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No.7433の一覧
[0] 華琳さま Level1 (真・恋姫†無双 再構成)[塩ワニ](2010/04/16 19:59)
[1] 一刀、華琳に無理難題を押しつけられる、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:52)
[2] 一刀、アイドルをプロデュースする、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:52)
[3] 一刀、夏侯惇将軍を粉砕する、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:52)
[4] 華琳、『へにゃ』となって、『ひぁっ』、となる、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:52)
[5] 秋蘭、昔を語り、一刀、誓いを新たにする、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:52)
[6] 華琳、匪賊討伐の指揮をとり、平原に八門金鎖の陣を敷く、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:53)
[7] 春蘭、血路を拓き、秋蘭、曹操の戦を見せる、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:53)
[8] 華琳、メイド喫茶を立ち上げ、一刀、豆腐をもとめんとする、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:53)
[9] 霊帝崩御し、袁紹、曹操、袁術、洛陽に集結す、とのこと(上)[塩ワニ](2009/07/04 08:53)
[10] 霊帝崩御し、袁紹、曹操、袁術、洛陽に集結す、とのこと(下)[塩ワニ](2009/07/04 08:53)
[11] 何進誅殺され、炎漢、滅びのときを迎える、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:54)
[12] 宦官誅滅され、一刀、左慈と相まみえる、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:54)
[13] 董卓、相国に昇り、献帝を擁立する、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:54)
[14] 華琳、鴻門宴に臨み、カニをむさぼる、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:54)
[15] 袁術、華なんとかを迎え、華琳、美羽ちゃん育成計画を発動させる、とのこと[塩ワニ](2009/07/04 08:56)
[16] 華琳、姿を消し、一刀、曹操に叛す、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:55)
[17] 曹洪、難題を持ち込み、北郷隊、出動する、とのこと[塩ワニ](2009/09/08 11:26)
[18] 七乃、辣腕を振るい、一刀、孫呉の姫君と出会う、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:57)
[19] 一刀、歴史の表舞台に立つ、とのこと。[塩ワニ](2009/07/04 08:48)
[20] 曹洪、調子に乗った報いを受け、甘寧孫呉への忠義を貫く、とのこと。[塩ワニ](2009/07/28 02:47)
[21] ゼブラ仮面あらわれ、七乃心情を吐露する、とのこと[塩ワニ](2009/08/09 01:58)
[22] 程昱、諸刃の陣を敷き、春蘭、にゃーとなり、にゃーにゃーにゃーとなる、とのこと[塩ワニ](2009/08/24 13:33)
[23] 英雄諸侯集結し、反董卓連合はじまる、とのこと。[塩ワニ](2009/09/08 11:27)
[24] 陳宮、裏の裏の裏を見通し、全面埋伏をおこなう、とのこと。[塩ワニ](2009/09/08 11:25)
[25] 飛将軍、──虎となして、これを射る、とのこと。[塩ワニ](2009/10/09 03:18)
[26] 袁術、絶望に沈み、詠、策を明かす、とのこと。[塩ワニ](2009/10/22 18:32)
[27] 蓮華、断金の誓いを語り、一刀、詠を泣き落とす、とのこと。[塩ワニ](2009/10/27 02:29)
[28] 諸侯会議を開き、賽子に天命に乗せる、とのこと。[塩ワニ](2009/10/27 02:28)
[29] 田豊、斜線陣を敷き、袁紹、呂布を封殺する、とのこと。[塩ワニ](2009/11/13 22:18)
[30] 呂布、陳寿と契約し、春蘭、片目を失う、とのこと[塩ワニ](2010/01/14 02:05)
[31] 曹操、眠りにつき、華琳、命令を下す、とのこと。[塩ワニ](2010/01/19 10:31)
[32] 孔明、韓信の故事を警戒し、華琳、関羽にひとめぼれする、とのこと[塩ワニ](2010/04/16 20:01)
[33] 華琳、劉備陣営を買収し、劉備その志を語る、とのこと[塩ワニ](2012/06/17 23:10)
[34] 袁紹通達を下し、一刀、詠にセクハラをする、とのこと。[塩ワニ](2012/07/02 15:04)
[35] 田豊、虎牢関を堕とし、袁紹ハコーネを目指し旅立つ、とのこと。[塩ワニ](2012/08/18 10:31)
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[7433] 華琳、劉備陣営を買収し、劉備その志を語る、とのこと
Name: 塩ワニ◆edd3c1be ID:02fc2729 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/17 23:10





「劉備陣営を買収しましょう」

 僕らの華琳さまは、流石にまったくこれっぽっちもブレがなかった。

「桂花ちゃん。説明して」
「はいっ」

 桂花がてれてれしながら前に出てきていた。
 華琳が私の蕭何、とか言っているかわからないが、うちの軍の内政全般を司っている桂花があれこれと説明を始めた。
 華琳は軍略については素人同然なので、必然的に桂花となにやら悪企むことになる。というかさっきまで現在進行系で企んでいた。
 
「要するに、ひとりかふたりぐらい要職の人間を金で転ばせればいいのよ。劉備陣営なんて、見るも哀れに赤貧に喘いでいるような寄合い所帯じゃない。いっそのこと、陣営をまるごと買い上げてしまうのはどうかしら」

 一方、桂花は自分の能力を十全に生かしうる主を得て、水を得たサカナのようにピチピチと跳ねていた。
 水魚の交わりとでもいうべきか。
 水とサカナのように切っても切れない関係という意味だが、見ていて微笑ましいともいえる。どっちが水でどっちがサカナなのかは諸説あるだろうが、おそらく桂花がサカナで華琳が水だろう。
 華琳なしだと桂花が喘ぎながら死んでいくという意味で。

「――まあ、策としては割とマトモかな?」

 華琳の策にしては、口をはさむほどヒドイわけでもない。
 内通者を作って、劉備の死(死んでない)を有耶無耶にする。
 考えるべきは、誰を狙い打つか。そして、なにで転ばせるのか。財宝かそれとも地位か、それとも?

「で、あるのか金とか」

 ひとまず、転ばせるなら金か。
 程昱がブンブン首を振っていた。
 それはそうだろう。これだけの大規模な出兵の最中である。軍費なんてすでに底をついていても不思議ではない。

「えーと、ちょっと待っててね」

 華琳がこっちにお尻を向けつつ、衣装箱をひとつこっちに運んできた。なにが入っているのかわからないが、随分と重そうである。
 そして、華琳はそのまま蓋を横にずらした。

「ええっ」

 俺は眩しい黄金の煌きに目を奪われた。
 衣装箱を覗き込む。鋳造された金の塊が大量に詰め込まれている。透明な石のようなものから精巧な龍の彫り物、金、銀の首飾り、珊瑚の飾り、瑠璃、玻璃、硨磲、珊瑚、瑪瑙の飾りなど。玄妙な青色が彩色された陶磁器に、あとは七星剣が乱雑に突っ込んである。あとは俺の足ぐらいの太さの香木なんてのも入っていた。

「こんなところよ。へそくりぐらい用意しているわ」

 明らかにへそくりとかいう規模ではない。
 経営しているメイド喫茶のアガリなのだろうが、県や郡ぐらいなら丸ごと余裕で買えそうだった。

「す、凄いな。一番単価が高いのはどれだ。やっぱり七星剣か?」
「そうですねー。すべて財宝としては、一級品ばかりのようです。特筆するのならこの白香木なんかが、皇帝への献上品としても通用する逸品だと思うのですよ。風のお給金何年分でしょうか」

 程昱が目を止めていたのは、人の胴ほどもある木の幹だった。
 いわゆるところの香木か。
 キラキラと輝く財宝より、これが一段抜けているのは意外だった。

「それは七乃さんにあげようかとおもったやつだけど、この際、仕方ないわね。これを全部ばら蒔いていいから、誰かを転ばせてみなさい」
「まあ、これならなんとかなるのかもしれんが」

 まさしく大盤振る舞いだった。
 劉備陣営を金で転ばせる。
 プラン自体は悪くはないだろう。広く考えてみよう。長く劉備軍にパイプを作ることにもなるのは、決して無駄にはならない。さて問題は劉備陣営の、いったい誰をねらいうつべきか。というわけで、考えてみる。

 孔明。
 できるはずがない。

 関羽。
 千里行の故事を見る限り、絶対に裏切るはずもない。信義とかで全身を煮詰め、弱者を守り強者を叩き潰す関羽にとって、裏切りとか離間などは、彼女のもっとも嫌うところだろう。

 そして、張飛。
 却下だ。こんなところで張翼徳の信用を失うわけにはいかない。個人的にもすべての財産を引き換えにしても張飛を得たいところなのだが。やっぱりこんなことぐらいで引き抜けたら苦労ないよなぁ。

「しかし意外ですねー。華琳さまはまず最初に関羽を口説き落とすべきだと主張すると思ってたのですが」

 程昱の指摘に、

「だ、駄目よ。こんなことで関羽の信用を失いたくないわ」

 とか、華琳は恋する乙女のようなことを言っている。

 畜生、畜生、俺は半分あてつけというか関羽への嫉妬みたいな感情を持て余していた。全力で邪魔することを心に誓いながら、俺はアレをコレコレしはじめた。
















「お姉ちゃんが帰ってこないのだ」
「どっかで迷子になってるんじゃないか? 実際広いし、どこ見ても人の群れだしなぁ」
「本当にそうならいいのだがな。失礼を承知で言わせていただく。北郷殿、その天幕のなかを検分させていただきたい。すでに一刻以上経っている。これは明らかに普通ではない」

 見張りの兵士と問答していた関羽と張飛が、俺にそう言っていた。
 時間稼ぎのために、見張りの兵士には劉備はここには来ていないということを言い含めてある。
 けれど、劉備はふたりには曹操さんのところに行ってくるよ、と言付けぐらいはしてあっただろう。となると本当に迷子になっていない限り、こちらが嘘をついていると疑う、というのが普通の思考だろう。実際に嘘をついているわけでもあるし。

「……………」

 無言でこちらを見透かすような孔明の視線が、とても怖い。
 嘘を見抜かれるか? 
 俺はその瞳に思わず、目を逸らそうとして――

「おおこわい。野盗あがりとは聞いていましたが関雲長にはタカリを働くアレがあるのですかー」

 横から助け舟を出された。
 程昱がわざとらしく驚いてみせていた。いや、本当にわざとらしい。さっぱりやる気が感じられない。
 いや、元からこんなだったかもしれないが、さらにテンションダウンしている。華琳の奇行に付き合うのがどれだけ気力を消耗するものなのか、振り回されてみてよくわかっただろう。桂花と対照的である。

「なんだと?」

 関羽の餓狼のような双眸が、俺たちを捕えた。
 呂奉先に相対したときと同質の殺気を浴びせられて、俺たちが耐えられるはずないだろう。ごめんなさいごめんなさいと土下座して謝りたくなる衝動にかられた。けれど、そこで意外な場所から声が降ってきた。

「なんだ三人とも。雁首揃えて、お目当てはこれだろう」

 くたり、と白目を剥いて気絶している劉備が、乱暴に放り出されていた。完全に地面に投げ出しているあたり、遠慮のカケラもない。

 先ほどまで、俺が調略していた人物が、劉玄徳を地面に放り投げていた。

 その人物は、白羽扇を口元にあてていた。
 後の蜀最強軍師のトレードマークとして、長く人々に愛されることになるアレだった。
 彼女は、いつもどおりといえばいつもどおり、沸騰しかける場の雰囲気をものともせずに、悠久とそびえる泰山のように悠然と佇んでいた。

 ――むろん、孔明ではない。
 そして孔明本人は、か、簡雍さん、わたしの白羽扇をかえしてくださいー、とほわわはわわと涙目になっていた。

「こんな感じで、玄徳は嬉しさの余り失神しているようだ」
「簡雍さん。あの、桃香さまなんですが、口から泡を吹いてないですか?」
「ああそうか。先ほど抱きしめたときに、少しばかり強く抱きしめすぎたかなにかだろう」

 というわけで、簡雍だった。
 仙女と見紛う傲慢不遜な金髪美少女は、むしろそのまま劉備を踏みつけそうな態度である。抱え込むように白香木を抱きしめている。

「――簡雍どの」

 関羽がわなわなと震えている。

「桃香さまへの数々の狼藉。同じ大志をもった仲間とはいえ、見過ごすわけにはいかぬっ。そこになおれっ!!」

 関羽の大音声が、辺り一帯を震わせた。
 超一流の武将である関羽のそれは、音波というカテゴリを超えて、すでに物理的な衝撃波に近い。
 間違いなく十分に兵器として通用する。
 一瞬、意識が飛びかけた。

 それで、簡雍はどうしたかといえば、

「は」

 と、乾いた笑いを返しただけだった。

 すげえ。
 調略する相手に、簡雍を選んだ俺の判断に間違いはなかった。

 頼もしすぎて逆にこれでいいのかと思えるぐらいである。

 なお、簡雍との話し合いは、白香木と、劉備軍の一月分の食料でカタがついた。

 公孫賛が死んで、劉備軍は頭を失った形になっている。
 よって幽州軍の客将として寄生しているだけの劉備軍は、無駄飯喰らい以外のなにものでもなく、こういう申し出はありがたかったのだろう。
 簡雍は現在進行系で、白香木に頬ずりしているが、今のところそれをツッコむ精神的余裕は誰にもない。

「それで簡雍のお姉ちゃん。なんでこんなことになっているのだ?」
「ふむ、曹操どのから同盟の誘いがあってな。一時的に我々は曹操どのの軍の指揮下に入ることになる。玄徳と一緒に話を聞いて、たった今了解したところだ」
「なっ!! いや、それが桃香さまの決断なら、それを尊重するつもりだが」
「それがひとつ問題があってな」

 簡雍がそのあと、

「ちなみに玄徳の意思など問題なく、私サマが勝手に決めた」

 と、いけしゃあしゃあと言い切った。
 当然、周りはすべて絶句している。

「食料援助などの好条件を考えると、断るという選択肢などなかったのだから仕方ない。独断というわけではない。提案を受ける以外の選択肢が存在しないだけだ。みんな貧乏なのが悪い。そうだろう、孔明」
「は、はい。簡雍さんのやり口と態度はともかくとして、現状ではこれはたしかに受け入れるしかないです」

 孔明が、同意を示していた。
 こちらが譲歩しまくっている。条件がうますぎて胡散臭いぐらいだ。垂涎、といえるぐらいの好条件を提示しているのだから当然だ。

「なにを言っている。桃香さまの決定なら、是と非のどちらでも従うべきだ。金など後からどうにでもなる問題だろう。志を折ってしまっては、なんのための大義か。民に対してどう申し開きをするつもりだっ!!」

 関羽がヒートアップしていた。
 彼女なりに譲れないものがあるらしい。ここであっさり折れるようなら関羽は関羽たり得ないことぐらいは俺にもわかる。

「ふふふふふ、なるほど。金など後からどうにでもなると言ったか。なあ、二月ほど前に、金が尽きたということで、関羽ちゃんは滞在していた街の酒家にて給仕の仕事を請け負ってきたな」
「そ、そんなこともあった、な。実に屈辱的ではあったが」

 関羽が、遠い目をしていた。

「その際、尻を撫でてきた店主を半殺しにし、店を半壊させてくれたのは、どこの関羽ちゃんだったか?」
「ぐっ!!」
「なあどこのお馬鹿関羽ちゃんだったかなあ。出稼ぎに行って、逆に借金を拵えてきた薄ら馬鹿関羽ちゃんは。壊れた店を補填するのに、どれだけの金額がかかったかもう忘れてしまったのかなぁ。そんな自分では一銭も稼いだこともないかわいそうな関羽ちゃんが、私サマの方針に対して文句をつけているように見えるのは気のせいだろうか?」
「ぐ、ぐううううう」

 関羽は、無念を噛み殺していた。
 というか、今更だが仲が悪いのかこいつら。

 史実では、簡雍は孔明とかに対しても、横柄な態度を崩さなかったという。つまりこれはこれで三国志に忠実ということなのだろう。

 華琳の様子を見てみるとなにやら陶然としていた。
 様子をよく伺ってみると、『ドジっ娘』、『関羽』、『素晴らしい』などという単語をぶつぶつと呟いていたので、もうちょっと放置して夢を見させておくことにした。とりあえず、客将の扱いで関羽で命令できるようになったので、華琳の病気も少しは落ち着くのではないかと思われる。




 











 劉備軍の首脳陣を招いて、カタチばかりの小規模な祝賀会が催された。
 宴としてはかなり味気ない。
 戦況としては敗北していて、現在も虎牢関で足止めをくっている状況なんだから仕方ないといえる。
 士気が無視できないレベルまで低下している現在、ここで軍規まで緩めるわけにもいかない。
 酒もなく、いくつかの点心が振舞われているだけだった。
 ここで活躍しそうな流琉も、今は呂布戦のケガが響いてベッドから動けない。
 流琉がいないせいで、せっかくの点心の質まで落ちている。軍の弱体化で一番に煽りをくらうのは食料なんだから仕方ない。ないないづくしで、もう泣くしかない。

 いくつかの面々に面通しを行なったあと、俺は関羽がいないとわめく華琳を連れて歩いていた。

「うう、関羽がいないわ。切ないわ。いっそのことうちの店に関羽の彫像でも飾ろうかしら。商売繁盛の祈願でもしようかしら」

 華琳がぶつぶつと言っている。
 俺はこれが原因で、後に商売の神様とでも祀り上げられるなんてオチがついたら嫌だな、なんて思っていた。

「劉備の姿も見えないな」
「関係なくない?」
「なくはないだろ。ふたりともいないってことは、関羽が劉備の護衛をしているって可能性が高い」
「ますます気に入らないわね」
「なにがだよ」

 俺が言うと、華琳がジト目でこちらを睨み、

「それで、一刀はおっぱいにでも誘惑されたの?」

 とか言ってきた。
 なんていう言い草だ。
 違うぞ。俺のマイブームはぺたんこだ。神々しいぺたんこだ。張飛に対して、涙を呑んで仮想敵扱いをしなければならない俺の引き裂かれそうなハートは決壊寸前だった。

 これから、俺は関羽に対して、妹さんをくださいと言いにいかないといけない。

「あんな小さい子に手を出すつもりなの、あんたはどこまで」
「違うぞ。俺は張飛を妹として迎えたいだけだ。桃園の誓い的な意味でっ!! もちろん娘でも可だ」
「もう勝手にやってなさいよ。ただし私の関羽に手を出さないでよ」
「いつから関羽はお前のものになった」

 俺は辺りに気を配った。孔明から聞いた情報が正しいなら、ふたりともおそらくこのへんにいるはずだ。

 少女が直立していた。
 ものすごく綺麗な置物のようである。立っているだけで目を引くのは、その立ち振る舞いが一流の武芸者のものだからだろう。
 烏の濡れ場色の髪が、夜に溶けていた。

 そのまま関羽に誰何された。
 緊張して、華琳の動きがカタついたみたいにぎこちなくなっていた。

「劉玄徳と話がしたいんだが。せっかくの顔を合わせる機会でもあるし」
「桃香さまは、いま――」

 関羽が言いよどんでいる。

 おや、と。
 俺は心のなかで疑問符を浮かべた。

 客人に対応しない理由がない。本来なら、客を優先できない理由があるはずないのである。スポンサーに対する挨拶は最優先事項だろうに、なにやら陰謀を練っていると因縁をつけられても弁護できないところなんじゃないかこれは。

「桃香さまは今、兵士たちと語らっています。参加していかれますか?」
「ふ、当然じゃない。是非招待に与らせていただくわ」

 華琳は、関羽の前で格好でもつけたいのか、曹操の真似とかしていた。あと用法はあってるけど、使い方間違ってるから。

「我が主人は、暇さえあれば兵たちと語り合っています。これも桃香さまの仁徳あればこそです」

 兵士たちと語っている。
 それは、見てみるとそのままの意味だったし、それだけの意味だった。

 だが、その異様さはひと目で見て取れた。

 ――なんだあれ。

 劉備が、風の音をきくように、兵士たちの言葉に耳を澄ませている。

 言葉を返すわけでもない。
 励ましの言葉のひとつもかけているわけでもない。

 なのに。
 兵士たちのひとりひとりの言が、劉玄徳に染み込んでいくようだった。

「なんだ、あれ?」

 息を呑む。
 劉備とは、精霊かなにかだったか?
 そこには一種、異様な雰囲気が取り巻いていた。
 なにか尊いものが具現化しそうな、近づくだけでその空気が砕け散りそうな気がして、俺はそこから一歩も踏み込めなくなった。

 兵たちは憑き物が落ちたようになっている。
 なんだ、俺は今、なにを見ている? 自分に問いかけてみるが、答えはみつかりそうにない。

「うんっ。みんなありがとう。あのね、ちょっと曹操さんたちと話してくるねっ」

 関羽に呼び止められて、劉備はこちらに歩いてきていた。
 無意識に華琳から距離をとっているような気がする。遺伝子レベルで、殺されかけたことがトラウマにでもなっているのかもしれない。

「随分と慕われているようで」
「あ、あははっ。恥ずかしいな。聞かれてたかな」

 劉備は顔を赤らめている。
 調子はそう良さそうではない。いろいろ消耗しているのもあるだろう。主な理由は華琳に殺されかけたせいで血とかが足りないのだろうが。

「言っていることが腐れ儒者みたいね」

 華琳は思ったままを口にだしていた。
口先だけの正論を言うクズ、という意味である。
 劉邦の時代から悪口として成立していた、由緒正しい中華のスラングだった。

「そんなこと言われても困るよ。民のみなさんを助けたいって気持ちは、ホントのことなんだから」

 劉備はぶーたれていた。
 関羽の視線が険しくなる。それに華琳はがーんっ、とショックを受けていた。
 関羽はどうでもいいが、その反応に一挙手一挙動に敏感に反応する華琳はとてもかわいい。

「私はみんなを助けたい。力のない人たちが虐げられている世の中は間違ってると思う。少しでもそういう人たちの力になりたくて、愛紗ちゃん(関羽の真名)や鈴々ちゃん(張飛の真名)たちと旅を続けてきたの。
 三人だけじゃなにも変えられなかった。だから、たくさんの人たちが賛同してくれて、それに背を向けるようなことはできないし、恥じるような真似もできません。私が会ったひとたちはみんな凄いひとだったけど、私も負けるわけにはいかないよ」
「へー、すごいわ。あこがれるわー」

 ボソッ、と――華琳が口の中で、この女もう一回殴り殺そうかしら、とかいう形に動かしているような気がするが、おそらく気のせいだろう。俺の気のせいであってくれ。

「むがーっ!!」

 俺はおかしなことを言う前に、華琳の口を塞いでおいた。

「装備の統一もされていないし、話していた連中は義勇兵なんだろ? 独立するときのために、公孫賛のところの兵を引き抜こうとでもしてるのか?」

 公孫賛の幽州兵たちは、正規兵である白馬騎兵以外は義勇兵で固められていた。だったら、と思ったのだが、関羽の話によるとそれは俺の勘違いであるらしい。
 
「これは北郷殿も異なことを。あれらはすべて、桃香(劉備)様の徳を慕って、集まってきた義勇兵たちです」
「数は?」
「桃香さまが単独で集めた義勇兵の数は、五千ほどですが、それがなにか?」

 俺は最初、その言葉の凄まじさを、理解できなかった。
 少なくともこれは、簡単に言えるようなことでも、できるようなことでもない。

 なんだ、関羽はなにを言っている?
 最初、俺を担ごうとでもしているのかと思った。

「兵士たちの募集の高札を出したりしたわけでもなく?」
「はい。言うなれば、あれこそが桃香さまの王の資質でしょう。万人に自らを重ね、あらゆる人々に手を差しのべることができる。だからこそ、民衆たちは桃香さまの徳を慕うのです」
「愛紗ちゃん。それ褒めすぎだよぉ。曹操さんたちも、すごく魅力的でしょ。ごはんいっぱい食べてるんだろうなぁって思うし。みんな誘われたらそっちに行っちゃうんじゃないかなって」
「桃香さま」
「でもね。みんなが幸せに暮らせる国にしたい。そう思ってる」

 彼女は、果てしなく途方もない――夢を語っている。
 そしてどこにでもいそうな普通の少女には、それを実現できるだけの力がある。正直、ここまで恐ろしい能力だとは思ってもみなかった。

 劉備はこの時点でどこの太守でも州牧でもない。
 民に安寧を保証できる、最低限の地位すらないはずだ。
 地位にも宗教にも、そして実績にも頼らず、有り余る金にも頼らず、ただ個人の『徳』のみで兵を集めている。すくなくともここにいる兵士たちは、夢を託す主人として劉玄徳を選んだということだ。人を惹きつけるに足る器。三国志の主役を張るに相応しい、ありとあらゆる人々の共感を勝ち取る能力。

 戦時だ。

 もっといい士官先などいくらでもあっただろう。劉備の元に集った義勇兵たちは、その栄誉を捨てて、最底辺の境遇に甘んじている。明らかに異常というしかない。

 五千の兵。

 史実の話である。
 反董卓連合にあたり、曹操はそれだけの兵を集めるのに、実家を破産寸前までに追い込んだ。 
 孫策はそれだけの兵を袁術から引き出すのに、玉璽を担保にしなければならなかった。

 五千というのは、そういう数である。
 劉備だけが、自らの徳のみで押し通して、なにひとつ失ってすらいない。戦略シミュレーションゲームで例えるなら、彼女の陣営だけ失った兵士たちの補充費用がかからない、みたいな凄まじい能力である。

 そして、そこまでの覚悟がある私兵集団が弱卒なはずもない。

 そして、詳しく聞き出した劉備軍の実態は、さらに俺を唖然とさせた。

「軍隊組織すら浸透させていないということか?」
「うん。だって、みんな仲間だし」

 阿呆かこいつらは。
 兵たちを仲間というのはいい。それが劉備というカリスマを最大に活かすということを意味するからだ。そこまではいいとして、なぜ少し軍組織をほんの少し使うことを考えない。いくらなんでも命令伝達ぐらいは張り巡らせないといけない。劉備軍には、強さを持続させるノウハウが存在しない。このままだと関羽も張飛も孔明でさえも宝の持ち腐れで終わる。

 組織として長所と短所のアンバランスさが凄まじい。
 これでは組織というよりただの宗教団体や革命集団みたいなものだ。こんな集団が天下をとってみろ。劉備が存在している地方だけが繁栄し、劉備の威光の届かない地域はまるで麻のように乱れるぞ。

 目が合った。
 普通の女の子のように笑っていた。これがすべて演技だったとしたら凄いと思うが、そんなことはおそらくないのだろう。笑いかけられるような少女を普通とは言わない。

 劉備。
 この少女の底が読めない。読めるはずがない。

 こんなもの奇貨ですらない。
 いや、奇貨というのは、いつか値段がつくかもしれないから塩漬けしておこうという素材のことだとして、この場合はむしろ逆か。
 今は値段が高止まりしていても、いつ暴落するかわからない貨幣みたいなものだ。臣下としての俺が必要とされるとしたら、むしろこちらだったな、と有りうるかもしれなかった選択肢に想いを馳せた。

 おそらく、正常な判断はできていなかった。後から思い返して、俺は魂を触られたような悪寒に、痛みで正気に戻される。

 華琳の口を塞いでいた俺の指に、

「がうっ」

 と思いっきり噛み付かれた。

「いてぇっ!!」

 そして、我に返る。

 俺は無言で華琳の鼻の穴に指を突っ込んだ。そこから改めて、俺と華琳の不毛な争いが再開された。

 そして俺は、その劉備とともに在ったかもしれない未来とその可能性を、二度と浮かび上がってこないように、意識の底に沈めようと努めた。






 次回、『華琳の董卓ちゃん救出作戦(企画編)』






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