第30話 「鍵を閉め忘れた気がする現象」
色んな部品の確保がままならん。
管理局の襲撃のせいで、ガジェットの部品はもちろんのこと、他の機械の部品も入手困難に陥った。
入手できる範囲でコストと品質に見合ったものはすべて正規品・不正規品問わずに購入していたおかげで、現在は目ぼしい販売経路がほとんど残っていない。……もしかして幅広く取引していたせいで踏み込まれたのか? どこかに管理局に目星をつけられた取引先がいて、そうとは知らずに取引をおこない、そこから芋づる式に……。
まぁ、今となっては範囲が広すぎて原因となった個所の特定もできないか。
まぁいい。
こうなったらコストは度外視して購入するしかないか。だが、裏表共にダミー会社のいくつかがやられたから資金もあんまりないんだよなぁ。最高評議会にばれないように活動するための裏金も残り少ないし、どうしたもんか。
こうなったらガジェットを売っ払うか? あんまり気乗りしないけど。それとも施設の一部を転用して薬でも作って売るか? それも
あんまり気乗りしないけど、短期間で資金を回収できる商売なんてあんまりないからな。
コーヒーを飲んで落ち着く。
成功後の治安維持のことを気にして、その前でこけたらそれこそ本末転倒だし我儘いってもしかたがないか。
ヴィヴィオ確保時に生じるであろう損害を考えたらすぐにでも生産量を回復させないといけないしな。やむを得ないな。うん。
ぐだぐだな感じで一息ついたところで、相変わらずアギトを肩に乗せたNO893がやってくる。
「マスター報告です。聖王のクローンを確保しました」
ゲホッ!!グホッ!!
気管にコーヒーが入った!! 苦しい!!
って、待て待て!!
何の抵抗もなく確保できたの?!
原作だとガジェットがヴィヴィオに返り討ちにあった挙句に逃亡されてたんだけど!
「ガジェットが発見したレリックがトラックで輸送されていたため、聖王が載っていると仮定して、極力車体を破壊しないように攻撃したところ、生体ポッドに傷を付けずに奪取できました」
な、なるほど。
「現在は、生き残っているダミー会社のトラックへ移送し終わったところです。ガジェットはレリックをもって囮のために地下道を移動中です」
マヂですか?
いや、こっちが有利な状況だからいいんですけど、なんかこう釈然としないような。
まぁ、気にしたら負けか。
「破損したトラックは目立たない場所へ牽引済みです。多少は時間が稼げるでしょう」
あとは検問が張られなければ無事に持ってこれる可能性は高いと。しかも、スカさんじゃなくてこっち側で確保できると。
スカさんではなく、こちらで確保できたというのは有難いな。これでゆりかごの操作という点ではこっちが圧倒的に有利に立てる!!
「うはははははは!! よくやった!! でかしたぞ!!」
アウチ!!
そういってNO893の頭を撫でているとアギトに噛まれた。
おのれ!! 解体するぞこの野郎!!
当初予定していた陽動用のガジェットは出さんほうがいいか……。
たぶん検問が張られることはないと思うが、下手に地上に局員が動き回ると面倒だしな。何かの拍子にトラックの荷物を調べられると困る。
現段階では、このまま様子見が一番か……。
現時点でトラックは誰にも怪しまれることはないはず、現時点でこちら以外でトラックにヴィヴィオが乗っているのを知っているものはいないし、トラックの所有者であるダミー会社も現時点までは表の商業活動しかさせていない。社員に社会不適合者が多数いるという点は怪しまれるだろうが、大丈夫なはず。
念のため、ガジェットの準備を整えるだけであとは様子見だな。
何もなければいいが……。
はい。何もありませんでした。
えっ、本当に終わったの?
実はホクトの罠で襲撃されるとか色々考えていたんだけどそんなことはなかったの?
ヴィヴィオ奪取から10時間少々たった後にゆりかごがある拠点まで搬送されました。平穏無事に終わりすぎて、謎の不安感が物凄いんだけど……。例えるなら、鍵を閉めたはずだけど、もしかしたら閉めてないんじゃ……。っていう不安感。
だが、目の前にはヴィヴィオがインした生体ポッドが、ででーんとある。罠とかじゃないだろうな。中に入っているのはヴィヴィオと思わせておいて実は爆弾で、ポッドを開けると同時に爆発するとか……。
いや、ないよな。常識的に考えて。念のため行ったスキャンでもちゃんと生体反応でてたし。
つまりこれは本物。
ようするに。
「魔法少女リリカルなのは第3部完!!」
いや、ゆりかご浮かせるまでは完じゃないけどさ。それでもこれで問題の大半が片付いた!!
いやっふぅぅぅぅぅぅぅっ!!
何も取り残しはないよな?
このままヴィヴィオにレリックをぶち込んで玉座に縛り付ければいいだけだよな?
よし。あとは、浮上中の護衛のガジェットを作るだけ…………。
って、それだよ!! それを今、悩んでだよ!!
……地道に作るしかないか。ヴィヴィオを確保し、ゆりかごの起動がいつでも可能になった現状では特に慌てる必要がなくなったし、落ち着いて生産するか。ゆりかごが見付からなければ、いつまでも時間をかけることはできるしな。
ヴィヴィオをどこかに隠されるという危険がなくなったのは精神的にも大きいな。ヴィヴィオをどこかに隠されたらほぼ詰みだったからな。
とりあえず、ヴィヴィオにレリックをぶち込むか。
ぶち込んだ後は母性本能を覚醒させたNO893に任せればいいか。っていうか、見た目が10歳以下なのに母性とはこれいかに。いかに。
レリックをヴィヴィオにぶち込もうと思ったら、資料少なすぎワロタ。
そうだよな。原作でレリックをぶち込まれた成功作であるルーテシアとゼストがこの世界ではいないんだから、スカさんの資料がすくないのも頷ける。
おのれホクトめ!! ゆるざん!!
いや、マヂでどうしよう。俺らだけでヴィヴィオの処理はしたいんだが、困難であることは間違いない。人体にレリックをぶち込むなんて作業を俺は今までやったことがない。おまけに資料も少ない。
能力的に考えて俺らだけで作業を行ったらどれだけ時間がかかるがわからん。下手こいたら、数年単位で時間がかかるかもしれん。これはスカさんに助力を頼むしかないのか……?
スカさんが資料としてあげていない実験を繰り返している可能性もある。それならば向こうにはノウハウがこちらよりもある。
仮に資料外の実験を行っていない場合でも、俺が資料通りのことしかできないのと違いスカさんが優秀なのは間違いない。確実性を求めるならスカ衛門にヘルプを求めるべきである……が。
原作のルーテシアやヴィヴィオみたいに何か仕込まれる可能性がある。釘を刺したうえで作業を監視したとしても裏をかかれる可能性が大いにある。
生体技術に関する能力はこちらの一歩二歩どころか十歩先くらいにいる。でなきゃ、ぬっ殺して安稗をとっている。スカさんがあんな性格じゃなきゃ普通に協力体制をとるんだがなぁ。
能力が高すぎて捨てるに捨てられん。……最高評議会も同じ気持ちなのかもしれんな。切りたいのにもったいなくて切り捨てられん。なんとも厄介なもんだ。
……結局はスカさんに協力を仰がないければならんか。ゆりかご離陸前に管理局に捕縛されたら、スカさんにやられる云々以前に詰むからな。
ヴィヴィオに何かされないかの監視を強くして対処するしかないな。
不安だがそれしかないな。
~~~~あとがき~~~~
勘違いしている人がいるかもしれませんが、昨日も今日も普通の日です。
だから私が22時以降も会社で仕事をしていても、家に帰って一人でおにぎりと惣菜を食べていてもなんらおかしなことはないのです。
ないのです。
です。