前回のあらすじ:ゲンヤ・ナカジマさんが、歯車戦士に進化しました。 ゲンヤとクイントの結婚式も終わり、ボクのやりたかったことも大体終わったので一段落。 ……とか思っていたんですけど、また新たなる問題が発生しました。 【アカヅキノオオダチ】をガン見してたゼスト・グランガイツが、披露宴の最中にいきなり頭を下げてきたのです。「……失礼する。月村静香殿とお見受けするが……」「そうですけど……ドチラさまで?」「オレの名前はゼスト・グランガイツ。管理局地上本部の、首都防衛隊に所属するモノなのだが……」 オイオイ、今度はゼストかい。 どうしてボクの周りには、渋いオッサンしか寄ってこないんだよ。 一部例外(カリムのこと)はあるものの、このままじゃあ【ウホッ!中年戦記フィジカルオヤジィA's】に進化しちゃうじゃないか。「……コレはご丁寧にどうも。それで?ボクに何か御用ですか?」 コレまでの経験から、多分デバイスの作成依頼だということは、想像に難くない。 ソレにこのオッサン、さっきオオダチを凝視してたからなぁ。 まず間違いないだろう。「……単刀直入に言う。オレにあのデバイスと同じモノを作って欲しいんだ」「…………何故です?確か貴方のデバイスは、槍だったと思うのですが……」 予想通りの台詞が来たとはいえ、理由が分からない以上は聞くしかない。 フェイトやなのはと違って、この人はずっと槍一本だったハズだ。 何か理由でもあるんかねぇ?「恥ずかしい話なんだが……オレはSランクを保持していながらも、長距離魔法が使えないんだ……」 エ?そうだったっけ? ……そう言えば、本編でもアギトのサポートがあっても接近戦主体だったなぁ。 するてぇと、長距離狙撃や長距離砲撃がしたいワケじゃなさそうだな。「もしかして……デッカイデバイスを振り回して、長距離戦を近接戦闘の延長上にするつもりじゃあ……」 まさかね? そんな非常識な闘い方、するワケないよね? いや。でも……。「……その通りだ。良く分かったな……?」 ノォォォォォ!! マジですかい!? リアル斬艦ソードを作れってか? アレ作るには、既存の材料じゃ不可能だぞ? ボクに材料まで作れってか? ……でも、オモシロそうだな。 久しぶりに、姉の部屋にやってきました。 最近は全部自分でやっていたのですが、流石に材料は作れません。 なのでお姉さまの知恵を拝借に来たんですが……「ふ~ん。それじゃあさ、コレ使うと良いよ♪」 そう言って渡されたのは、明らかにオーバーテクノロジーなモノでした。 色々と呼び名はあるけど、一番有名な呼び方で言うと【ナノマシン】。 ……近い将来、ウチってロストロギアに認定されちゃうんじゃないか?そんな心配がよぎった。「あー、そういえば静香?最近、すずかの様子が変なんだけどさー」「……ゴメン。心当たりはないなぁ……」 以前の発情期事件があって以来、妹とは疎遠なのです。 それまでは、めっちゃ仲が良いとまでは言わないまでも、普通の兄妹だったんだけどなぁ……。 やっぱ怖がられたんかねぇ。「……たぶんなんだけどね?私たちの秘密のことで、悩んでるんじゃないかぁ……って」「あー、そっか。すずかももう、そんな年かぁ……」 ボクたちの秘密。 ソレはこの身体のことだ。 夜の一族という吸血種の生まれであるボクたちは、普通の人間から見たら化け物だ。 異常な力。 紅くなる瞳などの身体変化。 そして極めつけは吸血能力。 どれ一つとっても異端なモノであり、純粋な人間にはないモノだ。 ソレが原因で己の影が大きくなり、閉じ篭りがちな性格になる、夜の一族の傾向。 姉さんは恭也との出会いや、ボクというイレギュラーのおかげでかなり明るくなった。 そしてボクは論外だ。 そうなると、友達にも秘密を隠しているすずかは、凄く苦しいんだと思う。 それに多分なんだが、なのはたちが魔法バレしたのも、少なからず影響を与えているのだろう。 友達は秘密を話してくれたのに、自分は……みたいな感じで。 やっかいな問題だ。コレばっかりは、自分で乗り越えるしかない。 それにボクは男だ。悲しいことなんだが、女の子の気持ちを理解しきることが出来ない。 ……情けない話だ。 御神の剣や魔法で身体は護ってやれても、心を護ってやれないなんて。 鍛錬が足りないなぁ……はぁ。 すずかが誘拐された。 いきなりそんなことを言われても戸惑うかもしれないが、コレは覆ることのない事実。 いつものように塾に行き、その帰りを狙って行われた誘拐事件。 本当はバニングスのお嬢さんを狙っての犯行だったらしいのだが、現場を目撃してしまった妹も……ということらしい。 相手はバニングス家の執事さん――鮫島さんを背後から角材で殴り、少女二人を車に乗せて逃走。 そして犯人は、バニングス家とウチに電話で身代金を要求。現在に至る。「…………」 重苦しい沈黙が、バニングス家の応接室を支配している。 今この場にいるのは、バニングス夫妻と姉とボク。そして恭也。 中央の机の上に電話を置き、犯人からの連絡を今か今かと待っている。 警察には知らせていない。 もちろん知らせるなと言われたのもそうだが、ウチは特殊な家柄なので出来れば警察の介入は避けたかった。 バニングスさんには別の思惑があったようだが、それでも警察を呼ばないという結論は一緒だった。 ――ジリリリリリッ!! 年代がかった黒電話が、その身を震わせて報せを届ける。 伝えられる内容は希望か、はたまた絶望か。 皆が一瞬息を飲み込み、代表してバニングスさんが電話に出る。「……!…………!?」 相手が何を言っているのかは、スピーカーを通して伝えられた。 身代金は五億円。引渡しの場所は海鳴駅の近くのデパート。 特定の階の特定のベンチ。ソコが指定場所だった。 人が多くいる場所は、追跡を巻く意味でも有効だ。 相手は馬鹿ではないらしい。 その判明が、よりバニングス夫妻に影を落とさせる。 人質の引渡しは、相手が逃走しきってからというモノ。 同時交換が望ましい。だが下手に相手を刺激すれば、妹たちの命が危ない。 かといって、相手が正直に人質を解放するとも思えない。 すずかの携帯にGPSが搭載されている。 が、相手も馬鹿ではなかった。その場所を遠目に確認したところ、誰かが張っていた。 恐らく連中の一味だろう。 相手が何人いるか分からない。 少数だったら簡単に手が打てるのだが、下手をすると結構な数がいるかもしれない。 何せ相手は、【バニングス】に恨みを持つモノたち。何人いても不思議ではない。 一応断っておくが、別にバニングスさんが阿漕な商売をしているワケではない。 ただ大企業になればなる程、いらぬ恨みを買う確率が高くなるのだ。 ウチだって大企業ではないけど、親族から遺産目当てで狙われたことがあったし……。「……相手の要求には従えない……」 一企業の主として、苦渋の選択をしたバニングス氏。 大方、ココで屈したら芋づる式。そして娘が帰ってくる確率も低い。 そう考えての結論だったのだろう。 分からんでもない。 でも、だったらその握り締めた両手をどうにかしてほしい。 明らかに虚勢だと分かるその姿。それとも、そういうポーズなのか?だとしたら、とんだ役者なのだが……。「……分かりました。では、私が二人の分の身代金を用意します」 そう言ったのは、我がお姉さま。 その瞳には決意の色が籠められていた。 隣で姉の手を握っている恭也が、静かに頷く。 そして今度は、ボクに視線を合わせる恭也。 ……了解。ソッチは任せた。 ボクは、人質の方を何とかするから。 そう視線で会話すると、ボクは応接室を後にした。 ノートPCを立ち上げると、ソコには緑色の線で構成された地図が。 紅い光点が、市内のあるホテルで明滅している。 月村の技術を甘く見てはいけない。 ナノテクノロジーを生み出すお姉さまだ。 超々ミニサイズの発信機を妹のヘアバンドに仕掛ける位、造作もない。 ……断っておくけど、今まで一回も使ったことはないからね? だから決してプライバシーの侵害とかはしてないから、安心して下さい。 良し、ホテルに向かおう……変装してから。 中将日記スーパーズ ゲンヤの式が無事に終わり、一つ肩の荷が下りたように感じる。 だからと言って、呆けている暇はない。 仮にも地上本部の要職にあるモノ。時間は幾らあっても足りないのだ。 そういえば式で思い出したが、式の最中にゼストがシズカに頼んでいたモノ。 アレが昨日、ゼストの下に届けられた。 試運転も兼ねて模擬戦に付き合ったが…… アレを思い付いたゼストが馬鹿なのか。それとも、実現させてしまったシズカが阿呆なのか。 どちらとも取れる、とんでもないデバイスがソコにはあった。 魔力刃ではなく、実体を伴った超々大型デバイス。 【ザンカンブレイド typeⅢ】。 ソレがあの非常識デバイスの名前だ。 普段ゼストが持っていた槍から、カートリッジの使用もなしに変化する巨大刃。 何にせよ、次はあんな奇襲は喰らわない。 本来実戦に次はないのだが、アレは模擬戦。 相手の情報を蒐集するのも策略の内……と言うことにしておこう。 ……次は負けないぞ。 補論:式場で受付をやったおかげか、オーリスのことを良く思った人々が増える。 本日の業務が終了し、帰宅しようとするところに、見知らぬ男性から花を渡された。 突然のことに驚き、しばらく呆けていたオーリス。 気が付いた時には相手はおらず、途方に暮れる始末。 とりあえず、この花を父に活けてもらおうと考え、足早に帰宅するオーリスだった。 あとがき >誤字訂正 俊さん。毎度ご指摘いただき、誠にありがとうございます。 >アカヅキノオオダチ くろがねさん。情報提供いただき、ありがとうございます。 ただアレは実はワザとなんです。 C3やCストーンと見ていただければ分かるとおり、パチモノ路線でいっていますので……。 皆様、様々な情報提供やご意見をいただき、誠にありがとうございます。 本来なら一人一人にお返事をしたいのですが、ちょっと処理しきれないので割愛させていただいております。 本当に申し訳ありませんです。