カラカラカラ・・・・
卓の真ん中で、サイコロがくるくると回る。
いわゆるリンカラ台と呼ばれる、ひと昔前の雀卓である。
「あら、私が起親ね?」
優雅な声が響く。
声の主は、今年3年に上がった通称「紅薔薇さま」小笠原祥子、その人である。
「よろしくお願いしますわ、お姉さま」
「ふふふ、いくら妹といえ、勝負の世界では手加減はしなくてよ?」
彼女の妹の福沢祐巳が、対面に座っていた。
また、南家が黄薔薇の蕾こと島津由乃、そして北家が黄薔薇さまの支倉令となっている。
「じゃあサイコロを振るわね・・・」
カラカラ、カラ
再びサイが回る。
時に無情に、時に熱く、局を彩ってきたサイが、また。
はてさて、なんでまた今更山百合会のメンバーで麻雀を打つことになったのかというと、
全く深い理由などなく。
たまたま、元白薔薇様である佐藤聖が、どこからともなく要らなくなった雀卓を拾ってきて、
でも置くところなどないものだから、勝手に卒業したはずの高等部の山百合会に放置していったのである。
先生に見つかればどう考えてもお叱りは逃れない代物だが、そこは薔薇さま方。
搬入から設置まで、滞りなく済ませてみせた。
それほど広くはない部屋の隅の方に、完全に景観を壊す形で鎮座する雀卓。
置かれてから数日ほどして、何を思ったのか紅薔薇さまがおっしゃった。
「せっかくだから、私たちでひとつ打ってみましょうか?」
なにがせっかくだからなのかさっぱりわからないが、とにかくそんな感じでこの対局は実現したわけである。
東パツ、親番である祥子さまの手牌。(数字は索子、丸数字は筒子、漢数字が萬子)
234 67 ②④ ⑧⑧ 二三 六 東 發 ドラ⑧
(さすが私、といったところかしら。配牌からドラドラ、しかもタンピン三色がみえる手格好・・)
あまりギャンブルになれていない祥子さま、麻雀も今日のために三日くらい詰め込みで覚えてきたものだから、
こんな配牌をもらって、嬉しさを隠し切れず、思わず表情がにやけていた。
(まずは發からかしらね・・・仮に東が重なったら、ダブ東ドラドラで簡単に親の満貫になるわけだから・・・)
タン
さすがは紅薔薇さま、覚えたての麻雀といえど、牌を切る姿は優雅そのもの。
卓の中央に、まっすぐに切られた發。
そして、下家の由乃、対面の祐巳の順で牌は切られていったのだが・・・
「あら、祐巳?牌が曲がっていてよ?」
対面の妹が捨てた北が、横を向いていたのである。
几帳面な性格である祥子さまのこと、このような無作法を、しかも妹がしたとあっては黙っていられない。
こと麻雀において、『捨て牌を曲げる』という行為は、特別な意味を持つことでもあるからして。
「た、大変申し訳ありません」
「まったく、しょうがない子ね」
でもかつてからだいぶ丸くなられた祥子さま。苦笑まじりに、タイを直すかのごとく、その牌をかくあるべく
直そうとした、のだが。
スッ
妹は、なにを考えたのか千点棒を軽く指で挟んで、卓中央にゆっくりと置いた。
ピンポーン、リーチ。
機械音声が、静かな小部屋に響く。
祥子さまは、ゆっくりと彼女の妹の顔を見た。
「ダブリー、ですわ。お姉さま。」
だから、牌はそのままで結構ですよ、と。
いつもの優しい笑顔をそのままに、宣言したのであった。
後書き。
初投稿になります。
久々にSSとか書いたのでつたないところがめいっぱいかもしれませんが、
私のこのかわいい笑顔に免じて許してあげてください。
なんでいまさらマリみて?とかなんで麻雀?とかは聞かないでください。
たぶん2~3話の短編になる予定。