「………………………………はぁ」
「ミルキさぁ、いい加減に溜息吐くのやめてくんない? イライラするんだけど」
「傷心中の兄に対してそれはないだろ? あーあ、俺はこんな生意気な弟よりもかわいくて素直な妹が欲しかった……」
「俺だってウザイ兄よりも、美人で優しい姉が欲しかったっつーの」
今から1時間前、偶然遭遇したミルキとキルアであったが何故か一緒に行動している。
ミルキとしてはこの後キルアを襲いにやってくる198番のプレート目当ての行動なのだが、いつものキルアだったら自分と一緒に行動するなんて有り得ないはずだ。
……もしかして、ゴン達と別行動をしているから寂しかったりするのだろうか?そうだとしたら中々可愛い所があるじゃないか。
「何ニヤニヤしてんだよ気色悪い……」
まさにドン引き、とでも言いたげにキルアはミルキを見やる。やっぱりかわいくはなかった。
一々キルアの毒舌を相手にするのは流石に面倒だったので、これからはキルアの行動を全てツンデレだと思う事にしようか……。発想の転換である。
その後は原作通りと言ってしまうと手抜きなのだが、三兄弟のプレートを無事入手して一枚をキルアがどこかに投げた。
……別に自分で持っててもよかったんだけど、忍者に襲撃されるのは嫌だったのでその辺りは自重した。
点数分のプレートが集まってしまったミルキたちは特にやる事もなかった為、その後の日数を適当に木の上で寝て過した。
他の受験者から見れば、「ふざけんな死ね!!」と言われてもおかしくはないかもしれない。嫉妬乙である。
原作でイルミが土の下に潜って冬眠っぽい事をしていたシーンを読んで「デタラメな奴だ」と思っていたのだが、自分もそんなに変わらないことに気が付いて、ミルキは地味にショックを受けた。どうやら自分も万国ビックリ人間の一人だったらしい。
◇ ◇ ◇
アナウンスが聞こえてミルキが目を覚ますと、キルアはもうすでに横に居なかった。
……せめて起こしてくれてもいいんじゃないか?と不満に思いながらも、弟の性格を考えればこれがいつも通りの対応だろうと思い直した。本当に最悪な弟である。
集合場所は現在位置からわりと近い位置にあったため、すぐにたどり着く事は出来たのだが、そこにエリスは居なかった。双子は居たけど。
まぁ当然といえば当然だが、双子はちゃんと点数分のプレートを集めており、無事に最終試験に進む事となる。ここまできて落ちたなんて言われたらエリスの気苦労がすごい事になっていた事だろう。本当によかった。
それから暫く、ミルキは双子と一緒にエリスの事を待っていたのだが、彼女は一向に集合場所に現れない。双子なんかはもう飽きて船を漕いでいる。
……まさかエリスに限って負けるなんて事はないだろうけど、いや、でも相手はヒソカだしなぁ。
その相手のヒソカがこの場にいない事から見ると、エリスが殺されたという可能性は極めて低いと思うのだが、それでもやはり不安は消えない。
仮に殺されていないとしても、相打ちになって身動きがとれないような怪我を負っているのかもしれない。
……もしもそうならば、合格なんてしなくてもいいからどうか生きていてほしい。出来る事なら今すぐ彼女を探しに行きたいけど、もうあまり時間がない。
制限時間が終わって、それでも現れないようなら探しに行こう。合格なんてどうでもいい。ミルキにとってはライセンスなんかよりも、エリスの方がずっと大事なのだから。
そんな不安に押し潰れそうな時を過ごし、残り時間3分というアナウンスが流れた時、目の前の茂みに人影が見えた。
――間違いなく、それはエリスの姿だった。
その姿を見て、ミルキはほっと胸を撫で下ろした。多少血で汚れているが、命に別状はない。
「エリス!! よかった……無事だったんだ……」
そう言って駆け寄ってきたミルキに対し、
「(いや、どう見ても怪我してて無事じゃないんだけど……。ゾルディックの基準怖い)」
といった風に、エリスとの心の距離がちょっとだけ遠くなったのは知らない方がいいだろう。
◇ ◇ ◇
もしもタイムマシンが存在するとするならば、皆はどんな風に使うだろうか?
私はついさっきまでだったら『未来にいってロト6の当選番号を見てくる』なんていう夢のない事を言っただろうが、今の私は違う。
もしも本当にタイムマシンがあるとするならば、あぁどうか神様、4次試験の前まで時間を戻して下さいっ……!!
「……何、コレ」
試験終了の数日前。ヒソカ戦の次の日の事だ。
安息の地を求めて歩きまわった途中に見つけた泉で、傷口を綺麗に洗い流しているときの出来事である。
足首と脇腹に存在するカードによる裂傷、もしかしたら痕が残るかもしれないがそんな事はどうでもいい。生きていられたらそれで十分だ。
問題なのはその傷の周辺にある、よくわからない紋様をした痣だ。
私はこんな変な刺青を彫った記憶なんて皆無だし、見に覚えもない。無いったら無いのだ。
だがしかし、どんなに否定しても最後にはやはりヒソカの顔が頭をよぎった。
……やっぱり、これって、『死者の念』ってやつなのだろうか?
確かに私はトリックタワーで『私に復讐する権利があるのは、私が殺した連中自身だけだ』とか無駄にカッコいい事言いましたよ!? でも実際にこんな事になるなんて普通は考えつかないよ、何なんだこの超展開は……。
ここで冒頭のタイムマシンに繋がるわけである。何やってんだ過去の自分…。
その後びくびくしながら3日ほど過ごしていたのだが、痣が浮き出ている以外は今のところ異常はないので、急いで処置しなければならないというわけではなさそうなので安心した。
確かシンクが探査系の能力を作っていたと思うので、家に帰ったらキチンと調べてもらおう。
なんだか私が意外と冷静に対処しているように見えるかもしれないが、それはただの勘違いである。
現実では、見つけた洞窟内で体育館座りで過ごすという、どうしようもない引きこもりっぷりを発揮していた。
今思えば絶をしている筈なのに、私の心の暗黒面からはどす黒い負のオーラがただ漏れだったと思う。……ああ、鬱だ。
『―――受験生の皆さんは、一時間以内にスタート地点までお戻り下さい』
そんなアナウンスが聞こえ、私は正直誰とも会いたくない気分だったのだが、せっかくの合格をふいにするのは憚られたので、ノロノロとスタート地点に向かって歩きだした。
「エリス!! よかった……無事だったんだ……」
ギリギリの時間に広場にたどり着いた私を見て、ミルキは安堵の溜め息をもらした。……だいぶ心配をかけてしまったようだ、やはり早めに連絡でもするべきだったかもな。
でもミルキ、私の吊られた腕とちょっと引きずってる感じの足を見て無事と称すとは、なかなかいい性格をしてるじゃないか。
だがしかし、心配してくれていた事は確かなようなので深くは突っ込まない事にした。私だって空気くらいよめる。
「ごめん、心配をかけたね。双子は何処に……、って木陰で寝てるのか」
遠目からだが、幸せそうに眠っている事がわかる。人が怪我を押して歩いてきたというのに、なんだろうこの差は。虚しすぎるよ……。
「あはは、最初は一緒に待ってたんだけど、途中で飽きて眠っちゃったんだ。ちゃんとプレートは取ってきたみたいだから許してあげようよ」
ミルキが宥めるようにそう言ってきたのだが、別に私は怒ってなんかいない。ちょっと寂しかっただけだ。
――迎えの船が来るまでに集まってきた合格者は私を入れて11人。
ゴン、クラピカ、レオリオ、キルア、ギタラクル(イルミ)、ハンゾー、そしてイレギュラーのシズク、ミルキ、ヘンゼル、グレーテル、私といった具合だ。
……おいおい、ヒソカは私が倒したから当たり前なんだけど、ポックルとボドロまでいないのか。私が知らない舞台裏で何が起こったのかはわからないが、これは予想外だったな。
そしてヒソカがこの場にいない事への影響なのか、若干名からの視線がかなり痛い……。主に針の人。
でもまぁこの試験さえ乗り切れば私は後の展開には無関係なんだし、全然問題はないよね。た、多分。
起きてきた双子にじゃれつかれながらそんな事を考えていると、腰の辺りにしがみ付いていたヘンゼルが妙な事を言い出した。
「あれ?エル姉様、なんでポケットにトランプが入ってるの?しかも箱ごと」
……問題、……ない、……よね?
予想だにしていなかったホラーチックな展開に、心の中で迫り来る恐怖に悲鳴を上げつつも、無事?に四次試験の幕は下ろされた。
◇ ◇ ◇
ところ変わって、私は飛行船内の第一応接室の中に居た。
「まぁ座りなされ」
そうネテロ会長に言われた私だったが、奇しくもここは和室。
足を怪我して現在松葉杖を医務室から借りて使用している私にとっては、正直正座もあぐらも遠慮したいところだ。
……あれ、これってもしかして分かりづらいけどイジメ?イジメなのか?
会長直々に新人いびりとか、ハンター教会の闇は深いな。
「……いえ、私は立ったままで結構です」
この面談は試験結果とは無関係なので、失礼だとは思ったが会長の申し出は断らせていただく事にした。……和室なんて嫌いだ。
「そう警戒せんでもよかろうに。まぁいいわい、さっそく質問なんじゃが、お主がハンター試験を受けた理由はなんじゃ?」
……いや、別に警戒なんてしてないんですけど。
それにしても試験を受けた理由か。ぶっちゃけ私は今期の試験は受けたくなかったし、特にハンターになりたいわけでもない。ハンター証はあれば便利だとは思うけどね。
でも強いて言うならば、この試験を受けるのって、先生からの卒業試験みたいなものなんだろうな。だからこそ、私は今ここにいるのだろう。
「私にとってハンター試験は、通過地点です。それ以下でもそれ以上でもありません」
ん?なんだか引っ掛かるな?何故だろうか?変な事を言ったつもりはないんだけど……。
なんかこう、私が言いたいこととニュアンスが違うような……。
「ふむ、なるほど。では、今回の受験者の中でお主がもっとも注目しているのは誰じゃ?」
「……406番、ですかね」
やはり、一番の不確定要素は彼女だと思う。なんて言うか性格が掴み難いというか、何をしでかすか分からない不安感がある。
基本表情が変わらないから、何を考えてるのかも想像がつかないんだよな。私も人の事言えないけど。話したときは普通にいい子だったんだけどね……。
でもやっぱり旅団は普通に怖い。
「では最後の質問じゃ。……10人の受験者の内、お主が一番戦いたくないのは誰じゃ?」
「99番です」
ただし、本命はキルアではなくイルミの方だけど。
只でさえミルキやヒソカの一件であの怖いお兄さんに目を付けられているかもしれないというのに、これ以上琴線に触れるような行為をしたくはない。
ついでに言っちゃうとキルアって身体能力だけで言えば私と同じくらいなんじゃないかな……。年上の威厳って一体何なんだろうね……。
「うむ、ご苦労じゃったな。下がってよいぞ。―――あぁ、それと」
「何ですか?」
「お主の師匠に、たまには挨拶に来るように伝えておいてくれんかのう。あやつ、電話にも出んのじゃよ」
マリアさん、貴女って人は……。電話くらい出てあげてくださいよ、一応相手はハンター協会の会長なんですから……。
「わかりました、必ず伝えます。――失礼しました」
私はそのまま部屋を後にし、扉を閉めて廊下に出た。
「……あ」
そうか、さっきの会話の違和感の正体が分かった。……うわぁ。
「通過地点じゃなくて通過儀礼だよ……」
か、かっこ悪いっ!!ある意味決め台詞のつもりだったのに間違えてどうするんだよ!?
なんかおかしいとは思ってたんだよなぁ、私の語彙力はいつになったら成長するのだろうか。会話の回数を増やさない限りは無理なのかもな。
それにしても、最終試験は一体どうなるのだろうか。全くもって見当もつかない。
「……ボドロの立ち位置だけは嫌だな」
その後組み合わせが発表されるまで、不安で一杯の2日間を過ごした私であった。
◇ ◇ ◇
「ふむ、流石は魔女の弟子といったところじゃな」
仮にもハンター協会の会長であるネテロに警戒を怠らないという奴も珍しい。
――わしに対して失礼な態度をとるところなんか、師弟そろってそっくりじゃな。
そう思い、ネテロは懐かしそうな笑みを浮かべた。
ここ何年か、あの魔女の弟子が試験を受けているが誰も彼もが一癖ある連中だった。中でも220番、エリス=バラッドはその中でも酷く特殊だ。
四次試験に220番の担当をしていた試験官は、命の危機を感じて早々に逃げ出してしまったそうだ。
ネテロも別に命懸けで査定をしろとは言ってなかったのだが、なんとも情けない事だ。
「それにしても、誉れあるハンター試験を《通過地点》とは、中々おもしろい事を言いおるわい。ほっほっほっ、長生きはするもんじゃな。若い者にはいつも驚かされる。それは今も昔も変わらんな」
だからこそ現場は面白い。くっくっ、と笑いながらネテロはくるりをペンを回した。
「さぁて、最終試験の組み合わせを考えるとするか」
あとがき
とりあえず今までUPされていた分まで修正終了しました。
余裕が出来たら最終試験の執筆に取り掛かろうと思うのですが、冨樫先生の連載再開くらい不確かなものですので、あんまり期待しないでください(m´・ω・`)m ゴメン…