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No.8137の一覧
[0] 日々、日々に在り (エピソードの二)[寒ブリとツミレ](2009/05/01 01:37)
[1] 承前[寒ブリとツミレ](2009/04/18 05:49)
[2] 僕が約束をしたと言う話[寒ブリとツミレ](2009/04/18 05:50)
[3] 僕と彼女の話 前[寒ブリとツミレ](2009/04/19 05:35)
[4] 僕と彼女の話 後[寒ブリとツミレ](2009/04/25 00:58)
[5] 僕と下級生らの話[寒ブリとツミレ](2009/04/26 23:49)
[6] 僕と彼と後輩二人の話[寒ブリとツミレ](2009/04/27 00:06)
[7] 僕と彼女と二人の後輩の話[寒ブリとツミレ](2009/05/01 01:36)
[8] 僕が部活で迂闊だったりした話[寒ブリとツミレ](2009/05/01 01:36)
[9] 僕と叔母上の小話[寒ブリとツミレ](2009/05/01 01:36)
[10] 余話の一 (白幡 亨)[寒ブリとツミレ](2009/05/01 01:36)
[11] 余話の二 (天笠 洵依)[寒ブリとツミレ](2009/05/02 18:16)
[12] 僕の部活が始まるまでの話[寒ブリとツミレ](2009/05/03 12:49)
[13] 僕と圭の話[寒ブリとツミレ](2009/05/05 02:12)
[14] 僕と彼の話[寒ブリとツミレ](2009/05/06 00:20)
[15] 僕と梨恵の話[寒ブリとツミレ](2009/05/08 02:36)
[16] 僕と梨恵と彼女の話[寒ブリとツミレ](2009/05/09 06:43)
[17] 僕と男性部員の皆との挿話[寒ブリとツミレ](2009/05/09 06:43)
[18] 僕の叔父上が籠るまでの小話[寒ブリとツミレ](2009/05/10 06:09)
[19] 僕の宴が始まるまでの挿話[寒ブリとツミレ](2009/05/14 01:38)
[20] 僕らの宴での自己紹介の話[寒ブリとツミレ](2009/05/14 01:38)
[21] 余話の三 (斎宮 圭)[寒ブリとツミレ](2009/05/20 04:38)
[22] 余話の四 (上遠野 梨恵)[寒ブリとツミレ](2009/05/20 04:39)
[23] 僕の四国での話 二十五日 昼[寒ブリとツミレ](2009/05/24 05:36)
[24] 僕の四国での話 二十五日 夕[寒ブリとツミレ](2009/05/24 05:36)
[25] 僕の四国での話 二十五日 夜[寒ブリとツミレ](2009/05/24 05:36)
[26] 余話の五 (天笠 洵依)[寒ブリとツミレ](2009/05/23 04:59)
[27] 僕の四国での話 二十六日 未明[寒ブリとツミレ](2009/05/24 05:36)
[28] 僕の四国での話 二十六日 日中[寒ブリとツミレ](2009/05/26 03:32)
[29] 余話の六の一 (白幡 亨)[寒ブリとツミレ](2009/05/28 03:33)
[30] 余話の六の二 (白幡 亨)[寒ブリとツミレ](2009/06/01 01:35)
[31] 余話 六の三 (白幡 亨)[寒ブリとツミレ](2009/06/04 01:08)
[32] 僕の四国での話 二十七日 午前中[寒ブリとツミレ](2009/06/06 05:47)
[33] 僕の四国での話 二十七日 午後[寒ブリとツミレ](2009/06/10 03:42)
[34] 余話の七 (大童 菫)[寒ブリとツミレ](2009/06/18 03:56)
[35] 余話の八の一 (依藤 悠子)[寒ブリとツミレ](2009/06/27 04:47)
[36] 余話の八の二 (依藤 悠子)[寒ブリとツミレ](2009/06/29 03:25)
[37] 僕の四国での話 28日 黎明[寒ブリとツミレ](2009/07/29 05:00)
[38] 僕の四国での話 二十八日 早朝[寒ブリとツミレ](2009/10/13 01:05)
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[8137] 僕の四国での話 二十七日 午前中
Name: 寒ブリとツミレ◆69dcb0e1 ID:0a17df80 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/06 05:47


 霧に一筋の光が差し込む。
 陽の腕(かいな)が地へと伸ばされた様にも思える。

 その腕に包まれて、僕は淡い感覚を覚えた。
 それは本当に、何かに包まれているかの様な思い。
 その事に僕はふと懐かしみを覚え、修練の動きを緩め、やがて止めた。

 懐かしいが、しかし思い出そうとはしない。
 圭からの忠告を忘れてはいないためだ。


―――― 君はもう、思い出そうとするな。


 圭の見解では、僕の記憶には途切れがあるらしい。
 その断線を手繰り寄せるのは、濡れ手で電線を引くような物。
 ある種の精神的な傷害の様に、思い起こす事その物が害と成り得ると、そう言う事なのだそうだ。

 精神分析を生業とする訳でもない、そんな圭の見解である。
 無視しても構うまい。圭も気にしないだろう。
 そもそも、例え話と言っていたのだから、そのまま受け取る事自体が間違いなのだ。

 しかし一方で、僕は不思議と得心が行っていた。
 思い出が、僕に害を為している。それが事実だと確信出来る。
 まあ、そこに根拠が見出せないため、不思議ではあるのだが。

 それゆえ、僕はこの懐かしさを追求しない。

 ただ、ちょっと困った事がある。
 この懐かしさは、いつぞや彼女の家で世話になった時に覚えた物と同じなのだ。

 彼女の件は、ちょっと気に掛かっている。
 付随して疑念も生じていて、考えて良い物やら、対応を決めかねているのだ。

 冷えつつある汗を拭い、僕は首を傾げた。
 どうした物なのだろう。圭に訊いてみようか。



 身体の状態が落ち着いた頃、僕は思案を措(お)いた。
 修練に必要なのは修練のための心身のみ。無駄な気は要らない。

 僕がそうして五の手の準備を始めていると。
 背後より近付く人影があった。二つ。
 歩みの乱れからして、心身の一致が成っていない。多分、寝起きなのだろう。

 僕は振り返った。

「簾平と宏平か。朝早いのだな」
「誰のからや思ぅとるんじゃ」

 宏平の憎々しい言葉に、無言で簾平が頷いた。

 から、とは原因を表す方言であった筈だ。
 僕の知る語で訳せば、せい、が適当である。
 つまり、誰のせいかと問われているのだが。見当が付かず、僕は首を傾げた。

 宏平は顔に満面の怒りを浮かべたが、言葉を放たなかった。簾平が止めたのだ。

「真由」
「どうかしたのかい?」
「俺は非常に悲しい」
「……そうなのかい?」

 僕が訊ねると、簾平は無表情を崩さずに頷いた。

「至福のときだったよ。布団は温かった」
「……寝ていた、と言う事だろうか」
「そう。眠いのに。昇さんに起こされた」
「昇小父さんに?」

 二人や、小父さん一家は本家母屋で暮らしている。
 朝起こしに来たと言うのは別段、おかしな事でもないだろう。

 しかし、経緯が飲み込めない。
 小父さんが起こした経緯もそうだが、その後に二人が神奈備まで足を運んだ経緯も、である。
 また、話を聞く限りでは、誰のから、とは昇小父さんの事なのだろうか。
 そうだとすると、それを僕に言う意図も読めない。

 僕の疑念に答えるかの様に、簾平は再び頷き、告げた。

「見習えって言われた」
「おまはんが早ぉ起きとるけん、躾や言うてな、叩き起こされたで。
 ほんで、おまはんとテダッて汗掻いてこい、ってな」

 躾の語に、思い当たった事がある。
 先日の朝、小父さんが言っていたのだ。


―――― ちっと躾が足らんと思うてなぁ。


 恐らく、あの発言はこの事を意味していたのだろう。

 とすると、誰のから、とは僕のせいに違いない。
 僕の修練が、二人を起床に導いた様なのだし。
 その事に、二人は不満を覚えているらしい。むべなるかな。

 すっかり納得が行って、僕は頷いた。

「成程。経緯は把握した」
「ほうか。ほれはよかったで」

 指の付け根を解しながら、宏平は片頬で笑った。

「ほんなら、相手してもらうで?」
「相手、かい?」
「この憤りを君に伝えたい」

 真顔のままであった簾平も笑った。
 どこか洵依を思わせる、邪な笑みである。それも二人とも。

 僕は首を傾げて問うた。

「……よくは分からないが、立ち合えば良いのだな」
「ほうや。よぉわかっとんな」
「尋常に、勝負」

 尋常に、であって良いのかと。
 僕は頷いた。

「了承した。では――――」

 そう言い置き。

 二人が動き出すよりも先に。
 僕は一の手を用いた。






 二時間ほどの追いつ追われつであったが。
 立ち合いを終えてから、二人にはひどく文句を言われた。
 やれ、卑怯だ、いきなり逃げるな、どこが尋常だと。
 
 僕は納得が行かなかった。


──── 先ず、一は逃げる。


 僕の家の作法では、逃げる事が肝心なのだ。
 尋常に立ち合った結果、非難されると言うのはおかしいだろう。

 納得が行かない。それならどうすれば良かったと言うのだろうか。










 僕の四国での話 二十七日 午前










 昨日の事である。
 夕餉の折、惠が言ってきた。

「明日、本家と分家が総出で年越しの準備を致します」
「ふむ。要り様であれば僕も手伝うが」
「いえ。お気持ちは嬉しいですが、村の事ですので」
「そうか」

 僕は頷いた。

 秘儀に関わる物なのだろう。
 神とは言え、外様の僕に見せられる物でもあるまい。

 手隙になるなと考え始めた頃、再び惠が言葉を掛けてきた。

「その都合で、私は分家の子らを見ています。
 きちんとした応対の一つも出来ず、申し訳ありません」
「いや。忙しいのであれば致し方ないだろう。気にする事ではないよ」
「有り難うございます」

 頭を下げた惠に、僕は感じ入った。
 つくづく丁寧な子であるな、と。

 方言を解さない僕に、語の説明をしてくれる事もそうであるが。
 惠の配慮と、丁寧な応対には助けられている。前回も、今回も。
 この恩義は返したい物であるが。

 そう首を傾げていると。
 その惠は、関係ない様子で食事を続ける簾平に声を掛けていた。

「簾平兄さん」
「んん?」
「いえ。返事は構いませんので」

 惠は淡く笑み、提案した。

「明日は手伝って下さいね」
「んん!?」

 簾平は喉に詰まらせた飯を茶で飲み下し。
 ぶんぶんと首を振って見せた。

「無理無理」
「無理ではないです」
「めんどい」
「面倒でもありません」

 僕は首を傾げ、簾平に問うた。

「面倒な事なのかい?」
「もちろん、面倒も面倒。体力使うし」
「簾平兄さんはゴロゴロしたいだけです」
「む。そうなのかい?」

 僕と惠の注視に、簾平は渋い顔をした。

「ぶっちゃけは良くない」
「……その表現も宜しくありません」

 同じく渋い顔をした惠であったが。
 突如、ハッとした様子で僕を見返した。

「真由さん。ぶっちゃけと言う語は――――」
「惠。その語については大丈夫だよ」
「あ、はい。そうですか」

 頷くと、再び惠は簾平に提案を続け。
 簾平はその都度、首を横に振った。

 僕はその間に一つ思い付き、二人に訊ねた。

「もし、簾平が嫌ならば、宏平が手伝えば良いのではなかろうか」

 簾平が即座に却下した。

「真由。それ無理」
「ご提案は有り難いのですが。残念ながら、その通りです」

 惠も頷いた。

「宏平は元服の儀で、明日の正午から三十三時間、籠もります。
 午前の間もその準備がありますので」
「ふむ。確かに無理だな」

 僕は納得し、別の提案を述べる事にした。

「ならば、僕が手伝おう」
「真由さんを働かせたりしますと、方々から叱られてしまいます」
「俺も叱られそう」

 二人に反論に、僕は首を振った。

「そうすると、僕も籠もっているぐらいしか、する事がないのだが」
「しかし……働かせるわけにも……」
「でも、真由の希望を妨げるのも無礼」

 あっさりと意見を翻した簾平に、惠は再び渋い顔を見せた。
 が、ややあって、一つ溜め息を吐いた。

「そうですね。では、真由さん、お手伝いをお願いします」
「うむ。了承した」

 淡く笑んだ惠は、視線を横へと移し、言った。

「では、簾平兄さんもお願いします」
「どうしてそうなる」
「真由さんを働かせて、自分だけのんびりが許されるとお思いですか」
「……騙された」

 恨めしげに見遣る簾平が印象的であった。






 そんな次第で。今現在、翌日の午前。
 僕はオニサンゴなる遊びを行っている。
 一般には鬼ごっこと言うのだそうだが。僕はオニサンゴでしか遊んだ事がない。

 その乏しい経験から、僕は疑念を覚え、惠に訊ねた。

「どこまで本気を出して良い物だろうか」
「何故か簾平兄さんがやる気ですので、手を抜く必要はないと思います」
「ふむ。では気を入れて頑張ってみるよ」

 僕は安心して、逃げに専心する事を決めた。



 と言う訳で、小一時間ほど走ってみたのだが。
 追い駆ける簾平の方が先に限界を迎え、途中、崩れ落ちる様に倒れ込んでしまった。

「も……むり……」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ、だっただろうか」

 拍手を打って、僕が首を傾げていると。
 預かる少年少女の二人を連れて、惠が歩み寄ってきた。

 顔に浮かんでいるのは、いつもの薄い笑みではなく、紛れもない苦笑。

「真由さん」
「どうかしたのかい」
「捕まえました」

 肩に触れられてから気付いた。
 連れている少女は確か、鬼だった筈だ。

 とすると、惠は既に鬼に変わっていたらしい。

「しまった。迂闊だったな」
「いえ。むしろ、真由さん、強すぎます。もうみんな鬼になってます」
「いつも通り走っていただけなのだが」

 息も絶え絶えに、簾平が口を挟んだ。

「……あさ、から……まゆ。つ……す……」
「つす?」
「これは私も分かりません」

 二人で首を傾げていると。
 惠の後ろに隠れていた少女が、声を掛けた。

「惠ちゃん」
「どうしたんえ?」
「飽きた。糸取りしよ」

 惠より顔一つ分は小さい彼女。
 気付いたのだが、惠と同年輩ではなかろうか。
 呼び名や、親しみ方から思ったのであるが。

 失礼な話であるが、改めて、惠も少女なのだなと感じ入っていると。
 簾平を突いていた少年が、声を掛けてきた。

「兄ちゃん。兄ちゃんはワシらと遊ぼうで?」
「うむ。他の皆は?」
「向こうでサッカーやっとる」
「サッカーなら僕にも分かるな」

 そう頷き。
 未だに立ち上がれぬ簾平を立ち上がらせ、連れて行った。

「ちょ……ま……」



 当初は僕だけが遊戯に参加し。
 ようやく簾平が回復した頃には、一時休憩と相成った。

「簾平、大丈夫かい?」
「納得いかない」

 腕組みを解かず、胡坐を掻いたまま簾平は言った。

「俺より真由が体力がある。これはいい。
 でも、サッカーまでやってその涼しげな顔は納得いかない」
「涼しげだろうか」

 僕は首を傾げた。

 確かに、火照った身体に冷気が快いが。
 それを涼しげと言うのだろうか。どうも違う気がするのだが。

 僕の様子を眺めていた簾平は、ふと腕組みを解いた。
 小さく頷いて、前の言を捨てる。

「まあ、いいか」
「良いのかい?」
「悩み、忘れてたみたいだし」

 悩み。
 一瞬、何の事を言っているのか分からなかったが。

 継ぎ足された言葉に、僕は得心が行った。

「昨日、籠もってた。昼も夜も元気なかったし」
「その事か」

 悩みと言えば、そうだろう。
 心配を掛けていたらしいと、僕は反省した。

「済まない。心配を掛けたのだな」
「俺はそうでもない。惠が心配してた」
「そうか」

 率直な言葉であるが。
 それだけに惠の心配振りが窺われた。

「だから、昨日は惠も折れた」
「昨日、と言うと、今の件かい?」
「そう。節を曲げた」

 立ち上がり、簾平は続けた。

「話は聞かないけど」
「……けど?」
「兄貴分は妹に心配掛けないように」

 そう言って僕の額を指で弾き、集まる少年らの方へと歩いて行った。



 僕が動くよりも先に。
 少女らから離れ、惠がやって来た。

「どうなさいましたか?」
「簾平から意見を貰っていたのだが」
「意見、ですか?」

 首を傾げる彼女に、僕は言った。

「惠にあまり心配を掛けるな、と」
「……簾平兄さんは、無口の癖にお喋りです」

 顔を顰め、惠は小さくこぼした。

 その言い口におかしみを感じ、僕が小さく笑むと。
 彼女も表情を改め、淡く笑んで返した。

 返してくれた言葉は、常の物と違って些か胡乱ではあったが。

「心配は、その……そんなには……いえ、その」
「矢張り心配を掛けたのだな」

 言葉を詰まらせる惠に、僕は苦笑し、頷いた。

「済まない。昨日は少し考え込んでいたのだ」
「……昨日は灯も点さず、考え込んでおられたと聞きました」
「ふむ。そう言えば、刀自様に見られたのだったな」
「母も見たそうです」

 僕は首を傾げた。
 考え込んではいた。しかし、悩んではいたのだろうか。

「しかし、悩んでいた訳でも――――あるか」

 そうだ、思い悩んではいたのだ。
 思索に耽っていただけとはとても言えない。僕は確かに悩んでいたのだ。

 いや、未だに解決していないのだから、現在形か。

 僕が一つ頷くと。
 惠は眉根を寄せて僕を見遣り、言った。

「その、今日は気晴らしにと、思ったのですが」
「いや。気持ちは有り難く受け取ったよ」

 僕は首を直し、頷いた。

「ただ、案件が解決していない。今もだが。それだけの事なのだ」
「……お悩みはどのようなものなのですか? 差し支えなければ、お聞かせ願えませんか?」
「差し支えはないが」

 僕は目を細めた。
 透かして、何かを見遣るかの様に。

「僕は、ある人を怒らせてしまった。
 その原因がはっきりとしないのだが。この事は自分で考えたいと思ってる」
「詳しく聞くのは控えるべきでしょうか」
「解決してからなら構うまいが。僕はその人から、言われていてね」

 一度言葉を切り、少し笑んで見せた。

「言葉の意図は己で考えろと。己で飲み込めと。金言だと思う。
 もしかしたら、君は答えを知っているかも知れないが。それ故に、僕は話さない」
「……そうですか」

 ややあってから、頷いた惠は笑みをこぼした。
 いつもと違って、はっきりとした笑みを。

「真由さん」
「どうかしたのかい?」
「母も言っていましたが。私も思いました」

 くすりと、小さく笑いの吐息を漏らして、惠は続けた。

「真由さん。お変わりになりましたね」
「そうなのだろうか」

 自信が持てない。
 粗忽な身に変わりはなく、ここ数日は迷惑を掛けてばかりだ。
 また、変われたとしても、その良否が計れない。

 僕がそう顔を顰めていると、惠は再びくすりと笑った。

「だって、真由さん。選択されているじゃないですか」
「選択、かい」
「話さないと。そう選択されている」
「それが変化なのか」
「そうです。二年前とは違っていると思います」

 僕は首を傾げ、問うた。

「この変化は良い物なのだろうか」
「良いものだと思います」
「……今一つ、僕自身は自信が持てないのだが」

 笑みを淡く薄め、惠は言成した。

「では、私が保証します」

 強く放たれたその言葉に、僕は目を見開いたが。
 ふと、嬉しさが湧き上がり、ややあって僕は頷いた。

「それは、有り難い事だな」






 結局、そのまま、昼餉の頃まで惠と話し込んでしまった。
 子供らは簾平に任せ切りになってしまい、後々申し訳ない思いを抱いた物だが。

 ただ、おかげで、僕の心を覆っていたらしい霧が晴れた。

 悩みは尽きないが、僕は悩みに向き合う力を得たのだ。
 戸惑う事など何一つない。ただ、僕は悩みと向き合えば良いのだから。














 参照。(前のエピソードで関係している物)

 彼女の家で~:前のエピソードの[14]。


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