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No.7934の一覧
[0] 喜劇のバラッド  (H×H 転生) 16話まで改稿終了[樹](2015/02/10 05:48)
[1] 一話(改)[樹](2014/11/17 23:56)
[2] 二話(改)[樹](2014/11/18 00:09)
[3] 三話(改)[樹](2014/11/18 00:15)
[4] 四話(改)[樹](2014/11/18 00:21)
[5] 五話(改)[樹](2014/11/18 00:32)
[6] 番外1と2[樹](2014/11/18 00:44)
[7] 六話(改)[樹](2014/11/18 01:00)
[8] 七話(改)[樹](2014/11/18 00:59)
[9] 八話(改)[樹](2014/11/18 01:07)
[10] 九話(改)[樹](2014/11/18 01:11)
[11] 十話(改)[樹](2014/11/18 01:26)
[12] 番外4と5[樹](2014/11/18 01:42)
[13] キャラクター詳細 十話の時点まで[樹](2014/11/18 01:30)
[14] 番外6[樹](2014/11/18 01:48)
[15] 十一話(改)[樹](2014/11/19 02:21)
[16] 十二話(改)[樹](2014/11/19 02:28)
[17] 十三話A(改)[樹](2014/11/19 02:42)
[18] 十三話B(改)[樹](2014/11/19 02:47)
[19] 十三話C(改)[樹](2014/11/19 03:06)
[20] 番外7[樹](2014/11/19 03:12)
[21] 十四話A(改)[樹](2014/11/19 03:31)
[22] 十四話B1(改)[樹](2014/11/19 03:52)
[23] 十四話B2(改)[樹](2014/11/19 04:02)
[24] 十五話A(改)[樹](2015/02/10 04:16)
[25] 十五話B(改)[樹](2015/02/10 04:57)
[26] 十六話(改)[樹](2015/02/10 05:40)
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[7934] 十三話C(改)
Name: 樹◆990b7aca ID:e33448f1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/11/19 03:06



 ――――あぁぁ……、


 辺りをぼんやり見ていたミルキの耳に、遠く離れた人ごみから耳慣れた音が聞こえてきた。

 あー、悲鳴ですね。わかります。


「派手にやってるなぁ」


 双子は今日も相変わらず悪い方向に絶好調らしい。エリスの気苦労が思い知れる。……出来る限りフォローはしておこう。好感度アップの為にも。

 でもあれいいのかなぁ。いまさら意味がないだろうけど、これ以上悪目立ちするのはよろしくないんじゃないだろうか。


「…………。」





 そう思った俺はエリスの様子をそれとなく伺ったが、特に気にした様子もなさそうだったので、さっきの悲鳴は聞かなかった事にした。





 その後双子が戻ってきた時、微かな血の匂いをさせていたので俺の予想通り彼らが犯人だろう。

 ていうかエリスに抱きつくなんて羨ましすぎる。俺なんか手を握った事くらいしかないのにっ!


 その後、遊園地に対して間違った知識しか持っていない双子達に、正しい遊園地の楽しみ方を力説していると、劈く様なベルの音が聞こえてきた。……まだ説明したりないんだけど。










 少しして一時試験が始まり、サトツ試験官によるマラソンが幕を開けた。

 湿原に着くまでは特筆すべき事は何も無かったので省略させてもらう。








 ―――湿原でのイベントと言えば、あのニセ試験官の登場だろうな。

 階段を上りきり試験官に湿原の説明を受けていた俺はそんな事を考えていた。



 ヒソカの視線の矛先がいまだにエリスに向かっている事が気に掛かったが、これだけあからさまな殺気を向けられているんだ、エリスだってきっと気づいているだろう。






 その後、俺の予想通りニセ試験官が登場し、大きな声でデタラメを叫び始めた。



「―――そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!!」



 ニセ試験管のその言葉が終わった瞬間、ヒソカが動いた。



 流れる様な動作でトランプが投擲される。

 サトツに4枚、ニセ者に3枚、―――そしてエリスに向かって2枚の凶刃が迫った。






 ただ、エリスに向かって投擲されたカードは試験官達に向けられたものとは違い、どう見ても念で強化された、陰で気配を解かり難くした物だった。


 その時エリスはヒソカの方を向いておらず、試験官の方を見ていた。

 俺の位置からはそうでもないが、彼女のあの体勢だとヒソカからの攻撃はどうしても死角になってしまう。


 でも俺は動かない。そんな必要はないとすら思っている。

 ―――あんな小手調べ程度の悪意で、エリスが傷を負う訳がないだろ。


 それは確信にも似た、信頼だ。

 確かにエリスは身体能力で言えば俺にも劣るかもしれない。でも、エリスには他の追随を許さない何かがある。上手くは言えないけど。

 トランプが頭に突き刺さろうとする、その刹那。

 彼女はあまりにも自然な動作で頭を下げ、最小限の動きで攻撃を回避した。




 確かに彼女はヒソカの事を警戒していただろうが、円を使っている様子もなかったのに流石である。






 彼女は運悪くヒソカの凶弾の餌食になった背後の男を、どうでもよさそうな表情で見つめると、再度試験官に向き直った。

 その間一度もヒソカに対して視線を向けていない、まるで『お前如きを相手にするつもりは無い』といった感じの堂々とした態度だった。



 その一部始終を見ていた連中は、彼女の事を畏怖が混じった目で見つめている。



 そりゃあのヒソカに対して此処まで無関心を貫ける人物なんて他には居ないだろうね。

 俺だってあんな事されたら何らかのアクションを取るだろうし。多分、兄貴も文句の一つくらいは言う事だろう






 ―――うん、やっぱりエリスは凄いなぁ。












 そして、騒ぎが終わった後、マラソンの第2ラウンドに突入した。



 その際に、双子が後ろの集団に混じって遊びたいと彼女にごねていたが、どうせ明日の試験でたくさん遊べるからと説得した。

 地味に脛を蹴ってくるのはやめて欲しい。お前ら無駄に力強いんだからさぁ……。


 今の殺気だったヒソカと相対するのは彼等にとって危険だろう。ただでさえさっきのエリスの態度の所為で邪悪さが増しているのに。

 まぁまだ若いから殺されるような事はないと思うんだけどね、一応念の為だ。









◇ ◇ ◇











 二次試験会場のプレハブに着いて暫くすると、レオリオらしき男を抱えたヒソカが広場に現れた。


 どうやらある程度のフラストレーションは治まったらしく、割と穏やかな表情をしている。
 ……いや、気色悪い雰囲気は変わらないんだけどね。近づきたくない。マジで。




 ヒソカは相変わらずエリスのじろじろと舐めるように見てくるし、さっきから兄貴も俺達の事を観察している。

 俺達の周りにいる連中なんかは不穏な気配を察してどこか別の場所に移ってるし、若干エリスの方も居心地が悪そうな表情をしている。




 取りあえず気休めではあるが、彼女に「大丈夫だよ」と言っておいた。


 何が、と返されるかなとも思ったが、予想に反してエリスは静かに俺に微笑んで見せた。

 心配は要らないよとでも言いたげに。

 が、その代わりに俺の心臓は軽くノックアウト寸前であったのは言わなくてもいいだろう。エリスの笑顔マジプライスレス。






 そうこうしている間に、二次試験後半の課題が始まった。

 彼等ならばこの課題は問題ないと思い、俺は弟の所へ行くと言い残し彼等の元を後にした。





 だが俺が向かったのはキルアがいる場所とは全く別の方向。そう、イルミが居る場所だった。






◇ ◇ ◇








「あれ、ミルキ。何かあった?」



「うん。ちょっと兄貴に話があってさ」




 此処に来る途中で獲った豚を火の側に置き、兄の隣りに腰掛けた。


 ただ顔中針だらけで目が死んでいる今の彼を兄と呼ぶのには、なんだか少し抵抗があった。だって気持ち悪いし。




「それで、何の用があったの?」


「……単刀直入に言うけどさぁ、あんまり彼女に殺気向けるの止めて欲しいんだ。彼女も迷惑してるし」


「暗殺者に友達は必要ないよ、ミルキ」


「兄貴だってヒソカがいるだろ? それなのに俺に友人を作るなって言うのは矛盾してる。それに一応じいちゃんからの許可は貰ってるよ」


 まぁ、ヒソカのような友人ならば死んでもお断りだけどね、俺は。


 ただエリスと離れるような事になるのならば、俺は迷いなく家を出る。

 これは俺の中では既に決定事項となっている、愛の力とはすべからく偉大なのだ。




「なんでよりによってあんなのを選ぶの? もっと別の奴なら俺だって妥協したのに」


「……その言葉そっくりそのまま兄貴に返すよ。とにかく、エリスに手出ししないでよね、俺の友達なんだから」


「気が向いたらね」


 ……快く承諾するつもりは無いって事か。よく分かったよ馬鹿兄貴。





 その後、兄貴と別れて、焼けた豚を持って試験管の元へ向かった。





 何人かはもう既に課題を提出しており、その中にキルアも居た。主人公組みも一緒だ。

 ……あれ、あの奥にいる眼鏡の女の子って、もしかしてシズクじゃないか? うーん、そっくりさんかなぁ?



 何となく気には掛かったが、取りあえずはキルアに接触する事にした。


 つつがなく豚の丸焼きを提出して試験前半の合格をもらい、俺は談笑している彼等に声を掛けた。







「やぁ、キル。元気そうだね」



 そう言いながらキルアの肩に手を置くと、すぐさま手を振り解かれて警戒心むき出しの顔で見られた。

 え、ちょっと酷いんじゃないかな、その態度は。

 キルアは俺の姿を認識すると、安堵の溜息を漏らしてその場に座り込んだ。




「なんだミルキの方かよ……。兄貴かと思ってすっげえ焦ったじゃん」



 そんな事を言って恨みがましそうに俺の事を見てきたが、俺には何一つ非はない。
八つ当たりもいい所だ。

 てういか俺も兄貴なんだけど。なんで俺は呼び捨てなんだろうか。


「でも俺が試験に来てるの知ってただろう? そんなに驚くことないと思うけどな。ちょくちょくこっちを見てたんだから、話しかけてくれればよかったのに」


「ふざけんなよ、あんなヤバ気な連中と一緒に居るような奴に気安く話しかけられるかっつーの。冗談はそのスーツだけにしよろな」



 じと目でそんな事を言われた。スーツは関係ないだろ。スーツは。確かに場の空気にあってないけども。


 確かにエリス達は特殊な雰囲気はあるが、そこまで言われる程ではないと思う。

 ていうか一応俺たちだって暗殺者だぞ?十分ヤバイ連中に分類されるんじゃないか?




「キルア、その人ってキルアのお兄さんなの?」



 さっきまでキルアと話していたつんつん頭の少年が会話に入ってきた。
恐らく彼がゴン、この世界の主人公だろう。



「あぁ、うん。俺の二番目の兄貴のミルキ。コイツにあんまり話しかけない方がいいぜ、機械オタクが移るから」



「え、そうなの?」



 キルアは驚かされた復讐のつもりなのか、ニヤニヤした顔をしてそんな嘘をついた。

 どうせスルーされるだけだろうと高をくくっていたのだが、何故かゴン(仮)に不思議なものを見る目で見られた。


 いや、移らねぇよ。そもそも俺は機械オタクと呼ばれる程機械が好きなわけじゃない。ちょっと人より電子機器の扱いが得意なだけだ。



「ゴン、嘘に決まっているだろう。人の趣味や嗜好は感染したりはしない」


「いや、お前の回答も少しずれてると思うぞ」


 クラピカとレオリオらしき人物も会話に入ってきた。レオリオ、その通りだ。もっと言ってやれ。


 ていうか俺が機械オタクという事は彼等の中で決定事項なのか?
 あれ、これなんてイジメ?


「俺は別に機械オタクじゃない。……おい、なんでキルアはそんな『冗談だろ?』って顔で俺を見るんだ。そんな嘘をつく筈ないだろ。お前じゃあるまいし」


 ほんとコイツ俺のことを馬鹿にしてるよな、原作の豚君扱いよりは全然マシなんだろうけど。


 そんなやり取りをしていると、他の3人に笑われた。……何故だ。


「いや、すまない。随分と中が良い兄弟だと思ってな。気を悪くしたなら謝ろう」

 
 くすくすと笑いながらもクラピカに謝罪をされた。


 いや、いいんだけどね、別に。

 どーせ俺の家族内の立場はいじられ役なんだ……、いつか下克上してやる。


 ちょっといじけていると、そんな俺を見かねたのかゴン君が俺に話しかけてくれた。



「えーと、お兄さんはミルキさんだったよね。俺はキルアの友達のゴンって言います! よろしく!」


 ゴンはキルアと違って素直でいいなぁ、家の弟達は彼の事を見習うべきだと思う。
 

「うん、ゴン君だね。コイツ俺のいう事全然聞かない捻くれた奴だけど、根は悪い奴じゃないんだ。弟の事よろしく頼むよ」


「ちょ、いい加減な事言ってんじゃねーよ馬鹿兄貴! てめえの方が嘘吐きじゃねーか!」


 少し顔を赤くしたキルアが文句を言ってきたが俺は笑って誤魔化した。

 ふふん、さっきの仕返しだ、精々恥ずかしい思いをすればいいのさ!



「で、そっちの二人はなんて言うのかな。一応聞いてもいい?」


 とうの昔に彼等の名前なんて知っているが、礼儀として聞いておく。

 これから『弟』が深く関わる事になる人物達だ、親しくなっておいて損はないだろう。



「私はクラピカだ。それで隣りの年齢詐称の男はレオリオという」


「おい、誰が年齢詐称だ誰が」


「お前以外の誰がいるというんだ?」


「ちょっとやめなよ二人とも。ミルキさん困ってるよ」


「あ、うん、大丈夫。クラピカさんとレオリオだね、俺は知ってると思うけどミルキです、宜しく」


 この学生っぽいノリは嫌いじゃないな、昔を思い出すしね。


 とにかく悪い奴らじゃなさそうで本当に良かったよ、『兄』としても安心した。











 そろそろ戻ろうかと思いその旨をキルアに伝えると、何とも言えないような微妙な表情をされ、溜息を吐かれた。



「それにしてもさぁ、ミルキも付き合う人間は選んだ方がいいと思うぜ? ひょっとしたらヒソカよりも危険なんじゃないの?」


「……人の友人を悪く言うのは止めてほしいな。それに彼女は危険なんかじゃないっつーの」


 優しくて格好よくて強くてまるで最高の人間じゃないか。ヤバそうだなんて酷い言い草だ、失礼にも程がある。



「あっそ、兄貴に何を言われても知らねーからな」


「じいちゃん公認だから平気だよ」


「え、マジ? 信じらんねぇ」


 軽口を叩きながらの会話は、俺の静かな怒りを和らげてくれた。

 彼女の事を知らないくせに悪く言うだなんて許せない。できれば冗談でもやめてもらいたいものだ。



「あ、もう直ぐ後半の試験が始まるみたいだから俺もう行くよ。じゃ、試験がんばれよ」


「言われなくてもそうするっつーの。……そっちこそ落ちるなよ」



 キルアの憎まれ口を背に俺はエリスの元へ向かった、何と言われようとも俺は彼女の側に居たいのだ。











◇ ◇ ◇








 黒髪の少女――シズクは静かに回想する。



 少女がハンター試験に参加した理由は、次の仕事の為だ。

 ライセンス保持者が後一人ほど必要らしく、シャルに試験を受けるように頼まれた。


 話を聞くとヒソカも試験を受けるみたいだったんだけど、ヒソカでは試験を放棄する可能性があるし、次の仕事に真面目に参加する事すら危うい。

 ちょっと面倒だから嫌だったんだけど、旅団の活動の為なら少しくらいは我慢できる。



 そういえば今回の試験にシャルの知り合いも参加するそうだ、確か名前は……エリス? だっけ? そんな名だったような気がしなくもない。
 


 彼が言うには、

「俺はさ、もしこれから先旅団に欠員が出たら彼女を団員に推薦しようと思ってるんだ。本人は全然乗り気じゃないみたいだけどね。
でもアイツって案外旅団向けの性格してると思うよ。割とドライな方だし。団長なんかは絶対気に入ると思うよ。もちろん、シズクもね」


 その後に「やっぱり今の職業を認めてもらう為には、外堀から埋めていった方がいいと思うんだよねー」と言っていたような言わなかったような……、どうだったっけ?



 うん、まぁとにかくそんな会話があった。








 そのエリスを試験で見つけたのは二次試験の後半の時だった。

『スシ』なんて料理が全然解からなかった私は、早々にこの試験を放棄した。
 旅団の皆には悪いと思ったけど無理なものは仕方ないだろう。


 何となく小腹が空いたなぁと思った私は、用意されていたご飯を使っておにぎりを作って食べた。お米を丸めた物は、おにぎりというらしい。名称はノブナガが教えてくれた。前におにぎりに砂糖をかけていたら、なぜか怒られたけど。


 試験官の目線が何となく不快だったが別に気にする程でもないだろう、どうせ今回限りの付き合いだろうし。









 黙々とおにぎりを口に運んでいると、プレハブの入り口から変な気配を感じて振り返った。




 ……あ、もしかしてこの人かな?



 振り返った先にはシャルに聞いていた通りの人物がそこに立っていた。


 黒髪黒眼に黒いコート、そして銀髪の双子と一緒に居る私と同じくらいの女の子、多分間違いないだろう。





 彼女の事をじっと見ていたら、目が合った。






 ―――まるで海の底のように静かな瞳だなぁ。




 以前私が入団する前に獲った《緋の眼》も相当美しいものだと聞いたが、彼女の黒い瞳も決して負けてはいないだろう。


 暫く無言で見つめあっていたのだが、流石にいつまでも観察しているわけにはいかないと思い、軽く会釈をして机に向き直った。

 ちゃんとお辞儀を返してくれるあたり、案外真面目な人なのかもしれない。






 ―――彼女の入団なら私は歓迎するんだけどな。



 どうせならヒソカが居なくなればいいのに、と思いながら私は食事を再開させた。
 にぎり加減を間違えたのかあんまり美味しくない、ちょっと残念だ。






 その後なんだかイザコザがあったみたいだけど、結局は試験のやり直しという事で決着がついた。

 でもクモワシの卵を獲るのは比較的簡単で助かったなぁ、追試験にも落ちたなんて言ったらちょっと怒られてしまう。





 あ、この卵おいしい。後でまた獲りに来ようかな。





◇ ◇ ◇









 次の試験会場に向かう為の飛行船の女性用に振り分けられた部屋で本を読んでいると、控えめなノックの音が静かな部屋に響いた。

 開かれた扉の前に居たのは、偶然にもエリスだった。




 ―――わぁ、ビックリした。



 そのままどうも、と私が頭を下げると彼女はほんの少し顔に笑みを浮かべ宜しく、と返してくれた。もしかしてシャルから何か聞いているのだろうか?





「―――貴女が、シャルの言ってた『エリス』?」




 取りあえず、一応確認のために聞いてみることにした、まぁもしこれで別人だったとしても別に私は困らないけど。



「シャルナークの、知り合いですか?」



 そう言って彼女は真っ直ぐに私を見つめる。

 うん、シャルの事を知っているという事は彼女がエリスで間違いないだろう。



「うん。やっぱり貴女がエリスだったんだ、話に聞いてた通りだね」



 
 そう確認するように口に出して、私は携帯電話を取り出した。

 勿論シャルに連絡を入れる為だ、エリスと接触したら電話をかけるように言われてたし、別に今でもいいか。



 あまり埋まっていないアドレスの中から目的の人物を探して呼び出し音をならす。


 多分この時間帯ならば普通に電話に出てくれると思う、そう考えていると3回程のコールでシャルが電話に出た。



「あ、シャル?」



『シズク?もしかしてエリスの事見つけたのかな』



「うん、見つけた」



『どうだった、アイツ。もしも気に入ったならシズクも推薦してくれないかな?』



「そうだね、私も賛成かな。面白そうだし」



『うん、ありがとう。……あ、もしかしてそこに彼女居たりするかな?よかったら代わってくれない?』



「え、分かった、今代わるね」







 その後シャルと一悶着あったみたいだったけど、大した事ではないだろう。
そこまで不機嫌そうじゃないし。





 それから適当に会話をして、私は自分に振り分けられた部屋に向かった。


 久しぶりに有意義な時間を過せたと思う、こんな風に思うのは旅団の仕事のとき以外では始めてかもしれない。もしかしたら私が忘れているだけかもしれないけど。






 ―――試験、受けて良かったかも。



 寝る前に、何となくそう思った。





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