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No.761の一覧
[0] Fate/stay night アーチャー再び[スナ腹筋](2004/08/14 18:20)
[1] Prologue(Ⅱ) 一日目[スナ腹筋](2004/08/14 21:10)
[2] Prologue(Ⅲ) 一日目[スナ腹筋](2004/09/05 11:58)
[3] Prologue(Ⅳ) 二日目[スナ腹筋](2004/09/05 12:16)
[4] Prologue(Ⅴ) 二日目[スナ腹筋](2004/09/20 17:14)
[5] Two Sets(Ⅰ) 三日目[スナ腹筋](2004/10/20 16:28)
[6] Two Sets(Ⅱ) 三日目[スナ腹筋](2004/10/20 16:23)
[7] Re Try(Ⅰ) 三日目[スナ腹筋](2004/11/01 01:27)
[8] Re Try(Ⅱ) 三日目[スナ腹筋](2004/11/11 23:14)
[9] 【Interlude-《Secret time》】(修正)[スナ腹筋](2005/03/13 19:14)
[10] For the sword[スナ腹筋](2005/03/13 19:25)
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[761] Fate/stay night アーチャー再び
Name: スナ腹筋 次を表示する
Date: 2004/08/14 18:20
 
 『Epilogue&Prologue』

「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくから」

 直後、ざあ、という音。
 自分の体が透明な粒子となって風化していくのを彼は知覚する。
 思い出すのは、憎まれ口を叩き合いながらも、振り返れば楽しかったと断言できる日々の記憶。
 ――この記憶も、次に呼び出されるときにはリセットされているのだろうな。
 もうすぐ忘れてしまうのだろう。もうすぐ消えてしまうのだろう。彼が長い長い旅路の果てに得ることができたささやかな幸せの思い出は、もうすぐ二度と手の届かないところに行ってしまうのだろう。
 それを、寂しいとは彼は思わない。
 それは彼が自ら選んだ道である。後悔などしていない。犠牲にしてきたモノたちのためにも、彼には後ろを振り返っている暇などないのだから。
 これから先も、彼は霊長の抑止力の守護者として――つまり掃除屋として――召喚され続ける。百を助けるために一を、或いは十を見捨てる戦いを強要され続ける。
 それは変えようのない事実であり、彼が彼の道を進む以上、変えてはならない事実である。

 だが、それでも。
 彼が答えを得たことには変わりはない。
 衛宮士郎は自らの理想が借り物だと言うことを認め、それでもなお己の理想を追い求めることを選択した。
 そしてその衛宮士郎の傍らには衛宮士郎が、そして英霊エミヤが憧れた一人の女の子の姿がある。
 それならば大丈夫だ。
 この衛宮士郎は理想を追い求めながらも、決して正しい道を踏み外すことはないだろう。道を踏み外そうとした途端、隣りから思い切り殴りつけ、元の道に連れ戻してくれる恋人が、この衛宮士郎にはいるのだから。
 それが答えだ。彼の出し、そして得た、決して磨耗しない答え。

 ……彼は、概ねこの結果に満足していた。
 当初の目的さえ果たすことはできなかったがそれに変わる答えを得ることができた。
 ただ。
 一つだけ、彼には心残りがあった。彼は笑顔を浮かべながら、願う。

「――……」
 ――願わくば。
 願わくばいつか、宿願のためとはいえマスターを裏切った、その償いができますように。
 最後に、彼はひどく個人的な、彼が正義の味方を目指してから初めてといっていい、自らのための願いを呟いて、あっさりと潔く、――消滅した。

 彼が、最後に見た光景は、泣きながら笑う、一人の少女の笑顔だった。


 ◇ ◇ ◇


 それは彼にとって、神経が断絶されるような、筆舌に尽くしがたい不快な感覚だった。
 全身を細切れにされるような耐えがたい苦痛が間断なく襲ってくる。幾度体験しても慣れることができない激痛に喉を震わせる。本来なら怒号に等しいそれは、未知の空間に呑み込まれて響かない。
 五感は悉く喪失し、残るのは、宙を漂っているような感覚だけだ。足は地に着かず、指は何も掴むことができない。ぬるい粘液の中に放り込まれたような不安定さだけが、彼の知覚できる情報の全てだった。
 あらゆる感覚器官を封じられることは、生物にとって死にも等しい恐怖である。その感覚が永久に続くとなれば、たとえ英霊たる彼でも無事では済まない。
 だが彼にとっては幸いにも、その奇妙な体験は一瞬のことだった。

 暗闇から抜け出したとき光で目が眩むように、彼の全感覚は一気に押し寄せる情報に翻弄される。
 五感が一気に戻ってきた。無数の歯で噛みつかれたかのように全身がチクチクと痛む。視覚はまったくきかず、ハリケーンの中を歩いているような耳鳴りに襲われた。方向感覚をすっかり失い、種々雑多な匂いが鼻腔を満たし吐き気を催させる。体中の骨が軋んで捩れたような痛み。
 背中から固い床に叩きつけられた。そう彼が知覚すると同時、頭上から大量の漆喰や角材が落下してくる。まだ頭がはっきりせず、ボンヤリとそれを眺めていると、やがて幻覚が見えはじめた。
 初めて投影した剣、世界との契約、救った人々の顔、殺した人々の顔、自らの体を貫く幾つもの剣、剣、剣……。
 生前の人生と守護者としての体験における印象的な数々の場面が一緒くたになって風船のごとく膨らむ。思い出の風船は膨らむだけ膨らむとパチンと弾けて、粉々になった思い出の切れ端が一斉に襲い掛かってきた。
 怒濤のように渦巻くイメージ。
 精神力の弱い者なら発狂する。バラバラになった無数のイメージを順序だてて再構成することができず、狂気の渦に呑み込まれてしまうからだ。

 ――やれやれ、これはまた随分と乱暴な召喚だ……。

 だが、彼はそんな脆弱な男ではなかった。彼は最初の大波を乗り切ると、荒れ狂う波間に浮かびながら、記憶と記録の大半を片っ端から葬り去って、今の自分に必要な物だけを救命筏(いかだ)のごとく引き寄せた。
 聖杯戦争、英霊、サーヴァント、宝具、魔術師、マスター、令呪……。
 本来ならそれは抑止力なりマスターなりに呼び出されるときに、自動的に知識として刷り込まれる筈の情報である。
 しかし彼が評したように、今回の召喚は彼がいまだ経験したことのない乱暴な召喚だった。召喚者にどんな手違い、或いは落ち度があったのかは定かでないが、それ故に彼は本来しなくてもいい労働を強いられた。文字通りの頭脳的労働を。
 ――と、彼はそこで違和感を覚える。記憶ではなく記録。経験としてではなく知識として座にある彼の大本に記録されているモノの中に今回と酷似した召喚が残っている……ような気がする。
 元よりそれは前世で読んだ本の内容を細かに思い出すような……、そんな難解で曖昧な試みである。
 よしんば思い出せたとしてもそれは記憶ではなく記録にすぎない。
 人は記憶を思い起こすとき、それ単体を思い起こすのではない。そこには大なり小なり感動という概念が付属される。喩えば――。
 友達ができたときの記憶には喜びが。親友に裏切られたときの記憶には怒りが。失恋したときの記憶には悲しみが。それぞれ付属されている筈だ。
 想起するのが喜びだろうと怒りだろうと悲しみだろうとそれ自体には大差はない。感情が動く――感動という概念から見ればそれらは同じことだからだ。
 しかし、記録にはそれがない。
 記録はただそこにあった事実を伝えるだけだ。そこに無駄な付属物・不純物は一切存在しない。
 そしてそれ故に記録には――リアリティ(現実感)が希薄だ。過去のことを回想してもそれを支える礎が存在しない。それを補強する材料が揃っていない。
 如何に詳細な記録が残っていようと、それに付属する己の感情、思い出がなければ途端にそれは色褪せてしまう。
 <彼の過去>は<彼の過去の物語>に変化し、<彼の体験>もまた<不思議な物語>になってしまう。物語化することで現実は急激に生々しさを失ってしまう。
 まるで寝物語に聞いた御伽噺のように、曖昧模糊としたボンヤリとしたものになってしまう。

「――……」
 少なくとも物語の主役本人にとってはそうであるようだ。
 遠い記録の果てに、赤い服を着た少女の笑顔があったような気もするが、彼はその笑顔を自分がどのような気持ちで見ていたのかを覚えていない。
 ただ漠然と、綺麗な笑みだったなと感じる程度だ。
 ――止めよう。
 彼は思考を放棄した。実にあっさりとしている。
 不当な頭脳労働を強いられた末に思い出した記録なのだから、かけた労苦を思えば悔しくもなるだろうし、普通なら意地でも記憶――記録ではなく――を思い出そうとするのだろうが、彼は違うのである。
 守護者としての経験を重ねるうちに己に降りかかる理不尽な所業には慣れていたし、彼には元々苦労に対する代償といった発想はない。そもそも苦労と認識しているのかも怪しいものだ。
 ただ、赤い少女の笑みを見たときの自分の感情を思い起こせなかったコトは少々残念だったな――と彼はそう考えている自分に気付き、少々狼狽した。
 彼は自他共に認めるリアリスト(現実主義者)である。事なかれ主義というわけでもないが、自分が何かに執着することはそう多くはない――彼は自分自身をそう自己分析している。
 となると脳裏に浮かぶこの少女は――少なくとも前回呼び出されたときの――自分にとって大切な存在だったのだろうか。
 答えの出ない命題に彼が煩悶を開始した……そのときだ。

「なんでよーーーーー!?」

 という叫びが、足元から響いてきた。次いで足音。
 素晴らしい速度で階段を上る音が響き、その足音は彼のいるところにどんどん近付いてくる。
 誰かが彼のいる部屋にやってくるのだ。彼の常人離れした感覚は――実際人間ではないのだが――部屋の外の様子をある程度まで捉えていた。
 足音のする間隔からみて歩幅は小さい、つまり背はそれほど高くない。加えて足音もそう大きくはない。体重自体が軽いのだろう。おそらくは、女が、一人。
 ガチャ、と音を立てて扉の取っ手が回った。が――、

「扉、壊れてる!?」

 またしても響く声。
 彼は胡乱な目つきで声の聞こえた方向に視線をやる。声の主の言葉通り、彼の視線の先、彼のいる部屋と外界を隔てている扉は内側から外側に向かって歪んでいた。
 自分が召喚されたときのトバッチリを受けたのだろうと彼は判断。衝撃を受けたときに開閉する機構を失ってしまったのか、扉の取っ手はガチャガチャと動くのだが扉自体はまったく開く気配を見せない。
 ああ勿体ないことをしたな――と彼が少々エコノミーな考えを抱いたときだ。そのとき彼はようやく周囲の状況を窺う余裕を取り戻した。
 身の安全を確かめていない場所で思考の海に沈むなど愚の骨頂――彼は己の失態に舌打ちしながら周囲を見回した。
 
 ――周囲は惨憺たる光景だった。
 漆喰の壁には亀裂が走り、床からは建築材である鉄筋が覗いている。
 家具かインテリアか、どちらにしろ年代物だと見て取れるソファは根元から二つに割れており、備え付けられていたのであろうテーブルもまた然りだ。
 陽光が入ってきている。その陽光を受けとめるべきカーテンは引き千切られ床に落ち、窓ガラスは砕かれ破片が散っている。
 ギシギシと音がしているので見上げると、豪奢なシャンデリアが不安定に揺れていた。鎖三本で支えるべき照明器具はその内二本が切れて傾いている。それなりに頑丈な鎖らしく一本でもすぐ落ちるということはなさそうだがそう長くは持ちそうにない。
 壁際の時計台が律儀に秒針を動かし、瀕死に瀕している家具たちの中で唯一生と時間を刻んでいる。
 ……そしてそこにはあるはずべきの、いるはずべきの人間がいなかった。

「――……」
 彼は一気に脱力して上体をもはや残骸となった家具にもたれさせた。その間にも扉はガチャガチャと変わり映えのしない音を響かせている。
 彼はようやく理解した。扉を開けようとしている人物こそが己のマスターなのだということを。
 不安定な魔力でサーヴァントを召喚し、挙句どんな手違いか実体化する場所を間違え、己が住居の一室に壊滅的な被害を被らせるような人間が、自分のマスターなのだということを。
 ……彼は、理解せざるを、得なかった。

「――ああもう、邪魔だこのおっ……!」

 どっかーん、と扉を一蹴――比喩ではなく本当に蹴っている――して、彼のマスターは部屋の中に入ってきた。
 荒げる息を懸命に整えながら、彼のマスターは部屋の惨状を見て取り――盛大に嘆息し、
「…………また、やっちゃった」
 苦々しげに、そう言った。
 彼はその声にも反応を示さなかった。彼はこの時点でマスターに多くを期待するのを諦めていた。見切りを付けた、と言ってもいい。
 魔力自体は彼が活動するのに支障のない量が供給されている。いや、むしろ豊潤といってもいい。ストック的にもまだまだ余裕がありそうで、しかもその魔力は彼の体によく馴染んだ。性格と同じように魔力にも相性がある。相性の悪い魔力だと、サーヴァントの性能にこそ差は出ないが魔力の持ち(燃費)が悪くなる。ガソリンのハイオクとレギュラーの差だと考えてもらえれば、まあ、それで大体合っている。
 しかし召喚の手順、方法、結果、それらが決定的に稚拙すぎた。期待はできない――彼はそう考えた。なによりその程度の腕前しか持っていないくせに殺し殺されあうという文字通りの戦争に踏み込もうとするマスターの気概が彼の癪に障った。

  ――よかろう。君は私のマスターだ。ただし君の言い分には従わない。戦闘方針は私が決め、以後君にはそれに従って行動してもらう。なに、戦うのは私だし私の勝利は君のものだ。戦いで得た物も全て君にくれてやる。それなら文句はなかろう? 君はただ、この家の地下にでも隠れて、聖杯戦争が終わるまでじっとしていればそれでいい。

 騎手に馬を支配するだけの技術がないならば、まだ馬が気ままに走った方が勝つ確率が上がろうというものだ。
 そして彼は少々自惚れ屋だという欠点はあるものの、それなりに優秀な馬であり駒だった。
 胸の内でマスター――形の上では――に言うべき言葉を整理しながら、彼は、何気なく、マスターを――見た。



 ――マスターは、赤い少女だった。



「――……」
 少女。赤い服。赤い魔力。勝気な瞳。小柄な身体。リボン。くくられた黒髪。
 彼はそのすべてを識っており――そのすべてを知らなかった。
 憶えていないのだ。幽かに残っている記録の風景も、まるでモノクロ写真のように味気ないものばかりだった。
 ただ。
 それでもその色褪せてしまった写真をずっと眺めていると、彼は心のどこかが騒ぎ出すのを感じた。
 懐かしさ、親しさ、切なさ、安らぎ、そして愛おしさ。それらは彼の心のどこかに確かに存在しながら、とても小さな、ほんの微かな想いでしかなかった。
 そして今にも消え去ろうとしていた。

「――……」
 彼は、ワケもなく不安になった。
 理由の解らない焦燥が胸の内を駆け巡っている。
 耐え難い喪失感。それが、彼を揺さぶった。
 戸惑いながら――ただ、鍛え抜かれた鉄の意思で、それを表に出すのは防ぎながら――彼は、助けを求めるように、もう一度、マスターである赤い少女を――見た。


 少女もまた、彼を見返していた。
 目が、合った。
 勝気な瞳を釣り上げて、両の瞳で彼の瞳を真っ直ぐに見つめながら、
 ――少女が、口を開く。
「それで。アンタ、なに」

「――……!」
 どくん、と心臓が鼓動を刻んだ。
 その声は、やはり彼が識っていて知らないものだった。
 なのに、まるで全力疾走した直後のように彼の胸は高鳴っている。その声を聞いた瞬間、理由の解らない熱い情感が、胸を突き上げるのを彼は確かに感じた。
 その声。その目。その顔。その髪。その体。なぜだかとても懐かしかった。そして懐かしい以上の様々な感情が次々にこみ上げてきた。
 同時に、いくつかの記憶が唐突に、並行して脳裏のモニターに再生された。
 少女のために紅茶を入れている自分、少女と共に夜の街を駆けている自分、少女を背後に置き、護るように“敵”の攻撃を捌いている自分。エトセトラ、エトセトラ。

 ――私は、この少女を知っている。
 彼は、はっきりと感じ取った。
 自分のマスターは、この少女以外に有り得ないと。
 否、この少女でなければならないのだと、心のどこかが叫んでいた。
 ただ、その想いを誰かに伝えることはとても難しかった。
 当事者たる彼本人でさえ、さきほどの想いは衝動的なものに過ぎず、少し経つとそれは彼の中から綺麗に消え去っていた。
 一過性のものとしてなかったことにしてしまうのは簡単だが、それは何となく憚られた。彼にそう思わせるほどその想いは彼にとって鮮烈で印象的だった。
 だから、彼はそれを少女に伝えたかった。
 記録の中の少女と目の前にいる少女は同一人物だが違う存在だ。そのぐらいは彼にも解っている。だが、彼は少女が彼にとって――少なくとも前回呼び出された彼にとっては――如何に大切だったかを伝えたかった。
 気味悪がられたらそれはそれでいいとまで思っていた。
 だから、彼は言った。言葉は、考えるまでもなく唇から勝手に出ていた。


「開口一番それか。これはまた、とんでもないマスターに引き当てられたものだ」
 ――……やはり、私は皮肉屋だ。
 胸の内とはまるで異なる言葉を発した発声器官を労わりながら、彼――アーチャーのクラスのサーヴァントは、ゆっくりと立ち上がる。
 白髪に長身、黒い軽装の鎧に赤い外套を羽織った騎士然とした姿。引き締められた唇は、微笑なのか苦笑なのか、端の方が僅かに緩んでいる。
 語尾が、少しだけ震えていた。


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