦の冒険者か傭兵としての、だ。 否。 それだけでは無かった。「それにね、ビクター。ヴィヴィーは治癒魔法を中心に研鑽したいって言うの。なら、こんな鉄火場での経験も大きな意味を持つの」 スパルタンでした。 成長したいって云う妹の要求を叶える、母親様の愛――なのだと思う。 多分。 兎も角、当人もその気で保護者もその気なのだ。 もうナンも言えねーって感じでした。 有無、戦国時代とかそゆう感じです、この世界。 俺としては、もちっとファンタジーが良いなぁと思った今日。 空は何処までも青かった。 畜生。異世界ですが血塗れて冒険デス (σ゚∀゚)σエークセレント0-09往きの道 流れる雲。 そよ風が気持ち良い、そんな馬車の旅である。 訂正。 重装甲馬車の旅である。 普通の馬車はオープントップであるか、精々が幌である。 が、我らが乗り込んでいるのは、厚さ3cmはあろうかと云う木の板に囲まれた馬車だ。 叩くと、エライ硬質な音を立てる。 何でも魔法による硬化処置をしていて、鉄並みの強度があるそうな。 昨日見た時は、普通のオープントップの馬車に見栄たんですけどね。 あれよあれよと云う間に装甲板が組み込まれ、装甲化したのだ。 この世界、ネジの類は無かったが、楔とか色々と使って見事に固定している。 呆れる程のナニか。 しかもその外観は、ナンと言うかアレだ、米軍がイラクで使っていたMRAPみたいな、ゴッツイ感じである。 てゆーか、御者台まで装甲化されているのって、ナンか狂ってる。 後、曳いている馬も雑役馬の類では無く、体格も隆々とした戦馬なのである。 絵に書いたら、多分に題名は“地獄の馬車”とか、物騒なのが付けられるの必定っぽい化け物さんだ。 戦車みたいなっていうか、古い意味での戦車を極悪魔改造か、非常識進化させた様な化け物である。 車輪に大鎌が付いても違和感が無い。 てゆーか、天井に登れるのと、そこが言ってしまえば銃座として機能出来る様に設計しているって時点で、何かが狂ってると思う。 うん。 狂ってる。 大事な事なので2度言いました。 戦闘用としては最凶。 だが、居住用としては最低である。 サスがナンも仕込まれていないのだ。 座っているとケツを叩かれると云うステキ仕様なのだ。 一応はベンチは詰め物がされているが、そら平成の日本車に慣れている俺としては、小一時間は不満を述べたい代物である。 いや、まぁフニャチンサス仕込まれてても酔いそうになるが、にしても、である。 だから、子供の特権である我侭を発動しますた。 天井に登って、空気を味わってます。 ついでに、微妙に凹んでるっぽいノウラと、ブッチャケ、車酔いでグロッキー状態の妹も連れて来てます。 母親様は薬を飲ませると、しばらくすれば大丈夫と言っていたが、兄として妹の苦しみを、そのままにはしたくない。 屋根の部分の広さも十分にあるので、荷物から毛布を全部引っ張り出して敷いて簡易なベットを作ると寝かせたのだ。「すいません、おにいさま………」 か細く言う妹の頭を撫でてやる。 後、濡らしたタオルを頭に当ててやる。「気にするな。兄として当然の事をしているだけだ」 青くなってた顔も、少し精気が戻った風に見える。 こしゃまっくれた我が妹だが、その元気が無ければ寂しく思う。「でも………」「こういう時だけヴィヴィリーはお淑やかだな」「失礼ですわ、おにいさまって。ヴィヴィーは常に淑女ですのに」「淑女、淑女ねぇ………こんな馬車に自分から乗り込んで来た奴が言うかな?」 二言目には、自分の事を淑女と言うヴィヴィリー。 そこが可愛くもあり、からかい所でもあるが、少しからかい過ぎた模様。 ほっぺたを可愛らしく膨らます。「………嫌いです」 そっぽを向く妹。 そんな仕草も可愛くて仕方が無い。 だから、髪を撫でてやる。 優しく優しく。「すまんすまん。後で冷えた果実水を用意してやるから、今は眠っとけ」「おにいさまって、ホント、誤魔化すのがうまいのです」 甘いもの好きの妹は、特に果実水に目が無い。 この果実水、食道楽の俺オリジナルである。 水に果実と蜂蜜他を使って作る、ジュースだ。 この世界に元からある諸飲み物に比べ、味を調整している分、とっても飲みやすくなっているのだ。 しかも魔法を使って、温度まで飲みやすい――美味しい所まで下げているのだ。 美味くない筈が無い。 故に、この俺の果実水は対妹機嫌用の最終兵器でもあるのだ。 餌付けとも言う様な気もしないでもないが、まぁアレだ、気のせいとしておく。「おや、返事は?」「はい。眠ります。だから、林檎のをお願いします」「判った」 更に頭を、そっと1撫で。 それで眠りに落ちる妹。 毛布をかぶせ直す。 まだ夏に入らぬ温暖な季節だが、寝れば人間の体温は落ちる。 チョイとした気遣いだ。 紳士は気遣いを忘れないノデス。 さて、さてさて。 寝入った妹は放っぽってても大丈夫だろうが、残る問題が1つある。 ノウラだ。 此方の都合で巻き込んだのか、アチラの都合で巻き込まれたのか。 物事だけを列挙すればアチラ主体だが、経緯を考えると、此方っぽい。 複雑な事実関係。 短い時間だが、ノウラと云う子の性格はやや読めた。 割と真面目と云うか頑固なのだ、この子は。 だからこそ、我が一家+αを無給で巻き込んだ事に胸を痛めているのだろう。 しかし、母親様辺りは、気に入った子を助けれて、オマケに良い狩りが出来るとか考えているのだ。 そら、理解出来ないと思う。 世の中には考えたら負けってな種類の人間も居るのだ。 その代表選手みたいな相手に捕まったのだ。 世の不条理と不合理と非常識を嘆いて、後は酒飲んで寝る位が適当だと思うんだ、正直。 まぁ、10歳児みたいなのが飲んだくれられても困るちゃぁ困るが。 ん? なんぞ、表現としてとゆーか、色々と間違えた気もするが、まぁカレーにスルーだ。 天井の1番前の方に座って前を見ているノウラ。 その横に、ヨッとばかりに座る。 こんな時の定番、缶コーヒーはこの世界に無いので、干し無花果を持ってきた。 持たせる。「どうしたの、ノウラ?」 どうしたんだ、テツローとかゆー風に聞いて見る。 いや、真面目になんだけどね。 顔にサンマの骨的縫い目も無ければ、スイカに水を撒いている訳でも無いですがね。「………何でも無いです」 嘘だ! と断言できる言い方をする。 てゆーか、顔が強張ってるんですがね。「んー そうか? なら俺が気にし過ぎかもな」 干し無花果に齧りつく。 当然、皮は手で剥いでだ。 文明人なんだもの。 濃厚な、だがしつこくない甘さが口に広がる。「食べない? 美味しいよ」「…………………はい」 流石は農村っ子。 中々に豪快な仕草で齧り付く。 モゴモゴと噛み、そして皮手に吐き出し、そして馬車の外へと捨てる。 もう1噛み。 そしてモゴモゴと噛む。 小動物チックな仕草だ。 癒される。 そんな暫しの時間。「気分は良くなった?」「ビクターは、ズルイです」 食い物に釣られた事に、不満を言うノウラ。 だが、その表情は先ほどよりも落ち着いている。「かもな。だが、なんだ………」 言葉に困って、口が止まる。 何て言えば良いのか、正直悩む。 ノウラがコッチを見ている。 止まってる時間は無い。 だから、思うままに口にする。「そうだな、ノウラは故郷は好きか?」「? 好きです。小さな村ですけど、大好きです」「なら、その村を護れる手段が手に入ったと割り切るんだ」「……それって、ビクターやアデラさん?」「ああ。俺はそれなりだが、アデラ母さんやマーリンさんとかは多分、一騎当千だ」「でも………」 悩みを見せるノウラ。 まぁこの程度で割り切れるんなら、悩みやしないやね。「でもは無しだよ。ノウラが素直だったり謙虚だったりとかな、そんな所に、アデラ母さんは動かされたんだ。だからさ、気にするな」「………はい……」 俯いて泣き出すノウラ。 多分、きっと、これはうれし涙だろう。 そう思っておく。 だから肩を抱いて、頭を撫でてやる。 後で御者をしていたマルティナさんに、そっと言われた。 笑顔で。 頭をゴイゴイっと撫でられながら。「ビクター坊は、誑しにゃぁ成れないかもね」 聞こえてたんかい。