後漢の中平元年、塗炭の苦しみにあえぐ農民達。漢王朝は宦官による腐敗が横行し、重税と日照りによる飢饉により、国は乱れ、誰もが明日への希望を掴めずにいた。そして、そんな人々の前に、キラリと現れた新星が、三人組のアイドルグループ、『数え役萬☆しすたぁず』だった。 皇帝への畏敬の念が血と肉に刻まれるように、宗教が、学のない人々の心の拠り所になるように、『数え役萬☆しすたぁず』の三姉妹の姿は、明日すら見えない民衆に、希望の光を照らしたのだろう。 彼女たちについて膨れあがる民衆は暴徒となり、黄色の布を巻くことで、漢王朝への打倒を口にした。 蒼天已死 黄天当立 歳有甲子 天下大吉(蒼天すでに死す、 黄天まさに立つべし、 歳は甲子、 天下大吉) ただ、いつしか黄巾党という集団は、国の乱れにつけこみ、略奪と強盗を繰り返す暴徒集団に成り下がっていたが。 で、 我らが華琳さまである。 間者やら諜報やらを数多く出し、そこまで掴んだのはいいが、そこから先が手詰まりになった。華琳の黒騎兵は精兵をもって知られるが、本拠地をもたず、どこからでも現れる敵を倒すには、一筋縄ではいかない。『私も、ひとりのアイドルとして彼女たちに勝たねばならない、ということね』 いやいや、ちょっと待て。 どこをどうすればそういう結論になるんだ。 馬鹿には二種類いる。 行動力のない馬鹿と、行動力のある馬鹿である。 華琳はどう考えても後者だった。いや、多分、基本の方針は間違ってないのだろうと思ったから、俺は華琳にさりげなくアイドルプロデュースをすすめた。 『誰をプロデュースするのよ?』「うーん」 三國志は男の物語である。 基本的に、お姫様とかは出てこない。じゃあ、やっぱり貂蝉とかいいかもしれない。と思って、華琳に調べて貰ったら、男かよっ!! なんだこれっ! と絶望しかかったところで、ああ──そういえば孫策の嫁と周瑜の嫁がいた、と思いついた。 報告では、今度こそ女性で、しかも双子。さらにどっちも12歳ということだった。ちなみにこの時代、現実だと結婚適齢期は13から15歳だったけど、当然この世界ではそうなってはいない。どうもこの世界の法則が掴めないところである。 まあ、ともかく、 ──以上が、『江東の二喬』、小喬ちゃん大喬ちゃんの二人のユニット、『天星黎明ついん★ず』結成までのいきさつだった。 うまくいけば、黄巾党をふたつに割れる。 陳留そのものが全面バックアップの姿勢をみせ、ビラを刷りまくり、今年の軍資金すべてをつぎ込んで宣伝活動を行った。軽い気持ちで提案したつもりだったのだが、ものすごい大事になっていた。失敗したらもう後のない背水の陣である。古今東西の作曲家を集めて、曲を作らせ、『Flower of Bravery』という曲ができた。 そして、黄巾党は、この華琳の、圧倒的な宣伝により、物量作戦の結果、沈むことになる。度重なる敗北により、アイドルの神聖を剥ぎ取る戦略、っていっていいのかこれ。かくして、『数え役萬☆しすたぁず』のラストライブをもって、『黄巾の乱』は終結するに至る。 あとは僅かに残った残党を、秋蘭(夏侯淵の真名)の率いる黒騎兵が叩き潰した、 ──以上。 はぁ。 もうやだこの三國志。 というわけで、前置きが長くなったが、そういうわけで、この陳留武道会も、黄巾党を再発させないための重要なイベントのひとつなのである。俺は一回戦を終えて、外の扉に、『Restroom(休憩室)』と書かれた部屋で休んでいる。なんで英語なのか。そんなこと言われても、実際書いてあるんだから仕方ない。俺に言われても困る。「──で、あなたなんなの?」 荀彧が、言葉で、斬り込んできた。 「ああ、俺は、曹操さまの馬の世話係、かな?」 あと、相談役といったところか。この時代、大将だろうが兵隊だろうが、戦の間、自分の馬の世話は自分でする。それはそうだ。軍馬は自分の足と同じである。馬の調子を確認しなかったために討ち取られたりしたら、笑い話にすらならない。 だから、大将が普段の世話役と、顔見知りであって、まったく不思議はない。というか、それなりに親しく話を交わせないと、まったく仕事にならない。どうして新入りがそんな重要そうな仕事をやっているかというと。華琳が、先輩や同僚たちを、顔が美しくないということで、近づけなかったからだった。もちろん、悪人顔な頭領もそこに含まれている。そんな理由で、この世界にきてすぐ、俺に白羽の矢がたったわけである。 さすがに、真名を許されているというのは異例だが。 それで、俺がこの大会に出る理由も、実はそれが関係する。 半月前の話だ。「ねえ一刀。どうしよう」 と、華琳が血相をかえてやってきた。 心なしか着ている服が、土にまみれたりとボロボロになっていた。「この前買ったアレなんだけど」「あ、この前買ったアレか」 西涼からきた商人から、買ったアレである。「私には扱えないということが発覚したのよ。どうしよう。黄巾党を退治したときに貰った恩賞、全部これに使っちゃったのに。がんばったのに、私にまったく扱えないんじゃあどうしようもないじゃない」「ええと、そういうの確認しろよ。できただろ?」「だって、スペックが通常の三倍なのよ。欲しいじゃない」 どうしてこう、この娘は後先考えないんだろう。「で、いくら遣ったんだ?」「………………ぐらいだけど」 俺は耳打ちされた金額に、天地がひっくりかえるかと思った。 俺はこの世界の字が読めないので、詳しい計算はできない。 ただ、頭領に軍馬の買い付けにつれていってもらったことがあるから、馬での換算はできる。華琳の買ったそれは、普通の軍馬に換算すると、150頭分という感じだった。 たしかに、まあ──それだけの価値はある、と、いえるかもしれない。史実の三國志の中でも、コーエーのゲームでもまあ、限りなく最強に近いし。それも、扱えればの話だ。「俺は普通に扱えたけどなぁ」「なによそれ、ずるい」 と、華琳が膨れていたが、やがて、なにかを思いついたように。「これはもう、一刀に将軍になってもらうしかないわね」「へ?」 いきなりなにを言い出しますか、この娘。「だって、無駄にするわけにもいかないし。それ、一刀にあげるから。それがあればそこらへんの雑兵には負けないでしょ。がんばりなさい、私のために」 思い出すと、なにやらものすごく頭の悪い会話だった。 華琳から貰ったそれが、つまり──俺の『切り札』となっている。 俺は荀彧と打ち合わせを行う。会場の変更は華琳の方でやってくれるので、あとは俺の策に穴がないかの確認だけだった。「勝機は?」「ないこともない」 俺は荀彧にその方策を話した。 「よくも、そこまでえげつないことを考えられるわね」 俺の策を聞いた荀彧の感想はそれだった。 つまり、当代随一の軍師である荀彧お墨付きということになる。 「じゃあ、やるか」 俺は、荀彧に右手を差しだした。 彼女の表情が、怪訝そうなそれに変わる。「なにそれ?」「握手っていう、俺の国の礼儀なんだけど」「お断りよっ。男が伝染したらどうするのっ!! ああもう、曹操さまの命令じゃなかったら、誰があんたなんかと同じ空気を吸うものですかっ!!」 ケダモノみたいな男と、密室でふたりきりになるなんて御免よ、と、最初は扉を閉めることすら許さない雰囲気だった。いや、策をわざわざ盗み聞きさせてどうする、と説得するのに苦労したのだ。 よって次回、ついに俺の切り札が明かされる。 ──もったいぶってごめん。、