現代社会。
科学によって夜でも光に照らされている。
だが……人の立ち入る事の出来ない闇はある。
その闇は悪魔……誰かが言っていた『人間は神を作り出したが、その逆は証明されていない』と。
まあ、人間の願いが生み出した偶像なのかどうなのかは知らないが、少なくとも……『悪魔』と呼ばれる存在がいるってことだけは確かだ。
何、信じられない?
まあ、俺もそうだった。
だが……実際に閻魔の裁判を受け、輪廻転生したこの身では否定できない。
ま……俺の素性は今はどうでもいいことだ。
どこか見た事のある悪魔を相手にするのが俺の家業ってわけだ。
『せっきー、何しているの?』
「退屈な仕事をやるために心をもりあげたいわけだ」
『ほー』
「そこで、日記代わりのメモをつけている所だ。
で、『せっきー』て何だ?」
『石動(いするぎ)だからせっきー』
「……ふん。
まったく適当にうろついて……」
この能天気な相棒は頼りになるが……正直、疲れる。
パソコンの電源を落としながら出発の仕度をする。
『せっきーの長年の相棒にたいしてつれないなあ。
それより……どうする?』
「『巫女』……男だから降巫か?
ソイツは他の奴が確保することになった。
で、俺は首謀者の確保・または殺害……最低でも祭器の破壊だな」
『面倒だから仲魔にやらせるつもりか、オイ?』
「性質が悪い事に悪魔召還が使って色々準備していたらしいからな。
手持ちの奴じゃ無理だな」
『せっきーはサマナーとしては大成しにくいからなー』
「ま……直接俺がやれば良いだけだ」
『俺ががいれば楽勝よー!』
「ま、当てにしてやる。
スモークチーズはいるか?」
『さんきゅ。
で、俺達はどこに行きゃいい?』
「ん……K県H大学。
そこのサークル『ガイア』は、オカルト研究を行っている。
部長の氷川って女がターゲットだ」
そう言ってから資料を机の上に出す。
ロングヘアーに紺色のスーツを着ている美女。
体の凹凸はしっかり出ており、細い足が魅力的に写っていおり、陰気だが思慮深い印象がする。
手首には数珠を巻いているが、あれは立派な呪術具で売るところで売れば300万はくだらない。
『ん……いい女じぇねえか!』
「陰気すぎて、興味が湧かんがな。
実家が政治家の名家らしく、蔵書から魔術書を見つけてトンデモなシロモノを呼び出したのさ」
『へ~ソイツは一体?』
「実物を見たわけではないが……『世界』を変える物とでも言っておこうか?」
「ま、どうでも良いな」
相棒は男だからな、美女と闘いにしか興味がないそうだ。
調子の良い奴だが商売道具でもあるコイツの機嫌を伺わんとな。
冷めたコーヒーを飲み干し、裏の店で買ったトカレフと儀式・護身用に買ったアセイミーナイフをホルダーに差し込む。
後は電子手帳型のCOMPを胸元にしまう。
コイツは俺の仕事で必要不可欠だからな。
……さっさと終わらせて手近な店で空腹を満たすとしよう。
深夜のキャンパスに大きな叫び声を上げる。
警備員は必死に警棒を振るうが、青黒い小さな子鬼が爪を振るうと壁に血の華を咲かせた。
それを興味なさそうに見つめる女性がいた。
椅子に座り、彼女の背の高さと同じくらいの金属の筒を見つめる。
三つの脚で支えられた凡字で書かれている筒。
彼女が押すと回転し始める……ラマ僧が用いるマニの如く。
金属筒を見つめる彼女は満足げに言葉を漏らす。
「もうすぐよ……静かな世界の終焉が。
そして世界の創造が」
「そいつは困るな、氷川さんよ」
「!?」
灰色のスーツに黒いネクタイの20代半ばの青年が壁に寄りかかっている。
氷川と呼ばれた女性は腕を振るうと子鬼が青年に襲い掛かる。
男は拳銃を取り出し、無造作に発砲する。
破裂した風船の如く飛び散る頭……そこから緑色の光が漏れ出す。
悪魔がこの世に現界するために必要なエネルギー、マグネタイトだ。
青年がコンビニで煙草を頼むような気軽な口調で話す。
「『ヤタガラス』からの依頼でね。
悪いけど……計画を止めさせてもらおうか」
「……断る。
ガキがやられましたが……オセ!!」
手首に巻いた数珠に祈祷したら黒い稲妻が氷川の前に奔った。
豹頭の大男が現れ、二本の剣を振り回して威嚇する。
青年はナイフを取り出す……圧倒的な殺意を前にしても暢気そうに見つめている。
豹頭の男……オセと呼ばれた存在は青年に剣を振り下ろした。
だが、惨劇は起こらなかった。
オセの剣は青年の腕に当たっているが、傷がつかなかった。
『何……!!』
「お生憎さん。
俺はちぃっとばかり丈夫でね」
『貴様……!!』
『おいおい、いくら俺様がいるからって無防備過ぎだぜ?』
青年の背後に鎧をきた戦士の幻影が現れる。
戦士は長い茶髪を伸ばした荒々しい印象を持たせる美男子だった。
だが、それだけではない。
全身に傷があり、体に幾つもの槍や矢が刺さったままにしている。
氷川が青年に訝しげな視線を送った。
「悪魔……なの?」
「さあね?
……チョイとワケありのフリーサマナーってね。
俺の日々の糧の為に死んでくれや、堕天使・オセ」
そういって腕で受け止めていた剣を押し返す。
ニヤリと青年が笑った。
「さあ、自慢の剣技見せて見ろ!」
『(で、実際の所、どうよ?)』
「(今、手持ちの憑き物は手前しかいないからな)」
『(俺が憑いていると魔法が弱くなるからな)』
西洋の落人、邪鬼・ラームジェルグ。
スコットランドの幽霊であり、血まみれの軍服で現れ、男ならば戦いに挑んでくる。
性質の悪いことに戦った男は近いうちに死ぬという。
彼は物理攻撃に滅法強くなる代わりに魔法に対しての防御力が薄くなる性質がある。
物理攻撃を得意にしているオセには合性がいい……だが、
「(だが……合体で強化しているかもしれん。
それに氷川が増援をよこすか術唱えたら不味い)」
『マハラギオン!』
『やっぱりー!』
「クソッ!」
転がりながら銃弾をばら撒く。
氷川に当たりそうになった銃弾をオセの剣で叩き落す。
全身に冷や汗を流す青年。
あの膨大な炎に巻き込まれたら死にはしなくても重傷になることは確実だ。
「こうなったら……」
『さあ、どうするどうするぅ!?』
「……いいから黙っていろ。
今度マトモな奴と長期契約結んだらリストラしてやる」
『ふん……守護霊(ガーディアン)使いか』
「守護霊?」
オセの呟きに氷川が反応した。
オセは主に説明した。
『守護霊……死に瀕した者が稀に悪魔を自身に降臨させて悪魔の力を行使することが出来る存在。
まさかこの世界にも存在するとは』
「そうですか……オセよ」
『承知しております』
剣を構えながら術を唱えるオセ。
青年はたまらず部屋から飛び出す。
青年は、逃げ足の速い上に学園の調査をお陰なのか、換気口に入り込んでオセを一時的に巻いた。
『どうした、我を殺すのではないのか!!』
「糞ッ……侮りやがって!」
『それよりさ、仕事をなんとかしないとさ!』
「わかってる!『地霊召還』」
小さい茶色の小人を呼び出す。
「ほえほえ……」
「ノッカーの爺さん、頼みたいことがあるんだが……」
「人使いが荒いのう」
「MAGは弾む」
「ほえほえ」
オセに見つからない内に命令をして別れた。
青年は頭を抑える。
『邪気眼か、ボウヤ?』
「手前、解っていていっているだろう!?」
青年は、ストレスが溜まると片頭痛にさいなまれる。
だから、通常の処方より二倍多めに頭痛薬を飲み込む。
無論、医学的に正しいわけではない……ただ、そうすると痛みが和らぐからそうしているだけだ。
今回も飲もうかと思ったが、思考が鈍るかもしれないと思うと我慢するしかなかった。
「さて……続きをするか……プール辺りでやるか、消火栓の近くでやるか……。
『祭器』のあった近くであるのは……プールか」
青年は頭痛の種を消すべく行動に移る。
『ふん!
我を振り切って主の下へいくつもりか、甘いぞ!』
「だが……お前以外の手駒がガキしかいない所をみると人材不足か?」
プールサイドで対峙する二人。
互いに剣を構える。
しばらく睨みあうこと数分、オセが仕掛ける。
「アギラオ!」
「ぐ……!」
火球を飛ばす。
一発でも当たれば不利になる……。
青年は避けながら魔法を唱える。
「ザンマ!」
衝撃波を受けたオセは体勢が崩れる。
一気に追い討ちを駆けようとしたが、立ち止まる。
『どうした、相棒?』
「危なかった」
「用心深いやつめ」
オセの前に透明な壁が出来ていた。
『テトラカーン……物理反射魔法かよ』
「(くそ……ラームジェルグはザンマ以上の威力の技は皆物理攻撃だからな)」
『貴様、名を名乗れ』
青年は無言で押し通す。
『戦士の名を聞こうと思ったが……』
「名乗って呪われる間抜けじゃねえよ」
そのとき、近くで爆発音がした。
『祭器』のあった部屋でだ。
『な……!!』
「時間切れだ。
仲間が降巫を捕獲してついでに祭器を破壊したようだな」
『囮か……!!
ならば…気配が』
「『ヤタガラス』にも優秀な人間はいるものだ。
このまま蛸殴りにされるか、俺の手足になるか……さあ、どうする?」
『ここは退く……!
貴様の顔、覚えたぞ!!』
怒りの形相のままオセは去っていった。
青年は一息ついた。
「ふう……いなくなったか」
『ノッカーがやってくれたな』
「時限爆弾を置くくらいはできるからな。
弱い悪魔だからかえって感知しにくいしな」
『三流サモナーでよかったね』
「くそ……俺みたいな守護霊使いはサマナーの腕が落ちるのはしかたねえよ」
悪魔を宿すために他の悪魔を使役する難易度が跳ね上がるためだ。
もっとも、彼に才能がないというのもあるが。
青年は、祭器のところに向かった。
『ひでえ、ミンチよりひでえ』
「だまってろ」
金属筒は傷がついてものの、壊れていない。
だが、金属筒の前に爆発に巻き込まれて焼き焦げた氷川の死体があった。
優秀な術者であっても爆弾を投げ込まれて咄嗟に脱出するなり、魔法で凍らせる事は難しい。
青年は筒に手をかざした。
滝のような汗を流し、しばらくたった後に手を戻す。
『終わったのか?』
「術式を解除した。
あとは連絡して回収してもらうだけだ」
ラームジェルグがしばらくしてから聞いてきた。
『氷川って奴はなにしようとしたんだ?』
「変わり者の闇医者から聞いた話だから正確に説明できないが。
一言で言えばK県全てを生贄にして新しい世界を作るつもりだったようだ」
『世界?』
「ああ、生き残った人間の中で『コトワリ』って新たな世界のあり方や考え方を表した意志を示す必要があるそうだ。
そして大量のエネルギー……マグネタイトだろうか?
ま、それを集めて『神様』呼んで加護を受けて世界を作れるとかそんな感じだそうだ。
驚く事にこういうことがしばしば行われているそうだ」
『なんだって、知らないぜ!!?
そんなにあるなら皆知って……』
「お前が見ているだろ……SF映画とかである…そうパラレルワールドってやつか?
無数の世界が存在しているそうだ」
『世界は広いってね。
しかしそれを知っているってアイツは何者なんだ?』
「さあな……霊症に悩まされた金持ちの治療の時に偶々繋がったがね。
まあ……医者なのに治療が嫌いなのはアレだが、腕は確かだからな。
しかし……堕天使オセを逃がしたが」
青年はため息をつく。
頭痛薬を取り出し、一気に飲み干す。
『まあ、主が死んだから大丈夫じゃね?』
「別に主を見つけてやってくるかもしれん」
『ま、ガンバ』
「……飯食いにいく。
手前は少し黙っていろ」
『へいへい』
青年は、連絡したヤタガラスのエージェントが来た事を確認してから大学を去っていった。
オリジナルのメガテン世界です。
独自設定がありますが、ご了承を。